🎼本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それでさ、」
『はい?』
あたしの手を握ったまま、ツナさんは突如意地悪い笑みを見せる。
反射的にあたしはビクッと震え、身構えた。
「返事、聞きたいんだけど。」
『何のですか?』
「…もう忘れたのかよ、バカ柚子。」
『だって思い当たることが……………あ。』
反論の途中で、脳みそがツナさんの言ってる意味を理解した。
「あっただろ?」
『なっ……だ、だってそれは…えっと……』
そんなにサラリと尋ねるような内容じゃないでしょうに…!
思い至った瞬間、顔の熱も急上昇。
---「好きだよ柚子……愛してる。」
あの告白をしてから、昔話の後で返事を聞くってツナさんは言った。
だから今、あたしはそれを待たれているワケであって…
『む、無理です……あたし…』
「何が?俺のこと、嫌い?」
『そうじゃなくてっ…!えっと、何てゆーか……』
恥ずかしさが最高点まで登り詰めて、両手で顔を覆う。
直後に、優しく頭を撫でられる感触。
あぁもうダメ、こうして触れられるだけで鼓動が速くなる。
嬉しくて、苦しくて、
けどやっぱり本当に嬉しくて。
隣に居てもらうだけで、幸せで。
『恥ずかしい、です…』
「俺が言ったんだから、柚子も言えっつの。」
『そんなルール、ありませんっ。』
「今この瞬間、俺が作った。」
分かってるクセに、読心術使えるクセに。
ツナさん、ズルい人。
今だってそう、きっとあたしの心の中読んでるんだ。
それなのに、わざわざ言わせるなんて。
「確かに読めるけどさ、」
『(やっぱり読んでた……)』
「普通に聞きたい。」
『ふ、普通って…』
よく分からなくてツナさんを見上げると、少しムッとした表情が映る。
「その一言だけ、柚子の口から聞きたいってゆーのは……そんなに我儘なことか?」
ビックリした。
ツナさんが頬を赤らめて、そんなこと言うんだもの。
『えっと、あの……』
言わなくちゃ。
あたしは、ずっとずっと自分にまで嘘をついていたから。
ツナさんのこと、好きになるハズないんだって。
ううん、ボーダーラインを引いていたのかも知れない。
だってツナさんを好きになってしまえば、あたしはもう、戻れないから。
けど……
『あ、あたし…』
気付いたら、惹かれてた。
横暴ボスだと思ってたのに、優しくて頼りになる、大きな器を持つ人。
その隣は、凄く居心地が良くて。
だからこそ、あたしは……
『ツナさんのことっ…』
「柚子ーっ!僕の柚子は何処ですかー??」
こ、この声はっ…!
条件反射でバッと立ちあがり、あたしはテラスの隅にうずくまる。
あの楽しそうな声色…!
確実に何か持ってきている!
骸さんにとっては良くて、あたしにとって悪い“何か”を!!
『(……って、アレ?)』
ふと気付くと、ツナさんは暗黒オーラを纏っていて。
立ち上がった時の口元は、黒笑いの口元だと瞬時に分かった。
「ちょっと待ってろ、柚子。」
『は、はい…』
……史上最大の、ブラックホールのような黒オーラを纏ったまま、ツナさんはテラスを後にする。
行先は多分…骸さんトコだ。
骸さんが天に召されませんように……
それだけ祈っておいた。
---
-------
「骸、」
「おや綱吉、ちょうど良かった。僕の柚子を知りませんか?」
「あのさ、柚子は俺のだから。」
「綱吉…何か変ですよ?笑顔が笑顔じゃないみたいですが……」
「当たり前だろ、お前に怒ってるんだから。」
「え…?」
Xグローブを装着したツナに、骸は数歩後退る。
彼の本能は確実に、これから迫る危機を察知していた。
「つ、綱吉…?僕が何かしましたか…?僕は柚子に渡したいものがあっただけで…」
「俺が代わりに渡しておくから、お前はちょっと凍ってろ。」
「えっ…」
「零地点突破・初代エディション…」
抵抗する間もなく、骸は冷凍仮死状態となった。
ふぅ、と一息ついたツナは、凍らせる直前にかすめ取った骸の所有物を見る。
「何だコレ、誰かに貰ったのか…?」
「10代目っ、さっきの音は…!」
「あぁ獄寺君、ちょうど良かった。コレ、しばらくどっかに隔離しといて。気が向いたら溶かすから。」
「はいっ!分かりました!」
ビッと姿勢を正して返事をした獄寺は、凍った骸を引きずっていった。
「さてと。柚子ーっ、もう出てきていいよ。骸いないから。」
テラスに聞こえるように、大きめの声で呼びかけるツナ。
すると、パタパタと柚子が階段を駆け下りてくる。
『い、いないってどういうことですか!?まさかツナさん…』
「殺しはしない、一応ファミリーだし。」
『で、ですよねー…』
苦笑いの柚子に、ツナは骸から奪った“ソレ”を差しだした。
突然目の前に突き出された“ソレ”に書いてある文字を、柚子はきょとんとしながら読む。
『遊園地…ワンデー…フリー…パス?』
「骸にしては、いいもん持ってたなーって思ってさ。」
『まさか骸さん、あたしにくれる予定だったんでしょうか!?』
「違ぇよ、良く見ろ。」
ツナがチケットの端を指差す。
そこには、“ペア招待券”と。
『……まさか骸さん、』
「デートプランでも立ててたかもな。ったく、柚子は俺のだって言ってるのに。」
『つ、ツナさんっ!///』
「何?嬉しくない?」
『そ、そーじゃなくて……ですからっ…そんなサラッと…』
真っ赤になって俯く柚子に、ツナはふっと笑みをこぼす。
「連れてってやろーか、遊園地。」
『え?い、今からですか!?』
「大丈夫、閉園時間とかズラせるから。」
『(それは…権力濫用なんじゃ…)』
「何か言った?」
『いえ何も!』
あたしが笑って誤魔化すと、ツナさんは途端に何か思いついたように意地悪な笑みを向けた。
こ、これは…何か横暴な要求がなされる予感……
「じゃあさ、柚子がちゃんとさっきの続き言ってくれたら、すぐ連れてってやるよ。」
『え……えぇーっ!!?///』
何てこと言うの、この横暴ボス!!
大体どーしてあたしが遊園地行きたいこと前提で話進んでるの!?
いや、そりゃ確かに…コンクール終わったし、パーッと遊びに行ったりしたいなーとは思ってるけどさ!
それにしたって、今ココであの続きを言えと!?
羞恥プレイにも程がある!!
バカバカバカ!ツナさんのバカーっ!!
「…全部ダダ漏れだけど。」
『はうっ…!』
「しょーがないな…」
溜め息と共に吐かれた妥協の言葉に、少しばかり期待をした……
のが、バカだった。
ぎゅぅっと抱きしめられて、逃げられなくなる。
『ちょっ…あの、ツナさん!?///』
「はい、続きどーぞ。」
『さっきとほとんど状況変わってないんですけど!』
「これで小さい声でも聞こえるかな、と思って。」
思って、じゃないですよ!!
この状態はつまり、“言わなきゃ放してもらえない”ってことじゃないですかー!
「それもある。」
『読まないでくださいっ!』
「早く。」
そんなに急かさないで欲しいのに、
もっとゆっくり言いたかったのに、
いつだってツナさんは、あたしを振り回してばっかりで。
だけど、惚れたら負けってことなんだろーな。
今だって、ツナさんの腕の中にいられるのが嬉しくて仕方ないもの。
『大好き、です…』
ツナさんみたいに、“愛してる”って言うには恥ずかし過ぎて。
今のあたしには、これが精一杯の感情表現で。
火照る顔を見られたくなくてツナさんの胸に顔を埋めていると、抱きしめる力が強まった気がした。
「知ってる。」
『じゃあ言わせないで下さいっ…』
「聞きたかったんだよ。」
心臓が、破裂しそう。
でもこの空気は、次のツナさんの一言でぶっ壊れる。
「てゆーか柚子、そんなに遊園地行きたいのかよ。」
『なっ…い、いけませんか!?』
「あ、開き直った。」
『ジャージじゃ行けないので着替えてきます!ツナさんも、スーツはダメですからねっ!』
遊びに行くのにスーツなんて、勿体ないと思うから。
あたしはショートパンツに少しヒールが高いサンダルを履いて、麦わら帽子をかぶった。
メークは最低限、だけど日焼け止めはちゃんとして。
あぁもう何コレ、初デートみたい。
さんざん2人でお出かけしたことあるのに、こんなに気持ちがふわふわするなんて。
『お、お待たせしました!』
「後ろ、乗って。」
『はいっ。』
授業にもスーツで出席するツナさんの私服姿は何だか新鮮で、特にバイクに跨る姿なんて激レアだと思った。
スルーパスされたヘルメットをかぶり、後ろに乗る。
落ちないようにぎゅっと抱きついた。
---
------
----------
『わーっ…』
「すんごく混んでるな、やっぱ貸し切りにした方が…」
『いいです!これで。さっ、ジェットコースター行きましょうっ!』
「しょっぱなからそれかよ…」
『怖いんですか?』
「誰が。」
ムッとしたツナさんは、あたしの手を引っ張って歩き始める。
ちょっと足がもつれたけど、小走りでついて行く。
『冗談ですから!』
「分かってるよ。」
『んもーっ…』
手、繋いでる……
意識すると恥ずかしくなるから、気にしないようにしようっと。
ジェットコースターでは、ちっとも叫ばなかったツナさん。
あたしばっかりキャイキャイ騒いでてバカみたいだったけど、1回転する時に「うわっ」て言ったのが聞こえた。
ゴーカートでは勝負を挑んでみたものの、惨敗。
「俺に勝とうなんて百年早い」とか言われてしまった。
コーヒーカップに乗ると、ツナさんは最初は面倒臭そうにしてたのに…
『つ、疲れましたぁ…』
「じゃあ交代な。」
『え…?』
ギュオオオオッ!
『きゃあああーっ!!』
ここぞとばかりに思いっ切り回した。
おかげでヘロヘロになったあたしをベンチで待たせて、どっかに行ってしまう始末。
『(ツナさん、どこまで行ったんだろう…)』
だいぶ落ち着いたあたしがキョロキョロし始めると、ツナさんがひょっこり戻って来た。
その手には、何か持っている。
「ほら、柚子の。」
『わぁっ!ありがとうございますっ♪』
遊園地に定番の、ソフトクリーム。
一口食べると、喉からひんやりして美味しい。
『あっ!後でお金返します。』
「いいよそんぐらい、奢り。」
『でも…』
「ふーん、柚子は俺のこと、そんなにケチだと思ってるんだ。」
『ち、違います!だって…』
いつもお世話になってるし、お土産も買って来てくれてるし…
それなのにこんなトコに来てまで奢ってもらうのは気が引けるというか。
「んじゃ、一口くれよ。」
『え?』
言われてみれば、ツナさんはソフトクリームを1つしか買ってなくて、
自分用に買ったのはアイスコーヒーだった。
遊園地でもコーヒーって……好きなのかな?
とにかく、一口あげて満足するなら…とソフトクリームを差しだす。
けど、ツナさんは口を開けて待機してるだけで。
『あの……ツナさん?』
「何だよ、早く。」
『じっ、自分で食べて下さい!』
「コーヒーで手が塞がってるし。」
こんの横暴ボス~~~っ!!
公衆の面前で普通そーゆーコトさせます!?
反抗したい気持ちは山々だったけど、
あたし自身、ちょっと憧れてるシチュエーションだったり…
『わ、分かりました…』
小さいスプーンで軽く掬って、ツナさんの口に運ぶ。
「ん、美味い。」
『ですよねっ!』
「まぁ当然だよな、俺が買って来たんだし。」
『(この人は……)』
来た時間が遅かったせいか、それから2、3個アトラクションに乗ったら閉園間近になってしまった。
遊園地はやっぱり閉まるの早いと思う。
けど、ツナさんの権力濫用はどうしても見逃せなくて、最後に観覧車だけ乗って帰りましょう、と言った。
「結構高いトコまで行くんだな。」
『凄いです、あんな遠い場所まで見えます!』
太陽が、観覧車の中まで赤く染める。
立ち上がって、燃えるような夕陽を見ると、泣きそうになった。
今のあたし、最上級に幸せだ。
今日は色んなことがあった。
ツナさんが昔のことを話してくれて、あたし達が初対面じゃなかったんだって分かった。
かなり恥ずかしかったけど、自分の気持ちも伝えられた。
それで今、遊園地デートしてる。
大好きなツナさんと、2人で。
「柚子……おい、柚子?」
『は、はい!』
「何ボーッとしてんだよ。」
『へっ?あ、すみません……今日、色んなことがあり過ぎて…』
正直、こうして落ち着いて思い返すまで、思考が追いついてなかった。
ツナさんが、あたしのことを好きって言ってくれたのさえ、真実味が無くて。
『今日が丸一日、ホントみたいな夢だったら…どうしましょう……』
「……そーだな…」
『あたし、覚めなくてもいいかも知れないです…。』
あたしの言葉に、ツナさんがくすっと笑ったのが聞こえた。
いつもなら「笑わないで」って反論するけど、今だけは。
「じゃあ、確認しようか。」
『え…?』
気付けば、それまで座っていたツナさんは立ちあがってて。
狭いゴンドラの中で、後ろから抱きしめられる。
『きゅっ、急に何を…』
「本物、だろ?」
『あ……』
確かに、本物。
この感触、温かさ、全部全部。
『(うわっ…///)』
考えてみたら、今は完全に2人きり。
とんでもなく心臓に悪い状況なんだと認識する。
『は、放して下さいよ……恥ずかしい、です…』
「それもそーだな、これじゃ柚子の顔見れないし。」
『み、見ないでくださいっ…!』
解放されたはいいものの、ツナさんは回り込んであたしの顔を覗こうとする。
慌てて逸らそうとすれば、スッと頬に添えられるツナさんの手。
『つ、ツナさ……』
「柚子、」
静かにあたしを呼ぶツナさんの瞳には、夕陽のオレンジが混ざっていた。
綺麗で綺麗で、見とれてしまう。
『あ、あの…』
「好きだよ。」
『(うっ…///)』
「俺も今、夢みたいな気分だから……確かめさせろ。」
『え、あ…』
どんどん、どんどん、顔と顔が近づいて。
緊張のあまり目を閉じる。
次の瞬間重なった唇は、優しくて、少し苦いコーヒーの味がした。
ツーショット
横暴ボスに出会ったあたしは、きっと世界一幸せな家政婦
continue...
『はい?』
あたしの手を握ったまま、ツナさんは突如意地悪い笑みを見せる。
反射的にあたしはビクッと震え、身構えた。
「返事、聞きたいんだけど。」
『何のですか?』
「…もう忘れたのかよ、バカ柚子。」
『だって思い当たることが……………あ。』
反論の途中で、脳みそがツナさんの言ってる意味を理解した。
「あっただろ?」
『なっ……だ、だってそれは…えっと……』
そんなにサラリと尋ねるような内容じゃないでしょうに…!
思い至った瞬間、顔の熱も急上昇。
---「好きだよ柚子……愛してる。」
あの告白をしてから、昔話の後で返事を聞くってツナさんは言った。
だから今、あたしはそれを待たれているワケであって…
『む、無理です……あたし…』
「何が?俺のこと、嫌い?」
『そうじゃなくてっ…!えっと、何てゆーか……』
恥ずかしさが最高点まで登り詰めて、両手で顔を覆う。
直後に、優しく頭を撫でられる感触。
あぁもうダメ、こうして触れられるだけで鼓動が速くなる。
嬉しくて、苦しくて、
けどやっぱり本当に嬉しくて。
隣に居てもらうだけで、幸せで。
『恥ずかしい、です…』
「俺が言ったんだから、柚子も言えっつの。」
『そんなルール、ありませんっ。』
「今この瞬間、俺が作った。」
分かってるクセに、読心術使えるクセに。
ツナさん、ズルい人。
今だってそう、きっとあたしの心の中読んでるんだ。
それなのに、わざわざ言わせるなんて。
「確かに読めるけどさ、」
『(やっぱり読んでた……)』
「普通に聞きたい。」
『ふ、普通って…』
よく分からなくてツナさんを見上げると、少しムッとした表情が映る。
「その一言だけ、柚子の口から聞きたいってゆーのは……そんなに我儘なことか?」
ビックリした。
ツナさんが頬を赤らめて、そんなこと言うんだもの。
『えっと、あの……』
言わなくちゃ。
あたしは、ずっとずっと自分にまで嘘をついていたから。
ツナさんのこと、好きになるハズないんだって。
ううん、ボーダーラインを引いていたのかも知れない。
だってツナさんを好きになってしまえば、あたしはもう、戻れないから。
けど……
『あ、あたし…』
気付いたら、惹かれてた。
横暴ボスだと思ってたのに、優しくて頼りになる、大きな器を持つ人。
その隣は、凄く居心地が良くて。
だからこそ、あたしは……
『ツナさんのことっ…』
「柚子ーっ!僕の柚子は何処ですかー??」
こ、この声はっ…!
条件反射でバッと立ちあがり、あたしはテラスの隅にうずくまる。
あの楽しそうな声色…!
確実に何か持ってきている!
骸さんにとっては良くて、あたしにとって悪い“何か”を!!
『(……って、アレ?)』
ふと気付くと、ツナさんは暗黒オーラを纏っていて。
立ち上がった時の口元は、黒笑いの口元だと瞬時に分かった。
「ちょっと待ってろ、柚子。」
『は、はい…』
……史上最大の、ブラックホールのような黒オーラを纏ったまま、ツナさんはテラスを後にする。
行先は多分…骸さんトコだ。
骸さんが天に召されませんように……
それだけ祈っておいた。
---
-------
「骸、」
「おや綱吉、ちょうど良かった。僕の柚子を知りませんか?」
「あのさ、柚子は俺のだから。」
「綱吉…何か変ですよ?笑顔が笑顔じゃないみたいですが……」
「当たり前だろ、お前に怒ってるんだから。」
「え…?」
Xグローブを装着したツナに、骸は数歩後退る。
彼の本能は確実に、これから迫る危機を察知していた。
「つ、綱吉…?僕が何かしましたか…?僕は柚子に渡したいものがあっただけで…」
「俺が代わりに渡しておくから、お前はちょっと凍ってろ。」
「えっ…」
「零地点突破・初代エディション…」
抵抗する間もなく、骸は冷凍仮死状態となった。
ふぅ、と一息ついたツナは、凍らせる直前にかすめ取った骸の所有物を見る。
「何だコレ、誰かに貰ったのか…?」
「10代目っ、さっきの音は…!」
「あぁ獄寺君、ちょうど良かった。コレ、しばらくどっかに隔離しといて。気が向いたら溶かすから。」
「はいっ!分かりました!」
ビッと姿勢を正して返事をした獄寺は、凍った骸を引きずっていった。
「さてと。柚子ーっ、もう出てきていいよ。骸いないから。」
テラスに聞こえるように、大きめの声で呼びかけるツナ。
すると、パタパタと柚子が階段を駆け下りてくる。
『い、いないってどういうことですか!?まさかツナさん…』
「殺しはしない、一応ファミリーだし。」
『で、ですよねー…』
苦笑いの柚子に、ツナは骸から奪った“ソレ”を差しだした。
突然目の前に突き出された“ソレ”に書いてある文字を、柚子はきょとんとしながら読む。
『遊園地…ワンデー…フリー…パス?』
「骸にしては、いいもん持ってたなーって思ってさ。」
『まさか骸さん、あたしにくれる予定だったんでしょうか!?』
「違ぇよ、良く見ろ。」
ツナがチケットの端を指差す。
そこには、“ペア招待券”と。
『……まさか骸さん、』
「デートプランでも立ててたかもな。ったく、柚子は俺のだって言ってるのに。」
『つ、ツナさんっ!///』
「何?嬉しくない?」
『そ、そーじゃなくて……ですからっ…そんなサラッと…』
真っ赤になって俯く柚子に、ツナはふっと笑みをこぼす。
「連れてってやろーか、遊園地。」
『え?い、今からですか!?』
「大丈夫、閉園時間とかズラせるから。」
『(それは…権力濫用なんじゃ…)』
「何か言った?」
『いえ何も!』
あたしが笑って誤魔化すと、ツナさんは途端に何か思いついたように意地悪な笑みを向けた。
こ、これは…何か横暴な要求がなされる予感……
「じゃあさ、柚子がちゃんとさっきの続き言ってくれたら、すぐ連れてってやるよ。」
『え……えぇーっ!!?///』
何てこと言うの、この横暴ボス!!
大体どーしてあたしが遊園地行きたいこと前提で話進んでるの!?
いや、そりゃ確かに…コンクール終わったし、パーッと遊びに行ったりしたいなーとは思ってるけどさ!
それにしたって、今ココであの続きを言えと!?
羞恥プレイにも程がある!!
バカバカバカ!ツナさんのバカーっ!!
「…全部ダダ漏れだけど。」
『はうっ…!』
「しょーがないな…」
溜め息と共に吐かれた妥協の言葉に、少しばかり期待をした……
のが、バカだった。
ぎゅぅっと抱きしめられて、逃げられなくなる。
『ちょっ…あの、ツナさん!?///』
「はい、続きどーぞ。」
『さっきとほとんど状況変わってないんですけど!』
「これで小さい声でも聞こえるかな、と思って。」
思って、じゃないですよ!!
この状態はつまり、“言わなきゃ放してもらえない”ってことじゃないですかー!
「それもある。」
『読まないでくださいっ!』
「早く。」
そんなに急かさないで欲しいのに、
もっとゆっくり言いたかったのに、
いつだってツナさんは、あたしを振り回してばっかりで。
だけど、惚れたら負けってことなんだろーな。
今だって、ツナさんの腕の中にいられるのが嬉しくて仕方ないもの。
『大好き、です…』
ツナさんみたいに、“愛してる”って言うには恥ずかし過ぎて。
今のあたしには、これが精一杯の感情表現で。
火照る顔を見られたくなくてツナさんの胸に顔を埋めていると、抱きしめる力が強まった気がした。
「知ってる。」
『じゃあ言わせないで下さいっ…』
「聞きたかったんだよ。」
心臓が、破裂しそう。
でもこの空気は、次のツナさんの一言でぶっ壊れる。
「てゆーか柚子、そんなに遊園地行きたいのかよ。」
『なっ…い、いけませんか!?』
「あ、開き直った。」
『ジャージじゃ行けないので着替えてきます!ツナさんも、スーツはダメですからねっ!』
遊びに行くのにスーツなんて、勿体ないと思うから。
あたしはショートパンツに少しヒールが高いサンダルを履いて、麦わら帽子をかぶった。
メークは最低限、だけど日焼け止めはちゃんとして。
あぁもう何コレ、初デートみたい。
さんざん2人でお出かけしたことあるのに、こんなに気持ちがふわふわするなんて。
『お、お待たせしました!』
「後ろ、乗って。」
『はいっ。』
授業にもスーツで出席するツナさんの私服姿は何だか新鮮で、特にバイクに跨る姿なんて激レアだと思った。
スルーパスされたヘルメットをかぶり、後ろに乗る。
落ちないようにぎゅっと抱きついた。
---
------
----------
『わーっ…』
「すんごく混んでるな、やっぱ貸し切りにした方が…」
『いいです!これで。さっ、ジェットコースター行きましょうっ!』
「しょっぱなからそれかよ…」
『怖いんですか?』
「誰が。」
ムッとしたツナさんは、あたしの手を引っ張って歩き始める。
ちょっと足がもつれたけど、小走りでついて行く。
『冗談ですから!』
「分かってるよ。」
『んもーっ…』
手、繋いでる……
意識すると恥ずかしくなるから、気にしないようにしようっと。
ジェットコースターでは、ちっとも叫ばなかったツナさん。
あたしばっかりキャイキャイ騒いでてバカみたいだったけど、1回転する時に「うわっ」て言ったのが聞こえた。
ゴーカートでは勝負を挑んでみたものの、惨敗。
「俺に勝とうなんて百年早い」とか言われてしまった。
コーヒーカップに乗ると、ツナさんは最初は面倒臭そうにしてたのに…
『つ、疲れましたぁ…』
「じゃあ交代な。」
『え…?』
ギュオオオオッ!
『きゃあああーっ!!』
ここぞとばかりに思いっ切り回した。
おかげでヘロヘロになったあたしをベンチで待たせて、どっかに行ってしまう始末。
『(ツナさん、どこまで行ったんだろう…)』
だいぶ落ち着いたあたしがキョロキョロし始めると、ツナさんがひょっこり戻って来た。
その手には、何か持っている。
「ほら、柚子の。」
『わぁっ!ありがとうございますっ♪』
遊園地に定番の、ソフトクリーム。
一口食べると、喉からひんやりして美味しい。
『あっ!後でお金返します。』
「いいよそんぐらい、奢り。」
『でも…』
「ふーん、柚子は俺のこと、そんなにケチだと思ってるんだ。」
『ち、違います!だって…』
いつもお世話になってるし、お土産も買って来てくれてるし…
それなのにこんなトコに来てまで奢ってもらうのは気が引けるというか。
「んじゃ、一口くれよ。」
『え?』
言われてみれば、ツナさんはソフトクリームを1つしか買ってなくて、
自分用に買ったのはアイスコーヒーだった。
遊園地でもコーヒーって……好きなのかな?
とにかく、一口あげて満足するなら…とソフトクリームを差しだす。
けど、ツナさんは口を開けて待機してるだけで。
『あの……ツナさん?』
「何だよ、早く。」
『じっ、自分で食べて下さい!』
「コーヒーで手が塞がってるし。」
こんの横暴ボス~~~っ!!
公衆の面前で普通そーゆーコトさせます!?
反抗したい気持ちは山々だったけど、
あたし自身、ちょっと憧れてるシチュエーションだったり…
『わ、分かりました…』
小さいスプーンで軽く掬って、ツナさんの口に運ぶ。
「ん、美味い。」
『ですよねっ!』
「まぁ当然だよな、俺が買って来たんだし。」
『(この人は……)』
来た時間が遅かったせいか、それから2、3個アトラクションに乗ったら閉園間近になってしまった。
遊園地はやっぱり閉まるの早いと思う。
けど、ツナさんの権力濫用はどうしても見逃せなくて、最後に観覧車だけ乗って帰りましょう、と言った。
「結構高いトコまで行くんだな。」
『凄いです、あんな遠い場所まで見えます!』
太陽が、観覧車の中まで赤く染める。
立ち上がって、燃えるような夕陽を見ると、泣きそうになった。
今のあたし、最上級に幸せだ。
今日は色んなことがあった。
ツナさんが昔のことを話してくれて、あたし達が初対面じゃなかったんだって分かった。
かなり恥ずかしかったけど、自分の気持ちも伝えられた。
それで今、遊園地デートしてる。
大好きなツナさんと、2人で。
「柚子……おい、柚子?」
『は、はい!』
「何ボーッとしてんだよ。」
『へっ?あ、すみません……今日、色んなことがあり過ぎて…』
正直、こうして落ち着いて思い返すまで、思考が追いついてなかった。
ツナさんが、あたしのことを好きって言ってくれたのさえ、真実味が無くて。
『今日が丸一日、ホントみたいな夢だったら…どうしましょう……』
「……そーだな…」
『あたし、覚めなくてもいいかも知れないです…。』
あたしの言葉に、ツナさんがくすっと笑ったのが聞こえた。
いつもなら「笑わないで」って反論するけど、今だけは。
「じゃあ、確認しようか。」
『え…?』
気付けば、それまで座っていたツナさんは立ちあがってて。
狭いゴンドラの中で、後ろから抱きしめられる。
『きゅっ、急に何を…』
「本物、だろ?」
『あ……』
確かに、本物。
この感触、温かさ、全部全部。
『(うわっ…///)』
考えてみたら、今は完全に2人きり。
とんでもなく心臓に悪い状況なんだと認識する。
『は、放して下さいよ……恥ずかしい、です…』
「それもそーだな、これじゃ柚子の顔見れないし。」
『み、見ないでくださいっ…!』
解放されたはいいものの、ツナさんは回り込んであたしの顔を覗こうとする。
慌てて逸らそうとすれば、スッと頬に添えられるツナさんの手。
『つ、ツナさ……』
「柚子、」
静かにあたしを呼ぶツナさんの瞳には、夕陽のオレンジが混ざっていた。
綺麗で綺麗で、見とれてしまう。
『あ、あの…』
「好きだよ。」
『(うっ…///)』
「俺も今、夢みたいな気分だから……確かめさせろ。」
『え、あ…』
どんどん、どんどん、顔と顔が近づいて。
緊張のあまり目を閉じる。
次の瞬間重なった唇は、優しくて、少し苦いコーヒーの味がした。
ツーショット
横暴ボスに出会ったあたしは、きっと世界一幸せな家政婦
continue...