「…き………。」

「お……ろ…。」

誰かがウチの名前を呼んでいる。
辞めてよね。今は超寝てたいんだからさ…。
ウチは、その声を遮る為に布団に潜り込む。

「おき…ゾ…」

「…さんざん……い…」

しかし一向に声は止まない。

「んんん…もぉ…、なにぃ…？」

今にも睡魔に襲われそうな頭で、取り敢えず返事だけしておく。
返事をするだけして二度寝をする魂胆だ。
まさに完璧だ！
さぁ、早く帰ってくれとウチが枕へと頬擦りした時。

「起きるんだゾ！！！！！子分！！！！！」

「んんんんっぐぐぐぐ…！！！！」

グリムの大きい声によって睡魔が追い払われる。
辞めて、行かないで！！！！！と言った意味も込めてウチは何処かの獣の様な雄たけびを上げる。

「うわっ、超寝付き悪いじゃん…。」

「…誰のせいや思っとるん？」

エースのような声が聞こえる。
まぁどうせ夢の中だろうと思いっきり悪態を吐いてやる。
夢の中じゃなくても言ってやる。
このウチの眠りを妨げた奴を地獄に葬ってやる。
とにかく睡魔を追い払うな、頼むからという思いと共にウチは学園長から貰った布団を大きく被った。

「はぁ…、てか何なのその服とか布団とか…。」

「学園長の箱の中に入ってたんだゾ。」

服、布団のワードにウチの脳はすぐに覚醒する。

「うわぁあああああ！！！その話はするなぁああああ！！！！」

先程とは打って変わって布団を投げ出し、グリムの声がした方へと飛び掛かる。

「ぐぼぉ！！！」

しかし、聞こえたのはグリムではない誰か別の人物の声で…。

「あ、ごめん間違えた…。え？てか何でエースが此処に居んの？」

寝ぼけた視界で捉える茶髪と、ハートマークの入った目元。
あと、首がなんか太く見える。

「おおおお、お前！！そのモコモコの下何も着てないのかよ！！！？？」

「えー…学園長のくれたモコモコ（これ）暑くって…。」

エースはウチの胸元を見ないように上を向いた。
まだ高校生だからか顔も赤い。ま、ウチも高校生だけど。
しょうがない。だって学園長のくれたパジャマはどれもピンクでモコモコの可愛い物で、暑がりのウチにはどれも向いてない代物だから。
かといって着ないのは学園長にも悪い気がするし…。

「い、いつまで抱き着いてんだよ…」

「あ、メンゴメンゴ。」

飛び掛かったことにより、エースに抱き着いていたウチ。
大人しくエースから離れて、まじまじとエースを見ると…。

「あああああ！それグリムが付けられてた！」

ようやくエースの全貌が見えたウチは、首の異物に気が付いた。
ハートの首輪、あの入学式にみたものと全く一緒。

「そうなんだよ！聞いてくれよ！！！」

「あ、うん。」

食い気味で「聞いてくれ」と迫るエース。
おい、さっきの初心な奴は何処行った。

「小腹が空いたから寮のキッチン冷蔵庫にタルトが冷やしてあったんだよ。しかも、ホーム3つ分も！だから………」

「食べちゃった…？」

コクコクとエースが頷いた。

「それでその首輪を付けられちまったのか？」

グリムがそう聞くと、エースは「そうなんだよぉ！」と自分がさも被害者の様に喚きだした。
正直、どっちもどっちな気が…。

「どっちもどっちなんだゾ…」

おぉ、どうやらグリムとも同じ意見らしい。
あのグリムにも呆れられるなんてエース可哀想。
グリムの言葉に信じられないとでも言いた気な顔で、エースは更に言い訳を重ねる。

「たかがタルトを盗み食いしただけで魔法封じされるのはおかしくね！？
魔法士にとっては手枷と足枷つけられるみたいなもんじゃん！」

「いやぁ、でも勝手に食べちゃうのは…。」

「3ホールもあったんだぞ！？絶対1人じゃ食い切れねーだろ！
心が狭いにも程があるでしょ！」

エースの言い分は分かる。
分かるけど本当にどっちもどっちの案件だこれは…。
ウチとグリムは互いに目線を合わせる。
どうやらグリムもお手上げらしい。

「なんだよその煮え切らない反応～！」

ウチ達には共感してもらえると思っていたのか、エースはウチ達の反応に不満の声を漏らした。
まるでスーパーでお菓子を強請って地団太を踏む子供の様に。

「3ホールもあったならパーティー用かもしれないんだゾ。誰かの誕生日とか…。」

「なっ、大魔法士様にしては見事な推理…。」

本当にグリムか？とでも思うような名推理に、思わず声が出てしまった。
しかし、当のグリムは自信満々に胸を張っている。
やっぱ大魔法士様だわ。

「てか、寮長さんには謝ったの？謝ってなくてそれなら何とも言えないよ。」

「うぐっ…」

ウチがそう言えば、エースはバツの悪そうな顔をした。
やっぱりそこは原作と変わってないのね…。

「ウチには謝れるのに寮長さんには謝れないの？昨日はあんなにお利口さんだったのに？」

ちょっと煽り口調でエースにそう言えば、エースはもっと顔を歪める。
そしてどうやら諦めたのかヤケクソに叫んだ。

「わ、分かった！……あ、明日…明日、謝りに行くから…。」

「やれやれだゾ…。」

「偉い、エース！！！」

あまりにも子供じみた反応で、グリムは呆れの溜息を吐いている。
ツイステのキャラって結構こんな感じだから此処でため息ついてたらやってらんないよグリムさん。

「……………その代わり、ナマエが提案したんだから一緒に来いよな…。」

渋々と言った感じでそう呟くエース。
正直面倒くさいが、此処は原作通り頷いてやろう。

「オレ様は行かないからな！」

「ざんねーん！ウチと大魔法士様はセットだから行かないといけませーん！！！」