🎼本編
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「よっ、おはよ!柚子!」
『おっ、おはようございます山本さんっ。』
「ん?それ今から干すのか?」
『はい、昨晩洗濯機にかけてたやつです。』
大きな洗濯かごを持って廊下を歩いてたあたし。
これから3階のベランダに干しに行くトコだった。
「重そーだな、俺持ってくぜ。」
『えっ?あっ…!』
ナチュラルにかごをあたしから取る山本さん。
一瞬だけ指が触れて、吃驚した。
「柚子?どーかしたか?」
『い、いえ!何でもないです…』
「3階までだよなっ?」
『はい…すみません。』
昨日から、何かおかしい。
7号館で過ごす休日が、酷く息苦しい。
皆さんが学校に行って下さればいいのに…
そう思う日に限って、休日なのだ。
「ココに置けばいーか?」
『あ、ありがとうございます。』
「いーって!じゃ、俺は1階に戻るぜ。」
『はい。』
山本さんに一礼して、あたしは干す作業に入った。
ボーッとしながら、同じ動作を繰り返す。
かごから衣類をとって、
洗濯バサミに挟んで、
またかごから取って、
また挟んで……
『何でだろ……』
ココに居ていいのかな、
あたしはどうして居るのかな、
そんな疑問ばかりが、心の中に渦巻く。
「あ、いたいた。柚子、」
『は、はいっ!』
後ろから呼びかけて来たのは、ツナさんだった。
慌てて振り向いたあたしを見て、何かに気がついたように目を丸くする。
『あの、何か…?』
「……それはこっちの台詞。」
『え?』
「何でそんな顔してんだよ。」
ツナさんに言われて、固まった。
あたし今、どんな顔してる…?
どんな顔で、ツナさんと向き合ってるの…?
分からない、分からない。
自分が全然分からない。
『す、すみません…!顔洗って来まs…』
「待てって!」
走り出そうとしたあたしの腕は、ツナさんにがしりと掴まれた。
『あっ…』
そのまま腕の中に連行されるのは、いつものこと……
今までも何度も経験してきたこと……
それなのに。
「どうしたんだよ、柚子。」
『は、放して下さいっ…///』
何でこんなに、苦しいの?
何でこんなに、熱いの?
ツナさんの腕の感触が、
じわりと伝わる温かさが、
投げかけられる言葉が、
全部、苦しい。
『あたし…変なんです……』
「柚子…?」
でも、何がどう変わったのか、
ツナさんに教えられない。
教えたくない。
「体調は…崩してないみたいだけど。」
違う、違うんです。
もっともっと、心臓の奥が痛い。
「…大丈夫か?」
『え…?』
どうしてだろう、
心配してもらったのに、それも苦しい。
いつもだったら、
ツナさんが心配するなんて…とか驚くばかりのハズなのに。
『大丈夫、ですから……放して下さい…』
静かに言ったら、ツナさんはあたしの髪を一撫でしてから解放した。
瞬間、周りにあった空気が触れて冷たく感じる。
『ちょっとボーっとしてただけですから、大丈夫です。』
「…なら、いんだけどさ。」
『ところで、何かご用があったんじゃ…?』
「うん、今日ヴァリアー来るからお茶とお菓子の用意しといて欲しくて。」
『分かりました、洗濯終わってからでも間に合いますか?』
あたし…ちゃんと会話出来てるよね?
ツナさんに、違和感与えてないよね?
「そーだな、昼ごろ来るって言ってたし。じゃ、頼むよ。」
『はい。』
ツナさんは書斎に下に降りて行った。
そっかぁ…
またヴァリアーの皆さん来るのかぁ……
ちょっと怖いけど、絡まなきゃいいんだよね、うん。
---
-------
洗濯物を干し終えてから、7号館から逃げるように買い物に出かけた。
ついでにお洋服でも見ようかなと思って、お金を余分に持った。
---「柚子さ、どう思ってんの?」
---「男ばっかに囲まれて暮らしてる、この状態。」
ツナさんと喧嘩した時の言葉が、脳裏に過った。
考えてみたら、とんでもない日常だったんだって。
新しい紅茶とお菓子を買った。
お菓子はちょっと奮発して、リーフパイを買ってみた。
ヴァリアーの方は怖いから、高級さを上げとこうと思って。
『(さて、お洋服見て来ようっと。)』
一人のショッピングも、たまにはいいな。
というか、今の精神状態だったら一人の方がいいに決まってる。
最近は骸さんやツナさんが買い出しに付いて来てくれるから一人は久しぶり…
「う"ぉいっ!」
『(あれ…?)』
今なんか…知ってる声が聞こえたような……
……気のせいか。
「う"お"ぉいっ!!柚子!!」
ガシッ、
『ひょえっ!!』
飛び上って振り向いたら、物凄くイライラした表情の銀髪さんがいらっしゃいました。
『あ……えと、スクアーロさん!!?』
「てめぇというヤツぁ…一回目で返事しやがれぇ!!」
『(えぇーっ!!?)』
あ、あたし呼ばれてないよね!?
返事出来るワケないよね!?
というか何で…
『おひとり、ですか…?』
「………うるせぇ!!」
いちいち耳をつんざかれるようなボリュームに、あたしは思わず目を閉じる。
てゆーか手首…!痛い!!
「あいつら勝手に消えやがって…俺が先頭に立つといつもこーだ!!」
『あ、あの…とりあえず落ち着いてあたしの手首を放して下さい…ね?』
「…う"、おぉ…悪かったなぁ…」
あ、やっぱりこの人、良い人だ…。
外見と口調が怖いだけなのかも。
話を聞けば、ベルさんとマーモンさん、ルッスーリアさんと来日したスクアーロさん。
空港から屋根の上を渡って7号館に向かってた途中、皆さんが単独行動に走ってしまったらしい。
先頭を行くスクアーロさんが振り返った時には、もう3人の姿は無かったとか。
「で、探してたんだぁ。」
『……なのにどうしてあたしに声かけたんですか?』
「あ"?見かけたからに決まってんだろーがぁ。」
『そ、そうですか…』
あーあ、折角の一人ショッピングタイムが……
でも、何だか不思議。
今まで塞ぎ込んでたのに、スクアーロさんに引っぱり出された感じ。
『分かりました、お手伝いします!』
「う"おぉ…助かるぜぇ……」
『いえ!お買い物も終わったし、暇だったんです。』
「そぉかぁ…ならルッスーリアを探してくれぇ。多分だが…女が行きそうなトコにいやがるハズだぁ。」
『了解ですっ!』
スクアーロさんはベルさんとマーモンさんを探しに行くと言った。
というワケで、一旦別々に探してみることに。
女が行きそうなトコ……お洋服とか喫茶店とか見てるのかな?
『(ルッスーリアさんは…髪色が派手だったよね、確か。)』
だったら探しやすいかな、と思った。
---
-------
-------------
『いないなぁ…どうしよ……』
これじゃ、スクアーロさんに怒られちゃうかも…
洋服屋も喫茶店も、靴屋もケーキ屋も探したのに。
『はぁ…どこにいるんだろ、ルッスーリアさん…』
溜め息をついたその時。
「う"お"ぉいっ!」
『あっ、スクアーロさん!!』
「いたかぁ?」
『それが…どこにも……』
怒られちゃうかなと思ったら、違った。
「俺もだぜぇ…ったく、どこに行きやがった、あいつら…」
ベルさんとマーモンさんも見つからなかったようだ。
スクアーロさんには悪いけど、あたしは少しホッとした。
『じゃあ、とりあえず7号館行きますか?もうすぐお昼ですし、あたし昼食作らなくちゃいけなくて。』
「あぁ、そぉだなぁ…」
スクアーロさんの真っ黒い服は、商店街で凄く目立っていた。
長い銀髪もあるから、尚更。
だけどあたしは何も気にならなかった。
この人は怖くない…良い人認定できた時から、一緒に歩くことに躊躇いを感じなくなったのだ。
『(あ、そうだ…)』
この際だから、話してみようかな…
7号館の皆さんには言えない、あたしの中のモヤモヤについて。
『あ、あのっ…』
「何だぁ?」
『相談しても、いいですか?』
「う"お"っ…お、俺にかぁ!?」
いや、今この場に貴方しかいないんですけど…
スクアーロさんは急にそっぽを向いて、頭を掻く。
『ダメ、でしょうか…?』
「いや!いいぜぇ!何でも言えぇ!」
良かった、やっぱり良い人だ。
今ならツナさん達に聞かれることも無い。
そう思って、あたしは口を開いた。
『スクアーロさんは、7号館の状況を……どう思います?』
「状況だとぉ?どーゆー意味だぁ。」
『ですから…あたしが、女一人居候してる状況です。』
ストレートに言ってみると、スクアーロさんは少しだけ目を丸くした。
『あたしは最近…おかしいんじゃないかって思って……』
「そーかぁ?」
『だって、甘い言葉とか抱擁とか日常茶飯事なんですよっ!?おかしくないですか!?』
「けど、今までそれで過ごしてたんじゃねーのかぁ?今更だろぉ。」
そう、今更なんです…
今更こんなに……
『やっぱりあたしが…変になったんでしょうか……』
「う"お"いっ、柚子!?」
ポロッと零れた一粒の滴に、スクアーロさんは慌ててしまった。
申し訳なく思ったけど、自分で止めるなんて出来ない。
『7号館にいると…皆さんといると……苦しくて、熱くて…痛いんですっ……』
どうして急にそんな風になったのか、
自分でもまるで分からない。
ツナさんはいつもの通り腹黒横暴ボスなのに、
あたしは怯えることもなく、
ただ熱くて苦しいだけで。
「……ったく、だから苦手なんだぁ…」
『へ…?』
「オラ、使えぇ。」
差し出されたハンドタオルに、少し吃驚した。
スクアーロさん、こーゆーの持って歩くタイプに見えない…。
「オラァ!」
『はいぃっ!』
何この威圧的な渡し方…(汗)
『あ、ありがとうございます…』
「ハッキリ言うとだなぁ、」
『はい…』
「俺には女が何考えてんのかなんざ、わかんねぇ。」
…ですよね。
「けどなぁ、」
『え?』
逆接語と共に、あたしの頭の上には重みが。
それがスクアーロさんの右手だと気付き、ビクッと震える。
「柚子…お前まさか、恐怖症になったのかぁ?」
『い、いえ…違うと思います、けど……』
「そーかぁ、ならいーんだぁ。」
あたしの答えに安堵したように溜め息を吐いて、スクアーロさんは言う。
「人間の感情なんて、変わって当然だろーがぁ。ずっと変わんねぇ方がおかしいだろぉ。」
『そう、ですね…』
それでもあたしは、この異常な変化にモヤモヤしてならない。
何より、あんなに苦しくなるのは嫌なんです。
グシャグシャ、
『ちょ、ちょっとスクアーロさんっ!髪の毛ボサボサになっちゃうじゃないですかぁっ!!』
「あぁ!?いつもあのカスガキがやってんだろぉ!!」
それってもしかして…山本さん!?
え、あの…全然違うんですけど…
「いーかぁ!!変わんのは当たり前だぁ!問題は、何が変わらねぇかだぁ!!」
『何が、変わらないか…?』
「変わんねーモンがあんだろぉ、柚子の中にもなぁ…」
あたしの中にある、変わらない感情……
変えたくない気持ち……
『大事ですっ…皆さん……大切な人達です……』
だから、離れたくない。
だから、近づいて苦しくなる自分が嫌になる。
関わってしまったあたしは、もう戻れないから。
出会わなかった頃に戻れないほど、皆さんとの日常は大切なものだから。
『あの、』
「あ"?」
『……痛いです、頭…』
「う、うるせぇっ!///オラ、泣きやんだなら行くぜぇ!!」
『はいっ!』
スクアーロさんの手は、獄寺さんの手に似ていた。
ぶっきらぼうで、頭を撫でるのに慣れてない感じ。
ともあれ、スクアーロさんに話したのは正解だったみたい。
変わらない感情がある……それだけで、大丈夫な気がした。
「柚子、」
『はい、何でしょうか?』
「お前……やっぱ強ぇんだなぁ…」
『へ?』
「さすがフィアンセになっただけあるって事かぁ。」
“やっぱ”…??
確かに“強い”って良くいわれるけど…
『何言ってるんですかぁ、あたしなんて雑魚ですよっ。攻撃とか避けられませんし。』
「違ぇ!その、何だ……立ち直りが早ぇのが…聞いてた通りでなぁ。」
『え?スクアーロさん、あたしのこと……』
そんな、前から性格知ってるみたいに言うなんて…
まるで……
『誰かから、聞いてたんですか?ザンザスさん…?』
「あのクソボスがそんな話するかぁ!あのガキが婚約者決める時に言ってたんだぁ、俺らん中で覚えてるヤツなんざいねーだろーがなぁ。」
『婚約者を、決める時…?』
何だろう、胸騒ぎがする。
情報が、整理できない。
『ツナさんが…前もってあたしを選んでたって事ですか…!?』
「当たり前だろぉ。」
だってそんなの、あり得ないのに。
あたしとツナさんが初めて会ったのは、今年の4月のハズなのに。
『うそ……』
「嘘なワケあるかぁ!第一あのガキの今は、柚子がいなかったらあり得ねぇじゃねーかぁ!」
足が、止まった。
思考も、止まった。
「う"お"ぉい柚子、どーしたぁ!?」
『いえ…何でも、ないです……』
スクアーロさんは、あたしがツナさんの本物の婚約者だと思ってる。
間違ったその前提を差し引いても、今の話には矛盾が生じる。
あたしには、ツナさんにそこまで影響した記憶が無いのだから。
何とかまた歩き出せたものの、頭の中は止まったままだった。
モデュレーション
彼女の中の変化に伴い、全てが動き出していく
continue...
『おっ、おはようございます山本さんっ。』
「ん?それ今から干すのか?」
『はい、昨晩洗濯機にかけてたやつです。』
大きな洗濯かごを持って廊下を歩いてたあたし。
これから3階のベランダに干しに行くトコだった。
「重そーだな、俺持ってくぜ。」
『えっ?あっ…!』
ナチュラルにかごをあたしから取る山本さん。
一瞬だけ指が触れて、吃驚した。
「柚子?どーかしたか?」
『い、いえ!何でもないです…』
「3階までだよなっ?」
『はい…すみません。』
昨日から、何かおかしい。
7号館で過ごす休日が、酷く息苦しい。
皆さんが学校に行って下さればいいのに…
そう思う日に限って、休日なのだ。
「ココに置けばいーか?」
『あ、ありがとうございます。』
「いーって!じゃ、俺は1階に戻るぜ。」
『はい。』
山本さんに一礼して、あたしは干す作業に入った。
ボーッとしながら、同じ動作を繰り返す。
かごから衣類をとって、
洗濯バサミに挟んで、
またかごから取って、
また挟んで……
『何でだろ……』
ココに居ていいのかな、
あたしはどうして居るのかな、
そんな疑問ばかりが、心の中に渦巻く。
「あ、いたいた。柚子、」
『は、はいっ!』
後ろから呼びかけて来たのは、ツナさんだった。
慌てて振り向いたあたしを見て、何かに気がついたように目を丸くする。
『あの、何か…?』
「……それはこっちの台詞。」
『え?』
「何でそんな顔してんだよ。」
ツナさんに言われて、固まった。
あたし今、どんな顔してる…?
どんな顔で、ツナさんと向き合ってるの…?
分からない、分からない。
自分が全然分からない。
『す、すみません…!顔洗って来まs…』
「待てって!」
走り出そうとしたあたしの腕は、ツナさんにがしりと掴まれた。
『あっ…』
そのまま腕の中に連行されるのは、いつものこと……
今までも何度も経験してきたこと……
それなのに。
「どうしたんだよ、柚子。」
『は、放して下さいっ…///』
何でこんなに、苦しいの?
何でこんなに、熱いの?
ツナさんの腕の感触が、
じわりと伝わる温かさが、
投げかけられる言葉が、
全部、苦しい。
『あたし…変なんです……』
「柚子…?」
でも、何がどう変わったのか、
ツナさんに教えられない。
教えたくない。
「体調は…崩してないみたいだけど。」
違う、違うんです。
もっともっと、心臓の奥が痛い。
「…大丈夫か?」
『え…?』
どうしてだろう、
心配してもらったのに、それも苦しい。
いつもだったら、
ツナさんが心配するなんて…とか驚くばかりのハズなのに。
『大丈夫、ですから……放して下さい…』
静かに言ったら、ツナさんはあたしの髪を一撫でしてから解放した。
瞬間、周りにあった空気が触れて冷たく感じる。
『ちょっとボーっとしてただけですから、大丈夫です。』
「…なら、いんだけどさ。」
『ところで、何かご用があったんじゃ…?』
「うん、今日ヴァリアー来るからお茶とお菓子の用意しといて欲しくて。」
『分かりました、洗濯終わってからでも間に合いますか?』
あたし…ちゃんと会話出来てるよね?
ツナさんに、違和感与えてないよね?
「そーだな、昼ごろ来るって言ってたし。じゃ、頼むよ。」
『はい。』
ツナさんは書斎に下に降りて行った。
そっかぁ…
またヴァリアーの皆さん来るのかぁ……
ちょっと怖いけど、絡まなきゃいいんだよね、うん。
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洗濯物を干し終えてから、7号館から逃げるように買い物に出かけた。
ついでにお洋服でも見ようかなと思って、お金を余分に持った。
---「柚子さ、どう思ってんの?」
---「男ばっかに囲まれて暮らしてる、この状態。」
ツナさんと喧嘩した時の言葉が、脳裏に過った。
考えてみたら、とんでもない日常だったんだって。
新しい紅茶とお菓子を買った。
お菓子はちょっと奮発して、リーフパイを買ってみた。
ヴァリアーの方は怖いから、高級さを上げとこうと思って。
『(さて、お洋服見て来ようっと。)』
一人のショッピングも、たまにはいいな。
というか、今の精神状態だったら一人の方がいいに決まってる。
最近は骸さんやツナさんが買い出しに付いて来てくれるから一人は久しぶり…
「う"ぉいっ!」
『(あれ…?)』
今なんか…知ってる声が聞こえたような……
……気のせいか。
「う"お"ぉいっ!!柚子!!」
ガシッ、
『ひょえっ!!』
飛び上って振り向いたら、物凄くイライラした表情の銀髪さんがいらっしゃいました。
『あ……えと、スクアーロさん!!?』
「てめぇというヤツぁ…一回目で返事しやがれぇ!!」
『(えぇーっ!!?)』
あ、あたし呼ばれてないよね!?
返事出来るワケないよね!?
というか何で…
『おひとり、ですか…?』
「………うるせぇ!!」
いちいち耳をつんざかれるようなボリュームに、あたしは思わず目を閉じる。
てゆーか手首…!痛い!!
「あいつら勝手に消えやがって…俺が先頭に立つといつもこーだ!!」
『あ、あの…とりあえず落ち着いてあたしの手首を放して下さい…ね?』
「…う"、おぉ…悪かったなぁ…」
あ、やっぱりこの人、良い人だ…。
外見と口調が怖いだけなのかも。
話を聞けば、ベルさんとマーモンさん、ルッスーリアさんと来日したスクアーロさん。
空港から屋根の上を渡って7号館に向かってた途中、皆さんが単独行動に走ってしまったらしい。
先頭を行くスクアーロさんが振り返った時には、もう3人の姿は無かったとか。
「で、探してたんだぁ。」
『……なのにどうしてあたしに声かけたんですか?』
「あ"?見かけたからに決まってんだろーがぁ。」
『そ、そうですか…』
あーあ、折角の一人ショッピングタイムが……
でも、何だか不思議。
今まで塞ぎ込んでたのに、スクアーロさんに引っぱり出された感じ。
『分かりました、お手伝いします!』
「う"おぉ…助かるぜぇ……」
『いえ!お買い物も終わったし、暇だったんです。』
「そぉかぁ…ならルッスーリアを探してくれぇ。多分だが…女が行きそうなトコにいやがるハズだぁ。」
『了解ですっ!』
スクアーロさんはベルさんとマーモンさんを探しに行くと言った。
というワケで、一旦別々に探してみることに。
女が行きそうなトコ……お洋服とか喫茶店とか見てるのかな?
『(ルッスーリアさんは…髪色が派手だったよね、確か。)』
だったら探しやすいかな、と思った。
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『いないなぁ…どうしよ……』
これじゃ、スクアーロさんに怒られちゃうかも…
洋服屋も喫茶店も、靴屋もケーキ屋も探したのに。
『はぁ…どこにいるんだろ、ルッスーリアさん…』
溜め息をついたその時。
「う"お"ぉいっ!」
『あっ、スクアーロさん!!』
「いたかぁ?」
『それが…どこにも……』
怒られちゃうかなと思ったら、違った。
「俺もだぜぇ…ったく、どこに行きやがった、あいつら…」
ベルさんとマーモンさんも見つからなかったようだ。
スクアーロさんには悪いけど、あたしは少しホッとした。
『じゃあ、とりあえず7号館行きますか?もうすぐお昼ですし、あたし昼食作らなくちゃいけなくて。』
「あぁ、そぉだなぁ…」
スクアーロさんの真っ黒い服は、商店街で凄く目立っていた。
長い銀髪もあるから、尚更。
だけどあたしは何も気にならなかった。
この人は怖くない…良い人認定できた時から、一緒に歩くことに躊躇いを感じなくなったのだ。
『(あ、そうだ…)』
この際だから、話してみようかな…
7号館の皆さんには言えない、あたしの中のモヤモヤについて。
『あ、あのっ…』
「何だぁ?」
『相談しても、いいですか?』
「う"お"っ…お、俺にかぁ!?」
いや、今この場に貴方しかいないんですけど…
スクアーロさんは急にそっぽを向いて、頭を掻く。
『ダメ、でしょうか…?』
「いや!いいぜぇ!何でも言えぇ!」
良かった、やっぱり良い人だ。
今ならツナさん達に聞かれることも無い。
そう思って、あたしは口を開いた。
『スクアーロさんは、7号館の状況を……どう思います?』
「状況だとぉ?どーゆー意味だぁ。」
『ですから…あたしが、女一人居候してる状況です。』
ストレートに言ってみると、スクアーロさんは少しだけ目を丸くした。
『あたしは最近…おかしいんじゃないかって思って……』
「そーかぁ?」
『だって、甘い言葉とか抱擁とか日常茶飯事なんですよっ!?おかしくないですか!?』
「けど、今までそれで過ごしてたんじゃねーのかぁ?今更だろぉ。」
そう、今更なんです…
今更こんなに……
『やっぱりあたしが…変になったんでしょうか……』
「う"お"いっ、柚子!?」
ポロッと零れた一粒の滴に、スクアーロさんは慌ててしまった。
申し訳なく思ったけど、自分で止めるなんて出来ない。
『7号館にいると…皆さんといると……苦しくて、熱くて…痛いんですっ……』
どうして急にそんな風になったのか、
自分でもまるで分からない。
ツナさんはいつもの通り腹黒横暴ボスなのに、
あたしは怯えることもなく、
ただ熱くて苦しいだけで。
「……ったく、だから苦手なんだぁ…」
『へ…?』
「オラ、使えぇ。」
差し出されたハンドタオルに、少し吃驚した。
スクアーロさん、こーゆーの持って歩くタイプに見えない…。
「オラァ!」
『はいぃっ!』
何この威圧的な渡し方…(汗)
『あ、ありがとうございます…』
「ハッキリ言うとだなぁ、」
『はい…』
「俺には女が何考えてんのかなんざ、わかんねぇ。」
…ですよね。
「けどなぁ、」
『え?』
逆接語と共に、あたしの頭の上には重みが。
それがスクアーロさんの右手だと気付き、ビクッと震える。
「柚子…お前まさか、恐怖症になったのかぁ?」
『い、いえ…違うと思います、けど……』
「そーかぁ、ならいーんだぁ。」
あたしの答えに安堵したように溜め息を吐いて、スクアーロさんは言う。
「人間の感情なんて、変わって当然だろーがぁ。ずっと変わんねぇ方がおかしいだろぉ。」
『そう、ですね…』
それでもあたしは、この異常な変化にモヤモヤしてならない。
何より、あんなに苦しくなるのは嫌なんです。
グシャグシャ、
『ちょ、ちょっとスクアーロさんっ!髪の毛ボサボサになっちゃうじゃないですかぁっ!!』
「あぁ!?いつもあのカスガキがやってんだろぉ!!」
それってもしかして…山本さん!?
え、あの…全然違うんですけど…
「いーかぁ!!変わんのは当たり前だぁ!問題は、何が変わらねぇかだぁ!!」
『何が、変わらないか…?』
「変わんねーモンがあんだろぉ、柚子の中にもなぁ…」
あたしの中にある、変わらない感情……
変えたくない気持ち……
『大事ですっ…皆さん……大切な人達です……』
だから、離れたくない。
だから、近づいて苦しくなる自分が嫌になる。
関わってしまったあたしは、もう戻れないから。
出会わなかった頃に戻れないほど、皆さんとの日常は大切なものだから。
『あの、』
「あ"?」
『……痛いです、頭…』
「う、うるせぇっ!///オラ、泣きやんだなら行くぜぇ!!」
『はいっ!』
スクアーロさんの手は、獄寺さんの手に似ていた。
ぶっきらぼうで、頭を撫でるのに慣れてない感じ。
ともあれ、スクアーロさんに話したのは正解だったみたい。
変わらない感情がある……それだけで、大丈夫な気がした。
「柚子、」
『はい、何でしょうか?』
「お前……やっぱ強ぇんだなぁ…」
『へ?』
「さすがフィアンセになっただけあるって事かぁ。」
“やっぱ”…??
確かに“強い”って良くいわれるけど…
『何言ってるんですかぁ、あたしなんて雑魚ですよっ。攻撃とか避けられませんし。』
「違ぇ!その、何だ……立ち直りが早ぇのが…聞いてた通りでなぁ。」
『え?スクアーロさん、あたしのこと……』
そんな、前から性格知ってるみたいに言うなんて…
まるで……
『誰かから、聞いてたんですか?ザンザスさん…?』
「あのクソボスがそんな話するかぁ!あのガキが婚約者決める時に言ってたんだぁ、俺らん中で覚えてるヤツなんざいねーだろーがなぁ。」
『婚約者を、決める時…?』
何だろう、胸騒ぎがする。
情報が、整理できない。
『ツナさんが…前もってあたしを選んでたって事ですか…!?』
「当たり前だろぉ。」
だってそんなの、あり得ないのに。
あたしとツナさんが初めて会ったのは、今年の4月のハズなのに。
『うそ……』
「嘘なワケあるかぁ!第一あのガキの今は、柚子がいなかったらあり得ねぇじゃねーかぁ!」
足が、止まった。
思考も、止まった。
「う"お"ぉい柚子、どーしたぁ!?」
『いえ…何でも、ないです……』
スクアーロさんは、あたしがツナさんの本物の婚約者だと思ってる。
間違ったその前提を差し引いても、今の話には矛盾が生じる。
あたしには、ツナさんにそこまで影響した記憶が無いのだから。
何とかまた歩き出せたものの、頭の中は止まったままだった。
モデュレーション
彼女の中の変化に伴い、全てが動き出していく
continue...