🎼本編
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こんにちは、柚子です。
只今フルートコンクール3次予選会場の駐車場にて、
とんでもない展開に巻き込まれております…!
「貴方が誰だか知らないけれど、良く言ったわ。」
「売られた喧嘩は買います。それに、拙者は柚子殿こそが沢田殿の真の奥方だと信じています。」
うへぇっ!!?
今、バジルさん……何て?
お…“奥方”!!?
「勝負内容は何です?」
マジで勝手に話が進んでる…
あたし、ツナさんさえ良ければ普通に婚約者譲るって!
頼みますから街で乱闘とか無しの方向で…!!
「簡単よ。参加者は各2人、指定されたコースをバイク競争するの。」
『ば、バイク…!?』
「コースは予め決めさせて貰ったわ、この街の交通規制・通行量を調べ上げて。」
「そちらに有利な条件などは?」
「特に無いわよ、ただ…」
お姉さんがチラリと後ろに視線をやると、革ジャンの若い男の人が前に出た。
「運転するのは私でなく、彼。」
「その道のプロ、というワケか……どうするのだ?バジル。」
「柚子殿、バイクは…」
『むむ無理に決まってるじゃないですかぁっ…!!(泣)』
獄寺さんの背中に掴まって座ってるのがやっとだったのに…!
運転なんて求めないでくださいよ!!
ぶんぶんと首を振る半泣き状態のあたしを見て、バジルさんは言った。
「ならば、拙者が運転手を務めましょう。拙者はボンゴレファミリー門外顧問、緊急時に関しては部外者ではありません。」
「えぇ、いいわよ。じゃあ、勝敗条件を言うわね。バイクでゴールまで辿り着き、そこにある“商品”を先に手にした方が勝者よ。」
『“商品”…?』
あたしが首を傾げた、その時。
バッ、
『きゃっ…!』
「柚子殿っ!?」
『な、何するんですか!?返して…』
「それが、“商品”よ。」
お姉さんの部下が、あたしの背後から近寄りフルートを取り上げた。
『な、何であたしの…』
「じゃなきゃ、貴女が参加しないでしょう?」
悪女って言葉がピッタリ似合う笑みを見せられ、あたしは思わず固まる。
どうしよう、アレは父の形見なのに…
しかも、ツナさんから貰ったケース…
「大丈夫よ、傷一つ付けるつもりはないわ。貴女がちゃんと参加すれば。」
『そん、な…』
「大丈夫ですよ、柚子殿。」
『バジルさん…』
「あちら側よりも早くゴールし、取り返せばいいだけの話です。」
『でも、』
「それに、レース勝負とは言え、これはマフィア間の公式な決闘。不正をすれば、それだけの処遇がなされることは、向こうも承知のハズ。」
バジルさんの言葉に、お姉さんも「当然よ」と返す。
「さぁ、メンバーは決まったわね。そっちは牧之原柚子と貴方。こっちは私と彼。」
「はい、問題無いです。」
あたしの代わりに、バジルさんがきりっと返事をした。
「バイクはこちらで用意したわ。」
『えぇっ!?普通のバイクじゃないんですか?』
「設置してあるミニディスプレイに、コースが表示される。改造したのはそれだけよ、調べてもらってもいいわ。」
お姉さんの後ろから、SPの人達が2台のバイクを持って来る。
バジルさんはその周りを一周して、承諾したように頷いた。
「ゴールは町はずれの灯台。そのてっぺんに貴女のフルートを置くわ。」
『てっぺん……』
「見物用の階段、メンテナンス用の梯子を上れば手が届く所よ。」
『……はい。』
ここまで話が辿りついてしまったら、もう承諾するしかない。
あたしは、ツナさんの婚約者の話は置いといて、フルートのために勝負を受けよう。
「なら、10分後にこの駐車場の入り口に来て。勿論、2人乗った状態でね。そこがスタートラインよ。」
「分かりました。」
お姉さんと革ジャン男は先に行ってスタンバイしてるようだ。
そして、あたしのフルートを持ったSPの人も、灯台へ行ってしまった。
「了平殿、」
「ぬ、何だ?」
「頼みがあるのですが、宜しいですか?」
バジルさんが、了平さんに言う。
「先に7号館へ戻り、リボーンさん達にこの事を伝えて貰いたいのです。」
「うむ、極限にそうすべきだな。分かった、1秒でも早く知らせよう。」
了平さんは、忘れないようにと事のあらすじをメモに書いて内ポケットにしまった。
そして、タクシーに乗って1人で7号館へ戻っていった。
「さぁ柚子殿、頑張りましょう!」
『はい…』
「大丈夫です。バイクの勝負なら、拙者は誰にも負けませんよ。」
バジルさんが自信たっぷりな理由が、よく分からなかった。
だって、ツナさんと同い年なら乗り始めたのはせいぜい1、2年前……
「では、参りましょう。」
『はいっ。』
バジルさんは用意されたバイクにまたがり、
あたしは後ろに乗って、
スタートラインまで移動した。
ブロロロロロ…
『(うわ…やっぱり体に響く……)』
何が嫌って、この強烈な震動とエンジン音。
怖くて怖くて仕方ない。
獄寺さんの後ろに乗った事があるからって、別に慣れてるワケじゃない。
むしろ気持ちはいつでも初心者なのだ。
「しっかり掴まってて下さいね、柚子殿。」
『はいっ。』
しっかり、と言われたから、とりあえずバジルさんの腰まわりに抱きついた。
振り落とされるのだけは勘弁だから。
「ショートカット、コースアウトは失格とみなします!」
「2台のバイクにはGPSが付いているため、位置は審判側からも確認可能です。くれぐれも不正の無いよう!」
黒スーツの人達…多分審判をする2人が、言う。
ヘルメットをかぶったあたしは、思い切り目を瞑った。
「3……2……1……GO!!」
ブォォォォォン!!!
『(きゃーっ!!)』
叫ぼうと思ったけど、獄寺さんに以前「舌噛むから黙ってろ」と言われたのを思い出して、やめた。
物凄い勢いで風を切ってる音がする。
今、何処を走ってるんだろう…
知り合いとかに見られなければいいけど。
こんな暴走族まがいの行為、見つかったらコンクールの通過も帳消しになっちゃう…。
『(大体さぁ…)』
どーしてあたしが、まるでツナさんを取りあうかのように勝負しなくちゃいけないの?
ツナさんが勝手に、あたしを身代わりにしただけの話。
弾避けならぬ、女避けってヤツでしょう?
あんな横暴ボスの奥様なんて、あたしには到底務まりませんし。
ハルさんの方がよっぽど似合ってるし…
色々考えているうちに、風圧には慣れて来た。
少しだけ首を伸ばして、バジルさんの表情を窺う。
『(あ……)』
真剣、だった。
真剣そのもの、だった。
どうしよう…
もしバジルさんが勝っても、あたしはツナさんと本当に結婚する気なんて無いのに。
この勝負、あたしには無駄に思えて仕方ないものなのに。
申し訳なさ過ぎるよ…
あたしがこうして勝負に参加してる理由がフルートだけだって知ったら、
バジルさんはがっかりするかな…
するだろうな……
「柚子殿っ!」
『あ、はい!』
「少しだけ体を左に倒して下さい!!」
『はいっ!』
言われた通り、重心を左にずらした。
次の瞬間、バイクはぐいーんと右に曲がった。
『(ひえっ…!)』
こ、怖いよっ…
何でこんな危険なレースしてんの?
しかも街中で!
いくら交通量調べたとか言っても、さっきから何台も車追い抜かしてるし…
『あの、』
「はいっ、何でしょう!?」
『どうして…受けたんですか?勝負…』
舌を噛まないように、文節を区切って喋った。
聞いた瞬間、バジルさんの驚きが、その体の震えを通じて伝わった。
「……拙者は、信じたいんです。」
『え…?』
「沢田殿の言葉を。」
『それって、どんな……』
「今度は右でお願いします!」
『あ、はいっ!』
ぐいーんと左に曲がる。
今度は随分と狭い道で、向こうのバイクの様子が見えた。
てゆーか……
あの革ジャン男と渡り合ってる!!
バジルさん凄い!!
「さっきの答えですが、」
『あ、はい!』
進行方向とコースマップを交互に見ながら、バジルさんは話してくれた。
イタリアで、ボレロを弾き終わった後にツナさんと喋った時のことを。
---「柚子殿のフルート、とても綺麗でした!」
---「だろ?ま、俺が選んだんだし、当然だけどさ。」
---「あの音色は本当に素晴らしいです。共に演奏していた拙者も、元気になりましたよ!」
その時、ツナさんはまるで何かを懐かしむかのような目をしたそうだ。
---「あぁ、そうなんだよな……俺も、柚子のあの音色に救われた。だから今、こうしてココにいるようなモンだよ。」
---「柚子殿がいると、沢田殿はパワーアップするということですね!!」
---「違うよ、逆。」
---「逆、ですか…?」
首を傾げたバジルさんに、ツナさんは苦笑して、
---「柚子がいなくちゃ、俺は在り得ないんだ。」
自分が弱い存在であるかのように、そう言ったらしい。
あたしには、信じられなかった。
きっとまた、バジルさんの解釈の問題だろうと思った。
だって、あり得ない。
そんな言い方だったら、あたしがツナさんを支えてるみたい……
全然違うよ、そんな覚えもないし。
『そう、ですか…』
とりあえず、教えてくれたバジルさんにはお礼を言っておいた。
とにかく、これだけは分かった。
バジルさんは、ツナさんの為に戦ってる。
あたしが、父の形見の為に参加してるように。
真偽はともかく、バジルさんは信じているようだ。
“ツナさんにはあたしが必要だ”と。
「柚子殿、ラストスパートをかけます!!」
『はいっ!』
何の為、誰の為かが違っても、あたし達は今、一緒に勝負に挑んでる。
だったら、無気力でいいハズがない。
勝ちを譲っていいハズがない。
バジルさんの神懸った運転のおかげで、相手バイクをかなり引き離した。
『あの…!』
「何ですか!?」
『フルートは…あたしが!』
「し、しかし…」
『行かせて下さい!!』
バジルさんは、ココまで運転を頑張ってくれたんだもの。
勝ちにこだわってくれたんだもの。
最後くらい、あたしもちゃんと勝負したい。
「分かりました!柚子殿、お願いします!!」
『ありがとうございます!』
港に着いた。
灯台は、もう目の前。
と、その時。
チュインッ、
『えっ…?』
「今のは、銃声!?」
そう言えば、走行中のルールは一切言われてなかった…!
攻撃してもオッケーって事!?
「やはり…卑怯なことをしてくるとは思ってましたが…」
チュインッ、
『(撃ってるの、お姉さんっ!?)』
さ、さすがマフィアの娘さん…凄い……
……なんて悠長なこと言ってる場合じゃないよ!どうしよう!!
てゆーか怖っ!!
このままだったら、いつか絶対あたしに当たるじゃん!
「くっ、仕方ない…柚子殿、しっかり掴まって下さい!」
『は、はいっ!』
「急ブレーキをかけます。止まったらすぐに灯台に向かって走り、フルートを!」
『了解です!』
銃弾を避けるように蛇行運転をしてから、バイクの向きを180度ひっくり返しながらバジルさんはブレーキをかけた。
キキィィィィィイイ!!!
『(きゃーーーっ!!)』
グンッ、と前につんのめりそうになりながら、あたしは落ちずに済んだ。
「柚子殿!」
『はいっ!』
ヘルメットを外してその場に捨て、あたしは走った。
灯台の展望台のてっぺんに、フルートのケースが見えた。
「行きなさい!!」
後ろから、お姉さんの声が聞こえた。
追いかけてくるのは多分、革ジャン男の方だろう。
ヤバい、絶対速さじゃ負ける…!
「行かせません!!」
チュインッ、
「ぐっ…!」
『(バジルさんっ…!?)』
一瞬だけ振り向くと、革ジャン男を足止めしようとしたバジルさんに、お姉さんが発砲してるのが見えた。
革ジャン男とあたしとの距離は、確実に縮まっている。
バジルさんが撃たれたのかどうか分からなかったけど、あたしは走り続けた。
勝たなくちゃ。
勝たなくちゃ。
見物用の階段を駆け上がる。
一段飛ばしで、呼吸を整えながら。
革ジャン男の足音が近づく。
ダメだ、追いつかれちゃう…!
「待ちやがれ、女ァ!!」
『きゃっ…!』
足を引っ張られて、ヒールが脱げた。
お給料で買った新品なのに…!
そのまま抜かれると思ったけど、男はその場で倒れた。
バジルさんが、後ろからブーメラン(?)を当てたのだ。
「柚子殿、お急ぎください!!この男は拙者が!」
『は…はいっ!』
今度はもう、振り向かなかった。
あたしはひたすら上へと走って、梯子の前に辿りついた。
『これ…上るの……?』
メンテナンス用の梯子というのは、当然一般客が上りづらいように、際どい場所に設置してある。
別に高所恐怖症でもないけど、さすがに怖くなった。
上ったら、一体地上何メートルに身を置くことになるんだろう。
あと何秒で、相手は追いつくんだろう。
色んなことを考えた後……といっても3秒くらいだったけど、
あたしは梯子に足をかけた。
『うっ…』
高い所だからか、やっぱり風が強い。
油断したら浮いてしまいそう。
怖いよ、怖いよ…!
だけどココで逃げたら、バジルさんの意志も無駄になる。
力になりたいと思ったのは、あたし。
フルートを取りに行きたいと名乗り出たのも、あたし。
だったら、最後まで頑張らなくちゃ…!!
そして、見つけた。
『あ、あった…』
ガムテープで留められたビニール袋に入った、
あたしの大事なフルートと、ケース。
ビリッと剥がして、掴んだ。
これで…あたし達の勝ち、だよね?
「柚子殿ーっ、」
『バジルさんっ?』
見えないけど、どうやら梯子の下にバジルさんがいるらしい。
フルート取りましたよ、と報告しようとした、
その時。
ブオオッ、
『きゃっ…』
物凄い強風があたしの全身に体当たりしてきて、
気が付いたら、
『あ……』
あたしの手は、空を掴んでいた。
「柚子殿っ…!!」
『いやっ…』
落ちる、落ちる、落ちちゃう…!!
そうだよね、海風って強いもん。
この下って…当然海、だよね…
水なら大丈夫かな、でも地面と同じくらいの衝撃だって聞いたことある。
痛みと冷たさを覚悟して目を瞑った。
けど、
ボウッ、
『(あれっ…?)』
あたしを包んだのは水の冷たさじゃなくて、人の腕の温かさ。
目を開ければ、そこには…
『ツナさん…!!』
「何やってんだよ、バカ柚子。」
悪態をつく、我が主。
姫だっこ状態のまま、ツナさんは灯台の横にスタッと降り立つ。
バジルさんがすぐに駆け降りて来た。
「沢田殿!」
「柚子を守ってくれてサンキュ、バジル。あとは…俺がケリつけるから。」
「はいっ。」
『ツナさん…どうしてココに…』
「了平さんから聞いた。」
『あ、あの、熱は…?』
「下がったし、もう治った。」
あぁ良かったと胸を撫でおろすあたしを降ろして、ツナさんはお姉さんの方を見た。
「最初から、これが目的だったんですよね?」
「なっ、何をおっしゃるの綱吉さ……」
「無駄ですよ、俺には超直感がある。」
ツナさんに言われたお姉さんは、追い詰められたような顔をする。
「貴女はこうして、事故に見せかけて柚子を消そうとしたんだ。」
『えぇっ!?』
驚いたのは、言うまでもなかった。
マフィアの娘さんって…そーゆー思考しちゃうワケ!?
「安心して下さい、今回の件について俺は処分を言い渡すつもりはありません。」
「ほ、本当に…?」
「ですが、9代目への報告はさせて貰います。それが、日本支部長である俺の務めですから。」
一瞬だけ救われたお姉さんの表情が、一気に青ざめた。
ツナさん怖っ…
「う…うぅっ……」
ぺたんと座りこんだお姉さんに、あたしは思い切って駆け寄った。
「おい柚子?」
「柚子殿?」
『あの…お姉さん、』
この人だって、自分のお父様のファミリーを思ってたに違いない。
だからツナさんとの縁談が欲しくて、諦められなかったんだ。
もしくは、ツナさんの腹黒モードを知らないまま好きになってたのかも。
いずれにせよ、あたしは謝らなくちゃいけない。
「…何よ、同情なんて……」
『引っ叩いちゃって、ごめんなさい。』
「なっ…」
『やり過ぎました、反省してます。えと……とりあえずあたしからは、それだけです。では!』
ぺこっと一礼して、ツナさんとバジルさんの方へ走って戻った。
お姉さんは、SPの人達と一緒にその場を後にした。
「バジル、悪いけど獄寺君呼んで来て貰っていいかな?多分、あっちの方に車で来てると思うから…」
「分かりましたっ。」
『あ、あたしも…』
「柚子は、こっち。」
『え"……』
嫌な予感がした。
だってツナさんの笑顔……真っ黒なんだもん。
「ったく、勝手に何してんだよ。探す身にもなれっての。」
『それは!バジルさんが…勝負受けちゃって…』
「俺が来なかったら…柚子は今頃着衣泳してたんだからな。」
『はい…感謝してます……』
きまりが悪くなって俯いた途端、ぐいっと引き寄せられた。
『ちょっ、え……ツナさん!?///』
「何かあったらどーすんだよ…バカ柚子……」
消えそうな声で言われた瞬間、あたしの中で抑えられてたものが溢れだして。
『ツナさっ……』
バイクの音も、
そのスピードと震動も、
急カーブと急ブレーキも、
革ジャン男も、
銃声も、
灯台の梯子も、
全部、全部……
『…こ、怖かった…ですっ……』
感情と共に、涙のダムも決壊する。
ツナさんの腕の力が増して、
あたしもギュッと抱きついた。
『ツナさんの、せいですからねっ…!』
「うん、ごめんな……柚子。」
ズルいよ、こんな日ばっかり謝るなんて。
「何かあったら、また俺が良いタイミングで助けるよ。」
『そー言えば…』
いつまでも泣き顔は嫌だと思って、自分の袖で涙を拭う。
『今日、スーパーマンみたいでカッコよかったです!あの…本当にありがとうございましたっ♪』
「スーパーマンかよ………ま、いっか。」
言いながら、ツナさんは呆れたような笑みをこぼした。
やっぱり、普通に笑えばカッコいい人なんだな……と思った。
リスキー
その日流した涙を知るのは、横暴ボスと大事なフルートだけ
continue...
只今フルートコンクール3次予選会場の駐車場にて、
とんでもない展開に巻き込まれております…!
「貴方が誰だか知らないけれど、良く言ったわ。」
「売られた喧嘩は買います。それに、拙者は柚子殿こそが沢田殿の真の奥方だと信じています。」
うへぇっ!!?
今、バジルさん……何て?
お…“奥方”!!?
「勝負内容は何です?」
マジで勝手に話が進んでる…
あたし、ツナさんさえ良ければ普通に婚約者譲るって!
頼みますから街で乱闘とか無しの方向で…!!
「簡単よ。参加者は各2人、指定されたコースをバイク競争するの。」
『ば、バイク…!?』
「コースは予め決めさせて貰ったわ、この街の交通規制・通行量を調べ上げて。」
「そちらに有利な条件などは?」
「特に無いわよ、ただ…」
お姉さんがチラリと後ろに視線をやると、革ジャンの若い男の人が前に出た。
「運転するのは私でなく、彼。」
「その道のプロ、というワケか……どうするのだ?バジル。」
「柚子殿、バイクは…」
『むむ無理に決まってるじゃないですかぁっ…!!(泣)』
獄寺さんの背中に掴まって座ってるのがやっとだったのに…!
運転なんて求めないでくださいよ!!
ぶんぶんと首を振る半泣き状態のあたしを見て、バジルさんは言った。
「ならば、拙者が運転手を務めましょう。拙者はボンゴレファミリー門外顧問、緊急時に関しては部外者ではありません。」
「えぇ、いいわよ。じゃあ、勝敗条件を言うわね。バイクでゴールまで辿り着き、そこにある“商品”を先に手にした方が勝者よ。」
『“商品”…?』
あたしが首を傾げた、その時。
バッ、
『きゃっ…!』
「柚子殿っ!?」
『な、何するんですか!?返して…』
「それが、“商品”よ。」
お姉さんの部下が、あたしの背後から近寄りフルートを取り上げた。
『な、何であたしの…』
「じゃなきゃ、貴女が参加しないでしょう?」
悪女って言葉がピッタリ似合う笑みを見せられ、あたしは思わず固まる。
どうしよう、アレは父の形見なのに…
しかも、ツナさんから貰ったケース…
「大丈夫よ、傷一つ付けるつもりはないわ。貴女がちゃんと参加すれば。」
『そん、な…』
「大丈夫ですよ、柚子殿。」
『バジルさん…』
「あちら側よりも早くゴールし、取り返せばいいだけの話です。」
『でも、』
「それに、レース勝負とは言え、これはマフィア間の公式な決闘。不正をすれば、それだけの処遇がなされることは、向こうも承知のハズ。」
バジルさんの言葉に、お姉さんも「当然よ」と返す。
「さぁ、メンバーは決まったわね。そっちは牧之原柚子と貴方。こっちは私と彼。」
「はい、問題無いです。」
あたしの代わりに、バジルさんがきりっと返事をした。
「バイクはこちらで用意したわ。」
『えぇっ!?普通のバイクじゃないんですか?』
「設置してあるミニディスプレイに、コースが表示される。改造したのはそれだけよ、調べてもらってもいいわ。」
お姉さんの後ろから、SPの人達が2台のバイクを持って来る。
バジルさんはその周りを一周して、承諾したように頷いた。
「ゴールは町はずれの灯台。そのてっぺんに貴女のフルートを置くわ。」
『てっぺん……』
「見物用の階段、メンテナンス用の梯子を上れば手が届く所よ。」
『……はい。』
ここまで話が辿りついてしまったら、もう承諾するしかない。
あたしは、ツナさんの婚約者の話は置いといて、フルートのために勝負を受けよう。
「なら、10分後にこの駐車場の入り口に来て。勿論、2人乗った状態でね。そこがスタートラインよ。」
「分かりました。」
お姉さんと革ジャン男は先に行ってスタンバイしてるようだ。
そして、あたしのフルートを持ったSPの人も、灯台へ行ってしまった。
「了平殿、」
「ぬ、何だ?」
「頼みがあるのですが、宜しいですか?」
バジルさんが、了平さんに言う。
「先に7号館へ戻り、リボーンさん達にこの事を伝えて貰いたいのです。」
「うむ、極限にそうすべきだな。分かった、1秒でも早く知らせよう。」
了平さんは、忘れないようにと事のあらすじをメモに書いて内ポケットにしまった。
そして、タクシーに乗って1人で7号館へ戻っていった。
「さぁ柚子殿、頑張りましょう!」
『はい…』
「大丈夫です。バイクの勝負なら、拙者は誰にも負けませんよ。」
バジルさんが自信たっぷりな理由が、よく分からなかった。
だって、ツナさんと同い年なら乗り始めたのはせいぜい1、2年前……
「では、参りましょう。」
『はいっ。』
バジルさんは用意されたバイクにまたがり、
あたしは後ろに乗って、
スタートラインまで移動した。
ブロロロロロ…
『(うわ…やっぱり体に響く……)』
何が嫌って、この強烈な震動とエンジン音。
怖くて怖くて仕方ない。
獄寺さんの後ろに乗った事があるからって、別に慣れてるワケじゃない。
むしろ気持ちはいつでも初心者なのだ。
「しっかり掴まってて下さいね、柚子殿。」
『はいっ。』
しっかり、と言われたから、とりあえずバジルさんの腰まわりに抱きついた。
振り落とされるのだけは勘弁だから。
「ショートカット、コースアウトは失格とみなします!」
「2台のバイクにはGPSが付いているため、位置は審判側からも確認可能です。くれぐれも不正の無いよう!」
黒スーツの人達…多分審判をする2人が、言う。
ヘルメットをかぶったあたしは、思い切り目を瞑った。
「3……2……1……GO!!」
ブォォォォォン!!!
『(きゃーっ!!)』
叫ぼうと思ったけど、獄寺さんに以前「舌噛むから黙ってろ」と言われたのを思い出して、やめた。
物凄い勢いで風を切ってる音がする。
今、何処を走ってるんだろう…
知り合いとかに見られなければいいけど。
こんな暴走族まがいの行為、見つかったらコンクールの通過も帳消しになっちゃう…。
『(大体さぁ…)』
どーしてあたしが、まるでツナさんを取りあうかのように勝負しなくちゃいけないの?
ツナさんが勝手に、あたしを身代わりにしただけの話。
弾避けならぬ、女避けってヤツでしょう?
あんな横暴ボスの奥様なんて、あたしには到底務まりませんし。
ハルさんの方がよっぽど似合ってるし…
色々考えているうちに、風圧には慣れて来た。
少しだけ首を伸ばして、バジルさんの表情を窺う。
『(あ……)』
真剣、だった。
真剣そのもの、だった。
どうしよう…
もしバジルさんが勝っても、あたしはツナさんと本当に結婚する気なんて無いのに。
この勝負、あたしには無駄に思えて仕方ないものなのに。
申し訳なさ過ぎるよ…
あたしがこうして勝負に参加してる理由がフルートだけだって知ったら、
バジルさんはがっかりするかな…
するだろうな……
「柚子殿っ!」
『あ、はい!』
「少しだけ体を左に倒して下さい!!」
『はいっ!』
言われた通り、重心を左にずらした。
次の瞬間、バイクはぐいーんと右に曲がった。
『(ひえっ…!)』
こ、怖いよっ…
何でこんな危険なレースしてんの?
しかも街中で!
いくら交通量調べたとか言っても、さっきから何台も車追い抜かしてるし…
『あの、』
「はいっ、何でしょう!?」
『どうして…受けたんですか?勝負…』
舌を噛まないように、文節を区切って喋った。
聞いた瞬間、バジルさんの驚きが、その体の震えを通じて伝わった。
「……拙者は、信じたいんです。」
『え…?』
「沢田殿の言葉を。」
『それって、どんな……』
「今度は右でお願いします!」
『あ、はいっ!』
ぐいーんと左に曲がる。
今度は随分と狭い道で、向こうのバイクの様子が見えた。
てゆーか……
あの革ジャン男と渡り合ってる!!
バジルさん凄い!!
「さっきの答えですが、」
『あ、はい!』
進行方向とコースマップを交互に見ながら、バジルさんは話してくれた。
イタリアで、ボレロを弾き終わった後にツナさんと喋った時のことを。
---「柚子殿のフルート、とても綺麗でした!」
---「だろ?ま、俺が選んだんだし、当然だけどさ。」
---「あの音色は本当に素晴らしいです。共に演奏していた拙者も、元気になりましたよ!」
その時、ツナさんはまるで何かを懐かしむかのような目をしたそうだ。
---「あぁ、そうなんだよな……俺も、柚子のあの音色に救われた。だから今、こうしてココにいるようなモンだよ。」
---「柚子殿がいると、沢田殿はパワーアップするということですね!!」
---「違うよ、逆。」
---「逆、ですか…?」
首を傾げたバジルさんに、ツナさんは苦笑して、
---「柚子がいなくちゃ、俺は在り得ないんだ。」
自分が弱い存在であるかのように、そう言ったらしい。
あたしには、信じられなかった。
きっとまた、バジルさんの解釈の問題だろうと思った。
だって、あり得ない。
そんな言い方だったら、あたしがツナさんを支えてるみたい……
全然違うよ、そんな覚えもないし。
『そう、ですか…』
とりあえず、教えてくれたバジルさんにはお礼を言っておいた。
とにかく、これだけは分かった。
バジルさんは、ツナさんの為に戦ってる。
あたしが、父の形見の為に参加してるように。
真偽はともかく、バジルさんは信じているようだ。
“ツナさんにはあたしが必要だ”と。
「柚子殿、ラストスパートをかけます!!」
『はいっ!』
何の為、誰の為かが違っても、あたし達は今、一緒に勝負に挑んでる。
だったら、無気力でいいハズがない。
勝ちを譲っていいハズがない。
バジルさんの神懸った運転のおかげで、相手バイクをかなり引き離した。
『あの…!』
「何ですか!?」
『フルートは…あたしが!』
「し、しかし…」
『行かせて下さい!!』
バジルさんは、ココまで運転を頑張ってくれたんだもの。
勝ちにこだわってくれたんだもの。
最後くらい、あたしもちゃんと勝負したい。
「分かりました!柚子殿、お願いします!!」
『ありがとうございます!』
港に着いた。
灯台は、もう目の前。
と、その時。
チュインッ、
『えっ…?』
「今のは、銃声!?」
そう言えば、走行中のルールは一切言われてなかった…!
攻撃してもオッケーって事!?
「やはり…卑怯なことをしてくるとは思ってましたが…」
チュインッ、
『(撃ってるの、お姉さんっ!?)』
さ、さすがマフィアの娘さん…凄い……
……なんて悠長なこと言ってる場合じゃないよ!どうしよう!!
てゆーか怖っ!!
このままだったら、いつか絶対あたしに当たるじゃん!
「くっ、仕方ない…柚子殿、しっかり掴まって下さい!」
『は、はいっ!』
「急ブレーキをかけます。止まったらすぐに灯台に向かって走り、フルートを!」
『了解です!』
銃弾を避けるように蛇行運転をしてから、バイクの向きを180度ひっくり返しながらバジルさんはブレーキをかけた。
キキィィィィィイイ!!!
『(きゃーーーっ!!)』
グンッ、と前につんのめりそうになりながら、あたしは落ちずに済んだ。
「柚子殿!」
『はいっ!』
ヘルメットを外してその場に捨て、あたしは走った。
灯台の展望台のてっぺんに、フルートのケースが見えた。
「行きなさい!!」
後ろから、お姉さんの声が聞こえた。
追いかけてくるのは多分、革ジャン男の方だろう。
ヤバい、絶対速さじゃ負ける…!
「行かせません!!」
チュインッ、
「ぐっ…!」
『(バジルさんっ…!?)』
一瞬だけ振り向くと、革ジャン男を足止めしようとしたバジルさんに、お姉さんが発砲してるのが見えた。
革ジャン男とあたしとの距離は、確実に縮まっている。
バジルさんが撃たれたのかどうか分からなかったけど、あたしは走り続けた。
勝たなくちゃ。
勝たなくちゃ。
見物用の階段を駆け上がる。
一段飛ばしで、呼吸を整えながら。
革ジャン男の足音が近づく。
ダメだ、追いつかれちゃう…!
「待ちやがれ、女ァ!!」
『きゃっ…!』
足を引っ張られて、ヒールが脱げた。
お給料で買った新品なのに…!
そのまま抜かれると思ったけど、男はその場で倒れた。
バジルさんが、後ろからブーメラン(?)を当てたのだ。
「柚子殿、お急ぎください!!この男は拙者が!」
『は…はいっ!』
今度はもう、振り向かなかった。
あたしはひたすら上へと走って、梯子の前に辿りついた。
『これ…上るの……?』
メンテナンス用の梯子というのは、当然一般客が上りづらいように、際どい場所に設置してある。
別に高所恐怖症でもないけど、さすがに怖くなった。
上ったら、一体地上何メートルに身を置くことになるんだろう。
あと何秒で、相手は追いつくんだろう。
色んなことを考えた後……といっても3秒くらいだったけど、
あたしは梯子に足をかけた。
『うっ…』
高い所だからか、やっぱり風が強い。
油断したら浮いてしまいそう。
怖いよ、怖いよ…!
だけどココで逃げたら、バジルさんの意志も無駄になる。
力になりたいと思ったのは、あたし。
フルートを取りに行きたいと名乗り出たのも、あたし。
だったら、最後まで頑張らなくちゃ…!!
そして、見つけた。
『あ、あった…』
ガムテープで留められたビニール袋に入った、
あたしの大事なフルートと、ケース。
ビリッと剥がして、掴んだ。
これで…あたし達の勝ち、だよね?
「柚子殿ーっ、」
『バジルさんっ?』
見えないけど、どうやら梯子の下にバジルさんがいるらしい。
フルート取りましたよ、と報告しようとした、
その時。
ブオオッ、
『きゃっ…』
物凄い強風があたしの全身に体当たりしてきて、
気が付いたら、
『あ……』
あたしの手は、空を掴んでいた。
「柚子殿っ…!!」
『いやっ…』
落ちる、落ちる、落ちちゃう…!!
そうだよね、海風って強いもん。
この下って…当然海、だよね…
水なら大丈夫かな、でも地面と同じくらいの衝撃だって聞いたことある。
痛みと冷たさを覚悟して目を瞑った。
けど、
ボウッ、
『(あれっ…?)』
あたしを包んだのは水の冷たさじゃなくて、人の腕の温かさ。
目を開ければ、そこには…
『ツナさん…!!』
「何やってんだよ、バカ柚子。」
悪態をつく、我が主。
姫だっこ状態のまま、ツナさんは灯台の横にスタッと降り立つ。
バジルさんがすぐに駆け降りて来た。
「沢田殿!」
「柚子を守ってくれてサンキュ、バジル。あとは…俺がケリつけるから。」
「はいっ。」
『ツナさん…どうしてココに…』
「了平さんから聞いた。」
『あ、あの、熱は…?』
「下がったし、もう治った。」
あぁ良かったと胸を撫でおろすあたしを降ろして、ツナさんはお姉さんの方を見た。
「最初から、これが目的だったんですよね?」
「なっ、何をおっしゃるの綱吉さ……」
「無駄ですよ、俺には超直感がある。」
ツナさんに言われたお姉さんは、追い詰められたような顔をする。
「貴女はこうして、事故に見せかけて柚子を消そうとしたんだ。」
『えぇっ!?』
驚いたのは、言うまでもなかった。
マフィアの娘さんって…そーゆー思考しちゃうワケ!?
「安心して下さい、今回の件について俺は処分を言い渡すつもりはありません。」
「ほ、本当に…?」
「ですが、9代目への報告はさせて貰います。それが、日本支部長である俺の務めですから。」
一瞬だけ救われたお姉さんの表情が、一気に青ざめた。
ツナさん怖っ…
「う…うぅっ……」
ぺたんと座りこんだお姉さんに、あたしは思い切って駆け寄った。
「おい柚子?」
「柚子殿?」
『あの…お姉さん、』
この人だって、自分のお父様のファミリーを思ってたに違いない。
だからツナさんとの縁談が欲しくて、諦められなかったんだ。
もしくは、ツナさんの腹黒モードを知らないまま好きになってたのかも。
いずれにせよ、あたしは謝らなくちゃいけない。
「…何よ、同情なんて……」
『引っ叩いちゃって、ごめんなさい。』
「なっ…」
『やり過ぎました、反省してます。えと……とりあえずあたしからは、それだけです。では!』
ぺこっと一礼して、ツナさんとバジルさんの方へ走って戻った。
お姉さんは、SPの人達と一緒にその場を後にした。
「バジル、悪いけど獄寺君呼んで来て貰っていいかな?多分、あっちの方に車で来てると思うから…」
「分かりましたっ。」
『あ、あたしも…』
「柚子は、こっち。」
『え"……』
嫌な予感がした。
だってツナさんの笑顔……真っ黒なんだもん。
「ったく、勝手に何してんだよ。探す身にもなれっての。」
『それは!バジルさんが…勝負受けちゃって…』
「俺が来なかったら…柚子は今頃着衣泳してたんだからな。」
『はい…感謝してます……』
きまりが悪くなって俯いた途端、ぐいっと引き寄せられた。
『ちょっ、え……ツナさん!?///』
「何かあったらどーすんだよ…バカ柚子……」
消えそうな声で言われた瞬間、あたしの中で抑えられてたものが溢れだして。
『ツナさっ……』
バイクの音も、
そのスピードと震動も、
急カーブと急ブレーキも、
革ジャン男も、
銃声も、
灯台の梯子も、
全部、全部……
『…こ、怖かった…ですっ……』
感情と共に、涙のダムも決壊する。
ツナさんの腕の力が増して、
あたしもギュッと抱きついた。
『ツナさんの、せいですからねっ…!』
「うん、ごめんな……柚子。」
ズルいよ、こんな日ばっかり謝るなんて。
「何かあったら、また俺が良いタイミングで助けるよ。」
『そー言えば…』
いつまでも泣き顔は嫌だと思って、自分の袖で涙を拭う。
『今日、スーパーマンみたいでカッコよかったです!あの…本当にありがとうございましたっ♪』
「スーパーマンかよ………ま、いっか。」
言いながら、ツナさんは呆れたような笑みをこぼした。
やっぱり、普通に笑えばカッコいい人なんだな……と思った。
リスキー
その日流した涙を知るのは、横暴ボスと大事なフルートだけ
continue...