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水晶の森

大学に入学して1ヶ月ほど経った頃、森山から大学に遊びに来ないかという話になった。毎日刺激がいっぱいで楽しいんだ!と電話越しから嬉しそうな表情がよく伝わってきた。
アイツが充実した大学生活を送っているようでよかった。安心しつつ、どうせナンパに付き合わされるんだろう、と海常にいた頃を思い出して悶々とうなだれながら、待ち合わせの場所にたどり着いた。


工芸学科敷地内第5棟 別名、水晶の森という愛称で呼ばれているそうだ

まず沢山の石に驚いた。種類もそうだが、とにかくデカイ。模様があったり、面白い形があったり、え?ベッドみてぇな平らな石もあんのかよ…!
「でっけえな……これ、全部石かよ(笑)」
紫のとがった集合体の丸みを帯びた長方形。2メートルはあるだろう。綺麗だけど、まるでアイアンメイデンのようだ。…刺さったら痛そうだな(苦笑)

隣はピンクより薄めな桜色の1メートル近くある巨大なハート。立体的だな。ローズクォーツ(紅水晶)という恋愛の石らしい。森山が喜びそうだな(苦笑)
……触ってみてぇな。ヒンヤリしてて気持ち良さそうだ

チラリと横に視線を向ける。
茶色の大きな石の上で横たわって眠っている女の子がいる。
遠目からだが口が大きく開けて、寝返りをうっている。
深緑の晴れた穏やかな日陰の下ではそりゃあ眠くもなるだろう。

あったけぇな………俺も昼寝してぇ(笑)
森山の大学がどんなとこなのか、正直気になっていて来るのは楽しみだった。しかし、あのバカが恐ろしい事を言ってのけた。
『笠松~!女の子、紹介するぞ!…え?誰かって?それは来てからのお楽しみで♪』
あのバカ…!俺は女子が苦手なんだよ!海常いた頃に日常茶飯事だったろ…!ちょいと憂うつだった。


遠くから二人、女の子たちが話ながらこっちに近づいてくる。
う…!女子だ!!やばい!!逃げるように慌てながら後ずさっていたら、茶色の石にコツンと足があたった。
タイミングが悪いことに、先程まで眠っていたと思われる女の子が目を覚ました。
至近距離で目が合う。
「あ、あ……!」
「……君は、笠松くん?」
「え、な、なんで…俺の、なまえ…」
慌てふためいていたら、俺のキョドり具合に驚くことなく起き上がってきた女の子が明るい表情で微笑んだ。
「森山くんから話をきいているよ。はじめまして。工芸学科2年の結と申します」
「え、森山、から…?……え、えと、俺…あの…か、…笠松、幸男……で、す」
「そうか。よろしくね。笠松くん」

無邪気に微笑んでいる女の子………ゆい、さんが俺の髪にそっとふれる
「あ、あの…っ」
「ああ。葉っぱがついてるよ(笑)」
面白い形の葉っぱをポケットに閉まっている。
「ありがとね、笠松くん。模様の参考にしよう(笑)」
ドキドキして、ゆいさんを凝視していたら慣れ親しんだ声が聞こえてきた

「かっさまつううう!!ごめん!遅れちゃった~(笑)」
「っ!!森山ああああ!遅いっ!シバくぞ!」
言いながらいつもの癖で森山を飛び蹴りしていた。

「おお…、力一杯のいい蹴りだな(笑)」
ゆいさんが物珍しそうに眺めている
「痛たた(笑)久しぶりなのに笠松ったら容赦ないなあ~(笑)」
「うるせえええ!!おめえ散々待たせやがって!!」
いつもの掛け合いをしてたら大分緊張がほどけてきた気がする。
「結先輩。忙しい所をありがとうございました!後程改めてご挨拶に行きますね!」
「ああ。森山くん、笠松くん。また後でね」
柔軟体操をし終わった、ゆいさんが背中越しに手を振って、建物の中へ消えていった。


緊張とドキドキで力がぬけて、先程ゆいさんが眠っていた茶色の石に横になる。…あったけぇな。俺、キョドってたから、きっと変に思われたよなあ……?なんで、気になるんだ…?
「ごめんごめん、遅くなって(笑)でも本当に用事があったんだよ~」
「あー、もういい。シバく」
軽く肩パンする。痛ったいな~と森山は笑いながら気にしていない。そんなところもシバきたくなる

「笠松、学食行くぞ♪今日は俺のオゴリだ~!」
「うるせえ!耳元で騒ぐな!シバくぞ!」
肩をくんできて暑苦しく感じながらも、少し昔に戻ったようでホッとしながら(アイツには言わねぇけど)水晶の森を後にした。
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