100万打記念(旧サイト)

煙草をふかす銀髪の人は、ボンゴレ10代目の右腕で、
とても恐ろしい、野犬のような人だって噂。


『何それ怖っ。』

「だからー、10代目はとっても温厚な方でしょ?でもボンゴレが傾くことはないのは、守護者さまたちが恐ろしい力を振るってるからだそうよ。」

「ここってお給料良いけど、内部の情報漏らさないように皆住み込みさせてるし…」



むしろ私はそれが有難かったんだけど…と口を挟むのはやめておいた。


よくある、家政婦たちの噂話。

今も、大量の洗濯物を捌きながら、口は止まらない。


と、不意に私は中庭に視線を取られる。

タオルが1枚、風に舞って落ちてしまったのだ。


『あっ…私、取ってきます。』

「いってらっしゃ~い。」



お屋敷の階段を駆け下りて、中庭到着。


『あれー?どこだろ…』

「おい、」

『はいっ、何か御用で…』

「これだろ、ほら。」


振り向いた私に白いタオルを差し出していたのは、間違いなく先ほど噂になっていた人で。

咥え煙草と鋭い目つきが恐ろしく、野犬という比喩に納得がいってしまった。


『す、すみませんっ!すぐ洗いなおして…』

「は?何言ってんだ。」

『干す時に落としてしまったので…私が鈍臭かったばかりに…!』

「だから、落ちる前に拾ったんだよ。」

『え…?』



見上げれば、呆れたように頭をかく獄寺さんの姿。


「降ってきたの見えたからな。もっかい洗うの手間だろが。」

『そう、ですが……』



野犬…じゃない…?

私たちの仕事の手間を考えてくれて…
もしかしたら単に水道代のことを考えてるだけかも知れないけど…

どちらにしても、節約家思考…?


ぼんやりしていると、獄寺さんが突然、エメラルドの眼光を鋭くさせた。

ひええ!やっぱりこの方、野犬の比喩が似合う…!



「コレ持って建物内に戻れ、すぐにだ。」

『えっ?あ、あの私、何か失礼なこと…だとしたら申し訳…』

「違ぇよバカ!今あっちの方で何かがいくつか光った。俺が見てくるからお前は戻ってろ。」


あと念のため他の家政婦にもベランダから中に戻るように言え、

そう指示を出す獄寺さんは、普通にかっこいい人だと思った。



「…っておい、聞いてんのか!?」

『あっ、はい!大丈夫です…!』

「ったく、屋敷にいても休まんねーな…。」


仕方ねぇか、と呟いて背を向ける獄寺さんに、私は咄嗟に呼びかけた。


『あのっ!』



渡してもらったタオルを握りしめる。


こんなに近くで見たのも、話したのも初めてだった。

けど、噂だけじゃ絶対わからなかったことを知ることができた気がする。



『えと…どうかお気をつけて!』


私はたぶん、欲張りだ。

今日、少しだけ獄寺さんのことを知ったばかりなのに、
もっと知りたい、話してみたいって、思ってる。


余程私が不安げな表情をしていたのか、獄寺さんは少しバカにしたように微笑しながら、言った。



「あたりめーだろ。俺を誰だと思ってんだ。」



ああ、これはもう、逃れられない。

胸のあたりがざわっとして、頬が熱い。



『(どうしよう…プチ笑顔見ちゃった…!)』


屋敷に戻ってベランダへと向かいながら、口元が緩む。


怖い人なんかじゃなかった。


温厚な10代目の右腕は……


ちょっとだけ口の悪いヒーロー、なのかも。





心惹かれてカウント

落ちたらもう、どんな噂も関係ない




fin.
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