🎼本編
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「オラ、何モタモタしてんだ柚子!」
『す、すみません!ちょっと待って下さい…!』
挨拶してる場合じゃないんですけど……
こんにちは!柚子です。
本日はオペラ『トゥーランドット』を観に行きます。
で、只今の時刻は午後3時57分。
午後6時からの上演に間に合うように……というか、入場開始が30分前なのでそろそろ出発します。
イライラ口調の獄寺さんに焦りながら、ネックレスをつけ終わる。
『遅れました…!』
スーツに身を包んだ皆さんに見劣りしないように、ちょっと着飾ったら遅くなった。
うぅ~、やっぱりワンピースじゃなくてレディーススーツにすれば良かったなぁ…。
「クフフ、まるで何処かのご令嬢ですね。」
『あ、ありがとうございます。』
ひょっこり出て来て褒めてくれる骸さんは、やっぱりスーツ似合う…。
「僕はスーツより、少し高級感のあるそのワンピースの方が好きですよ♪」
『え…』
「なぜならスカートは風に揺れ……」
ドガッ、
「クハッ!」
「早く乗って、柚子。」
いつも通り、骸さんは雲雀さんに殴られてしまい、雲雀さんは何事も無かったかのようにあたしに乗車を促す。
『は、はい…』
相変わらずの大きなリムジンに入ると、奥の席でツナさんが手招きした。
「おいで。」
『ど、何処でもいいじゃないですか…』
とか言いながら隣に座っちゃうあたしは、やっぱりツナさんのこと好きなのかーって思う。
「何処でもいいなら俺の隣でいいだろ?」
『う……はい、まぁ…』
「それと柚子、1つだけ絶対約束しろ。」
『何ですか?そんな改まって。』
ツナさんはあたしの手をぎゅっと握って、真剣な瞳で言った。
「今夜は何があっても、俺達の傍を離れるな。」
まるで、今夜何かが起きるようなツナさんの口ぶりに、あたしは無性に不安を掻きたてられる。
『だ…大丈夫ですよ、何も起きませんって、ね?』
いくらツナさんが他のマフィアに狙われてるからって、オペラ会場で事件が起きるワケない。
一般人を大勢巻き込んでしまったら、それこそマフィアの存在が公になっちゃうかも知れないんだから。
そんなリスキーなこと、敵だってやるハズないもの。
ツナさんは、あたしの考えを汲み取ったのか、目を細める。
「……あぁ、そうだよな。きっと何も起きない。」
『はいっ!』
それでも心配そうなツナさんが元気になるように、あたしは笑顔になってみせた。
そしたらツナさん、あたしの肩に腕を回して抱き寄せて、髪を撫でた。
「ま、とにかく俺の傍を離れるなよ。どうせ柚子、迷子になるだろうから。」
『分かりました、迷子は嫌ですし…』
---
-------
--------------
並盛キャンパス7号館から車で1時間ちょっと。
ツナさんの肩で眠っていたあたしは、頬をつねられながら起こされる。
「柚子、着いた。」
『いふぁいれふ~~…』
「黙ってればいつまでも俺の肩使って……今度の休みは柚子が膝枕しろよ。」
『えっ…あ、何言ってるんですか!!///』
「まぁその話は後で。ほら、」
ツナさんの視線を辿ると、そこには大きな建物。
『うわぁ……』
ココでオペラ観るんだぁ…何か感激!
窓からボーッと見上げていると、反対側のドアが開く。
「10代目、どうぞ降りて下さい。」
「ありがとう、獄寺君。降りるよ、柚子。」
『あ、はいっ!』
手を引かれて車を降りて、会場の中へ。
ふと疑問に思ったのは、一般席に向かってるということだった。
以前「遊園地貸し切ろうか」とか爆弾発言したツナさんのことだから、てっきりVIP席でも用意させるのかと思ってたから。
「1つは、一般人に隠れるため。」
『(よ、読まれてた…)』
「オペラ観に来る人達は基本的にスーツとドレスだから、目立たないと思って。」
確かに、スーツの殿方はたくさんいらっしゃる。
まさに“木を隠すなら森”って感じ。
『えと……もう1つあるんですか?理由。』
1つは、って言ってたなら複数あるんだろうなと尋ねてみたけど、ツナさんは「別に、大したことじゃないし」と教えてくれなかった。
言いたくないなら無理に聞かないようにしよう……
ともあれ、変に気を使わない普通席で良かった♪
「ツナ、柚子、コレが会場の地図だってよ。あと、パンフ。」
『ありがとうございます、山本さん。』
「ありがとう。」
前を歩いていた山本さんが、地図とパンフレットを渡してくれた。
とりあえずそれを見てトイレの位置だけ確認する。
広い会場だから、せめてトイレとインフォメーションの位置は確認しとかないと。
「クフフ、化粧室はあの角を曲がればいいんですよ。」
『ぎゃっ!む、骸さん!顔近いですっ!!///』
「おや、柚子はいつまでも照れ屋さんですね♪」
『そ、そーゆー問題じゃありませんっ!』
突然後ろからひょこっと覗いて来た骸さんに反論しているうち、指定席に辿りついた。
ふかふかの座席、肘掛もある。
「10代目、何か飲み物買って来ましょうか。」
「あ、じゃあコーヒーを……柚子は何かいる?」
『いえ、大丈夫です。ありがとうございます。』
「じゃあコーヒー2つ。リボーンも飲むだろ?」
「気が利くじゃねーか、頼むぞ獄寺。」
「分かりました!」
獄寺さんが人込みの中に突っ込んでいく。
その姿は敵を恐れぬ特攻隊長みたいだなーと思った。
---
-------
--------------
獄寺さんが戻って来てから20分ちょっとして、ブザーが鳴った。
パンフレットを見ていた手元が暗くなる。
客席のライトが一斉に消えて、カーテンに覆われた舞台のみが明るく照らされた。
「始まるな。」
『そうですね。』
『トゥーランドット』は全部で3幕。
第1幕はトゥーランドット姫に王子カラフが惹かれ、求婚者として名乗りを上げる。
けれど周りの者はみんな止めようとする。
なぜなら……トゥーランドット姫は名乗り出る求婚者たちに謎かけをして、答えられなかった者たちを悉く死刑にしている恐ろしく冷たい姫だから。
ただ、第1幕ではトゥーランドット姫は歌わない。
メインは…王子カラフの女召使・リューのアリアだ。
召使の立場でありながら、リューは秘かに王子を愛していた。
だから……いくら絶世の美女と言っても氷のように冷たいトゥーランドット姫に、王子が殺されてしまうのが怖かったんだろう。
『(きれいな高音……)』
人間の喉が生み出すソプラノと、それを引き立たせる弦楽器の低温……やっぱり一流は違うなぁ。
聞き惚れていたら、あっという間に第1幕が終わってしまった。
そっか、1幕が一番短いんだっけ。
「ううむ…極限によく分からなかったぞ……」
「パンフレット見なよ。」
眉間に皺を寄せる了平さんに、雲雀さんが溜め息をつく。
バジルさんは「トゥーランドット姫の着物がチカチカしました…」と目をこすっていた。
ちなみにあたし達は今、2列に分かれて座っている。
前の列に獄寺さん、ツナさん、あたし、バジルさん、
後ろの列に雲雀さん、了平さん、山本さん、リボーンさん、骸さん。
「柚子、疲れてないか?」
『はい、大丈夫です。』
「にしても、人間の喉って凄いな。」
『あたしもソレ思いました。きっと…生きてる楽器なんですよね。』
そう返したら、ツナさんは「柚子って時々凄いこと言うな」って微笑された。
25分の休憩を挟んで、第2幕が始まった。
トゥーランドット姫が城でアリアを歌い、求婚者たちを殺していく理由を明かす。
異国の男に騙されて死んだとある姫の代わりに、男たちに制裁を下しているのだ……と。
けど何といっても第2幕のメインは、王子カラフとトゥーランドット姫との謎かけ場面。
2人の二重唱がとてもきれいに響く。
トゥーランドット姫の出す謎かけに、3問連続正解した王子。
けれど結婚を拒み続ける姫に、王子が「自分の名前を夜明けまでに当ててみろ」と逆に挑戦させる。
もし姫が当てれば…王子は「自ら命を絶つ」と約束して。
「ふー……長い間座りっ放しってのも、やっぱちょっとキツイな。」
「だからてめーは野球バカなんだよ。」
「そーゆー獄寺も、禁煙でイラついてね?」
「う、うっせぇ!」
『(あ…そうだったんだ……)』
第2幕も終わり、あたしもグッと背伸びをする。
うーん、第3幕は40分かぁ……
『あの、ちょっとトイレ行って来ます。』
「場所覚えてるか?」
『多分…大丈夫です。地図も持ってますし!』
「……混んでるだろうから、気をつけろよ。転ばないように。」
『なっ…何ですかソレ!小学生じゃないんですからっ。』
意地悪く笑うツナさんに文句を言ってから、席を立つ。
予想通り…というか予想以上に通路は混んでいた。
『はぁ……しょうがないなぁ…』
時間はかかると分かっていたけど、人込みの流れに従ってゆっくり歩くことにした。
---
-------
一方客席では、
「沢田殿、宜しいんですか?柚子殿をお1人で…」
「平気だよ、骸が付いてってる。」
「あ、そうでしたか!さすがですね。」
空席越しに話しかけたバジルは、安堵の笑みを漏らす。
「しかし……まだ何も起きませんね…。」
「うん、このまま静かに帰れればいいんだけどな…」
「少し不気味です…」
門外顧問チームからの連絡では、正式なフィアンセとして発表された柚子が狙われているとのこと。
戦闘力のあるボンゴレ10代目を直接狙うよりも、手っ取り早いというところだろう。
そして……今日このオペラ鑑賞の時が、最も危険である、と。
---
-------
『(うわぁ、超並んでる…)』
着飾った貴婦人や、いいトコの幼いお嬢さん達で、トイレ前には長蛇の列。
何かの特売でもやるのかというような人数が並んでいた。
仕方なく最後尾に並んで、待つ。
暇つぶしに携帯を開いてみた、その時。
『(あれっ…?)』
ふわりと通り過ぎた何かが、あたしの目を上に向けさせた。
視界の端に映った、色素の薄い天然パーマ……
通り過ぎていくその髪の毛の持ち主は、やや細長い体型で、黒ぶちメガネの……
『うそ…』
見間違えるハズがない。
あれは、絶対に……!
あたしの前を通り過ぎたその人は、女子トイレの奥にある男子トイレに入って行った。
追いかけるワケにもいかないから、順番待ちをしつつその人が出てくるのを待つ。
トイレの順番、まだ来なくていい…!
だから……だからお願い、確かめさせて。
さっき通ったのは……お父さんじゃ、ないんだよね?
ざわつく胸を落ち着かせようとする中、4人分だけ列が進んだ、その時。
ドォォォン…
『えっ…?』
おかしな音が聞こえて、ふと上を向いた。
パラパラと、天井の細かい破片が落ちてくる。
と、次の瞬間。
ドガァン!!
「きゃーーっ!!」
「いやーっ!!」
女子トイレの個室の1つから爆音と炎があがり、一瞬にして辺りはパニックになった。
そしてまた、何処からか響くドォォォンという音。
どうやら会場の色んな場所から響いて来ているみたいで…
『まさか…爆発…!!?』
周りの女性は皆しゃがんで頭を手で覆い、悲鳴をあげる。
あたしは何とか転ばないようにと近くの壁に手をついた。
けれどふと気付く。
そこには、真新しいひび割れ。
それが……徐々に上へと伸びていって……
ピシピシ……ガラガラッ!
『きゃっ…!』
「柚子!!」
ひび割れが天井にまで達し、壁が崩れて瓦礫が襲う。
同時に腕を引っ張られて、誰かにぎゅっと抱きしめられた。
『(痛く、ない……)』
怖くて怖くて目を閉じていたあたしは、少しだけ疲労したような呼吸に気付いて恐る恐る目を開ける。
「…まったく君は……本当に危なっかしいですね……柚子、」
『む、くろ……さ…』
「だからこそ……可愛いとも思うんですがね…」
抱きしめるようにあたしを庇ってくれたのは、骸さんだった。
つぅ、とその頬を流れてくる赤い液体に、泣きそうになる。
『だ…大丈夫ですか!?骸さんっ!!』
「…こういう役は、山本君や獄寺君に…やって頂きたい、ものですね……」
『あっ…!』
背中の上に残っていた小さめの瓦礫を退かしつつ、骸さんは起き上がる。
近くの大きな瓦礫に背を預けて座り込んで、「大したコトありませんよ」と微笑んだ。
けれどその右肩から先のスーツには血が滲んでいて。
『ご、ごめんなさ……あたしっ…』
「柚子が無事なら、いいんです……とりあえず…この辺りには、爆弾はもう無いようですし……」
大怪我をして痛むのか、骸さんは途切れ途切れに話す。
あたしのせいだ……あたしのせいで、骸さんに怪我させて……
「そんな顔はやめて下さい…柚子……」
『で、でもっ…』
「僕の前で泣いたら……その涙ごと…食べてしまいますよ…?」
骸さんの左手が、あたしの目尻を軽くこする。
『こ、こんな時にっ…何言ってるんですかぁっ…!』
いつもならダッシュで逃げるような変態くさいセリフも、今は全然ギャグチックじゃなかった。
「柚子……綱吉に連絡を…」
『えっ…あ、はい!』
「しかし、このパニックした会場内では……恐らく綱吉達も、すぐには動けない……」
携帯を開いてツナさんにかける。
お願い、お願い、早く出て…!
2回コール音を聞いたところで、電話は繋がった。
『あっ、ツナさん…!』
-「柚子!!今何処にいる!?」
『メインホールから2番目に近い…女子トイレ前ですっ…』
-「なっ……おい、怪我したのか!?何で泣いて…」
『骸さん…骸さんが……あたしの、せいで…………あっ、』
ツナさんに伝えようとしたら、骸さんに携帯を横取りされる。
「綱吉、僕です。」
-「骸!柚子と一緒にいるんだな!?お前、怪我とか…」
「ええ、近くの壁が倒壊してしまいましてね……そちらはどうです、何か動きは?」
-「今んトコ、一般人がパニクってるだけだ……けど、まだ色んなトコで爆発が起きてるらしい。」
「そうですか…」
-「怪我、酷いのか?」
「クフフ……大丈夫ですよ。今は、僕より柚子です……なるべく早く、こちらに来てくれれば…有難いですね……」
-「分かった、何とか人込み抜けてみる。」
骸さんはそこであたしに携帯を返す。
「もういいですよ」と。
『つ、ツナさん……あたし、』
-「そこにいろ、迎えに行くから。」
周りには悲鳴をあげる女性がたくさんいたけど、
その中で、電話越しのツナさんの声がとても強く聞こえた。
-「だから今は骸の傍を離れるなよ、絶対に。」
『分かりましたっ…!』
-「一旦切るぞ。」
『はいっ…』
本当は、早く来て下さいって言いたかった。
けれどそんなこと言ったらきっと、ツナさんは焦って困っちゃうだろうから。
電源ボタンを押して、携帯を閉じる。
「大丈夫ですよ、柚子には怪我1つ負わせませんから。」
『…骸さんが怪我しちゃ、意味無いですっ……』
涙を止められないまま、バッグからハンカチを取り出して、骸さんの右肩の傷口を軽く押さえた。
微かに聞こえる爆発音は、建物の何処かがまだ危ない状況なんだということを教えてる。
『……骸さん、』
「何ですか?」
『この騒ぎ、もしかして……』
「そうかも知れません……ですから、ココを離れないように…」
骸さんの左手が、止血するあたしの手を上から握る。
声を出すのがつらくて、大きく一度だけ頷いた。
センセーション
オペラ会場と心の中、同時に起こった大騒ぎ
continue...
『す、すみません!ちょっと待って下さい…!』
挨拶してる場合じゃないんですけど……
こんにちは!柚子です。
本日はオペラ『トゥーランドット』を観に行きます。
で、只今の時刻は午後3時57分。
午後6時からの上演に間に合うように……というか、入場開始が30分前なのでそろそろ出発します。
イライラ口調の獄寺さんに焦りながら、ネックレスをつけ終わる。
『遅れました…!』
スーツに身を包んだ皆さんに見劣りしないように、ちょっと着飾ったら遅くなった。
うぅ~、やっぱりワンピースじゃなくてレディーススーツにすれば良かったなぁ…。
「クフフ、まるで何処かのご令嬢ですね。」
『あ、ありがとうございます。』
ひょっこり出て来て褒めてくれる骸さんは、やっぱりスーツ似合う…。
「僕はスーツより、少し高級感のあるそのワンピースの方が好きですよ♪」
『え…』
「なぜならスカートは風に揺れ……」
ドガッ、
「クハッ!」
「早く乗って、柚子。」
いつも通り、骸さんは雲雀さんに殴られてしまい、雲雀さんは何事も無かったかのようにあたしに乗車を促す。
『は、はい…』
相変わらずの大きなリムジンに入ると、奥の席でツナさんが手招きした。
「おいで。」
『ど、何処でもいいじゃないですか…』
とか言いながら隣に座っちゃうあたしは、やっぱりツナさんのこと好きなのかーって思う。
「何処でもいいなら俺の隣でいいだろ?」
『う……はい、まぁ…』
「それと柚子、1つだけ絶対約束しろ。」
『何ですか?そんな改まって。』
ツナさんはあたしの手をぎゅっと握って、真剣な瞳で言った。
「今夜は何があっても、俺達の傍を離れるな。」
まるで、今夜何かが起きるようなツナさんの口ぶりに、あたしは無性に不安を掻きたてられる。
『だ…大丈夫ですよ、何も起きませんって、ね?』
いくらツナさんが他のマフィアに狙われてるからって、オペラ会場で事件が起きるワケない。
一般人を大勢巻き込んでしまったら、それこそマフィアの存在が公になっちゃうかも知れないんだから。
そんなリスキーなこと、敵だってやるハズないもの。
ツナさんは、あたしの考えを汲み取ったのか、目を細める。
「……あぁ、そうだよな。きっと何も起きない。」
『はいっ!』
それでも心配そうなツナさんが元気になるように、あたしは笑顔になってみせた。
そしたらツナさん、あたしの肩に腕を回して抱き寄せて、髪を撫でた。
「ま、とにかく俺の傍を離れるなよ。どうせ柚子、迷子になるだろうから。」
『分かりました、迷子は嫌ですし…』
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並盛キャンパス7号館から車で1時間ちょっと。
ツナさんの肩で眠っていたあたしは、頬をつねられながら起こされる。
「柚子、着いた。」
『いふぁいれふ~~…』
「黙ってればいつまでも俺の肩使って……今度の休みは柚子が膝枕しろよ。」
『えっ…あ、何言ってるんですか!!///』
「まぁその話は後で。ほら、」
ツナさんの視線を辿ると、そこには大きな建物。
『うわぁ……』
ココでオペラ観るんだぁ…何か感激!
窓からボーッと見上げていると、反対側のドアが開く。
「10代目、どうぞ降りて下さい。」
「ありがとう、獄寺君。降りるよ、柚子。」
『あ、はいっ!』
手を引かれて車を降りて、会場の中へ。
ふと疑問に思ったのは、一般席に向かってるということだった。
以前「遊園地貸し切ろうか」とか爆弾発言したツナさんのことだから、てっきりVIP席でも用意させるのかと思ってたから。
「1つは、一般人に隠れるため。」
『(よ、読まれてた…)』
「オペラ観に来る人達は基本的にスーツとドレスだから、目立たないと思って。」
確かに、スーツの殿方はたくさんいらっしゃる。
まさに“木を隠すなら森”って感じ。
『えと……もう1つあるんですか?理由。』
1つは、って言ってたなら複数あるんだろうなと尋ねてみたけど、ツナさんは「別に、大したことじゃないし」と教えてくれなかった。
言いたくないなら無理に聞かないようにしよう……
ともあれ、変に気を使わない普通席で良かった♪
「ツナ、柚子、コレが会場の地図だってよ。あと、パンフ。」
『ありがとうございます、山本さん。』
「ありがとう。」
前を歩いていた山本さんが、地図とパンフレットを渡してくれた。
とりあえずそれを見てトイレの位置だけ確認する。
広い会場だから、せめてトイレとインフォメーションの位置は確認しとかないと。
「クフフ、化粧室はあの角を曲がればいいんですよ。」
『ぎゃっ!む、骸さん!顔近いですっ!!///』
「おや、柚子はいつまでも照れ屋さんですね♪」
『そ、そーゆー問題じゃありませんっ!』
突然後ろからひょこっと覗いて来た骸さんに反論しているうち、指定席に辿りついた。
ふかふかの座席、肘掛もある。
「10代目、何か飲み物買って来ましょうか。」
「あ、じゃあコーヒーを……柚子は何かいる?」
『いえ、大丈夫です。ありがとうございます。』
「じゃあコーヒー2つ。リボーンも飲むだろ?」
「気が利くじゃねーか、頼むぞ獄寺。」
「分かりました!」
獄寺さんが人込みの中に突っ込んでいく。
その姿は敵を恐れぬ特攻隊長みたいだなーと思った。
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獄寺さんが戻って来てから20分ちょっとして、ブザーが鳴った。
パンフレットを見ていた手元が暗くなる。
客席のライトが一斉に消えて、カーテンに覆われた舞台のみが明るく照らされた。
「始まるな。」
『そうですね。』
『トゥーランドット』は全部で3幕。
第1幕はトゥーランドット姫に王子カラフが惹かれ、求婚者として名乗りを上げる。
けれど周りの者はみんな止めようとする。
なぜなら……トゥーランドット姫は名乗り出る求婚者たちに謎かけをして、答えられなかった者たちを悉く死刑にしている恐ろしく冷たい姫だから。
ただ、第1幕ではトゥーランドット姫は歌わない。
メインは…王子カラフの女召使・リューのアリアだ。
召使の立場でありながら、リューは秘かに王子を愛していた。
だから……いくら絶世の美女と言っても氷のように冷たいトゥーランドット姫に、王子が殺されてしまうのが怖かったんだろう。
『(きれいな高音……)』
人間の喉が生み出すソプラノと、それを引き立たせる弦楽器の低温……やっぱり一流は違うなぁ。
聞き惚れていたら、あっという間に第1幕が終わってしまった。
そっか、1幕が一番短いんだっけ。
「ううむ…極限によく分からなかったぞ……」
「パンフレット見なよ。」
眉間に皺を寄せる了平さんに、雲雀さんが溜め息をつく。
バジルさんは「トゥーランドット姫の着物がチカチカしました…」と目をこすっていた。
ちなみにあたし達は今、2列に分かれて座っている。
前の列に獄寺さん、ツナさん、あたし、バジルさん、
後ろの列に雲雀さん、了平さん、山本さん、リボーンさん、骸さん。
「柚子、疲れてないか?」
『はい、大丈夫です。』
「にしても、人間の喉って凄いな。」
『あたしもソレ思いました。きっと…生きてる楽器なんですよね。』
そう返したら、ツナさんは「柚子って時々凄いこと言うな」って微笑された。
25分の休憩を挟んで、第2幕が始まった。
トゥーランドット姫が城でアリアを歌い、求婚者たちを殺していく理由を明かす。
異国の男に騙されて死んだとある姫の代わりに、男たちに制裁を下しているのだ……と。
けど何といっても第2幕のメインは、王子カラフとトゥーランドット姫との謎かけ場面。
2人の二重唱がとてもきれいに響く。
トゥーランドット姫の出す謎かけに、3問連続正解した王子。
けれど結婚を拒み続ける姫に、王子が「自分の名前を夜明けまでに当ててみろ」と逆に挑戦させる。
もし姫が当てれば…王子は「自ら命を絶つ」と約束して。
「ふー……長い間座りっ放しってのも、やっぱちょっとキツイな。」
「だからてめーは野球バカなんだよ。」
「そーゆー獄寺も、禁煙でイラついてね?」
「う、うっせぇ!」
『(あ…そうだったんだ……)』
第2幕も終わり、あたしもグッと背伸びをする。
うーん、第3幕は40分かぁ……
『あの、ちょっとトイレ行って来ます。』
「場所覚えてるか?」
『多分…大丈夫です。地図も持ってますし!』
「……混んでるだろうから、気をつけろよ。転ばないように。」
『なっ…何ですかソレ!小学生じゃないんですからっ。』
意地悪く笑うツナさんに文句を言ってから、席を立つ。
予想通り…というか予想以上に通路は混んでいた。
『はぁ……しょうがないなぁ…』
時間はかかると分かっていたけど、人込みの流れに従ってゆっくり歩くことにした。
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一方客席では、
「沢田殿、宜しいんですか?柚子殿をお1人で…」
「平気だよ、骸が付いてってる。」
「あ、そうでしたか!さすがですね。」
空席越しに話しかけたバジルは、安堵の笑みを漏らす。
「しかし……まだ何も起きませんね…。」
「うん、このまま静かに帰れればいいんだけどな…」
「少し不気味です…」
門外顧問チームからの連絡では、正式なフィアンセとして発表された柚子が狙われているとのこと。
戦闘力のあるボンゴレ10代目を直接狙うよりも、手っ取り早いというところだろう。
そして……今日このオペラ鑑賞の時が、最も危険である、と。
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『(うわぁ、超並んでる…)』
着飾った貴婦人や、いいトコの幼いお嬢さん達で、トイレ前には長蛇の列。
何かの特売でもやるのかというような人数が並んでいた。
仕方なく最後尾に並んで、待つ。
暇つぶしに携帯を開いてみた、その時。
『(あれっ…?)』
ふわりと通り過ぎた何かが、あたしの目を上に向けさせた。
視界の端に映った、色素の薄い天然パーマ……
通り過ぎていくその髪の毛の持ち主は、やや細長い体型で、黒ぶちメガネの……
『うそ…』
見間違えるハズがない。
あれは、絶対に……!
あたしの前を通り過ぎたその人は、女子トイレの奥にある男子トイレに入って行った。
追いかけるワケにもいかないから、順番待ちをしつつその人が出てくるのを待つ。
トイレの順番、まだ来なくていい…!
だから……だからお願い、確かめさせて。
さっき通ったのは……お父さんじゃ、ないんだよね?
ざわつく胸を落ち着かせようとする中、4人分だけ列が進んだ、その時。
ドォォォン…
『えっ…?』
おかしな音が聞こえて、ふと上を向いた。
パラパラと、天井の細かい破片が落ちてくる。
と、次の瞬間。
ドガァン!!
「きゃーーっ!!」
「いやーっ!!」
女子トイレの個室の1つから爆音と炎があがり、一瞬にして辺りはパニックになった。
そしてまた、何処からか響くドォォォンという音。
どうやら会場の色んな場所から響いて来ているみたいで…
『まさか…爆発…!!?』
周りの女性は皆しゃがんで頭を手で覆い、悲鳴をあげる。
あたしは何とか転ばないようにと近くの壁に手をついた。
けれどふと気付く。
そこには、真新しいひび割れ。
それが……徐々に上へと伸びていって……
ピシピシ……ガラガラッ!
『きゃっ…!』
「柚子!!」
ひび割れが天井にまで達し、壁が崩れて瓦礫が襲う。
同時に腕を引っ張られて、誰かにぎゅっと抱きしめられた。
『(痛く、ない……)』
怖くて怖くて目を閉じていたあたしは、少しだけ疲労したような呼吸に気付いて恐る恐る目を開ける。
「…まったく君は……本当に危なっかしいですね……柚子、」
『む、くろ……さ…』
「だからこそ……可愛いとも思うんですがね…」
抱きしめるようにあたしを庇ってくれたのは、骸さんだった。
つぅ、とその頬を流れてくる赤い液体に、泣きそうになる。
『だ…大丈夫ですか!?骸さんっ!!』
「…こういう役は、山本君や獄寺君に…やって頂きたい、ものですね……」
『あっ…!』
背中の上に残っていた小さめの瓦礫を退かしつつ、骸さんは起き上がる。
近くの大きな瓦礫に背を預けて座り込んで、「大したコトありませんよ」と微笑んだ。
けれどその右肩から先のスーツには血が滲んでいて。
『ご、ごめんなさ……あたしっ…』
「柚子が無事なら、いいんです……とりあえず…この辺りには、爆弾はもう無いようですし……」
大怪我をして痛むのか、骸さんは途切れ途切れに話す。
あたしのせいだ……あたしのせいで、骸さんに怪我させて……
「そんな顔はやめて下さい…柚子……」
『で、でもっ…』
「僕の前で泣いたら……その涙ごと…食べてしまいますよ…?」
骸さんの左手が、あたしの目尻を軽くこする。
『こ、こんな時にっ…何言ってるんですかぁっ…!』
いつもならダッシュで逃げるような変態くさいセリフも、今は全然ギャグチックじゃなかった。
「柚子……綱吉に連絡を…」
『えっ…あ、はい!』
「しかし、このパニックした会場内では……恐らく綱吉達も、すぐには動けない……」
携帯を開いてツナさんにかける。
お願い、お願い、早く出て…!
2回コール音を聞いたところで、電話は繋がった。
『あっ、ツナさん…!』
-「柚子!!今何処にいる!?」
『メインホールから2番目に近い…女子トイレ前ですっ…』
-「なっ……おい、怪我したのか!?何で泣いて…」
『骸さん…骸さんが……あたしの、せいで…………あっ、』
ツナさんに伝えようとしたら、骸さんに携帯を横取りされる。
「綱吉、僕です。」
-「骸!柚子と一緒にいるんだな!?お前、怪我とか…」
「ええ、近くの壁が倒壊してしまいましてね……そちらはどうです、何か動きは?」
-「今んトコ、一般人がパニクってるだけだ……けど、まだ色んなトコで爆発が起きてるらしい。」
「そうですか…」
-「怪我、酷いのか?」
「クフフ……大丈夫ですよ。今は、僕より柚子です……なるべく早く、こちらに来てくれれば…有難いですね……」
-「分かった、何とか人込み抜けてみる。」
骸さんはそこであたしに携帯を返す。
「もういいですよ」と。
『つ、ツナさん……あたし、』
-「そこにいろ、迎えに行くから。」
周りには悲鳴をあげる女性がたくさんいたけど、
その中で、電話越しのツナさんの声がとても強く聞こえた。
-「だから今は骸の傍を離れるなよ、絶対に。」
『分かりましたっ…!』
-「一旦切るぞ。」
『はいっ…』
本当は、早く来て下さいって言いたかった。
けれどそんなこと言ったらきっと、ツナさんは焦って困っちゃうだろうから。
電源ボタンを押して、携帯を閉じる。
「大丈夫ですよ、柚子には怪我1つ負わせませんから。」
『…骸さんが怪我しちゃ、意味無いですっ……』
涙を止められないまま、バッグからハンカチを取り出して、骸さんの右肩の傷口を軽く押さえた。
微かに聞こえる爆発音は、建物の何処かがまだ危ない状況なんだということを教えてる。
『……骸さん、』
「何ですか?」
『この騒ぎ、もしかして……』
「そうかも知れません……ですから、ココを離れないように…」
骸さんの左手が、止血するあたしの手を上から握る。
声を出すのがつらくて、大きく一度だけ頷いた。
センセーション
オペラ会場と心の中、同時に起こった大騒ぎ
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