ヴァリアー編
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分かってた事だから、
全然つらくないよ。
あたしがつらいのは、
そのルールを知って、
みんなが顔を歪める事。
XANXUSの笑み
「なっ……なんだ?」
ヴァリアーだけじゃなくて、隼人達も驚いてた。
そっか、小言ツナを見るのは初めてだっけ。
「だ、誰だ?」
「まさか…」
「ツナ?」
ツナの炎は、サーキットの外の金具を溶かしていた。
それを見て、ベルがアロちゃんに言う。
「聞いてなかったぜ、スクアーロ。あんなバカでかい炎を出せる奴がいるなんて。」
アロちゃんはベルに答えず、何か考えてるようだった。
すると、ツナがぼそっと言う。
「いくら大事だって言われても………ボンゴレリングだとか、次期ボスの座だとか……そんなモノの為に、俺は戦えない。」
『ツナ………』
いつもいつも、しんみりさせられる。
ツナは、本当に凄いね。
けど、次の瞬間、あたしの視界の端に、それまで無かった人影が1つ映る。
『え…?』
「でも、友達が……仲間が傷付くのは、イヤなんだ!!」
『(あれは……ボス!!)』
「ほざくな。」
直後に聞こえる音は、聞いた事のある音。
ボスが、攻撃する時の音。
『ツナ、危ないっ!!』
「檸檬っ!?」
あたしは、ランボちゃんを抱えながら俊足でツナに駆け寄った。
そして、
『ぅあっ!!』
「檸檬っ!!!」
ツナに思いっきり体当たりする。
ランボちゃんには当たらないように、背中でボスの攻撃を受けた。
「「檸檬っ!!」」
『いった~~~……』
ゆっくりと起き上がったあたしに、ツナが駆け寄った。
「檸檬!大丈夫!?」
『うん、平気♪ツナ、ランボちゃんを。』
「あ、うん。あの、ありがとう。」
『んーん♪』
ツナに笑いかける。
と、チェルベッロがこっちに来た。
「檸檬様、沢田氏側を庇い過ぎては、失格にせざるを得ませんが。」
『あたしに注意するってゆーの?だったら………』
言いながら、屋上の給水タンクの上を見る。
『場外乱闘を引き起こそうとした、ボスに注意すべきじゃない?』
「あ、あれは……!」
煙に包まれて隠れてたけど、それも無くなっていく。
「XANXUS!!!」
ボスの目線は、あたしじゃなくてツナに。
ツナは少し震えてたけど、歯を食いしばって睨み返した。
すると、ボスは少し驚いたようで。
「何だ、その目は……まさかお前、俺を倒して後継者になれるとでも思ってんのか?」
「そんな事は思ってないよ。俺はただ…………この戦いで、仲間を誰1人失いたくないんだ!!」
ツナが必死に訴えると、ボスはまた左手を構えた。
『(ヤバっ……!)』
「そうか………てめぇ!!」
あたしは慌ててツナの前に立つ。
その時、ちょっと尾てい骨が痛んだ気がした。
『させない………!』
「檸檬っ………!」
後ろから、ツナの驚く声が聞こえた。
反対に、ボスは表情1つ変えずに。
「檸檬…まだ動けたのか。」
『当たり前でしょ♪んな事より、場外乱闘はルール違反だよ?ボス。』
「はっ!勘違いすんな。俺はキレちゃいねぇ。」
そう言ってボスは構えた左手を下ろす。
「むしろ楽しくなって来たぜ。」
「(わ、笑った……!?)」
ツナは、少し怯えたようだった。
反対に、ヴァリアー側は、
「こいつはレアだ。」
「いつから見てないかな?ボスの笑顔。」
「檸檬が行ってからだ。」
「やっぱ、檸檬がいると笑うモンなんじゃね?」
「うむ、そうかもね。」
呑気な事を言ってた。
「やっと分かったぜ。一時とは言え、9代目が貴様を選んだワケが。その腐った戯れ言といい、軟弱な炎と言い、お前とあの老いぼれはよく似ている。」
「え?」
『(まぁ…間違っちゃいないよね………。)』
ツナをちらっと見ながら、ボスに共感した。
すると、ボスが今度は大笑いし始めた。
「ぷはーっ!こいつは悲劇、いや、喜劇が生まれそうだな!!」
「(な、何が可笑しいんだ??)」
「おい、女。続けろ。」
「はい。」
ボスに言われ、チェルベッロは口を開く。
「今回の守護者対決は、沢田氏の妨害により、レヴィ・ア・タンの勝利とし、雷のリング並びに大空のリングは、ヴァリアー側のモノとなります。」
「え!!?」
ツナを始め、戸惑う並盛メンバー。
だけど、大空のリングはチェルベッロに奪われ、ボスの元へ。
「ルールは私達ですので。」
『(あーあ、やっぱり。)』
給水タンクの上に立つボスは、チェルベッロからツナのリングを受け取り、1つにはめる。
「これが此処にあるのは当然の事だ。俺以外にボンゴレのボスが考えられるか。」
「くそっ!」
「他のリングなどどーでもいい。これで俺の命でボンゴレの名のもと、お前らをいつでも殺せる。」
「そん……な!!」
「だが、老いぼれが後継者に選んだお前を、ただ殺したのではつまらなくなった。お前を殺るのは、リング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ。」
そこまで言うと、ゆっくりと顔をあげて。
「あの老いぼれのようにな。」
『え………?』
9代目、の、ように?
「XANXUS!!貴様!!9代目に何をした!!」
『どう言う事!?ボス!!』
家光さんとあたしは、ほぼ同時に叫んだ。
するとボスは、また吹き出して。
「それを調べるのがお前の仕事だろ?門外顧問!それに、檸檬は知る必要のねー事だ!」
「き、貴様まさか……!!!」
「落ち着け、家光。」
青い顔をする家光さんに、リボーンが言う。
「何の確証もねーんだ。」
すると、家光さんは同じように落ち着いた声で。
「お前こそ銃をしまえ。」
と。
2人とも、きっと相当怒ってる。
雰囲気で分かる。
だけど、ボスが何をしたのかは………分からない。
あたし達が悩んでいると、ボスが再び口を開いた。
「喜べ、モドキども。お前らにはチャンスをやったんだ。」
『チャンス……?』
「残りのバトルも全て行い、万が一お前らが勝ち越すような事があれば、ボンゴレリングもボスの地位も、全部くれてやる。」
そっか。
大空のリングがあれば、いつでもツナ達を殺せる。
だけど、
ボスは敢えてリング争奪戦をやる事にしたんだ。
これは……ラッキー、なのかな?
「だが負けたら、お前の大切なモンは全て、消える……」
「た、大切なモノ全て!?」
ツナは少し戸惑ったような表情を見せた。
それを見て、ボスが付け加える。
「あぁ、安心しろ。そこにいるお前の家庭教師補佐は、ヴァリアーとして生き続けるからな。」
『なっ…!』
そんな事、ここで言わないでよ。
あたしばっかり生き残るとか…イヤなのに。
.「せいぜい見せてみろ。あの老いぼれが惚れ込んだ力を。」
そう言ってボスは、チェルベッロに視線を移す。
「女、いいぞ。」
「では、明晩の対戦カードを発表します。明日の対戦は、嵐の守護者の対決です。」
嵐の守護者は……
隼人とベル、か………
「ベルか、悪くねぇ。」
そう呟くボスの元に、レヴィが行く。
「雷のリングだ、納めてくれ。」
「いらねぇ。次に醜態をさらしてみろ。」
「死にます。」
跪くレヴィを背に、ボスは去って行った。
直後に、リボーンが家光さんに言う。
「家光、お前はイタリアに飛べ。9代目が気掛かりだ。」
「すまん、リボーン。あいつらを頼む。」
「任せとけ。」
あたしも、9代目が心配だよ。
だけど、もっと心配な事があるんだ。
「檸檬、今日はもう帰ろう。」
『あ、あのね!ツナ、』
「お言葉ですが、檸檬様は本日、そちらに帰りません。」
あたしの言葉を遮って、チェルベッロが言った。
そう、こっちが………心配事なんだよね。
「………え?」
ランボちゃんを抱えたまま、ツナは目を丸くした。
チェルベッロは続ける。
「今夜はヴァリアー側が勝利したので、檸檬様には、ヴァリアーの宿舎に行ってもらいます。」
「な、何だよそれ!!」
『いーの。ルールだから。』
「檸檬!!」
あたしはスッと立ち上がって、ツナに笑いかける。
『ヴァリアーが勝った時の為に馴染みやすいようにっていう、9代目の配慮なんだって。』
「そ、そんな………!」
『平気だって。あたしにとってヴァリアーは、仲間なんだもん。』
ツナは、“だけど”っていう顔をしてた。
そんなツナに、あたしはいつもみたいにホッペにキスをする。
『ありがと。ツナはホントに優しいね♪』
「檸檬……」
『じゃあね。』
あたしはツナに背を向けて、走り出した。
「「「「檸檬っ!」」」」
ツナだけじゃない。
隼人や武、了平さんも叫んでた。
あたしの心は、罪悪感でいっぱいになる。
だけど、
立ち止まる勇気もないんだ。
『ごめん…』
最後にもう一度だけ呟いて、ヴァリアーの元へ。
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その光景を、遠くから見つめている者が3人。
「あの甘さ………相変わらずだな、沢田綱吉。」
そう呟く者の指には、ハーフボンゴレリング。
それに月明かりを反射させながら、もう一言。
「にしても、あんなルールがあるとは………」
そして、
愛おしそうに、その名を口にする。
「檸檬……………」
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ヴァリアーに向かって走ったのはいいけど、まだちょっと緊張する。
ずっと離れてたから。
あと5メートル。
走るスピードが、無意識に遅くなる。
いつしかそれは、
もじもじした小刻みな歩きになって。
ゆっくりとヴァリアーに近付く。
みんなは、
まだあたしを受け入れてくれるのかな?
あたしが思ってるように、
仲間と思ってくれるのかな?
さっきまでの罪悪感は消えて、
今度は不安でいっぱいになった。
恐る恐る、みんなの前に立ち止まる。
何を言えばいいのか、本当に分からない。
あたしが戸惑っていると、
ぎゅっ、
『へ…??』
「お帰り、お姫さま♪」
突然抱き締められて、思わず目を見開いた。
誰が抱きしめたかなんて、声で分かる。
『ベル………///』
久しぶりで、ちょっと恥ずかしかった。
同時に、その言葉が凄く嬉しくて。
---「お帰り。」
『ぐすっ……』
「ム?」
いつの間にかあたしの肩に乗ってたマーモンが、あたしの涙に気が付いた。
「檸檬、どうしたんだい?」
「あいつらと離れて寂しいってかぁ!?」
『違うよっ!アロちゃんのバカっ!!』
確かに、寂しいよ。
だけどさ、
あたしは本当に、みんなの事が大好きで、
それはどうしても止められなくて。
どう足掻いたって、どっちかを嫌いになんてなれない。
ただ、今流した涙は、
それじゃないの。
「俺達に会えて嬉しかったんだよね?檸檬は。」
抱きしめていた腕を解いて、ベルがあたしの涙を拭う。
『うんっ!』
この笑顔は、嬉しいからこそ。
向こうの方で、ツナ達がどんな反応をしてるのかが気にならないワケじゃない。
だけど今は、
今だけは、
再会の幸せを、味わわせて欲しいの。
『久しぶり!会いたかったよ、みんな♪』
「ししし♪俺もー♪」
「僕もだよ。」
「お前がこっちにいんのは当然だぁ。」
そこに、レヴィが戻って来た。
「檸檬、勝ったぞ。」
『うん、分かってる。ちゃんと見てたもん。』
ちょっと、つらかったけど。
『お疲れ!レヴィ!!』
ポン、とレヴィの肩を叩いた。
あぁまるで、
1年とちょっと前に戻ったみたい。
すごく、あったかい。
「う"お"ぉい!そろそろ帰るぞぉ!!」
「そうだね、雨足も激しいし。」
「傷が痛む。」
『えっ!?レヴィ、帰ったら治療しなきゃ!』
「治療……(ナース?)///」
「何考えてんだよ、ムッツリスケベ。」
「ぬおっ!」
顔が弛んでいるレヴィの後頭部に、ケリを入れるベル。
レヴィは少しよろめいた。
『もー、ベルってばぁ。怪我人なんだから。』
「いーの。レヴィだから。」
最後に、ちらっと並盛メンバーの方を振り向いた。
『(ランボちゃん………)』
屋上の向こうに見えるのは、ランボちゃんを抱えたツナと、そこに集まる仲間達。
ふと、目が合った。
そこには、あたしが最も見たくなかったモノ。
ツナ達の、困惑した瞳。
ぐっと拳を握りしめて。
『また明日ねーっ!』
一生懸命手を振った。
「早く行こーよー、檸檬。」
『あ、うん!』
ベルに手を引っ張られて、あたしは屋上を去った。
その風の感触は、昔の任務を思い出させた。
「ねぇ、檸檬。」
『ん?』
「檸檬の速さは、こんなもんじゃないっしょ?」
『ベル………』
それは、ベルとの任務の時に言われた言葉。
ベルはきっと、空いている時間を埋めようとしてるんだ。
『もっちろん♪』
同じ返事をしたけど、同じ動きはしない。
あたしは、ベルの手を握ったまま俊足を使う。
『宿舎はどっち?』
「あっちの方ー♪」
『らじゃ♪』
ベルが指差した方向に、あたしは飛んで行く。
「いっつもこんな景色見てんだ、檸檬は。」
『まぁね。』
それから3分もかからないうちに、ヴァリアーの宿舎に着いた。
その頃。
病院にランボを運んだツナ達。
「どうしよう………俺のリングも取られて、一気に不利になっちゃった。」
「1勝2敗……次に負けたらもう後がねぇのか…。」
獄寺はタバコの箱を握りしめる。
「俺、本当にあの時………勝負に割って入って良かったのかな………」
「ツナ…」
「10代目!」
落ち込むツナに、リボーンが言った。
「良かったぞ。部下を見捨てるようなボスは、ボンゴレにはいらねーんだ。」
「リボーン………」
その言葉を聞いたツナは、何か決意を固めたように言った。
「俺……………もっと強くなりたい。」
するとリボーンは、ハットの下にある目を光らせて。
「第3段階の修業は更に厳しいぞ。」
と。
「うん!」
そこに、
希望が見えるのなら。
その思いが、ツナを動かした。
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深夜。
誰もいない道の向こうから、空き缶を蹴る音が響いて来る。
「ちっきしょー!何チンタラやってんだよ、俺は!!」
聞こえて来るのは、明晩に試合を控えた獄寺の声。
「(10代目が苦境に立たされてるって時に!悪い流れを俺が変えなきゃなんねー時に!!)」
すると、道の向こうからやって来た人影が、獄寺の蹴った缶を踏みつぶす。
「うぃ~い。」
「酔っぱらい!!?」
「明日に決まったらしいな、勝負。」
「シャマル!」
それは、自分の師匠であり、天才殺し屋である男だった。
「な、てめー冷やかしに来たのかよ!」
「バーカ。」
自分に焦りをぶつける獄寺に、シャマルは言った。
「俺の貴重な5日間を無駄にする気はねーんだよ。仕上げるぞ。」
その言葉に、獄寺は思わず目を見開いた。
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「ねぇ檸檬、」
『なぁに?マーモン。』
「今日、僕と寝るでしょ?その時に、絵本を読んで欲しいんだ。」
『うん、いーよ♪』
レヴィの傷に薬を付けていた檸檬は、マーモンに向かってにっこりと微笑んだ。
「あ。マーモン抜け駆けはナシだって。」
ベルが会話に割り込んみ、マーモンは口を尖らせる。
「ム。抜け駆けじゃないよ。檸檬は僕と一緒に寝るって決まってるんだから。ね?檸檬。」
『うん、まぁ。(ヴァリアーにいた頃は一緒に寝てたし。)』
「だったら、俺と一緒に寝るべきじゃね?ね、檸檬♪」
『あー、うん。(そう言えば、2人と一緒に寝てたんだった。)』
檸檬が昔を思い出していると、スクアーロが口を挟んだ。
「う"お"ぉい!!てめーら檸檬と一緒に寝てたのかぁ!?」
「うしし♪まーね。」
「ボスの命令で。」
『そうだ!ボス!!』
「ん"ん?」
「どしたの?檸檬。」
「何かあったのかい?」
檸檬は急に立ち上がった。その反動で、何故かレヴィの座っていた椅子が後ろに倒れる。
『あっ!ごめん、レヴィ。大丈夫?』
「あぁ、だ、大丈夫だ///」
『あたし、ボスに挨拶して来なくちゃ!部屋何処?』
「この階の、一番奥の部屋だ。」
『ありがとレヴィ!』
檸檬は部屋を飛び出した。
---
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コンコン、
「誰だ。」
『あ、あたし。』
「……………入れ。」
『うん。』
ドアを開けると、ボスは大きな椅子に座っていた。
その鋭い目があたしを捉える。
「何だ。」
『えっと………久しぶりだから挨拶したくて。』
「下らねぇ。」
ボスは窓の外にぽーんと浮かぶ月に視線を移した。
それを見て、相変わらずだなぁと思う。
『あ、紅茶入れようか?』
「………好きにしろ。」
『はーい。』
部屋にあったポットを取り、紅茶を入れる。
『ちょっと熱いけど、あったまるよ。』
「あぁ。」
ボスは、すぐに手をつけようとしなかった。
あたしは、ボスが見ている方向と同じ方を見る。
暫くの間、あたしとボスは黙ったままだった。
『あの、さ、』
ふと、口火を切るあたし。
『あたしは別に、こうなった事恨んでないし、ボスに10代目になって欲しくないとも思ってないから。』
ボスは、まだ窓の外を見てる。
『今までも、これからも、ヴァリアーのみんなも大好きだからっ!』
思わず声が大きくなっちゃって、あたしはちょっと恥ずかしくなった。
『あ、ご、ごめん。大きな声出しちゃって。あたし、部屋に戻るね。』
ボスの部屋を出ようとした、その時。
「待て。」
『え?』
ボスが、ぐいっとあたしの腕を引っ張った。
突然かかった力に、あたしはよろめく。
「檸檬、つらいか?」
『え?』
「答えろ。」
『えっと………』
ボスの視線があたしを射抜くようで、吃驚した。
『つ、つらいよ。』
あたしは俯いて答える。
ボスの視線を感じる。
『でも、しょうがない事だって思って、腹括った!』
頑張って顔をあげる。
それでも、ボスの真剣な表情は変わらなくて。
『あたしの事は大丈夫だから、ボスは戦いに…………みんなの事に、気を使っててよ。ね?』
作り笑いかもしれない笑顔を向ける一方で、
似たような台詞、ツナに言ったなぁ
とか思ってた。
「先に言っておく。」
『何?』
「これから、もっとつらくなる。」
『え………?』
ボスから、目が離せなかった。
少し、怖いと思ってしまった。
もう大丈夫、
自分に言い聞かせて、ここまで来たはずなのに。
「覚悟しとけ、檸檬。」
『ボス………』
何で?
何でそんな事言うの?
問いを投げかけようとしたけど、出来なかった。
代わりに、
涙が溢れて来た。
『あ、あれっ??』
慌てて拭おうとするあたしの手を、ボスが掴む。
そして、そのまま引き寄せられた。
「泣け。」
『ボスっ………………』
何で?何で?
これ以上耐えられる自信はないよ。
これ以上つらい事って、何?
檸檬は、静かに泣いた。
時折体が震えていた。
ザンザスは、そんな檸檬をただ静かに抱え込んでいた。
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------------
「遅かったね、檸檬。」
『ごめんねぇ。』
「これ、読んでよ。」
『うん、いーよ♪』
マーモンを膝に乗せて、ベルの膝に乗って、あたしは絵本を読んだ。
そして、イタリアにいた頃のように、ベルと向き合って、マーモンを間に挟んで、3人で一緒に眠りについた。
眠る直後にマーモンが何か言ってたけど、よく聞こえなかった。
「檸檬、僕、ボスが言ってたのを聞いたんだ。檸檬が、______の________________だって。」
『ん………?』
その夜は、少し冷え込んでいた。
全然つらくないよ。
あたしがつらいのは、
そのルールを知って、
みんなが顔を歪める事。
XANXUSの笑み
「なっ……なんだ?」
ヴァリアーだけじゃなくて、隼人達も驚いてた。
そっか、小言ツナを見るのは初めてだっけ。
「だ、誰だ?」
「まさか…」
「ツナ?」
ツナの炎は、サーキットの外の金具を溶かしていた。
それを見て、ベルがアロちゃんに言う。
「聞いてなかったぜ、スクアーロ。あんなバカでかい炎を出せる奴がいるなんて。」
アロちゃんはベルに答えず、何か考えてるようだった。
すると、ツナがぼそっと言う。
「いくら大事だって言われても………ボンゴレリングだとか、次期ボスの座だとか……そんなモノの為に、俺は戦えない。」
『ツナ………』
いつもいつも、しんみりさせられる。
ツナは、本当に凄いね。
けど、次の瞬間、あたしの視界の端に、それまで無かった人影が1つ映る。
『え…?』
「でも、友達が……仲間が傷付くのは、イヤなんだ!!」
『(あれは……ボス!!)』
「ほざくな。」
直後に聞こえる音は、聞いた事のある音。
ボスが、攻撃する時の音。
『ツナ、危ないっ!!』
「檸檬っ!?」
あたしは、ランボちゃんを抱えながら俊足でツナに駆け寄った。
そして、
『ぅあっ!!』
「檸檬っ!!!」
ツナに思いっきり体当たりする。
ランボちゃんには当たらないように、背中でボスの攻撃を受けた。
「「檸檬っ!!」」
『いった~~~……』
ゆっくりと起き上がったあたしに、ツナが駆け寄った。
「檸檬!大丈夫!?」
『うん、平気♪ツナ、ランボちゃんを。』
「あ、うん。あの、ありがとう。」
『んーん♪』
ツナに笑いかける。
と、チェルベッロがこっちに来た。
「檸檬様、沢田氏側を庇い過ぎては、失格にせざるを得ませんが。」
『あたしに注意するってゆーの?だったら………』
言いながら、屋上の給水タンクの上を見る。
『場外乱闘を引き起こそうとした、ボスに注意すべきじゃない?』
「あ、あれは……!」
煙に包まれて隠れてたけど、それも無くなっていく。
「XANXUS!!!」
ボスの目線は、あたしじゃなくてツナに。
ツナは少し震えてたけど、歯を食いしばって睨み返した。
すると、ボスは少し驚いたようで。
「何だ、その目は……まさかお前、俺を倒して後継者になれるとでも思ってんのか?」
「そんな事は思ってないよ。俺はただ…………この戦いで、仲間を誰1人失いたくないんだ!!」
ツナが必死に訴えると、ボスはまた左手を構えた。
『(ヤバっ……!)』
「そうか………てめぇ!!」
あたしは慌ててツナの前に立つ。
その時、ちょっと尾てい骨が痛んだ気がした。
『させない………!』
「檸檬っ………!」
後ろから、ツナの驚く声が聞こえた。
反対に、ボスは表情1つ変えずに。
「檸檬…まだ動けたのか。」
『当たり前でしょ♪んな事より、場外乱闘はルール違反だよ?ボス。』
「はっ!勘違いすんな。俺はキレちゃいねぇ。」
そう言ってボスは構えた左手を下ろす。
「むしろ楽しくなって来たぜ。」
「(わ、笑った……!?)」
ツナは、少し怯えたようだった。
反対に、ヴァリアー側は、
「こいつはレアだ。」
「いつから見てないかな?ボスの笑顔。」
「檸檬が行ってからだ。」
「やっぱ、檸檬がいると笑うモンなんじゃね?」
「うむ、そうかもね。」
呑気な事を言ってた。
「やっと分かったぜ。一時とは言え、9代目が貴様を選んだワケが。その腐った戯れ言といい、軟弱な炎と言い、お前とあの老いぼれはよく似ている。」
「え?」
『(まぁ…間違っちゃいないよね………。)』
ツナをちらっと見ながら、ボスに共感した。
すると、ボスが今度は大笑いし始めた。
「ぷはーっ!こいつは悲劇、いや、喜劇が生まれそうだな!!」
「(な、何が可笑しいんだ??)」
「おい、女。続けろ。」
「はい。」
ボスに言われ、チェルベッロは口を開く。
「今回の守護者対決は、沢田氏の妨害により、レヴィ・ア・タンの勝利とし、雷のリング並びに大空のリングは、ヴァリアー側のモノとなります。」
「え!!?」
ツナを始め、戸惑う並盛メンバー。
だけど、大空のリングはチェルベッロに奪われ、ボスの元へ。
「ルールは私達ですので。」
『(あーあ、やっぱり。)』
給水タンクの上に立つボスは、チェルベッロからツナのリングを受け取り、1つにはめる。
「これが此処にあるのは当然の事だ。俺以外にボンゴレのボスが考えられるか。」
「くそっ!」
「他のリングなどどーでもいい。これで俺の命でボンゴレの名のもと、お前らをいつでも殺せる。」
「そん……な!!」
「だが、老いぼれが後継者に選んだお前を、ただ殺したのではつまらなくなった。お前を殺るのは、リング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ。」
そこまで言うと、ゆっくりと顔をあげて。
「あの老いぼれのようにな。」
『え………?』
9代目、の、ように?
「XANXUS!!貴様!!9代目に何をした!!」
『どう言う事!?ボス!!』
家光さんとあたしは、ほぼ同時に叫んだ。
するとボスは、また吹き出して。
「それを調べるのがお前の仕事だろ?門外顧問!それに、檸檬は知る必要のねー事だ!」
「き、貴様まさか……!!!」
「落ち着け、家光。」
青い顔をする家光さんに、リボーンが言う。
「何の確証もねーんだ。」
すると、家光さんは同じように落ち着いた声で。
「お前こそ銃をしまえ。」
と。
2人とも、きっと相当怒ってる。
雰囲気で分かる。
だけど、ボスが何をしたのかは………分からない。
あたし達が悩んでいると、ボスが再び口を開いた。
「喜べ、モドキども。お前らにはチャンスをやったんだ。」
『チャンス……?』
「残りのバトルも全て行い、万が一お前らが勝ち越すような事があれば、ボンゴレリングもボスの地位も、全部くれてやる。」
そっか。
大空のリングがあれば、いつでもツナ達を殺せる。
だけど、
ボスは敢えてリング争奪戦をやる事にしたんだ。
これは……ラッキー、なのかな?
「だが負けたら、お前の大切なモンは全て、消える……」
「た、大切なモノ全て!?」
ツナは少し戸惑ったような表情を見せた。
それを見て、ボスが付け加える。
「あぁ、安心しろ。そこにいるお前の家庭教師補佐は、ヴァリアーとして生き続けるからな。」
『なっ…!』
そんな事、ここで言わないでよ。
あたしばっかり生き残るとか…イヤなのに。
.「せいぜい見せてみろ。あの老いぼれが惚れ込んだ力を。」
そう言ってボスは、チェルベッロに視線を移す。
「女、いいぞ。」
「では、明晩の対戦カードを発表します。明日の対戦は、嵐の守護者の対決です。」
嵐の守護者は……
隼人とベル、か………
「ベルか、悪くねぇ。」
そう呟くボスの元に、レヴィが行く。
「雷のリングだ、納めてくれ。」
「いらねぇ。次に醜態をさらしてみろ。」
「死にます。」
跪くレヴィを背に、ボスは去って行った。
直後に、リボーンが家光さんに言う。
「家光、お前はイタリアに飛べ。9代目が気掛かりだ。」
「すまん、リボーン。あいつらを頼む。」
「任せとけ。」
あたしも、9代目が心配だよ。
だけど、もっと心配な事があるんだ。
「檸檬、今日はもう帰ろう。」
『あ、あのね!ツナ、』
「お言葉ですが、檸檬様は本日、そちらに帰りません。」
あたしの言葉を遮って、チェルベッロが言った。
そう、こっちが………心配事なんだよね。
「………え?」
ランボちゃんを抱えたまま、ツナは目を丸くした。
チェルベッロは続ける。
「今夜はヴァリアー側が勝利したので、檸檬様には、ヴァリアーの宿舎に行ってもらいます。」
「な、何だよそれ!!」
『いーの。ルールだから。』
「檸檬!!」
あたしはスッと立ち上がって、ツナに笑いかける。
『ヴァリアーが勝った時の為に馴染みやすいようにっていう、9代目の配慮なんだって。』
「そ、そんな………!」
『平気だって。あたしにとってヴァリアーは、仲間なんだもん。』
ツナは、“だけど”っていう顔をしてた。
そんなツナに、あたしはいつもみたいにホッペにキスをする。
『ありがと。ツナはホントに優しいね♪』
「檸檬……」
『じゃあね。』
あたしはツナに背を向けて、走り出した。
「「「「檸檬っ!」」」」
ツナだけじゃない。
隼人や武、了平さんも叫んでた。
あたしの心は、罪悪感でいっぱいになる。
だけど、
立ち止まる勇気もないんだ。
『ごめん…』
最後にもう一度だけ呟いて、ヴァリアーの元へ。
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その光景を、遠くから見つめている者が3人。
「あの甘さ………相変わらずだな、沢田綱吉。」
そう呟く者の指には、ハーフボンゴレリング。
それに月明かりを反射させながら、もう一言。
「にしても、あんなルールがあるとは………」
そして、
愛おしそうに、その名を口にする。
「檸檬……………」
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ヴァリアーに向かって走ったのはいいけど、まだちょっと緊張する。
ずっと離れてたから。
あと5メートル。
走るスピードが、無意識に遅くなる。
いつしかそれは、
もじもじした小刻みな歩きになって。
ゆっくりとヴァリアーに近付く。
みんなは、
まだあたしを受け入れてくれるのかな?
あたしが思ってるように、
仲間と思ってくれるのかな?
さっきまでの罪悪感は消えて、
今度は不安でいっぱいになった。
恐る恐る、みんなの前に立ち止まる。
何を言えばいいのか、本当に分からない。
あたしが戸惑っていると、
ぎゅっ、
『へ…??』
「お帰り、お姫さま♪」
突然抱き締められて、思わず目を見開いた。
誰が抱きしめたかなんて、声で分かる。
『ベル………///』
久しぶりで、ちょっと恥ずかしかった。
同時に、その言葉が凄く嬉しくて。
---「お帰り。」
『ぐすっ……』
「ム?」
いつの間にかあたしの肩に乗ってたマーモンが、あたしの涙に気が付いた。
「檸檬、どうしたんだい?」
「あいつらと離れて寂しいってかぁ!?」
『違うよっ!アロちゃんのバカっ!!』
確かに、寂しいよ。
だけどさ、
あたしは本当に、みんなの事が大好きで、
それはどうしても止められなくて。
どう足掻いたって、どっちかを嫌いになんてなれない。
ただ、今流した涙は、
それじゃないの。
「俺達に会えて嬉しかったんだよね?檸檬は。」
抱きしめていた腕を解いて、ベルがあたしの涙を拭う。
『うんっ!』
この笑顔は、嬉しいからこそ。
向こうの方で、ツナ達がどんな反応をしてるのかが気にならないワケじゃない。
だけど今は、
今だけは、
再会の幸せを、味わわせて欲しいの。
『久しぶり!会いたかったよ、みんな♪』
「ししし♪俺もー♪」
「僕もだよ。」
「お前がこっちにいんのは当然だぁ。」
そこに、レヴィが戻って来た。
「檸檬、勝ったぞ。」
『うん、分かってる。ちゃんと見てたもん。』
ちょっと、つらかったけど。
『お疲れ!レヴィ!!』
ポン、とレヴィの肩を叩いた。
あぁまるで、
1年とちょっと前に戻ったみたい。
すごく、あったかい。
「う"お"ぉい!そろそろ帰るぞぉ!!」
「そうだね、雨足も激しいし。」
「傷が痛む。」
『えっ!?レヴィ、帰ったら治療しなきゃ!』
「治療……(ナース?)///」
「何考えてんだよ、ムッツリスケベ。」
「ぬおっ!」
顔が弛んでいるレヴィの後頭部に、ケリを入れるベル。
レヴィは少しよろめいた。
『もー、ベルってばぁ。怪我人なんだから。』
「いーの。レヴィだから。」
最後に、ちらっと並盛メンバーの方を振り向いた。
『(ランボちゃん………)』
屋上の向こうに見えるのは、ランボちゃんを抱えたツナと、そこに集まる仲間達。
ふと、目が合った。
そこには、あたしが最も見たくなかったモノ。
ツナ達の、困惑した瞳。
ぐっと拳を握りしめて。
『また明日ねーっ!』
一生懸命手を振った。
「早く行こーよー、檸檬。」
『あ、うん!』
ベルに手を引っ張られて、あたしは屋上を去った。
その風の感触は、昔の任務を思い出させた。
「ねぇ、檸檬。」
『ん?』
「檸檬の速さは、こんなもんじゃないっしょ?」
『ベル………』
それは、ベルとの任務の時に言われた言葉。
ベルはきっと、空いている時間を埋めようとしてるんだ。
『もっちろん♪』
同じ返事をしたけど、同じ動きはしない。
あたしは、ベルの手を握ったまま俊足を使う。
『宿舎はどっち?』
「あっちの方ー♪」
『らじゃ♪』
ベルが指差した方向に、あたしは飛んで行く。
「いっつもこんな景色見てんだ、檸檬は。」
『まぁね。』
それから3分もかからないうちに、ヴァリアーの宿舎に着いた。
その頃。
病院にランボを運んだツナ達。
「どうしよう………俺のリングも取られて、一気に不利になっちゃった。」
「1勝2敗……次に負けたらもう後がねぇのか…。」
獄寺はタバコの箱を握りしめる。
「俺、本当にあの時………勝負に割って入って良かったのかな………」
「ツナ…」
「10代目!」
落ち込むツナに、リボーンが言った。
「良かったぞ。部下を見捨てるようなボスは、ボンゴレにはいらねーんだ。」
「リボーン………」
その言葉を聞いたツナは、何か決意を固めたように言った。
「俺……………もっと強くなりたい。」
するとリボーンは、ハットの下にある目を光らせて。
「第3段階の修業は更に厳しいぞ。」
と。
「うん!」
そこに、
希望が見えるのなら。
その思いが、ツナを動かした。
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深夜。
誰もいない道の向こうから、空き缶を蹴る音が響いて来る。
「ちっきしょー!何チンタラやってんだよ、俺は!!」
聞こえて来るのは、明晩に試合を控えた獄寺の声。
「(10代目が苦境に立たされてるって時に!悪い流れを俺が変えなきゃなんねー時に!!)」
すると、道の向こうからやって来た人影が、獄寺の蹴った缶を踏みつぶす。
「うぃ~い。」
「酔っぱらい!!?」
「明日に決まったらしいな、勝負。」
「シャマル!」
それは、自分の師匠であり、天才殺し屋である男だった。
「な、てめー冷やかしに来たのかよ!」
「バーカ。」
自分に焦りをぶつける獄寺に、シャマルは言った。
「俺の貴重な5日間を無駄にする気はねーんだよ。仕上げるぞ。」
その言葉に、獄寺は思わず目を見開いた。
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「ねぇ檸檬、」
『なぁに?マーモン。』
「今日、僕と寝るでしょ?その時に、絵本を読んで欲しいんだ。」
『うん、いーよ♪』
レヴィの傷に薬を付けていた檸檬は、マーモンに向かってにっこりと微笑んだ。
「あ。マーモン抜け駆けはナシだって。」
ベルが会話に割り込んみ、マーモンは口を尖らせる。
「ム。抜け駆けじゃないよ。檸檬は僕と一緒に寝るって決まってるんだから。ね?檸檬。」
『うん、まぁ。(ヴァリアーにいた頃は一緒に寝てたし。)』
「だったら、俺と一緒に寝るべきじゃね?ね、檸檬♪」
『あー、うん。(そう言えば、2人と一緒に寝てたんだった。)』
檸檬が昔を思い出していると、スクアーロが口を挟んだ。
「う"お"ぉい!!てめーら檸檬と一緒に寝てたのかぁ!?」
「うしし♪まーね。」
「ボスの命令で。」
『そうだ!ボス!!』
「ん"ん?」
「どしたの?檸檬。」
「何かあったのかい?」
檸檬は急に立ち上がった。その反動で、何故かレヴィの座っていた椅子が後ろに倒れる。
『あっ!ごめん、レヴィ。大丈夫?』
「あぁ、だ、大丈夫だ///」
『あたし、ボスに挨拶して来なくちゃ!部屋何処?』
「この階の、一番奥の部屋だ。」
『ありがとレヴィ!』
檸檬は部屋を飛び出した。
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コンコン、
「誰だ。」
『あ、あたし。』
「……………入れ。」
『うん。』
ドアを開けると、ボスは大きな椅子に座っていた。
その鋭い目があたしを捉える。
「何だ。」
『えっと………久しぶりだから挨拶したくて。』
「下らねぇ。」
ボスは窓の外にぽーんと浮かぶ月に視線を移した。
それを見て、相変わらずだなぁと思う。
『あ、紅茶入れようか?』
「………好きにしろ。」
『はーい。』
部屋にあったポットを取り、紅茶を入れる。
『ちょっと熱いけど、あったまるよ。』
「あぁ。」
ボスは、すぐに手をつけようとしなかった。
あたしは、ボスが見ている方向と同じ方を見る。
暫くの間、あたしとボスは黙ったままだった。
『あの、さ、』
ふと、口火を切るあたし。
『あたしは別に、こうなった事恨んでないし、ボスに10代目になって欲しくないとも思ってないから。』
ボスは、まだ窓の外を見てる。
『今までも、これからも、ヴァリアーのみんなも大好きだからっ!』
思わず声が大きくなっちゃって、あたしはちょっと恥ずかしくなった。
『あ、ご、ごめん。大きな声出しちゃって。あたし、部屋に戻るね。』
ボスの部屋を出ようとした、その時。
「待て。」
『え?』
ボスが、ぐいっとあたしの腕を引っ張った。
突然かかった力に、あたしはよろめく。
「檸檬、つらいか?」
『え?』
「答えろ。」
『えっと………』
ボスの視線があたしを射抜くようで、吃驚した。
『つ、つらいよ。』
あたしは俯いて答える。
ボスの視線を感じる。
『でも、しょうがない事だって思って、腹括った!』
頑張って顔をあげる。
それでも、ボスの真剣な表情は変わらなくて。
『あたしの事は大丈夫だから、ボスは戦いに…………みんなの事に、気を使っててよ。ね?』
作り笑いかもしれない笑顔を向ける一方で、
似たような台詞、ツナに言ったなぁ
とか思ってた。
「先に言っておく。」
『何?』
「これから、もっとつらくなる。」
『え………?』
ボスから、目が離せなかった。
少し、怖いと思ってしまった。
もう大丈夫、
自分に言い聞かせて、ここまで来たはずなのに。
「覚悟しとけ、檸檬。」
『ボス………』
何で?
何でそんな事言うの?
問いを投げかけようとしたけど、出来なかった。
代わりに、
涙が溢れて来た。
『あ、あれっ??』
慌てて拭おうとするあたしの手を、ボスが掴む。
そして、そのまま引き寄せられた。
「泣け。」
『ボスっ………………』
何で?何で?
これ以上耐えられる自信はないよ。
これ以上つらい事って、何?
檸檬は、静かに泣いた。
時折体が震えていた。
ザンザスは、そんな檸檬をただ静かに抱え込んでいた。
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「遅かったね、檸檬。」
『ごめんねぇ。』
「これ、読んでよ。」
『うん、いーよ♪』
マーモンを膝に乗せて、ベルの膝に乗って、あたしは絵本を読んだ。
そして、イタリアにいた頃のように、ベルと向き合って、マーモンを間に挟んで、3人で一緒に眠りについた。
眠る直後にマーモンが何か言ってたけど、よく聞こえなかった。
「檸檬、僕、ボスが言ってたのを聞いたんだ。檸檬が、______の________________だって。」
『ん………?』
その夜は、少し冷え込んでいた。