🎼本編
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おはようございます、柚子です。
只今あたし、どういうワケか……
骸さんの部屋の前に居ます。
『(どーしよ……本気で嫌だ…)』
昨日、リボーンさんの鬼特訓を深夜1時半まで受けて、
今日とんでもない予定を聞かされたんです。
---「俺は今日仕事があるから、骸に教えてもらえ。」
---『………え?』
チャッ、
---「聞こえなかったか?」
---『いえいえいえ!聞こえましたけども!!てゆーか銃向けないで下さいっ!!』
---「不満なのか?」
不満というよりは、危機感が……
骸さん、何か変なこと教えそうで怖い……
---「つーワケで、骸んトコ行けよ。俺は仕事に行く。」
---『い、行ってらっしゃいませ……』
『はぁ……』
どうしよう、超ブルーなんですけど。
とりあえず、ドアをノックしない事には何も始まらない。
練習しなくちゃいけないんだ。
覚悟を決めて、拳を軽く打ち付けた。
コンコン、
「クフフフフフ……」
あ、ダメだ。
もう無理かもしんない。
ゆっくりと、ちんまりと開かれる部屋のドア。
そして、顔を半分だけ覗かせる部屋の主。
「おはようございます、僕の柚子。」
『お、おはよーございます……』
「今日はとってもいい天気ですね、デートしましょうか。」
『いえ、あの、コンクールの練習……』
いきなり何を言うのか、この人は。
リボーンさんから話を聞いてるハズなんだけどな…
「そうでしたね。任せて下さい!僕が柚子に手取り足取り教えれば、必ずや通過するでしょう!!」
『(急にテンション上がったーーー!!?)』
意味分からない、ついていけない。
リボーンさん、早くもギブミーヘルプです。
「ではではっ、行きましょう!」
『わっ…』
ビオラケースを持った骸さんは、あたしの手を引いて走り出した。
階段を駆け上がって、演奏室へ。
『骸さん、教える立場とか出来るんですか…?』
「クフ?」
すんごく失礼なことを聞いてると思う。
だけど、不安なんだもの。
やっぱり聞いておかなくちゃって思って。
「心配いりませんよ、僕の柚子。」
『あの、その……“僕の”ってのは付けない方向でお願い出来ませんか…。』
「僕のを僕のと言って、何が悪いんですか??」
いやそんな、心底不思議そうな顔されても…!!
あーもう、いいや。
今日はスルーしとこう…。
『それで、大丈夫なんですか?』
「アルコバレーノが僕に任せた、それだけで信用度は上がりませんか?」
『あ………』
確かにそうかもしんない……
いや、でも獄寺さんとかいるじゃん!
今日仕事が入ってるのはリボーンさんとツナさんとバジルさんと雲雀さんで、
山本さんと了平さんは授業とかトレーニングがある。
つまり、獄寺さんはこの7号館にいるんだ!!
なのにどーして骸さん!?
「では、始めましょう。通して弾く事は?」
『あ、楽譜見れば…何とか……』
昨日のリボーンさんの鬼特訓でメインフレーズは覚えたし、
他のトコも大体のメロディーは掴んでるから。
「でしたら、一度通してみて下さい。僕は細かい強弱などを直していきますから。」
『(おお……)』
何だか、大丈夫っぽい!
てゆーか今ちょっとだけ頼もしく思った!
編曲の才能あるし、骸さんは意外と教える立場に向いてるのかも。
『じゃ、始めますっ。』
ライネッケのフルートソナタ『ウンディーネ』の第1楽章(Allegro)
全体的に優美な旋律。
ところどころ、指使いが難しいトコがあるけど、昨日の鬼特訓のおかげで転ばなかった。
本番前には、主催者側が用意したピアノさんと音合わせが出来るみたい。
楽譜を見る限り、ピアノさんも指が転ぶんじゃないかと思うような箇所がある。
『……ど、どうでしょう…?』
「そうですね、大体は出来てますよ。」
スッと立ち上がった骸さんは、あたしの方に歩み寄る。
胸ポケットからシャーペンを取り出し、楽譜を差して言った。
「ただ、ここの強弱をもう少し激しくするのと……」
『はいっ。』
何か…不思議だな。
説明されてる最中だけど、チラリと横目で骸さんを見てみる。
『(睫毛長っ…)』
改めて意識して見ると、やっぱり彼も美人さんで。
あたし今、美人さんと2人きりなんだなぁ……なんて恥ずかしいこと考えちゃったりする。
「…どうかしました?柚子。」
『あ、いえっ…///』
「おや、赤面ですか?僕に見とれてましたか?」
『違いますっ!!!』
んもーっ、ツナさんといい骸さんといい…
何でこう自信満々でそんなコト聞いて来るんだろ。
「クフフ…柚子は本当に可愛いですね。」
『なっ…!///』
だから!
そーゆー事をナチュラルに言うもんじゃないんですって!!
日本人はもっと謙虚であるべき!!
「では、もう一度どうぞ。」
『(うぅ……)…はい……』
骸さんに言われた事を思い出しながら、もう一度フルートに息を吹き込む。
練習じゃなくて、本番で吹いてるみたいに。
さっきより、うまく感情が込められるように。
約5分間の演奏の後、骸さんは拍手してくれた。
「さすが僕の柚子!始めよりかなり良くなりました!!」
『あ、ありがとうございますっ。』
それから、更に細かい強弱やテンポを遅らせるポイントなど、骸さんは思っていたより真面目に教えてくれた。
---
-----
------------
『……こんな感じでどうでしょうっ?』
「とてもいい旋律です、上達しましたね。」
『やった!』
骸さん、変態モードじゃなかったらこんなに優しくて素敵な人なのにな…
そんな事を頭の隅で考えながら、褒め言葉にピョイッと飛び跳ねる。
「もう2時間半も経ちましたね……少し休憩しましょうか。」
『ありがとうございますっ!じゃああたし、飲み物お持ちしますね、何がいいですか?』
「僕のオレンジジュースを…」
出た。
どーして味覚が微妙に子供なんだろ…。
『かしこまりました、すぐお持ちしますね。』
階段を駆け下りて、1階のキッチンへ。
と、冷蔵庫の前に人影。
『獄寺さん?』
「あぁ、柚子か。」
『どうしたんですか?』
「べ、別に何でも…」
ぐ~~~っ…
『………サンドウィッチでも作りましょうか?』
朝食、抜いちゃったのかな…?
バジルさんがしっかり作ってるって聞いたんだけど…
「湯葉だったんだよ……」
『へ?』
「だから腹持ち悪いっつーか…足りなかったっつーか…」
…ちょっと意外。
獄寺さんは、低血圧で朝弱くて少食なイメージだった。
「た、頼んでいーか?柚子…」
『あ、はいっ!えとじゃあ…ちょっと待ってて下さいっ!』
まずは骸さんにオレンジジュースを持っていく。
階段駆け上がって、少し疲れた。
「おや、早かったですね。ありがとうございま…」
『ちょっと失礼します!すぐ戻りますから!』
「僕の柚子ーっ!!?」
またまた階段を駆け下りて、獄寺さんの待つキッチンへ。
『具は何でもいいですか?』
「ああ。」
生ハムと、野菜を挟む。
卵もパパッと用意して。
あとは…明太子ソース、とかでいっかな?
『はいっ、どーぞ!』
「お、おぉ…」
お皿ごと獄寺さんに渡して、演奏室に戻ろうとする。
けど、ぐいっと手を引かれて。
『へっ…?』
「柚子、その……あんがと、な。」
『あ、はい…』
ほんの少し照れくさそうに目を逸らす獄寺さんを見たら、
何だかあたしの顔の熱も上がっちゃうような気がした。
「が、頑張れよ…練習。」
『はいっ、頑張りますっ♪』
昨日のツナさんも、今日の獄寺さんも、何やかんやで応援してくれる。
それが、とっても幸せだなって感じる。
『(よーし、頑張るぞっ!)』
獄寺さんにも応援されたし、と意気込んで演奏室の扉を開ける。
と、そこには…
「うぅっ…うぅっ……」
『(ぎょえ。)』
何故か、骸さんが泣きながらオレンジジュースを飲んでいた。
『あ、あのー……』
ビクッ、
『骸、さん…?』
呼びかけに体を跳ねさせる骸さん。
ゆっくりとあたしの方を向いて、オレンジジュースを置いた。
「な…何故ですか柚子ーーっ!!!僕は独りで…寂しかったんですからねーーっ!!!」
『きゃああああ!!!』
タックルされそうになったから、慌てて避ける。
骸さんは真直ぐ壁に激突した。
『あ……大丈夫、ですか…?』
「うぅっ…」
『えと、ごめんなさい。獄寺さんがお腹空かせてたので…』
「あぁ、そう言えば彼はココに残ってたんですね……」
忘れてたのか!!
ともあれ、ちゃんと理由を話したら骸さんは泣き止んだ。
「ところで柚子、」
『何ですか?』
「長い時間頑張った柚子に、僕からご褒美をと思いまして。」
ズザァッ……
「な…何で椅子を引くんですか!そんなやましい事はしないとも言い切りませんが!!」
『言い切って下さい!!』
「今回はしません!」
微妙な限定だなぁ……まぁいっか。
『それで、何を…』
「クフフ……これです。」
骸さんは、自分のビオラをじゃじゃん!と見せる。
「実は、新たに編曲してみたのがありましてね。柚子に、それを1番最初に聞いて欲しいと思いまして。」
『あたし、に……?』
何を編曲したんだろう…
骸さんは編曲上手いしなぁ…
ビオラをスッと構えて、一呼吸する骸さん。
「では、弾きますね。」
パチパチ…
始まりの拍手を送る。
そして、弦に弓が触れた。
『(この曲……)』
聞いた事がある。
でも、確かピアノ曲じゃなかったっけ…?
ブラームスが作曲した、『2つのラプソディ』……
激しい強弱と、流れるような旋律。
思わず、目を閉じたくなってしまうような音色。
音は、心がこもる程膨らんでいくもの。
あたしは父に、そう教わった。
骸さんのこのビオラを聞いていると、何だか涙が溢れそうになる。
この曲は確か、ブラームスが元弟子とその妻に捧げた曲。
以前、何かの講演会で聞いた時は、ほんの少しの寂しさが見え隠れしていた。
だけど、何でだろう。
今聞いている音達は、もっとバレないように、寂しさを訴えてる。
『(骸、さん……?)』
目を閉じて、穏やかに演奏する骸さん。
「大丈夫ですよ」と言われているようで、胸が苦しくなる。
何だろう……この、感覚…
いつもだったら、『編曲が素晴らしいな』って思って、終わるハズなのに。
骸さんの、心がこもった音。
青より、もっと深い空気が漂って………
「………どうでした?」
何も、言えなかった。
何も言えないあたしは、ただ、涙を流した。
「柚子?」
少し驚きつつ近づいて来る骸さんの袖を、握る。
『骸さんっ……何でそんな音、なんですかっ…?』
「僕の、音…?」
『まるで、骸さんがっ……どっか行っちゃうみたいでっ……』
穏やかに笑いながら、
「またいつか」って言いながら、
二度と帰って来ないような、そんな旋律。
『編曲、上手過ぎるんですっ…!妙に感情移入しちゃって……あたしっ…』
「すみません、」
抱きしめられたのに、抵抗出来なかった。
髪を撫でるその感触が、優しくて寂し過ぎて。
「柚子への音に、隠し事は出来ないようですね……」
『へ…?』
「柚子が感じ取ったその音は多分、僕の本心ですよ。」
どっか行っちゃうのかと、思った。
それは嫌だって、思った。
だから、優しくあたしを包む骸さんに、更に涙した。
『目、洗って来ますっ…!』
「おや、ついていきましょうか?」
『女子トイレですっ!!』
グッと立ち上がって、演奏室を飛び出した。
その時はもう、骸さんの笑顔はヘンタイスマイルに戻っていた。
ラプソディ
元標的とその婚約者へ贈る、複雑過ぎる藍色の想い
continue...
只今あたし、どういうワケか……
骸さんの部屋の前に居ます。
『(どーしよ……本気で嫌だ…)』
昨日、リボーンさんの鬼特訓を深夜1時半まで受けて、
今日とんでもない予定を聞かされたんです。
---「俺は今日仕事があるから、骸に教えてもらえ。」
---『………え?』
チャッ、
---「聞こえなかったか?」
---『いえいえいえ!聞こえましたけども!!てゆーか銃向けないで下さいっ!!』
---「不満なのか?」
不満というよりは、危機感が……
骸さん、何か変なこと教えそうで怖い……
---「つーワケで、骸んトコ行けよ。俺は仕事に行く。」
---『い、行ってらっしゃいませ……』
『はぁ……』
どうしよう、超ブルーなんですけど。
とりあえず、ドアをノックしない事には何も始まらない。
練習しなくちゃいけないんだ。
覚悟を決めて、拳を軽く打ち付けた。
コンコン、
「クフフフフフ……」
あ、ダメだ。
もう無理かもしんない。
ゆっくりと、ちんまりと開かれる部屋のドア。
そして、顔を半分だけ覗かせる部屋の主。
「おはようございます、僕の柚子。」
『お、おはよーございます……』
「今日はとってもいい天気ですね、デートしましょうか。」
『いえ、あの、コンクールの練習……』
いきなり何を言うのか、この人は。
リボーンさんから話を聞いてるハズなんだけどな…
「そうでしたね。任せて下さい!僕が柚子に手取り足取り教えれば、必ずや通過するでしょう!!」
『(急にテンション上がったーーー!!?)』
意味分からない、ついていけない。
リボーンさん、早くもギブミーヘルプです。
「ではではっ、行きましょう!」
『わっ…』
ビオラケースを持った骸さんは、あたしの手を引いて走り出した。
階段を駆け上がって、演奏室へ。
『骸さん、教える立場とか出来るんですか…?』
「クフ?」
すんごく失礼なことを聞いてると思う。
だけど、不安なんだもの。
やっぱり聞いておかなくちゃって思って。
「心配いりませんよ、僕の柚子。」
『あの、その……“僕の”ってのは付けない方向でお願い出来ませんか…。』
「僕のを僕のと言って、何が悪いんですか??」
いやそんな、心底不思議そうな顔されても…!!
あーもう、いいや。
今日はスルーしとこう…。
『それで、大丈夫なんですか?』
「アルコバレーノが僕に任せた、それだけで信用度は上がりませんか?」
『あ………』
確かにそうかもしんない……
いや、でも獄寺さんとかいるじゃん!
今日仕事が入ってるのはリボーンさんとツナさんとバジルさんと雲雀さんで、
山本さんと了平さんは授業とかトレーニングがある。
つまり、獄寺さんはこの7号館にいるんだ!!
なのにどーして骸さん!?
「では、始めましょう。通して弾く事は?」
『あ、楽譜見れば…何とか……』
昨日のリボーンさんの鬼特訓でメインフレーズは覚えたし、
他のトコも大体のメロディーは掴んでるから。
「でしたら、一度通してみて下さい。僕は細かい強弱などを直していきますから。」
『(おお……)』
何だか、大丈夫っぽい!
てゆーか今ちょっとだけ頼もしく思った!
編曲の才能あるし、骸さんは意外と教える立場に向いてるのかも。
『じゃ、始めますっ。』
ライネッケのフルートソナタ『ウンディーネ』の第1楽章(Allegro)
全体的に優美な旋律。
ところどころ、指使いが難しいトコがあるけど、昨日の鬼特訓のおかげで転ばなかった。
本番前には、主催者側が用意したピアノさんと音合わせが出来るみたい。
楽譜を見る限り、ピアノさんも指が転ぶんじゃないかと思うような箇所がある。
『……ど、どうでしょう…?』
「そうですね、大体は出来てますよ。」
スッと立ち上がった骸さんは、あたしの方に歩み寄る。
胸ポケットからシャーペンを取り出し、楽譜を差して言った。
「ただ、ここの強弱をもう少し激しくするのと……」
『はいっ。』
何か…不思議だな。
説明されてる最中だけど、チラリと横目で骸さんを見てみる。
『(睫毛長っ…)』
改めて意識して見ると、やっぱり彼も美人さんで。
あたし今、美人さんと2人きりなんだなぁ……なんて恥ずかしいこと考えちゃったりする。
「…どうかしました?柚子。」
『あ、いえっ…///』
「おや、赤面ですか?僕に見とれてましたか?」
『違いますっ!!!』
んもーっ、ツナさんといい骸さんといい…
何でこう自信満々でそんなコト聞いて来るんだろ。
「クフフ…柚子は本当に可愛いですね。」
『なっ…!///』
だから!
そーゆー事をナチュラルに言うもんじゃないんですって!!
日本人はもっと謙虚であるべき!!
「では、もう一度どうぞ。」
『(うぅ……)…はい……』
骸さんに言われた事を思い出しながら、もう一度フルートに息を吹き込む。
練習じゃなくて、本番で吹いてるみたいに。
さっきより、うまく感情が込められるように。
約5分間の演奏の後、骸さんは拍手してくれた。
「さすが僕の柚子!始めよりかなり良くなりました!!」
『あ、ありがとうございますっ。』
それから、更に細かい強弱やテンポを遅らせるポイントなど、骸さんは思っていたより真面目に教えてくれた。
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『……こんな感じでどうでしょうっ?』
「とてもいい旋律です、上達しましたね。」
『やった!』
骸さん、変態モードじゃなかったらこんなに優しくて素敵な人なのにな…
そんな事を頭の隅で考えながら、褒め言葉にピョイッと飛び跳ねる。
「もう2時間半も経ちましたね……少し休憩しましょうか。」
『ありがとうございますっ!じゃああたし、飲み物お持ちしますね、何がいいですか?』
「僕のオレンジジュースを…」
出た。
どーして味覚が微妙に子供なんだろ…。
『かしこまりました、すぐお持ちしますね。』
階段を駆け下りて、1階のキッチンへ。
と、冷蔵庫の前に人影。
『獄寺さん?』
「あぁ、柚子か。」
『どうしたんですか?』
「べ、別に何でも…」
ぐ~~~っ…
『………サンドウィッチでも作りましょうか?』
朝食、抜いちゃったのかな…?
バジルさんがしっかり作ってるって聞いたんだけど…
「湯葉だったんだよ……」
『へ?』
「だから腹持ち悪いっつーか…足りなかったっつーか…」
…ちょっと意外。
獄寺さんは、低血圧で朝弱くて少食なイメージだった。
「た、頼んでいーか?柚子…」
『あ、はいっ!えとじゃあ…ちょっと待ってて下さいっ!』
まずは骸さんにオレンジジュースを持っていく。
階段駆け上がって、少し疲れた。
「おや、早かったですね。ありがとうございま…」
『ちょっと失礼します!すぐ戻りますから!』
「僕の柚子ーっ!!?」
またまた階段を駆け下りて、獄寺さんの待つキッチンへ。
『具は何でもいいですか?』
「ああ。」
生ハムと、野菜を挟む。
卵もパパッと用意して。
あとは…明太子ソース、とかでいっかな?
『はいっ、どーぞ!』
「お、おぉ…」
お皿ごと獄寺さんに渡して、演奏室に戻ろうとする。
けど、ぐいっと手を引かれて。
『へっ…?』
「柚子、その……あんがと、な。」
『あ、はい…』
ほんの少し照れくさそうに目を逸らす獄寺さんを見たら、
何だかあたしの顔の熱も上がっちゃうような気がした。
「が、頑張れよ…練習。」
『はいっ、頑張りますっ♪』
昨日のツナさんも、今日の獄寺さんも、何やかんやで応援してくれる。
それが、とっても幸せだなって感じる。
『(よーし、頑張るぞっ!)』
獄寺さんにも応援されたし、と意気込んで演奏室の扉を開ける。
と、そこには…
「うぅっ…うぅっ……」
『(ぎょえ。)』
何故か、骸さんが泣きながらオレンジジュースを飲んでいた。
『あ、あのー……』
ビクッ、
『骸、さん…?』
呼びかけに体を跳ねさせる骸さん。
ゆっくりとあたしの方を向いて、オレンジジュースを置いた。
「な…何故ですか柚子ーーっ!!!僕は独りで…寂しかったんですからねーーっ!!!」
『きゃああああ!!!』
タックルされそうになったから、慌てて避ける。
骸さんは真直ぐ壁に激突した。
『あ……大丈夫、ですか…?』
「うぅっ…」
『えと、ごめんなさい。獄寺さんがお腹空かせてたので…』
「あぁ、そう言えば彼はココに残ってたんですね……」
忘れてたのか!!
ともあれ、ちゃんと理由を話したら骸さんは泣き止んだ。
「ところで柚子、」
『何ですか?』
「長い時間頑張った柚子に、僕からご褒美をと思いまして。」
ズザァッ……
「な…何で椅子を引くんですか!そんなやましい事はしないとも言い切りませんが!!」
『言い切って下さい!!』
「今回はしません!」
微妙な限定だなぁ……まぁいっか。
『それで、何を…』
「クフフ……これです。」
骸さんは、自分のビオラをじゃじゃん!と見せる。
「実は、新たに編曲してみたのがありましてね。柚子に、それを1番最初に聞いて欲しいと思いまして。」
『あたし、に……?』
何を編曲したんだろう…
骸さんは編曲上手いしなぁ…
ビオラをスッと構えて、一呼吸する骸さん。
「では、弾きますね。」
パチパチ…
始まりの拍手を送る。
そして、弦に弓が触れた。
『(この曲……)』
聞いた事がある。
でも、確かピアノ曲じゃなかったっけ…?
ブラームスが作曲した、『2つのラプソディ』……
激しい強弱と、流れるような旋律。
思わず、目を閉じたくなってしまうような音色。
音は、心がこもる程膨らんでいくもの。
あたしは父に、そう教わった。
骸さんのこのビオラを聞いていると、何だか涙が溢れそうになる。
この曲は確か、ブラームスが元弟子とその妻に捧げた曲。
以前、何かの講演会で聞いた時は、ほんの少しの寂しさが見え隠れしていた。
だけど、何でだろう。
今聞いている音達は、もっとバレないように、寂しさを訴えてる。
『(骸、さん……?)』
目を閉じて、穏やかに演奏する骸さん。
「大丈夫ですよ」と言われているようで、胸が苦しくなる。
何だろう……この、感覚…
いつもだったら、『編曲が素晴らしいな』って思って、終わるハズなのに。
骸さんの、心がこもった音。
青より、もっと深い空気が漂って………
「………どうでした?」
何も、言えなかった。
何も言えないあたしは、ただ、涙を流した。
「柚子?」
少し驚きつつ近づいて来る骸さんの袖を、握る。
『骸さんっ……何でそんな音、なんですかっ…?』
「僕の、音…?」
『まるで、骸さんがっ……どっか行っちゃうみたいでっ……』
穏やかに笑いながら、
「またいつか」って言いながら、
二度と帰って来ないような、そんな旋律。
『編曲、上手過ぎるんですっ…!妙に感情移入しちゃって……あたしっ…』
「すみません、」
抱きしめられたのに、抵抗出来なかった。
髪を撫でるその感触が、優しくて寂し過ぎて。
「柚子への音に、隠し事は出来ないようですね……」
『へ…?』
「柚子が感じ取ったその音は多分、僕の本心ですよ。」
どっか行っちゃうのかと、思った。
それは嫌だって、思った。
だから、優しくあたしを包む骸さんに、更に涙した。
『目、洗って来ますっ…!』
「おや、ついていきましょうか?」
『女子トイレですっ!!』
グッと立ち上がって、演奏室を飛び出した。
その時はもう、骸さんの笑顔はヘンタイスマイルに戻っていた。
ラプソディ
元標的とその婚約者へ贈る、複雑過ぎる藍色の想い
continue...