100万打記念(旧サイト)

『ねぇねぇ、何見てるの?』



あたしがそう訊いても、あなたは答えてくれなかった。


あなたは人一倍キツい実験をされたって、誰かが言ってた。
それは、あなたが優秀な被験体だったからだって。

その傷が癒えていないのか、いつも右目に眼帯をしてて。
部屋の隅に座って、小さな窓からボーッと空を眺めて。


あたしの番は、まだ来ない。

こないだ、友達が一人死んじゃった。
実験に身体が耐えられなかったんだって。


いつも一緒にいてくれた子が居なくなって、あたしは一人ぼっちになった。

けど、部屋の隅にいるあなたを見つけて、嬉しくなって。


『隣、座ってもいい?』



こっちを向いてくれなかったけど、
答えてくれなかったけど、

『…ありがとう。』


あなたの隣に座って、ぽつぽつと喋った。

あなたは、ただ聞くだけ。
あたしは、ただ話すだけ。

そこには“お友達との会話”なんて無かったけど、
あたしは幸せだった。


けど、ついに“その日”はやって来た。


「明日はお前の番だからな。」

『…はい……』


友達は、みんな死んじゃった。
生きてる子たちにも、酷い傷跡。

あたしも…実験されるんだ。
あんな傷作って生きるくらいなら、死んじゃった方が楽なのかも。


実験される前日に、あたしはまた部屋の隅にいる彼の隣に座った。

怖いっていう気持ちが、ちょっとだけ指を震わせる。



『あのね、明日はあたしの番なんだって。』


相変わらず、彼は何も言わなかった。

もう慣れてたから、構わず続ける。

今のうちに、ただ聞いてくれるだけの彼に心の内を吐き出しておいてしまおう……

そう、思った。



『ねぇ…あたし………あたしも、死んじゃうのかな…』


じわっと視界が滲む。



『…ちょっと、怖いなぁ……』

「死にませんよ。」

『えっ…?』


彼は、こっちを向いていた。

真っ直ぐ真っ直ぐ、あたしを見ていた。



「君は死にません。まだ僕に話したいことがたくさんあるでしょう?」


毎日あなたの隣に座ってたけど、声を聞いたのは初めてだった。

ぽかんとするあたしに、あなたは教えてくれた。
その右目には、六つの道から授かった能力が刻まれてるのだと。


『死んだら、6つに別れちゃうの?』

「そうです。人間はそれを順に廻り……また同じ場所へ辿りつく。」

『同じ、場所……』



彼の名前も、その時初めて知った。

骸くん、だって。


『今いるのは、何ていう世界?』

「人間道、ですよ。最も醜い世界です。」

『そうなんだ……そう、だね……』


確かに、友達がみんな殺されちゃう世界なんて、醜いに決まってる。

あたしは次は、どんな世界に行くのかな?

明日の実験で死んだら……どの世界に…



「君は、死にませんよ。」

『どうして分かるの?』

「僕が壊すからです、この世界を。」

『骸くん、が…?』


頷いてから、骸くんは立ち上がった。

穏やかに優しく笑って、


「僕がこの世界を壊し、美しい世界に変えます。」

『ほ、ほんとに…!?』

「一緒に見ますか?美しい世界を。」


差しのべられたその手を、あたしは強く強く握った。




思い描いたつ目の世界

それは彼の野望であり、あたしの希望だった




fin.
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