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水晶の森3 

「笠松~、なに食べる?俺のオススメはきつねうどんかな♪」
「相変わらずだな(苦笑)…あー、さっぱりしたもんが食いてぇな」
「じゃあ山菜うどんはどう?それと肉じゃが!お前の好物だろ(笑)」
「ああ。それにするわ」

好きな席に座ってて~!と森山が食券を買っているのを後にして、窓側の解放感のあるガッシリした木のテーブルに腰かける。
周りに女子たちがいるが、この席とは離れているのでホッとする。

俺が座った机には、15㎝ほどの立体的な魚の置物が堂々と鎮座していた。
「すげぇ……鯉…か?……冷てぇ(笑)さっきの外の水晶に似てるな」
ところどころ透明感のある紫色の水晶。石も勿論きれいだが、作りが細かくて魚の鱗なんかリアルで目が釘付けになっていた。

「笠松~!お待たせ♪」
「悪ぃな、森山」
「あれ?結先輩の魚ちゃんじゃないか!なんでここにあるんだ?」
二人分の食器を器用に食器を置きながら、大事そうに俺から取りやがった。…なんか、ムッとした。
「……結先輩って、さっきの人か?」
「他にいないだろ(笑)メールしとこ」

(メール)
貴方の由孝です♪
結先輩、お疲れさまです!
先輩の魚ちゃんが食堂で迷子さんです!
でも大丈夫!俺が護っていますのでご安心を♪

「……変な文だな」
うどんを食べながら森山の相変わらずの口説き文句にため息をつく。
「よーし!これで安心♪いっただきまーす!」
うどんが伸びるのを気にせず、5分くらい考えて森山はメールを打っていた。
それよりも驚いたのが、あの森山が大学の女の先輩とアドレス交換をしていたなんて…!!おいおい!あの森山が…!
山菜うどん美味ぇな。山菜の他に色とりどりの野菜が食べやすく煮込まれてて、汁も薄味で飲みやすい。

体が温まって一息ついた頃、
「ねぇ森山君~!結ちゃんの水晶どこ~?」
「あ、あ、あ、女子…!!」
二人連れのギャル風の女子たちが寄ってきた。俺は顔が真っ赤になって心臓がバクバクいってて固まってしまった。
「お二人とも今日も一段とお美しい!!一緒にデザートをいかがでしょうか?」
森山の野郎、芝居がかった表情で決めポーズをしながら、水晶の魚を女の子に差し出す。
「ありがと~、よかった~!」
「いえいえ♪結先輩の為ならいつでもこの森山由孝…」
「じゃあね~」
「あのっ!お茶は~」
「遠慮する~(笑)」
ささっと女の子たちは消えていった。

「………うー」
「ごめんごめん(笑)落ち着いて食べれないなあ」
「…おい森山、…その……結、先輩は…どこ行ったんだ?」
「……笠松。うう!よくぞ聞いてくれた!!あの笠松がっ!女性に興味をもつなんて…!」
すんごく嬉しそうに万歳三唱をしててむかつく。
「ちげーよ!他のじょ、女子が取りに来たんだ。…先輩は忙しいのか?」
「ああ。結先輩は頼まれ仕事もやっているからな。個展に向けて今日も作品づくりだ」
「………すげぇな」
「そうだろ!!結先輩はすごい人なんだ!俺はあの人に釘付けさ♪」
決めポーズをするかと思いきや、バスケの試合の時みたいに生き生きした明るい表情で笑っている。
「…またナンパかよ。いつもの如く振られて終わりだな(苦笑)」
「ひ、ひどいぞ!笠松!結先輩は俺の話をきちんと聞いてくれるいい先輩なんだぞ!……まあ、ちょっと変わってるけど」
「?そう、なのか?」
「ああ(笑)」

森山が自分の事のように結先輩の話をしてて、胸が何だかムカムカしてきた。
…なんだよ。どうせいつもの如く振られるだろ。
『またね、笠松くん』
嬉しそうに微笑んでいた結先輩。俺じゃなくて森山に向けていた笑顔なんだろうか…?

…もう一度、会いてぇ、な。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ここだよ、笠松~!」
「……あ、」
水晶の森より奥に入った校舎の外から、結先輩の姿が見えた。
真剣な表情だが鼻唄を口ずさみながら石を磨いている。
その姿を凝視していたら、結先輩と目があった。

「笠松くん。いらっしゃい」
「!!あ、あ、あの……」
思わず視線をそらす。結先輩が窓ギリギリまで近づいてきた。
「一人かい?よくここが分かったね(笑)」
「え?も、森山……」
いつのまにかいなくなってた。森山のやつ、後でシバく。
「笠松くん、魚ちゃんをありがとね。昨日課題をしていてそのまま置いてきてしまったようだ(笑)」
「い、いえ……お、俺がすわ、った、机に……あり、ました」
「そうか。あの席は私もお気に入りなんだ(笑)」
「そ、そう、なんです、ね」
「…そうだ!笠松くん、5分待っててくれるかな」
「?は、はい…」
結先輩は慣れた手つきでキラキラした青色の石に白い紐をつけている。綺麗な青だ……まるで海常の色のようだ。
一体なんだろう。

「この子を笠松くんに」
「?…お、おれに…?」
「さっき磨き終わった子だよ。お守りにどうぞ」
「……い、いいんです、か…?」
「ああ。君にあげる」
そう微笑んで結先輩は俺の首もとにネックレスをつけてくれた。
2回目の至近距離で心臓がドキドキした。……いい匂い、だな。
「青色の子、とっても似合うね。人工水晶なんだけど、綺麗な色で気に入ってるんだ」
結先輩が嬉しそうに歯を見せて笑っている。つられて俺も笑っていた。
段々肩の力が抜けていき、自分でもリラックスしているのに気づいた。
「すげぇ、嬉しいです……ありがとうございます、結先輩」
「どういたしまして。またいつでも遊びにきてね。笠松くん」
「大事にします………また、…あの……来ても…いい、ですか?」
「ああ。もちろんだよ(笑)待ってるからね」

別れ際に結先輩と握手をした。ヒンヤリとしたあったかい手だった。



「かっさまつ~、あれ?どうした?嬉しそうな顔して」
「!べ、別にっ」
「!!笠松がネックレスしてるっ?!!どうしたんだ?どこかで女子に口説かれたのか?!」
「!!ぜ、ぜってー言わねぇ!!」



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