🎼本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バジルさんに誘導されながら、廊下を走った。
「ここを抜ければ車まですぐですから……柚子殿?」
『えっ…?』
「どうしたんですか!?何処か怪我を?痛むんですか!?」
『……あ、』
バジルさんの言葉に、初めてあたしは自分が涙を流していることに気付いた。
既に鎮圧済みの小部屋に入り、バジルさんはあたしを椅子に座らせる。
涙に気付いた瞬間、あたしは足を動かせなくなってしまったのだ。
「柚子殿、大丈夫ですか…?」
『うっ……ひぐっ…』
優しい言葉をかけられた途端に涙は激しさを増し、あたしは両手で顔を覆った。
そんなあたしの頭をバジルさんは優しく撫でる。
「泣いているだけでは分かりません…柚子殿、お話し下さい。」
『……ない、って……』
「?」
『…いらないって、言われちゃいました……』
バジルさんが息を呑む音が聞こえた。
けれど、不意にぐっとあたしの両手を掴んで顔から引きはがす。
「沢田殿が、そう言ったんですか?」
『……車で、このまま実家に帰れって……もう、7号館には戻るなって……』
「そうではありません。」
目を逸らしながら答えるあたしに、バジルさんは少し強い口調で聞き返した。
「沢田殿は、本当に、柚子殿が必要ないと言ったんですか!?」
あたしは一瞬詰まった。
そんな直接的な言い方はされなかったけど、でも……
『だって……そういう意味じゃないですか……どう考えたって……あたし、』
「拙者は、違うと思いますよ。」
『けどツナさんはっ……ツナさんは、演技だったって…』
「本当に、その通りに言ったんですか?今までの沢田殿の気持ちが、全て演技だと言われましたか?」
---「……俺の演技力は、なかなかのモンだろ?」
……違う。
違う、けど………だったら、どういう意味なの?
暗号だとしても、あたしには分からない。
だってあたしは、本来マフィアに関わるハズじゃなかった一般人なんだもの。
「拙者は…柚子殿に対する沢田殿の気持ちは本物だと信じています。もちろん、ファミリーの皆さんも。」
『……どうして、あたしなんですか……あたしは、ただのフルート好きな大学生で、中学の時に偶然出会っただけで……』
「だからこそです。」
『え…?』
目を丸くするあたしに、バジルさんは優しく微笑む。
「偶然出会えたから、沢田殿は柚子殿を見つけた。この広い世界で、それは奇跡なんです。」
『奇跡…』
「二度と起こり得ない奇跡によって見つけた貴女を、沢田殿が手放すことなどあり得ないんですよ。なぜなら…」
あたしの両手を優しく握り、立ち上がらせて。
穏やかな笑みを絶やさぬまま、バジルさんは嬉しそうに告げた。
「貴女は、沢田殿の太陽なんですから。」
別の涙が、溢れた。
あぁ、いつだったか山本さんが言ってたっけ。
---「ツナの場合は……ほら、アレみたいなモンだって。1つの点から直線が四方八方に伸びる感じな!」
1つの点っていうのは、“伝えたいことの根源”。
ツナさんは、1つの気持ちを色んな言い方で表す人。
違った風に見える言葉たちも、元を辿れば同じハズ。
だとしたら、もしかして…
---「俺には一生、柚子だけだから。」
---「柚子は………可愛いな。」
---「柚子が逃げても、捕まえてやるから。」
---「好きだよ柚子……愛してる。」
---「何かあったらどーすんだよ…バカ柚子……」
あの言葉達と、
---「婚約者役も降りて良い。振り回されるの疲れたろ?」
あの言葉は、元を辿れば……同じ?
『………バジルさん、』
「はい。」
『お願いです、連れてって欲しいんです……』
あたしが行くべき場所は、何処なのか。
あたしがするべきことは、何なのか。
『ツナさんの所に、連れてって下さい…!!』
------
------------
「こんな所で高みの見物なんて、卑怯じゃないか?」
「来たんだね、綱吉君。」
「…その呼び方、やめろ。」
柚子が監禁されていた建物の隣にある、離れのバルコニーにて。
俺は敵のトップと対峙していた。
容姿だけじゃない、声色も、口調も、あの人に似ていた。
柚子の演奏を通して、俺の背中を押してくれたあの人に。
それが堪らなく腹立たしくて、俺は速攻を仕掛けた。
Xグローブに炎を灯し、一直線に突っ込む。
手始めに一発殴ってやろうと思った。
ガッ、
「ハハ、なめてもらっては困るよ。仮にも僕は、ボンゴレに喧嘩を売ったファミリーのトップなんだから。」
「くっ…」
1発目の拳はヤツが持っていた薙刀の柄に止められた。
すかさず下がった俺だが、直後に薙刀の刃が迫る。
「ボンゴレ10代目の綱吉君を討てば、僕らのファミリーは名をあげられる。」
「その口調で……喋るなっ!!」
薙刀を避けながら接近した俺は、ついにヤツを一発殴った。
その、次の瞬間だった。
ドシュッ、
「がっ……な、なに…?」
腹部に、痛みが走る。
俺は確かにヤツを殴り飛ばしたハズなのに、何故か背後から攻撃を受けていた。
「僕がこの男に成りきったのには、二つの理由がある。一つは牧之原柚子を容易に捕獲するため、もう一つは………」
刺さっていた薙刀が引き抜かれ、支えを失ったように倒れ込む。
そんな俺の胸倉を掴み、憎らしい笑みを見せながら、ヤツは言った。
「綱吉君、君がこうして怒り、我を忘れ、僕の幻覚に鈍感になるようにするためだよ。」
「なっ……!」
「君の超直感は厄介だからね。」
そういう、ことか……
柚子が言ってた“狙いは俺だ”っていう言葉の意味は、コレか……
「随分と調べたんだよ、綱吉君と牧之原柚子のことをね。君はこの顔の男に、多大な恩義を感じている。」
「…お前にじゃない……」
「だが、だからこそ僕との戦いに躊躇を抱き……僕に敗北する!!」
掴まれている胸倉を引っぱられ、俺はそのままバルコニーの柵に投げ飛ばされた。
「ぐあっ!!」
背中が打ちつけられた痛みに加え、最悪の事態が俺を襲う。
ギシ…ギギ……バキッ!
木製だったバルコニーの柵が、俺がぶつかった衝撃に耐えきれず、割れた。
------
-------------
『ここを真っ直ぐ行けば、離れの入り口があるハズです。』
「……柚子殿、本当に大丈夫ですか?拙者は、沢田殿同様、柚子殿を危険な目に合わせたくは……」
『大丈夫です。あたし、どうしてもツナさんの傍にいたいんです!バジルさんが止めても、ツナさんがダメって言っても、1人でも向かいます!!』
「柚子殿……分かりました。」
本館の1階廊下にて、バジルさんが残っていた敵を倒しながら誘導してくれていた。
けど、離れの入り口まであと数メートルという所で、屋外で交戦中だった敵グループの一部に見つかってしまう。
「あ、あの女…逃げやがったのか!!」
「捕えろ!!」
「くっ…柚子殿!先に離れの中へ!!」
『で、でもバジルさんっ…』
「拙者は後から参ります、早く!!」
『は…はいっ!ありがとうございます!』
離れに入ってすぐ、上の階からの物音に気付いた。
ツナさん……もしかして、ツナさんが戦ってるの…?
すぐに階段を探して、音のした方へ走り出す。
連続で駆け上がるのは息苦しかったけれど、力の限り走った。
一刻も早く、傍に行きたくて。
『(ツナさんっ…!どうか、どうか無事で…!!)』
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
あたしが弱虫すぎて、頭が足りなくて、
ツナさんの気持ちを疑って、ツナさんの決断を心変わりだと勘違いして。
本当にすごい演技ですよ、本当に突き放されたかと思いましたもん。
でもあたし、もう騙されませんから。
だってあたしも……
ツナさんのこと、大好きですから。
----
--------
バルコニーの柵が一部割れて、ツナは咄嗟に隣の柵を掴んだ。
片手だけで辛うじて落下を防いでいる状態。
バルコニーの下には、深い森が広がっていた。
「終わりだよ。諦めるんだ、綱吉君。」
薙刀で、ツナが掴んでいる柵の部分を破壊する男。
その隣の柵をツナが掴めば、また破壊する。
埒が明かないと考えたツナが、グローブの炎で上空に上がろうとすると…
「そうはさせないさ。」
「ぐっ…!」
柵を掴んでいたツナの手首を掴み、グローブを取り上げた。
「片手での炎の噴射は危険だろう?バランスが取れないからね。」
「お前…!」
次の瞬間、パッとツナの手を放す男。
落下しそうになったツナは、咄嗟にバルコニーの床部分に手をかける。
しかし、その手はすぐさま男の足に踏みつけられた。
「つぅっ…」
「さて、何分もつかな?」
「ぐああっ…!」
その靴の踵が、ツナの手の甲を抉り始めた、その時。
『ダメぇっ!!』
俺の視界から、突然ヤツが消えた。
誰かが体当たりして、ヤツは吹っ飛ばされたんだ。
まさか……どうして…
『ツナさんっ、大丈夫ですか!?』
「柚子……何で、お前…」
『いいから早く!掴まって下さい!!』
俺の手首を掴んで引き上げようとする柚子。
けど、俺にはその後ろで立ち上がる影が見えた。
「柚子!後ろ!!」
『えっ…』
「このアマ!!」
『きゃあっ!』
「柚子!!」
ヤツは躊躇いもなく柚子を薙刀の柄で払い飛ばし、本性を現す。
「邪魔をするな、一般人が。」
『うっ…』
「仕方ない、邪魔者から先に始末するか。」
「ま、待て!!」
何とか這い上がろうとする俺の目の前で、ヤツは柚子の首を掴んで持ち上げる。
『あ、ぐっ…』
「どうしてあげようか、柚子。」
「……せ…」
「ん?」
「柚子を…今すぐ放せ!!!」
バルコニーに上がってすぐ、俺はヤツに突っ込んでいく。
その薙刀が、柚子を切り裂くその前に。
その手が、柚子の息を止めるその前に。
3メートル程しか距離がなかったから、すぐに柚子を助けられる……ハズだった。
「さようなら。」
『あっ…』
ヤツは、柚子を柵の向こうに放った。
俺の中で、一瞬だけ時間が止まった。
非力に伸ばされた柚子の手は空を切り、
その唇は小さく動く。
“ツナさん…”と。
「柚子っ…」
次の瞬間、柚子は見えなくなった。
「さ、これで邪魔者は消え……」
「黙れ!!!!」
躊躇いなく、迷いなく、寸分の狂いもなく、俺は渾身の力でヤツを殴り飛ばした。
素早くグローブを取り返し、装着しながら飛び降りる。
「(居た…!)」
気を失って落下し続ける柚子は、あと数メートルで森の木々にぶつかる。
最大級の炎の加速で追い付き、引き寄せて抱きしめた。
なぁ、柚子、
俺はもう…柚子が無事ならそれでいいから。
だから………
ガサササ…
「くぅっ…!」
俺のために、もう無茶しないでくれ…
コルサ
走ってあなたの助けになれたら、それはきっと最上の幸せ
continue…
「ここを抜ければ車まですぐですから……柚子殿?」
『えっ…?』
「どうしたんですか!?何処か怪我を?痛むんですか!?」
『……あ、』
バジルさんの言葉に、初めてあたしは自分が涙を流していることに気付いた。
既に鎮圧済みの小部屋に入り、バジルさんはあたしを椅子に座らせる。
涙に気付いた瞬間、あたしは足を動かせなくなってしまったのだ。
「柚子殿、大丈夫ですか…?」
『うっ……ひぐっ…』
優しい言葉をかけられた途端に涙は激しさを増し、あたしは両手で顔を覆った。
そんなあたしの頭をバジルさんは優しく撫でる。
「泣いているだけでは分かりません…柚子殿、お話し下さい。」
『……ない、って……』
「?」
『…いらないって、言われちゃいました……』
バジルさんが息を呑む音が聞こえた。
けれど、不意にぐっとあたしの両手を掴んで顔から引きはがす。
「沢田殿が、そう言ったんですか?」
『……車で、このまま実家に帰れって……もう、7号館には戻るなって……』
「そうではありません。」
目を逸らしながら答えるあたしに、バジルさんは少し強い口調で聞き返した。
「沢田殿は、本当に、柚子殿が必要ないと言ったんですか!?」
あたしは一瞬詰まった。
そんな直接的な言い方はされなかったけど、でも……
『だって……そういう意味じゃないですか……どう考えたって……あたし、』
「拙者は、違うと思いますよ。」
『けどツナさんはっ……ツナさんは、演技だったって…』
「本当に、その通りに言ったんですか?今までの沢田殿の気持ちが、全て演技だと言われましたか?」
---「……俺の演技力は、なかなかのモンだろ?」
……違う。
違う、けど………だったら、どういう意味なの?
暗号だとしても、あたしには分からない。
だってあたしは、本来マフィアに関わるハズじゃなかった一般人なんだもの。
「拙者は…柚子殿に対する沢田殿の気持ちは本物だと信じています。もちろん、ファミリーの皆さんも。」
『……どうして、あたしなんですか……あたしは、ただのフルート好きな大学生で、中学の時に偶然出会っただけで……』
「だからこそです。」
『え…?』
目を丸くするあたしに、バジルさんは優しく微笑む。
「偶然出会えたから、沢田殿は柚子殿を見つけた。この広い世界で、それは奇跡なんです。」
『奇跡…』
「二度と起こり得ない奇跡によって見つけた貴女を、沢田殿が手放すことなどあり得ないんですよ。なぜなら…」
あたしの両手を優しく握り、立ち上がらせて。
穏やかな笑みを絶やさぬまま、バジルさんは嬉しそうに告げた。
「貴女は、沢田殿の太陽なんですから。」
別の涙が、溢れた。
あぁ、いつだったか山本さんが言ってたっけ。
---「ツナの場合は……ほら、アレみたいなモンだって。1つの点から直線が四方八方に伸びる感じな!」
1つの点っていうのは、“伝えたいことの根源”。
ツナさんは、1つの気持ちを色んな言い方で表す人。
違った風に見える言葉たちも、元を辿れば同じハズ。
だとしたら、もしかして…
---「俺には一生、柚子だけだから。」
---「柚子は………可愛いな。」
---「柚子が逃げても、捕まえてやるから。」
---「好きだよ柚子……愛してる。」
---「何かあったらどーすんだよ…バカ柚子……」
あの言葉達と、
---「婚約者役も降りて良い。振り回されるの疲れたろ?」
あの言葉は、元を辿れば……同じ?
『………バジルさん、』
「はい。」
『お願いです、連れてって欲しいんです……』
あたしが行くべき場所は、何処なのか。
あたしがするべきことは、何なのか。
『ツナさんの所に、連れてって下さい…!!』
------
------------
「こんな所で高みの見物なんて、卑怯じゃないか?」
「来たんだね、綱吉君。」
「…その呼び方、やめろ。」
柚子が監禁されていた建物の隣にある、離れのバルコニーにて。
俺は敵のトップと対峙していた。
容姿だけじゃない、声色も、口調も、あの人に似ていた。
柚子の演奏を通して、俺の背中を押してくれたあの人に。
それが堪らなく腹立たしくて、俺は速攻を仕掛けた。
Xグローブに炎を灯し、一直線に突っ込む。
手始めに一発殴ってやろうと思った。
ガッ、
「ハハ、なめてもらっては困るよ。仮にも僕は、ボンゴレに喧嘩を売ったファミリーのトップなんだから。」
「くっ…」
1発目の拳はヤツが持っていた薙刀の柄に止められた。
すかさず下がった俺だが、直後に薙刀の刃が迫る。
「ボンゴレ10代目の綱吉君を討てば、僕らのファミリーは名をあげられる。」
「その口調で……喋るなっ!!」
薙刀を避けながら接近した俺は、ついにヤツを一発殴った。
その、次の瞬間だった。
ドシュッ、
「がっ……な、なに…?」
腹部に、痛みが走る。
俺は確かにヤツを殴り飛ばしたハズなのに、何故か背後から攻撃を受けていた。
「僕がこの男に成りきったのには、二つの理由がある。一つは牧之原柚子を容易に捕獲するため、もう一つは………」
刺さっていた薙刀が引き抜かれ、支えを失ったように倒れ込む。
そんな俺の胸倉を掴み、憎らしい笑みを見せながら、ヤツは言った。
「綱吉君、君がこうして怒り、我を忘れ、僕の幻覚に鈍感になるようにするためだよ。」
「なっ……!」
「君の超直感は厄介だからね。」
そういう、ことか……
柚子が言ってた“狙いは俺だ”っていう言葉の意味は、コレか……
「随分と調べたんだよ、綱吉君と牧之原柚子のことをね。君はこの顔の男に、多大な恩義を感じている。」
「…お前にじゃない……」
「だが、だからこそ僕との戦いに躊躇を抱き……僕に敗北する!!」
掴まれている胸倉を引っぱられ、俺はそのままバルコニーの柵に投げ飛ばされた。
「ぐあっ!!」
背中が打ちつけられた痛みに加え、最悪の事態が俺を襲う。
ギシ…ギギ……バキッ!
木製だったバルコニーの柵が、俺がぶつかった衝撃に耐えきれず、割れた。
------
-------------
『ここを真っ直ぐ行けば、離れの入り口があるハズです。』
「……柚子殿、本当に大丈夫ですか?拙者は、沢田殿同様、柚子殿を危険な目に合わせたくは……」
『大丈夫です。あたし、どうしてもツナさんの傍にいたいんです!バジルさんが止めても、ツナさんがダメって言っても、1人でも向かいます!!』
「柚子殿……分かりました。」
本館の1階廊下にて、バジルさんが残っていた敵を倒しながら誘導してくれていた。
けど、離れの入り口まであと数メートルという所で、屋外で交戦中だった敵グループの一部に見つかってしまう。
「あ、あの女…逃げやがったのか!!」
「捕えろ!!」
「くっ…柚子殿!先に離れの中へ!!」
『で、でもバジルさんっ…』
「拙者は後から参ります、早く!!」
『は…はいっ!ありがとうございます!』
離れに入ってすぐ、上の階からの物音に気付いた。
ツナさん……もしかして、ツナさんが戦ってるの…?
すぐに階段を探して、音のした方へ走り出す。
連続で駆け上がるのは息苦しかったけれど、力の限り走った。
一刻も早く、傍に行きたくて。
『(ツナさんっ…!どうか、どうか無事で…!!)』
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
あたしが弱虫すぎて、頭が足りなくて、
ツナさんの気持ちを疑って、ツナさんの決断を心変わりだと勘違いして。
本当にすごい演技ですよ、本当に突き放されたかと思いましたもん。
でもあたし、もう騙されませんから。
だってあたしも……
ツナさんのこと、大好きですから。
----
--------
バルコニーの柵が一部割れて、ツナは咄嗟に隣の柵を掴んだ。
片手だけで辛うじて落下を防いでいる状態。
バルコニーの下には、深い森が広がっていた。
「終わりだよ。諦めるんだ、綱吉君。」
薙刀で、ツナが掴んでいる柵の部分を破壊する男。
その隣の柵をツナが掴めば、また破壊する。
埒が明かないと考えたツナが、グローブの炎で上空に上がろうとすると…
「そうはさせないさ。」
「ぐっ…!」
柵を掴んでいたツナの手首を掴み、グローブを取り上げた。
「片手での炎の噴射は危険だろう?バランスが取れないからね。」
「お前…!」
次の瞬間、パッとツナの手を放す男。
落下しそうになったツナは、咄嗟にバルコニーの床部分に手をかける。
しかし、その手はすぐさま男の足に踏みつけられた。
「つぅっ…」
「さて、何分もつかな?」
「ぐああっ…!」
その靴の踵が、ツナの手の甲を抉り始めた、その時。
『ダメぇっ!!』
俺の視界から、突然ヤツが消えた。
誰かが体当たりして、ヤツは吹っ飛ばされたんだ。
まさか……どうして…
『ツナさんっ、大丈夫ですか!?』
「柚子……何で、お前…」
『いいから早く!掴まって下さい!!』
俺の手首を掴んで引き上げようとする柚子。
けど、俺にはその後ろで立ち上がる影が見えた。
「柚子!後ろ!!」
『えっ…』
「このアマ!!」
『きゃあっ!』
「柚子!!」
ヤツは躊躇いもなく柚子を薙刀の柄で払い飛ばし、本性を現す。
「邪魔をするな、一般人が。」
『うっ…』
「仕方ない、邪魔者から先に始末するか。」
「ま、待て!!」
何とか這い上がろうとする俺の目の前で、ヤツは柚子の首を掴んで持ち上げる。
『あ、ぐっ…』
「どうしてあげようか、柚子。」
「……せ…」
「ん?」
「柚子を…今すぐ放せ!!!」
バルコニーに上がってすぐ、俺はヤツに突っ込んでいく。
その薙刀が、柚子を切り裂くその前に。
その手が、柚子の息を止めるその前に。
3メートル程しか距離がなかったから、すぐに柚子を助けられる……ハズだった。
「さようなら。」
『あっ…』
ヤツは、柚子を柵の向こうに放った。
俺の中で、一瞬だけ時間が止まった。
非力に伸ばされた柚子の手は空を切り、
その唇は小さく動く。
“ツナさん…”と。
「柚子っ…」
次の瞬間、柚子は見えなくなった。
「さ、これで邪魔者は消え……」
「黙れ!!!!」
躊躇いなく、迷いなく、寸分の狂いもなく、俺は渾身の力でヤツを殴り飛ばした。
素早くグローブを取り返し、装着しながら飛び降りる。
「(居た…!)」
気を失って落下し続ける柚子は、あと数メートルで森の木々にぶつかる。
最大級の炎の加速で追い付き、引き寄せて抱きしめた。
なぁ、柚子、
俺はもう…柚子が無事ならそれでいいから。
だから………
ガサササ…
「くぅっ…!」
俺のために、もう無茶しないでくれ…
コルサ
走ってあなたの助けになれたら、それはきっと最上の幸せ
continue…