第0章
夢小説設定
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周りからの目線が痛くて、足がガクガクと震えそうだ。なんなら、両手は先程から震えっぱなしだ。
円形のステージに上がると、マイクが一つスタンドに付けられている。
いや、待て。
接客どこ行った?
チラリとアズールの方を見ると、口パクで「うたって」と…。
はぁあああぁ!!!!???
また騙された!!!!
てか何で歌わなきゃいけないの?!
心の中で血の涙を流す。
くそっ…騙す方も許せん…。だけど何より許せないのは何回も騙されてるウチ!
じぃっーとお客さん達の目線がウチを突き刺す。何もやらないウチにイライラしている様だ。
も、もう良いや!!
これやってドレスのお金を返せれば良いんだから!!
ガシッとマイクを握りしめて、ウチは腹を括った。
「さぁドレスコードも恥じらう午前0時 フロアで絡み合う 欲望と視線セブンスタ〜♪」
まるで魔法の様だった。
これを歌おう。
そう思った途端に、会場からは自然と音楽が流れ出す。
しかも、それはウチが元居た世界の物で流せる筈がないのに。
驚きで声が詰まりそうになったがなんとか根気で耐えた。
「この恋がもっとカゲキで無邪気な 快楽に溺れて堕ちるならそれもアリでしょ~♪」
色っぽく、色っぽく。
きっとウチの力じゃ「色気」の「い」の字も出てなさそうだけど…。
「おあずけチェリーは今夜も おあずけね uh~♪」
サックスとドラム、トランペット。
ジャズ調の曲が終わると、モストロラウンジは歓声に包まれた。
一気に肩の荷が降りた。
やった、これで借金帳消しだ!!
という考えが甘いことをウチは忘れていた。
「次の公演は予約制です。さぁ、チケットはこちらですよ!!」
いつの間にか作り上げたチケットを、何故かばら撒くアズールとリーチ兄弟。
しかも、それを買っているお客さんたち。
ウチは急いで、ジェイドへとヒソッと声を掛ける。
「え?え?ジェイドさん…!」
「ジェイド」
「ジェ…ジェイド…。次ってどういうことですか?!」
ウチがそう聞くと、ジェイドの横からぬるりとフロイドがやってくる。
「あ、イルカちゃんだ~」
「イ…イルカ…。」
どうやら、ウチはイルカ判定らしい。
「おや?もしかして"たったの"一回で、僕たちが満足するとでもお思いでしたか?」
「イルカちゃんには、もっと沢山仕事させてやるよ~」
長身の、しかもヤクザの幹部みたいな双子に取り囲まれて「NO」と言える奴がどこにいるだろうか。
恐ろしさに喉がひゅっと鳴った。
「こらこら二人とも、"黒薔薇さん"を苛めないでください。」
「「「黒薔薇?」」」
完全にチケット販売を他の寮生に任せたアズールが、会話の輪の中に入ってくる。思わぬアズールの言葉に、ウチを含めウツボ兄弟も疑問を表した。
そんなウチらの疑問にアズールは持っていたビラをウチに渡す。
「なになに…、"妖艶な歌姫*黒薔薇 モストロラウンジにて公演開始"……仕事はや!!?」
いつの間にか印刷されたビラ。
仕事が早いのは良い事だとは思うが、どっち道ウチが次も歌わないといけない事実は確定なようだ。
「化粧品代、ドレス代…諸々、まだまだ借金はありますから、お好きなだけ歌ってくださいね!」
「はい?!」
化粧品代?その他諸々?
ウチが借金したのってドレスだけじゃなかったっけ?!
半ばパニックに陥っているとフロイドに背中を押される。
「じゃあ、イルカちゃん送ってくるねぇ~」
「はい、頼みますよフロイド。」
ヒラヒラと手を振るヤクザ二人。
そして、もう一人のヤクザに引きずられていくウチ。
「ちょっ…え?…このまま?!!」
パンプスとドレス姿のままフロイドによって鏡へと連れられるウチ。
このまま帰ればグリムと学園長に変な目で見られてしまうのは必須だ。
「グダグダ言ってないで、行こうね~。」
「ハイ、ナンデモアリマセン」
フロイドは笑顔を浮かべてはいるものの、何せ雰囲気なのかオーラなのか、所々恐ろしい。
絶対逆らってはいけない。そう本能で察知した。
ズイっと腕を引かれ、鏡の前まで歩く。
しかし、ウツボ兄弟は足が長い。
今ウチは慣れないパンプスで、ドレスでかつチビだ。ウツボ兄弟からするとの話だが。
つまり付いていくのに大変なのだ。
「もうちょっとゆっくり!」そう声を上げようとしたとき。
「うわぁ、イルカちゃん超疲れてるじゃ~ん。」
くるりと後ろを振り返るフロイドと目が合う。
面白そうに歪められたオッドアイが腹立つが、抑えろナマエよ。
こいつはヤクザなんだから…。
「ヒールは慣れてないんです…。」
噛みつきそうになる所をグッと堪えると、フロイドは面白くなさそうに「ふーん」と相槌を打った。
そんなフロイドの態度にちょっとイラっと来たが、ウチは大人なので我慢した。決してフロイドが怖いからではない。
拳を握りしめていると、急に浮遊感を感じた。
「わっ?!」
ぐらりと傾きそうな体を起こそうと、真横の"柱"にしがみつく。
ん、柱?
「アハハ~、ビビり過ぎてウケる。」
柱が喋った。
もしかしなくてもこの柱…。
「ご、ごめんなさい!マジすいません!殺さないでぇ!!!!」
視線を柱にやると、フロイドがいた。
だから謝りたおした。
何故なら、ウチはフロイドに抱っこをしてもらい、そしてしがみついてしまうという愚行をしているからだ。
おそらく携帯のバイブの如く震えているウチ。
今すぐにでも降ろして貰わないと恐怖で漏らすか、転落死しそう。
「え?何?俺に抱っこされるの嫌なの?」
顔は笑っているが、声はマジだった。
「イ、イエ…ウレシイナァ…!」
「でしょ~?」
冷や汗が止まらない。
そうして、鏡を潜り抜けるまでフロイドに抱っこされたままであったのだった…。