100万打記念(旧サイト)

木枯らしが吹く季節になりました。

今日も私は、あの大きなお城に果物をいっぱい届けに行きます。


お城には2人の王子様がいらっしゃいます。

私がお届を終えた後、こっそりと遊んで下さるのです。

お名前は、ラジエル様とベルフェゴール様。

2人は双子で、私は上着の色でしか見分けることが出来ません。



『こんにちは、料理長様。』

「やぁ、ご苦労さん。」

『今日はリンゴをお持ちしました。』

「じゃあ今日はアップルタルトをお出ししよう。」


お城の裏口から、調理場に行って料理長様に果物を渡します。

それが、果物屋の娘である私の仕事なのです。



「それじゃ、また頼むよ。」

『はい、失礼します。さようなら。』


料理長様に挨拶し、私はドアを閉めました。

風が冷たく吹きつけてきて、吐息を両手に当てました。



と、その時。


「な、何故……!うわあああっ!!」

『え…?』


たった今自分が閉めたドアの向こうから、料理長様の叫び声が聞こえてきました。


どうしよう…

気になるけれど、私ごとき庶民の娘が許可なくもう一度ドアを開けるなんて……。


迷っているうちに、ドアの方がギィと音を立てて開きました。



そこには、王子様が立っていらっしゃいました。


「なぁなぁ、もー帰んの?」

『え、あ…』



私は、そのお方がどちらか分かりませんでした。

王子様達は髪色も声も笑い方も、全部おんなじだったからです。

ただ、いつもは上着の色で判別出来るハズなのですが、この時ばかりはそれも不可能でした。



「うししっ、俺、お姫さまには優しくするぜ?だから、一緒に来いよ。」


手を差し伸べて下さったその王子様の上着は、りんごのように真っ赤だったのですから。



「いっつも皆で俺とお前の邪魔するからさ、消しちゃったんだよね。つーワケで、もうこの城には誰もいねーしつまんねーの。」

『ベル様…?』

「当たり~!さっすが俺のお姫さま!」


真っ赤に染まった上着の中に、白が見えました。

白い上着は、ベル様でした。

それが血だと分かっていたのに、私は怖くありませんでした。

無邪気に笑うベル様に付いて行きたい……
そう、思ったのです。



『ジル様も、いなくなってしまったんですか?』

「そーそー、アイツには結構手こずったけど。」


ベル様は答えながら、私の手を握って歩き出しました。



「俺さー、お前と結婚するんだ、ししっ♪」

『え…?で、でも私は普通の果物屋の…』

「いーの!俺はお前が好きなの!」

『ベル様…///』


ほんの少しだけ恥ずかしくなって、俯きました。



「でもジルも他のヤツらもみーんな反対したんだよね、だからムカついて。ジルなんて、“アイツは俺のだ”とか言っちゃってさー。」


けどもう反対するヤツは誰もいないよ、

そう言ってベル様は私に笑いかけてくれました。

私も、ベル様に微笑み返しました。



「俺、今すっげー幸せ!お前とこーやって手ぇ繋いで歩いてるだけで幸せ♪」

『私も幸せです♪』





世界で人の王子様

幼い少女は、無邪気で残虐な少年を、躊躇いもなく受け入れた




fin.
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