🎼本編
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審査委員長さんは、父の知り合いだった。
その事実にあたしは唖然とするばかり。
「懐かしい旋律を感じていたんだ。しかしところどころ君自身の特徴があってね、確信には至らなかった。」
彼の話を聞いているうちに、今度は涙がこみ上げて来る。
「このフルート界で、我々は惜しい人を亡くしてしまった……あんなにも素晴らしい奏者は、この先100年は現れないと……」
『覚えてて下さったんですか…!?父のフルート……』
もう、5年も前なのに。
家族の他にも、ちゃんと記憶してくれてる人がいた。
それだけで、凄く凄く嬉しい。
「勿論だとも!何せ、彼が初めてだったからね。エキシビジョンで弾く曲を、その場で決めて貰ってたのは。」
『えぇっ!?』
審査委員長さんが言うには、父は舞台に立ってマイクを握り、問いかけたそうだ。
---「何を弾きましょうか?」
---「用意してきた曲があるだろう、それを。」
---「すみません、無いんです。最初から、貴方に決めて貰おうかと。」
当時も審査委員長を務めていた彼は、父の言葉に絶句した。
---「なら、君の好きな曲を弾いてくれ。」
---「私の好きな曲は……貴方がこの場に相応しいと思う曲です。」
「信じられなかったね、朽葉は純粋な笑顔を向けてそう返したんだ。」
『す、すみません…』
曲をその場で決めてくれ、なんて、大層な無茶振りだったと思う。
でも、ボンゴレ9代目に聞いた話とおんなじ。
父はいつも、“誰かが好きな曲”を愛してた。
「いや、謝ることはないさ。そこから朽葉は私のかけがえのない友になったからね。」
『そうなんですか!?』
「あぁ。ただ残念なことに、その友の最期を見届けられなかった……ちょうどツアーが重なってしまってね…」
『あ、いえ…』
そっか、だからあたしはこの人を知らなかったんだ…。
「それにしても、君の音は本当に朽葉そっくりだよ、柚子さん。」
『いえ、あたしなんてまだまだです…優勝も出来ませんでしたし…』
「あぁそれはね、一瞬音がぶれてしまったからだよ。柚子さん、途中で涙を流してたからね。」
『あ、やっぱり……すみません、感極まってしまって…つい、』
そうだよ、演奏中に泣いちゃったのは良くなかったなぁ…。
少ししゅんとすると、審査委員長さんは穏やかに笑って。
「いや、気にすることは無い。柚子さんならもっと上に行けるよ、朽葉がそうだったように。」
『あ…ありがとうございます!頑張ります!!』
ぺこりとお辞儀をするあたしを見て、彼は本当に懐かしそうに目を細めた。
「海から生まれたのは、風か……」
『え?』
「あ、いや……私は朽葉の音を海のようだと思っててね、広く深く、聴衆全てを包み込みそして…1人1人に染まる水のようだと。」
確かにそうだと思った。
父のフルートには、ハッキリとした個性があまり感じられない。
いつも、聴く人が一番好きな音だからだ。
「しかし柚子さん、君の音は……風のようだった。同じように広く果てしないが、聴衆全ての隣を抜けていく。いつもそこに在る空気、聴衆に染まらないが受け入れられる。」
『も、勿体ないお言葉ですっ…光栄です!!』
何度も何度もお辞儀をした。
父のフルートを覚えててくれた人に、褒められるなんて幸せすぎる。
「もし良ければ、今度私の主催する演奏会に来てくれないかね?ゲストとしてお招きしたいんだが。」
『あっ、あたしをですか!?銀賞でしたのに…』
「充分だよ、それに君は“名前”がある。何の反感も買わないさ。」
名前…?
それって、あたしが牧之原朽葉の娘だから…?
『あのっ…それ、伏せられませんか?』
「どういう事かね?」
『あたしは、父の力で1番のフルート奏者を目指すワケにはいかないんです。』
2世だから注目されるのは、簡単なこと。
だけど、それじゃ意味がないって知ってるから。
『ですから、その……』
「…良かった。」
『え?』
「意志が強いところも親譲りだね、それを聞いて安心した。」
ぽかんとするあたしに、審査委員長さんは言った。
試すような真似をしてすまない、と。
「事実、国内の大会で銀賞では…名を売るには少し足りないんだ。私は朽葉の分まで君を応援してあげたい。だから…もう少し大きな大会で金賞を取った時、また勧誘に来るよ。」
『あ…はいっ!ありがとうございます!!』
と、ここで審査委員長さんにスーツの人が歩み寄る。
「すみません、そろそろ…」
「あぁ、分かったよ。じゃあまた会える日を楽しみに待ってるよ、牧之原柚子さん。」
『はい!』
良い人だったなぁ…。
また会えるといいなと思いながら、そろそろ着替えたいなと思っていると…
「あの、すみません。銀賞をとった方ですよね?」
『え?あ、はい。そうですけど………あ。』
話しかけて来たのは、金賞の矢野さんだった。
『金賞おめでとうございます!えっと…あたしに何か…?』
「いや、僕は貴女の音にとても感動しまして……とても自分が上回っていたとは思えませんでした。……あ、つまりは、お話ししてみたいと思って、その…」
『はぁ…』
「牧之原さん、と言いましたよね?もしや、お父様もフルート奏者ではないですか?」
この人も、知ってるんだ。
名字だけでバレるなんて…そんなに有名だったのかな、お父さんて。
『そう、ですけど…』
「やっぱり!僕は牧之原朽葉さんの演奏を聴いてフルートを始めたんです!」
『えぇっ!?』
目を輝かせる矢野さんに、驚くばかり。
『あの、父はそんなに有名だったんですか?あたし、ちゃんと知らなくて…』
何だか照れくさくて、父の実績をちゃんと調べたことがなかった。
過去にあったコンクールのビデオ鑑賞もしたけど、父が出てる年度は見ていない。
だから結果も知らない。
そんなあたしの質問を聞いて、矢野さんは目を見開いた。
「有名どころじゃありませんよ!!フルート界で朽葉さんの名を知らない者はいないハズです!彼はたった2年で、世界中の賞という賞を総なめしたんですから…!」
『2年で…総なめ!?』
「娘さんがいらっしゃったとは知らなかったんですが……まさかこんなお美しい方だとは。」
『い、いえいえそんなっ…!』
突然何を言い出すのよ、この人!
ディーノさん属性!?
「それに、信じられない…僕なんかが貴女を抑えて金賞なんて…」
『それは関係無いですよ。確かに父は凄いフルート奏者だったみたいですけど……今回の結果はあたしの実力ですから。』
返答しながら、考えた。
2世ってこんな風に扱われるんだなぁ……
あたしがこの先ちゃんと金賞を獲っても、それは当然だなんて言われるかもしれない。
でも、今はとりあえずきちんと言っておこう。
『あなたの方が、楽譜の気持ちを読み取って表現出来ていた……それだけの話です。』
そう、あたしが未熟者だったっていう、それだけのこと。
もっともっと頑張らないと、お父さんとの約束は果たせない。
『ですから次は、あたしが金賞を獲ります!』
「ハハハ、参ったなぁ…宣戦布告とは。」
『今度どこかのコンクールで出会った時は、負けませんので。』
普段だったら絶対できないような、強気な発言が出来た。
7号館にいたから、精神面でも強くなれたのかな?
「……あの、今日は車でいらしたんですか?」
『えっ?いえ、電車で……』
「宜しければ送りましょうか?僕は車なので……それに、貴女ともう少しお話したいな、と……」
『そ、そんな!ご迷惑かけられませんし!』
初対面の人の車に乗るなんて、いくら危機感が無いってツナさんにバカにされるあたしでも抵抗感じるし!!
「そうですか…折角憧れの牧之原朽葉さんの娘さんに出会えたのに、残念です。」
……良心が痛む。
この人がお父さんの演奏を好きって言ってくれるのは嬉しいけど……
でもやっぱり送ってもらうのは…
「では駅まで、とかは……」
「彼女に送迎は必要ありませんよ。」
間。
『(あれ?)』
幻聴?空耳?
「空耳ではありませんよ。」
『ぎょへ!!?』
飛び跳ねるように振り向いた先には、予想通りの人物。
『むっ、骸さん!!』
「クフフ、お迎えにあがりましたよ♪僕の柚子。」
『違いますから!てゆーかこんなトコで…』
「まーまー、落ち着けって。」
骸さんの後ろから現れたのは、山本さん。
「よっ!すんげー演奏だったな、柚子♪」
『き…聴いてらしたんですか…お2人共……』
「僕達だけではありません、アルコバレーノと雲雀君もいました。」
『えぇっ!?』
そんなの聞いてない!聞いてないよぉ!!
てか、誰にも会場告げないまま出掛けたのに…どうして!?
挨拶も、リボーンさんと獄寺さんにしか……
「クフフフ…この僕を甘く見ないで頂きたい。柚子の後をひっそりと見守りながらついて行くなど容易なこと…」
『ストーカーじゃないですかっ!!』
あたしが骸さんとギャーギャー騒いでる間に、矢野さんはどっかに行ってしまった。
骸さんパワー恐るべし。
「まーまー柚子、俺らは柚子が心配で来ちまったワケだし。許してくんねーか?」
『山本さん…///』
きゅぅぅん……
申し訳なさそうなその笑顔、反則ですっ…!
「そうですよ柚子っ!可愛い可愛い僕の柚子が心配で…」
『だから“僕の”って…!』
「綱吉も、来たんですよ。」
『えっ…?』
うそ……ツナさんまで、ココにいるの?
「いえ、すぐ帰ってしまいました。柚子のお母様を送り届けて、そのまま。」
『あ、そうですか……』
そっか、だからお母さん、あたしの演奏に間に合ったんだ…。
『あとで、お礼言わなくちゃいけませんね。』
「つーワケで、早く帰ろうぜ!小僧と雲雀が車で待ってっからさ♪」
『えっ、でも荷物がまだ…それに着替えなくちゃ……』
「いいんですよ、どうせなら着替えは帰ってからでも。荷物の方は、既に積みましたよ♪」
『なっ…勝手にあたしの控室入ったんですか!?』
ニヤニヤする骸さんにムッとすると、山本さんに宥められた。
---
------
-----------
銀賞に贈られた盾をしっかりと抱えて、骸さんと山本さんと歩く。
あたし、7号館に帰るんだ……。
お喋りして笑ってる間も、頭の隅でずっと悩んでる。
いつか、皆さんとのお別れが来る。
その時あたしは、どんな顔をしてるべきなのかな?
家政婦労働から解放されて、喜ぶべき?
そんなこと、出来るワケない。
寂しくて哀しくて、きっと………
「柚子?どーかしたか?」
『あっ、いえ!何でもありませんっ!』
「隠しても無駄です、僕には読心術が…」
『それは無しです!ずるいですもんっ!!』
読まれてはいけないと思って、少し早歩きした。
骸さんは相変わらず楽しそうな笑みを浮かべていた。
裏口には、本当にいつもの(っていうのも気が引けるけど…)リムジンが停まっていた。
ウィィィンと開いた運転席の窓から覗いたのは、
「遅ぇーぞ。」
『リボーンさん…』
「しかも2等とはな、しっかり練習したのか?」
『ちゃんとやりましたーっ!』
すると今度は、後部座席の窓が開いて。
「本番で泣いたら意味無いよ。」
『あっ、雲雀さん!』
皆さん……来てくれたんだ…。
これ以上素敵な思い出作ったら、あたし……
別れが余計に辛くなっちゃう…。
渦巻く不安を読み取ったのか、リボーンさんが言った。
「お前は今、“ツナの婚約者”だぞ。狙われるって自覚を持ちやがれ。」
『す、すみませんっ!』
「早く乗れ、帰るぞ。」
『はいっ!』
山本さんが親切にドアを開けてくれた。
促されて、雲雀さんの隣に座る。
「お腹空いた。帰ったらすぐ夕飯作ってね。」
『(横暴発言キター!!)』
「何か言った?」
『ごめんなさいっ!』
雲雀さんの眼力に負けて、ペコペコ謝る。
山本さんはあたしの貰った盾をまじまじと眺め、
骸さんは「ドレスはもっと丈が短い方が…」とかブツブツ言っていた。
リボーンさんは余程早く帰りたいのか、車をビュンビュン飛ばす。
電車で来た時とは大違いで、あっという間に7号館に帰って来た。
「さぁ、着きましたよ。どうぞ。」
『だ、大丈夫ですから…』
降車しようとしたあたしに、手を差し伸べる骸さん。
別にいいのに、段差が危ないから、と。
上目使いで見つめられると、何だか断れない。
『あ…ありがとうございます……///』
「いえいえ♪」
コツンとヒールの音がする。
降り立って、思いだした。
あたし、コンクールが終わったらツナさんの話を聞くって決めたんだった。
どんな話なんだろう?
何でツナさん…あんな壊れそうな表情してたんだろう?
ううん、そんな事よりも。
『(あたし……ちゃんとツナさんと話せるかな…?)』
好きだって気づいたせいで、余計に意識しちゃう。
顔、赤くなってないよね?
家政婦が雇い主と話すだけで緊張するなんて、おバカ過ぎるでしょ!
必死に心を落ち着かせながら、ドアをギィッと押し開けた。
ヒロイック
彼らの大胆なお出迎えに、驚きと共に込み上げた嬉しさ
continue...
その事実にあたしは唖然とするばかり。
「懐かしい旋律を感じていたんだ。しかしところどころ君自身の特徴があってね、確信には至らなかった。」
彼の話を聞いているうちに、今度は涙がこみ上げて来る。
「このフルート界で、我々は惜しい人を亡くしてしまった……あんなにも素晴らしい奏者は、この先100年は現れないと……」
『覚えてて下さったんですか…!?父のフルート……』
もう、5年も前なのに。
家族の他にも、ちゃんと記憶してくれてる人がいた。
それだけで、凄く凄く嬉しい。
「勿論だとも!何せ、彼が初めてだったからね。エキシビジョンで弾く曲を、その場で決めて貰ってたのは。」
『えぇっ!?』
審査委員長さんが言うには、父は舞台に立ってマイクを握り、問いかけたそうだ。
---「何を弾きましょうか?」
---「用意してきた曲があるだろう、それを。」
---「すみません、無いんです。最初から、貴方に決めて貰おうかと。」
当時も審査委員長を務めていた彼は、父の言葉に絶句した。
---「なら、君の好きな曲を弾いてくれ。」
---「私の好きな曲は……貴方がこの場に相応しいと思う曲です。」
「信じられなかったね、朽葉は純粋な笑顔を向けてそう返したんだ。」
『す、すみません…』
曲をその場で決めてくれ、なんて、大層な無茶振りだったと思う。
でも、ボンゴレ9代目に聞いた話とおんなじ。
父はいつも、“誰かが好きな曲”を愛してた。
「いや、謝ることはないさ。そこから朽葉は私のかけがえのない友になったからね。」
『そうなんですか!?』
「あぁ。ただ残念なことに、その友の最期を見届けられなかった……ちょうどツアーが重なってしまってね…」
『あ、いえ…』
そっか、だからあたしはこの人を知らなかったんだ…。
「それにしても、君の音は本当に朽葉そっくりだよ、柚子さん。」
『いえ、あたしなんてまだまだです…優勝も出来ませんでしたし…』
「あぁそれはね、一瞬音がぶれてしまったからだよ。柚子さん、途中で涙を流してたからね。」
『あ、やっぱり……すみません、感極まってしまって…つい、』
そうだよ、演奏中に泣いちゃったのは良くなかったなぁ…。
少ししゅんとすると、審査委員長さんは穏やかに笑って。
「いや、気にすることは無い。柚子さんならもっと上に行けるよ、朽葉がそうだったように。」
『あ…ありがとうございます!頑張ります!!』
ぺこりとお辞儀をするあたしを見て、彼は本当に懐かしそうに目を細めた。
「海から生まれたのは、風か……」
『え?』
「あ、いや……私は朽葉の音を海のようだと思っててね、広く深く、聴衆全てを包み込みそして…1人1人に染まる水のようだと。」
確かにそうだと思った。
父のフルートには、ハッキリとした個性があまり感じられない。
いつも、聴く人が一番好きな音だからだ。
「しかし柚子さん、君の音は……風のようだった。同じように広く果てしないが、聴衆全ての隣を抜けていく。いつもそこに在る空気、聴衆に染まらないが受け入れられる。」
『も、勿体ないお言葉ですっ…光栄です!!』
何度も何度もお辞儀をした。
父のフルートを覚えててくれた人に、褒められるなんて幸せすぎる。
「もし良ければ、今度私の主催する演奏会に来てくれないかね?ゲストとしてお招きしたいんだが。」
『あっ、あたしをですか!?銀賞でしたのに…』
「充分だよ、それに君は“名前”がある。何の反感も買わないさ。」
名前…?
それって、あたしが牧之原朽葉の娘だから…?
『あのっ…それ、伏せられませんか?』
「どういう事かね?」
『あたしは、父の力で1番のフルート奏者を目指すワケにはいかないんです。』
2世だから注目されるのは、簡単なこと。
だけど、それじゃ意味がないって知ってるから。
『ですから、その……』
「…良かった。」
『え?』
「意志が強いところも親譲りだね、それを聞いて安心した。」
ぽかんとするあたしに、審査委員長さんは言った。
試すような真似をしてすまない、と。
「事実、国内の大会で銀賞では…名を売るには少し足りないんだ。私は朽葉の分まで君を応援してあげたい。だから…もう少し大きな大会で金賞を取った時、また勧誘に来るよ。」
『あ…はいっ!ありがとうございます!!』
と、ここで審査委員長さんにスーツの人が歩み寄る。
「すみません、そろそろ…」
「あぁ、分かったよ。じゃあまた会える日を楽しみに待ってるよ、牧之原柚子さん。」
『はい!』
良い人だったなぁ…。
また会えるといいなと思いながら、そろそろ着替えたいなと思っていると…
「あの、すみません。銀賞をとった方ですよね?」
『え?あ、はい。そうですけど………あ。』
話しかけて来たのは、金賞の矢野さんだった。
『金賞おめでとうございます!えっと…あたしに何か…?』
「いや、僕は貴女の音にとても感動しまして……とても自分が上回っていたとは思えませんでした。……あ、つまりは、お話ししてみたいと思って、その…」
『はぁ…』
「牧之原さん、と言いましたよね?もしや、お父様もフルート奏者ではないですか?」
この人も、知ってるんだ。
名字だけでバレるなんて…そんなに有名だったのかな、お父さんて。
『そう、ですけど…』
「やっぱり!僕は牧之原朽葉さんの演奏を聴いてフルートを始めたんです!」
『えぇっ!?』
目を輝かせる矢野さんに、驚くばかり。
『あの、父はそんなに有名だったんですか?あたし、ちゃんと知らなくて…』
何だか照れくさくて、父の実績をちゃんと調べたことがなかった。
過去にあったコンクールのビデオ鑑賞もしたけど、父が出てる年度は見ていない。
だから結果も知らない。
そんなあたしの質問を聞いて、矢野さんは目を見開いた。
「有名どころじゃありませんよ!!フルート界で朽葉さんの名を知らない者はいないハズです!彼はたった2年で、世界中の賞という賞を総なめしたんですから…!」
『2年で…総なめ!?』
「娘さんがいらっしゃったとは知らなかったんですが……まさかこんなお美しい方だとは。」
『い、いえいえそんなっ…!』
突然何を言い出すのよ、この人!
ディーノさん属性!?
「それに、信じられない…僕なんかが貴女を抑えて金賞なんて…」
『それは関係無いですよ。確かに父は凄いフルート奏者だったみたいですけど……今回の結果はあたしの実力ですから。』
返答しながら、考えた。
2世ってこんな風に扱われるんだなぁ……
あたしがこの先ちゃんと金賞を獲っても、それは当然だなんて言われるかもしれない。
でも、今はとりあえずきちんと言っておこう。
『あなたの方が、楽譜の気持ちを読み取って表現出来ていた……それだけの話です。』
そう、あたしが未熟者だったっていう、それだけのこと。
もっともっと頑張らないと、お父さんとの約束は果たせない。
『ですから次は、あたしが金賞を獲ります!』
「ハハハ、参ったなぁ…宣戦布告とは。」
『今度どこかのコンクールで出会った時は、負けませんので。』
普段だったら絶対できないような、強気な発言が出来た。
7号館にいたから、精神面でも強くなれたのかな?
「……あの、今日は車でいらしたんですか?」
『えっ?いえ、電車で……』
「宜しければ送りましょうか?僕は車なので……それに、貴女ともう少しお話したいな、と……」
『そ、そんな!ご迷惑かけられませんし!』
初対面の人の車に乗るなんて、いくら危機感が無いってツナさんにバカにされるあたしでも抵抗感じるし!!
「そうですか…折角憧れの牧之原朽葉さんの娘さんに出会えたのに、残念です。」
……良心が痛む。
この人がお父さんの演奏を好きって言ってくれるのは嬉しいけど……
でもやっぱり送ってもらうのは…
「では駅まで、とかは……」
「彼女に送迎は必要ありませんよ。」
間。
『(あれ?)』
幻聴?空耳?
「空耳ではありませんよ。」
『ぎょへ!!?』
飛び跳ねるように振り向いた先には、予想通りの人物。
『むっ、骸さん!!』
「クフフ、お迎えにあがりましたよ♪僕の柚子。」
『違いますから!てゆーかこんなトコで…』
「まーまー、落ち着けって。」
骸さんの後ろから現れたのは、山本さん。
「よっ!すんげー演奏だったな、柚子♪」
『き…聴いてらしたんですか…お2人共……』
「僕達だけではありません、アルコバレーノと雲雀君もいました。」
『えぇっ!?』
そんなの聞いてない!聞いてないよぉ!!
てか、誰にも会場告げないまま出掛けたのに…どうして!?
挨拶も、リボーンさんと獄寺さんにしか……
「クフフフ…この僕を甘く見ないで頂きたい。柚子の後をひっそりと見守りながらついて行くなど容易なこと…」
『ストーカーじゃないですかっ!!』
あたしが骸さんとギャーギャー騒いでる間に、矢野さんはどっかに行ってしまった。
骸さんパワー恐るべし。
「まーまー柚子、俺らは柚子が心配で来ちまったワケだし。許してくんねーか?」
『山本さん…///』
きゅぅぅん……
申し訳なさそうなその笑顔、反則ですっ…!
「そうですよ柚子っ!可愛い可愛い僕の柚子が心配で…」
『だから“僕の”って…!』
「綱吉も、来たんですよ。」
『えっ…?』
うそ……ツナさんまで、ココにいるの?
「いえ、すぐ帰ってしまいました。柚子のお母様を送り届けて、そのまま。」
『あ、そうですか……』
そっか、だからお母さん、あたしの演奏に間に合ったんだ…。
『あとで、お礼言わなくちゃいけませんね。』
「つーワケで、早く帰ろうぜ!小僧と雲雀が車で待ってっからさ♪」
『えっ、でも荷物がまだ…それに着替えなくちゃ……』
「いいんですよ、どうせなら着替えは帰ってからでも。荷物の方は、既に積みましたよ♪」
『なっ…勝手にあたしの控室入ったんですか!?』
ニヤニヤする骸さんにムッとすると、山本さんに宥められた。
---
------
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銀賞に贈られた盾をしっかりと抱えて、骸さんと山本さんと歩く。
あたし、7号館に帰るんだ……。
お喋りして笑ってる間も、頭の隅でずっと悩んでる。
いつか、皆さんとのお別れが来る。
その時あたしは、どんな顔をしてるべきなのかな?
家政婦労働から解放されて、喜ぶべき?
そんなこと、出来るワケない。
寂しくて哀しくて、きっと………
「柚子?どーかしたか?」
『あっ、いえ!何でもありませんっ!』
「隠しても無駄です、僕には読心術が…」
『それは無しです!ずるいですもんっ!!』
読まれてはいけないと思って、少し早歩きした。
骸さんは相変わらず楽しそうな笑みを浮かべていた。
裏口には、本当にいつもの(っていうのも気が引けるけど…)リムジンが停まっていた。
ウィィィンと開いた運転席の窓から覗いたのは、
「遅ぇーぞ。」
『リボーンさん…』
「しかも2等とはな、しっかり練習したのか?」
『ちゃんとやりましたーっ!』
すると今度は、後部座席の窓が開いて。
「本番で泣いたら意味無いよ。」
『あっ、雲雀さん!』
皆さん……来てくれたんだ…。
これ以上素敵な思い出作ったら、あたし……
別れが余計に辛くなっちゃう…。
渦巻く不安を読み取ったのか、リボーンさんが言った。
「お前は今、“ツナの婚約者”だぞ。狙われるって自覚を持ちやがれ。」
『す、すみませんっ!』
「早く乗れ、帰るぞ。」
『はいっ!』
山本さんが親切にドアを開けてくれた。
促されて、雲雀さんの隣に座る。
「お腹空いた。帰ったらすぐ夕飯作ってね。」
『(横暴発言キター!!)』
「何か言った?」
『ごめんなさいっ!』
雲雀さんの眼力に負けて、ペコペコ謝る。
山本さんはあたしの貰った盾をまじまじと眺め、
骸さんは「ドレスはもっと丈が短い方が…」とかブツブツ言っていた。
リボーンさんは余程早く帰りたいのか、車をビュンビュン飛ばす。
電車で来た時とは大違いで、あっという間に7号館に帰って来た。
「さぁ、着きましたよ。どうぞ。」
『だ、大丈夫ですから…』
降車しようとしたあたしに、手を差し伸べる骸さん。
別にいいのに、段差が危ないから、と。
上目使いで見つめられると、何だか断れない。
『あ…ありがとうございます……///』
「いえいえ♪」
コツンとヒールの音がする。
降り立って、思いだした。
あたし、コンクールが終わったらツナさんの話を聞くって決めたんだった。
どんな話なんだろう?
何でツナさん…あんな壊れそうな表情してたんだろう?
ううん、そんな事よりも。
『(あたし……ちゃんとツナさんと話せるかな…?)』
好きだって気づいたせいで、余計に意識しちゃう。
顔、赤くなってないよね?
家政婦が雇い主と話すだけで緊張するなんて、おバカ過ぎるでしょ!
必死に心を落ち着かせながら、ドアをギィッと押し開けた。
ヒロイック
彼らの大胆なお出迎えに、驚きと共に込み上げた嬉しさ
continue...