🎼本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい、」
『はいっ!!』
「お前…ボレロ弾けるんだよな?」
『で、出来ますっ…!』
「じゃあ弾け。」
ザンザスさんが突然何を言い出すのかと思えば、
まともに指を動かせない今のあたしに、手本を見せろと。
『でもあたしフルートで、吹奏楽器……』
ザンザスさんの持ってるのは、コントラバス……つまり弦楽器。
あたしのフルート演奏を見たって何の参考にもならないハズ。
「音が知りてぇ、早くやれ。」
『はいっ…』
音だけ知りたかったとしても、何であたしに頼むのか。
そんなの聞くまでもなかった。
ベルさんとマーモンさんは獄寺さんに、
ルッスーリアさんはリボーンさんに、
レヴィさんとスクアーロさんはツナさんに、
それぞれご指導を受けていた。
骸さんは……ね、
「僕も弾くんですかー……?」
眠そうにビオラ抱えてるだけ。
で!頼まれちゃったワケだ。
どーしよ、指動かないんだっての。
『ちょ、ちょっと待って頂いても…?』
「あぁ?」
怖っ!!!
ヤバいヤバいヤバいヤバい殺される感じ漂ってる!!!
『し……深呼吸だけ…させて下さい…』
「…チッ、」
ひええええ!!!
でも目をつぶったって事はオッケーって事!?
よし、何でもいいから今のうちに…!
『(スー…ハー……)』
よしっ、頑張るぞ。
やれば出来る子なのよ、柚子!
ファイト柚子!!
スゥッと息を吸って、楽譜にある第一音を出す。
続け、響け、指を動かせ……
『……これが、メインメロディーです。で、ザンザスさんが演奏なさるのは……』
もう一回、
愛用のフルートに息を吹き込む。
4小節くらい弾いて、止める。
『この、リズムの方です。こちらの方が短いフレーズの繰り返しなので楽だと思います。』
「……そうか。」
良かった……伝わった…!
ホッとしてから、改めて楽譜を見る。
あたしが今まで見て来た中で、一番質素な『ボレロ』だ。
そもそも、人数がこれでもかってくらいに足りない。
半端無く足りないのだ。
フォゴットもいないし、
コーラングレ、チューバ担当もいない。
チェレスタパートは獄寺さんのピアノでカバーするみたいだけど……
第2バイオリンもいないし…
結構欠けてるのに、成り立ってる。
メロディーパートとリズムパートがきちんと区別されてて、最後には重厚感があるボレロの最高潮に導けるように編曲してあるんだ。
『(やっぱり骸さんて…天才なのかも。)』
心の中でだけ、結構見直した。
と、その時。
「ただいまーっ♪」
『あっ…!』
この…この爽やかさ100%の挨拶は……
『あたしっ、お出迎えして来ますっ!』
「あ、柚子……」
階段を駆け下りて、玄関までダッシュ。
またお洗濯物預からなくちゃ!
『お帰りなさい山本さーんっ♪』
「お、柚子!ただいまっ♪」
はぅ~…///
人って、笑顔だけで癒しを提供出来るんだなぁ…。
『今日の試合はどうでしたかっ?』
「もっちろん、快勝したぜ!!いやー、今日はボールが良く見えてなー。」
『すごいですね!お疲れ様でした!』
「おう!あ……そーいや、もう来てんのか?」
『え、か…管弦楽団さんの事ですか…?はい、演奏室にいらっしゃいます。音合わせしてて……』
「じゃあ今、あの部屋は群れの巣なんだ……」
『へっ…?』
今までと別の声が聞こえて、あたしは恐る恐る山本さんの後ろを覗き込む。
『ひっ、雲雀さん…!!』
「やぁ柚子、ただいま。」
『お、お帰りなさい!一緒に帰って来たんですか?』
「いんや、その辺の道でバッタリ。なっ!」
ニカッと笑う山本さんをため息1つで軽くスルーして、雲雀さんはあたしに聞く。
「沢田や赤ん坊も帰って来てるのかい?」
『はいっ。獄寺さんと骸さんもいらっしゃいます。』
「ふぅん……じゃぁ僕は部屋で…」
「音合わせは全員参加ですよ、雲雀さん。」
『あ。』
振り向けば、階段を下りて来るツナさん。
雲雀さんは不満そうに返す。
「嫌だ。」
「演奏室は広いし、雲雀さんをヴァリアーの中に投げ込むワケじゃないですから。」
『う"ぁりあー…?』
「管弦楽団の名前。そう名乗ってなかった?」
ツナさんに言われて、記憶の糸をたぐる。
---「暗殺管弦楽団・ヴァリアーよっ♪」
『……そー言えば!』
「つーワケで、山本もホルン持って演奏室ね。」
「おう!」
「頼みます、雲雀さん。」
ツナさんが人に頼み事してる……
雲雀さんってすごいなぁ…
「………演奏室の隅に椅子と譜面台用意しておいて、柚子。」
『あ、あたしですかっ!?』
「ありがとうございます。今度仕事減らします。」
『(まさかのスルー!)』
とにかく急いで演奏室に戻って、雲雀さんがチェロと一緒にやって来るまでに椅子と譜面台を用意する。
すると…
「おい、フィアンセ。」
『えっ?』
「いつ合わせんだ?」
『あの…もうマスターなさった、とか?』
「たりめーだろ。こんなもん、1回聞きゃ出来る。で、いつだ?」
そ、そんな事あたしに聞かれてもー……
じゃなくて!!!
『何でフィ…フィアンセとか呼ぶんですか!?///あ、あたしは…!』
「柚子、分かってるよな?」
はうっ…!
背後から横暴ボスの真っ黒い笑顔を浮かばせる声が……!
「あ?フィアンセをフィアンセっつって何が悪ぃ。」
『あのですね!悪くはない、ようなそうでないような…そんな気がするので……せめて固有名詞で…』
「…知らねぇ。」
『え?あ、えと……柚子ですっ、牧之原柚子と言います。』
「柚子……」
やはりザンザスさんもイタリア人のようだ。
いきなりファーストネームですか。
……いいけどさ。
「すみません、あと了平さんが帰ってくれば…」
「極限!帰ったぞー!!」
『(ナイスタイミング過ぎるー!!)』
「よし、揃った。」
にやりと笑うツナさんは、どうやら超直感で分かってたっぽい。
ガチャ、
「おお!よく来たな!ヴァリアー!!」
「了平さん、早速ですがティンパニの準備お願いします。」
「始めるぞ。配置は今は適当でいーからな。」
リボーンさんが指揮棒を手にする。
改めて思うけど、この人数と楽器を収容するなんて……この演奏室って広いんだなぁ。
「準備はいーか?特にルッスーリアと柚子。」
『あ、はいっ!』
「OKよん♪」
そう、スネアドラムのリズムとフルートのメロディーが一番最初なのだ。
あ~~~~緊張するっ!!
最初はほとんど指揮棒は振られない。
ルッスーリアさんのリズムを聞いて、あたしが安定した繰り返しをしなくちゃいけない。
タン、タタタタン、タタタ、タンタン、
ピアニッシシモのドラム音が、演奏室に響き始める。
4小節後に、フルートを重ね始める。
どんどん、どんどん、
盛大に、濃密に、壮大に、広がってく。
音が響き合って、1つの作品になってく。
ルッスーリアさんのスネアドラムから始まって、
あたしのフルートがメロディーを奏で、
ベルさんのクラリネットが続く。
雲雀さんのチェロが弦を弾いて小さな助奏をし始めた頃、
スクアーロさんのオーボエがメロディーに加わる。
次にツナさんのバイオリンと骸さんのビオラが弦を弾き、
山本さんのホルンとレヴィさんのトランペットがスタッカートで加わり始めると、
マーモンさんのピッコロがメロディーパートに仲間入り。
増えて来た楽器にリボーンさんが指揮棒を振り出すと、
獄寺さんがチェレスタの代わりにピアノを弾く。
そこでホルンはメロディーに移って、
ザンザスさんのコントラバスがリズムを補強する。
それまで弦弾きをやってきたバイオリン、ビオラはメロディーパートに加わり、
了平さんのティンパニが、スネアドラムを助ける。
ココまでくれば、もう最初の面影は無い。
演奏室いっぱいに広がる、膨れ上がる、オーケストラの『ボレロ』。
皆がフォルテシモな勢いで、それぞれの楽器を響かせる。
暗殺部隊さんだって、聞いた。
なのにこんなに心に染み込んで来る音を紡ぎだすなんて。
『(どうしよう……楽しいっ…!)』
隣に座るツナさんを、チラリと見た。
満足そうに、だけど真剣に、バイオリンの音を操る。
また、引きつけられてしまった。
この器楽サークルは、ただのサークルじゃない。
だけど、だからこそ、
あたしは今、素晴らしい音達の中で、心から楽しんで演奏出来てる。
フィナーレに近づいて、
気持ちが高ぶって、
終わってしまうのが寂しいくらいに感じた。
「良かったぞ、おめーら。」
「当然じゃね?こんなんちょろいし。」
「ま、1回教えたぐれーでノーミスなのは認めてやるよ。」
「ししっ、その言い方ちょっとムカつくんだけど。」
「あぁ!?褒めるっつってんだろ!」
「まーまー獄寺。」
「ベル、こんなトコでナイフ投げたら僕らの弁償になるよ。」
ベルさんと獄寺さんの喧嘩を、山本さんとマーモンさんが抑えようとする。
「あーもうっ、小指が痙攣しそうよんっ!!」
「俺は最初、極限に暇だったがな!!」
「う"お"ぉい!!おんなじパートの繰り返しってのも案外面倒くせぇじゃねーかぁ!!」
「文句つけるって事は、他の案があるって事?」
「あ"ぁ!?んだとガキぃ!!」
了平さんとルッスーリアさんの平和な会話とは反対に、
スクアーロさんと雲雀さんは少し危険な雰囲気。
「大体どーして俺ら組み込まれたワケー?その辺も納得いかねーっつーか。」
「あぁ?どーせ何も用意してねーだろーって、10代目が配慮して下さったんだ。感謝しやがれ!!」
「んなもん殺し屋切り裂きショーみたいなのやればいーじゃん、ね?マーモン。」
「それ、君の趣味だろ。」
「ハハッ!マグロ解体ショーみてーだなっ♪」
「次元が違ぇんだよ野球バカ!!」
何か喧嘩っぽくなってるけど、
もうちょっと演奏後の余韻に浸ってよう……
「僕の編曲に納得がいかないって事ですか!?徹夜ですよ!?徹夜だったんですよ!!?」
「だからフォルテシモの所も弱かったんだ、君のビオラ。」
「う"お"ぉい!情けねぇなぁ!!」
「で?君は他の曲の案があるのかい?それは勿論あと4日っていうリミットも考えてるんだろうね。」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!かっさばくぞぉ!!」
「へぇ、殺し合いしたいんだ。」
ちょっと危険かも知れないけど、
もう少しだけ皆さんの自主戦闘回避本能を信じてみよう。
「それでねー、こないだ大人のほろ苦ロマンスムービーを見に行ったの。」
「それだったら京子達も見たいと言っていたな!いい作品だったのか?」
「う~ん、私的にはグッと来る場面が少なかったように思うわぁ……」
「ルッスーリア、何を関係ない話で盛り上がっている。俺たちは今日……」
「いいじゃないのよレヴィ。そうだわ!レヴィはオススメ映画とかある?」
「お、俺はだな…」
ほらほら、平和な会話も持続していることだし。
お願いですから余韻に浸らせて…
「クフフフ、いいでしょう……僕の徹夜を無駄にするというのなら…!」
「何言ってるの、こいつは僕が咬み殺す。」
「う”お”ぉい!!まとめてかかって来てもいいんだぜぇ?」
「雲雀君、僕は右からいきますので君は左から…」
ゴスッ、
「くふっ…!」
「僕1人でいいって言ってるでしょ。」
「な、何て事するんですかーー!!何で僕が彼より先に殴られてるんですか!?僕は柚子の前以外ではM設定は嫌です!!」
「気持ち悪いから。」
あー、そろそろダメかも。
余韻に浸ってる場合じゃないのかも。
「あーあー、何かうるさいな……」
『ツナさん…?』
スクッと立ち上がったツナさんは、演奏室内を端から端まで見回して、
両手にXグローブをつけた。
「もう少し大人しくしないと…まとめて凍らせるよ?」
うん、すごいや。
ツナさんのあまり大きくもない一声で、ヴァリアーさん含めみんなシーンとしました。
『す、凄いですツナさんっ!!』
「惚れ直した?」
『ち、違いますよ!何言ってんですか!!///』
何てゆーか、
ちゃんとボスやってるんだなぁ…なんて思っただけです。
「とりあえず1回通し練習出来たんで、俺的には満足なんですけど……どうします?皆さんココに泊まっていきますか?」
「いらねぇ。」
「そうですか、じゃあ帰りの便は手配しておきますんで。」
「あぁ。」
どうやら、ヴァリアーさん達はイタリアに帰るみたい。
日帰りって大変そうだな、なんて思いながらボーッとしてたら、声をかけられた。
「柚子ちゃん、またねvV」
『ルッスーリアさん…』
「お披露目パーティーでの柚子ちゃんのドレスアップ、楽しみにしてるわね♪」
『えぇ!?』
そんなの楽しみにされましても……
「ほら、レヴィも挨拶しなさい!」
「ぬ……ま、またな。」
『あ、はいっ!お気をつけてお帰りください。』
お辞儀をしてみる。
と、今度はスクアーロさんが。
「う"お"ぉい、柚子っつったかぁ?」
『はいっ。』
「が、頑張れよぉ…」
『へ…?』
首を傾げると、スクアーロさんはヒソヒソと。
「何たってあのガキ二重人格みてーなモンだからなぁ。」
『な…!』
こ、この人っ……!
分かってるんだ!ツナさんの横暴さ!
『はいっ、頑張りますっ!』
「じゃぁなぁ。」
『お気をつけて!』
でもって、
「メイドの柚子ちゃん、またねー♪」
「なかなか楽しかったよ、今日の練習会。」
『ホントですか!?良かったです♪』
「王子的には本番までノー練習でいけんじゃねーの、みたいな。」
「君は調子に乗り過ぎだよ。」
「うるせぇよチビもどき。」
「ム。」
言い合いしながらも笑ってる2人は、仲がいいのかなって思う。
そして、最後のお見送り。
『ザンザスさん、今日はお疲れ様でした。』
「はんっ。」
『えと…もし宜しければ………またコントラバス聞かせて下さいねっ!』
「……てめぇはうるせぇのを直しとけ。」
『あ、はい…』
そうでした。
ザンザスさんは読心術属性でした。
『い、以後気をつけます……』
「………またな…」
うわお。
“またな”って、言ってもらえたよ。
何この無駄な達成感!
行きと同じく、黒くて大きなケースを持ったモスカさんを最後に、
ヴァリアーさん達は7号館を後にした。
『はぁぁ…疲れましたぁぁぁ……』
「一曲弾いただけじゃねーか。」
『そーじゃないです!精神的ストレスです!!』
いきなり“暗殺”とか言うし、
怒鳴るし怖いし…
それでも、一緒に弾いたボレロは素敵な仕上がりになったなぁ…と。
「つーワケで、そろそろ夕飯だぞ。」
『えぇっ!?』
「そーいやもう6時半だな。」
「僕はいらない。寝る。」
部屋に戻って行く雲雀さん。
どーせ後で夜食作れとか言い出すんだ、あの人。
もうパターン分かり始めてるんだから!
「僕はだんだんと目が冴えて来ました!柚子、買い出しにでも行きますか?」
『あ、骸さん付いて来てくれるんですか?』
「俺がいくからいーっつの。」
『えっ…』
「な、何故ですか綱吉ー!!僕と柚子の愛の時間を取り上げるなんて…」
「行こうか、柚子。」
『あ、はい…』
「そんなぁーっ!」
何だろ。ツナさん…怒ってる?
う~ん…未だにツナさんが不機嫌になるポイントが掴めない……
あ、そうだ。
『ツナさんっ、』
「何だよ。」
『さっきのボレロ、楽しかったですね♪』
一瞬しか見てないけど、ツナさんも楽しそうに弾いてたから。
だから、分かち合えるうちに言っておこうと思って。
「そうだな……」
少し黒目を大きくしたツナさんは、次の瞬間微笑を見せて。
「柚子のフルート…綺麗だったよ……」
『えっ?あ、ありがとうございますっ…///』
何だか不意打ちを食らった気がして、
少しというか物凄く、恥ずかしくなった。
ヘル
血の気が多い人達なのに、奏でる音色は美しかった。
continue...
『はいっ!!』
「お前…ボレロ弾けるんだよな?」
『で、出来ますっ…!』
「じゃあ弾け。」
ザンザスさんが突然何を言い出すのかと思えば、
まともに指を動かせない今のあたしに、手本を見せろと。
『でもあたしフルートで、吹奏楽器……』
ザンザスさんの持ってるのは、コントラバス……つまり弦楽器。
あたしのフルート演奏を見たって何の参考にもならないハズ。
「音が知りてぇ、早くやれ。」
『はいっ…』
音だけ知りたかったとしても、何であたしに頼むのか。
そんなの聞くまでもなかった。
ベルさんとマーモンさんは獄寺さんに、
ルッスーリアさんはリボーンさんに、
レヴィさんとスクアーロさんはツナさんに、
それぞれご指導を受けていた。
骸さんは……ね、
「僕も弾くんですかー……?」
眠そうにビオラ抱えてるだけ。
で!頼まれちゃったワケだ。
どーしよ、指動かないんだっての。
『ちょ、ちょっと待って頂いても…?』
「あぁ?」
怖っ!!!
ヤバいヤバいヤバいヤバい殺される感じ漂ってる!!!
『し……深呼吸だけ…させて下さい…』
「…チッ、」
ひええええ!!!
でも目をつぶったって事はオッケーって事!?
よし、何でもいいから今のうちに…!
『(スー…ハー……)』
よしっ、頑張るぞ。
やれば出来る子なのよ、柚子!
ファイト柚子!!
スゥッと息を吸って、楽譜にある第一音を出す。
続け、響け、指を動かせ……
『……これが、メインメロディーです。で、ザンザスさんが演奏なさるのは……』
もう一回、
愛用のフルートに息を吹き込む。
4小節くらい弾いて、止める。
『この、リズムの方です。こちらの方が短いフレーズの繰り返しなので楽だと思います。』
「……そうか。」
良かった……伝わった…!
ホッとしてから、改めて楽譜を見る。
あたしが今まで見て来た中で、一番質素な『ボレロ』だ。
そもそも、人数がこれでもかってくらいに足りない。
半端無く足りないのだ。
フォゴットもいないし、
コーラングレ、チューバ担当もいない。
チェレスタパートは獄寺さんのピアノでカバーするみたいだけど……
第2バイオリンもいないし…
結構欠けてるのに、成り立ってる。
メロディーパートとリズムパートがきちんと区別されてて、最後には重厚感があるボレロの最高潮に導けるように編曲してあるんだ。
『(やっぱり骸さんて…天才なのかも。)』
心の中でだけ、結構見直した。
と、その時。
「ただいまーっ♪」
『あっ…!』
この…この爽やかさ100%の挨拶は……
『あたしっ、お出迎えして来ますっ!』
「あ、柚子……」
階段を駆け下りて、玄関までダッシュ。
またお洗濯物預からなくちゃ!
『お帰りなさい山本さーんっ♪』
「お、柚子!ただいまっ♪」
はぅ~…///
人って、笑顔だけで癒しを提供出来るんだなぁ…。
『今日の試合はどうでしたかっ?』
「もっちろん、快勝したぜ!!いやー、今日はボールが良く見えてなー。」
『すごいですね!お疲れ様でした!』
「おう!あ……そーいや、もう来てんのか?」
『え、か…管弦楽団さんの事ですか…?はい、演奏室にいらっしゃいます。音合わせしてて……』
「じゃあ今、あの部屋は群れの巣なんだ……」
『へっ…?』
今までと別の声が聞こえて、あたしは恐る恐る山本さんの後ろを覗き込む。
『ひっ、雲雀さん…!!』
「やぁ柚子、ただいま。」
『お、お帰りなさい!一緒に帰って来たんですか?』
「いんや、その辺の道でバッタリ。なっ!」
ニカッと笑う山本さんをため息1つで軽くスルーして、雲雀さんはあたしに聞く。
「沢田や赤ん坊も帰って来てるのかい?」
『はいっ。獄寺さんと骸さんもいらっしゃいます。』
「ふぅん……じゃぁ僕は部屋で…」
「音合わせは全員参加ですよ、雲雀さん。」
『あ。』
振り向けば、階段を下りて来るツナさん。
雲雀さんは不満そうに返す。
「嫌だ。」
「演奏室は広いし、雲雀さんをヴァリアーの中に投げ込むワケじゃないですから。」
『う"ぁりあー…?』
「管弦楽団の名前。そう名乗ってなかった?」
ツナさんに言われて、記憶の糸をたぐる。
---「暗殺管弦楽団・ヴァリアーよっ♪」
『……そー言えば!』
「つーワケで、山本もホルン持って演奏室ね。」
「おう!」
「頼みます、雲雀さん。」
ツナさんが人に頼み事してる……
雲雀さんってすごいなぁ…
「………演奏室の隅に椅子と譜面台用意しておいて、柚子。」
『あ、あたしですかっ!?』
「ありがとうございます。今度仕事減らします。」
『(まさかのスルー!)』
とにかく急いで演奏室に戻って、雲雀さんがチェロと一緒にやって来るまでに椅子と譜面台を用意する。
すると…
「おい、フィアンセ。」
『えっ?』
「いつ合わせんだ?」
『あの…もうマスターなさった、とか?』
「たりめーだろ。こんなもん、1回聞きゃ出来る。で、いつだ?」
そ、そんな事あたしに聞かれてもー……
じゃなくて!!!
『何でフィ…フィアンセとか呼ぶんですか!?///あ、あたしは…!』
「柚子、分かってるよな?」
はうっ…!
背後から横暴ボスの真っ黒い笑顔を浮かばせる声が……!
「あ?フィアンセをフィアンセっつって何が悪ぃ。」
『あのですね!悪くはない、ようなそうでないような…そんな気がするので……せめて固有名詞で…』
「…知らねぇ。」
『え?あ、えと……柚子ですっ、牧之原柚子と言います。』
「柚子……」
やはりザンザスさんもイタリア人のようだ。
いきなりファーストネームですか。
……いいけどさ。
「すみません、あと了平さんが帰ってくれば…」
「極限!帰ったぞー!!」
『(ナイスタイミング過ぎるー!!)』
「よし、揃った。」
にやりと笑うツナさんは、どうやら超直感で分かってたっぽい。
ガチャ、
「おお!よく来たな!ヴァリアー!!」
「了平さん、早速ですがティンパニの準備お願いします。」
「始めるぞ。配置は今は適当でいーからな。」
リボーンさんが指揮棒を手にする。
改めて思うけど、この人数と楽器を収容するなんて……この演奏室って広いんだなぁ。
「準備はいーか?特にルッスーリアと柚子。」
『あ、はいっ!』
「OKよん♪」
そう、スネアドラムのリズムとフルートのメロディーが一番最初なのだ。
あ~~~~緊張するっ!!
最初はほとんど指揮棒は振られない。
ルッスーリアさんのリズムを聞いて、あたしが安定した繰り返しをしなくちゃいけない。
タン、タタタタン、タタタ、タンタン、
ピアニッシシモのドラム音が、演奏室に響き始める。
4小節後に、フルートを重ね始める。
どんどん、どんどん、
盛大に、濃密に、壮大に、広がってく。
音が響き合って、1つの作品になってく。
ルッスーリアさんのスネアドラムから始まって、
あたしのフルートがメロディーを奏で、
ベルさんのクラリネットが続く。
雲雀さんのチェロが弦を弾いて小さな助奏をし始めた頃、
スクアーロさんのオーボエがメロディーに加わる。
次にツナさんのバイオリンと骸さんのビオラが弦を弾き、
山本さんのホルンとレヴィさんのトランペットがスタッカートで加わり始めると、
マーモンさんのピッコロがメロディーパートに仲間入り。
増えて来た楽器にリボーンさんが指揮棒を振り出すと、
獄寺さんがチェレスタの代わりにピアノを弾く。
そこでホルンはメロディーに移って、
ザンザスさんのコントラバスがリズムを補強する。
それまで弦弾きをやってきたバイオリン、ビオラはメロディーパートに加わり、
了平さんのティンパニが、スネアドラムを助ける。
ココまでくれば、もう最初の面影は無い。
演奏室いっぱいに広がる、膨れ上がる、オーケストラの『ボレロ』。
皆がフォルテシモな勢いで、それぞれの楽器を響かせる。
暗殺部隊さんだって、聞いた。
なのにこんなに心に染み込んで来る音を紡ぎだすなんて。
『(どうしよう……楽しいっ…!)』
隣に座るツナさんを、チラリと見た。
満足そうに、だけど真剣に、バイオリンの音を操る。
また、引きつけられてしまった。
この器楽サークルは、ただのサークルじゃない。
だけど、だからこそ、
あたしは今、素晴らしい音達の中で、心から楽しんで演奏出来てる。
フィナーレに近づいて、
気持ちが高ぶって、
終わってしまうのが寂しいくらいに感じた。
「良かったぞ、おめーら。」
「当然じゃね?こんなんちょろいし。」
「ま、1回教えたぐれーでノーミスなのは認めてやるよ。」
「ししっ、その言い方ちょっとムカつくんだけど。」
「あぁ!?褒めるっつってんだろ!」
「まーまー獄寺。」
「ベル、こんなトコでナイフ投げたら僕らの弁償になるよ。」
ベルさんと獄寺さんの喧嘩を、山本さんとマーモンさんが抑えようとする。
「あーもうっ、小指が痙攣しそうよんっ!!」
「俺は最初、極限に暇だったがな!!」
「う"お"ぉい!!おんなじパートの繰り返しってのも案外面倒くせぇじゃねーかぁ!!」
「文句つけるって事は、他の案があるって事?」
「あ"ぁ!?んだとガキぃ!!」
了平さんとルッスーリアさんの平和な会話とは反対に、
スクアーロさんと雲雀さんは少し危険な雰囲気。
「大体どーして俺ら組み込まれたワケー?その辺も納得いかねーっつーか。」
「あぁ?どーせ何も用意してねーだろーって、10代目が配慮して下さったんだ。感謝しやがれ!!」
「んなもん殺し屋切り裂きショーみたいなのやればいーじゃん、ね?マーモン。」
「それ、君の趣味だろ。」
「ハハッ!マグロ解体ショーみてーだなっ♪」
「次元が違ぇんだよ野球バカ!!」
何か喧嘩っぽくなってるけど、
もうちょっと演奏後の余韻に浸ってよう……
「僕の編曲に納得がいかないって事ですか!?徹夜ですよ!?徹夜だったんですよ!!?」
「だからフォルテシモの所も弱かったんだ、君のビオラ。」
「う"お"ぉい!情けねぇなぁ!!」
「で?君は他の曲の案があるのかい?それは勿論あと4日っていうリミットも考えてるんだろうね。」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!かっさばくぞぉ!!」
「へぇ、殺し合いしたいんだ。」
ちょっと危険かも知れないけど、
もう少しだけ皆さんの自主戦闘回避本能を信じてみよう。
「それでねー、こないだ大人のほろ苦ロマンスムービーを見に行ったの。」
「それだったら京子達も見たいと言っていたな!いい作品だったのか?」
「う~ん、私的にはグッと来る場面が少なかったように思うわぁ……」
「ルッスーリア、何を関係ない話で盛り上がっている。俺たちは今日……」
「いいじゃないのよレヴィ。そうだわ!レヴィはオススメ映画とかある?」
「お、俺はだな…」
ほらほら、平和な会話も持続していることだし。
お願いですから余韻に浸らせて…
「クフフフ、いいでしょう……僕の徹夜を無駄にするというのなら…!」
「何言ってるの、こいつは僕が咬み殺す。」
「う”お”ぉい!!まとめてかかって来てもいいんだぜぇ?」
「雲雀君、僕は右からいきますので君は左から…」
ゴスッ、
「くふっ…!」
「僕1人でいいって言ってるでしょ。」
「な、何て事するんですかーー!!何で僕が彼より先に殴られてるんですか!?僕は柚子の前以外ではM設定は嫌です!!」
「気持ち悪いから。」
あー、そろそろダメかも。
余韻に浸ってる場合じゃないのかも。
「あーあー、何かうるさいな……」
『ツナさん…?』
スクッと立ち上がったツナさんは、演奏室内を端から端まで見回して、
両手にXグローブをつけた。
「もう少し大人しくしないと…まとめて凍らせるよ?」
うん、すごいや。
ツナさんのあまり大きくもない一声で、ヴァリアーさん含めみんなシーンとしました。
『す、凄いですツナさんっ!!』
「惚れ直した?」
『ち、違いますよ!何言ってんですか!!///』
何てゆーか、
ちゃんとボスやってるんだなぁ…なんて思っただけです。
「とりあえず1回通し練習出来たんで、俺的には満足なんですけど……どうします?皆さんココに泊まっていきますか?」
「いらねぇ。」
「そうですか、じゃあ帰りの便は手配しておきますんで。」
「あぁ。」
どうやら、ヴァリアーさん達はイタリアに帰るみたい。
日帰りって大変そうだな、なんて思いながらボーッとしてたら、声をかけられた。
「柚子ちゃん、またねvV」
『ルッスーリアさん…』
「お披露目パーティーでの柚子ちゃんのドレスアップ、楽しみにしてるわね♪」
『えぇ!?』
そんなの楽しみにされましても……
「ほら、レヴィも挨拶しなさい!」
「ぬ……ま、またな。」
『あ、はいっ!お気をつけてお帰りください。』
お辞儀をしてみる。
と、今度はスクアーロさんが。
「う"お"ぉい、柚子っつったかぁ?」
『はいっ。』
「が、頑張れよぉ…」
『へ…?』
首を傾げると、スクアーロさんはヒソヒソと。
「何たってあのガキ二重人格みてーなモンだからなぁ。」
『な…!』
こ、この人っ……!
分かってるんだ!ツナさんの横暴さ!
『はいっ、頑張りますっ!』
「じゃぁなぁ。」
『お気をつけて!』
でもって、
「メイドの柚子ちゃん、またねー♪」
「なかなか楽しかったよ、今日の練習会。」
『ホントですか!?良かったです♪』
「王子的には本番までノー練習でいけんじゃねーの、みたいな。」
「君は調子に乗り過ぎだよ。」
「うるせぇよチビもどき。」
「ム。」
言い合いしながらも笑ってる2人は、仲がいいのかなって思う。
そして、最後のお見送り。
『ザンザスさん、今日はお疲れ様でした。』
「はんっ。」
『えと…もし宜しければ………またコントラバス聞かせて下さいねっ!』
「……てめぇはうるせぇのを直しとけ。」
『あ、はい…』
そうでした。
ザンザスさんは読心術属性でした。
『い、以後気をつけます……』
「………またな…」
うわお。
“またな”って、言ってもらえたよ。
何この無駄な達成感!
行きと同じく、黒くて大きなケースを持ったモスカさんを最後に、
ヴァリアーさん達は7号館を後にした。
『はぁぁ…疲れましたぁぁぁ……』
「一曲弾いただけじゃねーか。」
『そーじゃないです!精神的ストレスです!!』
いきなり“暗殺”とか言うし、
怒鳴るし怖いし…
それでも、一緒に弾いたボレロは素敵な仕上がりになったなぁ…と。
「つーワケで、そろそろ夕飯だぞ。」
『えぇっ!?』
「そーいやもう6時半だな。」
「僕はいらない。寝る。」
部屋に戻って行く雲雀さん。
どーせ後で夜食作れとか言い出すんだ、あの人。
もうパターン分かり始めてるんだから!
「僕はだんだんと目が冴えて来ました!柚子、買い出しにでも行きますか?」
『あ、骸さん付いて来てくれるんですか?』
「俺がいくからいーっつの。」
『えっ…』
「な、何故ですか綱吉ー!!僕と柚子の愛の時間を取り上げるなんて…」
「行こうか、柚子。」
『あ、はい…』
「そんなぁーっ!」
何だろ。ツナさん…怒ってる?
う~ん…未だにツナさんが不機嫌になるポイントが掴めない……
あ、そうだ。
『ツナさんっ、』
「何だよ。」
『さっきのボレロ、楽しかったですね♪』
一瞬しか見てないけど、ツナさんも楽しそうに弾いてたから。
だから、分かち合えるうちに言っておこうと思って。
「そうだな……」
少し黒目を大きくしたツナさんは、次の瞬間微笑を見せて。
「柚子のフルート…綺麗だったよ……」
『えっ?あ、ありがとうございますっ…///』
何だか不意打ちを食らった気がして、
少しというか物凄く、恥ずかしくなった。
ヘル
血の気が多い人達なのに、奏でる音色は美しかった。
continue...