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雨の夢

真っ暗でどしゃ降りの雨
…もし雷が鳴ったら………あの時と同じ……怖い…
いつもだったら何ともないのに……なんで今夜に限って……



「雨、すごい降ってますね(苦笑)」
「……そうだね。帰り、気をつけてね」
「結先輩、傘ないんですか?」
「空き傘を借りるから大丈夫。じゃあね」
確かに傘を持っているが、ささずにスタスタとどしゃ降りの中を走っていく姿に、強い違和感を感じて慌てて追いかける。

「森山くん…?方向逆じゃ…」
「風邪ひきます…っ!」
傘を差し出し抱きしめると、結先輩が強い力でバタバタと暴れている
「は、離してっ!!」
「結先輩?!」
いつもの結先輩と違う。
今にも泣きそうで目に涙をためている。弱々しくて儚げな気配が漂っていて、贔屓目にみても大丈夫じゃない。

「いやだっ!怖い!!」
「結先輩っ落ち着いて…!」
「……お願い…止めて…」
消えいりそうな声が脳裏を横切り、強く抱きしめる。

さっきより強くガタガタ震えている結先輩。顔が青白い。
春にしては気温が低い。おまけに雨にも濡れているから体温が低くなっている。
確か結先輩のアパートはすぐそばだったよな。
早くお風呂に入って暖まらないと風邪をひいてしまう。
「結先輩。風邪ひくから…とりあえず先輩の家に行きましょう…っ」
「…………君も来るの?」
怯えた表情で結先輩が見つめている。
「先輩を家まで送り届けたら俺は帰ります。このままじゃ危ないから…」
真剣な表情で、でも怖がらせないように精一杯の笑みを浮かべた。
「……わかった。すぐそこだから」

やっと結先輩が微笑んでくれた



手を引っ張ってもらいながら、黙々と先を歩いていく結先輩。
どしゃ降りの中で体も服もびしょ濡れだったが、それはどっちでもいい。
結先輩は何に怖がって苦しんでいるんだろう。俺がなにかキッカケを引き起こしてしまったのか……俺のせいで…!
結先輩のちからになりたい。俺に出来ることがあったらなんでもしてあげたい…!

そうこう思考を巡らせていたら結先輩のアパートについた。


震える手で鍵をさしているが中々開かない。
「結先輩、俺が」
おそるおそる差し出された鍵をもらい、ゆっくりとドアを開ける。
「…電気、つけますね」
明かりをつけたら、壁にもたれかかりホッとした表情の結先輩。肩の力が抜けたようで、体の震えも徐々に収まってきたようだ。
無事に送り届けられて本当によかった…


「………森山くん。迷惑かけて悪かったね」
「いいえ。それより早くお風呂に入って体を温めてください。風邪ひいちゃいますから…」
いつものように髪をなでると、くすぐったいような表情の結先輩が俺の肩にふれる。
「本当にごめん……嫌じゃなかったらお風呂入ってって。確実に君の方が風邪をひいちゃうよ」
「…ありがとうございます(笑)じゃあ、お言葉に甘えて」


お願いだから先に入ってと深々と頭を下げられて困った挙げ句に、なんとか結先輩に先に入ってもらった。
……うー、ちょい寒いな(笑)でもまあ、鍛えてるから多分大丈夫。

「……森山くん。そこのタオル取ってくれる?」
「はい、…これですね(笑)」
可愛い魚柄のバスタオルにホッコリする。
結先輩は本当に魚が好きなんだな(笑)

「おまたせ。ゆっくり入ってきてね」
バスタオル姿の結先輩から視線をそらしつつ、浴室に入る

バスタブのお風呂に身を沈める
「はぁ、あったか~(笑)きもちいい~」
体を洗いながら、ふと冷静になって考える。

……結先輩のお風呂…。さっき先輩も入ったんだよなあ……いい匂いだなあ…………い、いやいや!落ち着け!!…………俺のも落ち着け(苦笑)頼むっいい子だから…っ!我慢我慢…!
人様のアパートで………好きな先輩の家でする訳にもいかず、俺の森山くんが収まるのを待ってから出た。


「すみませんっ遅くなっちゃって…!」
「ああ、構わないよ。体暖まったかな?」
借りたバスタオルで体を拭いていたら、斜めの視線をむいている先輩がパジャマを貸してくれた。
「フリーサイズだから多分着れるといいけど…」
「ありがとうございます(笑)お揃いですね♪」
結先輩と同じパジャマだ…!とっても嬉しくなって思わず無邪気に笑っていたら、つられて結先輩も嬉しそうな表情だった。

「ありがとうございます。お茶までもらっちゃって」
「とんでもない。こちらが迷惑かけて悪かったね(苦笑)君も服、まだ洗濯中でね……なにか代わりの服があればいいんだけど」
ごそごそと先輩がタンスの中を引き出して探している。

気持ちはありがたいが、俺には結先輩に聞きたいことがあった。


「結先輩、ちょっといいですか?」
「なにかな?」
「……もう具合は大丈夫ですか?」
先輩に近寄って真剣な眼差しで見つめる
「……君には迷惑をかけたね。本当にごめん」
「迷惑じゃありません。……さっきの先輩、様子がおかしかったから…」
「…………」
体が強ばり視線が下を向いて表情が乏しくなってしまった。

……ちがう…そんな顔をさせたくない…!
気づいたら、雨の中と同じように強く抱きしめていた

「……森山くん。離して…」
「何があったか俺には全然わかりません。けど、そんな顔をしている結先輩をほっとけないです」
「…別に……大したことじゃ…」
「それでも…っ!結先輩はこんなに苦しんでいるんでしょ…?!」
「……っ…」

途端に震えて小さくなってしまった体を優しく抱きしめる。
ぼそりぼそりと話してくれた。
結先輩になにがあったのか…………




話が全部終わったら結先輩は疲れきっている表情だった
腸が煮えくりかえる思いで殺気だっていた俺に怯えて離れようと、もがいている。
殺気をできるだけ押さえこんで、そっと抱きしめる
「…………」
「……結先輩、怖がらないで…」
「………」
…気がきいた言葉が浮かばない。ちくしょう…!

「………洗濯機、止まったかな?次は乾燥機……」
よろよろと結先輩が俺の腕からぬけて、洗濯機のボタンを押す
「……終点までに間に合うかな」
力なく結先輩が微笑む


このまま結先輩をほおっておけない…!…でも…っ…男にレイプされて怯えている結先輩の傍に……どうすればいられるんだろう……俺はなにができるんだろう……


窓から突然ピカッと瞬間的に光った
「……っ、雷か。こんだけ降ってれば鳴りますよね(苦笑)………っ…結先輩…?!」
「……っあ、………もりやま、くん…………たす、けて…」



雷が音をたててゴロゴロ鳴っている中
俺の胸のなかに結先輩が飛びこんできた。
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