🎼本編
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7号館で聞くのとは、比べ物にならないくらいの大きさ。
叩き込まれるような拍手が、空気の震えとなってあたしに降り注がれる。
お客さんがたくさんいるから、大きい拍手も当たり前……なんだよね。
けど、どうしてかな?
『(この拍手…乾いてるみたい……)』
演奏中に零れてしまった涙を軽く拭ってから、大きく礼をした。
残る奏者は、あと1人。
それが終わったら、合計4人の中から金賞と銀賞が選ばれる。
控室に戻って、最後の人の演奏を聴いた。
とっても素敵な、モーツァルトだった。
---
-----
-----------
「それでは、奏者の皆さんは壇上にお並び下さい。」
ついに、来てしまった。
最終結果発表……金賞と銀賞が決まる。
今頃になって、物凄く不安になってきた…。
だってあたし泣いちゃったし……
うわ、どーしよ……アレって審査員的にはマイナスポイントかもしれない…。
エントリーナンバー順(名前順っぽい)に並ぶ。
あたしは、3番目。
「第4回日本器楽コンクール・フルート部門、金賞は……」
心臓が、これでもかってくらい激しく鳴る。
拳が、それに負けないくらい固く固く握られる。
「エントリーナンバー4番、矢野仁志さん。」
あたしの隣に立つ最終演奏者に、スポットライトが当たった。
一瞬だけ、心臓が止まったような感覚に襲われて、
次に、盛大な祝福の声と拍手が耳に飛び込んできた。
けどそれは、あたしに向けられてるものじゃなくて…………
『(…負け、ちゃった……)』
演奏中とは全然別の理由で、目が熱く熱くなってくる。
ダメだ。
折角メイク直ししたのに、ココで泣いたら台無しじゃん。
俯くあたしの前で、金賞のトロフィーが主催者から贈られる。
「続いて銀賞……エントリーナンバー3番、牧之原柚子さん。」
『えっ…?』
さっきまで隣にあったライトが、あたしに向けられた。
銀賞……
それって、準優勝だよね…?
「牧之原さん、中央へ。」
『あ、はいっ!』
銀賞のあたしには、立派な盾が渡された。
「良かったよ、おめでとう。」
『あ…ありがとうございますっ!』
礼を言いながら、深く深くお辞儀した。
初めてのコンクールで掴んだ、2等賞。
本選の会場に応援が一人もいない状況だった割には、よく頑張った。
今日だけは、自分をちゃんと褒めてあげよう。
お父さんとの約束、“1番の演奏者”には届かなかったけど、
優勝者さんの素敵な演奏も聞けたし、次にはきっと。
---
------
表彰式が終わり、あたし達は写真撮影をした。
他の奏者の身内の方がたくさん集まる。
けどあたしには………
「柚子、」
『え…?』
「こっちよ、柚子。」
聞き間違いかと思ったけど、違った。
そこには確かに、懐かしい人……
『お母さん…!?』
自分の目が信じられなくて、人ごみをすり抜けて駆け寄る。
「久しぶりね、柚子。元気だった?」
『うん…。でもあの、どうしてココに…?日程も会場も教えてなかったのに……』
「教えて貰ったの、柚子じゃない人に。」
『だ、誰!?何でそんなこと………てゆーか!お母さん、仕事は大丈夫なの?』
「大丈夫じゃないかもね、すぐ戻らなくちゃいけないし。けど、一目でいいから柚子の演奏してるトコ、見たかったの。」
明るく笑うお母さんに、ホッとした。
お父さんは5年前に他界しちゃったし、あたしも家を空けてるから、一人で大丈夫なのか心配だった。
「それに……あんなに頼みこまれちゃ、来るしかないもの。」
『頼み込む?誰が?』
「沢田さんよ。」
『え…?』
吃驚し過ぎて、口をぽかんと開けてしまった。
だって、沢田さんって……
『そ、それって……』
「にしても、随分ご立派になったわね、沢田さん。驚いちゃったわ。」
何で、こんな口ぶりなの…?
まるで、前から知ってるみたいな……
「柚子?どうしたの?ボーっとして。」
『お母さん、それって……沢田綱吉さん?』
「あら、柚子も覚えてたの?」
『ち、違うの!今、一緒の大学なの!お母さんは……どうしてツナさんを知ってるの!?』
「どうしてって…」
あたしがツナさんに出会ったのは、
あの日、大学の中庭で、
春の陽気に包まれた、バイオリンの音に導かれるように……
それ以前なんて、無い。
あたしの記憶には、あるハズない。
けどお母さんは、知ってるみたいで。
当然とでも言うように、目を丸くしながら答えた。
「5年前、お父さんが亡くなる直前まで入院してた病院、覚えてる?」
『…うん……』
「あの時、隣の病室にいたのが…沢田さんのお母様だったじゃない。覚えてない?」
『と…なり…?』
そんなの、あたしが覚えてるハズなかった。
だって、あの時のあたしはお父さんが死んじゃうかも知れないっていう不安でいっぱいだったんだもん。
毎日毎日、病室の扉を開けるのが怖かったくらい。
昨日は元気だったけど、今日は分からない。
苦しそうにしてるかも知れない。
どっか痛がってるかも知れない。
そんな気持ちで、頭がいっぱいだったんだもん。
「覚えてなかったのね、無理ないわ。けど、沢田さんのお母様…奈々さんはとっても穏やかな方でね、私とお父さんと良く話していたの。」
『そうだったんだ…』
何となく、分かった。
7号館の皆さんが、あたしに質問する理由。
ツナさんと前に会ったことがあるか、って訊く理由。
「綱吉君は、毎日のように奈々さんのお見舞いに来てたから……私も何となく覚えてたのよ。」
『知らなかった、あたし…』
「仕方ないわ。柚子にはあの時、発表会の練習もあったしね。」
そう…あたしの通ってたフルート教室は、
お父さんが危ない時期だっていうのに、あたしに課題を与えた。
こともあろうに、明るい曲。
それがどれだけあたしの心を抉ったか。
練習なんて、出来るワケない。
何より、一番のアドバイザーであるお父さんが入院中。
何度諦めようとしたか……
「あれから交流は無かったけど、今朝突然、仕事先に迎えが来たのよ。」
『迎え…?』
「えぇ、呼び出されてビックリ、沢田さんが黒いスーツで頼み込んで来たんだもの。“柚子さんのコンクール本選、聴きに行ってあげて下さい”って。」
そんな…ツナさんが直接…!?
ぽかんとするあたしの前で、お母さんはクスッと笑う。
「そんなに意外なの?」
『う、うん…』
「綱吉君、とっても優しい方でしょ?」
『えぇっ!!?///』
ツナさんへの褒め言葉なのに、何故か照れてしまった。
絶対言えない、大学のキャンパスで同居してます…なんて。
「だって私にわざわざ知らせに来てくれたのよ?柚子を気遣ってくれる、素敵なお友達だと思うわ。」
『気遣い……』
最近ツナさん、素っ気なかったのに……
あたしの為にお母さん呼んでくれたんだ。
あたしはアウェーじゃなかった。
応援してくれる観客が、1人いてくれたんだ。
ツナさんが、呼んでくれたおかげで。
「今度会ったら、お礼言っておきなさいよ。」
『うんっ!絶対言う。』
7号館に帰ったら、絶対に。
---
------
-------------
数時間前。
「失礼します…10代目……」
「獄寺君…?」
静かに入って来た獄寺君は、一言「すいません」と謝った。
理由を聞くと、1人で本選に向かう柚子を引きとめなかったからと。
「これ…本選の会場です。勝手ながら調べました、柚子に聞いても答えなかったんで…」
「俺に、行けって?」
「ち、違います!俺には10代目に強制する権利なんて無いですし……ただ、」
「ただ…?」
少し詰まってから、意を決したように獄寺君は口を開く。
「最近の柚子は……どっか違う気がして…。何かを我慢してるんスよ、前は躊躇いなく会話してたハズなんですが……」
獄寺君も、雲雀さんやリボーンみたいに柚子の異変を感じ取ってた。
俺だけ、気付けなかった。
あの言葉を聞くまで……
「10代目…?」
「柚子がさ、7号館にいると苦しいって言ってて…」
項垂れた俺を心配する獄寺君に、その事実を教えた。
「笑っちゃうよな、俺が柚子を苦しめてたんだ。」
大切な、何にも代え難い存在なのに。
俺が、生涯愛そうと誓ったたった1人の存在なのに。
「それは違います!!」
強く反論されて、かなり驚いた。
獄寺君の拳は、握られ過ぎて震えてる。
「少し前…シャマルが来た時に言ってました。柚子は、俺達と自分を“身分違い”だと思ってるって…」
「身分、違い…?」
何だよソレ。
それじゃあまるで柚子が……
「だから苦しんでるんじゃないかと俺は思います……。柚子は、いつか俺達、いえ、10代目から離れることを考えて…!」
「柚子が……」
つーか何で、シャマルに診られてんだよ。
……リボーンの仕業だな。
「……獄寺君、」
「はいっ、」
「車、出してもらえるかな?」
分かったよ、あの言葉の意味。
ディーノさんじゃなきゃ本音を吐けなかった理由も。
「呼びに行かなくちゃいけない人がいるんだ。」
「はいっ!」
あのバカ柚子…
いや、今回は俺もバカだったかな。
もっと早く、ハッキリ言うべきだったんだ。
お前を離す気なんて微塵も無い、って。
向かったのは、柚子の母親・杏香さんの勤め先。
俺が行くと柚子のメンタルに影響しちまうかも知れないし、(雲雀さんに言われたから)
せめて、同じくらい柚子を想ってる人に観客になってもらえたら……って。
仕事中だったけど、無理矢理上司を黙らせて杏香さんを本選会場に送った。
柚子はやっぱり本選に行ったことを知らせてなかったらしく、「教えてくれてありがとう」と感謝された。
杏香さんを送り届けた俺は、そのまま7号館に引き返した。
だって、会場には既に雲雀さんや骸、山本とリボーンが来てたから。
どうやら柚子の後を追ってきたらしい。
4人いれば、ひとまず安心。
柚子は、7号館に帰って来る。
「(待ってるから、な…)」
帰ってきたら、聞かせるから。
どうしても柚子に話しておきたいこと。
俺が、柚子を想ってる理由を。
---
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-------------
「大変!そろそろ戻らなきゃ!」
『えっ、もう!?』
「だって抜けて来ちゃったんだもの、これ以上いるワケにはいかないわ。」
お母さんは溜め息をついてたけど、ツナさんが連れ出したんなら大丈夫かもとあたしは思った。
だって、絶対お母さんの上司を脅して来たに決まってる。
「じゃあね柚子、元気で。」
『うん、お母さんも。無理しないでね。』
「分かってるわよ、大丈夫。」
駆けだそうとしたお母さんは、ふっと振り向いてまた笑顔を見せた。
「そうそう、演奏とっても良かったわ!お父さんの音みたいだった。」
『あっ…ありがとう♪今度は金賞取るからね!』
「えぇ、楽しみにしてる。」
人ごみを上手く抜けて、お母さんはパタパタ走り去って行った。
会えて良かったなと、改めて思った。
と、その時。
「失礼、牧之原柚子さんかな?」
『えっ?あ、はい…』
呼びかけられてそっちを見ると、お髭のおじさんが立っていた。
「私は審査員長を務めていた者なんだが……少し君の音が気になってね。」
『音………もしかして、父をご存じなんですか?』
聞き返すと、審査員長さんは奇跡を見たかのように目を丸くした。
「やはりそうか!いやはや光栄だよ!あの牧之原朽葉の娘さんに出会えるとは…!」
手を握られて、上下に振られる。
驚きのあまりフリーズしてたせいで、その振動が全身に伝わって来た。
ファンファーレ
鳴り響く祝典曲とシャッター音の中、あたしの未来がまた少し動いた
continue...
叩き込まれるような拍手が、空気の震えとなってあたしに降り注がれる。
お客さんがたくさんいるから、大きい拍手も当たり前……なんだよね。
けど、どうしてかな?
『(この拍手…乾いてるみたい……)』
演奏中に零れてしまった涙を軽く拭ってから、大きく礼をした。
残る奏者は、あと1人。
それが終わったら、合計4人の中から金賞と銀賞が選ばれる。
控室に戻って、最後の人の演奏を聴いた。
とっても素敵な、モーツァルトだった。
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「それでは、奏者の皆さんは壇上にお並び下さい。」
ついに、来てしまった。
最終結果発表……金賞と銀賞が決まる。
今頃になって、物凄く不安になってきた…。
だってあたし泣いちゃったし……
うわ、どーしよ……アレって審査員的にはマイナスポイントかもしれない…。
エントリーナンバー順(名前順っぽい)に並ぶ。
あたしは、3番目。
「第4回日本器楽コンクール・フルート部門、金賞は……」
心臓が、これでもかってくらい激しく鳴る。
拳が、それに負けないくらい固く固く握られる。
「エントリーナンバー4番、矢野仁志さん。」
あたしの隣に立つ最終演奏者に、スポットライトが当たった。
一瞬だけ、心臓が止まったような感覚に襲われて、
次に、盛大な祝福の声と拍手が耳に飛び込んできた。
けどそれは、あたしに向けられてるものじゃなくて…………
『(…負け、ちゃった……)』
演奏中とは全然別の理由で、目が熱く熱くなってくる。
ダメだ。
折角メイク直ししたのに、ココで泣いたら台無しじゃん。
俯くあたしの前で、金賞のトロフィーが主催者から贈られる。
「続いて銀賞……エントリーナンバー3番、牧之原柚子さん。」
『えっ…?』
さっきまで隣にあったライトが、あたしに向けられた。
銀賞……
それって、準優勝だよね…?
「牧之原さん、中央へ。」
『あ、はいっ!』
銀賞のあたしには、立派な盾が渡された。
「良かったよ、おめでとう。」
『あ…ありがとうございますっ!』
礼を言いながら、深く深くお辞儀した。
初めてのコンクールで掴んだ、2等賞。
本選の会場に応援が一人もいない状況だった割には、よく頑張った。
今日だけは、自分をちゃんと褒めてあげよう。
お父さんとの約束、“1番の演奏者”には届かなかったけど、
優勝者さんの素敵な演奏も聞けたし、次にはきっと。
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表彰式が終わり、あたし達は写真撮影をした。
他の奏者の身内の方がたくさん集まる。
けどあたしには………
「柚子、」
『え…?』
「こっちよ、柚子。」
聞き間違いかと思ったけど、違った。
そこには確かに、懐かしい人……
『お母さん…!?』
自分の目が信じられなくて、人ごみをすり抜けて駆け寄る。
「久しぶりね、柚子。元気だった?」
『うん…。でもあの、どうしてココに…?日程も会場も教えてなかったのに……』
「教えて貰ったの、柚子じゃない人に。」
『だ、誰!?何でそんなこと………てゆーか!お母さん、仕事は大丈夫なの?』
「大丈夫じゃないかもね、すぐ戻らなくちゃいけないし。けど、一目でいいから柚子の演奏してるトコ、見たかったの。」
明るく笑うお母さんに、ホッとした。
お父さんは5年前に他界しちゃったし、あたしも家を空けてるから、一人で大丈夫なのか心配だった。
「それに……あんなに頼みこまれちゃ、来るしかないもの。」
『頼み込む?誰が?』
「沢田さんよ。」
『え…?』
吃驚し過ぎて、口をぽかんと開けてしまった。
だって、沢田さんって……
『そ、それって……』
「にしても、随分ご立派になったわね、沢田さん。驚いちゃったわ。」
何で、こんな口ぶりなの…?
まるで、前から知ってるみたいな……
「柚子?どうしたの?ボーっとして。」
『お母さん、それって……沢田綱吉さん?』
「あら、柚子も覚えてたの?」
『ち、違うの!今、一緒の大学なの!お母さんは……どうしてツナさんを知ってるの!?』
「どうしてって…」
あたしがツナさんに出会ったのは、
あの日、大学の中庭で、
春の陽気に包まれた、バイオリンの音に導かれるように……
それ以前なんて、無い。
あたしの記憶には、あるハズない。
けどお母さんは、知ってるみたいで。
当然とでも言うように、目を丸くしながら答えた。
「5年前、お父さんが亡くなる直前まで入院してた病院、覚えてる?」
『…うん……』
「あの時、隣の病室にいたのが…沢田さんのお母様だったじゃない。覚えてない?」
『と…なり…?』
そんなの、あたしが覚えてるハズなかった。
だって、あの時のあたしはお父さんが死んじゃうかも知れないっていう不安でいっぱいだったんだもん。
毎日毎日、病室の扉を開けるのが怖かったくらい。
昨日は元気だったけど、今日は分からない。
苦しそうにしてるかも知れない。
どっか痛がってるかも知れない。
そんな気持ちで、頭がいっぱいだったんだもん。
「覚えてなかったのね、無理ないわ。けど、沢田さんのお母様…奈々さんはとっても穏やかな方でね、私とお父さんと良く話していたの。」
『そうだったんだ…』
何となく、分かった。
7号館の皆さんが、あたしに質問する理由。
ツナさんと前に会ったことがあるか、って訊く理由。
「綱吉君は、毎日のように奈々さんのお見舞いに来てたから……私も何となく覚えてたのよ。」
『知らなかった、あたし…』
「仕方ないわ。柚子にはあの時、発表会の練習もあったしね。」
そう…あたしの通ってたフルート教室は、
お父さんが危ない時期だっていうのに、あたしに課題を与えた。
こともあろうに、明るい曲。
それがどれだけあたしの心を抉ったか。
練習なんて、出来るワケない。
何より、一番のアドバイザーであるお父さんが入院中。
何度諦めようとしたか……
「あれから交流は無かったけど、今朝突然、仕事先に迎えが来たのよ。」
『迎え…?』
「えぇ、呼び出されてビックリ、沢田さんが黒いスーツで頼み込んで来たんだもの。“柚子さんのコンクール本選、聴きに行ってあげて下さい”って。」
そんな…ツナさんが直接…!?
ぽかんとするあたしの前で、お母さんはクスッと笑う。
「そんなに意外なの?」
『う、うん…』
「綱吉君、とっても優しい方でしょ?」
『えぇっ!!?///』
ツナさんへの褒め言葉なのに、何故か照れてしまった。
絶対言えない、大学のキャンパスで同居してます…なんて。
「だって私にわざわざ知らせに来てくれたのよ?柚子を気遣ってくれる、素敵なお友達だと思うわ。」
『気遣い……』
最近ツナさん、素っ気なかったのに……
あたしの為にお母さん呼んでくれたんだ。
あたしはアウェーじゃなかった。
応援してくれる観客が、1人いてくれたんだ。
ツナさんが、呼んでくれたおかげで。
「今度会ったら、お礼言っておきなさいよ。」
『うんっ!絶対言う。』
7号館に帰ったら、絶対に。
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数時間前。
「失礼します…10代目……」
「獄寺君…?」
静かに入って来た獄寺君は、一言「すいません」と謝った。
理由を聞くと、1人で本選に向かう柚子を引きとめなかったからと。
「これ…本選の会場です。勝手ながら調べました、柚子に聞いても答えなかったんで…」
「俺に、行けって?」
「ち、違います!俺には10代目に強制する権利なんて無いですし……ただ、」
「ただ…?」
少し詰まってから、意を決したように獄寺君は口を開く。
「最近の柚子は……どっか違う気がして…。何かを我慢してるんスよ、前は躊躇いなく会話してたハズなんですが……」
獄寺君も、雲雀さんやリボーンみたいに柚子の異変を感じ取ってた。
俺だけ、気付けなかった。
あの言葉を聞くまで……
「10代目…?」
「柚子がさ、7号館にいると苦しいって言ってて…」
項垂れた俺を心配する獄寺君に、その事実を教えた。
「笑っちゃうよな、俺が柚子を苦しめてたんだ。」
大切な、何にも代え難い存在なのに。
俺が、生涯愛そうと誓ったたった1人の存在なのに。
「それは違います!!」
強く反論されて、かなり驚いた。
獄寺君の拳は、握られ過ぎて震えてる。
「少し前…シャマルが来た時に言ってました。柚子は、俺達と自分を“身分違い”だと思ってるって…」
「身分、違い…?」
何だよソレ。
それじゃあまるで柚子が……
「だから苦しんでるんじゃないかと俺は思います……。柚子は、いつか俺達、いえ、10代目から離れることを考えて…!」
「柚子が……」
つーか何で、シャマルに診られてんだよ。
……リボーンの仕業だな。
「……獄寺君、」
「はいっ、」
「車、出してもらえるかな?」
分かったよ、あの言葉の意味。
ディーノさんじゃなきゃ本音を吐けなかった理由も。
「呼びに行かなくちゃいけない人がいるんだ。」
「はいっ!」
あのバカ柚子…
いや、今回は俺もバカだったかな。
もっと早く、ハッキリ言うべきだったんだ。
お前を離す気なんて微塵も無い、って。
向かったのは、柚子の母親・杏香さんの勤め先。
俺が行くと柚子のメンタルに影響しちまうかも知れないし、(雲雀さんに言われたから)
せめて、同じくらい柚子を想ってる人に観客になってもらえたら……って。
仕事中だったけど、無理矢理上司を黙らせて杏香さんを本選会場に送った。
柚子はやっぱり本選に行ったことを知らせてなかったらしく、「教えてくれてありがとう」と感謝された。
杏香さんを送り届けた俺は、そのまま7号館に引き返した。
だって、会場には既に雲雀さんや骸、山本とリボーンが来てたから。
どうやら柚子の後を追ってきたらしい。
4人いれば、ひとまず安心。
柚子は、7号館に帰って来る。
「(待ってるから、な…)」
帰ってきたら、聞かせるから。
どうしても柚子に話しておきたいこと。
俺が、柚子を想ってる理由を。
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「大変!そろそろ戻らなきゃ!」
『えっ、もう!?』
「だって抜けて来ちゃったんだもの、これ以上いるワケにはいかないわ。」
お母さんは溜め息をついてたけど、ツナさんが連れ出したんなら大丈夫かもとあたしは思った。
だって、絶対お母さんの上司を脅して来たに決まってる。
「じゃあね柚子、元気で。」
『うん、お母さんも。無理しないでね。』
「分かってるわよ、大丈夫。」
駆けだそうとしたお母さんは、ふっと振り向いてまた笑顔を見せた。
「そうそう、演奏とっても良かったわ!お父さんの音みたいだった。」
『あっ…ありがとう♪今度は金賞取るからね!』
「えぇ、楽しみにしてる。」
人ごみを上手く抜けて、お母さんはパタパタ走り去って行った。
会えて良かったなと、改めて思った。
と、その時。
「失礼、牧之原柚子さんかな?」
『えっ?あ、はい…』
呼びかけられてそっちを見ると、お髭のおじさんが立っていた。
「私は審査員長を務めていた者なんだが……少し君の音が気になってね。」
『音………もしかして、父をご存じなんですか?』
聞き返すと、審査員長さんは奇跡を見たかのように目を丸くした。
「やはりそうか!いやはや光栄だよ!あの牧之原朽葉の娘さんに出会えるとは…!」
手を握られて、上下に振られる。
驚きのあまりフリーズしてたせいで、その振動が全身に伝わって来た。
ファンファーレ
鳴り響く祝典曲とシャッター音の中、あたしの未来がまた少し動いた
continue...