🎼本編
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「骸っ!」
「おや綱吉、どうしました?」
大きな音を立ててドアを開けたツナに、骸は若干ビクッと肩を震わせた。
そんな反応は気にも留めず、ツナは言う。
「今すぐ!大至急!何がなんでも!柚子が契約してる携帯会社のコンピュータに侵入しろ。」
「……理由は後で聞いた方が良さそうですね。」
「珍しく察しがいいな。」
「数分待って下さい。」
結局柚子は、一晩中待っても帰って来なかった。
もしかしたら図書館で居眠りして鍵閉められちまったのかと思って確認したけど、それも無駄足だった。
絶対におかしい……メールも返さないなんて。
「出ましたよ。」
「何処に居る?」
「携帯と同じ場所に柚子が居るとするのなら……ここからさほど離れてない場所…」
「もう少し地図、拡大してくれ。」
「はい。」
骸が拡大させた、その瞬間。
フッ…、
「な、何だ…?信号が消えた…」
「どうやら…電源が切られたようです。」
「このタイミングでかよ!!一体誰が…!」
---
-------
--------------
「危なかったですな。」
同じ頃、トマゾファミリー・内藤邸。
柚子の携帯を握ったマングスタが、ため息を一つ。
「パンテーラ!何故電源を切っておかないのです!」
怒鳴られた彼女は表情一つ変えずに眠っている柚子を指差す。
正確には、柚子にしっかりと握られた自身の右手。
そのせいで、机の上の携帯に手が届かなかった…と訴えているようだ。
「仕方ありませんなぁ……彼女の熱はどうですかな?」
その問いに、今度は彼女は一度だけ頷く。
大丈夫、ということを示していると察したマングスタは朝食を持って来るために退室した。
----
--------
『………ん…』
気がつくと、頭痛はだいぶ引いていた。
けど、見たことのない天井に少しだけ戸惑う。
『……あ、ごめんなさい!』
あたしが寝ていたソファの横に座る女の子。
その手をがっしりと握ってしまってるのに気付いて、慌てて放した。
女の子はフルフルっと首を横に振り、水を差し出す。
喋れない、のかな…?
『あの、ありがとう……出来れば、お名前を聞きたいんですけど…』
それでもジーッと黙ってる彼女に、あたしはハッとした。
『あ、あたしは牧之原柚子って言います。あの…助けてくれて、本当にありがとうございました…』
そこでふと、他の人はどこにいるんだろうと疑問に思う。
確か、マングスタさんと…名前知らないけど小さい男の子、
あとは……トマゾファミリー(だっけ?)のボス、内藤ロンシャンさん。
キョロキョロするあたしを見て、彼女は向こうの机の上にあった鞄を持ってきてくれた。
どうやら荷物を捜していると勘違いされたらしい。
『えっと、ですね……内藤さん達にもお礼言いたいと思うんですけど……』
あたしの申し出に彼女はコクンと首を縦に振り、退室した。
呼んできてくれるのかな…?
『って、いけない!!』
今っていつ!?
カーテンの向こうが明るいってことは……日付変わっちゃった!!?
ヤバい…ツナさんに連絡してないよ…!!
若干、というかかなり焦りながら鞄の中の携帯を捜す。
ところが……
『あれ…?』
まさか、落とした…!?
そんなワケない。
だって……意識は朦朧としてたけど、机の上で携帯が光ってたのは覚えてる。
もしかして、トマゾはボンゴレの敵ファミリー…?
ガチャ、
「あ!柚子ちゃん起きたんだね!!良かった良かった!!」
『内藤さん…あの、ソファ貸して下さりどうもありがとうございました。』
「いーっていーって!俺、ボスだし!そーだ、ご飯食べる!?元気付けないとね!!」
『いえいえ!お気遣いなく……』
ぐ~~~っ…
『(あたしのバカ…(泣)』
「お腹空いてるじゃん!今持って来させるからね、マングスター!!」
内藤さんが大声で呼ぶと、細長い人がサンドウィッチを持ってやってきた。
コンソメスープもついている。
うわ、良い香り…
「食べていーよ!」
『あ、ありがとうございます。いただきます…』
内藤さん達は、あたしがツナさんの婚約者だって本気で思ってるのかな?
だったらそれなりの振舞いしなくちゃいけないかも…。
『すみません、お伺いしたいのですが…』
「ん?なになに!?」
『あたしの携帯…知りませんか?鞄に入ってたハズなんですけど、無くて。』
ビクッ、
………素人のあたしでも分かる。
今、マングスタさんが思いっきり動揺した。
「柚子さんの携帯は、ですな……雨に濡れて少し故障していたので…治しておりますぞ。」
『(目が泳いでる…)』
でもどうしよう…理由はともかく連絡できないのはマズいなぁ…。
『あの、でしたらお電話貸して頂けませんか?』
「も、もしやボンゴレにかけるのではないでしょうな!!?」
『きゃあっ!』
ガシッと肩を掴まれる。
こ、怖いけど冷静に返答するのよ、柚子!
『えぇ、もちろん……ツナさんに、貴方がたに助けて頂いたことをお伝えしなくては…』
「それでしたら!このマングスタが連絡しておきますぞ!!」
『あ、それに!食事の後に帰りますって伝えたいですし…』
「なんと!もう帰るのですか!?」
『あまり長居は出来ません。家事とか、あたしの仕事なので…』
マングスタさんはそこで黙る。
貸してもらえるかな、電話……
てゆーか携帯も返してもらいたいんだけど……
ちょっと期待しながら待っていたあたしに、マングスタさんはとんでもない返答をした。
「………帰る必要が、何処にありますかな?」
『…え?』
あたしの肩に置いていた手を放し、マングスタさんは言う。
「貴女のことを色々と調べましたぞ。優れたフルートの才能をお持ちであるにも関わらず、変わった大学生活を送っておられる。」
『えぇ、まぁ…』
「並盛キャンパス7号館にて、大人数で生活し、婚約者としてだけでなく家政婦に命ぜられてしまった。それゆえに、自由も制限されている。」
自由を、制限…?
そんな風に、考えたことも無かった……。
あたしはただ、自分から飛び込んでしまった状況は素直に受け入れて、目一杯楽しもうって思ってて…
「ココに居れば貴女は自由、大人数の炊事洗濯をせず好きなだけフルートに専念できますぞ。」
『好きなだけ、フルートに……』
そう、だよね…
本当はあたし、大学ではたくさん音楽の勉強して、お父さんみたいな一流の奏者に近づくことを目標にしてた。
授業だけじゃなく部活やサークルでも音楽に関わりたくて、器楽サークルを探した結果ツナさん達に出会った。
吃驚させられることも、納得いかないこともたくさんあったけど、でも…
『……いいえ、大丈夫です。』
「な、何故ですか!我らトマゾはボンゴレなんぞと違い、全力で貴女の音楽家への道を応援致しますぞ!!」
「柚子ちゃん、沢田ちゃんにいじめられてない!?」
俺なんて何度黙らされたことかー、と内藤さんは苦笑する。
どうやら彼は、ツナさんと同じ中学出身らしい。
『いじめられてる分だけ、いえそれ以上に…もてなされてますから♪』
「そっかぁ…ちょー残念。柚子ちゃんには俺のファミリーに入ってもらいたいなって思ったのに。」
『え?あの、どうしてですか?』
「可愛いからー!」
明るい笑顔でそう言う内藤さんに、照れ隠しの苦笑しか返せなかった。
こうしてる間にも、あたしの中にぼんやりと存在してる虚無感……
きっと、ツナさんがいないから。
『あの…宜しければ、彼女の名前教えてくれませんか?』
「ん?あぁ!パンテーラってゆーんだよ!!ちなみに、もう一人のファミリーはルンガ!あのちっこいヤツね!」
『パンテーラさんと、ルンガさん、ですね。ありがとうございます。』
隣に座る彼女の方に改めて向き直り、お辞儀をした。
『パンテーラさん、助けてくれてありがとうございました。マングスタさんとルンガさんにも感謝しています。』
「勧誘失敗ですか…仕方ありませんな、コレはお返ししますぞ。」
『あ!』
マングスタさんはあたしの携帯を差し出す。
やっぱり、ボンゴレとトマゾは敵対してたの、かな?
その割には、ロープで縛られなかったし、脅しもなかったし……変なの。
不思議に思いながら電源を入れる。
「柚子ちゃん柚子ちゃん、携帯光ってるよ!」
『着信……14件…』
その瞬間、ツナさんの真っ黒笑顔が浮かんだのは、言うまでも無い。
軽く青ざめるあたしを見て、内藤さんは「熱が再発!?」と騒いだ。
『ちょ、ちょっと失礼します!電話してきます!』
「あっ、柚子ちゃん…」
急いで廊下に出て、ツナさんに電話する。
ヤバいヤバいヤバい…!!
一晩中音信不通だったんだもんね、そりゃー怒られるよね…!
あぁ、憂鬱…
でも連絡しなくちゃ始まらない。
ツナさんの番号に、かけた。
-「もしもし。」
『あっ…ツナさん!』
-「柚子、何処にいるんだよ。まさか、捕まってるなんて言わないだろうな?」
『すみません、捕まりそうだったところを保護されてました…』
恐る恐る状況説明をしたら、盛大なため息が聞こえた。
その音にすらビビってしまうあたし。
-「ホントだ、見つかった。」
『へ?何がですか?』
-「柚子の携帯。電源さえ入ってれば位置が分かるから。」
『そ、それは警察の捜査で使うシステムなんじゃ…』
-「何か言った?」
『いえ何も!』
どうせツナさんのことだ。
ハッキングとかして、あたしの携帯の位置調べたに違いない。
-「……それで、熱は?」
『えっ?』
-「熱は下がったのかって聞いてんだよ。」
『あ、はい!下がりました。もうすっかり元気です!』
-「…ならいい。早く帰ってこいよ。」
あれ?
まさかの…お咎め無しですか!?
うそ……ツナさん、熱あるのかな…?
-「あ、それと、」
『はいっ、』
-「ロンシャン…じゃなくてマングスタに言っといて、“次やったら攻め込むよ”って。」
『せ、攻め込む!?』
-「じゃあな柚子、帰るの…待ってっから。」
『え…』
ブチッ、ツーツー……
今、“待ってる”って……
その瞬間、頬がぽうっと熱くなって、自然に口元が緩んでしまった。
ツナさんてば、照れ隠しで切っちゃったのかな。
ちょっと可愛い♪
携帯を閉じて部屋に戻り、マングスタさんにツナさんからの伝言を伝えると、彼は目を大きくした。
攻め込む、なんて冗談だと思うけど……
それにしても、マングスタさんは何も悪いことしてないと思うんだけどなぁ…
“次やったら”って、まるで何かしたみたい。
それから、トマゾファミリーの皆さんと少しお話しして、紅茶も頂いた。
ツッコミ忘れてたけど、パンテーラさんが貸してくれた服はゴスロリっぽいワンピースで……
骸さんがいなくて本当に良かった、と思った。
---
--------
---------------
「柚子ちゃん、本当に帰っちゃうの?家政婦とか、大変じゃないの?」
『大丈夫です、もう慣れましたし。それに……』
口にするのは少し恥ずかしくて、鞄をギュッと握る。
『あたし、やっぱりボンゴレが……ツナさん達が好きなんです。』
だから頑張ろうって、決めた。
偽物の婚約者でも、ちょっとでも長くそばに居ようって。
真っ直ぐ7号館に帰って、ちゃんとツナさんの話を聞かなくちゃいけない。
「迷子にならない!?俺、送ってくよ!」
『いえ、携帯のナビありますし。お手数かけるワケにはいきませんので…ありがとうございます。』
「柚子ちゃん…いー子だね!沢田ちゃんが大事にしてるの分かったよ!!」
『大事に、ですか!?だと、いいんですけど…』
苦笑してから、もう一度お辞儀する。
と、その時。
「ん?なになに?どしたのルンガ?」
内藤さんの服を引っ張り、何か訴えるルンガさん。
その口元に耳を近づけた内藤さんは、パアッと顔を輝かせた。
「あのね柚子ちゃん!ルンガがね、柚子ちゃんに応援ソングあげるって!!」
『あたしに…?』
「聞いてくれるかな?」
『あ、はい!もちろんっ!』
響き始めるベース音。
結局、ルンガさんとパンテーラさんの声は聞けなかったけど、
この音楽がきっと、彼らの言葉だと思うから。
明るくて、ドキドキする曲。
予測不可能なタイミングで転調が入って、元気が引っ張り出される感じがした。
『ルンガさん、ありがとうございました。とっても元気出ました!』
ほんの少しだけルンガさんが、笑ってくれたような気がした。
お土産ってことで、パンテーラさんに風車を一本貰い、あたしは帰路についた。
「………私が見立てた通りでしたな。」
「何が?」
去りゆく柚子の後ろ姿を見ながら、マングスタが言う。
「彼女は、か弱い乙女というには強すぎる意志をお持ちだった……トマゾに迎合しないのも、納得です。」
「そーだね!!まぁいんじゃない?」
広い庭に咲く花びらから、朝露がぽたりと一滴零れ落ちた。
ニヒリスティック
離れて初めて感じた虚無を、打ち消す為にあの場所へ帰る
continue...
「おや綱吉、どうしました?」
大きな音を立ててドアを開けたツナに、骸は若干ビクッと肩を震わせた。
そんな反応は気にも留めず、ツナは言う。
「今すぐ!大至急!何がなんでも!柚子が契約してる携帯会社のコンピュータに侵入しろ。」
「……理由は後で聞いた方が良さそうですね。」
「珍しく察しがいいな。」
「数分待って下さい。」
結局柚子は、一晩中待っても帰って来なかった。
もしかしたら図書館で居眠りして鍵閉められちまったのかと思って確認したけど、それも無駄足だった。
絶対におかしい……メールも返さないなんて。
「出ましたよ。」
「何処に居る?」
「携帯と同じ場所に柚子が居るとするのなら……ここからさほど離れてない場所…」
「もう少し地図、拡大してくれ。」
「はい。」
骸が拡大させた、その瞬間。
フッ…、
「な、何だ…?信号が消えた…」
「どうやら…電源が切られたようです。」
「このタイミングでかよ!!一体誰が…!」
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「危なかったですな。」
同じ頃、トマゾファミリー・内藤邸。
柚子の携帯を握ったマングスタが、ため息を一つ。
「パンテーラ!何故電源を切っておかないのです!」
怒鳴られた彼女は表情一つ変えずに眠っている柚子を指差す。
正確には、柚子にしっかりと握られた自身の右手。
そのせいで、机の上の携帯に手が届かなかった…と訴えているようだ。
「仕方ありませんなぁ……彼女の熱はどうですかな?」
その問いに、今度は彼女は一度だけ頷く。
大丈夫、ということを示していると察したマングスタは朝食を持って来るために退室した。
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『………ん…』
気がつくと、頭痛はだいぶ引いていた。
けど、見たことのない天井に少しだけ戸惑う。
『……あ、ごめんなさい!』
あたしが寝ていたソファの横に座る女の子。
その手をがっしりと握ってしまってるのに気付いて、慌てて放した。
女の子はフルフルっと首を横に振り、水を差し出す。
喋れない、のかな…?
『あの、ありがとう……出来れば、お名前を聞きたいんですけど…』
それでもジーッと黙ってる彼女に、あたしはハッとした。
『あ、あたしは牧之原柚子って言います。あの…助けてくれて、本当にありがとうございました…』
そこでふと、他の人はどこにいるんだろうと疑問に思う。
確か、マングスタさんと…名前知らないけど小さい男の子、
あとは……トマゾファミリー(だっけ?)のボス、内藤ロンシャンさん。
キョロキョロするあたしを見て、彼女は向こうの机の上にあった鞄を持ってきてくれた。
どうやら荷物を捜していると勘違いされたらしい。
『えっと、ですね……内藤さん達にもお礼言いたいと思うんですけど……』
あたしの申し出に彼女はコクンと首を縦に振り、退室した。
呼んできてくれるのかな…?
『って、いけない!!』
今っていつ!?
カーテンの向こうが明るいってことは……日付変わっちゃった!!?
ヤバい…ツナさんに連絡してないよ…!!
若干、というかかなり焦りながら鞄の中の携帯を捜す。
ところが……
『あれ…?』
まさか、落とした…!?
そんなワケない。
だって……意識は朦朧としてたけど、机の上で携帯が光ってたのは覚えてる。
もしかして、トマゾはボンゴレの敵ファミリー…?
ガチャ、
「あ!柚子ちゃん起きたんだね!!良かった良かった!!」
『内藤さん…あの、ソファ貸して下さりどうもありがとうございました。』
「いーっていーって!俺、ボスだし!そーだ、ご飯食べる!?元気付けないとね!!」
『いえいえ!お気遣いなく……』
ぐ~~~っ…
『(あたしのバカ…(泣)』
「お腹空いてるじゃん!今持って来させるからね、マングスター!!」
内藤さんが大声で呼ぶと、細長い人がサンドウィッチを持ってやってきた。
コンソメスープもついている。
うわ、良い香り…
「食べていーよ!」
『あ、ありがとうございます。いただきます…』
内藤さん達は、あたしがツナさんの婚約者だって本気で思ってるのかな?
だったらそれなりの振舞いしなくちゃいけないかも…。
『すみません、お伺いしたいのですが…』
「ん?なになに!?」
『あたしの携帯…知りませんか?鞄に入ってたハズなんですけど、無くて。』
ビクッ、
………素人のあたしでも分かる。
今、マングスタさんが思いっきり動揺した。
「柚子さんの携帯は、ですな……雨に濡れて少し故障していたので…治しておりますぞ。」
『(目が泳いでる…)』
でもどうしよう…理由はともかく連絡できないのはマズいなぁ…。
『あの、でしたらお電話貸して頂けませんか?』
「も、もしやボンゴレにかけるのではないでしょうな!!?」
『きゃあっ!』
ガシッと肩を掴まれる。
こ、怖いけど冷静に返答するのよ、柚子!
『えぇ、もちろん……ツナさんに、貴方がたに助けて頂いたことをお伝えしなくては…』
「それでしたら!このマングスタが連絡しておきますぞ!!」
『あ、それに!食事の後に帰りますって伝えたいですし…』
「なんと!もう帰るのですか!?」
『あまり長居は出来ません。家事とか、あたしの仕事なので…』
マングスタさんはそこで黙る。
貸してもらえるかな、電話……
てゆーか携帯も返してもらいたいんだけど……
ちょっと期待しながら待っていたあたしに、マングスタさんはとんでもない返答をした。
「………帰る必要が、何処にありますかな?」
『…え?』
あたしの肩に置いていた手を放し、マングスタさんは言う。
「貴女のことを色々と調べましたぞ。優れたフルートの才能をお持ちであるにも関わらず、変わった大学生活を送っておられる。」
『えぇ、まぁ…』
「並盛キャンパス7号館にて、大人数で生活し、婚約者としてだけでなく家政婦に命ぜられてしまった。それゆえに、自由も制限されている。」
自由を、制限…?
そんな風に、考えたことも無かった……。
あたしはただ、自分から飛び込んでしまった状況は素直に受け入れて、目一杯楽しもうって思ってて…
「ココに居れば貴女は自由、大人数の炊事洗濯をせず好きなだけフルートに専念できますぞ。」
『好きなだけ、フルートに……』
そう、だよね…
本当はあたし、大学ではたくさん音楽の勉強して、お父さんみたいな一流の奏者に近づくことを目標にしてた。
授業だけじゃなく部活やサークルでも音楽に関わりたくて、器楽サークルを探した結果ツナさん達に出会った。
吃驚させられることも、納得いかないこともたくさんあったけど、でも…
『……いいえ、大丈夫です。』
「な、何故ですか!我らトマゾはボンゴレなんぞと違い、全力で貴女の音楽家への道を応援致しますぞ!!」
「柚子ちゃん、沢田ちゃんにいじめられてない!?」
俺なんて何度黙らされたことかー、と内藤さんは苦笑する。
どうやら彼は、ツナさんと同じ中学出身らしい。
『いじめられてる分だけ、いえそれ以上に…もてなされてますから♪』
「そっかぁ…ちょー残念。柚子ちゃんには俺のファミリーに入ってもらいたいなって思ったのに。」
『え?あの、どうしてですか?』
「可愛いからー!」
明るい笑顔でそう言う内藤さんに、照れ隠しの苦笑しか返せなかった。
こうしてる間にも、あたしの中にぼんやりと存在してる虚無感……
きっと、ツナさんがいないから。
『あの…宜しければ、彼女の名前教えてくれませんか?』
「ん?あぁ!パンテーラってゆーんだよ!!ちなみに、もう一人のファミリーはルンガ!あのちっこいヤツね!」
『パンテーラさんと、ルンガさん、ですね。ありがとうございます。』
隣に座る彼女の方に改めて向き直り、お辞儀をした。
『パンテーラさん、助けてくれてありがとうございました。マングスタさんとルンガさんにも感謝しています。』
「勧誘失敗ですか…仕方ありませんな、コレはお返ししますぞ。」
『あ!』
マングスタさんはあたしの携帯を差し出す。
やっぱり、ボンゴレとトマゾは敵対してたの、かな?
その割には、ロープで縛られなかったし、脅しもなかったし……変なの。
不思議に思いながら電源を入れる。
「柚子ちゃん柚子ちゃん、携帯光ってるよ!」
『着信……14件…』
その瞬間、ツナさんの真っ黒笑顔が浮かんだのは、言うまでも無い。
軽く青ざめるあたしを見て、内藤さんは「熱が再発!?」と騒いだ。
『ちょ、ちょっと失礼します!電話してきます!』
「あっ、柚子ちゃん…」
急いで廊下に出て、ツナさんに電話する。
ヤバいヤバいヤバい…!!
一晩中音信不通だったんだもんね、そりゃー怒られるよね…!
あぁ、憂鬱…
でも連絡しなくちゃ始まらない。
ツナさんの番号に、かけた。
-「もしもし。」
『あっ…ツナさん!』
-「柚子、何処にいるんだよ。まさか、捕まってるなんて言わないだろうな?」
『すみません、捕まりそうだったところを保護されてました…』
恐る恐る状況説明をしたら、盛大なため息が聞こえた。
その音にすらビビってしまうあたし。
-「ホントだ、見つかった。」
『へ?何がですか?』
-「柚子の携帯。電源さえ入ってれば位置が分かるから。」
『そ、それは警察の捜査で使うシステムなんじゃ…』
-「何か言った?」
『いえ何も!』
どうせツナさんのことだ。
ハッキングとかして、あたしの携帯の位置調べたに違いない。
-「……それで、熱は?」
『えっ?』
-「熱は下がったのかって聞いてんだよ。」
『あ、はい!下がりました。もうすっかり元気です!』
-「…ならいい。早く帰ってこいよ。」
あれ?
まさかの…お咎め無しですか!?
うそ……ツナさん、熱あるのかな…?
-「あ、それと、」
『はいっ、』
-「ロンシャン…じゃなくてマングスタに言っといて、“次やったら攻め込むよ”って。」
『せ、攻め込む!?』
-「じゃあな柚子、帰るの…待ってっから。」
『え…』
ブチッ、ツーツー……
今、“待ってる”って……
その瞬間、頬がぽうっと熱くなって、自然に口元が緩んでしまった。
ツナさんてば、照れ隠しで切っちゃったのかな。
ちょっと可愛い♪
携帯を閉じて部屋に戻り、マングスタさんにツナさんからの伝言を伝えると、彼は目を大きくした。
攻め込む、なんて冗談だと思うけど……
それにしても、マングスタさんは何も悪いことしてないと思うんだけどなぁ…
“次やったら”って、まるで何かしたみたい。
それから、トマゾファミリーの皆さんと少しお話しして、紅茶も頂いた。
ツッコミ忘れてたけど、パンテーラさんが貸してくれた服はゴスロリっぽいワンピースで……
骸さんがいなくて本当に良かった、と思った。
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「柚子ちゃん、本当に帰っちゃうの?家政婦とか、大変じゃないの?」
『大丈夫です、もう慣れましたし。それに……』
口にするのは少し恥ずかしくて、鞄をギュッと握る。
『あたし、やっぱりボンゴレが……ツナさん達が好きなんです。』
だから頑張ろうって、決めた。
偽物の婚約者でも、ちょっとでも長くそばに居ようって。
真っ直ぐ7号館に帰って、ちゃんとツナさんの話を聞かなくちゃいけない。
「迷子にならない!?俺、送ってくよ!」
『いえ、携帯のナビありますし。お手数かけるワケにはいきませんので…ありがとうございます。』
「柚子ちゃん…いー子だね!沢田ちゃんが大事にしてるの分かったよ!!」
『大事に、ですか!?だと、いいんですけど…』
苦笑してから、もう一度お辞儀する。
と、その時。
「ん?なになに?どしたのルンガ?」
内藤さんの服を引っ張り、何か訴えるルンガさん。
その口元に耳を近づけた内藤さんは、パアッと顔を輝かせた。
「あのね柚子ちゃん!ルンガがね、柚子ちゃんに応援ソングあげるって!!」
『あたしに…?』
「聞いてくれるかな?」
『あ、はい!もちろんっ!』
響き始めるベース音。
結局、ルンガさんとパンテーラさんの声は聞けなかったけど、
この音楽がきっと、彼らの言葉だと思うから。
明るくて、ドキドキする曲。
予測不可能なタイミングで転調が入って、元気が引っ張り出される感じがした。
『ルンガさん、ありがとうございました。とっても元気出ました!』
ほんの少しだけルンガさんが、笑ってくれたような気がした。
お土産ってことで、パンテーラさんに風車を一本貰い、あたしは帰路についた。
「………私が見立てた通りでしたな。」
「何が?」
去りゆく柚子の後ろ姿を見ながら、マングスタが言う。
「彼女は、か弱い乙女というには強すぎる意志をお持ちだった……トマゾに迎合しないのも、納得です。」
「そーだね!!まぁいんじゃない?」
広い庭に咲く花びらから、朝露がぽたりと一滴零れ落ちた。
ニヒリスティック
離れて初めて感じた虚無を、打ち消す為にあの場所へ帰る
continue...