「ナマエ！」


パタパタと俺へと駆け寄るジリアンとノエル。
赤色と青色の瞳が揃って俺を見上げた。

『なーに？ノエルとジリアン？』

パーカーから覗く黒髪が風になびいた。

邪魔だなぁと思いながらも、可愛い二人の友人の登場に俺は目を細めた。

「明日のピアノコンクール、来てくれる？」

そう告げたジリアンは、期待に満ちた表情で俺を見上げた。
キラキラした大きな瞳がブルーサファイアのように美しい。

反対にノエルは不安げに俺を見つめている。
「来てくれるだろうか。」そんな不安が見て取れる。

そんな二人の可愛らしい様子にナマエはクスリと笑みをこぼし、


『勿論！』


と、大きく頷いた。

勿論、行くか行かないかの二択をあんな美少女たちから迫られれば「行く」の一択であろう。
俺はそんな邪な感情を抱いた。

しかしそんな俺の返事に二人は顔を見合わせ、ぱぁっと顔を輝かせた。


うわー、可愛い。
可愛いの渋滞じゃない？大丈夫？

あからさまに大喜びするジリアン。
そして一瞬、ルビー色の瞳をこれでもかという程輝かせるノエル。
しかし、ふと我に返ったのか頬を赤らめながら顔をしかめた。

美人が友人って俺ってばホントに罪な奴。

「ねぇ！今年の式典奏者、誰になるんだろうね～？」

ジリアンが俺とノエルに向けてそう言った。

その質問の答えは彼女だってわかっている筈なのに。
勿論俺も、ノエルも。



ラプラス市の記念式典。

その式典奏者。
そんなの…決まってる。





ノエル・チェルクエッティ…。



ノエルが誰よりもピアノを愛し、この為にどれだけ練習したか…俺は知ってる…。
きっと式典奏者はノエルだろう…。

俺からすればノエルかジリアンが式典奏者になればオールokなのだ。
しかし、この市にいるお偉いさん方はそうではない。

ノエルもそうだ。


ジリアンの質問にノエルは鼻をフンと鳴らした。

「さぁ、どうかしら。」

自信、いや過信に満ちた瞳でノエルは海を見つめた。

そんなノエルに俺も頭の中では「大丈夫だ。」と。






だけど………









嫌な予感が…。

この胸のあたりで引っ掛かる謎の違和感。
これは一体。

『ノエル…ジリアン…』

俺は口を開ける。
言葉が喉元に来たところで、俺はそれを飲み込んだ。

俺の問いに二人はこちらを見つめ、首を傾げている。




『頑張って！』

俺は二人に向けて出来るだけ笑顔でそう言った。

俺の勘違いで二人に余計な不安を持たせてはいけない。
せめて、明日。

明日、式典奏者が決まってから…。





まさか俺の予感が当たるなんて…。
この時の俺は知るはずもなかった………。