🎼本編
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『んーと、次の角を右…』
こんにちは、柚子です。
只今、内藤邸から携帯のナビ見ながら帰宅途中です。
マングスタさんの言うことに一理あったのは分かる。
家政婦を任されたせいでフルートの練習量に影響が出てるのは確かだし。
けど、今までそれで何とかなってたんだから、大丈夫。
早く帰ろう。そして……ツナさんの話を聞こう。
---
------
---------------
『ただいま、です…』
「遅い。」
『ひょえっ!!』
7号館の裏口ドアを開けた途端、あたしの目の前に腕組みして立ってるツナさん。
さすがに吃驚で、一歩後退る。
「こっちの身にもなれっての。」
『………あ、すみません!』
「今の間は何だよ、………柚子?」
だってツナさん、そっぽ向いて言うんだもの。
何だかちょっと嬉しくてニヤけちゃった。
ツナさんに見られないように下を見て謝ったけど、すぐに覗きこまれて。
「……何笑ってんだよ。」
『い、いえ!何でもないです!お気になさらず!』
いつまでも玄関にいるのは邪魔だし、部屋に荷物だけ置いて来よう。
そう思って駆けだすあたしを、ツナさんは引きとめる。
「あ、そうそう。」
『へ?』
「柚子を追い回した矢野って奏者だけどさ、」
『ま、まさか仕返しみたいなことしたんですか!?』
「んー、まぁそんなトコ。」
『だ、ダメですっ!』
「お前……指取られそうになったクセによくそんな風に言えるな……お人よし。」
『そ、そーゆー問題じゃありませんっ!あの人だって…フルート好きなのは同じですし……だから、一概に悪いとは言えないかもって…』
「大丈夫だって。」
ツナさんが少し笑いながらそう言ったから、首を傾げる。
大丈夫ってことは……彼への仕返しはしなかった、と?
め、珍しい!!
「いや、一発ぶん殴っただけ。」
『えぇっ!!?』
「あ、いや……3発だったかな?」
『なっ…』
「けど雲雀さんも殴ってたし…」
『ひっ、雲雀さんですか!?』
うわぁ、呆れた…
ツナさん自身が被害にあったワケじゃないのに、何てことを…
「当たり前だろ。俺、柚子のフルート好きだし、聴けなくなるのは困る。」
『(うっ……///)』
……ずるい。
何この不意打ち。
やっぱりあたし、ツナさんと会話する時は油断しちゃダメだ。
急激に恥ずかしくなって背を向ける。
『あ、ありがとうございますっ……荷物、置いて来るんで…その、ツナさんの話、聞かせて下さい。』
「……分かった、3階のテラスで待ってる。」
『はいっ。』
部屋に戻ったあたしは、即刻下だけジャージに履き替えた。
そして、深呼吸を一つ。
明るくて暗い話……どんな話なのか見当もつかない。
けど、あたしが聞くべき話ってことは、あたしが関わってるってことだ。
あたしには、大学以前にツナさんに出会った記憶は無い。
普通覚えてるもん、あんな真っ黒な人に会ったら。
というよりまず…カッコいいワケだし……
『………よしっ、』
自分で頬をぺちっと叩く。
気合いを入れ直して、3階のテラスに向かった。
-----
---------
テラスにある2人かけのベンチに、ツナさんは座っていた。
このテラスはUVカットの屋根がついていて、あたしも結構気に入ってる。
隣には、いつも洗濯物を干すベランダが見える。
「ココ、俺が増設したんだ。」
『え!?大学のキャンパスなのにですか!?』
「住むって決めた時点で、ちょっとでも寛ぎ空間作ろうと思ってさ。」
…さすがツナさん、というところだろうか。
でも、センスは良いと思う。
『あ、お話って長くなりますか?』
「……どーだろ、長めかも知れない。」
『でしたら、何かお飲み物お持ちしましょうか?』
発言してからハッとする。
すっかり家政婦しみついちゃったなぁって。
するとツナさんはこっちを向いて。
「柚子は何か欲しいのか?飲み物。」
『いえ、ツナさんが要らないならあたしも別に…』
「じゃあいい、こっち座れよ。」
『あ、はい。』
改めて隣に座ると、少し緊張する。
本当は、関わるハズがなかった世界の人達。
その頂点にいる、あたしの雇い主。
ふと、ツナさんが空を見上げてボーッとしているのに気付く。
話し始める気配がなかったから、問いかけた。
『ツナさん…どうかしました?』
「簡潔に話した方が、いいかな…」
『え?』
「何か、さ……ちゃんと組み立てといたハズなのに、柚子が隣に座った瞬間、ふっ飛んじまった。」
ツナさんにも、そんなことあるんだ…。
プレゼンや発表会の前みたいな、緊張感……
『でしたら、思いついたトコから聞かせて下さい。』
「……柚子…」
『あたしは、その為にも内藤さん家から帰って来たんですから。』
「…バラバラになるかも知れないけど。」
『構いません。聞いた話を頭の中で纏めるくらい出来ますし♪』
次の瞬間、ツナさんはふっと微笑を零した。
思わず見惚れてしまったあたしの手に、ツナさんの手が重なる感触。
『ツナさ…』
「俺は…お前に背中押されてばっかだな……」
『え?あ、あたしは別にそんな………わわっ、』
喋ってる途中で抱き寄せられて、あたしは軽くテンパった。
え?え!?な、何で!?
今の流れでどうしていきなりこうなるの!?
『ちょっ、あのっ…///』
「あー……もうダメだ、俺。」
ため息まじりにそう言うツナさんは、あたしを解放する気配を見せない。
急上昇する顔の熱が、ツナさんにバレちゃうんじゃないかと思った。
毎度のことながら唐突過ぎる…!
少しはこっちの身にもなって欲しい!!
……と、色々ぶつけたい文句はあったけど、ツナさんの呟きが気にならなかったと言えばウソになる。
仕方なく聞き返してみた。
『あの…何がダメなんですか?』
本当は、今のあたしだって心臓ダメになりそうなのに。
どーしてツナさんの心配しなくちゃいけないのさ、まったくもう。
こぼすのは心の中だけにしておいて、返答を待った。
そしてその返答で、あたしは数秒間フリーズすることになる。
「俺……柚子のこと好き過ぎてヤバい…」
『は、い…?』
どうしたんだろう…
あ、もしかして、これが俗に言う“キャラ崩壊”ですか?
それとも、とうとうあたしの耳が都合のいい単語に変換する機能を持ってしまったとか?
「さっき柚子が言ったじゃんか、“思いついたトコから話せ”って。だから。」
『いえ、でも、あのっ…それは……///』
抱きしめられたままの状態。
あたしはツナさんの表情を見れないし、ツナさんがあたしの真っ赤な顔を見ることもない。
けど、それでも、あたしには衝撃と刺激が強すぎた。
そんな方面の心の準備なんて全くしてなかったし…
「ずっとずっと…気付いて欲しいと思いながら、このままの距離でもって思ってた。自然に、普通の雇い主っぽく振舞ってればってさ。」
えっとー…
心の中で言わせて頂きますと……
ツナさんは全然普通の雇い主じゃありませんでした。
普通の雇い主は腹黒スマイルで脅したりしませんもん…!
「けど段々それが難しくなってきて……俺は柚子が好きだから…自然に振舞おうとすればする程、こうして…触れていたいって、思っちまって……」
あたしは、夢でも見てるんでしょうか…?
抱擁も、甘い台詞もしょっちゅうだったのに、ツナさんの今の言葉が全部、真剣そのものだって思う……
いつもと違ってツナさんの得意気な顔が見えないからか、
それとも…
あぁ、どうしよう、
今のあたし、頭の中が混乱し過ぎてぽわぽわしてる。
「……なぁ、柚子、」
『は、はいっ…』
呼びかけに応じると、ツナさんは腕を少しだけ解いて、正面からあたしを見つめた。
慌てて顔ごと逸らそうとしたけど、遮るように顎を軽く持ち上げられて。
「俺の気持ち、受け取ってくれる?」
『えっ………………ふっ…!??』
気付いたら、今までで一番、ツナさんの顔が近くにあった。
え、何これ…
もしかして、キス、されてる…!?///
その結論に思考が行きついた瞬間、心拍数が尋常じゃなくなった。
ゆっくりと啄ばまれる柔らかな感覚が、次第に脳を陶酔させていく。
『んっ……』
いつの間にか、あたしは目を閉じていた。
だんだんと息がしづらくなって、手探りでツナさんのスーツをギュッと握る。
すると、唇に触れていた熱は名残惜しそうに離れていった。
『あ、の……///』
「分かった?」
主語が抜けてます、とツッコミを入れられる雰囲気じゃない。
恥ずかしさでいっぱいのあたしは、ツナさんの問いにも答えず顔を隠すように俯いた。
「俺、言葉にするより行動で示したい方なんだけど………しょーがねーから言ってやるよ。」
『へ…?』
「好きだよ柚子……愛してる。」
見開かれたあたしの目から、
涙が一筋、流れ落ちた。
目の前にいるツナさんは、本物。
この心臓の鼓動は、本物。
まだ微かに残る唇の感触も、本物。
あぁでもウソみたい。
限りなく本物に近い夢だったらどうしよう、
あたし、相当頭ヤバいよ。
「柚子、おい柚子…?」
ツナさんの声が、何だか遠くから聞こえるみたい。
流れた涙は1粒だったけど、それが何の感情なのか自分でも分からなかった。
あたし今、どんな顔してるんだろう…
真っ赤なのは確か。
焦点合ってないのも確か。
結構おかしな表情なんじゃ………
ブニッ、
『ふぎゃっ!!』
ポーッとした脳みそでゆっくりと現状解析をしていたら、急に両頬から痛みが襲った。
我に帰ると、ツナさんがムッとした表情であたしの頬をつねってて。
『な、何するんですかぁっ!!』
「ボーッとし過ぎだったから、戻って来させた。」
『だからって…!』
「柚子がボーッとしてちゃ、俺が話せないだろ。」
『あ、すみませんっ!』
「ったく……」
その時、そっぽを向いたツナさんの頬が紅潮してるように見えて、
何だか少し嬉しくなってしまった。
大体、突然キス…されて、愛してるって言われて……
フリーズするなっていうのは無理は話です。
「で?受け取れた?」
『えっ、あ、えっと………はいっ…』
---「俺の気持ち、受け取ってくれる?」
その言葉の直後だったんだ、キスも、告白も。
ってことは、つまり………
『(うわぁぁ恥ずかしいぃぃ…!///)』
「んじゃ、柚子の返事は俺の話の後に聞くからな。」
その言葉に大きく頷くと、ツナさんは満足そうにあたしの髪を撫でた。
そして、空を見上げて口を開く。
「俺の話は……俺が、柚子を好きになったキッカケの話。」
『キッカケ…?』
「あぁ。あれは……5年前、俺が中2の夏休みを迎えて間もない頃…」
『(中学2年の、夏休み…)』
予感がした。
きっとあたしが今まで思っていたより、暗い話だ。
14歳の夏、それは……
あたしのお父さんが末期の胃がんだと診断された時期――――
ナチュラル
記憶の糸を手繰り寄せ、あたしと貴方の5年前へと遡る。
continue…
こんにちは、柚子です。
只今、内藤邸から携帯のナビ見ながら帰宅途中です。
マングスタさんの言うことに一理あったのは分かる。
家政婦を任されたせいでフルートの練習量に影響が出てるのは確かだし。
けど、今までそれで何とかなってたんだから、大丈夫。
早く帰ろう。そして……ツナさんの話を聞こう。
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『ただいま、です…』
「遅い。」
『ひょえっ!!』
7号館の裏口ドアを開けた途端、あたしの目の前に腕組みして立ってるツナさん。
さすがに吃驚で、一歩後退る。
「こっちの身にもなれっての。」
『………あ、すみません!』
「今の間は何だよ、………柚子?」
だってツナさん、そっぽ向いて言うんだもの。
何だかちょっと嬉しくてニヤけちゃった。
ツナさんに見られないように下を見て謝ったけど、すぐに覗きこまれて。
「……何笑ってんだよ。」
『い、いえ!何でもないです!お気になさらず!』
いつまでも玄関にいるのは邪魔だし、部屋に荷物だけ置いて来よう。
そう思って駆けだすあたしを、ツナさんは引きとめる。
「あ、そうそう。」
『へ?』
「柚子を追い回した矢野って奏者だけどさ、」
『ま、まさか仕返しみたいなことしたんですか!?』
「んー、まぁそんなトコ。」
『だ、ダメですっ!』
「お前……指取られそうになったクセによくそんな風に言えるな……お人よし。」
『そ、そーゆー問題じゃありませんっ!あの人だって…フルート好きなのは同じですし……だから、一概に悪いとは言えないかもって…』
「大丈夫だって。」
ツナさんが少し笑いながらそう言ったから、首を傾げる。
大丈夫ってことは……彼への仕返しはしなかった、と?
め、珍しい!!
「いや、一発ぶん殴っただけ。」
『えぇっ!!?』
「あ、いや……3発だったかな?」
『なっ…』
「けど雲雀さんも殴ってたし…」
『ひっ、雲雀さんですか!?』
うわぁ、呆れた…
ツナさん自身が被害にあったワケじゃないのに、何てことを…
「当たり前だろ。俺、柚子のフルート好きだし、聴けなくなるのは困る。」
『(うっ……///)』
……ずるい。
何この不意打ち。
やっぱりあたし、ツナさんと会話する時は油断しちゃダメだ。
急激に恥ずかしくなって背を向ける。
『あ、ありがとうございますっ……荷物、置いて来るんで…その、ツナさんの話、聞かせて下さい。』
「……分かった、3階のテラスで待ってる。」
『はいっ。』
部屋に戻ったあたしは、即刻下だけジャージに履き替えた。
そして、深呼吸を一つ。
明るくて暗い話……どんな話なのか見当もつかない。
けど、あたしが聞くべき話ってことは、あたしが関わってるってことだ。
あたしには、大学以前にツナさんに出会った記憶は無い。
普通覚えてるもん、あんな真っ黒な人に会ったら。
というよりまず…カッコいいワケだし……
『………よしっ、』
自分で頬をぺちっと叩く。
気合いを入れ直して、3階のテラスに向かった。
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テラスにある2人かけのベンチに、ツナさんは座っていた。
このテラスはUVカットの屋根がついていて、あたしも結構気に入ってる。
隣には、いつも洗濯物を干すベランダが見える。
「ココ、俺が増設したんだ。」
『え!?大学のキャンパスなのにですか!?』
「住むって決めた時点で、ちょっとでも寛ぎ空間作ろうと思ってさ。」
…さすがツナさん、というところだろうか。
でも、センスは良いと思う。
『あ、お話って長くなりますか?』
「……どーだろ、長めかも知れない。」
『でしたら、何かお飲み物お持ちしましょうか?』
発言してからハッとする。
すっかり家政婦しみついちゃったなぁって。
するとツナさんはこっちを向いて。
「柚子は何か欲しいのか?飲み物。」
『いえ、ツナさんが要らないならあたしも別に…』
「じゃあいい、こっち座れよ。」
『あ、はい。』
改めて隣に座ると、少し緊張する。
本当は、関わるハズがなかった世界の人達。
その頂点にいる、あたしの雇い主。
ふと、ツナさんが空を見上げてボーッとしているのに気付く。
話し始める気配がなかったから、問いかけた。
『ツナさん…どうかしました?』
「簡潔に話した方が、いいかな…」
『え?』
「何か、さ……ちゃんと組み立てといたハズなのに、柚子が隣に座った瞬間、ふっ飛んじまった。」
ツナさんにも、そんなことあるんだ…。
プレゼンや発表会の前みたいな、緊張感……
『でしたら、思いついたトコから聞かせて下さい。』
「……柚子…」
『あたしは、その為にも内藤さん家から帰って来たんですから。』
「…バラバラになるかも知れないけど。」
『構いません。聞いた話を頭の中で纏めるくらい出来ますし♪』
次の瞬間、ツナさんはふっと微笑を零した。
思わず見惚れてしまったあたしの手に、ツナさんの手が重なる感触。
『ツナさ…』
「俺は…お前に背中押されてばっかだな……」
『え?あ、あたしは別にそんな………わわっ、』
喋ってる途中で抱き寄せられて、あたしは軽くテンパった。
え?え!?な、何で!?
今の流れでどうしていきなりこうなるの!?
『ちょっ、あのっ…///』
「あー……もうダメだ、俺。」
ため息まじりにそう言うツナさんは、あたしを解放する気配を見せない。
急上昇する顔の熱が、ツナさんにバレちゃうんじゃないかと思った。
毎度のことながら唐突過ぎる…!
少しはこっちの身にもなって欲しい!!
……と、色々ぶつけたい文句はあったけど、ツナさんの呟きが気にならなかったと言えばウソになる。
仕方なく聞き返してみた。
『あの…何がダメなんですか?』
本当は、今のあたしだって心臓ダメになりそうなのに。
どーしてツナさんの心配しなくちゃいけないのさ、まったくもう。
こぼすのは心の中だけにしておいて、返答を待った。
そしてその返答で、あたしは数秒間フリーズすることになる。
「俺……柚子のこと好き過ぎてヤバい…」
『は、い…?』
どうしたんだろう…
あ、もしかして、これが俗に言う“キャラ崩壊”ですか?
それとも、とうとうあたしの耳が都合のいい単語に変換する機能を持ってしまったとか?
「さっき柚子が言ったじゃんか、“思いついたトコから話せ”って。だから。」
『いえ、でも、あのっ…それは……///』
抱きしめられたままの状態。
あたしはツナさんの表情を見れないし、ツナさんがあたしの真っ赤な顔を見ることもない。
けど、それでも、あたしには衝撃と刺激が強すぎた。
そんな方面の心の準備なんて全くしてなかったし…
「ずっとずっと…気付いて欲しいと思いながら、このままの距離でもって思ってた。自然に、普通の雇い主っぽく振舞ってればってさ。」
えっとー…
心の中で言わせて頂きますと……
ツナさんは全然普通の雇い主じゃありませんでした。
普通の雇い主は腹黒スマイルで脅したりしませんもん…!
「けど段々それが難しくなってきて……俺は柚子が好きだから…自然に振舞おうとすればする程、こうして…触れていたいって、思っちまって……」
あたしは、夢でも見てるんでしょうか…?
抱擁も、甘い台詞もしょっちゅうだったのに、ツナさんの今の言葉が全部、真剣そのものだって思う……
いつもと違ってツナさんの得意気な顔が見えないからか、
それとも…
あぁ、どうしよう、
今のあたし、頭の中が混乱し過ぎてぽわぽわしてる。
「……なぁ、柚子、」
『は、はいっ…』
呼びかけに応じると、ツナさんは腕を少しだけ解いて、正面からあたしを見つめた。
慌てて顔ごと逸らそうとしたけど、遮るように顎を軽く持ち上げられて。
「俺の気持ち、受け取ってくれる?」
『えっ………………ふっ…!??』
気付いたら、今までで一番、ツナさんの顔が近くにあった。
え、何これ…
もしかして、キス、されてる…!?///
その結論に思考が行きついた瞬間、心拍数が尋常じゃなくなった。
ゆっくりと啄ばまれる柔らかな感覚が、次第に脳を陶酔させていく。
『んっ……』
いつの間にか、あたしは目を閉じていた。
だんだんと息がしづらくなって、手探りでツナさんのスーツをギュッと握る。
すると、唇に触れていた熱は名残惜しそうに離れていった。
『あ、の……///』
「分かった?」
主語が抜けてます、とツッコミを入れられる雰囲気じゃない。
恥ずかしさでいっぱいのあたしは、ツナさんの問いにも答えず顔を隠すように俯いた。
「俺、言葉にするより行動で示したい方なんだけど………しょーがねーから言ってやるよ。」
『へ…?』
「好きだよ柚子……愛してる。」
見開かれたあたしの目から、
涙が一筋、流れ落ちた。
目の前にいるツナさんは、本物。
この心臓の鼓動は、本物。
まだ微かに残る唇の感触も、本物。
あぁでもウソみたい。
限りなく本物に近い夢だったらどうしよう、
あたし、相当頭ヤバいよ。
「柚子、おい柚子…?」
ツナさんの声が、何だか遠くから聞こえるみたい。
流れた涙は1粒だったけど、それが何の感情なのか自分でも分からなかった。
あたし今、どんな顔してるんだろう…
真っ赤なのは確か。
焦点合ってないのも確か。
結構おかしな表情なんじゃ………
ブニッ、
『ふぎゃっ!!』
ポーッとした脳みそでゆっくりと現状解析をしていたら、急に両頬から痛みが襲った。
我に帰ると、ツナさんがムッとした表情であたしの頬をつねってて。
『な、何するんですかぁっ!!』
「ボーッとし過ぎだったから、戻って来させた。」
『だからって…!』
「柚子がボーッとしてちゃ、俺が話せないだろ。」
『あ、すみませんっ!』
「ったく……」
その時、そっぽを向いたツナさんの頬が紅潮してるように見えて、
何だか少し嬉しくなってしまった。
大体、突然キス…されて、愛してるって言われて……
フリーズするなっていうのは無理は話です。
「で?受け取れた?」
『えっ、あ、えっと………はいっ…』
---「俺の気持ち、受け取ってくれる?」
その言葉の直後だったんだ、キスも、告白も。
ってことは、つまり………
『(うわぁぁ恥ずかしいぃぃ…!///)』
「んじゃ、柚子の返事は俺の話の後に聞くからな。」
その言葉に大きく頷くと、ツナさんは満足そうにあたしの髪を撫でた。
そして、空を見上げて口を開く。
「俺の話は……俺が、柚子を好きになったキッカケの話。」
『キッカケ…?』
「あぁ。あれは……5年前、俺が中2の夏休みを迎えて間もない頃…」
『(中学2年の、夏休み…)』
予感がした。
きっとあたしが今まで思っていたより、暗い話だ。
14歳の夏、それは……
あたしのお父さんが末期の胃がんだと診断された時期――――
ナチュラル
記憶の糸を手繰り寄せ、あたしと貴方の5年前へと遡る。
continue…