🎼本編
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こんにちは!柚子です。
本日は山本さんと了平さんのお部屋を掃除しました。
思ったよりも散らかっててビックリしたのは内緒です。
『さーてと、あと1時間で休み時間かぁ…』
夕食の準備でもやっとこうっと。
そう思ってキッチンに行き、冷蔵庫の中を見る。
ドリアでも作ろうかな、チキンとお野菜でも入れて。
お野菜を切って、鶏肉の下ごしらえを始める。
やっぱり、ココに来てから作れるお料理のレパートリーが増えたかも♪
『(何だか花嫁修業期間みたい……なーんてね(笑)』
あはは、なんて自分で笑ってると、玄関のドアが開く音。
誰か帰って来たのかな?
ひょいっと顔を出すと、“その人”と目が合った。
「ただいま、」
『あっ…お、お帰りなさい…!』
ほんの少し吃驚して、声が跳ねあがってしまう。
当然相手は疑問符を浮かべて。
「どうかしたの?柚子。」
『あ、いえ……何でもない、です。』
まだ思い出してしまうのだ、雲雀さんを見ると。
---「僕は……柚子が好きってこと。」
あれ以来、あたしは一人でテンパっている。
雲雀さんの方はいたって普通なのに。
「それ、今日の夕飯?」
『はいっ!ドリアでも作ろうと思ったんですけど…』
「ふぅん…」
小さな相槌を打ってから、部屋に向かう雲雀さん。
けど、ふと振り返って。
「そうだ、」
『へ?』
引き返して来て、胸ポケットから何かを取り出す。
そしてソレを、あたしに握らせた。
『………あっ、』
「あげるよ。」
『わぁ!ありがとうございますっ!!』
もはやお馴染みとなった、雲雀さんの笛ラムネ。
「じゃあね。」
今度こそ雲雀さんは、部屋に戻っていく。
その背中を見送りながら、あたしは自分に確認した。
気にしなくて、いいんだよね?
雲雀さんはあたしが嫌いじゃない…それだけなんですよね?
『(よしっ、もう気にするのお終いっ!)』
頂いた笛ラムネの包みを破り、口に入れる。
改めて意気込んで、夕飯の準備を再開した。
---
------
-------------
ピーンポーン…
『えっ?……あ、はーい!』
誰だろ…チャイム鳴らすってことは、お客様だよね??
ガチャ、
『どちらさまで………あ!』
「こんにちは、柚子姉。」
『フゥ太君っ!』
イタリア旅行以来だ…。
『久しぶりっ、どうしたの?』
「ツナ兄…いないかな?」
『あ、また何か曲持ってきたの?』
「うん、そうなんだ。」
『じゃあ上がって待ってていいよ、あたしもその楽譜見たいし♪』
紅茶とお菓子出すよ、と付け足したら、フゥ太君は目を輝かせて。
「ありがとう!柚子姉っ!!」
『いえいえ、どうぞ上がって。』
「でも柚子姉ってメイドさんなのに、勝手に僕を通していいの?」
『(メイドじゃない……)うん、まぁ…フゥ太君なら大丈夫だと思う。』
大広間に移動して、ソファに促す。
紅茶とお菓子を出して、楽譜を見せて貰った。
「今回のは、一緒に楽器をやってる人達と弾くんだ。」
『ハイドンの交響曲第45番!?凄い!!』
「イタリアでのボレロ練習もあったし、僕もだいぶ上達出来たみたい。ツナ兄にも褒められたんだ!」
あ、あのツナさんが…!?
でもまぁ、ツナさんってあんまり外に黒笑見せないし…
「柚子姉?」
『あ、ううん!何でもないよっ!』
「柚子姉は、ハイドンの曲吹いたことある?」
『えーっと…交響曲だったら、この45番じゃなくて30番の“アレルヤ”を一時期練習してたかなぁ。』
ちょっとかじったことがあるけど、今弾けるかどうかは微妙…。
「どれくらいやってるの?フルート。」
『ずーっと。アルバムでは、3歳の時にフルート握ってる写真があったの。』
「3歳!?すごいなぁ…」
それは、紛れもなく父の影響。
あたしはずっと、期待を背負わされてたから。
だけど、フルートを選んだことに後悔はない。
「ただいまーっ♪」
『あ、山本さんかな?』
「僕もお出迎えするっ!」
フゥ太君と一緒に玄関へ行くと、予想通り山本さんが帰ってた。
「おっ、フゥ太!久しぶりだなっ♪」
「久しぶり武兄、お帰りなさい。」
『ユニフォームお預かりします、山本さん。』
「あぁ、サンキュ!」
山本さんはフゥ太君と大広間へ向かい、あたしは洗濯室に寄っていった。
洗濯機のスイッチを入れ、あたしは大広間に戻る。
「そーだ柚子、」
『はい?』
「コレ、ポストに届いてたぜ。」
『あっ…!』
山本さんに差し出されたのは、3次予選の結果通知書。
ヤバい…
開けようとするあたしの手は、緊張で震える。
「柚子姉なら通ってるよ!僕はそう思うな。」
「あぁ、大丈夫だって!」
『あ、ありがとうございます…!』
覚悟を決めて、封を切った。
パラ…
『と……通りましたぁっ!!え、あの、ちょっとご確認お願いします!!』
どうしよ…
嬉しすぎて倒れそう…!!
あたしから通知書を受け取った山本さんが、「ホントだ!やったな♪」と。
夢じゃないんだ…幸せ!
「柚子姉って、本当にフルート上手なんだね!」
『へっ?そ、そんな事ないよ!まだまだ色々未熟だし…』
「でも3次予選通過ってことは、次は本選でしょ?」
『う、うんっ…そうだよね……』
あぁ、何だか緊張して来た…!
「そうだ、僕のバイオリン、柚子姉も聞いてよ!練習中だから途中までだけど。」
『あ、それなら大歓迎!』
「武兄も聞いてくれる?」
「おうっ、いーぜ♪」
というワケで、3人で演奏室に移動した。
「じゃあ、弾くね。」
パチパチ…
あたしと山本さんにお辞儀して、フゥ太君はスッと構える。
『(わぁ…)』
フゥ太君の演奏は、すぐにあたしを引き込んだ。
純粋さに包まれたような、奥の方に情熱を秘めた音。
年下とは思えない、深みのある音を出す。
何と言っても、抑揚が凄く綺麗に出てる。
ツナさんの演奏を参考にしてるからかな…とか思った。
---
「どうだった?」
『すごい!すっごく素敵だった!!』
「あぁ、また上達したみてーだなっ!」
「へへっ、ありがとう柚子姉、武兄♪」
可愛いなぁ…///
笑顔は幼めなのに、演奏は本当に大人びてる。
フゥ太君って、何だか不思議……
「そーだ、俺と柚子で、合わせられるトコは合わせてみねーか?その方がフゥ太の為になるだろーし。」
『あ、そうですね!どうかな、フゥ太君…』
「うん!すっごく助かるよ!!」
そうと決まれば、楽器編成を確認してみる。
「おっ!俺の楽器はあるのな!」
『そうですね、でもフルートは無いので……じゃあ、あたしはオーボエパートを吹きますね。』
「ありがとう!」
あたしと山本さんは、メインメロディーの箇所を繰り返し練習する。
フゥ太君には少しの間だけ休んでもらって。
「柚子、ココはどんな感じだ?」
『えっと…あ、クレッシェンドあるので…こっちに向かって強くしてって……』
あぁ、何だか和むなぁ…
山本さん効果なのかも知れない。
やっぱり凄い、爽やかさ150%!!
「よしっ、こんな感じだろ!」
『凄いです山本さんっ!』
「柚子もオッケーか?」
『一応、一通りは吹けると思います。』
「2人共覚えるの早いなぁ、すごいや!」
あたしはずっとやってたからだけど…
山本さんに関しては本当に天才だと思う。
楽器に触ったのも大学に入ってからって言ってらしたし……
「んじゃ、合わせてみっか!」
「うん!」
メトロノームを使って拍をとり、あたし達は呼吸を合わせた。
『(せーの、)』
少しだけ本物に近づいた、ハイドンの交響曲第45番“告別”。
うん、やっぱり楽しい。
フゥ太君と一緒に弾くのは“ボレロ”以来だな……
あの時のことも思い出しながら、あたしは息を吹き込み続けた。
「ただいま。」
『(あ、この声…)』
もしかしなくてもツナさんかな…
トントンと階段を上がって来る足音。
でもまだ演奏途中だから、大人しく吹き続ける。
ドアが開かれた後も、あたし達はそのまま弾いてた。
「やっぱりフゥ太か。」
ツナさんが近くの椅子に座った時、ちょうどメロディーが区切りのいいトコになった。
『お帰りなさい、ツナさん。』
「ただいま柚子。」
「ツナ兄、今日はコレを弾いてもらいたくて……」
「いいよ、見せて。」
ホーント、ツナさんってフゥ太君には“優しいお兄さんモード”なんだからっ。
腹黒演技派大魔王めっ!!
「柚子、休み減らされたい?」
『すみません!!』
すぐ読まれるし…!
あたしのプライバシー返して!
「うん、これならすぐ出来るな。」
「ホント!?」
「ちょっと待っててな。」
ツナさんは演奏室の棚にあるバイオリンケースから楽器を取り出し、音を確認する。
「じゃ、弾くよ。」
パチパチ…
あたしと山本さんもフゥ太君の隣に座って、聞く態勢。
スッと目を閉じたツナさんは、そのまま弾き始めた。
え…暗譜してるの…?
もしかして、前にも弾いたことがあるとか??
『(にしても…冗談抜きで綺麗……)』
奏でだされる音も、
演奏するその姿も。
いつものツナさんとちょっと違うんだもん。
見る度に、聞く度に、驚かされる。
耳を疑ってしまうくらい。
これが、本当にツナさんの音なのかなって。
「……はい、こんなんでいい?」
「ありがとうツナ兄!やっぱり上手いなぁ…僕の目標だよ!」
「何でだよ、俺はプロじゃないって。」
あ、あのツナさんが謙遜してる…!!
「………柚子、」
『すみません!!』
お願いですからそんなに爽やかな黒笑い向けないでくださいっ!!(汗)
「合同練習だっけ、頑張れよ。」
「うんっ!本当にありがとう!!」
フゥ太君はバイオリンを片付け、楽譜をカバンにしまう。
「じゃあ、忘れないうちに家で練習したいから帰るね。お見送りはいらないよ。」
「おうっ、じゃーな!今日は楽しかったぜ♪」
二カッと笑う山本さんに、小さく手を振り退室するフゥ太君。
あたしはふと、ツナさんの突き刺さるような目線を感じた。
そうですよね、家政婦は見送るべきですよね、いらないと言われても。
『待ってフゥ太君!』
「柚子姉…」
『玄関まで、お見送りするよ!あたし家政婦だし。』
「ありがとう♪ツナ兄だったら絶対そうすると思ったんだ。」
『えっ…?』
あ、あれ…?
おかしいな……フゥ太君の笑顔のまわりに…
黒いオーラが見える…!?
見間違いだ、見間違いだよ。
必死に目をこするあたしに、フゥ太君は言う。
「見間違いじゃないよ、柚子姉。」
『ひえっ…!』
あれ、もしかすると…
読 心 術 属 性 …!?
ちょ、ちょっと待って…
そんなハズ無いよね?
だって可愛いフゥ太君だよ?
「ありがとう、でも中学生男子にとって“可愛い”は褒め言葉じゃないなぁ。」
『ひょえっ…!』
歩いていた足が、思わず止まった。
1回だけならまだしも、2回読まれては確信するしかない…。
『ホントに…?』
「へへ、分かるんだよね♪」
あぁ可愛い!
可愛いけど黒い!!
天使と悪魔の共存とはまさにこの事…!!
「柚子姉はさ、ツナ兄を随分と怖がってるよね。」
『だ、だって怖いし……』
あーもー、スルーで行こう。
ツナさんの弟みたいな存在だもんね、読心術くらい使えるよね、うん。
そう解釈しなくちゃやってらんないや……。
「何なら僕が、ツナ兄の苦手なものランキングでも作ってあげようか?」
『へ…?』
「それでツナ兄に仕返し出来るかもよ?」
『し、仕返し…!?』
何て事を言うんだろう、この子……
恐ろしい子!!!
『で、でも……それで情報源になったフゥ太君が責められるのはヤダし…それに、あたしそこまでツナさん嫌いじゃないし……』
「優しいね、柚子姉は。僕、柚子姉のそーゆートコ大好きだよ。」
『ほえっ!?あ、ありがと…///』
急に褒められたから、ちょっと吃驚した。
「多分ツナ兄も、柚子姉のそーゆートコ気に入ってるんじゃないかな?」
『え…えぇっ!!?』
「真っ直ぐ過ぎるところに、さ。」
それは…もしや遠まわしに“バカ正直”と言ってるんでしょうか…?
「違うよ、悪く言えばそーなっちゃうけどさ。」
『あの…会話みたいに読むのはやめて……』
「だって聞こえるんだもん♪」
あああ信じられない!!
何で、どうして、こんな可愛い子に生まれながらの腹黒スキルが備わってるなんて…!
「じゃあね柚子姉、また今度。」
『あ、うん…』
パタンと閉められた玄関のドアに、しばらく呆然と向かい合っていた。
出来れば知りたくなかった事を、知ってしまった…
『(また今度って………どんな顔して会えばいんだろ…)』
異常に大きなショックを受けたあたしは、大人しく家政婦モードに戻った。
「ん?どーした柚子、何か暗くね?」
『大丈夫です…ありがとうございます山本さん……』
「そか…?」
『(はぁ……)』
ユニゾン
彼らの音が似てるのは、性格が似てるからなのかな…と思った。
continue...
本日は山本さんと了平さんのお部屋を掃除しました。
思ったよりも散らかっててビックリしたのは内緒です。
『さーてと、あと1時間で休み時間かぁ…』
夕食の準備でもやっとこうっと。
そう思ってキッチンに行き、冷蔵庫の中を見る。
ドリアでも作ろうかな、チキンとお野菜でも入れて。
お野菜を切って、鶏肉の下ごしらえを始める。
やっぱり、ココに来てから作れるお料理のレパートリーが増えたかも♪
『(何だか花嫁修業期間みたい……なーんてね(笑)』
あはは、なんて自分で笑ってると、玄関のドアが開く音。
誰か帰って来たのかな?
ひょいっと顔を出すと、“その人”と目が合った。
「ただいま、」
『あっ…お、お帰りなさい…!』
ほんの少し吃驚して、声が跳ねあがってしまう。
当然相手は疑問符を浮かべて。
「どうかしたの?柚子。」
『あ、いえ……何でもない、です。』
まだ思い出してしまうのだ、雲雀さんを見ると。
---「僕は……柚子が好きってこと。」
あれ以来、あたしは一人でテンパっている。
雲雀さんの方はいたって普通なのに。
「それ、今日の夕飯?」
『はいっ!ドリアでも作ろうと思ったんですけど…』
「ふぅん…」
小さな相槌を打ってから、部屋に向かう雲雀さん。
けど、ふと振り返って。
「そうだ、」
『へ?』
引き返して来て、胸ポケットから何かを取り出す。
そしてソレを、あたしに握らせた。
『………あっ、』
「あげるよ。」
『わぁ!ありがとうございますっ!!』
もはやお馴染みとなった、雲雀さんの笛ラムネ。
「じゃあね。」
今度こそ雲雀さんは、部屋に戻っていく。
その背中を見送りながら、あたしは自分に確認した。
気にしなくて、いいんだよね?
雲雀さんはあたしが嫌いじゃない…それだけなんですよね?
『(よしっ、もう気にするのお終いっ!)』
頂いた笛ラムネの包みを破り、口に入れる。
改めて意気込んで、夕飯の準備を再開した。
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ピーンポーン…
『えっ?……あ、はーい!』
誰だろ…チャイム鳴らすってことは、お客様だよね??
ガチャ、
『どちらさまで………あ!』
「こんにちは、柚子姉。」
『フゥ太君っ!』
イタリア旅行以来だ…。
『久しぶりっ、どうしたの?』
「ツナ兄…いないかな?」
『あ、また何か曲持ってきたの?』
「うん、そうなんだ。」
『じゃあ上がって待ってていいよ、あたしもその楽譜見たいし♪』
紅茶とお菓子出すよ、と付け足したら、フゥ太君は目を輝かせて。
「ありがとう!柚子姉っ!!」
『いえいえ、どうぞ上がって。』
「でも柚子姉ってメイドさんなのに、勝手に僕を通していいの?」
『(メイドじゃない……)うん、まぁ…フゥ太君なら大丈夫だと思う。』
大広間に移動して、ソファに促す。
紅茶とお菓子を出して、楽譜を見せて貰った。
「今回のは、一緒に楽器をやってる人達と弾くんだ。」
『ハイドンの交響曲第45番!?凄い!!』
「イタリアでのボレロ練習もあったし、僕もだいぶ上達出来たみたい。ツナ兄にも褒められたんだ!」
あ、あのツナさんが…!?
でもまぁ、ツナさんってあんまり外に黒笑見せないし…
「柚子姉?」
『あ、ううん!何でもないよっ!』
「柚子姉は、ハイドンの曲吹いたことある?」
『えーっと…交響曲だったら、この45番じゃなくて30番の“アレルヤ”を一時期練習してたかなぁ。』
ちょっとかじったことがあるけど、今弾けるかどうかは微妙…。
「どれくらいやってるの?フルート。」
『ずーっと。アルバムでは、3歳の時にフルート握ってる写真があったの。』
「3歳!?すごいなぁ…」
それは、紛れもなく父の影響。
あたしはずっと、期待を背負わされてたから。
だけど、フルートを選んだことに後悔はない。
「ただいまーっ♪」
『あ、山本さんかな?』
「僕もお出迎えするっ!」
フゥ太君と一緒に玄関へ行くと、予想通り山本さんが帰ってた。
「おっ、フゥ太!久しぶりだなっ♪」
「久しぶり武兄、お帰りなさい。」
『ユニフォームお預かりします、山本さん。』
「あぁ、サンキュ!」
山本さんはフゥ太君と大広間へ向かい、あたしは洗濯室に寄っていった。
洗濯機のスイッチを入れ、あたしは大広間に戻る。
「そーだ柚子、」
『はい?』
「コレ、ポストに届いてたぜ。」
『あっ…!』
山本さんに差し出されたのは、3次予選の結果通知書。
ヤバい…
開けようとするあたしの手は、緊張で震える。
「柚子姉なら通ってるよ!僕はそう思うな。」
「あぁ、大丈夫だって!」
『あ、ありがとうございます…!』
覚悟を決めて、封を切った。
パラ…
『と……通りましたぁっ!!え、あの、ちょっとご確認お願いします!!』
どうしよ…
嬉しすぎて倒れそう…!!
あたしから通知書を受け取った山本さんが、「ホントだ!やったな♪」と。
夢じゃないんだ…幸せ!
「柚子姉って、本当にフルート上手なんだね!」
『へっ?そ、そんな事ないよ!まだまだ色々未熟だし…』
「でも3次予選通過ってことは、次は本選でしょ?」
『う、うんっ…そうだよね……』
あぁ、何だか緊張して来た…!
「そうだ、僕のバイオリン、柚子姉も聞いてよ!練習中だから途中までだけど。」
『あ、それなら大歓迎!』
「武兄も聞いてくれる?」
「おうっ、いーぜ♪」
というワケで、3人で演奏室に移動した。
「じゃあ、弾くね。」
パチパチ…
あたしと山本さんにお辞儀して、フゥ太君はスッと構える。
『(わぁ…)』
フゥ太君の演奏は、すぐにあたしを引き込んだ。
純粋さに包まれたような、奥の方に情熱を秘めた音。
年下とは思えない、深みのある音を出す。
何と言っても、抑揚が凄く綺麗に出てる。
ツナさんの演奏を参考にしてるからかな…とか思った。
---
「どうだった?」
『すごい!すっごく素敵だった!!』
「あぁ、また上達したみてーだなっ!」
「へへっ、ありがとう柚子姉、武兄♪」
可愛いなぁ…///
笑顔は幼めなのに、演奏は本当に大人びてる。
フゥ太君って、何だか不思議……
「そーだ、俺と柚子で、合わせられるトコは合わせてみねーか?その方がフゥ太の為になるだろーし。」
『あ、そうですね!どうかな、フゥ太君…』
「うん!すっごく助かるよ!!」
そうと決まれば、楽器編成を確認してみる。
「おっ!俺の楽器はあるのな!」
『そうですね、でもフルートは無いので……じゃあ、あたしはオーボエパートを吹きますね。』
「ありがとう!」
あたしと山本さんは、メインメロディーの箇所を繰り返し練習する。
フゥ太君には少しの間だけ休んでもらって。
「柚子、ココはどんな感じだ?」
『えっと…あ、クレッシェンドあるので…こっちに向かって強くしてって……』
あぁ、何だか和むなぁ…
山本さん効果なのかも知れない。
やっぱり凄い、爽やかさ150%!!
「よしっ、こんな感じだろ!」
『凄いです山本さんっ!』
「柚子もオッケーか?」
『一応、一通りは吹けると思います。』
「2人共覚えるの早いなぁ、すごいや!」
あたしはずっとやってたからだけど…
山本さんに関しては本当に天才だと思う。
楽器に触ったのも大学に入ってからって言ってらしたし……
「んじゃ、合わせてみっか!」
「うん!」
メトロノームを使って拍をとり、あたし達は呼吸を合わせた。
『(せーの、)』
少しだけ本物に近づいた、ハイドンの交響曲第45番“告別”。
うん、やっぱり楽しい。
フゥ太君と一緒に弾くのは“ボレロ”以来だな……
あの時のことも思い出しながら、あたしは息を吹き込み続けた。
「ただいま。」
『(あ、この声…)』
もしかしなくてもツナさんかな…
トントンと階段を上がって来る足音。
でもまだ演奏途中だから、大人しく吹き続ける。
ドアが開かれた後も、あたし達はそのまま弾いてた。
「やっぱりフゥ太か。」
ツナさんが近くの椅子に座った時、ちょうどメロディーが区切りのいいトコになった。
『お帰りなさい、ツナさん。』
「ただいま柚子。」
「ツナ兄、今日はコレを弾いてもらいたくて……」
「いいよ、見せて。」
ホーント、ツナさんってフゥ太君には“優しいお兄さんモード”なんだからっ。
腹黒演技派大魔王めっ!!
「柚子、休み減らされたい?」
『すみません!!』
すぐ読まれるし…!
あたしのプライバシー返して!
「うん、これならすぐ出来るな。」
「ホント!?」
「ちょっと待っててな。」
ツナさんは演奏室の棚にあるバイオリンケースから楽器を取り出し、音を確認する。
「じゃ、弾くよ。」
パチパチ…
あたしと山本さんもフゥ太君の隣に座って、聞く態勢。
スッと目を閉じたツナさんは、そのまま弾き始めた。
え…暗譜してるの…?
もしかして、前にも弾いたことがあるとか??
『(にしても…冗談抜きで綺麗……)』
奏でだされる音も、
演奏するその姿も。
いつものツナさんとちょっと違うんだもん。
見る度に、聞く度に、驚かされる。
耳を疑ってしまうくらい。
これが、本当にツナさんの音なのかなって。
「……はい、こんなんでいい?」
「ありがとうツナ兄!やっぱり上手いなぁ…僕の目標だよ!」
「何でだよ、俺はプロじゃないって。」
あ、あのツナさんが謙遜してる…!!
「………柚子、」
『すみません!!』
お願いですからそんなに爽やかな黒笑い向けないでくださいっ!!(汗)
「合同練習だっけ、頑張れよ。」
「うんっ!本当にありがとう!!」
フゥ太君はバイオリンを片付け、楽譜をカバンにしまう。
「じゃあ、忘れないうちに家で練習したいから帰るね。お見送りはいらないよ。」
「おうっ、じゃーな!今日は楽しかったぜ♪」
二カッと笑う山本さんに、小さく手を振り退室するフゥ太君。
あたしはふと、ツナさんの突き刺さるような目線を感じた。
そうですよね、家政婦は見送るべきですよね、いらないと言われても。
『待ってフゥ太君!』
「柚子姉…」
『玄関まで、お見送りするよ!あたし家政婦だし。』
「ありがとう♪ツナ兄だったら絶対そうすると思ったんだ。」
『えっ…?』
あ、あれ…?
おかしいな……フゥ太君の笑顔のまわりに…
黒いオーラが見える…!?
見間違いだ、見間違いだよ。
必死に目をこするあたしに、フゥ太君は言う。
「見間違いじゃないよ、柚子姉。」
『ひえっ…!』
あれ、もしかすると…
読 心 術 属 性 …!?
ちょ、ちょっと待って…
そんなハズ無いよね?
だって可愛いフゥ太君だよ?
「ありがとう、でも中学生男子にとって“可愛い”は褒め言葉じゃないなぁ。」
『ひょえっ…!』
歩いていた足が、思わず止まった。
1回だけならまだしも、2回読まれては確信するしかない…。
『ホントに…?』
「へへ、分かるんだよね♪」
あぁ可愛い!
可愛いけど黒い!!
天使と悪魔の共存とはまさにこの事…!!
「柚子姉はさ、ツナ兄を随分と怖がってるよね。」
『だ、だって怖いし……』
あーもー、スルーで行こう。
ツナさんの弟みたいな存在だもんね、読心術くらい使えるよね、うん。
そう解釈しなくちゃやってらんないや……。
「何なら僕が、ツナ兄の苦手なものランキングでも作ってあげようか?」
『へ…?』
「それでツナ兄に仕返し出来るかもよ?」
『し、仕返し…!?』
何て事を言うんだろう、この子……
恐ろしい子!!!
『で、でも……それで情報源になったフゥ太君が責められるのはヤダし…それに、あたしそこまでツナさん嫌いじゃないし……』
「優しいね、柚子姉は。僕、柚子姉のそーゆートコ大好きだよ。」
『ほえっ!?あ、ありがと…///』
急に褒められたから、ちょっと吃驚した。
「多分ツナ兄も、柚子姉のそーゆートコ気に入ってるんじゃないかな?」
『え…えぇっ!!?』
「真っ直ぐ過ぎるところに、さ。」
それは…もしや遠まわしに“バカ正直”と言ってるんでしょうか…?
「違うよ、悪く言えばそーなっちゃうけどさ。」
『あの…会話みたいに読むのはやめて……』
「だって聞こえるんだもん♪」
あああ信じられない!!
何で、どうして、こんな可愛い子に生まれながらの腹黒スキルが備わってるなんて…!
「じゃあね柚子姉、また今度。」
『あ、うん…』
パタンと閉められた玄関のドアに、しばらく呆然と向かい合っていた。
出来れば知りたくなかった事を、知ってしまった…
『(また今度って………どんな顔して会えばいんだろ…)』
異常に大きなショックを受けたあたしは、大人しく家政婦モードに戻った。
「ん?どーした柚子、何か暗くね?」
『大丈夫です…ありがとうございます山本さん……』
「そか…?」
『(はぁ……)』
ユニゾン
彼らの音が似てるのは、性格が似てるからなのかな…と思った。
continue...