🎼本編
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カタン、
『あ…………あぁーーっ!!!』
おはようございます、柚子です。
ポストを開けて吃驚。
そこに入っていたのは何と、フルートコンクールの結果通知書。
「…んだよ…朝からうるせーな………」
『あ…ご、獄寺さん………コレ、開けて見て下さい!!んでもって、あたしに結果をそうっと教えて下さい!!』
「はぁ!?何で俺が…」
『お願いします!!』
だって、緊張しちゃって自分じゃ見れないんだもの。
人から結果を聞くくらいなら何とか…耐えられる、よね……
うん…
「ったく…」
ベリッという開封音の後、パサッという紙を広げる音。
ビクビクしながら獄寺さんの表情を伺うあたし。
「…………“通過”。」
『…ほえ?』
「一次予選、受かってるってよ。」
『ほ、ホントですかっ!!?』
「当たりめーだろ!嘘なんかつくワケ………柚子っ!??」
ぶわっ、と涙が溢れ出した。
あー…まだ一次予選なのにな、全然遠いのにな。
「なっ……おい柚子!」
『ず、ずびまぜんっ……緊張がとけたみたいで……』
ぽろぽろと零れる涙を止められずにいると、獄寺さんはスッと手を伸ばして。
「…バーカ。」
『ひょぇっ…!///』
ぎゅ、とあたしの頬をこすった。
その仕草に思わず赤面した直後、獄寺さんの背後に目が行く。
そして……固まった。
「何、してんの?」
「じゅっ、10代目っ!!」
『ツナさんっ!!』
「獄寺君もしかして…柚子のこと、泣かせた?」
「いえ!そーゆーワケでは…!」
『あ、あのっ…あたしが勝手に泣いたんですっ!!しかもコレ、嬉し泣きですっ…!!』
暗黒オーラを放ちながら立っているツナさんに、あたしは慌てて説明した。
フルートコンクールに合格した、と。
「あぁ、まだ柚子は知らなかったんだっけ。」
『………え?』
「俺、一昨日くらいにはもう知ってたけど。」
間。
『ええぇえぇぇ!!?』
「叫び過ぎ。」
『ふぎゅっ……!しゅ、しゅみましぇん…』
ツナさんに両頬を潰される。
ってゆーか!
『どーしてあたしに教えてくれなかったんですかぁ!!』
「だって、受かって当然だろ?」
出た、お得意の意地悪スマイル。
「何だって?」
『何でもございません!』
「……とにかく、柚子は俺の婚約者なんだから、一次くらいは通過して当然。」
『な、何ですかその理屈……意味不明ですよ…』
まぁ、受かってたんならそれでいーんですけど……
「あ、それと二次予選の曲も決まったワケだし、練習始めないとな。」
『あ"……』
パッと手紙を確認すると、曲目が書いてあった。
ライネッケのフルートソナタ『ウンディーネ』より、第一楽章(Allegro)……
二次予選は直前音合わせがちゃんと出来るらしい。
試験で一緒に弾くピアノ奏者がスタンバイしてるそうだ。
「それと、今日は客が来るから。」
『へ?』
「だから柚子、お茶菓子とか用意しとけよ。」
『う…了解でーす。』
今度は一体誰が来るんだろう…
また知らない人、特に怖い人だったらヤダなぁ……。
そんな事を考えながら、朝食を作るためキッチンへと向かった。
---
------
-----------
『お茶菓子、お茶菓子っと……』
あっと言う間に昼になり、あたしは今戸棚を漁り中。
てゆーかツナさん、何時にお客様が見えるか教えてくれないんだもん。
『もーっ、後で文句言ってやるっ。』
「ふぅん…それは見物だね。」
『………え"?』
独り言に返事をされ、あたしは恐る恐る後ろを向く。
と、そこに立っていたのは…
「柚子が沢田に文句つける姿、楽しみだな。」
『雲雀さん!!帰って来てらしたんですか!』
「今日は2限しか受けてないから。」
『そうでしたか!あ、でも、文句言うってゆーのは冗談ですっ。』
「なんだ、言わないの。見てみたかったよ。」
『ど、どーしてですかぁ……』
探し当てたクッキーをお皿に盛りつけながら、尋ねてみる。
……勿論、普通の答えが返ってくるとも思ってないけど。
「沢田が柚子をいじめてる姿は、案外面白い事に最近気がついてね。」
『なっ…んなワケないじゃないですかぁ!!そんな事に気がつかないで下さいっ!あたしは面白くも何ともっ…』
ピーンポーン…
『あ、はーいっ!!』
雲雀さんの意地悪発言に反論していたその時、チャイムが鳴って、あたしは慌てて玄関へと駆け出す。
ガチャ、
『あ……!』
「おっ、柚子じゃねーか!」
忘れもしない、1週間ほど前の事。
突然イタリアからやって来た、同盟ファミリーのボスが、
今再びあたしの目の前に。
『お、お久しぶりですディーノさんっ!お変わりないようで何よりです♪』
「久しぶりって程でもねーけどな!また会えて嬉しいぜ、柚子。」
『あたしもです!』
ディーノさんは挨拶代わりにあたしの頭を撫でる。
うん、この手の平のあったかさも変わってないなぁ…///
「あぁ、また来たんだ。」
「よぉ恭弥、元気にしてたか?」
「貴方が来る前までね。」
「けっ、相変わらず捻くれてんなー。」
お2人は結構な知り合いっぽい。
何だか不思議だなー、と思っていると、ディーノさんは再びあたしの方を向いて。
「柚子も、相変わらず可愛いな♪」
『えっ……えぇええぇ!!?///』
い、いきなり何を言い出すのこのお方ーーー!!!
ホントに、何度も言うけど、前世はホストなんじゃ……!!
「ディーノさん、俺の柚子なんで口説かないで下さい。」
「お。」
『あ…』
ちょうど、雲雀さんが立ってる横の部屋から、ツナさんが出て来た。
出て来たと同時にサラッととんでもない発言をした。
「よっ、ツナ!挨拶代わりだって、悪ぃ悪ぃ!」
「ならいーんですけど。」
『………(汗)』
え?何故(汗)かって?
そりゃー誰だって冷や汗かきますよ、ツナさんのこの暗黒笑いを見れば。
「何か言った?」
『いえ!』
「じゃあディーノさん、広間にどうぞ。柚子、お茶と菓子。」
『あ、はい只今!』
「雲雀さんも、一緒にどうですか?」
「…重要な話でもするのかい?」
「はい、6日後の……」
「あぁ…あの“群れる会”のことか。………分かった、聞くよ。」
皆さんは何だか大切な事を話し合う(?)みたい。
あたし、聞いても大丈夫かなぁ…?
不安になりながらも、用意した紅茶とクッキーを運んだ。
『失礼しまーす……』
極力音を立てないように、そうっとカップとお皿を置く。
「サンキュー、柚子♪」
『いえいえ!///』
ニカッと笑いかけてくれたディーノさんに、お辞儀を一つ。
う~ん、だいぶ家政婦ライフに慣れて来たようなそうでないような。
「……で、会場なんだが、ウチのホールに決まったんだ。」
「キャバッローネの…何番ホールですか?」
「勿論、第1ホールだぜ♪何たってボンゴレ10代目フィアンセのお披露目だからな!」
『(………あれ?)』
今のは何だろう?
“ボンゴレ10代目のフィアンセ”……?
あ、ついにツナさんが本物のフィアンセを見つけて…
「何バカなこと言ってるの、柚子。」
『言ってません!読まないで下さい!!』
「ちょうどいいから、柚子も聞けよ。」
「そーだな!」
『は、はぁ……』
よく分からないまま、ツナさんの隣の椅子に座る。
(無言の圧力を感じたから)
「つーワケで、会場がキャバッローネだから装飾は俺らが担当になった。で、そっちの案は全部採用されたぜ。」
「そうですか、それは良かった。」
……何の事かさっぱり分からない。
「まぁ簡単に言えば、今度演奏会を開くんだよ。」
『へ?』
「僕たちが出した案は、日程と曲について。それが全て通ったって事。」
『えと、ご説明ありがとうございます…』
雲雀さんにお礼を言うあたしの横で、ツナさんがディーノさんに尋ねる。
「それで、向こうの人たちは…?」
「あぁ、実はまだ伝わってねぇみてーなんだ。ツナから笹川に連絡してもらってもいいか?アイツ今、向こうにいるんだろ?」
「分かりました。……じゃあ手っ取り早く今電話してきます。」
「おう、悪ぃな。」
………またまた何の話か分からない。
「今度の演奏会は、僕らだけで演奏するワケじゃないんだ。管弦楽団が加わるんだよ。」
『そうなんですかぁ!すごいですね!!』
てかさっきから雲雀さん、あたしの心の声に応答して……
「悪い?」
『いえ!助かっております…!』
「あははっ!恭弥ー、あんま柚子をいじめるなよ?」
「いじめてない。」
「ったく…」
ツナさんが席を外して、何だかぽっかり空間に穴が空いたような感じ。
そんな事を思いながらボーッとしていると、ディーノさんに話しかけられた。
「柚子、」
『あ、はい!何でしょうか?』
「柚子は…親元を離れてるんだよな?」
『そう、なりますね……』
元々、大学生になったら一人暮らしするって事で、ちゃんと部屋借りる予定だったんだけど。
いきなり家具とか移動させられてるし、最初は本当に吃驚したなぁ……
まだそんなに経っていないのに、もう随分昔のように感じられる。
「寂しかったりしねーのか?」
『えっ…?』
「俺も、ガキの頃から寮生活でさ……あん時は帰りたい思いでいっぱいだったんだよな。だから、柚子はどーなのか気になってさ。」
ディーノさん、全寮制の学校行ってたんだ……
「そう言えば柚子、家の事は話さないよね。」
『へ!?話す必要なんて無いじゃないですか。』
「別に気にならないからいいけど。」
そう言って紅茶を啜る雲雀さん。
あたしは少しだけ考えてから、ディーノさんに返す。
『正直、ですね……今ふっと寂しくなりました。』
「柚子…」
あたしの父は、もう帰らぬ人。
フルート奏者として世界に名を馳せたらしいけど、あたしはよく知らない。
でも、フルートを弾いてくれた事はちゃんと覚えてる。
母は今、何してるんだろーなー……
県一つ分くらいしか離れてないけど、電車が少ない地にある実家。
大学に通うのが不便だから、あたしは一人暮らしを選んだ。
全部、置いて来た。
家族も、幼少期の思い出も、友達も。
そんな事、この目まぐるしい日々に隠されたせいで、忘れていた。
振り返れば、やっぱり懐かしく感じるし、寂しく思う。
『不思議ですね……』
「ん?」
『今の今まで、あたし、全然寂しくありませんでした♪』
だってほら、あたしは今もちゃんと普通に笑っていられる。
『薄情な娘ですね、家政婦の仕事が忙しいからって、実家を忘れるなんて。』
それでもね、
それほど楽しく過ごせてるって事だよ、お母さん。
あたしは、どんな状況でも前を向いて歩いていられるようにって、いつも思ってる。
“置かれた状況”に嘆くくらいなら、楽しみ方を見つけたいって。
それは、紛れも無く両親から引き継いだ精神で……
『満足しちゃってるんですよ、家政婦生活に。雇い主は横暴な方ばかりですけど(笑)』
「柚子………すげぇな、ホントに。」
『え?』
目を見開いたディーノさんは、次の瞬間優しく微笑んだ。
「さすが、ツナが選んだ婚約者ってトコか。」
『だ、だからそれは…!』
「柚子、否定したらどうなるか……分かってるよね。」
『ひ…雲雀さん……』
背後からの圧力に、勝てなかった。
結局否定は出来ずじまい。
でも、やっぱり。
『ディーノさん、あたし……7号館が大好きですっ♪』
「そっか!」
『ところで……今日後ろにいる部下さん、何もしゃべらないんですね。』
「あぁ、ボノは寡黙なんだ。」
『そうなんですかぁ…』
---
-----
-----------
「じゃー、そろそろ帰るかな。」
「わざわざありがとうございました。」
『あの、お気をつけて!』
「おう!」
ディーノさん(とボノさん)を見送った後、あたしはふとツナさんの方を見た。
この人が、あたしをココに引き込んだ……
家政婦兼婚約者役として…
「ん?俺に見とれてんの?柚子。」
『みっ…見とれてませんっ!///』
「じゃあ、何考えてたんだよ。」
『大した事じゃないですっ!』
走り出そうとしても、捕まる。
腰に手が回される。
あぁダメだ、いつものパターンだコレ。
「ほら、言えよ。」
『だ、だからえっと………』
---「寂しかったりしねーのか?」
何て言えばいいんだろう……
『つ、つまりはですねぇ…』
「うん。」
『…………って事です…///』
「…!」
頑張って、勇気を振りしぼって、一言だけ。
そしたらツナさん、何も言わずに解放してくれた。
良く分からないけどとりあえずダッシュで逃げてみる。
けど、追われなかった。
---
-----
「何だよソレ……いきなりとか、反則だろ…///」
紅潮を隠すように片手で顔を覆うツナ。
その脳裏には、3秒前の柚子の言葉がひたすら響いていた。
---『あたしは今、幸せって事です…///』
ノスタルジア
引きずり込まれた7号館は、寂しさすらも癒してくれてた
continue...
『あ…………あぁーーっ!!!』
おはようございます、柚子です。
ポストを開けて吃驚。
そこに入っていたのは何と、フルートコンクールの結果通知書。
「…んだよ…朝からうるせーな………」
『あ…ご、獄寺さん………コレ、開けて見て下さい!!んでもって、あたしに結果をそうっと教えて下さい!!』
「はぁ!?何で俺が…」
『お願いします!!』
だって、緊張しちゃって自分じゃ見れないんだもの。
人から結果を聞くくらいなら何とか…耐えられる、よね……
うん…
「ったく…」
ベリッという開封音の後、パサッという紙を広げる音。
ビクビクしながら獄寺さんの表情を伺うあたし。
「…………“通過”。」
『…ほえ?』
「一次予選、受かってるってよ。」
『ほ、ホントですかっ!!?』
「当たりめーだろ!嘘なんかつくワケ………柚子っ!??」
ぶわっ、と涙が溢れ出した。
あー…まだ一次予選なのにな、全然遠いのにな。
「なっ……おい柚子!」
『ず、ずびまぜんっ……緊張がとけたみたいで……』
ぽろぽろと零れる涙を止められずにいると、獄寺さんはスッと手を伸ばして。
「…バーカ。」
『ひょぇっ…!///』
ぎゅ、とあたしの頬をこすった。
その仕草に思わず赤面した直後、獄寺さんの背後に目が行く。
そして……固まった。
「何、してんの?」
「じゅっ、10代目っ!!」
『ツナさんっ!!』
「獄寺君もしかして…柚子のこと、泣かせた?」
「いえ!そーゆーワケでは…!」
『あ、あのっ…あたしが勝手に泣いたんですっ!!しかもコレ、嬉し泣きですっ…!!』
暗黒オーラを放ちながら立っているツナさんに、あたしは慌てて説明した。
フルートコンクールに合格した、と。
「あぁ、まだ柚子は知らなかったんだっけ。」
『………え?』
「俺、一昨日くらいにはもう知ってたけど。」
間。
『ええぇえぇぇ!!?』
「叫び過ぎ。」
『ふぎゅっ……!しゅ、しゅみましぇん…』
ツナさんに両頬を潰される。
ってゆーか!
『どーしてあたしに教えてくれなかったんですかぁ!!』
「だって、受かって当然だろ?」
出た、お得意の意地悪スマイル。
「何だって?」
『何でもございません!』
「……とにかく、柚子は俺の婚約者なんだから、一次くらいは通過して当然。」
『な、何ですかその理屈……意味不明ですよ…』
まぁ、受かってたんならそれでいーんですけど……
「あ、それと二次予選の曲も決まったワケだし、練習始めないとな。」
『あ"……』
パッと手紙を確認すると、曲目が書いてあった。
ライネッケのフルートソナタ『ウンディーネ』より、第一楽章(Allegro)……
二次予選は直前音合わせがちゃんと出来るらしい。
試験で一緒に弾くピアノ奏者がスタンバイしてるそうだ。
「それと、今日は客が来るから。」
『へ?』
「だから柚子、お茶菓子とか用意しとけよ。」
『う…了解でーす。』
今度は一体誰が来るんだろう…
また知らない人、特に怖い人だったらヤダなぁ……。
そんな事を考えながら、朝食を作るためキッチンへと向かった。
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------
-----------
『お茶菓子、お茶菓子っと……』
あっと言う間に昼になり、あたしは今戸棚を漁り中。
てゆーかツナさん、何時にお客様が見えるか教えてくれないんだもん。
『もーっ、後で文句言ってやるっ。』
「ふぅん…それは見物だね。」
『………え"?』
独り言に返事をされ、あたしは恐る恐る後ろを向く。
と、そこに立っていたのは…
「柚子が沢田に文句つける姿、楽しみだな。」
『雲雀さん!!帰って来てらしたんですか!』
「今日は2限しか受けてないから。」
『そうでしたか!あ、でも、文句言うってゆーのは冗談ですっ。』
「なんだ、言わないの。見てみたかったよ。」
『ど、どーしてですかぁ……』
探し当てたクッキーをお皿に盛りつけながら、尋ねてみる。
……勿論、普通の答えが返ってくるとも思ってないけど。
「沢田が柚子をいじめてる姿は、案外面白い事に最近気がついてね。」
『なっ…んなワケないじゃないですかぁ!!そんな事に気がつかないで下さいっ!あたしは面白くも何ともっ…』
ピーンポーン…
『あ、はーいっ!!』
雲雀さんの意地悪発言に反論していたその時、チャイムが鳴って、あたしは慌てて玄関へと駆け出す。
ガチャ、
『あ……!』
「おっ、柚子じゃねーか!」
忘れもしない、1週間ほど前の事。
突然イタリアからやって来た、同盟ファミリーのボスが、
今再びあたしの目の前に。
『お、お久しぶりですディーノさんっ!お変わりないようで何よりです♪』
「久しぶりって程でもねーけどな!また会えて嬉しいぜ、柚子。」
『あたしもです!』
ディーノさんは挨拶代わりにあたしの頭を撫でる。
うん、この手の平のあったかさも変わってないなぁ…///
「あぁ、また来たんだ。」
「よぉ恭弥、元気にしてたか?」
「貴方が来る前までね。」
「けっ、相変わらず捻くれてんなー。」
お2人は結構な知り合いっぽい。
何だか不思議だなー、と思っていると、ディーノさんは再びあたしの方を向いて。
「柚子も、相変わらず可愛いな♪」
『えっ……えぇええぇ!!?///』
い、いきなり何を言い出すのこのお方ーーー!!!
ホントに、何度も言うけど、前世はホストなんじゃ……!!
「ディーノさん、俺の柚子なんで口説かないで下さい。」
「お。」
『あ…』
ちょうど、雲雀さんが立ってる横の部屋から、ツナさんが出て来た。
出て来たと同時にサラッととんでもない発言をした。
「よっ、ツナ!挨拶代わりだって、悪ぃ悪ぃ!」
「ならいーんですけど。」
『………(汗)』
え?何故(汗)かって?
そりゃー誰だって冷や汗かきますよ、ツナさんのこの暗黒笑いを見れば。
「何か言った?」
『いえ!』
「じゃあディーノさん、広間にどうぞ。柚子、お茶と菓子。」
『あ、はい只今!』
「雲雀さんも、一緒にどうですか?」
「…重要な話でもするのかい?」
「はい、6日後の……」
「あぁ…あの“群れる会”のことか。………分かった、聞くよ。」
皆さんは何だか大切な事を話し合う(?)みたい。
あたし、聞いても大丈夫かなぁ…?
不安になりながらも、用意した紅茶とクッキーを運んだ。
『失礼しまーす……』
極力音を立てないように、そうっとカップとお皿を置く。
「サンキュー、柚子♪」
『いえいえ!///』
ニカッと笑いかけてくれたディーノさんに、お辞儀を一つ。
う~ん、だいぶ家政婦ライフに慣れて来たようなそうでないような。
「……で、会場なんだが、ウチのホールに決まったんだ。」
「キャバッローネの…何番ホールですか?」
「勿論、第1ホールだぜ♪何たってボンゴレ10代目フィアンセのお披露目だからな!」
『(………あれ?)』
今のは何だろう?
“ボンゴレ10代目のフィアンセ”……?
あ、ついにツナさんが本物のフィアンセを見つけて…
「何バカなこと言ってるの、柚子。」
『言ってません!読まないで下さい!!』
「ちょうどいいから、柚子も聞けよ。」
「そーだな!」
『は、はぁ……』
よく分からないまま、ツナさんの隣の椅子に座る。
(無言の圧力を感じたから)
「つーワケで、会場がキャバッローネだから装飾は俺らが担当になった。で、そっちの案は全部採用されたぜ。」
「そうですか、それは良かった。」
……何の事かさっぱり分からない。
「まぁ簡単に言えば、今度演奏会を開くんだよ。」
『へ?』
「僕たちが出した案は、日程と曲について。それが全て通ったって事。」
『えと、ご説明ありがとうございます…』
雲雀さんにお礼を言うあたしの横で、ツナさんがディーノさんに尋ねる。
「それで、向こうの人たちは…?」
「あぁ、実はまだ伝わってねぇみてーなんだ。ツナから笹川に連絡してもらってもいいか?アイツ今、向こうにいるんだろ?」
「分かりました。……じゃあ手っ取り早く今電話してきます。」
「おう、悪ぃな。」
………またまた何の話か分からない。
「今度の演奏会は、僕らだけで演奏するワケじゃないんだ。管弦楽団が加わるんだよ。」
『そうなんですかぁ!すごいですね!!』
てかさっきから雲雀さん、あたしの心の声に応答して……
「悪い?」
『いえ!助かっております…!』
「あははっ!恭弥ー、あんま柚子をいじめるなよ?」
「いじめてない。」
「ったく…」
ツナさんが席を外して、何だかぽっかり空間に穴が空いたような感じ。
そんな事を思いながらボーッとしていると、ディーノさんに話しかけられた。
「柚子、」
『あ、はい!何でしょうか?』
「柚子は…親元を離れてるんだよな?」
『そう、なりますね……』
元々、大学生になったら一人暮らしするって事で、ちゃんと部屋借りる予定だったんだけど。
いきなり家具とか移動させられてるし、最初は本当に吃驚したなぁ……
まだそんなに経っていないのに、もう随分昔のように感じられる。
「寂しかったりしねーのか?」
『えっ…?』
「俺も、ガキの頃から寮生活でさ……あん時は帰りたい思いでいっぱいだったんだよな。だから、柚子はどーなのか気になってさ。」
ディーノさん、全寮制の学校行ってたんだ……
「そう言えば柚子、家の事は話さないよね。」
『へ!?話す必要なんて無いじゃないですか。』
「別に気にならないからいいけど。」
そう言って紅茶を啜る雲雀さん。
あたしは少しだけ考えてから、ディーノさんに返す。
『正直、ですね……今ふっと寂しくなりました。』
「柚子…」
あたしの父は、もう帰らぬ人。
フルート奏者として世界に名を馳せたらしいけど、あたしはよく知らない。
でも、フルートを弾いてくれた事はちゃんと覚えてる。
母は今、何してるんだろーなー……
県一つ分くらいしか離れてないけど、電車が少ない地にある実家。
大学に通うのが不便だから、あたしは一人暮らしを選んだ。
全部、置いて来た。
家族も、幼少期の思い出も、友達も。
そんな事、この目まぐるしい日々に隠されたせいで、忘れていた。
振り返れば、やっぱり懐かしく感じるし、寂しく思う。
『不思議ですね……』
「ん?」
『今の今まで、あたし、全然寂しくありませんでした♪』
だってほら、あたしは今もちゃんと普通に笑っていられる。
『薄情な娘ですね、家政婦の仕事が忙しいからって、実家を忘れるなんて。』
それでもね、
それほど楽しく過ごせてるって事だよ、お母さん。
あたしは、どんな状況でも前を向いて歩いていられるようにって、いつも思ってる。
“置かれた状況”に嘆くくらいなら、楽しみ方を見つけたいって。
それは、紛れも無く両親から引き継いだ精神で……
『満足しちゃってるんですよ、家政婦生活に。雇い主は横暴な方ばかりですけど(笑)』
「柚子………すげぇな、ホントに。」
『え?』
目を見開いたディーノさんは、次の瞬間優しく微笑んだ。
「さすが、ツナが選んだ婚約者ってトコか。」
『だ、だからそれは…!』
「柚子、否定したらどうなるか……分かってるよね。」
『ひ…雲雀さん……』
背後からの圧力に、勝てなかった。
結局否定は出来ずじまい。
でも、やっぱり。
『ディーノさん、あたし……7号館が大好きですっ♪』
「そっか!」
『ところで……今日後ろにいる部下さん、何もしゃべらないんですね。』
「あぁ、ボノは寡黙なんだ。」
『そうなんですかぁ…』
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「じゃー、そろそろ帰るかな。」
「わざわざありがとうございました。」
『あの、お気をつけて!』
「おう!」
ディーノさん(とボノさん)を見送った後、あたしはふとツナさんの方を見た。
この人が、あたしをココに引き込んだ……
家政婦兼婚約者役として…
「ん?俺に見とれてんの?柚子。」
『みっ…見とれてませんっ!///』
「じゃあ、何考えてたんだよ。」
『大した事じゃないですっ!』
走り出そうとしても、捕まる。
腰に手が回される。
あぁダメだ、いつものパターンだコレ。
「ほら、言えよ。」
『だ、だからえっと………』
---「寂しかったりしねーのか?」
何て言えばいいんだろう……
『つ、つまりはですねぇ…』
「うん。」
『…………って事です…///』
「…!」
頑張って、勇気を振りしぼって、一言だけ。
そしたらツナさん、何も言わずに解放してくれた。
良く分からないけどとりあえずダッシュで逃げてみる。
けど、追われなかった。
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「何だよソレ……いきなりとか、反則だろ…///」
紅潮を隠すように片手で顔を覆うツナ。
その脳裏には、3秒前の柚子の言葉がひたすら響いていた。
---『あたしは今、幸せって事です…///』
ノスタルジア
引きずり込まれた7号館は、寂しさすらも癒してくれてた
continue...