🎼本編
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「おかゆを作っておきました。キッチンにあります。」
「サンキュー、バジル。」
ツナさんが、熱を出した。
風邪といっても相当酷くて、39度をキープしたまま、気を失うように眠っている。
『ごめんなさい…あたしが夕べ気付かなかったから…』
「柚子のせいじゃねーって、な?」
山本さんが、宥めるようにあたしの頭を撫でる。
獄寺さんがベッドの横の椅子に座って、ツナさんの額の汗を拭く。
了平さんは団扇でツナさんを扇いでる。
雲雀さんと骸さんは、この場にはいない。
だけどリボーンさんの話じゃ、ツナさんの代わりにたまった書類を片付けているとか。
「おい柚子、」
『は、はい…』
リボーンさんに話しかけられて、少しビクッとした。
やっぱり、ツナさんの異変に気付けなかったあたしは、怒られるのかなって。
けど、言われたのはもっと酷な言葉で。
「柚子、学校行って教授に演奏聞いて貰え。」
『………え?』
「コンクールは明日だろ。早く行け、練習しろ。」
『で、でも…!』
こんな状態のツナさんを放っといて、練習に身が入るワケない。
そんなあたしの思考を読み取ったかのように、リボーンさんは言った。
「こんぐらいの事でコンクール諦めんじゃねぇ。柚子の3次予選通過が、ツナの望みだ。」
じわっと、涙が滲んだ。
ぼやけた視界にツナさんを映す。
眠っていても、まだ辛そうで。
『わかり、ました……』
「柚子っ…」
頷いた瞬間、涙が零れてしまった。
それが見えたのか、山本さんが心配そうに呼び掛けてくれたけど、あたしは構わず部屋を飛び出した。
『(あたしには、何も出来ないんだ……)』
演奏室からフルートを取って来て、そのまま学校まで走った。
ツナさんは、横暴ボスだけど…
あたしを助けてくれてた。
あたしが捕まった時に乗りこんで来てくれたし、
あたしの演奏聞いて、アドバイスしてくれたし、
あたしと喧嘩した時だって、迎えに来てくれた。
なのに……
あたしには、ツナさんを心配することも許されてないの?
『あの、教授…』
「おや、君は確か…」
『牧之原です、演奏学科の…』
リボーンさんに言われた通り、いつも習ってる教授に、聞いて貰うことにした。
演奏するには、忘れなくちゃいけない。
ツナさんへの心配を忘れて、楽しい気分で弾かなければいけない。
それが堪らなく、苦しかった。
---
------
------------
「ったく、最悪のタイミングで風邪ひきやがって、ダメツナが。」
「…うっさい……」
柚子が学校へ行ってから、数時間後。
ツナの熱は37度6分まで下がり、目も覚ましていた。
「明日に影響しちまったら、どーする気だ。」
「だから…一応反省してるって…」
「10代目、お水飲みますか?」
「うん、頼むよ。」
ぐっと起き上がりコップを受け取ったツナは、窓の外を見る。
「なぁツナ、お前…昨日の夜、柚子に何か言ったのか?」
「ん?いや…覚えてない………ただ、」
こくん、と水を飲むツナの返答を待つリボーン。
「柚子が……並盛から引っ越してった日の…夢を見てた…」
「…そうか。」
「どうしても、引き留められなくて……死ぬほど悔やんだ日の、夢……」
焦点の合わないまま、ツナは続ける。
「目が覚めたら、柚子がいて……それで……………ダメだ、覚えてない…」
「10代目、無理せず今は休んで下さい。」
「そーだな。明後日は家光に会いに行く日だぞ。」
「あぁ、そうだったっけ……ハードだな、まったく。」
苦笑しながら、ツナは再び窓の外を見る。
「なぁリボーン、柚子は…大丈夫だよな…?」
「あたりめーだ、お前が選んだヤツだぞ。」
リボーンの返答に安心したように、ふぅと一息もらすツナ。
が、ふと窓の外に何かを見つけた。
「あ。」
「どうかしましたか?10代目。」
「お、帰って来たな。」
リボーンが口角を上げたのとほぼ同時に、廊下の向こうからドアを開ける音。
『ただいま帰りましたっ!』
「おっ!お帰り柚子。」
『山本さん!わざわざお出迎え、ありがとうございますっ。』
柚子の声を耳にしたツナは、柔らかい笑みを浮かべる。
「獄寺君、柚子呼んできてくれる?」
「はいっ!」
獄寺は返事をしながら立ちあがり、部屋を出た。
「おい柚子!」
『あ、獄寺さん!ただいまです!あの…』
「10代目がお呼びだ。」
『えっ、ツナさん、起きてるんですか!?』
「早くしろっ。」
『あ、はいっ!!』
ツナさんの書斎まで走って、扉を開けた。
『ツナさんっ…!』
「お帰り、柚子。」
『あ……』
ベッドの上で枕を背もたれにして座ってるツナさんを見たら、
何だか目頭が熱くなった。
「どうだった?完璧になった?」
『ツナさんの……ツナさんのバカーっ!!』
「なっ……はぁ!?」
叫びながら駆け寄って、思い切り抱きついた。
だって、これでも心配したんです。
横暴ボスは病原菌に対しても強いとばかり思ってたから。
弱りきって寝込んだツナさんを見た時に、
不安で不安で仕方なくて、
だけどその気持ちを振り切って練習してきて……
「ふーん、そんなに心配してくれたんだ。」
『あ、当たり前じゃないですか!!仮にもツナさんは同居人で、あたしの雇い主で、』
「婚約者で…」
『違いますっ!!///』
「どーでもいーが、柚子、今の体勢見てみろ。」
『へっ?……あ!!うわわわ、ごめんなさいっ!!』
リボーンさんに言われて、抱きついていたのを思い出し、咄嗟に離れた。
ツナさんは「別に良かったのに」とか何とか言ってる。
「つーか、バカって何だよ。」
『体調悪かったんなら、昨日の夜に言ってくれれば良かったのに……今朝知って…吃驚して……』
あーダメ、また泣きそう。
『明日のコンクールでミスったら、ツナさんのせいですからねっ!!』
「あ、おい…」
『お大事にっ!あたしは練習してきます!』
これ以上、ツナさんの前にいられないような気がして。
引き留められてたのを承知で、走り去った。
---
------
--------------
結局、今日も深夜まで練習してしまった。
もうすぐ日付が変わってしまう。
明日着て行く服は……イタリアで来たドレスでいいかな?
どうせあたしが払わされるんだし、何回使ったっていいよね。
『(そうと決まれば、もう寝よっと。)』
最後にホットココアを飲んでから、寝室に入ろうとドアのぶを握る。
と、隣の部屋のドアに目がいった。
『ツナさん……』
大丈夫かな、熱は下がったのかな?
今日は栄養とったのかな、もう寝てるかな…
色んな事が気になって、昨日と同じようにドアに耳をくっつける。
すると…
「入れよ、柚子。」
『へっ…!?』
「分かってんだよ、気配でバレバレ。」
まさか起きてるとは思わなくて、吃驚しながらそうっとドアを開ける。
窓から月明かりが差し込む中で、ツナさんはベッドに座っていた。
『お、起きてらしたんですか?体に障るんじゃ…』
「平気、もうじき熱も下がるだろうし。」
『なら、いーんですけど…』
そこで一旦会話が途切れて、あたしは何を言おうか頭の中を探る。
『あの、』
「あのさ、」
『あ、お先にどうぞ!』
「何だよ、柚子が先に言えよ。」
『えと…明日早いので…もう寝ようかなって…』
それくらいしか、思いつかなかった。
会話が無いなら、ココにいる意味はないなって。
「だったらちょっと待て。」
『え?』
「こっち。」
言いながら、ツナさんはベッドを軽く叩く。
どうやら、そこに座れと言われているようだ。
『はぁ…』
言われた通りの場所に斜めに座り、ツナさんの方を向く。
こんな近くで改めて面と向かうのは恥ずかしくて、ほんの少しだけ俯いた。
「明日さ、」
『はい…』
「頑張れよ、柚子。絶対通るから。」
何で、こんな時ばっかり優しく笑ってくれるの?
どうしていつも、不意打ちを仕掛けるの?
月明かりがツナさんに味方して、微笑みが一層綺麗に見えた。
跳ねる心臓を抑えながら、大きく一回だけ頷いて。
『はいっ!』
負けないように、笑ってみせた。
----
-------
--------------
『では、行ってきます。』
「しっかりやれよ。」
「良い結果、待ってっからな♪」
『はい!』
リボーンさんと山本さんに見送られて、あたしは会場に向かった。
今日付いて来て下さったのは、バジルさんと了平さん。
獄寺さんは相変わらずツナさんのお世話をしてて、
雲雀さんと骸さんもお仕事続きだとか。
『ホントに、あたし一人でも大丈夫ですよ?』
「いいえ、柚子殿がいつどこで狙われるか分かりませんから!」
「その通りだ!護衛は怠るわけにはいかん!」
何だか随分と熱いコンビだなぁ…。
けど、元気を分けて貰ってる気がする♪
良い演奏が出来そう。
「では柚子殿、ベストを尽くせるよう!」
「うむ。客席からだが、極限に応援しているぞ!!」
『ありがとうございますっ!』
控室で数十分待機した後、あたしは舞台に上がった。
審査員が見てる。
聴衆もたくさんいる。
『(よし!)』
心の中で1回深呼吸をして、フルートに息を吹き込んだ。
---「バッハの方が予定より25秒オーバーしてたぞ。」
大丈夫、あの時より少し早く吹けてる。
---「全体的にテンポの変化が弱い。」
大丈夫、メトロノームのリズムを刻み込んだから。
皆さんのアドバイスが、一瞬ずつ脳裏を過ってく。
『(1曲終わった…!)』
バッハの“フルートと通奏低音の為のソナタ”を吹き終えた。
次は、モーツァルトの“フルート四重奏曲”より、第1・第4楽章……
---「アンダンテとアレグロと区別をもっとハッキリさせた方がいい。」
『(ツナさん…)』
きっともう、回復してるよね?
元気になってくれてますよね?
不安がいっぱいだけど、今はその感情をそのまま表す。
第1楽章は悲歌だから。
そして、第4楽章に移った時には……
『(アレグロにしなきゃ…!)』
希望と期待、喜びをいっぱいに表して。
だけど上品さを忘れずに、愛想良くして。
そうだ、あの時の感覚に似てるんだ。
ビアンキさんに教えてもらった、婚約者の演技をする時の“穏やかスマイル”。
アレに似てる。
“気持ち”を捉えたあたしは、そのままフィナーレまで弾き続けた。
---
------
-------------
『お疲れさまでした。』
「お疲れさまでした。」
一緒に演奏をして下さった方々と主催者さんに挨拶をして、あたしは客席の入口へと向かった。
『バジルさんっ、了平さんっ!』
「おぉ柚子!極限に良かったぞ!!」
「素晴らしい演奏でした!拙者…感動で涙が……」
『ば、バジルさんっ!』
思い出し泣きしそうなバジルさんの背中をさする。
そんなに良かった、かなぁ…?
審査員の方たちにも、こんな風に伝わってればいいな。
「さぁ、帰るぞ。」
『はいっ♪』
帰ったら、皆さんに報告しよう。
ツナさんに、栄養のある食事作ってあげなくちゃ!
そう思いながら車に乗ろうとした、その時。
「待ちなさいよ、牧之原柚子。」
『へ…?』
突然フルネームで呼ばれて、ビビりながら振り返った。
と、そこに立っていた“彼女”を見てビックリ。
あ、あの人は…!
どっかで見た?
思い出せないままボーッと見つめるあたしに、“彼女”はツカツカ歩み寄る。
「まさか、覚えてないなんて言わないでしょうね?」
『えっとー…』
こ、この威圧的な話し方は…
『(あ!)』
---「こんな貧相な女が私の代わりに選ばれたの?」
ツナさんの、前の婚約者さんっていう…!?
『ど、どうしてココに…?』
「よくもそんな事が聞けるわね?貴女と勝負をしに来たのよ。」
『しょ…勝負!!?』
え、ちょっと意味分からない…!
誰か詳しく…!!
「どちら様ですか?」
『あのですね…』
バジルさんに説明しようとするけど、何て言っていいか分からない。
うーんと唸るあたしに代わって、お姉さんが言った。
「綱吉さんの、本来の婚約者よ。」
「なっ…!?」
「ありえん!!」
『(また厄介な言い方…)』
大きくため息をついたあたしに、お姉さんは言う。
「財力も器量も、私は貴女に負けているなんて思ってないわ。」
『(というか、勝ってますよ完全に…)』
「なのに貴女、私を引っ叩くなんて…!だから勝負をしに来たのよ。」
『(いや、ぶっ飛び過ぎでしょ!!)』
どうしよう、ツッコミたいのにツッコむの怖い…!
てゆーか、引っ叩いたのを怒ってらっしゃるなら謝りますから…!!
「分かりました。」
『………え?』
あたしの代わりに、何故かバジルさんがお姉さんの前に立ってガン飛ばしをしていて。
「その勝負、受けて立ちます!!」
『(ちょっ…えぇーっ!!?)』
何故か、ツナさん争奪戦らしき展開になっていた。
ルサンチマン
突然過ぎる勝負の持ちかけは、彼女の恨みの強さを物語ってた
continue...
「サンキュー、バジル。」
ツナさんが、熱を出した。
風邪といっても相当酷くて、39度をキープしたまま、気を失うように眠っている。
『ごめんなさい…あたしが夕べ気付かなかったから…』
「柚子のせいじゃねーって、な?」
山本さんが、宥めるようにあたしの頭を撫でる。
獄寺さんがベッドの横の椅子に座って、ツナさんの額の汗を拭く。
了平さんは団扇でツナさんを扇いでる。
雲雀さんと骸さんは、この場にはいない。
だけどリボーンさんの話じゃ、ツナさんの代わりにたまった書類を片付けているとか。
「おい柚子、」
『は、はい…』
リボーンさんに話しかけられて、少しビクッとした。
やっぱり、ツナさんの異変に気付けなかったあたしは、怒られるのかなって。
けど、言われたのはもっと酷な言葉で。
「柚子、学校行って教授に演奏聞いて貰え。」
『………え?』
「コンクールは明日だろ。早く行け、練習しろ。」
『で、でも…!』
こんな状態のツナさんを放っといて、練習に身が入るワケない。
そんなあたしの思考を読み取ったかのように、リボーンさんは言った。
「こんぐらいの事でコンクール諦めんじゃねぇ。柚子の3次予選通過が、ツナの望みだ。」
じわっと、涙が滲んだ。
ぼやけた視界にツナさんを映す。
眠っていても、まだ辛そうで。
『わかり、ました……』
「柚子っ…」
頷いた瞬間、涙が零れてしまった。
それが見えたのか、山本さんが心配そうに呼び掛けてくれたけど、あたしは構わず部屋を飛び出した。
『(あたしには、何も出来ないんだ……)』
演奏室からフルートを取って来て、そのまま学校まで走った。
ツナさんは、横暴ボスだけど…
あたしを助けてくれてた。
あたしが捕まった時に乗りこんで来てくれたし、
あたしの演奏聞いて、アドバイスしてくれたし、
あたしと喧嘩した時だって、迎えに来てくれた。
なのに……
あたしには、ツナさんを心配することも許されてないの?
『あの、教授…』
「おや、君は確か…」
『牧之原です、演奏学科の…』
リボーンさんに言われた通り、いつも習ってる教授に、聞いて貰うことにした。
演奏するには、忘れなくちゃいけない。
ツナさんへの心配を忘れて、楽しい気分で弾かなければいけない。
それが堪らなく、苦しかった。
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「ったく、最悪のタイミングで風邪ひきやがって、ダメツナが。」
「…うっさい……」
柚子が学校へ行ってから、数時間後。
ツナの熱は37度6分まで下がり、目も覚ましていた。
「明日に影響しちまったら、どーする気だ。」
「だから…一応反省してるって…」
「10代目、お水飲みますか?」
「うん、頼むよ。」
ぐっと起き上がりコップを受け取ったツナは、窓の外を見る。
「なぁツナ、お前…昨日の夜、柚子に何か言ったのか?」
「ん?いや…覚えてない………ただ、」
こくん、と水を飲むツナの返答を待つリボーン。
「柚子が……並盛から引っ越してった日の…夢を見てた…」
「…そうか。」
「どうしても、引き留められなくて……死ぬほど悔やんだ日の、夢……」
焦点の合わないまま、ツナは続ける。
「目が覚めたら、柚子がいて……それで……………ダメだ、覚えてない…」
「10代目、無理せず今は休んで下さい。」
「そーだな。明後日は家光に会いに行く日だぞ。」
「あぁ、そうだったっけ……ハードだな、まったく。」
苦笑しながら、ツナは再び窓の外を見る。
「なぁリボーン、柚子は…大丈夫だよな…?」
「あたりめーだ、お前が選んだヤツだぞ。」
リボーンの返答に安心したように、ふぅと一息もらすツナ。
が、ふと窓の外に何かを見つけた。
「あ。」
「どうかしましたか?10代目。」
「お、帰って来たな。」
リボーンが口角を上げたのとほぼ同時に、廊下の向こうからドアを開ける音。
『ただいま帰りましたっ!』
「おっ!お帰り柚子。」
『山本さん!わざわざお出迎え、ありがとうございますっ。』
柚子の声を耳にしたツナは、柔らかい笑みを浮かべる。
「獄寺君、柚子呼んできてくれる?」
「はいっ!」
獄寺は返事をしながら立ちあがり、部屋を出た。
「おい柚子!」
『あ、獄寺さん!ただいまです!あの…』
「10代目がお呼びだ。」
『えっ、ツナさん、起きてるんですか!?』
「早くしろっ。」
『あ、はいっ!!』
ツナさんの書斎まで走って、扉を開けた。
『ツナさんっ…!』
「お帰り、柚子。」
『あ……』
ベッドの上で枕を背もたれにして座ってるツナさんを見たら、
何だか目頭が熱くなった。
「どうだった?完璧になった?」
『ツナさんの……ツナさんのバカーっ!!』
「なっ……はぁ!?」
叫びながら駆け寄って、思い切り抱きついた。
だって、これでも心配したんです。
横暴ボスは病原菌に対しても強いとばかり思ってたから。
弱りきって寝込んだツナさんを見た時に、
不安で不安で仕方なくて、
だけどその気持ちを振り切って練習してきて……
「ふーん、そんなに心配してくれたんだ。」
『あ、当たり前じゃないですか!!仮にもツナさんは同居人で、あたしの雇い主で、』
「婚約者で…」
『違いますっ!!///』
「どーでもいーが、柚子、今の体勢見てみろ。」
『へっ?……あ!!うわわわ、ごめんなさいっ!!』
リボーンさんに言われて、抱きついていたのを思い出し、咄嗟に離れた。
ツナさんは「別に良かったのに」とか何とか言ってる。
「つーか、バカって何だよ。」
『体調悪かったんなら、昨日の夜に言ってくれれば良かったのに……今朝知って…吃驚して……』
あーダメ、また泣きそう。
『明日のコンクールでミスったら、ツナさんのせいですからねっ!!』
「あ、おい…」
『お大事にっ!あたしは練習してきます!』
これ以上、ツナさんの前にいられないような気がして。
引き留められてたのを承知で、走り去った。
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結局、今日も深夜まで練習してしまった。
もうすぐ日付が変わってしまう。
明日着て行く服は……イタリアで来たドレスでいいかな?
どうせあたしが払わされるんだし、何回使ったっていいよね。
『(そうと決まれば、もう寝よっと。)』
最後にホットココアを飲んでから、寝室に入ろうとドアのぶを握る。
と、隣の部屋のドアに目がいった。
『ツナさん……』
大丈夫かな、熱は下がったのかな?
今日は栄養とったのかな、もう寝てるかな…
色んな事が気になって、昨日と同じようにドアに耳をくっつける。
すると…
「入れよ、柚子。」
『へっ…!?』
「分かってんだよ、気配でバレバレ。」
まさか起きてるとは思わなくて、吃驚しながらそうっとドアを開ける。
窓から月明かりが差し込む中で、ツナさんはベッドに座っていた。
『お、起きてらしたんですか?体に障るんじゃ…』
「平気、もうじき熱も下がるだろうし。」
『なら、いーんですけど…』
そこで一旦会話が途切れて、あたしは何を言おうか頭の中を探る。
『あの、』
「あのさ、」
『あ、お先にどうぞ!』
「何だよ、柚子が先に言えよ。」
『えと…明日早いので…もう寝ようかなって…』
それくらいしか、思いつかなかった。
会話が無いなら、ココにいる意味はないなって。
「だったらちょっと待て。」
『え?』
「こっち。」
言いながら、ツナさんはベッドを軽く叩く。
どうやら、そこに座れと言われているようだ。
『はぁ…』
言われた通りの場所に斜めに座り、ツナさんの方を向く。
こんな近くで改めて面と向かうのは恥ずかしくて、ほんの少しだけ俯いた。
「明日さ、」
『はい…』
「頑張れよ、柚子。絶対通るから。」
何で、こんな時ばっかり優しく笑ってくれるの?
どうしていつも、不意打ちを仕掛けるの?
月明かりがツナさんに味方して、微笑みが一層綺麗に見えた。
跳ねる心臓を抑えながら、大きく一回だけ頷いて。
『はいっ!』
負けないように、笑ってみせた。
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『では、行ってきます。』
「しっかりやれよ。」
「良い結果、待ってっからな♪」
『はい!』
リボーンさんと山本さんに見送られて、あたしは会場に向かった。
今日付いて来て下さったのは、バジルさんと了平さん。
獄寺さんは相変わらずツナさんのお世話をしてて、
雲雀さんと骸さんもお仕事続きだとか。
『ホントに、あたし一人でも大丈夫ですよ?』
「いいえ、柚子殿がいつどこで狙われるか分かりませんから!」
「その通りだ!護衛は怠るわけにはいかん!」
何だか随分と熱いコンビだなぁ…。
けど、元気を分けて貰ってる気がする♪
良い演奏が出来そう。
「では柚子殿、ベストを尽くせるよう!」
「うむ。客席からだが、極限に応援しているぞ!!」
『ありがとうございますっ!』
控室で数十分待機した後、あたしは舞台に上がった。
審査員が見てる。
聴衆もたくさんいる。
『(よし!)』
心の中で1回深呼吸をして、フルートに息を吹き込んだ。
---「バッハの方が予定より25秒オーバーしてたぞ。」
大丈夫、あの時より少し早く吹けてる。
---「全体的にテンポの変化が弱い。」
大丈夫、メトロノームのリズムを刻み込んだから。
皆さんのアドバイスが、一瞬ずつ脳裏を過ってく。
『(1曲終わった…!)』
バッハの“フルートと通奏低音の為のソナタ”を吹き終えた。
次は、モーツァルトの“フルート四重奏曲”より、第1・第4楽章……
---「アンダンテとアレグロと区別をもっとハッキリさせた方がいい。」
『(ツナさん…)』
きっともう、回復してるよね?
元気になってくれてますよね?
不安がいっぱいだけど、今はその感情をそのまま表す。
第1楽章は悲歌だから。
そして、第4楽章に移った時には……
『(アレグロにしなきゃ…!)』
希望と期待、喜びをいっぱいに表して。
だけど上品さを忘れずに、愛想良くして。
そうだ、あの時の感覚に似てるんだ。
ビアンキさんに教えてもらった、婚約者の演技をする時の“穏やかスマイル”。
アレに似てる。
“気持ち”を捉えたあたしは、そのままフィナーレまで弾き続けた。
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『お疲れさまでした。』
「お疲れさまでした。」
一緒に演奏をして下さった方々と主催者さんに挨拶をして、あたしは客席の入口へと向かった。
『バジルさんっ、了平さんっ!』
「おぉ柚子!極限に良かったぞ!!」
「素晴らしい演奏でした!拙者…感動で涙が……」
『ば、バジルさんっ!』
思い出し泣きしそうなバジルさんの背中をさする。
そんなに良かった、かなぁ…?
審査員の方たちにも、こんな風に伝わってればいいな。
「さぁ、帰るぞ。」
『はいっ♪』
帰ったら、皆さんに報告しよう。
ツナさんに、栄養のある食事作ってあげなくちゃ!
そう思いながら車に乗ろうとした、その時。
「待ちなさいよ、牧之原柚子。」
『へ…?』
突然フルネームで呼ばれて、ビビりながら振り返った。
と、そこに立っていた“彼女”を見てビックリ。
あ、あの人は…!
どっかで見た?
思い出せないままボーッと見つめるあたしに、“彼女”はツカツカ歩み寄る。
「まさか、覚えてないなんて言わないでしょうね?」
『えっとー…』
こ、この威圧的な話し方は…
『(あ!)』
---「こんな貧相な女が私の代わりに選ばれたの?」
ツナさんの、前の婚約者さんっていう…!?
『ど、どうしてココに…?』
「よくもそんな事が聞けるわね?貴女と勝負をしに来たのよ。」
『しょ…勝負!!?』
え、ちょっと意味分からない…!
誰か詳しく…!!
「どちら様ですか?」
『あのですね…』
バジルさんに説明しようとするけど、何て言っていいか分からない。
うーんと唸るあたしに代わって、お姉さんが言った。
「綱吉さんの、本来の婚約者よ。」
「なっ…!?」
「ありえん!!」
『(また厄介な言い方…)』
大きくため息をついたあたしに、お姉さんは言う。
「財力も器量も、私は貴女に負けているなんて思ってないわ。」
『(というか、勝ってますよ完全に…)』
「なのに貴女、私を引っ叩くなんて…!だから勝負をしに来たのよ。」
『(いや、ぶっ飛び過ぎでしょ!!)』
どうしよう、ツッコミたいのにツッコむの怖い…!
てゆーか、引っ叩いたのを怒ってらっしゃるなら謝りますから…!!
「分かりました。」
『………え?』
あたしの代わりに、何故かバジルさんがお姉さんの前に立ってガン飛ばしをしていて。
「その勝負、受けて立ちます!!」
『(ちょっ…えぇーっ!!?)』
何故か、ツナさん争奪戦らしき展開になっていた。
ルサンチマン
突然過ぎる勝負の持ちかけは、彼女の恨みの強さを物語ってた
continue...