🎼本編
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一通り練習が終わって、多分もう大丈夫。
『フゥ太君っ、バイオリンすっごく上手だね!』
「ホント!?柚子姉に褒めてもらえるなんて、嬉しいなぁ。」
「柚子~っ!俺っちは!?」
『ランボ君も上手だったよ、シンバル。』
「ガハハハハ!当然だもんね!!」
やっぱり年下は可愛いなぁ、と癒されていたその時。
控え室のドアが開いた。
「失礼、いいかしら?」
「ちゃおっス、ビアンキ。」
「リボーン!!」
ぎゅっ、
『(わぁ…!///)』
日本人離れした髪の色と顔立ち、且つスタイル抜群の女の人が、入室した途端リボーンさんに抱きついた。
幸せそうに頬を赤く染めながら、すり寄っている。
「会いたかったわ、リボーン…」
「俺もだぞ。」
「今日のドレスはどうかしら?私、リボーンが来るって聞いて……」
「ああ、似合ってるな。」
おおお!
リボーンさんが女の人をメロメロにさせている図とか、初めて見た!!
にしても…あの綺麗な女の人、誰なんだろう??
「ふげがっ…!!」
「お、おい獄寺!?」
突然ガタンと音がして、獄寺さんが椅子から落っこちた。
でもって、山本さんが呼びかける。
『ど、どーしたんですか獄寺さんっ!』
「クッ、キー……いらない…」
『え??』
意味不明発言に首を傾げていると、さっきの美人お姉さんがやって来て。
「あら隼人、久しぶりね。」
「何か…かぶれよ、姉貴……」
「そうだったわね。」
美人お姉さんは納得したようにサングラスを付けた。
すると、1秒前まで苦しそうだった獄寺さんが、ひょいっと起き上がったから吃驚。
「ったく……来るなら言えよな。」
「だって私、突然ツナとリボーンに呼ばれたんだもの。」
「な、何で10代目が姉貴を……」
『獄寺さんのお姉様なんですかっ!?』
思わず声に出しちゃって、かなり後悔。
だって獄寺さんも山本さんも、美人お姉さんも一斉にこっちを向いた。
うん、分かってました。
あたしは空気でいるべきでした。
発言してごめんなさい。
「もしかして、この子?」
『へ…?』
「私、ツナの婚約者のドレスアップを任されたのよ。」
『………あ。』
---「冗談抜きで柚子は婚約者扱いされるから、」
早速ですか。
うわぁ、帰りたい。
心底日本に帰りたいです。
「そーっスよ!この子がツナの婚約者なんス!」
ぽん、とあたしの頭に手を乗せながら、爽やかスマイルで言う山本さん。
どうやらフォローらしい。
『や、山本さ……』
「そう…ツナも随分可愛い子を選んで来たわね。初めまして、隼人の姉のビアンキよ。」
『(普通に話進んでるー!!!どうしよ…自己紹介だよね……)』
イタリアでだけだもん。
日本に帰ったら、普通の家政婦に戻れるんだから…!
『初めまして、牧之原柚子と言います。宜しくお願いします。』
差し出された手を握りながら、何とか返した。
するとビアンキさんは、雲雀さんと話してるツナさんに呼びかけた。
「ツナ!この子、もう借りてっていいのかしら?」
「うん、任せたよビアンキ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
『ど、何処へですか?』
「決まってるじゃない、更衣室よ。」
そうだった、特注ドレスが別室に届いてるんだっけ。
フルートを置いて、ビアンキさんに案内されるがままに付いて行く。
同じ4階だけどめっちゃ離れてる部屋に通され、大きな鏡の前に立たされた。
「肩の力、もう抜いて良いわよ。」
『あ、はい……』
抜けるワケないじゃないですか…
だって今ココにはあたしが婚約者だと信じてる人しかいないんですよ?
一般人モード全開になったら、あたしが後でツナさんに怒られますもん。
そんな事を考えながら鏡の中の自分と向き合っていると、ビアンキさんはドレスの箱を開けながら言った。
「役、なんでしょう?」
『………え?』
サングラスを外し、ニコリと微笑むビアンキさん。
一方のあたしはポカンと口を開けっ放し。
「とりあえず、着替えながら話しましょうか。」
『え、あ、あの…』
「これ、どうやら貴女にピッタリみたいだから。」
『はぁ…』
混乱したまま言われた通りドレスに着替える。
背中すんごい開いてる……ビアンキさんのドレスと同じくらいだ…。
「肌寒く思ったらこのショールでカバーして。」
『はい、ありがとうございますっ。』
受け取ってから、ハッと気付く。
『あの、どーしてさっき…』
「柚子が婚約者“役”だと分かったか、って?」
『は、はい……』
「フフ…女の勘、ね。」
マジですか。
勘で分かっちゃうくらいなら、会場でバレバレになっちゃうんじゃ……
「それに、ツナは言わなそうだもの。」
『何を、ですか?』
「“想い”を。」
あたしの髪に櫛を入れながら、ビアンキさんは静かに言う。
「真直ぐで分かりやすいのにね、言い方がほんの少しひねくれてるの。だから伝わりにくいわ。」
『(あ……)』
前にも、こんな感じの言葉を聞いた。
---「ツナは色んな言い方するけどさ、やっぱ柚子に言いたい事は、たった1つなんだ。」
山本さんだ。
ツナさんの事を、1番真直ぐだって言ってたのは。
やっぱりあたしには、ちゃんと理解出来なかったけど。
「もう1つのヒントは、柚子の態度ね。」
『あたしの…?』
「婚約者ならもう少し凛として構えているハズなの。たとえソレが政略結婚でも。」
そっかぁ…
けど、そんなの無理ですよ。
だってあたしはツナさんにゾッコンってワケでもないし、
政略結婚みたいに家を背負ってるワケでもない。
婚約者の振る舞いなんて……
「背筋を伸ばして、穏やかに微笑んでいればいいのよ。」
『え……?』
「夫の地位が偉大であればある程、妻には余裕が生まれる。それを、表に出せば良いの。だから、ココで練習してみなさい。」
『あ、はいっ…!』
---
-----
-----------
パーティーが、始まった。
だけどあたしは会場の外にいた。
お披露目パーティーだから、まだ入場しちゃいけないらしい。
タイミングから何から、全てプログラムに組み込まれているみたい。
あれから少しの間だけど、婚約者らしい振る舞いの練習もした。
とにかく、ツナさんに恥じかかせたら怒られるのはあたし。
全部降り掛かって来るんだから、ちゃんとしなくちゃ!
--「皆さん、本日はお越し下さりまことにありがとうございます。」
ツナさんがスピーチしてる……
あたしはいつ、入れるんだろう。
ビアンキさんも会場に行っちゃったし、今はキャバッローネの部下の人とロビーで待機中。
待ち時間が長くなればなるほど、心臓がバクバクしてきた。
ツナさんの挨拶が終わり、どうやらマイクがディーノさんに渡ったらしい。
--「んじゃ、ボンゴレ10代目には婚約者のお迎えに上がってもらって、俺達は乾杯の準備でも!」
直後、革靴で歩いて来る音が聞こえて来た。
何だか今更緊張する。
だって、ツナさんにまだ見せてなかったんだもん……この真っ赤なイブニングドレス姿。
「柚子、待たせたな…………!」
ツナさんは、途中で足を止めた。
吃驚したようにこっちを見て、ふっと俯く。
やっぱり、人様に見せられないよ……こんな不相応な姿。
でもね、ツナさん。
あたし……ほんの少し練習したんですよ?
『大丈夫ですよ、少し退屈でしたけど。』
ビアンキさんに教えてもらった、穏やかスマイル。
会場に入る前からが本番なのよと言われたから、今からモードチェンジ。
数秒間ボーッとしていたツナさんは、ゆっくり近づいてあたしの手を取る。
ソファから立ち上がって、2人でドアの前に立った。
「ごめんな、退屈させて。」
『いえ、全然。段取りがありますものね。』
不思議だった。
穏やかスマイルを意識すると、ツナさんと普通に喋れる。
振り回される事も、あたふたする事も無い。
「柚子、あのさ……」
『何ですか?』
ツナさんの指の力が、少し強まった。
「すごい、綺麗だよ。」
『えと……ありがとうございます。』
少し詰まっちゃったけど、仕方ないよね。
だってツナさんはいっつも不意打ちなんだもん。
ドアが開く前に、もう一度だけ深呼吸。
『……ツナさん、』
「ん?」
『あたし、頑張りますから。』
まだ開かないドアを見つめながら、決意を口に出す。
どういうワケか知らないけど、ツナさんはあたしを連れて来た。
婚約者役に任命した。
だから、
『任された事は、きちんとやります。』
「……やっぱり、柚子で良かった。」
『え?』
「何でも無いよ。」
--「準備出来たみてーだな。入ってもらうか!」
ディーノさんの声がして、ドアが開いた。
会場は、とってもきらびやかな装飾が施されてて、一瞬足が竦んでしまった。
「柚子、」
『…はいっ。』
大きな拍手の中を、ツナさんと2人で歩いてく。
名前が紹介されたみたいだけど、もうどうでも良かった。
だってツナさん、本物の婚約者が決まったらお披露目し直すって言ってたし。
頭の中で色んな事をグルグル考えてた。
けど、落ち着いて歩く事が出来た1番の理由は、多分……
---「柚子、」
しっかりと握られた右手、なんだと思う。
そのまま1番奥の舞台に上り、挨拶をした。
ビアンキさんに言われた通り、背筋を伸ばして凛として。
「それでは、10代目ファミリーとヴァリアーによるボレロ演奏です!」
うん、大丈夫。
しっかり練習したし、雰囲気に負けたりしない。
「行けるか、柚子。」
『はいっ。』
あたしの前を通る瞬間のリボーンさんの問いに、躊躇い無く頷けた。
お客様にお辞儀をして、指揮台に上ったリボーンさんが手を小さく振る。
そして、ルッスーリアさんの微かなスネアドラムの音が響いて来た。
ボレロが、始まった。
今までよりも、鮮やかに聞こえる。
耳に、心に染み込んで来るハーモニー。
変態発言ばっかりの骸さんも、
ちっちゃなランボ君やイーピンちゃんも、
更に小さなマーモンさんも、
袴姿のバジルさんも、
すぐ怒鳴るスクアーロさんも、
大勢の人にイライラしてるであろう雲雀さんも、
赤くて怖い瞳のザンザスさんも、
腹黒横暴ボスのツナさんも、
心地よい音色を作り上げる。
あぁ、やっぱり7号館に入れて良かったな、なんて、
改めて思ったりして。
----
---------
パチパチパチ……
拍手喝采で、凄く嬉しくなった。
いつもの照れが出そうになるけど我慢して、ココは穏やかスマイル。
リボーンさんが軽く挨拶して、あたし達は舞台から下りる。
その時、雲雀さんがあたしにスッと近づいて、言った。
「会場内で柚子を質問攻めにするのは禁じてあるから、隅の方で大人しくしてれば何とかなるよ。」
『ありがとうございますっ。』
「ちなみに六道は僕が殺しておくから。」
『あ、あははは……』
苦笑をしながらも、用意されたテーブルの傍に立つ。
今夜のパーティーは立食パーティー。
と、いうか……
『(あ、あれ…?)』
真ん中ら辺のテーブル、全部脇に寄せられてません??
そのおかしな光景に首を傾げていると、隣にいたツナさんが教えてくれた。
「今からワルツが流れるんだよ。」
『ワルツ、ですか?』
「あぁ、本物の管弦楽団が来てるからな。」
『あ…』
確かに、会場の右奥に本物らしき人達がいた。
楽器を持ってスタンバイしてる。
「じゃ、行くか。」
『へっ?』
「婚約者と踊らないで、誰と踊るんだよ。」
『でもあたし、ダンスとかダメ……』
「口出し無用。」
『きゃっ…!』
次の瞬間、ぐいっと手が引かれて。
流れ始めたウィンナーワルツに足の動きが乗せられる。
「俺以外と踊るなよ、柚子。」
『何を…!そ、そんなの……当たり前じゃないですかぁ…///』
ツナさんのおかげで、転けてない。
ツナさんのリード、すんごく上手いんだもの。
『リードして貰わないと踊れないんですからっ…他の人となんて無理です……』
「あぁ、そーゆー事。」
『え?どんな感じに捉えてたんですか!?』
「……別に、何でも無い。……あぁそうだ、柚子。」
『何ですか?』
「さっきの続きだけど。」
『続き…?』
さっきまでの優しい笑みとは大違い。
ツナさんは突然真剣な目を向けて、口を開いた。
「俺への脳内告白は無いの?」
『……………あ"。』
---「後でもっかい訊くから、覚えとけよ?」
あ、アレか!!
「そう、それ。」
『読まないで下さいっ。』
「で?」
ウィンナーワルツに乗りながら、しっかりリードしながら、ツナさんはあたしを見つめて来る。
背筋を伸ばしてなくちゃいけないし、踊ってる最中だから、俯いて目を逸らす事も出来ない。
嫌いじゃない、そう答えるのは簡単なのに、
好きって口にするのは、何でこんなに難しいんだろう。
“好き”というその言葉を、恋愛感情抜きで伝えるのは、
どうして出来そうで出来ないんだろう。
何て言ったらいいか分からないまま、ツナさんを見つめ返す。
吸い込まれそうになって、慌てて瞬き。
そんな状態が少し続いた後、ツナさんが急に目を細めた。
「俺が、いけないんだろーな……」
『え……?』
ついに横暴さに気がついたのかと思ったら、違った。
「言うべき事も、言わないままで…さ、」
言うべき、事……?
さっぱり分からなかったけど、あたしの手を握るツナさんの力が強くなったのは分かった。
それはきっと、ツナさんが弱ってる証拠なんだって。
こんな事、前にもあった……
“いつかちゃんと言うから”って、ツナさんが小さく囁いた時も、
こんな感じだった。
---「暗くて明るくて、真っ暗で眩しい………ツナが言いたいのは、そーゆー話だ。だから、話すのが難しーんだってさ!」
山本さんに、そう聞いた。
ツナさんがあたしに言いたいけど、言えない事。
矛盾してる話題。
あたしは、待ってると決めた。
ツナさんの中で話し方や内容が纏まるまで、待つって決めたんだ。
だから……
『……言わないで。』
「………!」
『言わないで下さい、ツナさん。』
強まったツナさんの手を、同じように握り返して。
あたしには、これくらいしか出来ないし、言えないけれど。
『何度も言ってますけど、あたしはツナさんが嫌いじゃありません。』
「柚子…」
『むしろ、ですね……そーやって時々気遣いしてくれるトコとか、割と好きですよ。』
今のあたしは、婚約者役だから。
普段言いにくい言葉も、スルッと口から出てくれた。
『あとは、えっと……』
何て言おうか迷うあたしを、ツナさんは何も言わずに見つめ続ける。
足は、ゆっくりとワルツのステップを辿って。
『ボスやってるんだなぁって見直す事も多々ありますし、何より、ファミリーからの信頼が厚いと思います。だから…』
たった1つの、あたしの訴え。
今この場での、優先事項。
『そんな…哀しい目はやめて下さい……。言うのがつらいなら、あたしは聞かないままで構いませんから…!』
「けど…、」
『あたしは!元気なツナさんが好きです。しっかりして下さいよ、10代目っ。』
せめて、笑ってくれれば良い。
そう思って、穏やかスマイルを見せた。
腹黒スマイルはともかく、ツナさんは自然に笑えばカッコいい好青年に見えるって、あたしは知ってる。
「………柚子、」
『えっ…きゃっ……///』
繋いでいた手を一気に引かれて、躓いたあたしはツナさんの腕の中。
『つ、ツナさ…』
「俺も。」
『へっ…?』
「何度も言うけど、柚子が好きだよ。」
『こ、こんなトコで……!』
「“婚約者”、だろ?」
うわぁ…何でツナさんってこう……すぐ腹黒スマイルに戻るかなぁ…。
人前で抱きしめられたのは物凄く恥ずかしかったけど、
でも、
ツナさんの元気が戻って来たみたいで、あたしは少し安心した。
メゾピアノ
貴方らしくない弱った姿を、あたしの言葉が救えるのなら
continue...
『フゥ太君っ、バイオリンすっごく上手だね!』
「ホント!?柚子姉に褒めてもらえるなんて、嬉しいなぁ。」
「柚子~っ!俺っちは!?」
『ランボ君も上手だったよ、シンバル。』
「ガハハハハ!当然だもんね!!」
やっぱり年下は可愛いなぁ、と癒されていたその時。
控え室のドアが開いた。
「失礼、いいかしら?」
「ちゃおっス、ビアンキ。」
「リボーン!!」
ぎゅっ、
『(わぁ…!///)』
日本人離れした髪の色と顔立ち、且つスタイル抜群の女の人が、入室した途端リボーンさんに抱きついた。
幸せそうに頬を赤く染めながら、すり寄っている。
「会いたかったわ、リボーン…」
「俺もだぞ。」
「今日のドレスはどうかしら?私、リボーンが来るって聞いて……」
「ああ、似合ってるな。」
おおお!
リボーンさんが女の人をメロメロにさせている図とか、初めて見た!!
にしても…あの綺麗な女の人、誰なんだろう??
「ふげがっ…!!」
「お、おい獄寺!?」
突然ガタンと音がして、獄寺さんが椅子から落っこちた。
でもって、山本さんが呼びかける。
『ど、どーしたんですか獄寺さんっ!』
「クッ、キー……いらない…」
『え??』
意味不明発言に首を傾げていると、さっきの美人お姉さんがやって来て。
「あら隼人、久しぶりね。」
「何か…かぶれよ、姉貴……」
「そうだったわね。」
美人お姉さんは納得したようにサングラスを付けた。
すると、1秒前まで苦しそうだった獄寺さんが、ひょいっと起き上がったから吃驚。
「ったく……来るなら言えよな。」
「だって私、突然ツナとリボーンに呼ばれたんだもの。」
「な、何で10代目が姉貴を……」
『獄寺さんのお姉様なんですかっ!?』
思わず声に出しちゃって、かなり後悔。
だって獄寺さんも山本さんも、美人お姉さんも一斉にこっちを向いた。
うん、分かってました。
あたしは空気でいるべきでした。
発言してごめんなさい。
「もしかして、この子?」
『へ…?』
「私、ツナの婚約者のドレスアップを任されたのよ。」
『………あ。』
---「冗談抜きで柚子は婚約者扱いされるから、」
早速ですか。
うわぁ、帰りたい。
心底日本に帰りたいです。
「そーっスよ!この子がツナの婚約者なんス!」
ぽん、とあたしの頭に手を乗せながら、爽やかスマイルで言う山本さん。
どうやらフォローらしい。
『や、山本さ……』
「そう…ツナも随分可愛い子を選んで来たわね。初めまして、隼人の姉のビアンキよ。」
『(普通に話進んでるー!!!どうしよ…自己紹介だよね……)』
イタリアでだけだもん。
日本に帰ったら、普通の家政婦に戻れるんだから…!
『初めまして、牧之原柚子と言います。宜しくお願いします。』
差し出された手を握りながら、何とか返した。
するとビアンキさんは、雲雀さんと話してるツナさんに呼びかけた。
「ツナ!この子、もう借りてっていいのかしら?」
「うん、任せたよビアンキ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
『ど、何処へですか?』
「決まってるじゃない、更衣室よ。」
そうだった、特注ドレスが別室に届いてるんだっけ。
フルートを置いて、ビアンキさんに案内されるがままに付いて行く。
同じ4階だけどめっちゃ離れてる部屋に通され、大きな鏡の前に立たされた。
「肩の力、もう抜いて良いわよ。」
『あ、はい……』
抜けるワケないじゃないですか…
だって今ココにはあたしが婚約者だと信じてる人しかいないんですよ?
一般人モード全開になったら、あたしが後でツナさんに怒られますもん。
そんな事を考えながら鏡の中の自分と向き合っていると、ビアンキさんはドレスの箱を開けながら言った。
「役、なんでしょう?」
『………え?』
サングラスを外し、ニコリと微笑むビアンキさん。
一方のあたしはポカンと口を開けっ放し。
「とりあえず、着替えながら話しましょうか。」
『え、あ、あの…』
「これ、どうやら貴女にピッタリみたいだから。」
『はぁ…』
混乱したまま言われた通りドレスに着替える。
背中すんごい開いてる……ビアンキさんのドレスと同じくらいだ…。
「肌寒く思ったらこのショールでカバーして。」
『はい、ありがとうございますっ。』
受け取ってから、ハッと気付く。
『あの、どーしてさっき…』
「柚子が婚約者“役”だと分かったか、って?」
『は、はい……』
「フフ…女の勘、ね。」
マジですか。
勘で分かっちゃうくらいなら、会場でバレバレになっちゃうんじゃ……
「それに、ツナは言わなそうだもの。」
『何を、ですか?』
「“想い”を。」
あたしの髪に櫛を入れながら、ビアンキさんは静かに言う。
「真直ぐで分かりやすいのにね、言い方がほんの少しひねくれてるの。だから伝わりにくいわ。」
『(あ……)』
前にも、こんな感じの言葉を聞いた。
---「ツナは色んな言い方するけどさ、やっぱ柚子に言いたい事は、たった1つなんだ。」
山本さんだ。
ツナさんの事を、1番真直ぐだって言ってたのは。
やっぱりあたしには、ちゃんと理解出来なかったけど。
「もう1つのヒントは、柚子の態度ね。」
『あたしの…?』
「婚約者ならもう少し凛として構えているハズなの。たとえソレが政略結婚でも。」
そっかぁ…
けど、そんなの無理ですよ。
だってあたしはツナさんにゾッコンってワケでもないし、
政略結婚みたいに家を背負ってるワケでもない。
婚約者の振る舞いなんて……
「背筋を伸ばして、穏やかに微笑んでいればいいのよ。」
『え……?』
「夫の地位が偉大であればある程、妻には余裕が生まれる。それを、表に出せば良いの。だから、ココで練習してみなさい。」
『あ、はいっ…!』
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パーティーが、始まった。
だけどあたしは会場の外にいた。
お披露目パーティーだから、まだ入場しちゃいけないらしい。
タイミングから何から、全てプログラムに組み込まれているみたい。
あれから少しの間だけど、婚約者らしい振る舞いの練習もした。
とにかく、ツナさんに恥じかかせたら怒られるのはあたし。
全部降り掛かって来るんだから、ちゃんとしなくちゃ!
--「皆さん、本日はお越し下さりまことにありがとうございます。」
ツナさんがスピーチしてる……
あたしはいつ、入れるんだろう。
ビアンキさんも会場に行っちゃったし、今はキャバッローネの部下の人とロビーで待機中。
待ち時間が長くなればなるほど、心臓がバクバクしてきた。
ツナさんの挨拶が終わり、どうやらマイクがディーノさんに渡ったらしい。
--「んじゃ、ボンゴレ10代目には婚約者のお迎えに上がってもらって、俺達は乾杯の準備でも!」
直後、革靴で歩いて来る音が聞こえて来た。
何だか今更緊張する。
だって、ツナさんにまだ見せてなかったんだもん……この真っ赤なイブニングドレス姿。
「柚子、待たせたな…………!」
ツナさんは、途中で足を止めた。
吃驚したようにこっちを見て、ふっと俯く。
やっぱり、人様に見せられないよ……こんな不相応な姿。
でもね、ツナさん。
あたし……ほんの少し練習したんですよ?
『大丈夫ですよ、少し退屈でしたけど。』
ビアンキさんに教えてもらった、穏やかスマイル。
会場に入る前からが本番なのよと言われたから、今からモードチェンジ。
数秒間ボーッとしていたツナさんは、ゆっくり近づいてあたしの手を取る。
ソファから立ち上がって、2人でドアの前に立った。
「ごめんな、退屈させて。」
『いえ、全然。段取りがありますものね。』
不思議だった。
穏やかスマイルを意識すると、ツナさんと普通に喋れる。
振り回される事も、あたふたする事も無い。
「柚子、あのさ……」
『何ですか?』
ツナさんの指の力が、少し強まった。
「すごい、綺麗だよ。」
『えと……ありがとうございます。』
少し詰まっちゃったけど、仕方ないよね。
だってツナさんはいっつも不意打ちなんだもん。
ドアが開く前に、もう一度だけ深呼吸。
『……ツナさん、』
「ん?」
『あたし、頑張りますから。』
まだ開かないドアを見つめながら、決意を口に出す。
どういうワケか知らないけど、ツナさんはあたしを連れて来た。
婚約者役に任命した。
だから、
『任された事は、きちんとやります。』
「……やっぱり、柚子で良かった。」
『え?』
「何でも無いよ。」
--「準備出来たみてーだな。入ってもらうか!」
ディーノさんの声がして、ドアが開いた。
会場は、とってもきらびやかな装飾が施されてて、一瞬足が竦んでしまった。
「柚子、」
『…はいっ。』
大きな拍手の中を、ツナさんと2人で歩いてく。
名前が紹介されたみたいだけど、もうどうでも良かった。
だってツナさん、本物の婚約者が決まったらお披露目し直すって言ってたし。
頭の中で色んな事をグルグル考えてた。
けど、落ち着いて歩く事が出来た1番の理由は、多分……
---「柚子、」
しっかりと握られた右手、なんだと思う。
そのまま1番奥の舞台に上り、挨拶をした。
ビアンキさんに言われた通り、背筋を伸ばして凛として。
「それでは、10代目ファミリーとヴァリアーによるボレロ演奏です!」
うん、大丈夫。
しっかり練習したし、雰囲気に負けたりしない。
「行けるか、柚子。」
『はいっ。』
あたしの前を通る瞬間のリボーンさんの問いに、躊躇い無く頷けた。
お客様にお辞儀をして、指揮台に上ったリボーンさんが手を小さく振る。
そして、ルッスーリアさんの微かなスネアドラムの音が響いて来た。
ボレロが、始まった。
今までよりも、鮮やかに聞こえる。
耳に、心に染み込んで来るハーモニー。
変態発言ばっかりの骸さんも、
ちっちゃなランボ君やイーピンちゃんも、
更に小さなマーモンさんも、
袴姿のバジルさんも、
すぐ怒鳴るスクアーロさんも、
大勢の人にイライラしてるであろう雲雀さんも、
赤くて怖い瞳のザンザスさんも、
腹黒横暴ボスのツナさんも、
心地よい音色を作り上げる。
あぁ、やっぱり7号館に入れて良かったな、なんて、
改めて思ったりして。
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パチパチパチ……
拍手喝采で、凄く嬉しくなった。
いつもの照れが出そうになるけど我慢して、ココは穏やかスマイル。
リボーンさんが軽く挨拶して、あたし達は舞台から下りる。
その時、雲雀さんがあたしにスッと近づいて、言った。
「会場内で柚子を質問攻めにするのは禁じてあるから、隅の方で大人しくしてれば何とかなるよ。」
『ありがとうございますっ。』
「ちなみに六道は僕が殺しておくから。」
『あ、あははは……』
苦笑をしながらも、用意されたテーブルの傍に立つ。
今夜のパーティーは立食パーティー。
と、いうか……
『(あ、あれ…?)』
真ん中ら辺のテーブル、全部脇に寄せられてません??
そのおかしな光景に首を傾げていると、隣にいたツナさんが教えてくれた。
「今からワルツが流れるんだよ。」
『ワルツ、ですか?』
「あぁ、本物の管弦楽団が来てるからな。」
『あ…』
確かに、会場の右奥に本物らしき人達がいた。
楽器を持ってスタンバイしてる。
「じゃ、行くか。」
『へっ?』
「婚約者と踊らないで、誰と踊るんだよ。」
『でもあたし、ダンスとかダメ……』
「口出し無用。」
『きゃっ…!』
次の瞬間、ぐいっと手が引かれて。
流れ始めたウィンナーワルツに足の動きが乗せられる。
「俺以外と踊るなよ、柚子。」
『何を…!そ、そんなの……当たり前じゃないですかぁ…///』
ツナさんのおかげで、転けてない。
ツナさんのリード、すんごく上手いんだもの。
『リードして貰わないと踊れないんですからっ…他の人となんて無理です……』
「あぁ、そーゆー事。」
『え?どんな感じに捉えてたんですか!?』
「……別に、何でも無い。……あぁそうだ、柚子。」
『何ですか?』
「さっきの続きだけど。」
『続き…?』
さっきまでの優しい笑みとは大違い。
ツナさんは突然真剣な目を向けて、口を開いた。
「俺への脳内告白は無いの?」
『……………あ"。』
---「後でもっかい訊くから、覚えとけよ?」
あ、アレか!!
「そう、それ。」
『読まないで下さいっ。』
「で?」
ウィンナーワルツに乗りながら、しっかりリードしながら、ツナさんはあたしを見つめて来る。
背筋を伸ばしてなくちゃいけないし、踊ってる最中だから、俯いて目を逸らす事も出来ない。
嫌いじゃない、そう答えるのは簡単なのに、
好きって口にするのは、何でこんなに難しいんだろう。
“好き”というその言葉を、恋愛感情抜きで伝えるのは、
どうして出来そうで出来ないんだろう。
何て言ったらいいか分からないまま、ツナさんを見つめ返す。
吸い込まれそうになって、慌てて瞬き。
そんな状態が少し続いた後、ツナさんが急に目を細めた。
「俺が、いけないんだろーな……」
『え……?』
ついに横暴さに気がついたのかと思ったら、違った。
「言うべき事も、言わないままで…さ、」
言うべき、事……?
さっぱり分からなかったけど、あたしの手を握るツナさんの力が強くなったのは分かった。
それはきっと、ツナさんが弱ってる証拠なんだって。
こんな事、前にもあった……
“いつかちゃんと言うから”って、ツナさんが小さく囁いた時も、
こんな感じだった。
---「暗くて明るくて、真っ暗で眩しい………ツナが言いたいのは、そーゆー話だ。だから、話すのが難しーんだってさ!」
山本さんに、そう聞いた。
ツナさんがあたしに言いたいけど、言えない事。
矛盾してる話題。
あたしは、待ってると決めた。
ツナさんの中で話し方や内容が纏まるまで、待つって決めたんだ。
だから……
『……言わないで。』
「………!」
『言わないで下さい、ツナさん。』
強まったツナさんの手を、同じように握り返して。
あたしには、これくらいしか出来ないし、言えないけれど。
『何度も言ってますけど、あたしはツナさんが嫌いじゃありません。』
「柚子…」
『むしろ、ですね……そーやって時々気遣いしてくれるトコとか、割と好きですよ。』
今のあたしは、婚約者役だから。
普段言いにくい言葉も、スルッと口から出てくれた。
『あとは、えっと……』
何て言おうか迷うあたしを、ツナさんは何も言わずに見つめ続ける。
足は、ゆっくりとワルツのステップを辿って。
『ボスやってるんだなぁって見直す事も多々ありますし、何より、ファミリーからの信頼が厚いと思います。だから…』
たった1つの、あたしの訴え。
今この場での、優先事項。
『そんな…哀しい目はやめて下さい……。言うのがつらいなら、あたしは聞かないままで構いませんから…!』
「けど…、」
『あたしは!元気なツナさんが好きです。しっかりして下さいよ、10代目っ。』
せめて、笑ってくれれば良い。
そう思って、穏やかスマイルを見せた。
腹黒スマイルはともかく、ツナさんは自然に笑えばカッコいい好青年に見えるって、あたしは知ってる。
「………柚子、」
『えっ…きゃっ……///』
繋いでいた手を一気に引かれて、躓いたあたしはツナさんの腕の中。
『つ、ツナさ…』
「俺も。」
『へっ…?』
「何度も言うけど、柚子が好きだよ。」
『こ、こんなトコで……!』
「“婚約者”、だろ?」
うわぁ…何でツナさんってこう……すぐ腹黒スマイルに戻るかなぁ…。
人前で抱きしめられたのは物凄く恥ずかしかったけど、
でも、
ツナさんの元気が戻って来たみたいで、あたしは少し安心した。
メゾピアノ
貴方らしくない弱った姿を、あたしの言葉が救えるのなら
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