🎼本編
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本選の練習は、大学側でも本格的にやるようになった。
まぁ、あたしが良い成績を残せば学校の名誉にもなるだろうし、当然か。
でもって、7号館ではバジルさんに家事を半分手伝ってもらってる。
要するに今のあたしは、心のもやもやを気にしてるほど暇ではないのだ。
それでも、気づくことには気づいてしまって。
『あ、雲雀さん、』
「あぁ、帰ってたの。」
『今帰ったんですけど…あの、ちょっといいですか?』
「…何?」
コーヒーを飲みながら大広間で一人ゆったりしてた雲雀さんに、思い切って問いかけた。
『最近…ツナさん、変だと思いません?』
「さぁ?」
『何だか変なんですよ、そっけない感じがして…』
「ふぅん…」
『あ、べ、別に今まで優しかったとかそーゆーワケでもないんですけど……!』
「柚子、何かしたんじゃないの。」
『えっ…』
探るような目で見られて、あたしはぐるぐる考える。
確かにあたしは最近ブルーだし、もやもやが収まらなかったけど…
ツナさんに直接何か訴えたなんてことはしてない。
てか、出来ない。
それでもやっぱり、変化は感じ取れちゃうワケで。
“7号館にいると苦しい”……
そう、ディーノさんには言ってしまったけど、
本当はもっと限定的で、
本当はもっと純粋な気持ち------
「ねぇ柚子、」
『へっ?……ぅわっ!///』
完全に一人の世界で考え込んでいたあたしは、呼びかけられて飛び跳ねた。
だっていつの間にか雲雀さん、目の前に立ってるんだもん。
「前に言ったよね、強い人間は嫌いじゃないって。」
『あ…えと……はい。』
すうっと自然に伸ばされた手は、ゆっくりとあたしの髪を撫でて。
「強い柚子が、好きなんだ。」
『なっ……何、を…///』
「最近変なのは、柚子も同じでしょ。どうしてそんなに弱ってるの?」
細められた雲雀さんの瞳とは反対に、
あたしの目は見開かれた。
今、何て言われた…?
あたしが、弱ってる…?
雲雀さんに…違和感を与えてしまってる…?
「僕だけじゃない、気づくヤツは気付いてるよ。」
『な……』
せめて、ちゃんと笑っていたいと思ってるのに。
ディーノさんにも“無理してる”って言われるし、
雲雀さんには“弱ってる”って言われるし……
ダメだ、情けない。
心の中に芽生えてた想いに気付いた時から、
もやもやの正体は分かった。
嬉しいのと哀しいので、頭がごちゃごちゃ。
だから目を逸らして、
当たり前の日常だけはキープしようと思ってるのに。
『……何言ってるんですか、あたしはいつも通りですよ♪』
「柚子…?」
『変なこと聞いてすみませんでした、失礼しますっ。』
雲雀さんに背を向けて、大広間を出た。
あたし、ちゃんと笑えてるよね?
でもこれは、一瞬しかもたない笑顔。
だからお願いです、追いかけないで下さい。
コンクールのためにメンタルの調整もしなくちゃいけない。
だから……個人的な心情に構ってられない。
今日のお洗濯はバジルさんが担当してくれるって言ってたし、
お言葉に甘えて練習しようかな。
フルートと楽譜を持って演奏室に行こうとした、その時だった。
ピーンポーン、
『あ、はーい!』
チャイムが聞こえて返事をする。
と、洗濯室からバジルさんが顔を出した。
「柚子殿、拙者が…」
『いえ、お洗濯続けてて下さい。量、多いでしょうし。』
「す、すみません、ありがとうございます。」
『いえいえっ。』
ピンポンピンポンピンポン!!
『は、はいっ!!』
急かすように何度も鳴らされるチャイムに、ダッシュで玄関に向かう。
扉を開けると、お腹ら辺にいきなりギュウッと飛びつかれた。
「柚子だもんねーーっ!!」
『えっ!?あ…ランボ君っ!?』
「ガハハハハ!俺っち、柚子と遊びに来てやったぞ!」
『あたしと…?てゆーか、一人で…?』
すり寄って明るい笑顔を見せるランボ君に戸惑っていると、遠くから別の声。
「おいコラぁー、あんまはしゃぐなって言って…………」
ランボ君に向かってだるそうにそう言う白衣のおじさま。
不意に、あたしと目が合う。
『(保護者の方…?)』
シュバッ、
『ひょえっ!?』
「こんにちはお嬢さん、ココで出会えたのは何かの運命に違いない…さぁどうだい?俺と今からデートでも…」
『えっ?あ、あの…一体どなた…』
「戸惑う顔も可愛いね、チューしたくなるよ。」
は、話聞かない人キターーーー!!
「折角のデートにジャージは勿体ない。可愛い君には是非スカートをはいて欲し…」
「何してやがるこのスケコマシ!!!」
ドガッ、
『(きゃーっ!!)』
あたしの手を引いて外に連れ出そうとした白衣のおじさまは、
後ろからやってきた獄寺さんに飛び蹴りを喰らって、倒れた。
『あっ、あの、大丈夫ですか…!?』
「ガハハ!バキッでバタンだもんね!」
「アホ牛までいやがる…」
『ご、獄寺さん!お客様になんてことを…!』
「客だぁ!?どっからどー見てもただのヘンタイスケコマシだろーが!!」
『で、でも…』
「ったく~、痛ぇなぁ……よぉ、隼人。久しぶりだな。」
『(い、生きてた…!)』
ホッと一安心するあたし。
けど獄寺さんは舌打ちする。
「何しに来たんだよ、アホ牛連れて。」
「このガキは勝手について来ただけだ、俺ぁリボーンに呼ばれてな。」
『リボーンさん?』
首を傾げたあたしは、次の瞬間また彼に手を握られていた。
「そう、俺はこれでも優秀な医者だからさ、もう世界中引っ張りだこだよ、人気者はつらいね~。けど、そんな中で君という花に出会えたのは運め…」
「黙れ!!!」
ドゴッ、
「ってぇ~!!何だよ隼人、妬いてんのか?この子、お前のお気に入り?」
「ちっ、違ぇよ!!///」
『お医者様なんですか!初めまして、牧之原柚子と言います。』
「お前は口説かれてる事実に少しは反応しろ!こんのバカ柚子!!」
『ひえっ!す、すみません!』
え、何であたし怒られてるの…!?
意味が分からない!
獄寺さんの横暴~っ!!
「柚子ちゃん…あ、ボンゴレボーズの。」
『えっ…』
ま、まさか…
この人もフィアンセ説を聞いてらっしゃる、とか…?
「初めまして、俺はシャマルってんだ。泣かされたらすぐ相談してくれ、可愛い子のためなら飛んで来るぜ。」
「なになにー?何の話ー?ランボさんも!」
「うるせーアホ牛!!」
『と、とりあえずお通しします。どうぞ。』
ランボ君と手をつないで廊下を歩く。
後ろからあたしに抱きつこうとするシャマルさんを、獄寺さんがその度にど突いていた。
にしても、お医者様なのに医療器具とか持ってないなぁ…。
もしかして、カウンセラーの方かな?
「ランボさん、オレンジジュース飲みたい!」
『了解しました、すぐお持ちしますね。あ、シャマルさん、』
「ん?」
『リボーンさん、お呼びしますか?』
「俺ならもういるぞ。」
『ぎょわーっ!!』
それまで絶対いなかったハズなのに、リボーンさんがあたしの後ろに立っていた。
んもーっ、心臓に悪いっ!
客間を出て、ランボ君のオレンジジュースを取りに行った。
冷蔵庫を開けたらジュースが2本あって、一つには大きく骸さんの名前が記されていた。
----
-------
柚子が飲み物やお菓子を用意している間、客間ではシャマルがリボーンに問いかけていた。
「で、俺が呼ばれたワケは?」
「あぁ……お前、柚子を見てどう思った?」
「いやぁ~、可愛い子だねぇ。ボンゴレボーズには勿体な…」
「撃つぞ。」
「冗談だよ冗談。つってもまだ少ししか話してねぇから情報不足だ。」
『お飲み物とお菓子、お持ちしましたー。』
「ランボさんのジュースー!」
『はい、どうぞ♪』
ランボ君にジュースを渡し、シャマルさんとリボーンさんにはコーヒーを出す。
「おっ、ありがとーな。」
『いえいえ!どうぞごゆっくり。』
「柚子ちゃんは仕事かい?」
『えと…フルートコンクールがありまして…その練習をしなくちゃいけないんです。あ、でも、何かあったら言って下さいね。』
「あー、ちょい待った。」
『へ…?』
退室しようとしたあたしを引き留めるシャマルさん。
『何でしょうか…?』
「んー……柚子ちゃん、悩みある?」
その質問に吃驚したのは、言うまでも無い。
確かに、今のあたしは不安定だし、吐き出したい事も山ほどあるけど……
『大丈夫です。シャマルさんって、やっぱりカウンセラーなんですか?』
「まぁ強いて言うなら副業かな。無いならいーんだ、練習頑張ってな。」
『はい、ありがとうございます♪では、失礼します。』
ぺこりと一礼して、客間を出た。
大きなため息を1つ吐いて、ドアに寄りかかる。
うん、いつまでもウジウジしてらんないよね。
今はとにかくコンクールに向けてメンタル調整しなくちゃいけないんだから。
グッと意気込んでから、3階の演奏室へと駆け上がった。
---
-------
「どーだ?」
柚子が立ち去った後の客間。
リボーンとシャマルは深刻そうな表情をし、
ランボは獄寺をからかって遊んでいる。
「あの子は、本当に強い子なんだな……ボンゴレボーズもそこに惚れたのか?」
「知らねーぞ。」
リボーンの冷めた返事に、少し苦笑してからシャマルは言う。
「大丈夫だ。柚子ちゃんは、自分の気持ちに気付いてるさ。忙しいことを理由に、向き合ってはいないがな。」
その言葉を聞いても、リボーンは腑に落ちないというような表情のまま。
「どーしたんだよ、まだ何かあんのか?」
「……だったらどーして距離が縮まんねーんだ?ツナのせいか?」
「それもあるだろーが……まず柚子ちゃんは、自分とお前らを“身分違いの間柄”だと思ってる。」
「身分違い?ランボさんとお前達のことか!?ガハハハ!!」
「黙ってろアホ牛!!」
「格下獄寺~っ!」
「んだと!!?」
騒ぎ始めたランボを獄寺が押さえつける。
「だから腹括ったような顔してんだ。想いを、最初から諦めてな。」
「そうか……」
「お前が電話で言ってた、時々浮かべる苦痛の表情も、身分違いだと思ってるからだろ。」
「なるほどな。」
納得したリボーンは、コーヒーを口にした。
「俺の見た限り、柚子ちゃんは自分と素直に向き合える強くて良い子だ。」
「となると問題は……」
「あぁ、ボンゴレボーズの方にあるな。」
シャマルの言葉に、リボーンも考え込んだ。
「にしても、本当に可愛いなぁ柚子ちゃん。しっかり者だし気が利くし、助かってんじゃねーのか?」
「まぁな。ああ見えてアホなトコもあるから面白いんだぞ。」
「ったく、お前は人をからかうクセを何とかしろ。」
「いいじゃねーか、面白いモンは面白ぇんだからな。」
一通り話し終えたリボーンは、見送りの為に柚子を呼んだ。
『もうお帰りですか?』
「あぁ、気が向いたらまた来るさ。」
「俺っちは明日も来るもんね!!」
「ざけんなアホ牛!」
『ご、獄寺さんっ…!』
去り際にシャマルは柚子に優しく笑いかけて、言った。
「クセのある奴が多いけど、頑張れよ。」
『は…はいっ!ありがとうございますっ!』
「ランボさん、今度は柚子と遊ぶ!」
『うん、また来てね♪』
笑顔で2人を見送る柚子を、リボーンは横目で見つめていた。
---
------
------------
その夜。
『………うん、だいぶいいかな…?』
暗譜もしっかり出来てるし、転ばないようになった。
長時間集中力を切らさずにいるのは大変だけど、それが本選の厳しさってヤツだと思うし。
バジルさんが差し入れてくれた夜食を食べてから、1回通し練習をした。
もうすぐ日付が変わる。
昼間から結構練習したし、明日も早いから寝ようっと。
フルートと譜面台と楽譜を片付けて、ベッドに倒れ込んだ。
やっぱり何もかけてないのは肌寒い気がして、毛布を一枚お腹までかけた。
『(朝、お風呂入ろ……)』
いよいよ、明後日が本選。
学校で教授に貰ったアドバイスを1つ1つ思い出しながら、あたしは目を閉じていた。
----
---------
……ギィ、
半分意識が眠っている中で、ドアが開く音が聞こえた。
疲労のせいで、反応するのが億劫だった。
ベッドが少し、沈む感触。
誰かが座ってる、の…?
「………ごめんな、柚子…」
ぼんやりとした世界で、淡く響いた哀しい声。
それは、最近そっけない主の声で。
「気づいてやれなくて、本当に…ごめん……」
ゆっくりと髪を撫でられてる。
言葉の続きが聞きたくて、眠ったフリをした。
「俺……柚子を苦しめてたんだな………」
次の瞬間、ツナさんが立ちあがったのが分かった。
うっすら開けてみた視界には、哀しい後ろ姿。
『(…………あ、)』
気づいたら、あたしは涙を流していた。
やっぱり、ツナさんにも気づかれてしまってたんだって。
哀しくて、苦しくて、堪らなかった。
ホスピタリティー
いつも通りにと思えば思うほど、いつもと違う気持ちが疼く
continue...
まぁ、あたしが良い成績を残せば学校の名誉にもなるだろうし、当然か。
でもって、7号館ではバジルさんに家事を半分手伝ってもらってる。
要するに今のあたしは、心のもやもやを気にしてるほど暇ではないのだ。
それでも、気づくことには気づいてしまって。
『あ、雲雀さん、』
「あぁ、帰ってたの。」
『今帰ったんですけど…あの、ちょっといいですか?』
「…何?」
コーヒーを飲みながら大広間で一人ゆったりしてた雲雀さんに、思い切って問いかけた。
『最近…ツナさん、変だと思いません?』
「さぁ?」
『何だか変なんですよ、そっけない感じがして…』
「ふぅん…」
『あ、べ、別に今まで優しかったとかそーゆーワケでもないんですけど……!』
「柚子、何かしたんじゃないの。」
『えっ…』
探るような目で見られて、あたしはぐるぐる考える。
確かにあたしは最近ブルーだし、もやもやが収まらなかったけど…
ツナさんに直接何か訴えたなんてことはしてない。
てか、出来ない。
それでもやっぱり、変化は感じ取れちゃうワケで。
“7号館にいると苦しい”……
そう、ディーノさんには言ってしまったけど、
本当はもっと限定的で、
本当はもっと純粋な気持ち------
「ねぇ柚子、」
『へっ?……ぅわっ!///』
完全に一人の世界で考え込んでいたあたしは、呼びかけられて飛び跳ねた。
だっていつの間にか雲雀さん、目の前に立ってるんだもん。
「前に言ったよね、強い人間は嫌いじゃないって。」
『あ…えと……はい。』
すうっと自然に伸ばされた手は、ゆっくりとあたしの髪を撫でて。
「強い柚子が、好きなんだ。」
『なっ……何、を…///』
「最近変なのは、柚子も同じでしょ。どうしてそんなに弱ってるの?」
細められた雲雀さんの瞳とは反対に、
あたしの目は見開かれた。
今、何て言われた…?
あたしが、弱ってる…?
雲雀さんに…違和感を与えてしまってる…?
「僕だけじゃない、気づくヤツは気付いてるよ。」
『な……』
せめて、ちゃんと笑っていたいと思ってるのに。
ディーノさんにも“無理してる”って言われるし、
雲雀さんには“弱ってる”って言われるし……
ダメだ、情けない。
心の中に芽生えてた想いに気付いた時から、
もやもやの正体は分かった。
嬉しいのと哀しいので、頭がごちゃごちゃ。
だから目を逸らして、
当たり前の日常だけはキープしようと思ってるのに。
『……何言ってるんですか、あたしはいつも通りですよ♪』
「柚子…?」
『変なこと聞いてすみませんでした、失礼しますっ。』
雲雀さんに背を向けて、大広間を出た。
あたし、ちゃんと笑えてるよね?
でもこれは、一瞬しかもたない笑顔。
だからお願いです、追いかけないで下さい。
コンクールのためにメンタルの調整もしなくちゃいけない。
だから……個人的な心情に構ってられない。
今日のお洗濯はバジルさんが担当してくれるって言ってたし、
お言葉に甘えて練習しようかな。
フルートと楽譜を持って演奏室に行こうとした、その時だった。
ピーンポーン、
『あ、はーい!』
チャイムが聞こえて返事をする。
と、洗濯室からバジルさんが顔を出した。
「柚子殿、拙者が…」
『いえ、お洗濯続けてて下さい。量、多いでしょうし。』
「す、すみません、ありがとうございます。」
『いえいえっ。』
ピンポンピンポンピンポン!!
『は、はいっ!!』
急かすように何度も鳴らされるチャイムに、ダッシュで玄関に向かう。
扉を開けると、お腹ら辺にいきなりギュウッと飛びつかれた。
「柚子だもんねーーっ!!」
『えっ!?あ…ランボ君っ!?』
「ガハハハハ!俺っち、柚子と遊びに来てやったぞ!」
『あたしと…?てゆーか、一人で…?』
すり寄って明るい笑顔を見せるランボ君に戸惑っていると、遠くから別の声。
「おいコラぁー、あんまはしゃぐなって言って…………」
ランボ君に向かってだるそうにそう言う白衣のおじさま。
不意に、あたしと目が合う。
『(保護者の方…?)』
シュバッ、
『ひょえっ!?』
「こんにちはお嬢さん、ココで出会えたのは何かの運命に違いない…さぁどうだい?俺と今からデートでも…」
『えっ?あ、あの…一体どなた…』
「戸惑う顔も可愛いね、チューしたくなるよ。」
は、話聞かない人キターーーー!!
「折角のデートにジャージは勿体ない。可愛い君には是非スカートをはいて欲し…」
「何してやがるこのスケコマシ!!!」
ドガッ、
『(きゃーっ!!)』
あたしの手を引いて外に連れ出そうとした白衣のおじさまは、
後ろからやってきた獄寺さんに飛び蹴りを喰らって、倒れた。
『あっ、あの、大丈夫ですか…!?』
「ガハハ!バキッでバタンだもんね!」
「アホ牛までいやがる…」
『ご、獄寺さん!お客様になんてことを…!』
「客だぁ!?どっからどー見てもただのヘンタイスケコマシだろーが!!」
『で、でも…』
「ったく~、痛ぇなぁ……よぉ、隼人。久しぶりだな。」
『(い、生きてた…!)』
ホッと一安心するあたし。
けど獄寺さんは舌打ちする。
「何しに来たんだよ、アホ牛連れて。」
「このガキは勝手について来ただけだ、俺ぁリボーンに呼ばれてな。」
『リボーンさん?』
首を傾げたあたしは、次の瞬間また彼に手を握られていた。
「そう、俺はこれでも優秀な医者だからさ、もう世界中引っ張りだこだよ、人気者はつらいね~。けど、そんな中で君という花に出会えたのは運め…」
「黙れ!!!」
ドゴッ、
「ってぇ~!!何だよ隼人、妬いてんのか?この子、お前のお気に入り?」
「ちっ、違ぇよ!!///」
『お医者様なんですか!初めまして、牧之原柚子と言います。』
「お前は口説かれてる事実に少しは反応しろ!こんのバカ柚子!!」
『ひえっ!す、すみません!』
え、何であたし怒られてるの…!?
意味が分からない!
獄寺さんの横暴~っ!!
「柚子ちゃん…あ、ボンゴレボーズの。」
『えっ…』
ま、まさか…
この人もフィアンセ説を聞いてらっしゃる、とか…?
「初めまして、俺はシャマルってんだ。泣かされたらすぐ相談してくれ、可愛い子のためなら飛んで来るぜ。」
「なになにー?何の話ー?ランボさんも!」
「うるせーアホ牛!!」
『と、とりあえずお通しします。どうぞ。』
ランボ君と手をつないで廊下を歩く。
後ろからあたしに抱きつこうとするシャマルさんを、獄寺さんがその度にど突いていた。
にしても、お医者様なのに医療器具とか持ってないなぁ…。
もしかして、カウンセラーの方かな?
「ランボさん、オレンジジュース飲みたい!」
『了解しました、すぐお持ちしますね。あ、シャマルさん、』
「ん?」
『リボーンさん、お呼びしますか?』
「俺ならもういるぞ。」
『ぎょわーっ!!』
それまで絶対いなかったハズなのに、リボーンさんがあたしの後ろに立っていた。
んもーっ、心臓に悪いっ!
客間を出て、ランボ君のオレンジジュースを取りに行った。
冷蔵庫を開けたらジュースが2本あって、一つには大きく骸さんの名前が記されていた。
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柚子が飲み物やお菓子を用意している間、客間ではシャマルがリボーンに問いかけていた。
「で、俺が呼ばれたワケは?」
「あぁ……お前、柚子を見てどう思った?」
「いやぁ~、可愛い子だねぇ。ボンゴレボーズには勿体な…」
「撃つぞ。」
「冗談だよ冗談。つってもまだ少ししか話してねぇから情報不足だ。」
『お飲み物とお菓子、お持ちしましたー。』
「ランボさんのジュースー!」
『はい、どうぞ♪』
ランボ君にジュースを渡し、シャマルさんとリボーンさんにはコーヒーを出す。
「おっ、ありがとーな。」
『いえいえ!どうぞごゆっくり。』
「柚子ちゃんは仕事かい?」
『えと…フルートコンクールがありまして…その練習をしなくちゃいけないんです。あ、でも、何かあったら言って下さいね。』
「あー、ちょい待った。」
『へ…?』
退室しようとしたあたしを引き留めるシャマルさん。
『何でしょうか…?』
「んー……柚子ちゃん、悩みある?」
その質問に吃驚したのは、言うまでも無い。
確かに、今のあたしは不安定だし、吐き出したい事も山ほどあるけど……
『大丈夫です。シャマルさんって、やっぱりカウンセラーなんですか?』
「まぁ強いて言うなら副業かな。無いならいーんだ、練習頑張ってな。」
『はい、ありがとうございます♪では、失礼します。』
ぺこりと一礼して、客間を出た。
大きなため息を1つ吐いて、ドアに寄りかかる。
うん、いつまでもウジウジしてらんないよね。
今はとにかくコンクールに向けてメンタル調整しなくちゃいけないんだから。
グッと意気込んでから、3階の演奏室へと駆け上がった。
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「どーだ?」
柚子が立ち去った後の客間。
リボーンとシャマルは深刻そうな表情をし、
ランボは獄寺をからかって遊んでいる。
「あの子は、本当に強い子なんだな……ボンゴレボーズもそこに惚れたのか?」
「知らねーぞ。」
リボーンの冷めた返事に、少し苦笑してからシャマルは言う。
「大丈夫だ。柚子ちゃんは、自分の気持ちに気付いてるさ。忙しいことを理由に、向き合ってはいないがな。」
その言葉を聞いても、リボーンは腑に落ちないというような表情のまま。
「どーしたんだよ、まだ何かあんのか?」
「……だったらどーして距離が縮まんねーんだ?ツナのせいか?」
「それもあるだろーが……まず柚子ちゃんは、自分とお前らを“身分違いの間柄”だと思ってる。」
「身分違い?ランボさんとお前達のことか!?ガハハハ!!」
「黙ってろアホ牛!!」
「格下獄寺~っ!」
「んだと!!?」
騒ぎ始めたランボを獄寺が押さえつける。
「だから腹括ったような顔してんだ。想いを、最初から諦めてな。」
「そうか……」
「お前が電話で言ってた、時々浮かべる苦痛の表情も、身分違いだと思ってるからだろ。」
「なるほどな。」
納得したリボーンは、コーヒーを口にした。
「俺の見た限り、柚子ちゃんは自分と素直に向き合える強くて良い子だ。」
「となると問題は……」
「あぁ、ボンゴレボーズの方にあるな。」
シャマルの言葉に、リボーンも考え込んだ。
「にしても、本当に可愛いなぁ柚子ちゃん。しっかり者だし気が利くし、助かってんじゃねーのか?」
「まぁな。ああ見えてアホなトコもあるから面白いんだぞ。」
「ったく、お前は人をからかうクセを何とかしろ。」
「いいじゃねーか、面白いモンは面白ぇんだからな。」
一通り話し終えたリボーンは、見送りの為に柚子を呼んだ。
『もうお帰りですか?』
「あぁ、気が向いたらまた来るさ。」
「俺っちは明日も来るもんね!!」
「ざけんなアホ牛!」
『ご、獄寺さんっ…!』
去り際にシャマルは柚子に優しく笑いかけて、言った。
「クセのある奴が多いけど、頑張れよ。」
『は…はいっ!ありがとうございますっ!』
「ランボさん、今度は柚子と遊ぶ!」
『うん、また来てね♪』
笑顔で2人を見送る柚子を、リボーンは横目で見つめていた。
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その夜。
『………うん、だいぶいいかな…?』
暗譜もしっかり出来てるし、転ばないようになった。
長時間集中力を切らさずにいるのは大変だけど、それが本選の厳しさってヤツだと思うし。
バジルさんが差し入れてくれた夜食を食べてから、1回通し練習をした。
もうすぐ日付が変わる。
昼間から結構練習したし、明日も早いから寝ようっと。
フルートと譜面台と楽譜を片付けて、ベッドに倒れ込んだ。
やっぱり何もかけてないのは肌寒い気がして、毛布を一枚お腹までかけた。
『(朝、お風呂入ろ……)』
いよいよ、明後日が本選。
学校で教授に貰ったアドバイスを1つ1つ思い出しながら、あたしは目を閉じていた。
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……ギィ、
半分意識が眠っている中で、ドアが開く音が聞こえた。
疲労のせいで、反応するのが億劫だった。
ベッドが少し、沈む感触。
誰かが座ってる、の…?
「………ごめんな、柚子…」
ぼんやりとした世界で、淡く響いた哀しい声。
それは、最近そっけない主の声で。
「気づいてやれなくて、本当に…ごめん……」
ゆっくりと髪を撫でられてる。
言葉の続きが聞きたくて、眠ったフリをした。
「俺……柚子を苦しめてたんだな………」
次の瞬間、ツナさんが立ちあがったのが分かった。
うっすら開けてみた視界には、哀しい後ろ姿。
『(…………あ、)』
気づいたら、あたしは涙を流していた。
やっぱり、ツナさんにも気づかれてしまってたんだって。
哀しくて、苦しくて、堪らなかった。
ホスピタリティー
いつも通りにと思えば思うほど、いつもと違う気持ちが疼く
continue...