🎼本編
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「エストラーネオ関係者…?」
「骸や城島犬、柿本千種が人体実験を受けたファミリーだな。お前が壊滅させたんじゃなかったのか?」
「考えられるとすれば、僕が始末した人間の子供たち……というところですね。ファミリーの復興を願っているのではないかと。」
骸は傷口を押さえながら立ち上がる。
未だ歯を食いしばったままのツナを見て、ため息をついた。
「綱吉、気休めではありませんが柚子が始末される可能性は低いですよ。向こうは必ず何らかの要求を出してきます。」
「……分かってる…」
「なら、ココにいても意味ないね。僕は帰る。」
雲雀はスタスタと足早に去ってしまった。
が、それは彼の常であるため、誰も引き止めようとはしなかった。
「俺達も帰るぞ、ツナ。」
「あぁ…」
その後、俺は獄寺君達に帰還するように連絡し、オペラ会場をあとにした。
案の定、会場内に柚子の姿はなかったらしく、
見つかったのは、連れ去られる時に柚子が落としたらしきカバンだけだった。
7号館に戻った後、骸が説明する。
「エストラーネオ関係者だとすれば、人体をいじる技術に長けてる上、僕の能力にも詳しくて当然です。」
「んなヤツらが何だってこんな時に……」
「ファミリー復興に最も手っ取り早い手段は、大きなファミリーを手中に収めることです。」
「では、ボンゴレでなくてもいいハズです!綿密に計画を練っていたとしたら、予め狙いを定めていたとしか……」
「考えられる理由は二つあります。」
バジルの疑問に、骸は冷静に答えた。
「1つは、かつてファミリーを壊滅させた僕がいること。ただの推測ですが、彼らは僕への復讐も兼ねていると考えられます。」
「で、もう1つは何だ?」
「柚子がボンゴレ10代目の婚約者だと正式発表されたのが、ついこの間だったということですよ。」
「なるほど、そのニュースでボンゴレの名を耳にしたってワケか。」
「……だったら、」
ツナがぼそりと小さく零したのを聞き、全員が視線を移す。
両肘を机についた状態で、手に額を乗せ俯いていたツナは、苦悩を漏らすように言う。
「柚子が狙われたのは、公式発表のせいってことだろ……それはっ…俺のせいじゃんか……!!」
「10代目…、」
「そんな塞ぎこむなって、ツナ。骸がいたファミリーの関係者だって分かってんだ、完全にこっちが不利ってワケじゃ……」
「けど!柚子の安全は保障されてないんだ!!」
ダンッと机を叩いて、ツナは立ち上がった。
苛立ちを何処に向けていいのか分からない彼に、リボーンと雲雀が厳しく一言。
「ツナ、お前ちょっと頭冷やして来い。」
「今の君は、冷静さを欠いてるよ。」
「…………分かった…」
こみ上げる怒りに似た感情を必死に抑え、ツナは大広間を退室する。
獄寺が後を追おうとしたが、リボーンが止めた。
「今は一人にしてやれ」と。
「沢田の言う通り、現時点では柚子の身の安全は保障されてないぞ。どうするのだ?」
「相手の出方を窺うのが得策かと。」
「チッ、要求を待てってのかよ!」
「居場所がわかんねーんじゃ、殴りこみってワケにもいかねーしな…」
---
------
-----------
---「柚子……柚子!!」
---『ツナさん…?』
必死にあたしを呼ぶツナさんの声に答えたら、ぼんやりとスーツ姿の人が現れた。
あ、ツナさんだ……
---『もー、ツナさんったら、またネクタイ曲がってますよ?』
---「柚子……ごめん…」
---『え…?』
ぎゅううっと抱きしめられた気がして、
だけど徐々に体感温度は下がってく。
あ、そっか……
コレ、夢なんだ……
じゃあ、あたしは今何処に……
『……ん…』
「気がついたね、柚子。」
目を開けてみると、見覚えのあるクセっ毛があって。
『お、父さ……?』
違う…違うよ……、
『だ、誰なの…!?』
「そうだね、僕自身は柚子とは初対面だ。」
あたしが座っている椅子から2メートルぐらいのトコに彼は立っていて、
咄嗟に距離を取ろうと、立ち上がろうとして、気付く。
手足が椅子に固定されている。
動かせるのは、首から上だけ。
椅子自体は固定されてなくて、あたしが暴れたら倒れてしまいそうだった。
『どうして…どうしてお父さんの顔…!』
「おや、死んだ父親との再会は、嬉しくないのかい?」
その顔は、娘のあたしが見ても間違えてしまうくらい、確かにお父さんの顔だった。
けれど、“お父さんの笑顔”じゃなかった。
どうしてこんなに瓜二つの人が、あたしのトコに……
「まぁいいさ、柚子が喜ぼうと喜ぶまいと、こちらの切り札になってくれさえすればね。」
『切り札……?ツナさ……ボンゴレに、何か恨みでも…』
「恨みというより、妬みだね。僕らの親が所属していたファミリーはかつて、たって1人の男により壊滅させられた。だから権力のある大ボンゴレが羨ましくてね。」
『何で、あたしを……』
「君は10代目の婚約者だろう?柚子。どうせ動くなら正式発表されてからにしようと思って、今まで息を潜めてたんだ。」
彼は終始笑顔なのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
正式発表って何?
この人、あたしを使ってツナさん呼び出す気、なの…?
色んな感情が全部涙腺を刺激して、
でも泣かないようにグッとこらえた。
「そう、お前は強い子だ……柚子。」
やめて、どうしてお父さんの顔を声を使うの?
「こんな所で泣けば、綱吉君を苦しめてしまうね。」
口調まで、似せないでよ。
「だから、少しだけ耐えような。」
『つぅっ…!』
次の瞬間、首元に痛みが走った。
彼が、あたしの首にナイフで傷を付けたのだ。
当然ながら、流れる赤。
それを彼は白いハンカチに滲ませた、
「安心していい、柚子のことは殺さないよ。」
実際付けられたのは小さい傷で、ガーゼを当てられる。
『それは……』
「僕らの、ボンゴレへの反抗声明さ。人質が本物であることも、これで証明できるだろう?」
あたしの血が滲んだハンカチは、ツナさんに送られるという。
やめて、やめてよ……
そんなことしたら、ツナさんが自分を責めちゃうじゃない…
悪いのはあたし。
お父さんにそっくりな人が現れて、心の中でパニックになってた。
だから捕まったの、自分のせいなの。
「大人しくしていれば、柚子は無事に帰れるよ。まだフルート奏者としての夢は、諦めたくないだろうしね。」
彼はそう言ってから、あたしの頭を一撫でして退室してしまった。
『(どう、しよ…)』
かつてない恐怖が、頭の中を駆け巡った。
フルートを諦めたくない。
けれどツナさんに迷惑なんてかけられない。
こんな状況で死ぬなんて……ヤダよ……
本能的に、身体中がカタカタと震える。
心臓がいつもの倍ぐらいのスピードで鼓動して、
涙を堪えるのも限界になった。
『(あたし……ずっと、守られてたんだ……)』
他でもない、ツナさんに。
ずっと、ずっと。
あたしが無茶しても、反発しても、傍にいてくれた。
好きって、言ってくれた……
『ふぇっ……ひぐっ…』
ごめんなさい、ごめんなさい、
今のあたしは、生きたいと願う権利もない。
死にたくないよ、
お母さんにお別れ言ってない。
でも、ツナさんを困らせたくない。
だって……好きなんだもの。
ツナさんが今まであたしを大事にしてくれたのと同じぐらい、
あたしも今ではツナさんを大事に想ってるんだもの。
うん、そうだよ……
泣いちゃダメだ。
あたしは………覚悟を決めなくちゃ。
---
-----
-----------
柚子が姿を消してからちょうど十時間後、並盛キャンパス7号館に一通の封筒が届いた。
差出人は不明、しかし……
「んだこりゃ!?」
「血のついたハンカチか……」
「柚子殿の血、でしょうか……沢田殿にもお伝えした方が?」
「わざわざ俺らが知らせなくても、伝わるんじゃねーか?」
疑問符を浮かべる獄寺とバジルに、リボーンは「広間に行ってテレビつけてみろ」と。
2人が広間に行くと、山本と了平がテレビに見入っていた。
「あ、獄寺にバジル…」
「これを見ろ!!」
「一体何が………!?」
次の瞬間、獄寺は絶句した。
バジルも目を見開いてその場に立ち尽くす。
そこに映っていたのは、薄暗いコンクリート部屋の真ん中にある椅子に縛られ座らされている柚子の姿。
猿ぐつわなどはされていないが、正面から柚子を撮っている人物が脅しているようで、黙ったまま俯いている。
「柚子…!」
-「僕らの目的は分かるね?ボンゴレの諸君。」
撮影をしているであろう男の声が流れる。
-「大事な彼女をこれ以上傷つけたくなければ……僕らエストラーネオの配下となるんだ。」
「柚子殿…!薬でも嗅がされているのでしょうか!?」
「脅されてると見て間違いねーな……喋らずにいろとでも言われてるんだろ。」
映像を凝視して、リボーンが言う。
-「この映像は衛星放送でボンゴレ関係の情報端末にしか流していない。たっぷり時間をあげるから、逆探知でも何でもするといい。」
「随分と余裕ではないか…この男…」
「柚子がいるから俺らは迂闊に手が出せねーって分かってんスね。」
了平と山本の会話を聞いてから、獄寺はハッとする。
「ボンゴレ関係の情報端末ってことは…10代目にも…!」
「ああ、伝わってるだろ。」
リボーンが獄寺に答えたと同時に、骸が大広間に入って来る。
「逆探知、終了しましたよ。」
「おお!極限に早いな!!」
「クフフ、僕の情報処理能力を甘く見ないで頂きたい。」
「で、何処だ!?」
「ココから西に12キロ、並盛山を越えた所にある洋館です。」
「なっ…そんなトコがあったのかよ……」
すると今度は雲雀が入室し、机の上にファイルを投げ置く。
「周辺地図と建物の見取り図。」
「さっすが雲雀だな!」
「これで柚子の救援に向かえるな!!」
山本が雲雀を褒め、了平が立ち上がった、その時。
-『……で…ださい…』
-「ん?何か言いたいことがあるのかな?柚子。」
画面の中、それまで俯き黙っていた柚子が、グッと顔を上げた。
-『あたしのことはもういいです…!いいですから……来ないで下さいっ…!!』
-「これはこれは、そんなこと言っても彼らは来るよ、僕の配下に堕ちるためにね。」
クスクスという男の嘲笑が聞こえる中、柚子は変わらず画面越しに呼び掛ける。
-『ツナさん!聞こえてますよね!?見てるんですよね!?』
-「無駄なことを…」
-『あたし、大丈夫ですから!何処も痛くないですしこんなビデオ、ただの脅しですから……だからっ…』
-「柚子、いい加減に……」
-『だからツナさん、来ないで下さいっ……こんなのに屈しちゃダメですっ…!』
-「黙れ!!!」
バシッ、
-『うっ…!』
前を向いて力強く訴え続ける柚子に、男はついに手を上げた。
右頬を殴られ項垂れる柚子だが、それでも言葉は紡ぎ続ける。
-『貴方もバカですね…ボンゴレ10代目のフィアンセなんて、いくらでも代わりはいるんですよ?』
-「何?」
-『あたし1人攫ったからって、勝った気になるのは早いんじゃないですか?』
-「フッ…ハハハハ!!聞いたかねボンゴレ諸君!柚子は君らの為ならフルートを捨てるそうだ!柚子、それ以上何か言うと指を順番に折っていくからね?」
さすがに恐怖したのか、柚子は思わず口をつぐむ。
そこで映像は途切れ、テレビにはまた普通のCMが流れ始めた。
それは、ツナの部屋でも同じだった。
「柚子……」
俺を、ボンゴレの名誉を守るために…あんな風に強がって……
何で俺達が守られてんだ。
柚子を守らねーといけないのは、俺なのに。
「ごめんな、柚子…」
一瞬だけ見えた、柚子の首元にあった傷。
オペラに行く時には無かったから、きっとあの男に付けられたんだろう。
許せねぇ、許せねぇよ。
柚子を傷つけた男も、
柚子を守り通せなかった自分も。
だから、俺は……
コンコン、
「10代目、宜しいですか?」
「獄寺君?」
「今の放送を骸が逆探知して敵のアジトを特定しました。雲雀が出した見取り図で作戦も立てられます。」
「分かった、すぐ行く。」
俺はスーツの上着を手に取り、部屋のドアを開けた。
不思議と心は落ち着いていて、覚悟もしっかりと出来た。
「さっきは取り乱して…ごめん。」
「いえ!俺は全然気にしてませんし!」
「俺はちょっとカチンと来たぞ。」
「悪かったよ、リボーン。」
獄寺君と一緒に待ってたリボーンには文句を言われたけど、とにかく俺は柚子奪還作戦を立てるために広間に向かった。
もう…これで最後にする。
もう二度と、柚子をこんな目に合わせたりしない。
そう、固く固く誓って。
シニカル
彼の嘲笑は怖かったけど、ツナさんを苦しめてしまう方がもっとずっと怖いと思った
continue...
「骸や城島犬、柿本千種が人体実験を受けたファミリーだな。お前が壊滅させたんじゃなかったのか?」
「考えられるとすれば、僕が始末した人間の子供たち……というところですね。ファミリーの復興を願っているのではないかと。」
骸は傷口を押さえながら立ち上がる。
未だ歯を食いしばったままのツナを見て、ため息をついた。
「綱吉、気休めではありませんが柚子が始末される可能性は低いですよ。向こうは必ず何らかの要求を出してきます。」
「……分かってる…」
「なら、ココにいても意味ないね。僕は帰る。」
雲雀はスタスタと足早に去ってしまった。
が、それは彼の常であるため、誰も引き止めようとはしなかった。
「俺達も帰るぞ、ツナ。」
「あぁ…」
その後、俺は獄寺君達に帰還するように連絡し、オペラ会場をあとにした。
案の定、会場内に柚子の姿はなかったらしく、
見つかったのは、連れ去られる時に柚子が落としたらしきカバンだけだった。
7号館に戻った後、骸が説明する。
「エストラーネオ関係者だとすれば、人体をいじる技術に長けてる上、僕の能力にも詳しくて当然です。」
「んなヤツらが何だってこんな時に……」
「ファミリー復興に最も手っ取り早い手段は、大きなファミリーを手中に収めることです。」
「では、ボンゴレでなくてもいいハズです!綿密に計画を練っていたとしたら、予め狙いを定めていたとしか……」
「考えられる理由は二つあります。」
バジルの疑問に、骸は冷静に答えた。
「1つは、かつてファミリーを壊滅させた僕がいること。ただの推測ですが、彼らは僕への復讐も兼ねていると考えられます。」
「で、もう1つは何だ?」
「柚子がボンゴレ10代目の婚約者だと正式発表されたのが、ついこの間だったということですよ。」
「なるほど、そのニュースでボンゴレの名を耳にしたってワケか。」
「……だったら、」
ツナがぼそりと小さく零したのを聞き、全員が視線を移す。
両肘を机についた状態で、手に額を乗せ俯いていたツナは、苦悩を漏らすように言う。
「柚子が狙われたのは、公式発表のせいってことだろ……それはっ…俺のせいじゃんか……!!」
「10代目…、」
「そんな塞ぎこむなって、ツナ。骸がいたファミリーの関係者だって分かってんだ、完全にこっちが不利ってワケじゃ……」
「けど!柚子の安全は保障されてないんだ!!」
ダンッと机を叩いて、ツナは立ち上がった。
苛立ちを何処に向けていいのか分からない彼に、リボーンと雲雀が厳しく一言。
「ツナ、お前ちょっと頭冷やして来い。」
「今の君は、冷静さを欠いてるよ。」
「…………分かった…」
こみ上げる怒りに似た感情を必死に抑え、ツナは大広間を退室する。
獄寺が後を追おうとしたが、リボーンが止めた。
「今は一人にしてやれ」と。
「沢田の言う通り、現時点では柚子の身の安全は保障されてないぞ。どうするのだ?」
「相手の出方を窺うのが得策かと。」
「チッ、要求を待てってのかよ!」
「居場所がわかんねーんじゃ、殴りこみってワケにもいかねーしな…」
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---「柚子……柚子!!」
---『ツナさん…?』
必死にあたしを呼ぶツナさんの声に答えたら、ぼんやりとスーツ姿の人が現れた。
あ、ツナさんだ……
---『もー、ツナさんったら、またネクタイ曲がってますよ?』
---「柚子……ごめん…」
---『え…?』
ぎゅううっと抱きしめられた気がして、
だけど徐々に体感温度は下がってく。
あ、そっか……
コレ、夢なんだ……
じゃあ、あたしは今何処に……
『……ん…』
「気がついたね、柚子。」
目を開けてみると、見覚えのあるクセっ毛があって。
『お、父さ……?』
違う…違うよ……、
『だ、誰なの…!?』
「そうだね、僕自身は柚子とは初対面だ。」
あたしが座っている椅子から2メートルぐらいのトコに彼は立っていて、
咄嗟に距離を取ろうと、立ち上がろうとして、気付く。
手足が椅子に固定されている。
動かせるのは、首から上だけ。
椅子自体は固定されてなくて、あたしが暴れたら倒れてしまいそうだった。
『どうして…どうしてお父さんの顔…!』
「おや、死んだ父親との再会は、嬉しくないのかい?」
その顔は、娘のあたしが見ても間違えてしまうくらい、確かにお父さんの顔だった。
けれど、“お父さんの笑顔”じゃなかった。
どうしてこんなに瓜二つの人が、あたしのトコに……
「まぁいいさ、柚子が喜ぼうと喜ぶまいと、こちらの切り札になってくれさえすればね。」
『切り札……?ツナさ……ボンゴレに、何か恨みでも…』
「恨みというより、妬みだね。僕らの親が所属していたファミリーはかつて、たって1人の男により壊滅させられた。だから権力のある大ボンゴレが羨ましくてね。」
『何で、あたしを……』
「君は10代目の婚約者だろう?柚子。どうせ動くなら正式発表されてからにしようと思って、今まで息を潜めてたんだ。」
彼は終始笑顔なのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
正式発表って何?
この人、あたしを使ってツナさん呼び出す気、なの…?
色んな感情が全部涙腺を刺激して、
でも泣かないようにグッとこらえた。
「そう、お前は強い子だ……柚子。」
やめて、どうしてお父さんの顔を声を使うの?
「こんな所で泣けば、綱吉君を苦しめてしまうね。」
口調まで、似せないでよ。
「だから、少しだけ耐えような。」
『つぅっ…!』
次の瞬間、首元に痛みが走った。
彼が、あたしの首にナイフで傷を付けたのだ。
当然ながら、流れる赤。
それを彼は白いハンカチに滲ませた、
「安心していい、柚子のことは殺さないよ。」
実際付けられたのは小さい傷で、ガーゼを当てられる。
『それは……』
「僕らの、ボンゴレへの反抗声明さ。人質が本物であることも、これで証明できるだろう?」
あたしの血が滲んだハンカチは、ツナさんに送られるという。
やめて、やめてよ……
そんなことしたら、ツナさんが自分を責めちゃうじゃない…
悪いのはあたし。
お父さんにそっくりな人が現れて、心の中でパニックになってた。
だから捕まったの、自分のせいなの。
「大人しくしていれば、柚子は無事に帰れるよ。まだフルート奏者としての夢は、諦めたくないだろうしね。」
彼はそう言ってから、あたしの頭を一撫でして退室してしまった。
『(どう、しよ…)』
かつてない恐怖が、頭の中を駆け巡った。
フルートを諦めたくない。
けれどツナさんに迷惑なんてかけられない。
こんな状況で死ぬなんて……ヤダよ……
本能的に、身体中がカタカタと震える。
心臓がいつもの倍ぐらいのスピードで鼓動して、
涙を堪えるのも限界になった。
『(あたし……ずっと、守られてたんだ……)』
他でもない、ツナさんに。
ずっと、ずっと。
あたしが無茶しても、反発しても、傍にいてくれた。
好きって、言ってくれた……
『ふぇっ……ひぐっ…』
ごめんなさい、ごめんなさい、
今のあたしは、生きたいと願う権利もない。
死にたくないよ、
お母さんにお別れ言ってない。
でも、ツナさんを困らせたくない。
だって……好きなんだもの。
ツナさんが今まであたしを大事にしてくれたのと同じぐらい、
あたしも今ではツナさんを大事に想ってるんだもの。
うん、そうだよ……
泣いちゃダメだ。
あたしは………覚悟を決めなくちゃ。
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柚子が姿を消してからちょうど十時間後、並盛キャンパス7号館に一通の封筒が届いた。
差出人は不明、しかし……
「んだこりゃ!?」
「血のついたハンカチか……」
「柚子殿の血、でしょうか……沢田殿にもお伝えした方が?」
「わざわざ俺らが知らせなくても、伝わるんじゃねーか?」
疑問符を浮かべる獄寺とバジルに、リボーンは「広間に行ってテレビつけてみろ」と。
2人が広間に行くと、山本と了平がテレビに見入っていた。
「あ、獄寺にバジル…」
「これを見ろ!!」
「一体何が………!?」
次の瞬間、獄寺は絶句した。
バジルも目を見開いてその場に立ち尽くす。
そこに映っていたのは、薄暗いコンクリート部屋の真ん中にある椅子に縛られ座らされている柚子の姿。
猿ぐつわなどはされていないが、正面から柚子を撮っている人物が脅しているようで、黙ったまま俯いている。
「柚子…!」
-「僕らの目的は分かるね?ボンゴレの諸君。」
撮影をしているであろう男の声が流れる。
-「大事な彼女をこれ以上傷つけたくなければ……僕らエストラーネオの配下となるんだ。」
「柚子殿…!薬でも嗅がされているのでしょうか!?」
「脅されてると見て間違いねーな……喋らずにいろとでも言われてるんだろ。」
映像を凝視して、リボーンが言う。
-「この映像は衛星放送でボンゴレ関係の情報端末にしか流していない。たっぷり時間をあげるから、逆探知でも何でもするといい。」
「随分と余裕ではないか…この男…」
「柚子がいるから俺らは迂闊に手が出せねーって分かってんスね。」
了平と山本の会話を聞いてから、獄寺はハッとする。
「ボンゴレ関係の情報端末ってことは…10代目にも…!」
「ああ、伝わってるだろ。」
リボーンが獄寺に答えたと同時に、骸が大広間に入って来る。
「逆探知、終了しましたよ。」
「おお!極限に早いな!!」
「クフフ、僕の情報処理能力を甘く見ないで頂きたい。」
「で、何処だ!?」
「ココから西に12キロ、並盛山を越えた所にある洋館です。」
「なっ…そんなトコがあったのかよ……」
すると今度は雲雀が入室し、机の上にファイルを投げ置く。
「周辺地図と建物の見取り図。」
「さっすが雲雀だな!」
「これで柚子の救援に向かえるな!!」
山本が雲雀を褒め、了平が立ち上がった、その時。
-『……で…ださい…』
-「ん?何か言いたいことがあるのかな?柚子。」
画面の中、それまで俯き黙っていた柚子が、グッと顔を上げた。
-『あたしのことはもういいです…!いいですから……来ないで下さいっ…!!』
-「これはこれは、そんなこと言っても彼らは来るよ、僕の配下に堕ちるためにね。」
クスクスという男の嘲笑が聞こえる中、柚子は変わらず画面越しに呼び掛ける。
-『ツナさん!聞こえてますよね!?見てるんですよね!?』
-「無駄なことを…」
-『あたし、大丈夫ですから!何処も痛くないですしこんなビデオ、ただの脅しですから……だからっ…』
-「柚子、いい加減に……」
-『だからツナさん、来ないで下さいっ……こんなのに屈しちゃダメですっ…!』
-「黙れ!!!」
バシッ、
-『うっ…!』
前を向いて力強く訴え続ける柚子に、男はついに手を上げた。
右頬を殴られ項垂れる柚子だが、それでも言葉は紡ぎ続ける。
-『貴方もバカですね…ボンゴレ10代目のフィアンセなんて、いくらでも代わりはいるんですよ?』
-「何?」
-『あたし1人攫ったからって、勝った気になるのは早いんじゃないですか?』
-「フッ…ハハハハ!!聞いたかねボンゴレ諸君!柚子は君らの為ならフルートを捨てるそうだ!柚子、それ以上何か言うと指を順番に折っていくからね?」
さすがに恐怖したのか、柚子は思わず口をつぐむ。
そこで映像は途切れ、テレビにはまた普通のCMが流れ始めた。
それは、ツナの部屋でも同じだった。
「柚子……」
俺を、ボンゴレの名誉を守るために…あんな風に強がって……
何で俺達が守られてんだ。
柚子を守らねーといけないのは、俺なのに。
「ごめんな、柚子…」
一瞬だけ見えた、柚子の首元にあった傷。
オペラに行く時には無かったから、きっとあの男に付けられたんだろう。
許せねぇ、許せねぇよ。
柚子を傷つけた男も、
柚子を守り通せなかった自分も。
だから、俺は……
コンコン、
「10代目、宜しいですか?」
「獄寺君?」
「今の放送を骸が逆探知して敵のアジトを特定しました。雲雀が出した見取り図で作戦も立てられます。」
「分かった、すぐ行く。」
俺はスーツの上着を手に取り、部屋のドアを開けた。
不思議と心は落ち着いていて、覚悟もしっかりと出来た。
「さっきは取り乱して…ごめん。」
「いえ!俺は全然気にしてませんし!」
「俺はちょっとカチンと来たぞ。」
「悪かったよ、リボーン。」
獄寺君と一緒に待ってたリボーンには文句を言われたけど、とにかく俺は柚子奪還作戦を立てるために広間に向かった。
もう…これで最後にする。
もう二度と、柚子をこんな目に合わせたりしない。
そう、固く固く誓って。
シニカル
彼の嘲笑は怖かったけど、ツナさんを苦しめてしまう方がもっとずっと怖いと思った
continue...