🎼本編
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「柚子、やっぱそっちのネクタイ取って。」
『はいっ、どーぞ!』
おはようございます、柚子です。
本日ツナさんはイタリア1泊旅行に行くそうです。
お供するのは獄寺さんとリボーンさん、そしてバジルさん。
というワケで、あたしは今ツナさんの身支度を手伝ってます。
「ホント、最近忙しいよなー…」
『そう言えば外出多いですよね、お疲れ様です。』
「ごめんな柚子、一緒にいてやれなくて。」
『なっ…!別にそんなコトちっとも………ふぎゃっ!?///』
反論途中だってのに、ツナさんはぎゅうっと抱きしめる。
あーもうっ、密着度高いのは勘弁して下さいってばー!!!
『つ、ツナさん!早く放して下さいっ!!』
「無理、今充電中だから。」
『あたしはコンセントじゃありませんーっ!!』
「そーゆー意味じゃねーよ、バカ柚子。」
またバカって言った…!
あたしはこれでも一般常識はちゃんと身につけてるのにーっ!
コンコン、
「失礼します、沢田殿。」
「ん?」
『あ……!///』
「……お邪魔してすみませんでしt」
『ままま待って下さいバジルさんっ!!全然邪魔じゃないです!むしろ大歓迎です!!』
「し、しかし…」
タイミング悪く、ツナさんの(強引な)抱擁中にやって来たバジルさん。
あたしが咄嗟に引き留めると、バジルさんは恐る恐る振り向く。
『ほらツナさん、放して下さい!ネクタイ曲がってますよ。』
「ん?あぁ、直して。」
『……はーい。』
すっかり染みついてしまった家政婦体質により、パパッとネクタイを直してしまう。
それを見たバジルさんは、何故か瞳を輝かせて。
「やはりお似合いです!沢田殿と柚子殿は!」
『えっ…えぇっ!!?』
「当たり前だろ?」
『ツナさんっ!!///』
ダメだ、バジルさんの前でツナさんと絡んじゃいけないんだ…
全部“婚約者前提フィルター”にかかってしまうんだ。
『では、あたしは失礼します。』
「居てもいいのに。」
『遠慮しときますっ。』
腹黒い笑みを見せるツナさんに、ぷいっとそっぽを向いて退室した。
とっとと飛行機乗っちゃえばいいのにっ。
でもって滞在しちゃえばいいのにっ。
そうすればあたしの解放生活が始まる…♪
「おや、僕の柚子ーっ!!」
………訂正、そんな生活は夢のまた夢でした。
『な、何ですか骸さん…とりあえずおはようございます…』
「おはようございます!今日も柚子はとても可愛らしいですね♪」
『ど、どうも…』
何か、久々に絡んだかも。
いつも雲雀さんが殴って気絶させてたからなぁ…
「柚子、今日は僕と登校しませんか?綱吉もいないことですし。」
『で、でも…』
骸さんと登校なんてしたら、注目浴びるに決まってるじゃないですか!!
こんなヘンタイさんだけど学校じゃ普通にモテモテなんですからっ!
「ダメですか?」
『あの、ですね…骸さんは1時間目からみたいですけど、あたしは2時間目からなんですよね。』
「僕の為に早く登校してくれるという柚子の慈愛は発動しないんですか?」
『発動しない方向でお願いします。』
途端にしょぼーんとする骸さん。
この姿を見ると可哀想だと思うけど、ココで折れたら調子に乗られるし。
「でしたら!」
『え?』
骸さんは今度はニヤニヤしながら言った。
「今晩、僕の部屋で一緒に寝ませんか?」
『……はい?』
「正確に言うと眠らせる気はありませn…」
ドガッ!
「何くだらないこと言ってるの。」
「クハッ!」
『あ…』
骸さんの背後から現れたのは、トンファーを構えた雲雀さん。
「クフフ雲雀君……実は君も狙っているんでしょう…綱吉がいない今晩こそ…」
「咬み殺す。」
「仕方ないですねぇ…」
あわわ…!
お二人の乱闘が始まる。
だけどふと時計を見たあたしは、思い切って叫んだ。
『あのっ、骸さん!授業遅れちゃいますよ!!』
ぴた。
「さすが僕の柚子!分かってくれてますね、ありがとうございます!」
『ひょわっ!』
「行ってきます!!」
骸さんは一瞬だけあたしを抱きしめ、全速力で玄関へと走って行った。
まるで嵐が過ぎ去った後のような安心感が生まれる。
『雲雀さん、あの…毎度のことながら、ありがとうございます。』
「…別に、アイツを咬み殺したかっただけだよ。目障りだしね。」
『あはは…』
苦笑してから、ハッと尋ねる。
『あ、雲雀さんは今日の授業は…!?』
「無い。」
『(そう言えばこの人、授業ある曜日の方が少ないんだった……)』
ちょっといいなぁ、と思ってしまった。
『では、あたしも授業の準備がありますので。』
「うん。」
雲雀さんに一礼してから、演奏室へ。
うーんと、学校の課題曲の楽譜は……
『あった!』
それを持って自室に行き、カバンに入れる。
『(そうだ…)』
ツナさん、昨晩微妙に咳込んでたんだよねー…
やっぱりまだちょっと風邪が残ってんのかな…
『よしっ、』
あくまで家政婦だから。
仕事の一環としてだもんね、うん。
あたしの衣類や羅小道具がいっぱい詰まった箪笥から、“それ”を引っぱり出して、袋に詰めた。
---
------
「じゃ、行って来るよ。後は宜しく、山本。」
「気ぃつけてな!」
「野球バカに言われなくても、俺がいるから大丈夫だっての。」
玄関に立ったツナは、ふと何かを感じ取り山本の後方を見る。
階段を駆け降りて来たのは…
『ま、待って下さいツナさんっ…』
「柚子?」
何やら少し大きめの袋を抱えた柚子だった。
「どーしたんだよ、やっぱ俺がいないとさびしい?」
『ち、違いますっ…!ただ、その……コレ!持ってって下さいっ!』
走ったせいか少しだけ息切れしながらも、柚子はそれをツナに押しつける。
袋ごしに伝わったのは、柔らかい感触。
「ブランケット…?」
『茶色い無地のヤツですから、ツナさんも使えると思って……』
「何で急に。」
『だって昨日、咳き込んでたから……防寒対策ですっ…。』
もじもじと軽く俯く柚子に、ツナはふっと笑って。
「ありがとな、柚子。」
丸い頭を一撫でし、リボーンが待つ車に乗った。
『おっ、お気をつけて…!』
パッと顔を上げた柚子は、やや大きめの声で見送った。
---
------
---------------
考えてみれば、ツナさんがいない7号館は初めてだ。
お仕事で日中ずっといなかった、なんて事はしょっちゅうあったけど、
夕飯時までには必ず帰って来てたし。
2、3時間めの授業を終えて帰り、夕飯の準備をする。
いつもより少ない食材に、何だか寂しくなった。
「ただいま柚子、何か手伝うことあるか?」
『山本さんっ!お帰りなさい。大丈夫ですよ、ありがとうございます♪』
はぅ~…山本さん、どんな時でも癒しだわ…///
「おっ、美味そうな匂いだな!!」
『了平さん!お帰りなさい。』
「おう!」
爽やかコンビに癒されながら、鍋の火を弱火にする。
あとはじっくり煮詰めれば完成。
『あ、宜しければ味見してくれませんか?皆さんのお口に合うか、ちょっと心配で…』
「ははっ、そーゆー手伝いなら大歓迎だぜっ!」
「うむ、極限に手伝おう!!」
スープを少量、浅いお皿に移して手渡す。
お二人とも、おいしいと言ってくれた。
「雲雀と骸もきっと気に入るぞ!!」
『ありがとうございます!』
と、いうわけで…
「おや、今日はロールキャベツですか。クフフ…これはおいしそうですね。」
「さっき味見したら、すんげー美味かったぜ!なっ、柚子♪」
「何ですと!?山本君!!君は僕を差し置いて味見をしたと言うんですか!?いくら僕が寛大だとはいえ、それは許しがたいでs…」
ドゴッ、
「うるさい。」
5人だけの夕飯。
山本さんと了平さんのお話に笑い、
骸さんが時々爆弾発言をして、
雲雀さんが制裁を加える…
大体その繰り返しな感じ。
イタリアに行った皆さんは、ちゃんと食べてるかなー…
なんて、ほんの少しだけ思いを馳せたりして。
ツナさんがいない今なら、あたしがまだ教えて貰ってない“あの話”について、何か聞けるんじゃないかって思ったりもして。
「言わないよ。」
『へっ…?』
しまった、雲雀さんは読心術属性だった…!!
「柚子は“知らないフリ”なんて出来ないでしょ。」
『は、はい…』
そうだよね、
待つって言ったのは、あたしなんだから。
「そのままでいいんだよ、柚子は。」
『そのまま、って…?』
「何でもない。」
首を傾げたあたしから目を逸らし、雲雀さんはそれ以降黙ってしまった。
ちなみに、この会話をしてる間は骸さんが騒いでたから、爽やかコンビには聞かれなかった。
---
-------
---------------
お風呂上がりにドライヤーで髪の毛を乾かして、少しフルートの練習をした。
ツナさんやリボーンさんがいないと、こーゆー時間にこき使われないから自由時間が増える。
その辺は、ちょっと得した気分♪
『11時かぁ…』
明日は1時間目からだから、もう寝よう。
爽やかコンビは体調管理の為に当然早く寝てるし、
骸さんも、変なトコきっちりしてて寝るのは早い。
雲雀さんも、もう寝てるだろうな…
階段をそうっと降りて、最後にホットココアでも飲もうと思った。
窓から差し込む月明かりでのみ照らされる廊下。
と言っても窓が大きいから、それほど暗くないし怖くない。
『(あれ…?)』
ふと、大広間のドアから明かりがもれてるのが見えた。
おかしいな、何の音もしてなかったからもう皆さん寝たんじゃ……
ギィ…
『あのー、どなたか起きてらっしゃるんですか…?』
そうっと覗いた先には、予想通りというか消去法でいくと残る人がいた。
「今から寝るの?柚子。」
『そうですけど…その前にココアでも飲もうかと…。雲雀さんこそ、こんな時間までどうかしたんですか?』
「彼がエサを欲しがるから。」
『あっ…!』
雲雀さんの手の上には、いつか見せてもらった黄色いトリさん。
「ヒバリ、アリガト!」
『(可愛い~っ!///)』
トリさんの口調は相変わらず雲雀さんの口調と同じで、ちょっと笑えた。
雲雀さんがその頭を撫でると、トリさんは魔法に掛ったかのように動きを鈍くし、丸まる。
どうやら、眠りに落ちるようだ。
「ねぇ柚子、」
『はいっ、』
「僕にも、ホットココアいれてよ。」
『えっ?あ…はい、只今っ!』
雲雀さんも飲むなら、ほろ甘にした方がいいかな…?
そう思って、お砂糖を少なめにする。
『どうぞ…』
「ありがと。」
うわぁ…雲雀さんがココア飲んでる……
何だか、いけないもの見てる感じ。
「どういう意味?」
『いえっ!お気になさらず!!』
そーだよ、あたしの思考丸わかりなんだよね……はぁ。
「たまには、コレも美味しいね。」
『(うっ…///)』
そんな微笑み、反則ですよ雲雀さん…
あたしだって一応、普通の女子なんですから。
「普通じゃないよ、柚子は。」
『えっ…あの、会話みたいに読むのは勘弁して下さい……』
「聞こえるから仕方ないでしょ。」
『だったらスルーという選択肢は…』
「無いよ。」
やはり3大恐怖……(泣)
「沢田が選んだ時点で、普通じゃないでしょ。」
『……そんなの、フルートやってる人なら誰でも良かったんじゃ…』
「違うよ。」
即答されて、ビビった。
無作為に選ばれたんじゃないとしたら、
意図的に連れて来られたんだとしたら、
それは……
『でも、あたし…フルート以外に取り柄とか無いですし、家事だって人並みにしか……』
「強いからだよ。」
『……はい!?』
話が全く読めない…
というより、あたしが強い!?
え、あの…否定してもいいですか??
「柚子は強いから、選ばれた。それに僕も…強い人間は嫌いじゃないよ。」
『えっ?』
ココアを飲み終わったのか、カップを持って雲雀さんは立ちあがる。
ぽかんとしているあたしに向かって、去り際に付け足した。
「僕は……柚子が好きってこと。」
『なっ…///』
振り向いたあたしの目に雲雀さんは映らなくて。
ただ、パタンと閉じたドアだけが在って。
今の、何…?
幻聴だったり、する?
だとしたらあたし、何て恥ずかしい想像してんだろ…///
『(と、とりあえず…カップ洗おう……)』
ゆっくり立ち上がり、カップを洗って寝室に戻る。
どうしてか頭がポーッとして、自分が何を考えるべきなのか、何を考えようとしてるのかすら分からない。
そんなあたしの耳に、低くて静かなリズムが伝わって来た。
『(この音……)』
雲雀さんの、チェロだ。
弾いてるのは……ショパンの“子守唄 -Lullaby-”…
元はピアノ独奏曲のハズなのに、チェロでもすごくしっくり来る……
『ふぁ…』
あぁ、ただでさえ今、頭ボーッとしてるのに…
こんな優しい旋律聞いたら、余計に眠くなっちゃう……
『(防音じゃないのに、いいのかな…?)』
そんな疑問がふと脳裏を過ったけど、
このメロディーなら聞こえたとしても眠気増幅のお手伝いにしかならないだろうな。
うん、騒音に聞こえることはないよね…
ベッドに入ってもまだ、その旋律は聞こえていた。
温かく包み込むような、柔らかい音。
ねぇ雲雀さん、
どうして急にあんなこと言ったんですか…?
僅かにざわついた気持ちをそのままに、あたしは眠りに落ちた。
ララバイ
普段の貴方からは想像出来ないほど、心揺らされる言葉と音だった
continue...
『はいっ、どーぞ!』
おはようございます、柚子です。
本日ツナさんはイタリア1泊旅行に行くそうです。
お供するのは獄寺さんとリボーンさん、そしてバジルさん。
というワケで、あたしは今ツナさんの身支度を手伝ってます。
「ホント、最近忙しいよなー…」
『そう言えば外出多いですよね、お疲れ様です。』
「ごめんな柚子、一緒にいてやれなくて。」
『なっ…!別にそんなコトちっとも………ふぎゃっ!?///』
反論途中だってのに、ツナさんはぎゅうっと抱きしめる。
あーもうっ、密着度高いのは勘弁して下さいってばー!!!
『つ、ツナさん!早く放して下さいっ!!』
「無理、今充電中だから。」
『あたしはコンセントじゃありませんーっ!!』
「そーゆー意味じゃねーよ、バカ柚子。」
またバカって言った…!
あたしはこれでも一般常識はちゃんと身につけてるのにーっ!
コンコン、
「失礼します、沢田殿。」
「ん?」
『あ……!///』
「……お邪魔してすみませんでしt」
『ままま待って下さいバジルさんっ!!全然邪魔じゃないです!むしろ大歓迎です!!』
「し、しかし…」
タイミング悪く、ツナさんの(強引な)抱擁中にやって来たバジルさん。
あたしが咄嗟に引き留めると、バジルさんは恐る恐る振り向く。
『ほらツナさん、放して下さい!ネクタイ曲がってますよ。』
「ん?あぁ、直して。」
『……はーい。』
すっかり染みついてしまった家政婦体質により、パパッとネクタイを直してしまう。
それを見たバジルさんは、何故か瞳を輝かせて。
「やはりお似合いです!沢田殿と柚子殿は!」
『えっ…えぇっ!!?』
「当たり前だろ?」
『ツナさんっ!!///』
ダメだ、バジルさんの前でツナさんと絡んじゃいけないんだ…
全部“婚約者前提フィルター”にかかってしまうんだ。
『では、あたしは失礼します。』
「居てもいいのに。」
『遠慮しときますっ。』
腹黒い笑みを見せるツナさんに、ぷいっとそっぽを向いて退室した。
とっとと飛行機乗っちゃえばいいのにっ。
でもって滞在しちゃえばいいのにっ。
そうすればあたしの解放生活が始まる…♪
「おや、僕の柚子ーっ!!」
………訂正、そんな生活は夢のまた夢でした。
『な、何ですか骸さん…とりあえずおはようございます…』
「おはようございます!今日も柚子はとても可愛らしいですね♪」
『ど、どうも…』
何か、久々に絡んだかも。
いつも雲雀さんが殴って気絶させてたからなぁ…
「柚子、今日は僕と登校しませんか?綱吉もいないことですし。」
『で、でも…』
骸さんと登校なんてしたら、注目浴びるに決まってるじゃないですか!!
こんなヘンタイさんだけど学校じゃ普通にモテモテなんですからっ!
「ダメですか?」
『あの、ですね…骸さんは1時間目からみたいですけど、あたしは2時間目からなんですよね。』
「僕の為に早く登校してくれるという柚子の慈愛は発動しないんですか?」
『発動しない方向でお願いします。』
途端にしょぼーんとする骸さん。
この姿を見ると可哀想だと思うけど、ココで折れたら調子に乗られるし。
「でしたら!」
『え?』
骸さんは今度はニヤニヤしながら言った。
「今晩、僕の部屋で一緒に寝ませんか?」
『……はい?』
「正確に言うと眠らせる気はありませn…」
ドガッ!
「何くだらないこと言ってるの。」
「クハッ!」
『あ…』
骸さんの背後から現れたのは、トンファーを構えた雲雀さん。
「クフフ雲雀君……実は君も狙っているんでしょう…綱吉がいない今晩こそ…」
「咬み殺す。」
「仕方ないですねぇ…」
あわわ…!
お二人の乱闘が始まる。
だけどふと時計を見たあたしは、思い切って叫んだ。
『あのっ、骸さん!授業遅れちゃいますよ!!』
ぴた。
「さすが僕の柚子!分かってくれてますね、ありがとうございます!」
『ひょわっ!』
「行ってきます!!」
骸さんは一瞬だけあたしを抱きしめ、全速力で玄関へと走って行った。
まるで嵐が過ぎ去った後のような安心感が生まれる。
『雲雀さん、あの…毎度のことながら、ありがとうございます。』
「…別に、アイツを咬み殺したかっただけだよ。目障りだしね。」
『あはは…』
苦笑してから、ハッと尋ねる。
『あ、雲雀さんは今日の授業は…!?』
「無い。」
『(そう言えばこの人、授業ある曜日の方が少ないんだった……)』
ちょっといいなぁ、と思ってしまった。
『では、あたしも授業の準備がありますので。』
「うん。」
雲雀さんに一礼してから、演奏室へ。
うーんと、学校の課題曲の楽譜は……
『あった!』
それを持って自室に行き、カバンに入れる。
『(そうだ…)』
ツナさん、昨晩微妙に咳込んでたんだよねー…
やっぱりまだちょっと風邪が残ってんのかな…
『よしっ、』
あくまで家政婦だから。
仕事の一環としてだもんね、うん。
あたしの衣類や羅小道具がいっぱい詰まった箪笥から、“それ”を引っぱり出して、袋に詰めた。
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「じゃ、行って来るよ。後は宜しく、山本。」
「気ぃつけてな!」
「野球バカに言われなくても、俺がいるから大丈夫だっての。」
玄関に立ったツナは、ふと何かを感じ取り山本の後方を見る。
階段を駆け降りて来たのは…
『ま、待って下さいツナさんっ…』
「柚子?」
何やら少し大きめの袋を抱えた柚子だった。
「どーしたんだよ、やっぱ俺がいないとさびしい?」
『ち、違いますっ…!ただ、その……コレ!持ってって下さいっ!』
走ったせいか少しだけ息切れしながらも、柚子はそれをツナに押しつける。
袋ごしに伝わったのは、柔らかい感触。
「ブランケット…?」
『茶色い無地のヤツですから、ツナさんも使えると思って……』
「何で急に。」
『だって昨日、咳き込んでたから……防寒対策ですっ…。』
もじもじと軽く俯く柚子に、ツナはふっと笑って。
「ありがとな、柚子。」
丸い頭を一撫でし、リボーンが待つ車に乗った。
『おっ、お気をつけて…!』
パッと顔を上げた柚子は、やや大きめの声で見送った。
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考えてみれば、ツナさんがいない7号館は初めてだ。
お仕事で日中ずっといなかった、なんて事はしょっちゅうあったけど、
夕飯時までには必ず帰って来てたし。
2、3時間めの授業を終えて帰り、夕飯の準備をする。
いつもより少ない食材に、何だか寂しくなった。
「ただいま柚子、何か手伝うことあるか?」
『山本さんっ!お帰りなさい。大丈夫ですよ、ありがとうございます♪』
はぅ~…山本さん、どんな時でも癒しだわ…///
「おっ、美味そうな匂いだな!!」
『了平さん!お帰りなさい。』
「おう!」
爽やかコンビに癒されながら、鍋の火を弱火にする。
あとはじっくり煮詰めれば完成。
『あ、宜しければ味見してくれませんか?皆さんのお口に合うか、ちょっと心配で…』
「ははっ、そーゆー手伝いなら大歓迎だぜっ!」
「うむ、極限に手伝おう!!」
スープを少量、浅いお皿に移して手渡す。
お二人とも、おいしいと言ってくれた。
「雲雀と骸もきっと気に入るぞ!!」
『ありがとうございます!』
と、いうわけで…
「おや、今日はロールキャベツですか。クフフ…これはおいしそうですね。」
「さっき味見したら、すんげー美味かったぜ!なっ、柚子♪」
「何ですと!?山本君!!君は僕を差し置いて味見をしたと言うんですか!?いくら僕が寛大だとはいえ、それは許しがたいでs…」
ドゴッ、
「うるさい。」
5人だけの夕飯。
山本さんと了平さんのお話に笑い、
骸さんが時々爆弾発言をして、
雲雀さんが制裁を加える…
大体その繰り返しな感じ。
イタリアに行った皆さんは、ちゃんと食べてるかなー…
なんて、ほんの少しだけ思いを馳せたりして。
ツナさんがいない今なら、あたしがまだ教えて貰ってない“あの話”について、何か聞けるんじゃないかって思ったりもして。
「言わないよ。」
『へっ…?』
しまった、雲雀さんは読心術属性だった…!!
「柚子は“知らないフリ”なんて出来ないでしょ。」
『は、はい…』
そうだよね、
待つって言ったのは、あたしなんだから。
「そのままでいいんだよ、柚子は。」
『そのまま、って…?』
「何でもない。」
首を傾げたあたしから目を逸らし、雲雀さんはそれ以降黙ってしまった。
ちなみに、この会話をしてる間は骸さんが騒いでたから、爽やかコンビには聞かれなかった。
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お風呂上がりにドライヤーで髪の毛を乾かして、少しフルートの練習をした。
ツナさんやリボーンさんがいないと、こーゆー時間にこき使われないから自由時間が増える。
その辺は、ちょっと得した気分♪
『11時かぁ…』
明日は1時間目からだから、もう寝よう。
爽やかコンビは体調管理の為に当然早く寝てるし、
骸さんも、変なトコきっちりしてて寝るのは早い。
雲雀さんも、もう寝てるだろうな…
階段をそうっと降りて、最後にホットココアでも飲もうと思った。
窓から差し込む月明かりでのみ照らされる廊下。
と言っても窓が大きいから、それほど暗くないし怖くない。
『(あれ…?)』
ふと、大広間のドアから明かりがもれてるのが見えた。
おかしいな、何の音もしてなかったからもう皆さん寝たんじゃ……
ギィ…
『あのー、どなたか起きてらっしゃるんですか…?』
そうっと覗いた先には、予想通りというか消去法でいくと残る人がいた。
「今から寝るの?柚子。」
『そうですけど…その前にココアでも飲もうかと…。雲雀さんこそ、こんな時間までどうかしたんですか?』
「彼がエサを欲しがるから。」
『あっ…!』
雲雀さんの手の上には、いつか見せてもらった黄色いトリさん。
「ヒバリ、アリガト!」
『(可愛い~っ!///)』
トリさんの口調は相変わらず雲雀さんの口調と同じで、ちょっと笑えた。
雲雀さんがその頭を撫でると、トリさんは魔法に掛ったかのように動きを鈍くし、丸まる。
どうやら、眠りに落ちるようだ。
「ねぇ柚子、」
『はいっ、』
「僕にも、ホットココアいれてよ。」
『えっ?あ…はい、只今っ!』
雲雀さんも飲むなら、ほろ甘にした方がいいかな…?
そう思って、お砂糖を少なめにする。
『どうぞ…』
「ありがと。」
うわぁ…雲雀さんがココア飲んでる……
何だか、いけないもの見てる感じ。
「どういう意味?」
『いえっ!お気になさらず!!』
そーだよ、あたしの思考丸わかりなんだよね……はぁ。
「たまには、コレも美味しいね。」
『(うっ…///)』
そんな微笑み、反則ですよ雲雀さん…
あたしだって一応、普通の女子なんですから。
「普通じゃないよ、柚子は。」
『えっ…あの、会話みたいに読むのは勘弁して下さい……』
「聞こえるから仕方ないでしょ。」
『だったらスルーという選択肢は…』
「無いよ。」
やはり3大恐怖……(泣)
「沢田が選んだ時点で、普通じゃないでしょ。」
『……そんなの、フルートやってる人なら誰でも良かったんじゃ…』
「違うよ。」
即答されて、ビビった。
無作為に選ばれたんじゃないとしたら、
意図的に連れて来られたんだとしたら、
それは……
『でも、あたし…フルート以外に取り柄とか無いですし、家事だって人並みにしか……』
「強いからだよ。」
『……はい!?』
話が全く読めない…
というより、あたしが強い!?
え、あの…否定してもいいですか??
「柚子は強いから、選ばれた。それに僕も…強い人間は嫌いじゃないよ。」
『えっ?』
ココアを飲み終わったのか、カップを持って雲雀さんは立ちあがる。
ぽかんとしているあたしに向かって、去り際に付け足した。
「僕は……柚子が好きってこと。」
『なっ…///』
振り向いたあたしの目に雲雀さんは映らなくて。
ただ、パタンと閉じたドアだけが在って。
今の、何…?
幻聴だったり、する?
だとしたらあたし、何て恥ずかしい想像してんだろ…///
『(と、とりあえず…カップ洗おう……)』
ゆっくり立ち上がり、カップを洗って寝室に戻る。
どうしてか頭がポーッとして、自分が何を考えるべきなのか、何を考えようとしてるのかすら分からない。
そんなあたしの耳に、低くて静かなリズムが伝わって来た。
『(この音……)』
雲雀さんの、チェロだ。
弾いてるのは……ショパンの“子守唄 -Lullaby-”…
元はピアノ独奏曲のハズなのに、チェロでもすごくしっくり来る……
『ふぁ…』
あぁ、ただでさえ今、頭ボーッとしてるのに…
こんな優しい旋律聞いたら、余計に眠くなっちゃう……
『(防音じゃないのに、いいのかな…?)』
そんな疑問がふと脳裏を過ったけど、
このメロディーなら聞こえたとしても眠気増幅のお手伝いにしかならないだろうな。
うん、騒音に聞こえることはないよね…
ベッドに入ってもまだ、その旋律は聞こえていた。
温かく包み込むような、柔らかい音。
ねぇ雲雀さん、
どうして急にあんなこと言ったんですか…?
僅かにざわついた気持ちをそのままに、あたしは眠りに落ちた。
ララバイ
普段の貴方からは想像出来ないほど、心揺らされる言葉と音だった
continue...