🎼本編
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こんにちは、柚子です。
運命的な助けられ方をされてから20分、
只今、天国と地獄を同時に味わっています。
「へぇ、柚子はフルートが得意なのかぁ…すげぇな!」
『そ、それ程上手いってワケじゃ…///』
「フルートって清楚な感じがしていいよな?ロマーリオ。」
「そうだな、ボス。」
はうぅぅ~~…///
目の前で部下と一緒にランチを召し上がっているのは、キャバッローネってマフィアのボス・ディーノさん。
で、あたしの隣に座っているのは……
「柚子、紙1枚取ってくれる?」
『は、はい!』
どうしてか不機嫌オーラがにじみ出てるツナさん…。
あたし…何かしましたか?
いや、今日はツナさんの機嫌を損ねるような事はしてないはず!
むしろちゃんと言われた通りハルさんに着飾ってもらったし、婚約者役って事で今隣に座ってるワケだし……
あぁもう!わかんない!!
「にしても、ツナの婚約者がこんな美人だとはなー……」
『び、美人だなんてそんな!!勿体ないお言葉!!!///』
つーか婚約者じゃない!
フリです!!気付いて下さいっ!!
にしても…ディーノさんってカッコ良過ぎ…
世の中にこんなカッコいい人がいるなんて…知らなかった。
何処かの王子様か一流ホストかどっちかと思ったし。
マフィアのボスってカッコいい人いっぱいいるのかなぁ…?
それとも、最高ランクの人がココに来てるって事かなぁ…?
どっちでもいっか♪
『(とりあえず目の前を見てるだけならまだ天国な気分♪)』
問題は…隣に座る横暴ボスでして。
『あのっ、ディーノさんの金髪って、すごく綺麗ですよね!あたし、昔から金髪に憧れてて…』
「そか?柚子の髪も充分綺麗だと思うぜ♪」
『へっ!?』
スッと前に伸ばされるディーノさんの手。
吃驚して固まるあたしの髪を、ディーノさんが触れようと…
パシッ、
「ディーノさん、俺の柚子なんで。」
ツナさんが…
ツナさんが…
空気を冷たくしたーーー!!!!
「ははっ、そーだったな!悪ぃ!」
「さすがだぜボンゴレ10代目!」
いや、ディーノさんも部下も笑うトコじゃないと思います。
うん、ぶっちゃけこの瞬間の空気が地獄なんですよ。
ともあれ、雲雀さんに聞いていた(?)通り、ディーノさんは人懐っこい方で。
初対面のあたしにも笑顔で話しかけてくれる、山本さんのような癒し人だという事が判明した。
そりゃさ、ココで家政婦生活送ってれば癒しが必要になるよ。
毎日こき使われてるもんねー。
「ごちそーさま。」
『あ、あたしもです!』
にしても、ツナさんはどうしてこんなにプンスカしてるんだろ?
自分でご招待した、のかな?
「違ぇよ。」
『(ひえっ!)』
どうやらあたしの心の声は聞こえまくってたみたいで。
「その通り。散々色々言ってたな。」
『すみませんっ!!』
こっそりと話しかけるツナさん。
あたしは恐怖のあまり硬直。
「ディーノさんが柚子に会いたいって言うから…」
『あたしにじゃなくて、婚約者に、でしょう?だったらハルさんが…』
「少し前の食事会で挨拶したのは柚子だから。」
そうだった…
アレはいつになったら変更されるんだろう…(涙)
やっぱ偽名使っておけば良かった。
「んな事したら…」
『分かってます!しませんっ!!』
「なら良し。」
何か分からないけどとにかく恐ろしい事が待っているに違いない。
天地がひっくり返ったってあたしはツナさんに逆らえないようです。
「……俺としては非常に不本意だって事。」
『へ?何か言いましたか?』
「………別に。」
変なツナさん。
いつもみたいにハッキリ言えばいいのに。
いや、実はコレくらいがちょうどいいのかも知れない…。
だっていつもはグサグサ突き刺すように言い過ぎだもの。
「また随分と失礼な…」
『気のせいですっ!すみませんっ!!』
「ん?どした?柚子、ツナ。」
しまった!
あたしとした事が…つい大声出してディーノさんに首傾げられた!!
『えっと…』
「そうだ。ディーノさん、演奏室行きません?柚子がフルートを披露したいそうで。」
な、
なっ、
何を言ってくれてるんじゃこのボスはーーー!!!!
「キャラ壊れてる。(ボソ)」
『はっ…!』
---
-----
柚子のテンションがいつになく高い。
それはきっと、ディーノさんがいるからで。
その事実を認めるのが何だか嫌で、俺は1人で不機嫌になっていく。
男の嫉妬は醜いんだよな、やめなきゃな。
でも、さ…
『そうなんですかぁ!凄いですねっ!』
「柚子も今度遊びに来いよ、キャバッローネに。」
『あ、はい!時間が出来ましたら…』
あんなにニコニコしやがって。
つーかそんな時間作らせねぇっての。
着飾った柚子は本当に綺麗で、玄関のトコで正直見とれてた俺。
その間に柚子に駆け寄って挨拶したディーノさん。
瞬間、柚子の頬がほんのり赤くなったのが分かって、すごく悔しくなった。
あー、コレ本当に嫉妬だ。
ヤダな、やめなくちゃな。
「ツナ?遅いぞー?」
『あの、どうかしましたか?』
「あぁ、何でもない。」
いつの間にか開いていた俺と2人の距離。
何だか置いてかれたような感じでムッとする。
慌てて取り繕った笑顔は、また柚子に恐怖を与えてるのだろうか。
つか何で俺、柚子のフルート披露しようとしてんだよ。
俺は柚子を自慢したくて、
だけどディーノさんに取られるのは嫌で。
我が儘だな、ホント。
自己中とも言う、かもな。
『ツナさんっ、何弾けばいいんですか?』
「好きなのでいいよ。」
『う~~~…』
唸りながらも柚子は譜面台の方へと向かう。
と、次の瞬間顔を輝かせた。
多分、そこに適当な楽譜が置いてあったんだと思う。
『では、行きますっ。』
「おー。」
パチパチ…
ディーノさんとロマーリオさんが拍手を送る。
俺も小さく。
柚子は軽くお辞儀をして吹き始めた………
「(………って、ソレ!!)」
初めて骸を呪い殺そうかと思った。
柚子が今吹いている曲……
「(“愛の歌”じゃんかっ!!!)」
いや、でもディーノさんが曲名知ってるワケじゃ…
「これ、どっかで聞いたことあるなぁ…」
「愛の歌だぜ、ボス。ずっと前ローマの演奏会で…」
「ああ!」
何で知ってんだよ!!!
ストップ、柚子ストップ!!
そんな綺麗なカッコで愛の歌なんて弾いたら勘違いされるだろ!!
つか渡す気ないけどやめろ!
「ツナ、柚子って可愛いなー♪」
「当たり前じゃないですか。」
ほら、やめろって!
何か危険信号だっての!!
『(ツナ、さん…?)』
さっきから顔色が悪い…のかも。
よく分からないけど何だかいつもと違うなぁ…。
『ちょっとすみませんっ!』
演奏をやめて、ディーノさんに謝って、あたしはツナさんに駆け寄る。
ツナさんは吃驚したような表情をした。
「な、何だよ柚子…」
『大丈夫ですか?何処か具合でも…』
「あ、あぁ…」
『無理なさらないで下さいよ?あたし、お水でも持って来ましょうか?』
「いや、いい…大丈夫だから。」
『でもっ…』
一応心配だからそーゆー目を向ける。
そしたらツナさんはまた吃驚したような顔をして、
「分かったよ。」と席を立った。
トイレにでも行くのかな…?
パタン、
閉められてしまったドア。
しばらくそれを見つめていると、ディーノさんが急に話しかけて来た。
「なぁ柚子、」
『は、はい!』
「柚子は随分とかいがいしい婚約者だなー。」
えええ!!?
だから、フリなんですってば!
気付いて下さいディーノさんっ!!
『えっと…はぁ、まぁ…』
「あのさ、」
『はい?』
向けられたのは、真剣な目で。
微妙に身構えてしまったのは何でだろう、とか思う。
「俺と一緒に、イタリアに来ねぇか?」
『へっ…?』
「あー、何てゆーか…」
頭を掻きながら、ディーノさんは言う。
「要するに…俺は柚子が気に入った、って事で……」
『えぇっ!?///』
何て心臓に悪い事を言うの!この人は!!
前世はやっぱりホストなんじゃ…
いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃないっ!!
『えっと、その…』
「それに、ヨーロッパの方がフルート極められる。いい音楽団にも入れると思うぜ?」
『それはまぁ、そうですね……』
確かに、あたしはフルートが好き。
ヨーロッパは憧れの地。
でも…
ココに来たのはフルートだけじゃなくて……
---「器楽サークルとして、こんなに嬉しい事はないよ。」
『あの、ですね。』
「ん?」
あたしの返答を待っててくれるディーノさんは、やっぱり優しくて素敵な人。
横暴なココのボスさんとは大違い。
だから、一生懸命その目を見て、自分の意見を伝えなきゃ。
『あたし、すっごくヨーロッパ行きたいです。行きたいですけどっ…でも……』
あたしがココで家政婦なんてやってるのは、
やっぱりココに惹かれたから。
キュッと軽く拳を作ると、ディーノさんは聞く。
「ツナが好きか?」
『えっ!?///えっと……』
あたしは、ココに居たいんです。
本格的なフルート奏者を目指す前に、器楽サークルとしての時間を過ごしたいんです。
真直ぐ一流の奏者を目指してる人にとって、あたしのこの意見はバカみたいに思えるかも知れない。
だけど…それなりに理由があって。
それは……
『ツナさんのバイオリンは、最高なんですよっ♪聞いてると、幸せになるんです♪』
今のあたしがツナさんを褒められるのは、コレくらい。
でも、このポイントだけは、本当に心から実感してる事。
普段は横暴ボスなのに、あんなに素敵な音色を生み出す。
だから、あたしは願ってしまう。
ココでこの人の演奏を聴いていたい、と。
『えと、だから…』
「わーったよ。」
ポンッ、と乗せられたディーノさんの大きな手。
見上げるとそこには、やっぱり素敵な笑顔があって。
「ツナと一緒にココに居たいんだよな、柚子は。」
『(えと…)はい、まぁ…。』
「そか……おっと、もうこんな時間だ。ロマーリオ、フライト何時だ?」
「18時丁度だぜ、ボス。」
「んじゃそろそろ帰るぜ。またな、柚子♪」
『あ、はい!お気をつけて!』
お辞儀をしようとした、次の瞬間……
ちゅ。
『ほへっ……!?///』
「ツナに宜しくな!」
『あ、はい…』
突然の出来事にボーッとしている間に、ディーノさんと部下さんは帰ってしまった。
あ、あたし今……
『(ホッペにちゅーされた!?///)』
しかもしかもっ、
何だか「ツナさんが好きだからココに残ります!」
って言ったように解釈された!?
まーずーいーっ!!!
ヤバいヤバいヤバい!一大事っ!!
「あれ?柚子…ディーノさんは?」
『あ、たった今お帰りになりました…』
トイレから(?)戻って来たツナさんに、脱力しながら返事をした。
もうあたし…人生お終いかもしれない。
「柚子、」
『はい…何でしょう…』
「今日頑張ったから、休み2時間にしてやるよ。」
『…………頭打ったんですか?』
「やっぱやめようかな。」
『冗談です、すみませんっ!!有り難く休ませて頂きますっ!!』
「最初からそう言えよ。」
『うぅ…』
クスリ、と笑ったツナさんは、おもむろに演奏室の棚にあったバイオリンを取り出す。
『弾くんですかっ!?』
「たまには。」
そっけない返事だったけど、あたしは近くの椅子に座って、聴く事にした。
---
-------
ホントは、何処にも行ってなかった。
気配を消して、ドアの外に立ってた。
部屋出た直後に、2人きりにしちまった事を後悔して、そのまま盗み聞き。
---「一緒にイタリアに来ねぇか?」
来ると思ってた質問。
ディーノさんも柚子を気に入ってたみたいだったから。
だけど…
いつものように、バッチリ聞こえていた柚子の心の声。
ココに居たい、だなんて……本気で吃驚した。
無理矢理繋ぎ止めた俺の最愛の存在に、側に居たいと言われた気がして、
本気で嬉しくなった。
---『最高なんですよっ♪』
柚子を引き寄せる為に、数年前から練習したバイオリン。
それが、ようやく実ったような、そんな気がして。
思わず、弾いてあげようか、なんて思って。
目を輝かせる柚子を、改めて愛しく思って。
なぁ柚子、
俺は…どんな理由でも構わないから。
柚子が、隣に居てくれるだけで今は充分だから。
『(あれ?“愛の歌”だ……)』
「一緒に弾くか?」
俺のバイオリンで、君を繋ぎ止めておけるなら。
いくらでも聴かせるよ。
『いいんですか!?』
「ま、出来るならの話だけど。」
『任せて下さいっ!骸さんに結構練習させられましたから♪』
得意そうに笑う柚子に、
いつもと違う“本物の自然な笑み”を見せる。
「じゃあ、弾こうか。」
『はいっ!』
幸せだ、と
純粋に思った。
ツナ
横暴で腹黒ですぐ不機嫌になるけど、あたしがココにいる理由。
continue…
運命的な助けられ方をされてから20分、
只今、天国と地獄を同時に味わっています。
「へぇ、柚子はフルートが得意なのかぁ…すげぇな!」
『そ、それ程上手いってワケじゃ…///』
「フルートって清楚な感じがしていいよな?ロマーリオ。」
「そうだな、ボス。」
はうぅぅ~~…///
目の前で部下と一緒にランチを召し上がっているのは、キャバッローネってマフィアのボス・ディーノさん。
で、あたしの隣に座っているのは……
「柚子、紙1枚取ってくれる?」
『は、はい!』
どうしてか不機嫌オーラがにじみ出てるツナさん…。
あたし…何かしましたか?
いや、今日はツナさんの機嫌を損ねるような事はしてないはず!
むしろちゃんと言われた通りハルさんに着飾ってもらったし、婚約者役って事で今隣に座ってるワケだし……
あぁもう!わかんない!!
「にしても、ツナの婚約者がこんな美人だとはなー……」
『び、美人だなんてそんな!!勿体ないお言葉!!!///』
つーか婚約者じゃない!
フリです!!気付いて下さいっ!!
にしても…ディーノさんってカッコ良過ぎ…
世の中にこんなカッコいい人がいるなんて…知らなかった。
何処かの王子様か一流ホストかどっちかと思ったし。
マフィアのボスってカッコいい人いっぱいいるのかなぁ…?
それとも、最高ランクの人がココに来てるって事かなぁ…?
どっちでもいっか♪
『(とりあえず目の前を見てるだけならまだ天国な気分♪)』
問題は…隣に座る横暴ボスでして。
『あのっ、ディーノさんの金髪って、すごく綺麗ですよね!あたし、昔から金髪に憧れてて…』
「そか?柚子の髪も充分綺麗だと思うぜ♪」
『へっ!?』
スッと前に伸ばされるディーノさんの手。
吃驚して固まるあたしの髪を、ディーノさんが触れようと…
パシッ、
「ディーノさん、俺の柚子なんで。」
ツナさんが…
ツナさんが…
空気を冷たくしたーーー!!!!
「ははっ、そーだったな!悪ぃ!」
「さすがだぜボンゴレ10代目!」
いや、ディーノさんも部下も笑うトコじゃないと思います。
うん、ぶっちゃけこの瞬間の空気が地獄なんですよ。
ともあれ、雲雀さんに聞いていた(?)通り、ディーノさんは人懐っこい方で。
初対面のあたしにも笑顔で話しかけてくれる、山本さんのような癒し人だという事が判明した。
そりゃさ、ココで家政婦生活送ってれば癒しが必要になるよ。
毎日こき使われてるもんねー。
「ごちそーさま。」
『あ、あたしもです!』
にしても、ツナさんはどうしてこんなにプンスカしてるんだろ?
自分でご招待した、のかな?
「違ぇよ。」
『(ひえっ!)』
どうやらあたしの心の声は聞こえまくってたみたいで。
「その通り。散々色々言ってたな。」
『すみませんっ!!』
こっそりと話しかけるツナさん。
あたしは恐怖のあまり硬直。
「ディーノさんが柚子に会いたいって言うから…」
『あたしにじゃなくて、婚約者に、でしょう?だったらハルさんが…』
「少し前の食事会で挨拶したのは柚子だから。」
そうだった…
アレはいつになったら変更されるんだろう…(涙)
やっぱ偽名使っておけば良かった。
「んな事したら…」
『分かってます!しませんっ!!』
「なら良し。」
何か分からないけどとにかく恐ろしい事が待っているに違いない。
天地がひっくり返ったってあたしはツナさんに逆らえないようです。
「……俺としては非常に不本意だって事。」
『へ?何か言いましたか?』
「………別に。」
変なツナさん。
いつもみたいにハッキリ言えばいいのに。
いや、実はコレくらいがちょうどいいのかも知れない…。
だっていつもはグサグサ突き刺すように言い過ぎだもの。
「また随分と失礼な…」
『気のせいですっ!すみませんっ!!』
「ん?どした?柚子、ツナ。」
しまった!
あたしとした事が…つい大声出してディーノさんに首傾げられた!!
『えっと…』
「そうだ。ディーノさん、演奏室行きません?柚子がフルートを披露したいそうで。」
な、
なっ、
何を言ってくれてるんじゃこのボスはーーー!!!!
「キャラ壊れてる。(ボソ)」
『はっ…!』
---
-----
柚子のテンションがいつになく高い。
それはきっと、ディーノさんがいるからで。
その事実を認めるのが何だか嫌で、俺は1人で不機嫌になっていく。
男の嫉妬は醜いんだよな、やめなきゃな。
でも、さ…
『そうなんですかぁ!凄いですねっ!』
「柚子も今度遊びに来いよ、キャバッローネに。」
『あ、はい!時間が出来ましたら…』
あんなにニコニコしやがって。
つーかそんな時間作らせねぇっての。
着飾った柚子は本当に綺麗で、玄関のトコで正直見とれてた俺。
その間に柚子に駆け寄って挨拶したディーノさん。
瞬間、柚子の頬がほんのり赤くなったのが分かって、すごく悔しくなった。
あー、コレ本当に嫉妬だ。
ヤダな、やめなくちゃな。
「ツナ?遅いぞー?」
『あの、どうかしましたか?』
「あぁ、何でもない。」
いつの間にか開いていた俺と2人の距離。
何だか置いてかれたような感じでムッとする。
慌てて取り繕った笑顔は、また柚子に恐怖を与えてるのだろうか。
つか何で俺、柚子のフルート披露しようとしてんだよ。
俺は柚子を自慢したくて、
だけどディーノさんに取られるのは嫌で。
我が儘だな、ホント。
自己中とも言う、かもな。
『ツナさんっ、何弾けばいいんですか?』
「好きなのでいいよ。」
『う~~~…』
唸りながらも柚子は譜面台の方へと向かう。
と、次の瞬間顔を輝かせた。
多分、そこに適当な楽譜が置いてあったんだと思う。
『では、行きますっ。』
「おー。」
パチパチ…
ディーノさんとロマーリオさんが拍手を送る。
俺も小さく。
柚子は軽くお辞儀をして吹き始めた………
「(………って、ソレ!!)」
初めて骸を呪い殺そうかと思った。
柚子が今吹いている曲……
「(“愛の歌”じゃんかっ!!!)」
いや、でもディーノさんが曲名知ってるワケじゃ…
「これ、どっかで聞いたことあるなぁ…」
「愛の歌だぜ、ボス。ずっと前ローマの演奏会で…」
「ああ!」
何で知ってんだよ!!!
ストップ、柚子ストップ!!
そんな綺麗なカッコで愛の歌なんて弾いたら勘違いされるだろ!!
つか渡す気ないけどやめろ!
「ツナ、柚子って可愛いなー♪」
「当たり前じゃないですか。」
ほら、やめろって!
何か危険信号だっての!!
『(ツナ、さん…?)』
さっきから顔色が悪い…のかも。
よく分からないけど何だかいつもと違うなぁ…。
『ちょっとすみませんっ!』
演奏をやめて、ディーノさんに謝って、あたしはツナさんに駆け寄る。
ツナさんは吃驚したような表情をした。
「な、何だよ柚子…」
『大丈夫ですか?何処か具合でも…』
「あ、あぁ…」
『無理なさらないで下さいよ?あたし、お水でも持って来ましょうか?』
「いや、いい…大丈夫だから。」
『でもっ…』
一応心配だからそーゆー目を向ける。
そしたらツナさんはまた吃驚したような顔をして、
「分かったよ。」と席を立った。
トイレにでも行くのかな…?
パタン、
閉められてしまったドア。
しばらくそれを見つめていると、ディーノさんが急に話しかけて来た。
「なぁ柚子、」
『は、はい!』
「柚子は随分とかいがいしい婚約者だなー。」
えええ!!?
だから、フリなんですってば!
気付いて下さいディーノさんっ!!
『えっと…はぁ、まぁ…』
「あのさ、」
『はい?』
向けられたのは、真剣な目で。
微妙に身構えてしまったのは何でだろう、とか思う。
「俺と一緒に、イタリアに来ねぇか?」
『へっ…?』
「あー、何てゆーか…」
頭を掻きながら、ディーノさんは言う。
「要するに…俺は柚子が気に入った、って事で……」
『えぇっ!?///』
何て心臓に悪い事を言うの!この人は!!
前世はやっぱりホストなんじゃ…
いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃないっ!!
『えっと、その…』
「それに、ヨーロッパの方がフルート極められる。いい音楽団にも入れると思うぜ?」
『それはまぁ、そうですね……』
確かに、あたしはフルートが好き。
ヨーロッパは憧れの地。
でも…
ココに来たのはフルートだけじゃなくて……
---「器楽サークルとして、こんなに嬉しい事はないよ。」
『あの、ですね。』
「ん?」
あたしの返答を待っててくれるディーノさんは、やっぱり優しくて素敵な人。
横暴なココのボスさんとは大違い。
だから、一生懸命その目を見て、自分の意見を伝えなきゃ。
『あたし、すっごくヨーロッパ行きたいです。行きたいですけどっ…でも……』
あたしがココで家政婦なんてやってるのは、
やっぱりココに惹かれたから。
キュッと軽く拳を作ると、ディーノさんは聞く。
「ツナが好きか?」
『えっ!?///えっと……』
あたしは、ココに居たいんです。
本格的なフルート奏者を目指す前に、器楽サークルとしての時間を過ごしたいんです。
真直ぐ一流の奏者を目指してる人にとって、あたしのこの意見はバカみたいに思えるかも知れない。
だけど…それなりに理由があって。
それは……
『ツナさんのバイオリンは、最高なんですよっ♪聞いてると、幸せになるんです♪』
今のあたしがツナさんを褒められるのは、コレくらい。
でも、このポイントだけは、本当に心から実感してる事。
普段は横暴ボスなのに、あんなに素敵な音色を生み出す。
だから、あたしは願ってしまう。
ココでこの人の演奏を聴いていたい、と。
『えと、だから…』
「わーったよ。」
ポンッ、と乗せられたディーノさんの大きな手。
見上げるとそこには、やっぱり素敵な笑顔があって。
「ツナと一緒にココに居たいんだよな、柚子は。」
『(えと…)はい、まぁ…。』
「そか……おっと、もうこんな時間だ。ロマーリオ、フライト何時だ?」
「18時丁度だぜ、ボス。」
「んじゃそろそろ帰るぜ。またな、柚子♪」
『あ、はい!お気をつけて!』
お辞儀をしようとした、次の瞬間……
ちゅ。
『ほへっ……!?///』
「ツナに宜しくな!」
『あ、はい…』
突然の出来事にボーッとしている間に、ディーノさんと部下さんは帰ってしまった。
あ、あたし今……
『(ホッペにちゅーされた!?///)』
しかもしかもっ、
何だか「ツナさんが好きだからココに残ります!」
って言ったように解釈された!?
まーずーいーっ!!!
ヤバいヤバいヤバい!一大事っ!!
「あれ?柚子…ディーノさんは?」
『あ、たった今お帰りになりました…』
トイレから(?)戻って来たツナさんに、脱力しながら返事をした。
もうあたし…人生お終いかもしれない。
「柚子、」
『はい…何でしょう…』
「今日頑張ったから、休み2時間にしてやるよ。」
『…………頭打ったんですか?』
「やっぱやめようかな。」
『冗談です、すみませんっ!!有り難く休ませて頂きますっ!!』
「最初からそう言えよ。」
『うぅ…』
クスリ、と笑ったツナさんは、おもむろに演奏室の棚にあったバイオリンを取り出す。
『弾くんですかっ!?』
「たまには。」
そっけない返事だったけど、あたしは近くの椅子に座って、聴く事にした。
---
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ホントは、何処にも行ってなかった。
気配を消して、ドアの外に立ってた。
部屋出た直後に、2人きりにしちまった事を後悔して、そのまま盗み聞き。
---「一緒にイタリアに来ねぇか?」
来ると思ってた質問。
ディーノさんも柚子を気に入ってたみたいだったから。
だけど…
いつものように、バッチリ聞こえていた柚子の心の声。
ココに居たい、だなんて……本気で吃驚した。
無理矢理繋ぎ止めた俺の最愛の存在に、側に居たいと言われた気がして、
本気で嬉しくなった。
---『最高なんですよっ♪』
柚子を引き寄せる為に、数年前から練習したバイオリン。
それが、ようやく実ったような、そんな気がして。
思わず、弾いてあげようか、なんて思って。
目を輝かせる柚子を、改めて愛しく思って。
なぁ柚子、
俺は…どんな理由でも構わないから。
柚子が、隣に居てくれるだけで今は充分だから。
『(あれ?“愛の歌”だ……)』
「一緒に弾くか?」
俺のバイオリンで、君を繋ぎ止めておけるなら。
いくらでも聴かせるよ。
『いいんですか!?』
「ま、出来るならの話だけど。」
『任せて下さいっ!骸さんに結構練習させられましたから♪』
得意そうに笑う柚子に、
いつもと違う“本物の自然な笑み”を見せる。
「じゃあ、弾こうか。」
『はいっ!』
幸せだ、と
純粋に思った。
ツナ
横暴で腹黒ですぐ不機嫌になるけど、あたしがココにいる理由。
continue…