🎼本編
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どーやったって勝てっこないのは知ってます。
知ってますけど………
『絶対絶対嫌ですーっ!!!』
「何でだよ、折角イーピンが持って来てくれたのに。」
『それは大変感謝してますけど、だからってどーして今ココでなんですか!!』
「どーしてって……そりゃぁ、俺が見たいから。」
『私利私欲じゃないですか!!』
「いーだろ、別に。」
『良くないです!!』
とりあえず今は反論しまくる。
力の限り!!
「あ、あの……沢田さん、柚子さん、喧嘩しないで下さい…!」
「喧嘩じゃないんだよイーピン。これは未来の夫婦になる為の……」
『何ヘンテコな事吹き込んでんですかっ!!違いますからね、夫婦じゃなくて…あ、えと………もーっ!!』
「柚子さん…??」
「否定出来るならしてみろよ。どうなるか、分かってるよな?」
『うっ……ツナさんの横暴ーっ!!』
では、この辺でババッと今の状況を説明します。
ツナさんが婚約したという(偽の)噂を耳にしてやって来た、元・香港の殺し屋イーピンちゃん。
彼女はつい最近足を洗って、今は普通に勉強してるそうで。
ちなみにこないだ来たランボ君と幼馴染みだとか。
とっても可愛いおさげ少女で、お会い出来て嬉しいんですけど………
お土産にとんでもない物を持って来られまして。
『とにかく今は嫌ですっ!チャイナドレスって体のライン出ちゃうじゃないですかぁ!!///』
「そうだな。」
『軽く流さないで下さい!!あ、イーピンちゃんが悪いんじゃないですよっ、あたしは今ココで着るのがちょっと……』
「ごめんなさい柚子さん、こんなもめ事になるなんて……」
眉を下げるイーピンちゃんに必死に弁解すると、すかさずツナさんが「じゃあ着ろ」とか言う。
ふんっ、その手には騙されないんだから!
「柚子、折角の土産だぜ?どうしてイーピンに着用姿見せないんだよ。」
「えっ!?わ、私は柚子さんがダメって言うなら……」
『ツナさん!イーピンちゃんまで困らせないで下さい!!』
全く、権力使ったり情につけ込んだり、策士なボスめ!
けど負けないもん。
「あ、大変!」
『ほえ?』
「ん?」
時計を見て、口を開けて驚くイーピンちゃん。
「私、これから塾があるんでした!!」
『えっ?あ、ではお見送りしますっ。』
「すみません、もう少しお2人のお話聞きたかったんだけど…」
「またいつでも来ていいから。」
あーもう、どうしてお客様に対してはこんなに普通の真っ白な笑みを見せるんだ。
差別か。
あたしは虐められてるのか。
「では、またいつか。」
『はい!お待ちしてますね♪』
「またな。」
イーピンちゃんを見送って、パタンとドアが閉まる。
と、その瞬間。
「それじゃー柚子、」
『ひぇっ…!』
こちらに向けられた黒笑いに、思わず数歩後退り。
「イーピンいなくなった事だし、着てみろよ。」
『どーしてそーなるんですかぁ!!絶対絶対嫌ですーっ!!』
「だってほら、今みんな授業だし、雲雀さんとリボーンは仕事行ってるし、俺にしか見られないじゃんか。」
『だから何ですか!嫌ですよ!!』
そっぽを向いて、そのまま駆け出そうとする。
だけどツナさんは素早くあたしの手を掴んで、引き寄せた。
『きゃっ…!』
「柚子、俺の言う事が聞けない?」
『なっ…///』
また心臓爆発させるような声で囁く。
不可抗力で赤くなってしまう顔を必死に逸らしながら、反論した。
『だ、だって……』
「だって、何だよ。」
最近、ツナさんのお土産を食べ過ぎたの。
それは甘味であることが多くて、
女の子として目を逸らしたいような測定結果が出てしまった。
別にツナさんのせいだ、なんて言わない。
自主規制出来なかったあたし自身の責任だから。
つーワケでとりあえず……
『どーっしてもチャイナドレスだけは着れないんですっ…!』
「…………何だ、それだけ。」
『そっ、それだけって何ですかぁ!!こんな重要な問題は他にありませんっ!!』
あたしの中のとてつもなく大きな悩みを、ちっぽけな事みたいに言うツナさん。
思わず睨んで反抗した。
けどツナさんは、笑みを絶やさず更に強く抱きしめる。
『ちょっ…』
「柚子は……可愛いよ。」
は い !?
突然の言葉に、思わず本気で固まった。
そんなあたしの髪を優しく撫でながら、ツナさんは続ける。
「柚子は俺の選んだ婚約者だぜ?可愛くないワケねーだろ。」
待って、
待ってよ。
いつにも増して顔が熱くなる。
こんな口説き文句しょっちゅうなのに、
つかプレイボーイは嫌われるって言ってんのに………
“選んだ”とか言われたら……
余計なこと考えちゃう。
「どんな服着たって、どんなドジやったって、やばいくらいバカな発言したって……柚子は可愛いよ。」
『つ、ツナさ……///』
「だから早く着ろ。」
………そうだった。
この横暴ボスは、目的の為なら色んな手段取るような腹黒ボスだった……。
「じゃねーと今月の給料減らすよ?」
『それは困りますけどっ…でも嫌なものは嫌です!!』
あーっ、まったく!
演技だって分かってるハズなのに、
いつもいつも引っかかってしまう自分が悔しい!!
良かった、今回は正気に戻れて。
絶対絶対着るもんか!
「ただいまーっ。」
『あ、お帰りなさい!山本さんっ♪』
慌ててツナさんの腕を振り切って、笑顔でお出迎え。
爽やかに笑ってくれる山本さんは、ホントにあたしの癒しだ。
『ユニフォームお預かりします!』
「サンキュー♪お、ツナもいんじゃねーか。2人で迎えてくれるなんて珍しーのな!」
「ちょうど良かった。山本、柚子ってチャイナ……」
『わああああああ!!!///』
山本さんに何て事を聞こうとしてるの!!
「柚子が素直に着ないからだろ。」
『だってあたしっ………』
預かった山本さんの荷物をギュウウと抱えながら、俯く。
体重増えたから気にしてるって言ってるのに……
(*言ってません)
女の子にとっては物凄く大きな悩みなのにーっ……
『……横暴ボスはデリカシーも無いんですかっ!!?ツナさんのバカーっ!!///』
ダッ、
「あ。」
「柚子っ?」
『お洗濯して来ますっ…!』
山本さんに何も言わずに行くのは失礼かな、と思って。
とりあえず背を向けて走りながらそれだけ言った。
----
--------
「何か柚子、変じゃなかったか?」
「俺からの土産食い過ぎたから太った、とか何とか心の中で叫んでた。」
「んー………そか?」
いつもと変わんねーと思うけどなー、と呟く山本。
「んで、着るって何を着るんだ?また骸が持って来た面白ぇ衣装か?」
「イーピンが今日持って来た、本場のチャイナドレスだよ。」
「へぇー!すげぇな!柚子なら絶対似合うと思うぜっ♪」
「だから着ろって言ったんだけど、断固拒否するからさ。山本、説得してくれない?」
「俺が?」
自分を指差しキョトンとする山本に、ツナは軽く頷いた。
---
--------
チャイナドレスなんて、絶対絶対嫌。
とりあえず今は嫌。
いや、普段でも着たくはないんだけどさ。
『はぁーっ……』
洗濯機の前で1人、溜め息をついた。
「おっ、いたいた。」
『や、山本さんっ!どうしたんですかっ?まだ何か洗い物……』
「んー、そーじゃなくてさ。」
言葉を濁す山本さんに、あたしは首を傾げる。
『まさか……ツナさんから聞いたんですか?』
「あー、まぁな。」
やっぱ隠せねぇな、って言う山本さんに、
正直なのは素敵です、と返す。
『ココに来てからもう、どれだけコスプレしたか分かりません。』
「確かに、色んな服来てるよなー。」
洗濯室の床に座り込むあたし。
隣に山本さんも腰を下ろす。
『いくら山本さんに言われても、今回はホントに無理なんです…。』
「俺は強制なんてするつもりねーんだけどな。ただ…柚子は何着ても似合うからさっ♪」
『はっ…反則ですよ、そんな言葉……///』
口を尖らせながら、さっきツナさんにも同じ事言われたなぁ、とか考える。
『お世辞とか気休めとか…現実見た時虚しくなるだけですから……』
「柚子…?」
『だってツナさん、どーせまた面白がってるだけですもん。』
あたしはいつも、振り回されてばっかり。
あの言葉だって、きっと。
---「柚子は……可愛いよ。」
『ホーント、策士過ぎて困っちゃいますっ。だからあたし……』
「策士?ツナが、か?」
ゆっくりと頷くと、いつの間にか目に溜まっていた涙がポロッと落ちた。
それを慌てて拭って、続ける。
『あたしには…分からないんですっ……!何にも分からないっ…』
「お、おい柚子っ!??」
突然泣いたせいか、山本さんは慌ててあたしの肩を抱く。
困らせちゃったなぁと思いながら、そのあったかさを嬉しく思う自分もいる。
『難しいんですよ…皆さん……何が冗談なんですか?何が嘘なんですか?一体どの言葉が……本気で真面目に向けられたモノなんですかっ……?』
必死に拭っても、後から後から溢れ出す。
抑えきれないし、止まらない。
「そっか、難しいか……俺はそんな風に思ったこと無かったな…」
『え?』
あたしの知る限り1番真直ぐな山本さんが、
あの難しい人達をちゃーんと理解してる…?
「いつだってさ、伝えたい事ってのは1個だと思うんだよな。」
『伝えたい、事……?』
「確かに、獄寺とか雲雀とか、あー…骸もか、変な言い回しするけどさ。俺的にはどれも真直ぐだなーって。」
『そ、それは山本さんが凄いからですよ……あたしには到底…』
「んな事ないぜ。」
見上げた先にある明るい笑顔は、あたしを慰めてくれて。
「ツナは色んな言い方するけどさ、やっぱ柚子に言いたい事は、たった1つなんだ。」
『あたし、に?』
「その場でパパッと汲み取るのも、案外簡単な気がする。ツナは1番真直ぐだからなっ!」
ツナさんが、真直ぐ……?
あの横暴腹黒大王が、1番真直ぐ…?
『(う~~~む…)』
それはどーなんだろうと考える。
だってツナさんは、しょっちゅう回りくどく言うし、
恐怖発言も連発するし、
意味不明発言だって連発するし……
今日だって…
ドレス着ろ、とか
給料減らす、とか
脅しかと思うと…
可愛い、とか
何でも似合う、とか
変に誉めたり……
「喋り方のクセみてーなモンだな、長く付き合ってれば柚子もきっと気付くようになるぜ♪」
『そう、ですかぁ……』
長く、って…ちょっとアレですけど。
まぁそこら辺は置いといて。
「ツナの場合は……ほら、アレみたいなモンだって。1つの点から直線が四方八方に伸びる感じな!」
『四方八方…』
「柚子は2つの点を直線で繋ぐ感じな!こう考えるとどっちも真直ぐだろ、なっ♪」
言われた内容をそのまま解釈すれば、ツナさんもあたしも真直ぐ、という事になる。
だとしたら、“1つの点”って何だろう…
『(あ……!)』
そっか、“伝えたい事の根源”だ。
「おっ、泣き止んだなっ♪」
『あ……はいっ♪ありがとうございます!』
やっぱり、山本さんは良い人だな。
その笑顔に背中を押されると、不思議と軽い気持ちになって来る。
あぁ、もう少しだけ頑張ってみよう。
ちゃんと向き合って、自分なりに納得してみよう。
そんな明るい考え方が、頭の中に沸き起こって来る。
『あたし、ツナさんに謝らなくちゃ!』
「1人で平気か?」
『はいっ、頑張ります!!』
廊下に出ると、コーヒーの香りが漂って来た。
って事は、ツナさんは大広間で飲んでるんだ!
大広間まで走る。
ツナさん、怒ってるかな?
去り際に「バカ」って叫んじゃったんだもん。
お咎めを考えるとブルーになるけど、ぶつかって行くのがあたしの取り柄だから。
『ツナさんっ…!』
「柚子…」
大広間でテレビを見ながら、ツナさんはコーヒーを飲んでいた。
ちょっとだけ駆け寄って、頭を下げる。
『ごめんなさいっ、さっきあたし……』
「コレ、食べる?」
『へ…?』
人が真剣に謝ってるのに……
とか思うのを、一生懸命抑える。
『な、何ですかソレ。』
「こないだ献上されたシュガーラスク。」
『ラスク…!?』
この期に及んでまだあたしにスイーツを勧めるんですか!!
どんな思考回路してるのさ、この人。
『だ、だからあたしは……』
「おいしいなぁ、ホントに美味いよ。」
バリバリ…
見せつけるように食べるツナさん。
あああホントに美味しそうっ…!
でも今はあたしの敵!
スイーツは最大の敵なのよ柚子!!
「ってか、さっきの謝罪は何だよ。コップでも割った?だったら柚子弁償な。」
『ち、違いますっ!!さっき…ツナさんの事……バカって言っちゃって…だからその…』
「お詫びにチャイナドレス着るんだ。」
『それも違います!違います、けど……』
あたしには、やっぱり分からないのかな。
ツナさんの言葉に共通してる“メッセージ”。
「……こんなの1枚じゃ、何も変わんねーよ…///」
『えっ…?』
見ると、ツナさんは向こう側を向いていて。
全く表情が分からない。
「だからさ………食えよ、命令。」
『め、命令ですかっ!?』
あ、ちょっと待って。分かっちゃったかも。
『(もしかして、もしかすると……)』
---「…………何だ、それだけ。」
---「柚子は……可愛いよ。」
---「コレ、食べる?」
---「何も変わんねーよ…」
どれも、これも、
“気にするな”って、言ってくれてるの……?
「今度はどーしたんだよ、ボーッとして。」
ダメだ、ちょっと涙出そう。
「柚子?」
『………………着ます。』
「は?」
『あと1kg減ったらっ……ちゃんとアレ、着ますからっ…!///』
「なっ、おい!柚子っ!?」
引き止めるツナさんを無視して、自室までダッシュ。
ツナさんの台詞の共通メッセージ、どんなに考えたってソレくらいしか思いつかなかった。
思い違いかも知れない。
ただの奢りかも知れない。
それでもただ、嬉しかった。
ニュートラル
言葉の解釈法を教えてくれた、爽やかな仲裁者に感謝。
continue...
知ってますけど………
『絶対絶対嫌ですーっ!!!』
「何でだよ、折角イーピンが持って来てくれたのに。」
『それは大変感謝してますけど、だからってどーして今ココでなんですか!!』
「どーしてって……そりゃぁ、俺が見たいから。」
『私利私欲じゃないですか!!』
「いーだろ、別に。」
『良くないです!!』
とりあえず今は反論しまくる。
力の限り!!
「あ、あの……沢田さん、柚子さん、喧嘩しないで下さい…!」
「喧嘩じゃないんだよイーピン。これは未来の夫婦になる為の……」
『何ヘンテコな事吹き込んでんですかっ!!違いますからね、夫婦じゃなくて…あ、えと………もーっ!!』
「柚子さん…??」
「否定出来るならしてみろよ。どうなるか、分かってるよな?」
『うっ……ツナさんの横暴ーっ!!』
では、この辺でババッと今の状況を説明します。
ツナさんが婚約したという(偽の)噂を耳にしてやって来た、元・香港の殺し屋イーピンちゃん。
彼女はつい最近足を洗って、今は普通に勉強してるそうで。
ちなみにこないだ来たランボ君と幼馴染みだとか。
とっても可愛いおさげ少女で、お会い出来て嬉しいんですけど………
お土産にとんでもない物を持って来られまして。
『とにかく今は嫌ですっ!チャイナドレスって体のライン出ちゃうじゃないですかぁ!!///』
「そうだな。」
『軽く流さないで下さい!!あ、イーピンちゃんが悪いんじゃないですよっ、あたしは今ココで着るのがちょっと……』
「ごめんなさい柚子さん、こんなもめ事になるなんて……」
眉を下げるイーピンちゃんに必死に弁解すると、すかさずツナさんが「じゃあ着ろ」とか言う。
ふんっ、その手には騙されないんだから!
「柚子、折角の土産だぜ?どうしてイーピンに着用姿見せないんだよ。」
「えっ!?わ、私は柚子さんがダメって言うなら……」
『ツナさん!イーピンちゃんまで困らせないで下さい!!』
全く、権力使ったり情につけ込んだり、策士なボスめ!
けど負けないもん。
「あ、大変!」
『ほえ?』
「ん?」
時計を見て、口を開けて驚くイーピンちゃん。
「私、これから塾があるんでした!!」
『えっ?あ、ではお見送りしますっ。』
「すみません、もう少しお2人のお話聞きたかったんだけど…」
「またいつでも来ていいから。」
あーもう、どうしてお客様に対してはこんなに普通の真っ白な笑みを見せるんだ。
差別か。
あたしは虐められてるのか。
「では、またいつか。」
『はい!お待ちしてますね♪』
「またな。」
イーピンちゃんを見送って、パタンとドアが閉まる。
と、その瞬間。
「それじゃー柚子、」
『ひぇっ…!』
こちらに向けられた黒笑いに、思わず数歩後退り。
「イーピンいなくなった事だし、着てみろよ。」
『どーしてそーなるんですかぁ!!絶対絶対嫌ですーっ!!』
「だってほら、今みんな授業だし、雲雀さんとリボーンは仕事行ってるし、俺にしか見られないじゃんか。」
『だから何ですか!嫌ですよ!!』
そっぽを向いて、そのまま駆け出そうとする。
だけどツナさんは素早くあたしの手を掴んで、引き寄せた。
『きゃっ…!』
「柚子、俺の言う事が聞けない?」
『なっ…///』
また心臓爆発させるような声で囁く。
不可抗力で赤くなってしまう顔を必死に逸らしながら、反論した。
『だ、だって……』
「だって、何だよ。」
最近、ツナさんのお土産を食べ過ぎたの。
それは甘味であることが多くて、
女の子として目を逸らしたいような測定結果が出てしまった。
別にツナさんのせいだ、なんて言わない。
自主規制出来なかったあたし自身の責任だから。
つーワケでとりあえず……
『どーっしてもチャイナドレスだけは着れないんですっ…!』
「…………何だ、それだけ。」
『そっ、それだけって何ですかぁ!!こんな重要な問題は他にありませんっ!!』
あたしの中のとてつもなく大きな悩みを、ちっぽけな事みたいに言うツナさん。
思わず睨んで反抗した。
けどツナさんは、笑みを絶やさず更に強く抱きしめる。
『ちょっ…』
「柚子は……可愛いよ。」
は い !?
突然の言葉に、思わず本気で固まった。
そんなあたしの髪を優しく撫でながら、ツナさんは続ける。
「柚子は俺の選んだ婚約者だぜ?可愛くないワケねーだろ。」
待って、
待ってよ。
いつにも増して顔が熱くなる。
こんな口説き文句しょっちゅうなのに、
つかプレイボーイは嫌われるって言ってんのに………
“選んだ”とか言われたら……
余計なこと考えちゃう。
「どんな服着たって、どんなドジやったって、やばいくらいバカな発言したって……柚子は可愛いよ。」
『つ、ツナさ……///』
「だから早く着ろ。」
………そうだった。
この横暴ボスは、目的の為なら色んな手段取るような腹黒ボスだった……。
「じゃねーと今月の給料減らすよ?」
『それは困りますけどっ…でも嫌なものは嫌です!!』
あーっ、まったく!
演技だって分かってるハズなのに、
いつもいつも引っかかってしまう自分が悔しい!!
良かった、今回は正気に戻れて。
絶対絶対着るもんか!
「ただいまーっ。」
『あ、お帰りなさい!山本さんっ♪』
慌ててツナさんの腕を振り切って、笑顔でお出迎え。
爽やかに笑ってくれる山本さんは、ホントにあたしの癒しだ。
『ユニフォームお預かりします!』
「サンキュー♪お、ツナもいんじゃねーか。2人で迎えてくれるなんて珍しーのな!」
「ちょうど良かった。山本、柚子ってチャイナ……」
『わああああああ!!!///』
山本さんに何て事を聞こうとしてるの!!
「柚子が素直に着ないからだろ。」
『だってあたしっ………』
預かった山本さんの荷物をギュウウと抱えながら、俯く。
体重増えたから気にしてるって言ってるのに……
(*言ってません)
女の子にとっては物凄く大きな悩みなのにーっ……
『……横暴ボスはデリカシーも無いんですかっ!!?ツナさんのバカーっ!!///』
ダッ、
「あ。」
「柚子っ?」
『お洗濯して来ますっ…!』
山本さんに何も言わずに行くのは失礼かな、と思って。
とりあえず背を向けて走りながらそれだけ言った。
----
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「何か柚子、変じゃなかったか?」
「俺からの土産食い過ぎたから太った、とか何とか心の中で叫んでた。」
「んー………そか?」
いつもと変わんねーと思うけどなー、と呟く山本。
「んで、着るって何を着るんだ?また骸が持って来た面白ぇ衣装か?」
「イーピンが今日持って来た、本場のチャイナドレスだよ。」
「へぇー!すげぇな!柚子なら絶対似合うと思うぜっ♪」
「だから着ろって言ったんだけど、断固拒否するからさ。山本、説得してくれない?」
「俺が?」
自分を指差しキョトンとする山本に、ツナは軽く頷いた。
---
--------
チャイナドレスなんて、絶対絶対嫌。
とりあえず今は嫌。
いや、普段でも着たくはないんだけどさ。
『はぁーっ……』
洗濯機の前で1人、溜め息をついた。
「おっ、いたいた。」
『や、山本さんっ!どうしたんですかっ?まだ何か洗い物……』
「んー、そーじゃなくてさ。」
言葉を濁す山本さんに、あたしは首を傾げる。
『まさか……ツナさんから聞いたんですか?』
「あー、まぁな。」
やっぱ隠せねぇな、って言う山本さんに、
正直なのは素敵です、と返す。
『ココに来てからもう、どれだけコスプレしたか分かりません。』
「確かに、色んな服来てるよなー。」
洗濯室の床に座り込むあたし。
隣に山本さんも腰を下ろす。
『いくら山本さんに言われても、今回はホントに無理なんです…。』
「俺は強制なんてするつもりねーんだけどな。ただ…柚子は何着ても似合うからさっ♪」
『はっ…反則ですよ、そんな言葉……///』
口を尖らせながら、さっきツナさんにも同じ事言われたなぁ、とか考える。
『お世辞とか気休めとか…現実見た時虚しくなるだけですから……』
「柚子…?」
『だってツナさん、どーせまた面白がってるだけですもん。』
あたしはいつも、振り回されてばっかり。
あの言葉だって、きっと。
---「柚子は……可愛いよ。」
『ホーント、策士過ぎて困っちゃいますっ。だからあたし……』
「策士?ツナが、か?」
ゆっくりと頷くと、いつの間にか目に溜まっていた涙がポロッと落ちた。
それを慌てて拭って、続ける。
『あたしには…分からないんですっ……!何にも分からないっ…』
「お、おい柚子っ!??」
突然泣いたせいか、山本さんは慌ててあたしの肩を抱く。
困らせちゃったなぁと思いながら、そのあったかさを嬉しく思う自分もいる。
『難しいんですよ…皆さん……何が冗談なんですか?何が嘘なんですか?一体どの言葉が……本気で真面目に向けられたモノなんですかっ……?』
必死に拭っても、後から後から溢れ出す。
抑えきれないし、止まらない。
「そっか、難しいか……俺はそんな風に思ったこと無かったな…」
『え?』
あたしの知る限り1番真直ぐな山本さんが、
あの難しい人達をちゃーんと理解してる…?
「いつだってさ、伝えたい事ってのは1個だと思うんだよな。」
『伝えたい、事……?』
「確かに、獄寺とか雲雀とか、あー…骸もか、変な言い回しするけどさ。俺的にはどれも真直ぐだなーって。」
『そ、それは山本さんが凄いからですよ……あたしには到底…』
「んな事ないぜ。」
見上げた先にある明るい笑顔は、あたしを慰めてくれて。
「ツナは色んな言い方するけどさ、やっぱ柚子に言いたい事は、たった1つなんだ。」
『あたし、に?』
「その場でパパッと汲み取るのも、案外簡単な気がする。ツナは1番真直ぐだからなっ!」
ツナさんが、真直ぐ……?
あの横暴腹黒大王が、1番真直ぐ…?
『(う~~~む…)』
それはどーなんだろうと考える。
だってツナさんは、しょっちゅう回りくどく言うし、
恐怖発言も連発するし、
意味不明発言だって連発するし……
今日だって…
ドレス着ろ、とか
給料減らす、とか
脅しかと思うと…
可愛い、とか
何でも似合う、とか
変に誉めたり……
「喋り方のクセみてーなモンだな、長く付き合ってれば柚子もきっと気付くようになるぜ♪」
『そう、ですかぁ……』
長く、って…ちょっとアレですけど。
まぁそこら辺は置いといて。
「ツナの場合は……ほら、アレみたいなモンだって。1つの点から直線が四方八方に伸びる感じな!」
『四方八方…』
「柚子は2つの点を直線で繋ぐ感じな!こう考えるとどっちも真直ぐだろ、なっ♪」
言われた内容をそのまま解釈すれば、ツナさんもあたしも真直ぐ、という事になる。
だとしたら、“1つの点”って何だろう…
『(あ……!)』
そっか、“伝えたい事の根源”だ。
「おっ、泣き止んだなっ♪」
『あ……はいっ♪ありがとうございます!』
やっぱり、山本さんは良い人だな。
その笑顔に背中を押されると、不思議と軽い気持ちになって来る。
あぁ、もう少しだけ頑張ってみよう。
ちゃんと向き合って、自分なりに納得してみよう。
そんな明るい考え方が、頭の中に沸き起こって来る。
『あたし、ツナさんに謝らなくちゃ!』
「1人で平気か?」
『はいっ、頑張ります!!』
廊下に出ると、コーヒーの香りが漂って来た。
って事は、ツナさんは大広間で飲んでるんだ!
大広間まで走る。
ツナさん、怒ってるかな?
去り際に「バカ」って叫んじゃったんだもん。
お咎めを考えるとブルーになるけど、ぶつかって行くのがあたしの取り柄だから。
『ツナさんっ…!』
「柚子…」
大広間でテレビを見ながら、ツナさんはコーヒーを飲んでいた。
ちょっとだけ駆け寄って、頭を下げる。
『ごめんなさいっ、さっきあたし……』
「コレ、食べる?」
『へ…?』
人が真剣に謝ってるのに……
とか思うのを、一生懸命抑える。
『な、何ですかソレ。』
「こないだ献上されたシュガーラスク。」
『ラスク…!?』
この期に及んでまだあたしにスイーツを勧めるんですか!!
どんな思考回路してるのさ、この人。
『だ、だからあたしは……』
「おいしいなぁ、ホントに美味いよ。」
バリバリ…
見せつけるように食べるツナさん。
あああホントに美味しそうっ…!
でも今はあたしの敵!
スイーツは最大の敵なのよ柚子!!
「ってか、さっきの謝罪は何だよ。コップでも割った?だったら柚子弁償な。」
『ち、違いますっ!!さっき…ツナさんの事……バカって言っちゃって…だからその…』
「お詫びにチャイナドレス着るんだ。」
『それも違います!違います、けど……』
あたしには、やっぱり分からないのかな。
ツナさんの言葉に共通してる“メッセージ”。
「……こんなの1枚じゃ、何も変わんねーよ…///」
『えっ…?』
見ると、ツナさんは向こう側を向いていて。
全く表情が分からない。
「だからさ………食えよ、命令。」
『め、命令ですかっ!?』
あ、ちょっと待って。分かっちゃったかも。
『(もしかして、もしかすると……)』
---「…………何だ、それだけ。」
---「柚子は……可愛いよ。」
---「コレ、食べる?」
---「何も変わんねーよ…」
どれも、これも、
“気にするな”って、言ってくれてるの……?
「今度はどーしたんだよ、ボーッとして。」
ダメだ、ちょっと涙出そう。
「柚子?」
『………………着ます。』
「は?」
『あと1kg減ったらっ……ちゃんとアレ、着ますからっ…!///』
「なっ、おい!柚子っ!?」
引き止めるツナさんを無視して、自室までダッシュ。
ツナさんの台詞の共通メッセージ、どんなに考えたってソレくらいしか思いつかなかった。
思い違いかも知れない。
ただの奢りかも知れない。
それでもただ、嬉しかった。
ニュートラル
言葉の解釈法を教えてくれた、爽やかな仲裁者に感謝。
continue...