黒曜編
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床に出来た大きなクレーター。
その中で骸は、
静かに目を閉じていた。
「終わったな。」
「うん…」
ツナの額から死ぬ気の炎が消えて行く。
「そうだ!みんなの怪我!!ってか、檸檬!動いて大丈夫なの?!」
『平気だよ、ちょっとふらつくだけ。』
「あの、無理しないで……」
ツナはそれでも心配そうだった。
その表情を見てると、今更ながら罪悪感が沸いて来て。
あたしは、疑わなくていい人たちを疑った。
手を差し伸べてくれる人たちを突き放した。
なんて…なんて愚かなことをしてたんだろう。
どうして、信じたいと思っていたのに、あと一歩踏み出せなかったんだろう。
『ツナ……ごめんね。』
「えっ?」
『あたし………1人で勝手に乗り込んで、ツナ達に迷惑掛けて……ホントに、ホントにごめんなさい。』
「檸檬…」
ツナはすっとあたしの前にしゃがんで、言った。
「その、何てゆーか………とにかくすっごく心配したよ、檸檬。」
『ツナ………』
「うまく言えないけど…1人で突っ走らなくていいよ。その、力になれるかは分からないけど…俺達………仲間なんだから…さ。」
どうしてこんなにあったかいんだろう。
どうして強く責めたりしないんだろう。
どうして怒りをぶつけないんだろう。
どうして……
欲しい言葉をくれるんだろう。
『ありがと、ツナ……』
せめてものお礼に、涙ではなく笑顔を返した。
「ううん、俺の方こそありがとう。フゥ太のこと、いち早く気付いて何とかしようとしてくれた。」
『そ、そんな…でも結局、』
「やっぱり檸檬はすごいよ。」
すごいのは、ツナの方。
涙をこらえて笑顔でいようとしてるのに、その強がりすら溶かしてく。
9代目や、ディーノに似てる。
ぼんやりとそんなことを考えるあたしを前に、ツナは骸の方に向き直る。
「死んで、ないよな?」
『うん、大丈夫みたい。』
「ったく、おめーらは甘いな。」
と、その時。
「近付くんじゃねーびょん!」
「マフィアが骸さんに触んな!!」
見ると、犬と千種が這いつくばってツナと檸檬の方へ寄って来ていた。
「ひいい!」
「ビビんな、ツナ。奴らは歩く力も残ってねーぞ。」
「な、何で?君達は骸に憑依されて利用されてたんだぞ。」
震えながら尋ねるツナ。
千種が口を開く。
「分かった風な口をきくな………」
続いて犬も。
「大体これくらい屁でもねーびょん。あの頃の苦しみに比べたら。」
「何があったんだ?言え。」
リボーンに言われ、ゆっくり起き上がった犬が話し始めた。
エストラーネオファミリーにいた事。
禁弾の開発のせいで他の人から迫害を受けた事。
そして、
特殊兵器開発実験のモルモットにされてた事。
そんな中、
骸が始めて彼らの居場所を築き上げた事。
---「一緒に来ますか?」
ようやく分かった気がした。
彼らが、骸が、マフィアへの憎しみを一際強く抱いていた理由。
マフィアによって無理やり与えられた異常な力を使って、
他でもないマフィアに恐怖を与え、後悔させようとしていた……。
「その時初めて………居場所が出来たんだ。」
「それを………おめーらに壊されてたまっかよ!!」
『犬ちゃん…千種………』
---「同情ですよ。」
檸檬はふと、骸の言葉を思い出す。
綿密な計画を立てていた骸のことだ、檸檬の経歴についても調べていたに違いない。
同じように「大人たちによって」痛めつけられて、その結果喧嘩が上手くなっていかざるを得なかった檸檬に、
本当に同情したのかも知れない…。
そうだとしたら、やはり……
檸檬はどうしても、骸に全面的な怒りを向けることはできなかった。
あたしと同じく黙って話を聞いていたツナは少し俯いて、
それでも、顔を上げた時の瞳は、強くて。
「だけど俺も、仲間が傷付くのを黙って見てられない………そこが俺の、居場所だから。」
「ぐっ…!」
そう、
誰もが皆、
自分の居場所を欲しがってる。
その望みがぶつかって、
傷つけあうことがある。
だから、
誰かが誰かを責めるなんて、
今のあたし達には出来なかった。
『犬ちゃん、』
「………んあ?」
『あたしを殺さなかったのは、やっぱり同情?』
ボンゴレ9代目直属だと名乗って、戦いを挑んだ。
それでも能力の限界がきて、骸の手に落ちた。
ただ、そこで始末することもできたはず。
仮に骸が、個人の同情であたしを生かしたとしても、犬ちゃんや千種には同じように生かしておく理由になるんだろうか。
「骸様の、意向もあった…」
『……千種?』
「檸檬は分からなかった……俺たちが知ってるマフィアと、同種なのか………」
「戦ってんのに気ぃ遣うのとか……ホントよくわかんねぇびょん…。檸檬が、そーやって、変に優しかったから……こ、殺し損ねたんら……」
『犬ちゃん……』
「だから、檸檬は運が良かったんら…!本当の本当に、そんだけで…」
その声は、次第に弱々しくなっていく。
「そ、そんな言い方…!」
『ツナ、いいの。』
反論しようとするツナを、檸檬は静かに止める。
「檸檬……」
仕方なく抑えるツナだったが、その表情は不満を訴えていた。
檸檬は、犬と千種の方に体を向け、静かに言った。
『犬ちゃん、千種、あたし……やっぱり一人じゃ強くなれなかった。骸は、アメリカにいた頃のあたしの方が強いって言ってくれたけど……もう、戻れなかった。』
あたしを弱体化させるための、ウソだったんだと思う。
結局、あたしの心は孤独のトラウマに勝てなかった。
「いらない」と言い放った時、涙が溢れた。
その結果心が壊れて、マインドコントロールの餌食になった。
『恐ろしい嘘に躍らされたのは、あたしの弱さだから……それで骸や、犬ちゃんや千種を、責めたくない。』
「檸檬!何言って…」
『だって、傍にいてくれた。弱ったあたしを…放っとかないでいてくれた……』
演技でも、作戦でも、
一緒にいてくれたっていう事実は変わらない。
そのおかげで、弱ったあたしの心が救われていたのも、紛れもない事実だから。
『殺さないでいてくれて、ありがとう。』
「な…何で……」
柔らかく微笑んだ檸檬に、犬と千種は表情を歪めさせた。
そんな言葉など聞きたくなかった、というように。
「何でそんなこと…言うんら…!!」
「犬、やめろ…」
「怒鳴ったり、罵ったり、恨んだりすんだろフツー!!俺らはっ……檸檬の、ことっ……」
目を逸らす犬の前に、檸檬は腰をおろした。
『千種の毒で、隼人は倒れた。犬ちゃんの襲撃で、武は大切な腕に怪我を負った。骸は…恭弥に重傷を負わせて、戦い慣れてないツナをこんなに苦しめた…』
「檸檬…」
『それは勿論謝って欲しいんだけど…あたしのことは別に、もういいの。』
「そーゆートコがっ…意味わかんねぇって言ってんら…!!」
『勝手に疑心暗鬼になって、人間不信ぶり返して……あたしの責任だもん。意味わからなくていい。それでもあたしは……本当に、また会えたらって思ったの。』
「なっ……!」
「えっ!?」
犬とツナが驚きの声を発した。
檸檬はにっこりと微笑んで、犬と千種を真直ぐに見る。
『同じ世界にいるんだもん。また、会えるよね?てゆーか、骸とはほぼ約束済みだから。』
意味わかんねぇのは、多分、檸檬みたいなあったかい人間が、初めてだからだ。
許されるハズないことをして、それでも笑顔を向けられるなんて、思ってなかったからだ。
これって、柿ピーも同じこと考えてるんかな?
骸さんが、俺らが檸檬にしたことは、
檸檬の心の傷ってのを抉って広げちまったんじゃねーのかって。
なのに、檸檬はそれも自分の弱さだって言ってる。
違うんら、違うんれすよ。
俺らは檸檬と一緒にいたくなって、
無理矢理ってわかってて、切り離そうとして……
「檸檬…、」
『…なぁに?』
「檸檬、ごめんらさいっ……!」
声を絞り出した犬の目は、みるみるうちに潤んでいく。
「ごめん………」
千種も目を逸らし、俯く。
しばらく2人を交互に見ていた檸檬だったが、ふっと微笑んだ。
『いいの…いいんだよ………もう、いいの……』
その目にも、溢れそうな涙が溜まっていた。
そしてそのまま、檸檬は2人の頭を撫でる。
「ごめんらさーぃ………」
犬のその声は、まるで狼の遠ぼえのように響く。
檸檬は何も言わずにただ、その頭を撫で続けていた。
ところが-------
ガチャ!
ガチャ!
ガチャ!
『えっ!?』
「な!」
「早いお出ましだな。」
もしかして、
彼らが噂に聞く……
「復讐者。」
マフィア界の掟の番人で、法で裁けない人を裁く者達。
分かってる。
分かってるよ、だけど……
『待って…!犬ちゃんっ!千種っ!骸っ!』
追おうとしたけど、もう立ち上がれない。
傷の痛みが邪魔をして、出血のせいで上手く体がコントロールできない。
「檸檬、無理しない方が…」
「あんまり動くな。お前、ギリギリもいいトコなんだからな。」
『うん……分かった……』
また、会いにくるって言ってくれた。
忘れないよ、ずっと。
『犬ちゃん…千種…骸………』
心臓の鼓動を抑制していたせいか、檸檬は急に目眩を感じた。
「檸檬っ!!?」
ツナの声を最後に、檸檬の意識は無くなった。
---
------
-----------
1ヶ月後。
『ねぇ、恭弥ぁ…』
「……何?」
『今日、野球部の秋の大会なんだけど。』
「知ってるよ。」
並盛中学屋上。
燦々と降り注ぐ陽光の下、男女のペアが1つ。
風紀委員長・雲雀恭弥と、風紀委員の雨宮檸檬である。
雲雀は檸檬の腰に手を回し、後ろから抱きついている状態。
そんな雲雀に、首を出来る限り向けながら話し掛ける檸檬。
『応援行きた…「ダメ。」
その要望は、悉く却下される。
檸檬はため息をついた。
すると、今度は雲雀が言う。
「僕、言ったよね?」
『何を?』
「“応接室に帰る”って、言ったよね?」
『……ここ、屋上じゃん。』
「晴れてるからね。」
何だかなぁ……
『我が儘王子。』
「何か言った?」
『べ、つ、にっ!』
ピロリロリ~~
不意に、あたしの携帯が鳴る。
『もしもし。』
「檸檬、早く来い。」
『リボーン!?わ、分かった!!』
プチッ、
電話を切って、恭弥の方に向き直った。
『リボーンに呼び出されちゃった。』
「赤ん坊?」
『お願い恭弥!行かないと殺されちゃう!リボーンの早撃ちはどうしても避けられないの!』
恭弥はしばらく無言になる。
あたしはハラハラしながら返答を待った。
『恭弥ぁ…』
「(はぁ…)分かったよ。」
『やったーっ!!恭弥、大好きっ♪』
頬にキスを落とし、笑顔で抱き付く。
さっすが恭弥!融通が利く!
「2時間。」
『らじゃっ!』
2時間で帰って来い、という恭弥の我が儘に、ピシッと敬礼。
『行って来まーす!!』
「…いってらっしゃい。」
小さな見送りの言葉を超五感でキャッチしつつ、屋上から思いっきり大空へ飛び立った。
---
------
-----------
『リボーンっ!!』
「早かったな、檸檬。」
『へへっ、俊足使ったの♪』
「もうすぐ山本が打つぞ。」
『ホント!?』
リボーンの隣に座った檸檬は、思いっきり息を吸い込む。
『武ーっ!!頑張れーっ!!!』
「檸檬!いつの間に!?ってか、大声出すなよ~~っ!!」
『だって、応援したいんだもんっ。』
「(そ、そんな甘えた声…!ってか、檸檬ただでさえ目立つのに…)」
ツナの心、檸檬知らず。
「(ったく、獄寺君はダイナマイト出すし、お兄さんはボクシング勧誘するし………)」
『あ!ファールが来る!』
「へ!?」
パシッ、
「『ビアンキ(姉さん)!』」
「お弁当持ってきたわよ。」
ゴパッ!
「獄寺君!?」
『隼人っ!』
まるで、黒曜での戦いなんて無かったみたいに過ごしてる。
楽しくて、嬉しくて、しょうがない。
そう、これからはまた、普通の生活。
だからまさか武の試合中にツナが悪寒を感じて、
振り向いた先に骸が憑依してる子供がいたなんて、
知る由もなかった……。
「また……いずれ…………」
---
------
------------
2週間前、病院。
「檸檬、久々無茶したんだろ。」
『え?うーん…そうでもないよ。マシな方。』
病室にて、点滴を打たれた状態で檸檬はリボーンに笑って答えた。
『あたしは平気。もう、痛くないし。』
「なら、いーんだけどな。」
別室で処置を受けていることが、檸檬の容体が最も危険な状態であったことを物語っていた。
しかし、リボーンは深く追究せずに「また来るぞ」と退室した。
上半身を起こしていた檸檬は、そのまま窓の外に輝く星を見上げる。
『骸…』
あたしはどうしても、骸を恨むことができないよ。
---「明言したはずですよ、同情だと。」
うん、そうだね。
その通りだけど、でも……嬉しかった。
---「その涙は僕が拭いますよ。」
その言葉は、本当だった。
苦しくなった時には、傍に来てくれたね、骸。
---「君にそんな性質がついてしまったのも、ボンゴレの罪でしょうか。」
ううん、これはあたしの弱さ。
今回のことも含めて、あたしは一人じゃ生きていけないって分かったの。
迷惑をかけるかも知れない。
望まれない存在かも知れない。
でも……温かい人たちのことは、傍で守りたい。
---「人を道具のように扱うマフィアとは違う……君は、マフィアとして生きるには勿体ないんです。」
骸が思っているほど、あたしの知ってるマフィアは汚くないんだ。
だから…力になりたい、関わっていたいと思うの。
---「もし僕が、君の傍に居たいと言ったら、どうしますか…?」
一緒に戦うってことなのかと思った。
骸は強いから、タッグ組めたら色んな組織倒せちゃいそうだよね。
---「僕が守ります。君に二度と、辛い思いはさせない。」
守られるのは、多分、性に合わないよ。
あたしは……誰かの後ろで待ってるんじゃくて、その人の隣で支えられる存在でありたい。
---「どこまでも…君は、おめでたい人間だ…」
骸がそう言うなら、きっとそうなんだね。
---「怖い思いをさせましたね、すみません。」
大丈夫だよ。
それより、守って欲しい約束があるの。
犬ちゃんと千種から、聞いたかな?
---「君を迎えに行きましょう。」
---「個人的にですが、もう一度檸檬に会えたら、と思いましてね。」
次に会う時までには、絶対に、
揺るがない心の強さを持ってる人間になる。
---「では、再会を約束しておきましょうか。」
『……約束だよ、骸。』
流した涙が貴方達の為だとは、皆には内緒だけれど。
窓の外に煌めく無数の星に、小さく祈りを込めた。
その中で骸は、
静かに目を閉じていた。
「終わったな。」
「うん…」
ツナの額から死ぬ気の炎が消えて行く。
「そうだ!みんなの怪我!!ってか、檸檬!動いて大丈夫なの?!」
『平気だよ、ちょっとふらつくだけ。』
「あの、無理しないで……」
ツナはそれでも心配そうだった。
その表情を見てると、今更ながら罪悪感が沸いて来て。
あたしは、疑わなくていい人たちを疑った。
手を差し伸べてくれる人たちを突き放した。
なんて…なんて愚かなことをしてたんだろう。
どうして、信じたいと思っていたのに、あと一歩踏み出せなかったんだろう。
『ツナ……ごめんね。』
「えっ?」
『あたし………1人で勝手に乗り込んで、ツナ達に迷惑掛けて……ホントに、ホントにごめんなさい。』
「檸檬…」
ツナはすっとあたしの前にしゃがんで、言った。
「その、何てゆーか………とにかくすっごく心配したよ、檸檬。」
『ツナ………』
「うまく言えないけど…1人で突っ走らなくていいよ。その、力になれるかは分からないけど…俺達………仲間なんだから…さ。」
どうしてこんなにあったかいんだろう。
どうして強く責めたりしないんだろう。
どうして怒りをぶつけないんだろう。
どうして……
欲しい言葉をくれるんだろう。
『ありがと、ツナ……』
せめてものお礼に、涙ではなく笑顔を返した。
「ううん、俺の方こそありがとう。フゥ太のこと、いち早く気付いて何とかしようとしてくれた。」
『そ、そんな…でも結局、』
「やっぱり檸檬はすごいよ。」
すごいのは、ツナの方。
涙をこらえて笑顔でいようとしてるのに、その強がりすら溶かしてく。
9代目や、ディーノに似てる。
ぼんやりとそんなことを考えるあたしを前に、ツナは骸の方に向き直る。
「死んで、ないよな?」
『うん、大丈夫みたい。』
「ったく、おめーらは甘いな。」
と、その時。
「近付くんじゃねーびょん!」
「マフィアが骸さんに触んな!!」
見ると、犬と千種が這いつくばってツナと檸檬の方へ寄って来ていた。
「ひいい!」
「ビビんな、ツナ。奴らは歩く力も残ってねーぞ。」
「な、何で?君達は骸に憑依されて利用されてたんだぞ。」
震えながら尋ねるツナ。
千種が口を開く。
「分かった風な口をきくな………」
続いて犬も。
「大体これくらい屁でもねーびょん。あの頃の苦しみに比べたら。」
「何があったんだ?言え。」
リボーンに言われ、ゆっくり起き上がった犬が話し始めた。
エストラーネオファミリーにいた事。
禁弾の開発のせいで他の人から迫害を受けた事。
そして、
特殊兵器開発実験のモルモットにされてた事。
そんな中、
骸が始めて彼らの居場所を築き上げた事。
---「一緒に来ますか?」
ようやく分かった気がした。
彼らが、骸が、マフィアへの憎しみを一際強く抱いていた理由。
マフィアによって無理やり与えられた異常な力を使って、
他でもないマフィアに恐怖を与え、後悔させようとしていた……。
「その時初めて………居場所が出来たんだ。」
「それを………おめーらに壊されてたまっかよ!!」
『犬ちゃん…千種………』
---「同情ですよ。」
檸檬はふと、骸の言葉を思い出す。
綿密な計画を立てていた骸のことだ、檸檬の経歴についても調べていたに違いない。
同じように「大人たちによって」痛めつけられて、その結果喧嘩が上手くなっていかざるを得なかった檸檬に、
本当に同情したのかも知れない…。
そうだとしたら、やはり……
檸檬はどうしても、骸に全面的な怒りを向けることはできなかった。
あたしと同じく黙って話を聞いていたツナは少し俯いて、
それでも、顔を上げた時の瞳は、強くて。
「だけど俺も、仲間が傷付くのを黙って見てられない………そこが俺の、居場所だから。」
「ぐっ…!」
そう、
誰もが皆、
自分の居場所を欲しがってる。
その望みがぶつかって、
傷つけあうことがある。
だから、
誰かが誰かを責めるなんて、
今のあたし達には出来なかった。
『犬ちゃん、』
「………んあ?」
『あたしを殺さなかったのは、やっぱり同情?』
ボンゴレ9代目直属だと名乗って、戦いを挑んだ。
それでも能力の限界がきて、骸の手に落ちた。
ただ、そこで始末することもできたはず。
仮に骸が、個人の同情であたしを生かしたとしても、犬ちゃんや千種には同じように生かしておく理由になるんだろうか。
「骸様の、意向もあった…」
『……千種?』
「檸檬は分からなかった……俺たちが知ってるマフィアと、同種なのか………」
「戦ってんのに気ぃ遣うのとか……ホントよくわかんねぇびょん…。檸檬が、そーやって、変に優しかったから……こ、殺し損ねたんら……」
『犬ちゃん……』
「だから、檸檬は運が良かったんら…!本当の本当に、そんだけで…」
その声は、次第に弱々しくなっていく。
「そ、そんな言い方…!」
『ツナ、いいの。』
反論しようとするツナを、檸檬は静かに止める。
「檸檬……」
仕方なく抑えるツナだったが、その表情は不満を訴えていた。
檸檬は、犬と千種の方に体を向け、静かに言った。
『犬ちゃん、千種、あたし……やっぱり一人じゃ強くなれなかった。骸は、アメリカにいた頃のあたしの方が強いって言ってくれたけど……もう、戻れなかった。』
あたしを弱体化させるための、ウソだったんだと思う。
結局、あたしの心は孤独のトラウマに勝てなかった。
「いらない」と言い放った時、涙が溢れた。
その結果心が壊れて、マインドコントロールの餌食になった。
『恐ろしい嘘に躍らされたのは、あたしの弱さだから……それで骸や、犬ちゃんや千種を、責めたくない。』
「檸檬!何言って…」
『だって、傍にいてくれた。弱ったあたしを…放っとかないでいてくれた……』
演技でも、作戦でも、
一緒にいてくれたっていう事実は変わらない。
そのおかげで、弱ったあたしの心が救われていたのも、紛れもない事実だから。
『殺さないでいてくれて、ありがとう。』
「な…何で……」
柔らかく微笑んだ檸檬に、犬と千種は表情を歪めさせた。
そんな言葉など聞きたくなかった、というように。
「何でそんなこと…言うんら…!!」
「犬、やめろ…」
「怒鳴ったり、罵ったり、恨んだりすんだろフツー!!俺らはっ……檸檬の、ことっ……」
目を逸らす犬の前に、檸檬は腰をおろした。
『千種の毒で、隼人は倒れた。犬ちゃんの襲撃で、武は大切な腕に怪我を負った。骸は…恭弥に重傷を負わせて、戦い慣れてないツナをこんなに苦しめた…』
「檸檬…」
『それは勿論謝って欲しいんだけど…あたしのことは別に、もういいの。』
「そーゆートコがっ…意味わかんねぇって言ってんら…!!」
『勝手に疑心暗鬼になって、人間不信ぶり返して……あたしの責任だもん。意味わからなくていい。それでもあたしは……本当に、また会えたらって思ったの。』
「なっ……!」
「えっ!?」
犬とツナが驚きの声を発した。
檸檬はにっこりと微笑んで、犬と千種を真直ぐに見る。
『同じ世界にいるんだもん。また、会えるよね?てゆーか、骸とはほぼ約束済みだから。』
意味わかんねぇのは、多分、檸檬みたいなあったかい人間が、初めてだからだ。
許されるハズないことをして、それでも笑顔を向けられるなんて、思ってなかったからだ。
これって、柿ピーも同じこと考えてるんかな?
骸さんが、俺らが檸檬にしたことは、
檸檬の心の傷ってのを抉って広げちまったんじゃねーのかって。
なのに、檸檬はそれも自分の弱さだって言ってる。
違うんら、違うんれすよ。
俺らは檸檬と一緒にいたくなって、
無理矢理ってわかってて、切り離そうとして……
「檸檬…、」
『…なぁに?』
「檸檬、ごめんらさいっ……!」
声を絞り出した犬の目は、みるみるうちに潤んでいく。
「ごめん………」
千種も目を逸らし、俯く。
しばらく2人を交互に見ていた檸檬だったが、ふっと微笑んだ。
『いいの…いいんだよ………もう、いいの……』
その目にも、溢れそうな涙が溜まっていた。
そしてそのまま、檸檬は2人の頭を撫でる。
「ごめんらさーぃ………」
犬のその声は、まるで狼の遠ぼえのように響く。
檸檬は何も言わずにただ、その頭を撫で続けていた。
ところが-------
ガチャ!
ガチャ!
ガチャ!
『えっ!?』
「な!」
「早いお出ましだな。」
もしかして、
彼らが噂に聞く……
「復讐者。」
マフィア界の掟の番人で、法で裁けない人を裁く者達。
分かってる。
分かってるよ、だけど……
『待って…!犬ちゃんっ!千種っ!骸っ!』
追おうとしたけど、もう立ち上がれない。
傷の痛みが邪魔をして、出血のせいで上手く体がコントロールできない。
「檸檬、無理しない方が…」
「あんまり動くな。お前、ギリギリもいいトコなんだからな。」
『うん……分かった……』
また、会いにくるって言ってくれた。
忘れないよ、ずっと。
『犬ちゃん…千種…骸………』
心臓の鼓動を抑制していたせいか、檸檬は急に目眩を感じた。
「檸檬っ!!?」
ツナの声を最後に、檸檬の意識は無くなった。
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1ヶ月後。
『ねぇ、恭弥ぁ…』
「……何?」
『今日、野球部の秋の大会なんだけど。』
「知ってるよ。」
並盛中学屋上。
燦々と降り注ぐ陽光の下、男女のペアが1つ。
風紀委員長・雲雀恭弥と、風紀委員の雨宮檸檬である。
雲雀は檸檬の腰に手を回し、後ろから抱きついている状態。
そんな雲雀に、首を出来る限り向けながら話し掛ける檸檬。
『応援行きた…「ダメ。」
その要望は、悉く却下される。
檸檬はため息をついた。
すると、今度は雲雀が言う。
「僕、言ったよね?」
『何を?』
「“応接室に帰る”って、言ったよね?」
『……ここ、屋上じゃん。』
「晴れてるからね。」
何だかなぁ……
『我が儘王子。』
「何か言った?」
『べ、つ、にっ!』
ピロリロリ~~
不意に、あたしの携帯が鳴る。
『もしもし。』
「檸檬、早く来い。」
『リボーン!?わ、分かった!!』
プチッ、
電話を切って、恭弥の方に向き直った。
『リボーンに呼び出されちゃった。』
「赤ん坊?」
『お願い恭弥!行かないと殺されちゃう!リボーンの早撃ちはどうしても避けられないの!』
恭弥はしばらく無言になる。
あたしはハラハラしながら返答を待った。
『恭弥ぁ…』
「(はぁ…)分かったよ。」
『やったーっ!!恭弥、大好きっ♪』
頬にキスを落とし、笑顔で抱き付く。
さっすが恭弥!融通が利く!
「2時間。」
『らじゃっ!』
2時間で帰って来い、という恭弥の我が儘に、ピシッと敬礼。
『行って来まーす!!』
「…いってらっしゃい。」
小さな見送りの言葉を超五感でキャッチしつつ、屋上から思いっきり大空へ飛び立った。
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『リボーンっ!!』
「早かったな、檸檬。」
『へへっ、俊足使ったの♪』
「もうすぐ山本が打つぞ。」
『ホント!?』
リボーンの隣に座った檸檬は、思いっきり息を吸い込む。
『武ーっ!!頑張れーっ!!!』
「檸檬!いつの間に!?ってか、大声出すなよ~~っ!!」
『だって、応援したいんだもんっ。』
「(そ、そんな甘えた声…!ってか、檸檬ただでさえ目立つのに…)」
ツナの心、檸檬知らず。
「(ったく、獄寺君はダイナマイト出すし、お兄さんはボクシング勧誘するし………)」
『あ!ファールが来る!』
「へ!?」
パシッ、
「『ビアンキ(姉さん)!』」
「お弁当持ってきたわよ。」
ゴパッ!
「獄寺君!?」
『隼人っ!』
まるで、黒曜での戦いなんて無かったみたいに過ごしてる。
楽しくて、嬉しくて、しょうがない。
そう、これからはまた、普通の生活。
だからまさか武の試合中にツナが悪寒を感じて、
振り向いた先に骸が憑依してる子供がいたなんて、
知る由もなかった……。
「また……いずれ…………」
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2週間前、病院。
「檸檬、久々無茶したんだろ。」
『え?うーん…そうでもないよ。マシな方。』
病室にて、点滴を打たれた状態で檸檬はリボーンに笑って答えた。
『あたしは平気。もう、痛くないし。』
「なら、いーんだけどな。」
別室で処置を受けていることが、檸檬の容体が最も危険な状態であったことを物語っていた。
しかし、リボーンは深く追究せずに「また来るぞ」と退室した。
上半身を起こしていた檸檬は、そのまま窓の外に輝く星を見上げる。
『骸…』
あたしはどうしても、骸を恨むことができないよ。
---「明言したはずですよ、同情だと。」
うん、そうだね。
その通りだけど、でも……嬉しかった。
---「その涙は僕が拭いますよ。」
その言葉は、本当だった。
苦しくなった時には、傍に来てくれたね、骸。
---「君にそんな性質がついてしまったのも、ボンゴレの罪でしょうか。」
ううん、これはあたしの弱さ。
今回のことも含めて、あたしは一人じゃ生きていけないって分かったの。
迷惑をかけるかも知れない。
望まれない存在かも知れない。
でも……温かい人たちのことは、傍で守りたい。
---「人を道具のように扱うマフィアとは違う……君は、マフィアとして生きるには勿体ないんです。」
骸が思っているほど、あたしの知ってるマフィアは汚くないんだ。
だから…力になりたい、関わっていたいと思うの。
---「もし僕が、君の傍に居たいと言ったら、どうしますか…?」
一緒に戦うってことなのかと思った。
骸は強いから、タッグ組めたら色んな組織倒せちゃいそうだよね。
---「僕が守ります。君に二度と、辛い思いはさせない。」
守られるのは、多分、性に合わないよ。
あたしは……誰かの後ろで待ってるんじゃくて、その人の隣で支えられる存在でありたい。
---「どこまでも…君は、おめでたい人間だ…」
骸がそう言うなら、きっとそうなんだね。
---「怖い思いをさせましたね、すみません。」
大丈夫だよ。
それより、守って欲しい約束があるの。
犬ちゃんと千種から、聞いたかな?
---「君を迎えに行きましょう。」
---「個人的にですが、もう一度檸檬に会えたら、と思いましてね。」
次に会う時までには、絶対に、
揺るがない心の強さを持ってる人間になる。
---「では、再会を約束しておきましょうか。」
『……約束だよ、骸。』
流した涙が貴方達の為だとは、皆には内緒だけれど。
窓の外に煌めく無数の星に、小さく祈りを込めた。