🎼本編
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『おはようございます、ツナさん。』
「おはよう柚子。」
『コーヒーどうぞ、朝食も今できました。』
「あぁ、ありがとう。」
『今日もお仕事ですか?』
「うん、ちょっとある組織潰しに。」
『あのっ、でしたら折り畳み傘持ってって下さいね。午後の降水確率70%なので…』
「あのさ、柚子、」
『はいっ!』
「何が欲しいんだよ?」
ぎくっ、
『な、何言ってるんですか?別にあたしは…』
「読心術使ってあげてもいいけど。」
『ごめんなさいすみません許して下さい!!』
うわぁん!やっぱりダメだった…
ツナさんのご機嫌を取るのは難しいようです。
「へぇー、ご機嫌取ってどうするつもり?」
『あのですね……って、読まないで下さい!』
「聞こえた。で?」
コーヒーを啜りながらあたしの顔を覗き込むツナさん。
お盆を握りしめて言おうかどうか迷う。
えーい!こうなったらダメもとで…!
『あのですねっ、』
「うん。」
『新作コスメが欲しいんです!』
「買って欲しいワケ?」
『ちっ、違いますよ!いくらなんでもそんな……』
これ以上ボンゴレファミリーに借金するワケにはいかないし。
今回のあたしの頼みは、というと…
『お給料、ちょっと早めに貰いたいんです…けど……』
「あぁ、そんなことか。」
『いいんですかっ!?』
「いいけど、条件付き♪」
見せられた腹黒スマイルに、思わず一歩引いた。
つ、ツナさんのことだ。
横暴腹黒意地悪ボスのツナさんが、
生半可な条件を出すハズがない…!
「今日の午後6時から0時まで、俺に付き合えよ。」
『………え?』
割と普通(?)な条件だった。
『そ、それだけですか…?』
「何?もっと束縛されたいワケ?」
『違います!!そーじゃありません!!』
サラッととんでもない事を言うツナさんに、気を取り直して聞きなおす。
『ツナさん、夜にお出かけでもするんですか?雨降るかもしれないのに…』
「うん、柚子と夕食行こうかと思って。」
『へ…?』
「組織潰しは昼過ぎには終わると思うから、今日は柚子とゆっくり過ごしたいなってさ。」
『そ、それって……』
デート、じゃないですか…///
てゆーか言い回しが既に付き合ってる設定みたいになってるし…。
でもまぁ、一緒にお出かけするくらいなら…いいかな?
『分かりました、ご一緒します。お給料下さるんですか?』
「いいよ。」
や…やったぁ!!
言ってみるもんだなぁ♪
『ありがとうございますツナさんっ!!』
新作コスメは割と前から雑誌でも取り上げられてて、結構な人気があると思う。
だから、発売日に売り切れちゃうんじゃないかと不安になったのだ。
ツナさんが(条件付きとはいえ)こんなにあっさり許してくれるなんて、ホントに感激!
「惚れ直した?」
『そっ、そんな事言ってません!///』
「獄寺君トコに貰いに行きな、説明しとくから。」
『はいっ!』
獄寺さんが7号館の会計をやっているそうだ。
やっぱり姑さんみたいだなぁ、と思った。
---
-------
コンコン、
『獄寺さん、柚子です。』
「あぁ、来たか。」
ツナさんをお見送りして食器を洗った後、あたしは獄寺さんの部屋にやって来た。
今日の護衛は山本さんと雲雀さんがするとの事で、獄寺さんは留守番だそうだ。
『あの、今月のお給料なんですけど…』
「10代目から聞いてる。ちょっと座って待ってろ。」
いつもお掃除で入るけど、ソファに座ってまじまじと室内を見回すのは初めてだった。
キョロキョロするあたしに、獄寺さんは戸惑ったような声で言う。
「な、何だよ…!何もねーからな!」
『あ、いえ…ちょっと新鮮な感じがしたので。』
「……そーかよ…」
ぶつぶつ言いながら出費記録を書いている。
そっか、あたしのお給料もボンゴレにとっては出費なんだよね…。
そこでふと、疑問に思った。
『あの、獄寺さん、』
「あ?」
『7号館にとって、あたしのお給料って出費ですよね?』
「…それが何だよ。」
『家政婦雇わないっていう選択肢は無かったんですか?』
あたしが聞くと、獄寺さんは一瞬だけ動きを止めた。
「さぁな、俺は知らねぇ。」
『えーっ…知らないんですかぁー?』
「……柚子は嫌なのかよ、ここの仕事。」
『別にそーゆーワケでは……』
言葉を詰まらせ俯くあたしに、獄寺さんは封筒を差し出した。
「ほらよ。」
『あ、ありがとうございます!』
給料というか、お小遣いのようなものと化している。
何故なら、食費は皆さんのと一緒に纏められちゃってるし、お風呂も使わせてもらってる。
つまりは、携帯代と衣類やコスメくらいにしか、あたしのお給料は使われないのだ。
「何だよ、どした?」
『あ、いえ…』
封筒を見つめながら黙って立ってたあたしに、獄寺さんが歩み寄る。
『家政婦雇わない方が、ボンゴレ的には出費が減るんじゃないかって…』
「柚子の給料ぐれぇ、大したことねーよ。」
獄寺さんは、目の前で大きくため息をつく。
ほんのりと、タバコの香りがした。
「出費増やしてでも、必要なんだよ…」
『え?』
「……何でもねぇ、気にすんな。」
『はぁ…』
変な獄寺さん…
まぁ、気にするなと言われては、気にしない方向でいくしかない。
『じゃあ失礼します。』
部屋を出ようとした、その時。
「おい柚子、」
『はい、何でしょう?』
「今から…その、アレ、買いに行くのか?」
『えぇまぁ…並ぶと思うんですけどね。10時に開くんで、もう結構人がいるかと…』
ふと見たら、獄寺さんは頭を掻いて何やら悩んでいるようだった。
首を傾げて黙っていると、肩をガシッと掴まれて。
「俺も行ってやる。」
………はい!!?
『え、あの……頭打ったんですか!?』
「あぁ!?」
『ひえっ!ご、ごめんなさいっ!でも…あの……』
「るっせ、ほら並びに行くぞ。」
『あ、待って下さいよっ…!』
パッパと片付けてスーツの上着を羽織る獄寺さん。
まさかコスメ販売場所に、スーツでお出かけするおつもりで…!?
「おら柚子、これ持て。」
『ええっ!?』
持たされたのは、バイクのヘルメット。
あ、部屋に予備があったのね…
軽く身支度を済ませ、お財布をカバンに入れ、外に出る。
獄寺さんは、バイクのエンジンをかけてスタンバイしていた。
『ま、まさか本当にそれで…』
「この方が早いだろーが。」
いや、そうですけど……
でも目立つんじゃ…
「いーから早くしろ!」
『はっ、はい!!』
獄寺さんがギンッて睨むもんだから、ビビってピョイッと飛び乗った。
後ろに乗るの、2回目だな……
「ちゃんと掴まってろよ。」
『あ、はいっ。』
う~ん、ちゃんと掴まるって……
恥ずかしいけど……えいっ!
ギュッと抱きついた。
体感風速が、少しだけ落ちる。
背中が大きくて、ガッシリしてて、温かい。
「おい柚子、あの店か?」
『はいっ、ありがとうございます…!』
舌を噛みそうになった。
大きな音を立てて、列の最後尾辺りにバイクが止まる。
当然注目の的になってしまって。
「うわぁー、あの人カッコいい!」
「素敵ーっ!」
「一緒にいる人、彼女かな?」
違うのに、違うのに。
獄寺さんは姑さんみたいに厳しくて、
だけどこんな風に優しくて…
「ほら、降りれるか?柚子。」
『(うわっ…///)』
ふわりと持ち上げられて、降ろされる。
恥ずかしすぎて、思わず赤面してしまった。
厳しくて優しくて、カッコいい獄寺さん。
あたしなんかが一緒にいるのが、勿体ないくらいなの。
「そっちの路地で待ってっから。」
『ありがと…ございます…///』
顔を隠すようにして列に並ぶ。
50分くらい経って、やっと動き出した。
考えていたよりは早く買えたけど、獄寺さんを待たせてしまってる。
指定された路地に走って向かう。
『獄寺さんっ…!』
「あぁ、早かったな。」
『すみません!結局1時間以上もお待たせしてしまって…』
「気にすんな。」
『うっ、』
山本さんとは違う感覚に、思わず声を漏らした。
あたしの頭を押さえつけるように手を乗せる獄寺さん。
『あの、どうして今日…』
「どーでもいーだろ、んな事。」
『良くないですっ!知りたいんです!』
頭から離れた獄寺さんの手を、咄嗟に掴んで引き留めた。
その瞬間、獄寺さんの口から煙草が落ちる。
『あ!ご、ごめんなさいっ…』
「いや…別に……」
いいから早く乗れ、
そう言ってヘルメットを渡す獄寺さん。
あたしが行きと同じように乗ると、エンジン音の中からさっきの問いの答えが、小さく聞こえてきた。
「……護衛、」
『えっ?』
「いちいち危なっかしいんだよ、おめーは……」
照れくささが混じった声色に、何だかドキッとしてしまった。
この人は…本当にいい人なんだなって。
だけどこうして、背を向けないと言葉に出来ないんだな。
頭を撫でるのも、慣れてないからあんな風に少し乱暴なんだな。
『…ふふっ、』
「な、何だよ!!///」
『獄寺さんは、優しくてカッコいいと思いますよ♪』
「なっ……うっせーよ!黙ってねーと舌噛むぞ!!」
『はーい!』
今まで、獄寺さんの周りには壁があるように思ってた。
時々優しいけれど、何処か隔たりがあるような。
でも今日、そんな壁は無いのかもと思えて。
獄寺さんはきっと、人と接するのが少しだけ苦手なんだなって。
そう考えたら、案外可愛い人なのかもって。
とりあえず、7号館に着くまでは黙って掴まっていた。
---
-----
------------
新作コスメの中で目を付けていたルージュは買えた。
早速フタを開けて、軽く塗ってみる。
『(やっぱり良い色~♪)』
ちょっとご機嫌な状態で、その日の家政婦業をこなした。
夕方、ツナさんと2人でレストランに向かった。
予約していた席は2人分だったみたいで、運転をしていた獄寺さんはそのまま引き返してしまった。
『(どうせなら獄寺さんも一緒に召しあがっていけばいいのになぁ…)』
滅多に食べれなさそうなフレンチを前に、そう思う。
すると、その考えを読み取ったのか、ツナさんがムッとしながら言った。
「俺は柚子と2人がいいんだよ。」
『なっ…!ですからプレイボーイ発言自粛して下さいっ。』
「で、買えた?新作コスメ。」
『はい、おかげさまで♪そうそう、獄寺さんがお買い物に付き合ってくれたんですよ!』
「ふーん、そうなんだ…」
ツナさんは数秒何か考えてから、別の質問をする。
「今つけてるヤツ?」
『えっ!?あ、分かったんですか…?』
「当たり前だろ。柚子は、俺のなんだから。」
いつもの横暴発言&腹黒スマイルに、その時何故かドキッとしてしまって。
違う違う、落ち着けあたし!
こーゆー時はビクッとするべき!
どうせ、“俺の家政婦”って意味なんだから!
『にしても、凄いですね。見分けつくなんて。前のと結構似てる色なんですけど…』
「似てるけど、違うよ。」
『え…?』
「今の柚子は、前より綺麗だから。」
あぁどうして、
こんな時ばかり普通に笑ってくれるの?
それだけじゃ、無い。
どうしてあたし……
さっきから、鼓動の速度が元に戻らないの?
何だか頭がぐちゃぐちゃして、俯いた。
2、3回の深呼吸で、自分を落ち着かせる。
「柚子?」
『何でもないです……。』
あたしには、勿体ない人達だから。
いずれは、サヨナラを告げる別世界の人達だから。
そう思った瞬間、息が詰まるような感じがして。
お料理が、ほんの少し喉を通りにくくなった。
ルージュ
この日々が、艶やかな紅色の思い出になってしまうのが寂しすぎて
continue...
「おはよう柚子。」
『コーヒーどうぞ、朝食も今できました。』
「あぁ、ありがとう。」
『今日もお仕事ですか?』
「うん、ちょっとある組織潰しに。」
『あのっ、でしたら折り畳み傘持ってって下さいね。午後の降水確率70%なので…』
「あのさ、柚子、」
『はいっ!』
「何が欲しいんだよ?」
ぎくっ、
『な、何言ってるんですか?別にあたしは…』
「読心術使ってあげてもいいけど。」
『ごめんなさいすみません許して下さい!!』
うわぁん!やっぱりダメだった…
ツナさんのご機嫌を取るのは難しいようです。
「へぇー、ご機嫌取ってどうするつもり?」
『あのですね……って、読まないで下さい!』
「聞こえた。で?」
コーヒーを啜りながらあたしの顔を覗き込むツナさん。
お盆を握りしめて言おうかどうか迷う。
えーい!こうなったらダメもとで…!
『あのですねっ、』
「うん。」
『新作コスメが欲しいんです!』
「買って欲しいワケ?」
『ちっ、違いますよ!いくらなんでもそんな……』
これ以上ボンゴレファミリーに借金するワケにはいかないし。
今回のあたしの頼みは、というと…
『お給料、ちょっと早めに貰いたいんです…けど……』
「あぁ、そんなことか。」
『いいんですかっ!?』
「いいけど、条件付き♪」
見せられた腹黒スマイルに、思わず一歩引いた。
つ、ツナさんのことだ。
横暴腹黒意地悪ボスのツナさんが、
生半可な条件を出すハズがない…!
「今日の午後6時から0時まで、俺に付き合えよ。」
『………え?』
割と普通(?)な条件だった。
『そ、それだけですか…?』
「何?もっと束縛されたいワケ?」
『違います!!そーじゃありません!!』
サラッととんでもない事を言うツナさんに、気を取り直して聞きなおす。
『ツナさん、夜にお出かけでもするんですか?雨降るかもしれないのに…』
「うん、柚子と夕食行こうかと思って。」
『へ…?』
「組織潰しは昼過ぎには終わると思うから、今日は柚子とゆっくり過ごしたいなってさ。」
『そ、それって……』
デート、じゃないですか…///
てゆーか言い回しが既に付き合ってる設定みたいになってるし…。
でもまぁ、一緒にお出かけするくらいなら…いいかな?
『分かりました、ご一緒します。お給料下さるんですか?』
「いいよ。」
や…やったぁ!!
言ってみるもんだなぁ♪
『ありがとうございますツナさんっ!!』
新作コスメは割と前から雑誌でも取り上げられてて、結構な人気があると思う。
だから、発売日に売り切れちゃうんじゃないかと不安になったのだ。
ツナさんが(条件付きとはいえ)こんなにあっさり許してくれるなんて、ホントに感激!
「惚れ直した?」
『そっ、そんな事言ってません!///』
「獄寺君トコに貰いに行きな、説明しとくから。」
『はいっ!』
獄寺さんが7号館の会計をやっているそうだ。
やっぱり姑さんみたいだなぁ、と思った。
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コンコン、
『獄寺さん、柚子です。』
「あぁ、来たか。」
ツナさんをお見送りして食器を洗った後、あたしは獄寺さんの部屋にやって来た。
今日の護衛は山本さんと雲雀さんがするとの事で、獄寺さんは留守番だそうだ。
『あの、今月のお給料なんですけど…』
「10代目から聞いてる。ちょっと座って待ってろ。」
いつもお掃除で入るけど、ソファに座ってまじまじと室内を見回すのは初めてだった。
キョロキョロするあたしに、獄寺さんは戸惑ったような声で言う。
「な、何だよ…!何もねーからな!」
『あ、いえ…ちょっと新鮮な感じがしたので。』
「……そーかよ…」
ぶつぶつ言いながら出費記録を書いている。
そっか、あたしのお給料もボンゴレにとっては出費なんだよね…。
そこでふと、疑問に思った。
『あの、獄寺さん、』
「あ?」
『7号館にとって、あたしのお給料って出費ですよね?』
「…それが何だよ。」
『家政婦雇わないっていう選択肢は無かったんですか?』
あたしが聞くと、獄寺さんは一瞬だけ動きを止めた。
「さぁな、俺は知らねぇ。」
『えーっ…知らないんですかぁー?』
「……柚子は嫌なのかよ、ここの仕事。」
『別にそーゆーワケでは……』
言葉を詰まらせ俯くあたしに、獄寺さんは封筒を差し出した。
「ほらよ。」
『あ、ありがとうございます!』
給料というか、お小遣いのようなものと化している。
何故なら、食費は皆さんのと一緒に纏められちゃってるし、お風呂も使わせてもらってる。
つまりは、携帯代と衣類やコスメくらいにしか、あたしのお給料は使われないのだ。
「何だよ、どした?」
『あ、いえ…』
封筒を見つめながら黙って立ってたあたしに、獄寺さんが歩み寄る。
『家政婦雇わない方が、ボンゴレ的には出費が減るんじゃないかって…』
「柚子の給料ぐれぇ、大したことねーよ。」
獄寺さんは、目の前で大きくため息をつく。
ほんのりと、タバコの香りがした。
「出費増やしてでも、必要なんだよ…」
『え?』
「……何でもねぇ、気にすんな。」
『はぁ…』
変な獄寺さん…
まぁ、気にするなと言われては、気にしない方向でいくしかない。
『じゃあ失礼します。』
部屋を出ようとした、その時。
「おい柚子、」
『はい、何でしょう?』
「今から…その、アレ、買いに行くのか?」
『えぇまぁ…並ぶと思うんですけどね。10時に開くんで、もう結構人がいるかと…』
ふと見たら、獄寺さんは頭を掻いて何やら悩んでいるようだった。
首を傾げて黙っていると、肩をガシッと掴まれて。
「俺も行ってやる。」
………はい!!?
『え、あの……頭打ったんですか!?』
「あぁ!?」
『ひえっ!ご、ごめんなさいっ!でも…あの……』
「るっせ、ほら並びに行くぞ。」
『あ、待って下さいよっ…!』
パッパと片付けてスーツの上着を羽織る獄寺さん。
まさかコスメ販売場所に、スーツでお出かけするおつもりで…!?
「おら柚子、これ持て。」
『ええっ!?』
持たされたのは、バイクのヘルメット。
あ、部屋に予備があったのね…
軽く身支度を済ませ、お財布をカバンに入れ、外に出る。
獄寺さんは、バイクのエンジンをかけてスタンバイしていた。
『ま、まさか本当にそれで…』
「この方が早いだろーが。」
いや、そうですけど……
でも目立つんじゃ…
「いーから早くしろ!」
『はっ、はい!!』
獄寺さんがギンッて睨むもんだから、ビビってピョイッと飛び乗った。
後ろに乗るの、2回目だな……
「ちゃんと掴まってろよ。」
『あ、はいっ。』
う~ん、ちゃんと掴まるって……
恥ずかしいけど……えいっ!
ギュッと抱きついた。
体感風速が、少しだけ落ちる。
背中が大きくて、ガッシリしてて、温かい。
「おい柚子、あの店か?」
『はいっ、ありがとうございます…!』
舌を噛みそうになった。
大きな音を立てて、列の最後尾辺りにバイクが止まる。
当然注目の的になってしまって。
「うわぁー、あの人カッコいい!」
「素敵ーっ!」
「一緒にいる人、彼女かな?」
違うのに、違うのに。
獄寺さんは姑さんみたいに厳しくて、
だけどこんな風に優しくて…
「ほら、降りれるか?柚子。」
『(うわっ…///)』
ふわりと持ち上げられて、降ろされる。
恥ずかしすぎて、思わず赤面してしまった。
厳しくて優しくて、カッコいい獄寺さん。
あたしなんかが一緒にいるのが、勿体ないくらいなの。
「そっちの路地で待ってっから。」
『ありがと…ございます…///』
顔を隠すようにして列に並ぶ。
50分くらい経って、やっと動き出した。
考えていたよりは早く買えたけど、獄寺さんを待たせてしまってる。
指定された路地に走って向かう。
『獄寺さんっ…!』
「あぁ、早かったな。」
『すみません!結局1時間以上もお待たせしてしまって…』
「気にすんな。」
『うっ、』
山本さんとは違う感覚に、思わず声を漏らした。
あたしの頭を押さえつけるように手を乗せる獄寺さん。
『あの、どうして今日…』
「どーでもいーだろ、んな事。」
『良くないですっ!知りたいんです!』
頭から離れた獄寺さんの手を、咄嗟に掴んで引き留めた。
その瞬間、獄寺さんの口から煙草が落ちる。
『あ!ご、ごめんなさいっ…』
「いや…別に……」
いいから早く乗れ、
そう言ってヘルメットを渡す獄寺さん。
あたしが行きと同じように乗ると、エンジン音の中からさっきの問いの答えが、小さく聞こえてきた。
「……護衛、」
『えっ?』
「いちいち危なっかしいんだよ、おめーは……」
照れくささが混じった声色に、何だかドキッとしてしまった。
この人は…本当にいい人なんだなって。
だけどこうして、背を向けないと言葉に出来ないんだな。
頭を撫でるのも、慣れてないからあんな風に少し乱暴なんだな。
『…ふふっ、』
「な、何だよ!!///」
『獄寺さんは、優しくてカッコいいと思いますよ♪』
「なっ……うっせーよ!黙ってねーと舌噛むぞ!!」
『はーい!』
今まで、獄寺さんの周りには壁があるように思ってた。
時々優しいけれど、何処か隔たりがあるような。
でも今日、そんな壁は無いのかもと思えて。
獄寺さんはきっと、人と接するのが少しだけ苦手なんだなって。
そう考えたら、案外可愛い人なのかもって。
とりあえず、7号館に着くまでは黙って掴まっていた。
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新作コスメの中で目を付けていたルージュは買えた。
早速フタを開けて、軽く塗ってみる。
『(やっぱり良い色~♪)』
ちょっとご機嫌な状態で、その日の家政婦業をこなした。
夕方、ツナさんと2人でレストランに向かった。
予約していた席は2人分だったみたいで、運転をしていた獄寺さんはそのまま引き返してしまった。
『(どうせなら獄寺さんも一緒に召しあがっていけばいいのになぁ…)』
滅多に食べれなさそうなフレンチを前に、そう思う。
すると、その考えを読み取ったのか、ツナさんがムッとしながら言った。
「俺は柚子と2人がいいんだよ。」
『なっ…!ですからプレイボーイ発言自粛して下さいっ。』
「で、買えた?新作コスメ。」
『はい、おかげさまで♪そうそう、獄寺さんがお買い物に付き合ってくれたんですよ!』
「ふーん、そうなんだ…」
ツナさんは数秒何か考えてから、別の質問をする。
「今つけてるヤツ?」
『えっ!?あ、分かったんですか…?』
「当たり前だろ。柚子は、俺のなんだから。」
いつもの横暴発言&腹黒スマイルに、その時何故かドキッとしてしまって。
違う違う、落ち着けあたし!
こーゆー時はビクッとするべき!
どうせ、“俺の家政婦”って意味なんだから!
『にしても、凄いですね。見分けつくなんて。前のと結構似てる色なんですけど…』
「似てるけど、違うよ。」
『え…?』
「今の柚子は、前より綺麗だから。」
あぁどうして、
こんな時ばかり普通に笑ってくれるの?
それだけじゃ、無い。
どうしてあたし……
さっきから、鼓動の速度が元に戻らないの?
何だか頭がぐちゃぐちゃして、俯いた。
2、3回の深呼吸で、自分を落ち着かせる。
「柚子?」
『何でもないです……。』
あたしには、勿体ない人達だから。
いずれは、サヨナラを告げる別世界の人達だから。
そう思った瞬間、息が詰まるような感じがして。
お料理が、ほんの少し喉を通りにくくなった。
ルージュ
この日々が、艶やかな紅色の思い出になってしまうのが寂しすぎて
continue...