🎼本編
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「柚子は無事なのか?」
「ああ。柚子に怪我はないみたいだ。」
「ってことは骸が!?」
驚く獄寺にツナは小さく頷く。
会場は、未だパニックに包まれており、不規則な人の波がツナ達を囲む。
今すぐ柚子と骸の元へ向かうには、まだ時間がかかりそうだった。
「沢田殿、もしもコレが“彼ら”の仕業だとしたら……」
「充分ありうるぞ。だが骸がついてるなら簡単には危害は与えられねーハズだ。柚子も、自ら傍を離れるようなバカでもねーしな。」
「リボーン……そうだよな、大丈夫だ。」
グッと拳を握りしめ、ツナは自分にもそう言い聞かせた。
胸の内から湧き起こる不安を、無理やり拭い去るかの如く。
---
------
-----------
『骸さん……大丈夫、ですか…?』
「クフフ…柚子には……僕が、そんなに軟弱に…見えますか?」
『そ、そうじゃありません…!だって、血が……』
骸さんの右肩の怪我、未だに血が止まらない。
じわじわと、ゆっくりと、赤いシミが広がって行く。
「柚子の涙も…止まりませんねぇ……」
『そんなの…どうでもいいです!』
「脱水症状に、なってしまいますよ…?」
冗談言ってる場合じゃないのに……
早く…早くもっとちゃんとした手当しないと、骸さんが……
ツナさん…お願いですから……早く来て…
その時、また近くの壁が倒壊した。
男子トイレの方だった。
「柚子、こちらへ。」
『へっ?………きゃっ、』
骸さんの左腕に抱き寄せられて、視界が真っ暗になる。
少しだけ鼻を通る、砂煙の臭い。
骸さんが小さく咳き込む音も聞こえて、あたしはようやく気付く。
また、助けられてるのだと。
『骸さん、あたし大丈夫ですから…』
「もう少し待って下さい…この空気は、柚子の喉には良くない。」
『だったら骸さんの喉にも良くないです…!』
「僕は大丈夫です、慣れてますから。」
しばらくすると、骸さんはあたしを解放して穏やかな笑みを見せる。
あたしがいつまでもメソメソしてるから……元気づけてくれてるの、かな…
『ありがとう、ございます…』
「どうしました?急に礼など言って…」
『庇ってもらったお礼…まだ、言ってなかったので……あの、本当に…ありがとうございます。』
「…いいんですよ、可愛い柚子のためです。」
クフフと笑う骸さんは、優しくあたしの頭を撫でた。
君が無事なら何よりです、と。
『そう言えば、さっきの倒壊…』
「男子トイレ側でしたね……向こうの壁にも、亀裂が入っていたんでしょう。」
そこで、あたしは思い出す。
確か、男性用トイレの方には……!
「柚子?」
『あっ…』
ふと、瓦礫の中に人影を見つけた。
下半身を大きな瓦礫の下敷きにされた、その人は……
『う、うそ…』
「柚子、どうかしたんですか?」
巻き込まれないでと願っていたのに、
無事でいて欲しかったのに、
あそこに倒れているのは……
見間違えるハズの無い、色素の薄いくせっ毛。
黒縁メガネには、ヒビが入ってて。
『お……お父さん…』
「(柚子の父親…?綱吉の話では、既にこの世にはいないハズ…)」
『いやっ……いやあああ!!お父さんっ…お父さんっ!!!』
「柚子、落ち着きなさい。君の父親はもう…!」
『だって骸さん、あの人はっ……あたしが見間違えるワケないです!!あそこに倒れてる!見て下さいっ…あたしと同じ…髪の毛のっ……』
「柚子!!」
倒れている彼の方を向いていたあたしの顔を、左手だけで正面に戻す骸さん。
もう一度見ようとしても、骸さんの手が邪魔をする。
そのままあたしの手を握り、骸さんは優しく諭した。
「いいですか……君の父親は、5年前に他界している……そうですよね?」
そう…そんなこと、分かってる。
けれど、あんなに似てる人、他にいないの。
その人が瓦礫の下敷きになって、気絶してるのに……
「倒れているのは、父親ではありません。分かってますね?」
『……はい…』
「綱吉達が来れば、必ず彼も救助されます。ですから今は…」
『あの瓦礫……退かしてあげたいんです……下敷きになってるのは、痛いでしょうから…』
「柚子…」
骸さんは、困ったようにあたしを見た。
その視線から逃げるように、あたしは俯く。
「…柚子の腕力では、無理です。」
『出来ます…!あたしが、彼を助けます。』
「綱吉に言われたでしょう。ココを動くな、と。」
『すぐそこですから、大丈夫ですっ…!』
ぎゅっと目をつぶって、頼みこむ。
骸さんを困らせてるのは、重々承知の上だった。
それでも…
『お願いです……あたしはっ…もう、つらそうな“あの顔”を見たくないんです……』
「…柚子……分かりました。ただし、僕に肩を貸して下さい。」
『えっ、でも骸さんは怪我して…』
「君の傍を、離れるワケにはいきませんから。僕も一緒に、あちらへ向かいます。」
『す、すみません…』
出血が止まり始めたとは言え、骸さんの顔色はいつもより少し悪かった。
本当は怪我人を動かしちゃいけないけれど……
「心配いりませんよ、僕は大丈夫です。」
『……帰ったら…あたし、ちゃんと看病します……』
「クフフ、それは嬉しいですねぇ。」
あたしは骸さんを支えながら、倒壊した男性用トイレの方へ歩く。
両足が瓦礫の下敷きになったその人は、気を失ったままうつ伏せに倒れていた。
『だ、大丈夫ですか…?』
返事は無い。
起き上がる気配も無い。
見れば見るほどそっくりで、双子なんじゃないかと思うくらい瓜二つで、何だか複雑な気持ちになる。
「柚子、瓦礫を退かすんでしょう?」
『あ、はい…』
後ろから、女性達のすすり泣く声が聞こえる。
トイレに並んでた人達が、固まって震えてるんだ…。
「下手に動かしては彼の足を傷つけてしまう、まずは……この瓦礫の形状を……!!?」
『骸さん?』
あたしの後ろでゆっくりとしゃがんだ骸さんのセリフが途切れ、不思議に思う。
どうしたのかと振り向いて、信じられなくて絶句した。
骸さんを背後から拘束していたのは、すすり泣いていたハズの女性達。
6、7人が束になって骸さんを捕えていた。
『な、何してるんですか!?この人は…』
「柚子、逃げなさい!」
『えっ!?』
「……仕方ない…」
突然の展開に混乱していたあたしに、女性達の手が伸びる。
何で…どうしてこの人達が、骸さんとあたしを…!?
混乱するあたしの頭の中に、一瞬だけ強烈な“何か”が押し寄せて……
次の瞬間、あたしは骸さんに手を引かれて走っていた。
『む、骸さんっ!?大丈夫なんですか!?怪我…』
「僕のことは気にせず、今は走るんです!!」
辺りには、さっきまでいたハズの女性達も、お父さんにそっくりな男性もいなくて、空っぽになった会場の廊下を、2人で走る。
何コレ…どういうこと…??
「いいですか柚子、このまま綱吉の近くまで連れて行きます。僕の姿が消えても、走り続けること、約束して下さい。」
『何…言ってるんですか…?骸さんが消える…?』
「説明してる時間はありません……約束、守ってくれますね?」
あたしの手を引きながら骸さんが見せた微笑は、何処かつらそうで。
絶対に放すもんかと手に力を込めたけど、その感触が薄らいでいく。
と、その時。
「なっ…!」
『骸さん?』
「く……ここまで追って来るとは……一体…」
「見つけたぜ、ボンゴレ10代目のお姫さん。」
骸さんの姿が消えかける中、後ろからもう1つの足音。
本能が、振り向いてはダメだと警告する。
けど、骸さんが完全に消えちゃったら……どうすればいいの?
あたし…1人でココを走り続けるの?
「柚子…走って下さい、あと少しですから…!」
『骸さんっ…!!』
サラサラと霧のように消えていく骸さんに、泣きそうになりながらも走り続けた。
足を止めちゃダメ、振り向いちゃダメ。
ツナさん……ツナさんは何処っ…!?
その瞬間、あたしの目の前にツナさんの姿が小さく見えた。
同時に、それまで誰もいなかった廊下に、大勢の観客が現れて。
『きゃあっ…』
どうやらあたしは、人の流れと逆方向に進んでいたようだ。
それでも見えた。
人波の中に、ツナさんの姿…!
『ツナさ………ふぐっ!!?』
「やっと見つけた。」
呼びかけようとした瞬間に、後ろから誰かに口を塞がれた。
“見つけた”と呟いたその声は、聞き間違えるハズがない……お父さんの声。
『(うそ……)』
「こっちは危ない、出口に向かおう。」
横目で見れば、そこには確かにお父さんの顔があって。
永遠の眠りについたあの日のまま、ちっとも変わってなくて。
『(……ううん、待って…)』
---「君の父親は、5年前に他界している……そうですよね?」
…そう、いるワケがないんだ。
そっくりな人がいたとして、あたしを知ってるワケがないんだ。
『んー!んーっ!!!』
気付いて抵抗し始めた時には、もう遅かった。
「非力な者が無闇に抵抗してはいけないよ。」
『(…意識、が……)』
そのまま薬を吸わされて、深い眠りの中に落とされた。
---
-------
「……柚子…?」
「いたのか?」
「今、声が……」
柚子が男に捕まった20メートル程向こうで、ツナは何かを感じ取った。
しかし、背伸びをしても柚子の姿は見えない。
「あと少しでトイレ前に着くようですが……」
「こうも観客がごった返してると暑苦しいっスね…」
「……しょーがねーな、」
リボーンは銃を取り出し、天井に向かって三発撃った。
辺りはざわめき、ツナ達を中心にバッと人が円を作る。
どうやら爆弾犯だと思ったらしい。
「道を開けねーと殺すぞ、てめーら。」
極めつけの一言は抜群に作用し、観客は慌てて叫びながら道を開けた。
脅しの一環として、山本、獄寺、バジルに雲雀も武器をそれぞれ取り出して。
「行くぞ、おめーら。柚子と骸を探すんだ。」
「ああ!」
「はい!」
「おお!」
柚子から電話があったトイレ前に向かう。
しかしそこに広がっていた光景を見て、ツナ達は絶句した。
「骸…!?」
「柚子は……そちらに行きましたか…?」
「なっ…お前と一緒じゃなかったのか!!?」
そこにいたのは、怯えるように蹲っている女性達と、疲弊し壁に寄りかかりながら座っている骸。
ただ、ツナの言葉を聞いて骸の方も目を丸くした。
「御覧の通り、ココに入る全ての人間が柚子と僕を捕えようとしましてね……手負いの僕が幻覚で足止めし、柚子だけ逃がしたのですが……」
「じゃあ柚子は、何処に…!?」
「すれ違ってはいねーぞ。客席からココまで、廊下は一本道だったしな…」
「と、いうことは…柚子殿は…!!」
ダンッ…!!
壁を打ち砕くような勢いで、ツナが拳を叩きつける。
歯を食いしばり、俯いたまま指示を出した。
「山本……了平さん……外、見て来て下さい……」
「オッケ!」
「極限任せろ!」
「獄寺君とバジルは…会場内を……」
「はい!」
「見て参ります!!」
4人がそれぞれ向かったのを見送り、リボーンが骸に問う。
「お前が幻覚で足止めしたなら、柚子は無事なハズだぞ。」
「……それが…たった一人、僕の幻覚世界に入って来た者がいましてね…」
「おめーの幻覚を突き破ったのか?」
「僕は確かに綱吉の近くまで柚子を誘導しました。しかし……その男が幻覚を破り、現実の世界で柚子に追いついたとすれば……」
骸の表情が強張る。
「手負いとは言え、不覚でした……」
「ねぇ、」
それまで黙っていた雲雀が口を開き、骸はそちらを向いた。
「…何か?」
「君のことだから、心当たりあるんでしょ。幻覚を破った男に。」
「本当なのか!?骸…!!」
食いつくように反応したツナに、骸は「ええ…」と一言。
「まず、彼は柚子の父親の顔を正確に再現していました。幻術ではなく、恐らく整形で。」
「随分手の込んだことしやがるな…」
「人体をいじる技術がある、ってことか…。」
「且つ、そもそも僕の幻術能力は、人体実験で地獄界より得た力……掻い潜れる人間は限られている……」
「その2つの条件を満たすヤツらか。」
「そうです。つまり、人体実験に長け、僕の能力に詳しい組織………柚子を誘拐したのは、エストラーネオ関係者です。」
スタッカート
弾くように目まぐるしく、悲劇の音色は紡がれる
continue...
「ああ。柚子に怪我はないみたいだ。」
「ってことは骸が!?」
驚く獄寺にツナは小さく頷く。
会場は、未だパニックに包まれており、不規則な人の波がツナ達を囲む。
今すぐ柚子と骸の元へ向かうには、まだ時間がかかりそうだった。
「沢田殿、もしもコレが“彼ら”の仕業だとしたら……」
「充分ありうるぞ。だが骸がついてるなら簡単には危害は与えられねーハズだ。柚子も、自ら傍を離れるようなバカでもねーしな。」
「リボーン……そうだよな、大丈夫だ。」
グッと拳を握りしめ、ツナは自分にもそう言い聞かせた。
胸の内から湧き起こる不安を、無理やり拭い去るかの如く。
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『骸さん……大丈夫、ですか…?』
「クフフ…柚子には……僕が、そんなに軟弱に…見えますか?」
『そ、そうじゃありません…!だって、血が……』
骸さんの右肩の怪我、未だに血が止まらない。
じわじわと、ゆっくりと、赤いシミが広がって行く。
「柚子の涙も…止まりませんねぇ……」
『そんなの…どうでもいいです!』
「脱水症状に、なってしまいますよ…?」
冗談言ってる場合じゃないのに……
早く…早くもっとちゃんとした手当しないと、骸さんが……
ツナさん…お願いですから……早く来て…
その時、また近くの壁が倒壊した。
男子トイレの方だった。
「柚子、こちらへ。」
『へっ?………きゃっ、』
骸さんの左腕に抱き寄せられて、視界が真っ暗になる。
少しだけ鼻を通る、砂煙の臭い。
骸さんが小さく咳き込む音も聞こえて、あたしはようやく気付く。
また、助けられてるのだと。
『骸さん、あたし大丈夫ですから…』
「もう少し待って下さい…この空気は、柚子の喉には良くない。」
『だったら骸さんの喉にも良くないです…!』
「僕は大丈夫です、慣れてますから。」
しばらくすると、骸さんはあたしを解放して穏やかな笑みを見せる。
あたしがいつまでもメソメソしてるから……元気づけてくれてるの、かな…
『ありがとう、ございます…』
「どうしました?急に礼など言って…」
『庇ってもらったお礼…まだ、言ってなかったので……あの、本当に…ありがとうございます。』
「…いいんですよ、可愛い柚子のためです。」
クフフと笑う骸さんは、優しくあたしの頭を撫でた。
君が無事なら何よりです、と。
『そう言えば、さっきの倒壊…』
「男子トイレ側でしたね……向こうの壁にも、亀裂が入っていたんでしょう。」
そこで、あたしは思い出す。
確か、男性用トイレの方には……!
「柚子?」
『あっ…』
ふと、瓦礫の中に人影を見つけた。
下半身を大きな瓦礫の下敷きにされた、その人は……
『う、うそ…』
「柚子、どうかしたんですか?」
巻き込まれないでと願っていたのに、
無事でいて欲しかったのに、
あそこに倒れているのは……
見間違えるハズの無い、色素の薄いくせっ毛。
黒縁メガネには、ヒビが入ってて。
『お……お父さん…』
「(柚子の父親…?綱吉の話では、既にこの世にはいないハズ…)」
『いやっ……いやあああ!!お父さんっ…お父さんっ!!!』
「柚子、落ち着きなさい。君の父親はもう…!」
『だって骸さん、あの人はっ……あたしが見間違えるワケないです!!あそこに倒れてる!見て下さいっ…あたしと同じ…髪の毛のっ……』
「柚子!!」
倒れている彼の方を向いていたあたしの顔を、左手だけで正面に戻す骸さん。
もう一度見ようとしても、骸さんの手が邪魔をする。
そのままあたしの手を握り、骸さんは優しく諭した。
「いいですか……君の父親は、5年前に他界している……そうですよね?」
そう…そんなこと、分かってる。
けれど、あんなに似てる人、他にいないの。
その人が瓦礫の下敷きになって、気絶してるのに……
「倒れているのは、父親ではありません。分かってますね?」
『……はい…』
「綱吉達が来れば、必ず彼も救助されます。ですから今は…」
『あの瓦礫……退かしてあげたいんです……下敷きになってるのは、痛いでしょうから…』
「柚子…」
骸さんは、困ったようにあたしを見た。
その視線から逃げるように、あたしは俯く。
「…柚子の腕力では、無理です。」
『出来ます…!あたしが、彼を助けます。』
「綱吉に言われたでしょう。ココを動くな、と。」
『すぐそこですから、大丈夫ですっ…!』
ぎゅっと目をつぶって、頼みこむ。
骸さんを困らせてるのは、重々承知の上だった。
それでも…
『お願いです……あたしはっ…もう、つらそうな“あの顔”を見たくないんです……』
「…柚子……分かりました。ただし、僕に肩を貸して下さい。」
『えっ、でも骸さんは怪我して…』
「君の傍を、離れるワケにはいきませんから。僕も一緒に、あちらへ向かいます。」
『す、すみません…』
出血が止まり始めたとは言え、骸さんの顔色はいつもより少し悪かった。
本当は怪我人を動かしちゃいけないけれど……
「心配いりませんよ、僕は大丈夫です。」
『……帰ったら…あたし、ちゃんと看病します……』
「クフフ、それは嬉しいですねぇ。」
あたしは骸さんを支えながら、倒壊した男性用トイレの方へ歩く。
両足が瓦礫の下敷きになったその人は、気を失ったままうつ伏せに倒れていた。
『だ、大丈夫ですか…?』
返事は無い。
起き上がる気配も無い。
見れば見るほどそっくりで、双子なんじゃないかと思うくらい瓜二つで、何だか複雑な気持ちになる。
「柚子、瓦礫を退かすんでしょう?」
『あ、はい…』
後ろから、女性達のすすり泣く声が聞こえる。
トイレに並んでた人達が、固まって震えてるんだ…。
「下手に動かしては彼の足を傷つけてしまう、まずは……この瓦礫の形状を……!!?」
『骸さん?』
あたしの後ろでゆっくりとしゃがんだ骸さんのセリフが途切れ、不思議に思う。
どうしたのかと振り向いて、信じられなくて絶句した。
骸さんを背後から拘束していたのは、すすり泣いていたハズの女性達。
6、7人が束になって骸さんを捕えていた。
『な、何してるんですか!?この人は…』
「柚子、逃げなさい!」
『えっ!?』
「……仕方ない…」
突然の展開に混乱していたあたしに、女性達の手が伸びる。
何で…どうしてこの人達が、骸さんとあたしを…!?
混乱するあたしの頭の中に、一瞬だけ強烈な“何か”が押し寄せて……
次の瞬間、あたしは骸さんに手を引かれて走っていた。
『む、骸さんっ!?大丈夫なんですか!?怪我…』
「僕のことは気にせず、今は走るんです!!」
辺りには、さっきまでいたハズの女性達も、お父さんにそっくりな男性もいなくて、空っぽになった会場の廊下を、2人で走る。
何コレ…どういうこと…??
「いいですか柚子、このまま綱吉の近くまで連れて行きます。僕の姿が消えても、走り続けること、約束して下さい。」
『何…言ってるんですか…?骸さんが消える…?』
「説明してる時間はありません……約束、守ってくれますね?」
あたしの手を引きながら骸さんが見せた微笑は、何処かつらそうで。
絶対に放すもんかと手に力を込めたけど、その感触が薄らいでいく。
と、その時。
「なっ…!」
『骸さん?』
「く……ここまで追って来るとは……一体…」
「見つけたぜ、ボンゴレ10代目のお姫さん。」
骸さんの姿が消えかける中、後ろからもう1つの足音。
本能が、振り向いてはダメだと警告する。
けど、骸さんが完全に消えちゃったら……どうすればいいの?
あたし…1人でココを走り続けるの?
「柚子…走って下さい、あと少しですから…!」
『骸さんっ…!!』
サラサラと霧のように消えていく骸さんに、泣きそうになりながらも走り続けた。
足を止めちゃダメ、振り向いちゃダメ。
ツナさん……ツナさんは何処っ…!?
その瞬間、あたしの目の前にツナさんの姿が小さく見えた。
同時に、それまで誰もいなかった廊下に、大勢の観客が現れて。
『きゃあっ…』
どうやらあたしは、人の流れと逆方向に進んでいたようだ。
それでも見えた。
人波の中に、ツナさんの姿…!
『ツナさ………ふぐっ!!?』
「やっと見つけた。」
呼びかけようとした瞬間に、後ろから誰かに口を塞がれた。
“見つけた”と呟いたその声は、聞き間違えるハズがない……お父さんの声。
『(うそ……)』
「こっちは危ない、出口に向かおう。」
横目で見れば、そこには確かにお父さんの顔があって。
永遠の眠りについたあの日のまま、ちっとも変わってなくて。
『(……ううん、待って…)』
---「君の父親は、5年前に他界している……そうですよね?」
…そう、いるワケがないんだ。
そっくりな人がいたとして、あたしを知ってるワケがないんだ。
『んー!んーっ!!!』
気付いて抵抗し始めた時には、もう遅かった。
「非力な者が無闇に抵抗してはいけないよ。」
『(…意識、が……)』
そのまま薬を吸わされて、深い眠りの中に落とされた。
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「……柚子…?」
「いたのか?」
「今、声が……」
柚子が男に捕まった20メートル程向こうで、ツナは何かを感じ取った。
しかし、背伸びをしても柚子の姿は見えない。
「あと少しでトイレ前に着くようですが……」
「こうも観客がごった返してると暑苦しいっスね…」
「……しょーがねーな、」
リボーンは銃を取り出し、天井に向かって三発撃った。
辺りはざわめき、ツナ達を中心にバッと人が円を作る。
どうやら爆弾犯だと思ったらしい。
「道を開けねーと殺すぞ、てめーら。」
極めつけの一言は抜群に作用し、観客は慌てて叫びながら道を開けた。
脅しの一環として、山本、獄寺、バジルに雲雀も武器をそれぞれ取り出して。
「行くぞ、おめーら。柚子と骸を探すんだ。」
「ああ!」
「はい!」
「おお!」
柚子から電話があったトイレ前に向かう。
しかしそこに広がっていた光景を見て、ツナ達は絶句した。
「骸…!?」
「柚子は……そちらに行きましたか…?」
「なっ…お前と一緒じゃなかったのか!!?」
そこにいたのは、怯えるように蹲っている女性達と、疲弊し壁に寄りかかりながら座っている骸。
ただ、ツナの言葉を聞いて骸の方も目を丸くした。
「御覧の通り、ココに入る全ての人間が柚子と僕を捕えようとしましてね……手負いの僕が幻覚で足止めし、柚子だけ逃がしたのですが……」
「じゃあ柚子は、何処に…!?」
「すれ違ってはいねーぞ。客席からココまで、廊下は一本道だったしな…」
「と、いうことは…柚子殿は…!!」
ダンッ…!!
壁を打ち砕くような勢いで、ツナが拳を叩きつける。
歯を食いしばり、俯いたまま指示を出した。
「山本……了平さん……外、見て来て下さい……」
「オッケ!」
「極限任せろ!」
「獄寺君とバジルは…会場内を……」
「はい!」
「見て参ります!!」
4人がそれぞれ向かったのを見送り、リボーンが骸に問う。
「お前が幻覚で足止めしたなら、柚子は無事なハズだぞ。」
「……それが…たった一人、僕の幻覚世界に入って来た者がいましてね…」
「おめーの幻覚を突き破ったのか?」
「僕は確かに綱吉の近くまで柚子を誘導しました。しかし……その男が幻覚を破り、現実の世界で柚子に追いついたとすれば……」
骸の表情が強張る。
「手負いとは言え、不覚でした……」
「ねぇ、」
それまで黙っていた雲雀が口を開き、骸はそちらを向いた。
「…何か?」
「君のことだから、心当たりあるんでしょ。幻覚を破った男に。」
「本当なのか!?骸…!!」
食いつくように反応したツナに、骸は「ええ…」と一言。
「まず、彼は柚子の父親の顔を正確に再現していました。幻術ではなく、恐らく整形で。」
「随分手の込んだことしやがるな…」
「人体をいじる技術がある、ってことか…。」
「且つ、そもそも僕の幻術能力は、人体実験で地獄界より得た力……掻い潜れる人間は限られている……」
「その2つの条件を満たすヤツらか。」
「そうです。つまり、人体実験に長け、僕の能力に詳しい組織………柚子を誘拐したのは、エストラーネオ関係者です。」
スタッカート
弾くように目まぐるしく、悲劇の音色は紡がれる
continue...