ヴァリアー編
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イタリアにて。
ある山奥に聳え立つ、巨大な屋敷。
他でもない、ボンゴレの本部。
森の中から、双眼鏡で見つめる男が1人…
家光である。
「静か過ぎる………」
彼は一言呟くと、黙り込んで考える。
ボンゴレ中枢で何かが起こっているのか、
ザンザスにただ泳がされているだけなのか、
理解しかねるが、手を拱いているワケにはいかないのだ。
とそこに、
「親方様。」
女の声が。
「オレガノか……」
家光の後ろに立つのは、オレガノという名の女性。
「我々のアジトをヴァリアーに嗅ぎ付けられました。」
「皆は?」
「6名とも無事脱出し、ここに向かっています。」
「ならいい、気にするな。」
ここで、オレガノの目が光る。
「親方様、やはり決行なさるのですか?」
「あぁ。これより我々は、ボンゴレの総本部に乗り込む。目的は9代目の救出。」
家光の表情も、深刻さを増す。
「万が一それが叶わない場合でも………9代目の、生死の確認を………」
山本の選択
日本、ツナの修業場。
「え………これが9代目??」
一枚の写真を持って、ツナが意外そうに呟く。
「何だ、見せた事無かったか?」
「ないよ!一度だって!」
「とても、マフィアのボスには見えませんよね。」
「うん…………」
バジルの言葉に、ツナは静かに相槌を打つ。
「何だか……優しそうなおじいさんだ………」
その手にある写真には、白髪に白ヒゲをたくわえた老人と、子犬が写っていた。
「9代目は歴代のボスの中でも、典型的な穏健派だからな。」
「その方の為なら命を掛けられる、という魅力があると聞きました。」
「父さんが………?」
リボーンとバジルの話を聞き、ツナはもう一度写真を見た。
「(この人が俺を10代目に選んだんだ、この人が俺とリボーンを引き合わせたんだ)」
複雑な思いがツナの心を巡って行く。
「やっぱり嫌いだよ!!この人のせいでこんな戦いになったんだ!!」
「沢田殿……」
「けどさっ…今そんな事言ってもしょうがないし!」
次の瞬間、ツナの瞳は決意に満ちて。
「文句はあとで言うよ。ザンザス達に勝ってから…………。さーっ、修業修業!!」
声を大きくするツナに、ポカンと口を開けるバジルと、相変わらず無表情のリボーン。
「安心したぞ。昨晩スクアーロの事を聞いて、修業に身が入らねーんじゃねーかと思ったんだぞ。それに、檸檬の事もあるからな。」
「!!(そりゃぁ……心配だよ。)」
ツナは昨晩の話を思い出す。
---
------
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「スクアーロはヴァリアーのボスになるはずの男だったんだ。」
「ええ!?あのロン毛が!?だからあんなに強いんだ!!」
ディーノさんの話じゃ、スクアーロはディーノさんと同じマフィアの子供がたくさんいる学校に通ってたらしい。
その頃からすっごく有名で、色んな剣士をかたっぱしから倒して行ったって。
そんなスクアーロの噂を聞いたヴァリアーが、入隊をスカウトしたらしい。
けどスクアーロは、入隊の条件として当時のヴァリアーのボス・剣帝テュールとの勝負を求めた。
そして、
2日間の死闘の末、スクアーロは勝利して、同時に今の剣術を完成させたって……。
入隊したスクアーロはトップをキープして、次期ボスの座はほぼ確定していた。
なのに………
「どうしてボスがザンザスに………?」
「わからん。」
「え!?」
どうやらザンザスには大きな謎があって、真実はまだ闇の中だそうだ。
「勝てば、あるいは何か分かるかもしれない。」
そう、ディーノさんは言った。
「山本、はっきり言っておく。スクアーロはいつくもの流派を潰して来た男………流派に頼ってちゃ勝機はないぜ。」
山本の目が見開かれる。
「奴を倒すには流派を超えるしかねぇ。」
ディーノさんの言葉が、重々しくのしかかって来た。
ふと俺は、さっきの獄寺君の言葉を思い出した。
「そう言えば獄寺君、さっき檸檬と何の事話してたの?」
---「その………ヴァリアーが勝ったら………アイツの…………」
---『そうだよ。本当。』
「あれ…どう言う意味?」
「えっと…ですね……」
しどろもどろになる獄寺君。
俺は何だか不安になった。
山本、お兄さん、ディーノさん、バジル君も、獄寺君の雰囲気に息を飲む。
「じ、実は………」
獄寺君はぐっと顔を上げて言った。
「檸檬の奴、ベルフェゴールと約束したらしいんスよ。」
「何の………?」
「ヴァリアーが争奪戦に勝ったら、檸檬はアイツの彼女になるらしいんス………。」
「え…??」
俺達は、一斉にフリーズした。
「ちょっといいか?」
口火を切ったのは山本。
「俺の知る限り、檸檬って超鈍感だったんだけどさー……」
「そ、そうだよ!雲雀さんに好かれてるの、全然気が付かないくらいだったのに!!」
「けど………アイツも檸檬も意見が合ってたんで………ハッタリじゃねー事は確かっス。」
獄寺君は、目線を下に向けて話す。
「よほどストレートに言ったんだな。」
リボーンが言った。
すると、今度はディーノさんが、
「ったく、何だよそれ………。」
と。
でも、
どうしてだろう?
檸檬がその話を受けたって事だよね。
自分で…
ディーノさんは、
「恭弥に話したら殺されそうだな。」
と言いつつ、去っていった。
残された俺達はただ、その場に立ち尽くしていた。
---
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嵐戦の日の深夜、ヴァリアーのホテル。
檸檬の部屋のドアがノックされた。
『………誰?』
ドアを開けるが、誰もいない。
ふと足下を見ると、マーモンがちょこんと立っていた。
『マーモン、どしたの?』
「ベルが檸檬を呼んでたから。」
『ベルが?もう起きたの?』
檸檬の言葉に、マーモンは首を振る。
「寝言でだよ。」
『えっ…?』
檸檬は一瞬驚いて、すぐに駆け出す。
それを見たマーモンは、ふぅとため息をついた。
ガチャ、
ベルの部屋に入って、ベッドの側の椅子に座る檸檬。
『ベル……』
まだ目を覚まさないベルの金髪を、そっと撫でた。
「う"お"ぉい檸檬、いるかぁ?」
『アロちゃん………?』
そこにズカズカ入って来たスクアーロ。
同じようにベッドの側の椅子に座る。
「明日だ。」
『うん、分かってる。』
少しだけ、沈黙が流れる。
「明日で、檸檬は正式にヴァリアーだからなぁ。」
『うん。』
そして、目の前で眠ってる人の彼女。
『アロちゃん………』
「何だぁ?」
喉まで出かかってる言葉。
どうしても言えないのは、中立を言い渡されてるから。
それに、こんな事言ったら、アロちゃんに怒られちゃう。
キュッと唇を噛み締める。
ふと、重ねられる手。
『え?』
「言わねーのか、それとも言えねーのか。」
そんなの…
『“言えない”んだと思う。』
「なら、言え。」
『え……?』
ふわっと抱き寄せられる。
「俺しか聞いてねぇんだ。言っても構わねぇだろぉ。」
『アロちゃ…………』
不安なの。
ちゃんと溶け込めるか。
怖いの。
ツナ達が消えるのが。
イヤなの。
日本とお別れするのが。
その気持ちを全部込めて、一言だけ言う。
『お願い………ツナ達を、殺さないで…………』
その途端、抱き締める力が強まった気がした。
『あたしの…大事な…仲間なの……………』
震える声は、
途切れ途切れに。
『並盛に…加担するワケじゃない……けど…どうしても…失いたくないの………』
あぁ、止まらない。
『だから………お願い。』
またチェルベッロに何か言われるかも。
それでもいいや。
どうしても、
吐き出したかった。
「それで終わりかぁ?」
『え……?』
「楽になったかぁ?」
アロちゃんのバカ。
いつも喧嘩腰なクセに、
『どーして…こんな時ばっか…優しいのよぉ………』
抑制しきれない涙が、頬を伝った。
アロちゃんのコートに、ぼんやりと滲む。
「檸檬の温さは、分かってるつもりだぁ。」
その言葉に、
また泣いた。
大泣きはしなかった。
けど、
なかなか止まらなかった。
『アロちゃん、』
「何だぁ。」
『何となくありがとう。』
「なっ、何となくって何だぁ!!?」
腕を解いて怒鳴るアロちゃん。
『なんとなく♪』
「う"お"ぉい!!!」
『静かにしてよー、ベルが起きちゃう。』
悪戯な笑みを見せると、アロちゃんは不服そうに黙った。
感謝してるのは、
ホントだよ、アロちゃん♪
『明日、バトルでしょ?早く寝なよ。』
「檸檬はいいのかぁ?」
『ベルに付いてる。』
「そぉかぁ。」
アロちゃんは立ち上がった。
あたしとベルの約束は、知らないんだよね。
『おやすみっ♪』
チュッ、
「う"っ、う"お"ぉい!///」
『あ、ごめん。』
真っ赤になって怒るアロちゃんに、軽く謝る。
(照れてるんです)
「じゃ、じゃぁなぁ。」
『うん。』
バタン、
ドアが閉まった。
ほら、
まだ残り続けてる。
“虚無感”
あたしは、
何を求めてるの?
どうしてこんなに寂しいの?
この気持ちは、何?
『ベル……』
ベルの手をぎゅっと握る。
もし、ベルの彼女になったら、
この寂しさは消えるの?
屈託なく笑えるの?
溢れる寂しさに、飲み込まれそうになった。
---
------
-----------
「ん………」
朝日が眩しくて、目が覚めた。
あぁ、そっか。
ホテルに運ばれたのか。
ふと、左手に人の温もりを感じる。
「檸檬………」
俺のベッドの端を枕にして、檸檬は規則正しい寝息を立てていた。
可愛いじゃん。
そうっと顔を近づけて、頬にキスを1つ。
『ん……?』
「おはよ、檸檬♪」
『ベ…ル……?』
眠い目をこすって、俺をジッと見る檸檬。
と、次の瞬間、
『気が付いたんだ!良かったぁ。』
へにゃりと笑った。
「心配した?」
『うん、したよ。すっごくすっごく。』
俺の左手は檸檬に掴まれたまま。
それでもいいけどね♪
「お、リングちゃんとあるじゃん。」
枕元に、嵐のリングが転がってた。
それを拾い上げる俺に、檸檬は優しく微笑む。
『ベル、おめでとう。』
「ししし♪とーぜんっ!」
すっごく嬉しくなって、俺も笑った。
と、そこに……
「おはよう、檸檬。」
『あ、おはよう!マーモン♪』
チュッ、
「あ!俺もーっ。」
『え?!あ、うん。』
チュッ、
「ベル、起きたんだ。」
「ししし♪そんないつまでも寝ないから。」
「今日はスクアーロの勝負だよ。」
「へぇ。」
『そいえば、アロちゃんたら、もう勝った気でいるの。油断大敵って知らないのかなぁ。』
ちょっと心配そうな檸檬に、マーモンが言う。
「何たってスクアーロだからね。」
「そーそー、大丈夫だって♪」
スクアーロが勝てば、檸檬は俺の彼女。
イェイ♪
それから、檸檬が頼んでくれた朝食を食べた。
---
------
------------
その頃、家の道場に1人寝転がる山本。
「(流派を超えるっつってもなー。)」
1人で悩んでいる所に、ツナとリボーンがやって来る。
「ちゃおっス。」
「修業終わって帰り道にあるから、寄ってこーかなって。」
「よお!」
「どーだ?流派を超えられそうか?」
いきなり核心を突く質問をするリボーン。
山本は笑顔で答える。
「やってみねーとわかんね。」
と、そこに、
「よぉ!ツナ君じゃねーか!」
「こっ、こんにちはっ。」
「あい、こんにちは。」
山本の父が現れる。
「何だよオヤジ?」
「今日あたりなんだろ?例のチャンバラ。」
「なっ、何で知ってんの!?」
山本が驚くと、父はニカッと笑って。
「バーロー、わからーな。って、本当はツナ君のお父さんから聞いたんだけどな。」
「父さんから!?」
自分の父がどう説明したのか気になるツナ。
山本の父は続ける。
「相手は恐ろしく強ぇ剣士らしーじゃねーか。」
「ああ、強ぇよ。」
「って事ならコイツを持ってけ、武。」
「ん?何だ?」
父が取り出したのは、
「竹刀じゃねーか。」
見た目は竹刀だが、持ってみると意外と重みがあった。
父曰く、鋼で出来ているそうだ。
「こいつは時雨蒼燕流継承者が8代前から受け継いで来た、“時雨金時”だ。」
そう言って、父はきゅうりを1本取り出す。
「普通に使えば、ただの竹刀と同じ。だが時雨蒼燕流で抜けば………」
父が竹刀を振るう。
すると…
ピッ、
ストトトトッ、
ツナの手の中に、綺麗に切れたきゅうりが乗る。
「刀身が潰れて、刃を向く。時雨蒼燕流以外の型じゃ竹刀に戻る、専用の刀だ。」
「すげっ!」
「おもしれーっ!」
「山本のバットの竹刀版って感じだな。」
しかし、流派を超えなければいけないと考えるツナが、
「今日はこの刀使えないんじゃ………」
と。
その言葉に、ピクリと反応する山本の父。
「なんでーそりゃあ?」
「今日の相手はいつくもの流派を潰して来た強者でさ、倒すには流派を超えなきゃいけねーんだってさ。」
慌てて説明する山本に、父は怒鳴った。
「何言ってやがんでぃ!!バカも休み休み言いやがれ!!!」
時雨蒼燕流は、継承者により実践の中で培われ磨かれ積み上げられた、全てに意味のある無駄のない完璧な動き。
「それを超えるなんておこがましいやぃ!!!」
「(ディーノさんと意見が食い違ってるー!!)」
ツナと山本は吃驚して固まった。
「まーまー、オヤジが時雨蒼燕流に誇り持ってんのはわかっけどさ、」
「そんな次元の話してんじゃねーよ!!いいか!?」
なだめる我が子に、更に強く言う。
「時雨蒼燕流はなぁ!完全無欠・最強無敵よぉ!!!」
その言葉に、山本は目を少し大きくした。
---
------
-----------
ヴァリアーのホテル。
「そろそろ行かねー?」
『ベル、足は大丈夫なの?』
「ヘーキ♪」
松葉杖を使って歩くベルに、心配そうに駆け寄る檸檬。
その肩には、マーモンが乗っている。
『アロちゃん、先に行っちゃったのかな?』
「レヴィとモスカはボスと行くみたいだし、僕達も行こうよ。」
『うん!』
檸檬はベルの手をしっかり握る。
『松葉杖、落とさないでね。』
「オッケー♪」
『(俊足、発動!)』
並中まで、ひとっ飛び。
---
------
「山本、どーするつもりだろう………。」
「さーな。」
鼻歌を歌う山本の後ろで、ツナが不安そうに言う。
と、その時。
「う"お"ぉいっ!!!」
ツナ達の上を1つの影が通り過ぎ、目の前の渡り廊下に降り立つ。
「よく逃げ出さなかったな、刀小僧!!活け造りにしてやるぞおぉ!!」
「S・スクアーロ!!」
「でたーっ!!」
驚きと不安を隠せないツナとバジル。
それに対し山本は、落ち着いた声で返す。
「そうはならないぜ、スクアーロ。」
持っていた時雨金時を振るって。
「俺があんたを、この刀でぶっ倒すからよ。」
「ん、変形刀か。」
その行動を見たツナ。
「って事は、流派を超えるんじゃなくて、時雨蒼燕流で……」
「オヤジが無敵ってんだから、無敵なんじゃね?」
いつものような笑みを見せる山本を、スクアーロは笑い飛ばす。
「無敵だぁ?俺は自ら無敵とほざいたバカ共を、何百と葬って来たぞぉ!!」
「ひいいっ、そんなぁ!やっぱりその選択はまずいんじゃ………!!」
「本当…やべーよな………サヨナラのチャンスにバッターボックスに立つみてーにゾクゾクするぜ。」
「山本………」
その表情から、恐れを感じる事はなく。
むしろ、楽しみに似た興奮が、彼を包んでいる。
「山本殿、こんな時に何を?」
「そっか、忘れてた。あれが山本なんだ………。」
ツナは妙に納得し、安堵の混ざった笑みを浮かべる。
「昨日スクアーロの話を聞いても自分の修業に集中で来たのは………山本なら、何とかしてくれそうな気がするからだ。」
月明かりに照らされる彼の表情は、
スクアーロに負けない程挑発的。
その結末は、今はまだ誰も知らない。
ある山奥に聳え立つ、巨大な屋敷。
他でもない、ボンゴレの本部。
森の中から、双眼鏡で見つめる男が1人…
家光である。
「静か過ぎる………」
彼は一言呟くと、黙り込んで考える。
ボンゴレ中枢で何かが起こっているのか、
ザンザスにただ泳がされているだけなのか、
理解しかねるが、手を拱いているワケにはいかないのだ。
とそこに、
「親方様。」
女の声が。
「オレガノか……」
家光の後ろに立つのは、オレガノという名の女性。
「我々のアジトをヴァリアーに嗅ぎ付けられました。」
「皆は?」
「6名とも無事脱出し、ここに向かっています。」
「ならいい、気にするな。」
ここで、オレガノの目が光る。
「親方様、やはり決行なさるのですか?」
「あぁ。これより我々は、ボンゴレの総本部に乗り込む。目的は9代目の救出。」
家光の表情も、深刻さを増す。
「万が一それが叶わない場合でも………9代目の、生死の確認を………」
山本の選択
日本、ツナの修業場。
「え………これが9代目??」
一枚の写真を持って、ツナが意外そうに呟く。
「何だ、見せた事無かったか?」
「ないよ!一度だって!」
「とても、マフィアのボスには見えませんよね。」
「うん…………」
バジルの言葉に、ツナは静かに相槌を打つ。
「何だか……優しそうなおじいさんだ………」
その手にある写真には、白髪に白ヒゲをたくわえた老人と、子犬が写っていた。
「9代目は歴代のボスの中でも、典型的な穏健派だからな。」
「その方の為なら命を掛けられる、という魅力があると聞きました。」
「父さんが………?」
リボーンとバジルの話を聞き、ツナはもう一度写真を見た。
「(この人が俺を10代目に選んだんだ、この人が俺とリボーンを引き合わせたんだ)」
複雑な思いがツナの心を巡って行く。
「やっぱり嫌いだよ!!この人のせいでこんな戦いになったんだ!!」
「沢田殿……」
「けどさっ…今そんな事言ってもしょうがないし!」
次の瞬間、ツナの瞳は決意に満ちて。
「文句はあとで言うよ。ザンザス達に勝ってから…………。さーっ、修業修業!!」
声を大きくするツナに、ポカンと口を開けるバジルと、相変わらず無表情のリボーン。
「安心したぞ。昨晩スクアーロの事を聞いて、修業に身が入らねーんじゃねーかと思ったんだぞ。それに、檸檬の事もあるからな。」
「!!(そりゃぁ……心配だよ。)」
ツナは昨晩の話を思い出す。
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「スクアーロはヴァリアーのボスになるはずの男だったんだ。」
「ええ!?あのロン毛が!?だからあんなに強いんだ!!」
ディーノさんの話じゃ、スクアーロはディーノさんと同じマフィアの子供がたくさんいる学校に通ってたらしい。
その頃からすっごく有名で、色んな剣士をかたっぱしから倒して行ったって。
そんなスクアーロの噂を聞いたヴァリアーが、入隊をスカウトしたらしい。
けどスクアーロは、入隊の条件として当時のヴァリアーのボス・剣帝テュールとの勝負を求めた。
そして、
2日間の死闘の末、スクアーロは勝利して、同時に今の剣術を完成させたって……。
入隊したスクアーロはトップをキープして、次期ボスの座はほぼ確定していた。
なのに………
「どうしてボスがザンザスに………?」
「わからん。」
「え!?」
どうやらザンザスには大きな謎があって、真実はまだ闇の中だそうだ。
「勝てば、あるいは何か分かるかもしれない。」
そう、ディーノさんは言った。
「山本、はっきり言っておく。スクアーロはいつくもの流派を潰して来た男………流派に頼ってちゃ勝機はないぜ。」
山本の目が見開かれる。
「奴を倒すには流派を超えるしかねぇ。」
ディーノさんの言葉が、重々しくのしかかって来た。
ふと俺は、さっきの獄寺君の言葉を思い出した。
「そう言えば獄寺君、さっき檸檬と何の事話してたの?」
---「その………ヴァリアーが勝ったら………アイツの…………」
---『そうだよ。本当。』
「あれ…どう言う意味?」
「えっと…ですね……」
しどろもどろになる獄寺君。
俺は何だか不安になった。
山本、お兄さん、ディーノさん、バジル君も、獄寺君の雰囲気に息を飲む。
「じ、実は………」
獄寺君はぐっと顔を上げて言った。
「檸檬の奴、ベルフェゴールと約束したらしいんスよ。」
「何の………?」
「ヴァリアーが争奪戦に勝ったら、檸檬はアイツの彼女になるらしいんス………。」
「え…??」
俺達は、一斉にフリーズした。
「ちょっといいか?」
口火を切ったのは山本。
「俺の知る限り、檸檬って超鈍感だったんだけどさー……」
「そ、そうだよ!雲雀さんに好かれてるの、全然気が付かないくらいだったのに!!」
「けど………アイツも檸檬も意見が合ってたんで………ハッタリじゃねー事は確かっス。」
獄寺君は、目線を下に向けて話す。
「よほどストレートに言ったんだな。」
リボーンが言った。
すると、今度はディーノさんが、
「ったく、何だよそれ………。」
と。
でも、
どうしてだろう?
檸檬がその話を受けたって事だよね。
自分で…
ディーノさんは、
「恭弥に話したら殺されそうだな。」
と言いつつ、去っていった。
残された俺達はただ、その場に立ち尽くしていた。
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嵐戦の日の深夜、ヴァリアーのホテル。
檸檬の部屋のドアがノックされた。
『………誰?』
ドアを開けるが、誰もいない。
ふと足下を見ると、マーモンがちょこんと立っていた。
『マーモン、どしたの?』
「ベルが檸檬を呼んでたから。」
『ベルが?もう起きたの?』
檸檬の言葉に、マーモンは首を振る。
「寝言でだよ。」
『えっ…?』
檸檬は一瞬驚いて、すぐに駆け出す。
それを見たマーモンは、ふぅとため息をついた。
ガチャ、
ベルの部屋に入って、ベッドの側の椅子に座る檸檬。
『ベル……』
まだ目を覚まさないベルの金髪を、そっと撫でた。
「う"お"ぉい檸檬、いるかぁ?」
『アロちゃん………?』
そこにズカズカ入って来たスクアーロ。
同じようにベッドの側の椅子に座る。
「明日だ。」
『うん、分かってる。』
少しだけ、沈黙が流れる。
「明日で、檸檬は正式にヴァリアーだからなぁ。」
『うん。』
そして、目の前で眠ってる人の彼女。
『アロちゃん………』
「何だぁ?」
喉まで出かかってる言葉。
どうしても言えないのは、中立を言い渡されてるから。
それに、こんな事言ったら、アロちゃんに怒られちゃう。
キュッと唇を噛み締める。
ふと、重ねられる手。
『え?』
「言わねーのか、それとも言えねーのか。」
そんなの…
『“言えない”んだと思う。』
「なら、言え。」
『え……?』
ふわっと抱き寄せられる。
「俺しか聞いてねぇんだ。言っても構わねぇだろぉ。」
『アロちゃ…………』
不安なの。
ちゃんと溶け込めるか。
怖いの。
ツナ達が消えるのが。
イヤなの。
日本とお別れするのが。
その気持ちを全部込めて、一言だけ言う。
『お願い………ツナ達を、殺さないで…………』
その途端、抱き締める力が強まった気がした。
『あたしの…大事な…仲間なの……………』
震える声は、
途切れ途切れに。
『並盛に…加担するワケじゃない……けど…どうしても…失いたくないの………』
あぁ、止まらない。
『だから………お願い。』
またチェルベッロに何か言われるかも。
それでもいいや。
どうしても、
吐き出したかった。
「それで終わりかぁ?」
『え……?』
「楽になったかぁ?」
アロちゃんのバカ。
いつも喧嘩腰なクセに、
『どーして…こんな時ばっか…優しいのよぉ………』
抑制しきれない涙が、頬を伝った。
アロちゃんのコートに、ぼんやりと滲む。
「檸檬の温さは、分かってるつもりだぁ。」
その言葉に、
また泣いた。
大泣きはしなかった。
けど、
なかなか止まらなかった。
『アロちゃん、』
「何だぁ。」
『何となくありがとう。』
「なっ、何となくって何だぁ!!?」
腕を解いて怒鳴るアロちゃん。
『なんとなく♪』
「う"お"ぉい!!!」
『静かにしてよー、ベルが起きちゃう。』
悪戯な笑みを見せると、アロちゃんは不服そうに黙った。
感謝してるのは、
ホントだよ、アロちゃん♪
『明日、バトルでしょ?早く寝なよ。』
「檸檬はいいのかぁ?」
『ベルに付いてる。』
「そぉかぁ。」
アロちゃんは立ち上がった。
あたしとベルの約束は、知らないんだよね。
『おやすみっ♪』
チュッ、
「う"っ、う"お"ぉい!///」
『あ、ごめん。』
真っ赤になって怒るアロちゃんに、軽く謝る。
(照れてるんです)
「じゃ、じゃぁなぁ。」
『うん。』
バタン、
ドアが閉まった。
ほら、
まだ残り続けてる。
“虚無感”
あたしは、
何を求めてるの?
どうしてこんなに寂しいの?
この気持ちは、何?
『ベル……』
ベルの手をぎゅっと握る。
もし、ベルの彼女になったら、
この寂しさは消えるの?
屈託なく笑えるの?
溢れる寂しさに、飲み込まれそうになった。
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「ん………」
朝日が眩しくて、目が覚めた。
あぁ、そっか。
ホテルに運ばれたのか。
ふと、左手に人の温もりを感じる。
「檸檬………」
俺のベッドの端を枕にして、檸檬は規則正しい寝息を立てていた。
可愛いじゃん。
そうっと顔を近づけて、頬にキスを1つ。
『ん……?』
「おはよ、檸檬♪」
『ベ…ル……?』
眠い目をこすって、俺をジッと見る檸檬。
と、次の瞬間、
『気が付いたんだ!良かったぁ。』
へにゃりと笑った。
「心配した?」
『うん、したよ。すっごくすっごく。』
俺の左手は檸檬に掴まれたまま。
それでもいいけどね♪
「お、リングちゃんとあるじゃん。」
枕元に、嵐のリングが転がってた。
それを拾い上げる俺に、檸檬は優しく微笑む。
『ベル、おめでとう。』
「ししし♪とーぜんっ!」
すっごく嬉しくなって、俺も笑った。
と、そこに……
「おはよう、檸檬。」
『あ、おはよう!マーモン♪』
チュッ、
「あ!俺もーっ。」
『え?!あ、うん。』
チュッ、
「ベル、起きたんだ。」
「ししし♪そんないつまでも寝ないから。」
「今日はスクアーロの勝負だよ。」
「へぇ。」
『そいえば、アロちゃんたら、もう勝った気でいるの。油断大敵って知らないのかなぁ。』
ちょっと心配そうな檸檬に、マーモンが言う。
「何たってスクアーロだからね。」
「そーそー、大丈夫だって♪」
スクアーロが勝てば、檸檬は俺の彼女。
イェイ♪
それから、檸檬が頼んでくれた朝食を食べた。
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その頃、家の道場に1人寝転がる山本。
「(流派を超えるっつってもなー。)」
1人で悩んでいる所に、ツナとリボーンがやって来る。
「ちゃおっス。」
「修業終わって帰り道にあるから、寄ってこーかなって。」
「よお!」
「どーだ?流派を超えられそうか?」
いきなり核心を突く質問をするリボーン。
山本は笑顔で答える。
「やってみねーとわかんね。」
と、そこに、
「よぉ!ツナ君じゃねーか!」
「こっ、こんにちはっ。」
「あい、こんにちは。」
山本の父が現れる。
「何だよオヤジ?」
「今日あたりなんだろ?例のチャンバラ。」
「なっ、何で知ってんの!?」
山本が驚くと、父はニカッと笑って。
「バーロー、わからーな。って、本当はツナ君のお父さんから聞いたんだけどな。」
「父さんから!?」
自分の父がどう説明したのか気になるツナ。
山本の父は続ける。
「相手は恐ろしく強ぇ剣士らしーじゃねーか。」
「ああ、強ぇよ。」
「って事ならコイツを持ってけ、武。」
「ん?何だ?」
父が取り出したのは、
「竹刀じゃねーか。」
見た目は竹刀だが、持ってみると意外と重みがあった。
父曰く、鋼で出来ているそうだ。
「こいつは時雨蒼燕流継承者が8代前から受け継いで来た、“時雨金時”だ。」
そう言って、父はきゅうりを1本取り出す。
「普通に使えば、ただの竹刀と同じ。だが時雨蒼燕流で抜けば………」
父が竹刀を振るう。
すると…
ピッ、
ストトトトッ、
ツナの手の中に、綺麗に切れたきゅうりが乗る。
「刀身が潰れて、刃を向く。時雨蒼燕流以外の型じゃ竹刀に戻る、専用の刀だ。」
「すげっ!」
「おもしれーっ!」
「山本のバットの竹刀版って感じだな。」
しかし、流派を超えなければいけないと考えるツナが、
「今日はこの刀使えないんじゃ………」
と。
その言葉に、ピクリと反応する山本の父。
「なんでーそりゃあ?」
「今日の相手はいつくもの流派を潰して来た強者でさ、倒すには流派を超えなきゃいけねーんだってさ。」
慌てて説明する山本に、父は怒鳴った。
「何言ってやがんでぃ!!バカも休み休み言いやがれ!!!」
時雨蒼燕流は、継承者により実践の中で培われ磨かれ積み上げられた、全てに意味のある無駄のない完璧な動き。
「それを超えるなんておこがましいやぃ!!!」
「(ディーノさんと意見が食い違ってるー!!)」
ツナと山本は吃驚して固まった。
「まーまー、オヤジが時雨蒼燕流に誇り持ってんのはわかっけどさ、」
「そんな次元の話してんじゃねーよ!!いいか!?」
なだめる我が子に、更に強く言う。
「時雨蒼燕流はなぁ!完全無欠・最強無敵よぉ!!!」
その言葉に、山本は目を少し大きくした。
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ヴァリアーのホテル。
「そろそろ行かねー?」
『ベル、足は大丈夫なの?』
「ヘーキ♪」
松葉杖を使って歩くベルに、心配そうに駆け寄る檸檬。
その肩には、マーモンが乗っている。
『アロちゃん、先に行っちゃったのかな?』
「レヴィとモスカはボスと行くみたいだし、僕達も行こうよ。」
『うん!』
檸檬はベルの手をしっかり握る。
『松葉杖、落とさないでね。』
「オッケー♪」
『(俊足、発動!)』
並中まで、ひとっ飛び。
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「山本、どーするつもりだろう………。」
「さーな。」
鼻歌を歌う山本の後ろで、ツナが不安そうに言う。
と、その時。
「う"お"ぉいっ!!!」
ツナ達の上を1つの影が通り過ぎ、目の前の渡り廊下に降り立つ。
「よく逃げ出さなかったな、刀小僧!!活け造りにしてやるぞおぉ!!」
「S・スクアーロ!!」
「でたーっ!!」
驚きと不安を隠せないツナとバジル。
それに対し山本は、落ち着いた声で返す。
「そうはならないぜ、スクアーロ。」
持っていた時雨金時を振るって。
「俺があんたを、この刀でぶっ倒すからよ。」
「ん、変形刀か。」
その行動を見たツナ。
「って事は、流派を超えるんじゃなくて、時雨蒼燕流で……」
「オヤジが無敵ってんだから、無敵なんじゃね?」
いつものような笑みを見せる山本を、スクアーロは笑い飛ばす。
「無敵だぁ?俺は自ら無敵とほざいたバカ共を、何百と葬って来たぞぉ!!」
「ひいいっ、そんなぁ!やっぱりその選択はまずいんじゃ………!!」
「本当…やべーよな………サヨナラのチャンスにバッターボックスに立つみてーにゾクゾクするぜ。」
「山本………」
その表情から、恐れを感じる事はなく。
むしろ、楽しみに似た興奮が、彼を包んでいる。
「山本殿、こんな時に何を?」
「そっか、忘れてた。あれが山本なんだ………。」
ツナは妙に納得し、安堵の混ざった笑みを浮かべる。
「昨日スクアーロの話を聞いても自分の修業に集中で来たのは………山本なら、何とかしてくれそうな気がするからだ。」
月明かりに照らされる彼の表情は、
スクアーロに負けない程挑発的。
その結末は、今はまだ誰も知らない。