黒曜編
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酷い事をしたの。
とってもとっても、
酷い事を。
なのに貴方は、
貴方達は……
=============
「(前世に刻まれた能力?何言ってんだ??)」
骸の説明を聞いても、今一つ理解しかねるツナ。
骸は笑みを浮かべつつ言った。
「いきますよ。」
トン、
骸の持つ棒が床を突くと、そこに大きな亀裂が入る。
そして、それは四方八方にヒビを作っていく。
「そ、そんなぁ!!建物が!!」
傾く床にしがみつくツナ。
しかし、床はどんどん崩壊していき……
「ああ、フゥ太!!ビアンキ!!リボーン!!!檸檬っ!!」
その亀裂の中に吸い込まれるように落ちていく。
それを見て、クフフと笑う骸。
同時に、マインドコントロールにかけられ意識を失っていた檸檬が、ゆっくりと起き上がった。
『ん……』
「檸檬、気分はどうですか?」
『……平気。』
焦点の定まらない視線で、そう答える檸檬。
骸はぼんやりとする檸檬を抱きかかえ、ソファに座らせた。
「終わるまで、ここに座っていなさい。」
『…うん。』
目の前には、何も無い所でツナがもがいている光景。
『あれは…?』
檸檬が首をかしげた。
と、次の瞬間。
「ブ!!」
リボーンが思いっきりツナを殴った。
そして、初めてツナは建物の崩壊が幻覚だった事を知る。
「クフフフ、やりますね。見破るとは流石アルコバレーノ。」
この幻覚が第一の道・地獄道の能力である事を教える。
檸檬はそんな骸の背中を、ただぼーっと見つめていた。
「クフフフ、しかし君達の事を暫く観察させてもらい、関係が見えてきましたよ。アルコバレーノはボンゴレのお目付役ってワケですね。」
「ちげーぞ。」
リボーンが一歩前に出て言った。
「俺は、ツナの家庭教師だ。」
『家庭、教師……?』
リボーンの言葉が耳を通り抜けていく。
掟だから、生徒の戦いには手を出せないらしい。
「それは美しい信頼関係だ。面白い、いいでしょう。」
骸の右目“三”の文字が浮かび上がる。
すると…
ボトボト……
「へ?」
ボトボト………
「へ、蛇だ!」
ツナの周りに、いかにも毒を持っていそうな蛇が大量に現れた。
それは、前後左右からツナを追い詰めていく。
「ひいい!来たぁ!!」
しかし、ツナはふっと思い付く。
「もしかしてコレも幻覚なんじゃ……!」
だが、
「正真正銘の蛇ですよ。なんなら噛まれてみますか?」
「そ、そんな!!」
それは、第三の道・畜生道の能力だと言う。
骸はリボーンを挑発した。
「さぁ、生徒の命の危機ですよ。いいんですか?」
「ひいい!!やめて、助けて!」
ツナが叫んでもリボーンはちっとも動かない。
そればかりか、ニッと口角を上げて、
「あんまり図に乗んなよ、骸。俺は超一流の家庭教師だぞ。」
と言った。
と、その時。
ビッ、
骸に向かって何かが飛ばされ、骸はそれを槍で弾いた。
「トンファー!?」
思わず声をあげるツナ、そして……
「10代目、伏せて下さい!」
「え!?」
トンファーの持ち主とは別の声がして、次の瞬間に爆発が起こる。
それは、ツナの周りにいた蛇を撃退した。
トンファーとダイナマイトが飛んできた方向を見ると、そこには2人の人物が。
「雲雀さん!!獄寺君!!」
ツナの喜ばしげな声を聞き、檸檬も、肩を組んで部屋に入って来る二人を見た。
ここでリボーンが得意気に言う。
「分かったか、骸。俺はツナだけを育ててるワケじゃねーんだぞ。」
「これはこれは外野がぞろぞろと。千種は何をしてるんですかねぇ。」
「へへ、メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良く伸びてるぜ。」
獄寺の返答にため息をつく骸。
「なるほど…」
だが直後、獄寺の肩を支えていた雲雀が飽きたように腕を払う。
驚くツナも気に留めず、雲雀は奥のソファに座る檸檬を見た。
その視線に、檸檬も無感情に視線を返す。
何の反応もないことに違和感を抱いた雲雀は、妖しい笑みを浮かべて立っている骸に問いかけた。
「檸檬に何したの。」
「まるで僕が何か悪いことをしたような質問ですねぇ……まぁ、端的に言うなら、檸檬は僕のものになった……ということです。」
「ふぅん……君は余程咬み殺されたいらしいね……」
殺気を強めた雲雀は、足元をフラつかせたまま先ほど投げたトンファーを拾って、構えた。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねぇ……しかし今は僕とボンゴレの邪魔をしないで下さい。第一、君は立っているのもやっとのはずだ。骨を何本も折りましたからねぇ。」
「そ、そんな…雲雀さん…!」
「遺言はそれだけかい?」
戦闘態勢を崩さない雲雀の雰囲気に、骸も折れたようにため息をついた。
「仕方ない、君から片付けましょう。」
口元には、また妖しい笑みを浮かべて。
「一瞬で終わりますよ。」
一気にかたをつけるべく攻め寄った。
骸の攻撃を難無く受け止める雲雀。
2人の攻防は、両者一歩も引けを取らない形になった。
「(すげ~、早過ぎてよく見えない…)」
『(互角……)』
そうしているうちに、2人の武器がぶつかり、お互い一瞬だけ動きを止める。
「君の一瞬って、いつまで?」
雲雀がそう挑発すると、骸は楽しそうに笑った。
そして次の瞬間、お互いに力を込めてバッと離れた。
「やっぱり強い!さすが雲雀さん!!」
「こいつらを侮るなよ、骸。お前が思ってるよりずっと伸び盛りだぞ。」
ツナとリボーンの言葉を聞き、骸は笑みを浮かべる。
「なるほど、そのようですね。彼が怪我をしてなければ勝負は分からなかったかも知れない。」
その瞬間、雲雀の左肩から血が吹き出す。
それを見てクフフと笑った骸は、右目の数字を“一”に変えた。
「時間の無駄です。てっとり早く終わらせましょう。」
言い終わると同時に、満開の桜が現れ、ツナには嫌な予感が過る。
「まさか、雲雀さんの桜クラ病を利用して…!」
「クフフ、さぁまた跪いてもらいましょう。」
フラフラし始める雲雀。
ツナが叫ぶ。
「そんな!雲雀さん!!」
しかし、雲雀は跪く事なく、真直ぐ骸の鳩尾をトンファーで殴った。
「……おや?」
骸の口元に、赤い道が1本作られる。
同時に、ぼんやりと観戦していた檸檬の表情にも驚きが混ざった。
「へへっ、甘かったな。シャマルからこいつを預かってたのさ。」
獄寺の手に握られていたのは、先程雲雀に投げられた白い袋。
桜クラ病の処方箋。
「それじゃあ…!!」
ツナの声が明るくなった。
次の瞬間、骸は……
雲雀のトンファーに吹っ飛ばされた。
骸の体が弧を描いて床に落ちた瞬間、おとなしく座っていた檸檬が動いた。
『む、くろ……?』
ふらりと立ち上がり、倒れたまま動かない骸に歩み寄ろうとする。
だが、
ガシッ、
『!?』
雲雀がその手首を掴み、振り向かせた。
驚きながらも檸檬は目の前の雲雀を虚ろな瞳で見つめ、口にする。
『放して…』
「嫌だ。」
『どうして…?』
暴れこそしないものの無感情な視線を向け続ける檸檬に、雲雀は言った。
「なかなか帰ってこない君をわざわざ迎えに来たんだ。だから、もう離さない。一緒に帰るよ。」
『あたしは、もう、どこにも帰らな……』
「応接室に帰るんだ。」
刹那、檸檬の肩が僅かに震える。
『あたしは……一人で…強く、』
「悪いけど僕には、今の君が強いとは思えない。今の君は……空っぽに見えるよ。」
『っ……や、やめて…』
雲雀の言葉を拒絶しようと、距離を取ろうと体を引く檸檬。
しかし雲雀はそんな彼女を逆に引き寄せ、抱きしめた。
「檸檬…君に風紀の腕章をあげたあの日から、僕には君を手放すつもりはないんだ。君がどんなに嫌がったって連れ戻すよ。」
『でも、もう、あたしは……』
「言葉が信じられないなら信じなくていい。ただ…僕がこれまで1日でも、君を呼ばない日があった?」
毎日、毎日、
君の声が聞きたくて、
君を困らせたくて、
君のことが知りたくて、
君の…笑顔が見たくて。
「これからもずっと、いつでも君を呼ぶ。信じなくてもいい。この言葉が本当だと分かるまで、僕の傍にいればいい。」
『信じなくて、いい、の……?』
「うん。」
檸檬の髪を撫でながら、雲雀は優しく囁いた。
「もう二度と、君を空っぽにさせはしない。僕が全部埋めるからね。」
檸檬の肩の震えは、小刻みな体の震えに変わってゆく。
その頬を一筋の雫が伝ったのを皮切りに、微かな涙声が混ざり始めた。
『恭弥っ……あたし、たくさん…ひどいこと……』
「大丈夫だよ、大したことないから。」
檸檬を安心させるように微笑んだ雲雀だったが、次の瞬間……
ふらっ…ばたっ、
『恭弥…?』
電池が切れたように、その場に倒れた。
突然のことに目を見開き、座り込む檸檬。
「雲雀さん!」
ツナも駆け寄っていく。
『恭弥…恭弥っ……いや、いやだよ……起きてっ……いやあああああ!!!』
頭を抱えて悲痛な叫び声をあげ、檸檬もそのまま気絶する。
「大丈夫ですか!!?雲雀さん!檸檬!!」
呼びかけてみるツナだったが、2人とも完全に気を失っていた。
リボーンが見ると、檸檬は耳と目から血を流していて。
「雲雀の奴は限界もいいとこだったぞ、途中から無意識で戦ってたぐれーだ。檸檬の方は…フゥ太と同じ症状だな。」
「雲雀さんすげー……ってゆーか!それじゃあ檸檬のマインドコントロールは…!」
「一先ず解けたと思うぞ。」
「よ、良かった…!」
何はともあれ、終わった事にホッとするツナ。
「そうだ!早く皆を病院に!」
「心配ねーぞ。ボンゴレの医療チームがこっちに向かってる。」
「よかったっスね。」
フラフラしながらツナの方に歩いて来る獄寺。
「獄寺君!無理しちゃダメだよ。」
すっかり落ち着いた会話をする3人。
しかし…
「その医療チームは不要ですよ。」
自分達以外の声がして、驚いて振り向く3人。
そこには、起き上がって銃を構えた骸が。
「なぜなら、生存者はいなくなるからです。」
ツナに銃を向ける骸。獄寺が咄嗟に前に出る。
しかし骸は、銃を自分のこめかみに当てた。
「Arrivederci.」
(また会いましょう)
ズガン、
直後に聞こえた銃声。
骸は銃を当てていた所から血を流して、倒れていた。
3人の中に、嫌な沈黙が流れる。
「や、やりやがった……」
「そ、そんな……何でこんな事…」
歯を食いしばるツナ。
「捕まるくらいなら死んだ方がマシってヤツかもな。」
「やるせないっス…」
だがその時、ツナ背筋がゾクッとした。
「(何だ?この感じ……)」
そして同時に、気を失っていたビアンキの目が開いた。
その右目には、“六”の文字が刻まれていた……。
とってもとっても、
酷い事を。
なのに貴方は、
貴方達は……
=============
「(前世に刻まれた能力?何言ってんだ??)」
骸の説明を聞いても、今一つ理解しかねるツナ。
骸は笑みを浮かべつつ言った。
「いきますよ。」
トン、
骸の持つ棒が床を突くと、そこに大きな亀裂が入る。
そして、それは四方八方にヒビを作っていく。
「そ、そんなぁ!!建物が!!」
傾く床にしがみつくツナ。
しかし、床はどんどん崩壊していき……
「ああ、フゥ太!!ビアンキ!!リボーン!!!檸檬っ!!」
その亀裂の中に吸い込まれるように落ちていく。
それを見て、クフフと笑う骸。
同時に、マインドコントロールにかけられ意識を失っていた檸檬が、ゆっくりと起き上がった。
『ん……』
「檸檬、気分はどうですか?」
『……平気。』
焦点の定まらない視線で、そう答える檸檬。
骸はぼんやりとする檸檬を抱きかかえ、ソファに座らせた。
「終わるまで、ここに座っていなさい。」
『…うん。』
目の前には、何も無い所でツナがもがいている光景。
『あれは…?』
檸檬が首をかしげた。
と、次の瞬間。
「ブ!!」
リボーンが思いっきりツナを殴った。
そして、初めてツナは建物の崩壊が幻覚だった事を知る。
「クフフフ、やりますね。見破るとは流石アルコバレーノ。」
この幻覚が第一の道・地獄道の能力である事を教える。
檸檬はそんな骸の背中を、ただぼーっと見つめていた。
「クフフフ、しかし君達の事を暫く観察させてもらい、関係が見えてきましたよ。アルコバレーノはボンゴレのお目付役ってワケですね。」
「ちげーぞ。」
リボーンが一歩前に出て言った。
「俺は、ツナの家庭教師だ。」
『家庭、教師……?』
リボーンの言葉が耳を通り抜けていく。
掟だから、生徒の戦いには手を出せないらしい。
「それは美しい信頼関係だ。面白い、いいでしょう。」
骸の右目“三”の文字が浮かび上がる。
すると…
ボトボト……
「へ?」
ボトボト………
「へ、蛇だ!」
ツナの周りに、いかにも毒を持っていそうな蛇が大量に現れた。
それは、前後左右からツナを追い詰めていく。
「ひいい!来たぁ!!」
しかし、ツナはふっと思い付く。
「もしかしてコレも幻覚なんじゃ……!」
だが、
「正真正銘の蛇ですよ。なんなら噛まれてみますか?」
「そ、そんな!!」
それは、第三の道・畜生道の能力だと言う。
骸はリボーンを挑発した。
「さぁ、生徒の命の危機ですよ。いいんですか?」
「ひいい!!やめて、助けて!」
ツナが叫んでもリボーンはちっとも動かない。
そればかりか、ニッと口角を上げて、
「あんまり図に乗んなよ、骸。俺は超一流の家庭教師だぞ。」
と言った。
と、その時。
ビッ、
骸に向かって何かが飛ばされ、骸はそれを槍で弾いた。
「トンファー!?」
思わず声をあげるツナ、そして……
「10代目、伏せて下さい!」
「え!?」
トンファーの持ち主とは別の声がして、次の瞬間に爆発が起こる。
それは、ツナの周りにいた蛇を撃退した。
トンファーとダイナマイトが飛んできた方向を見ると、そこには2人の人物が。
「雲雀さん!!獄寺君!!」
ツナの喜ばしげな声を聞き、檸檬も、肩を組んで部屋に入って来る二人を見た。
ここでリボーンが得意気に言う。
「分かったか、骸。俺はツナだけを育ててるワケじゃねーんだぞ。」
「これはこれは外野がぞろぞろと。千種は何をしてるんですかねぇ。」
「へへ、メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良く伸びてるぜ。」
獄寺の返答にため息をつく骸。
「なるほど…」
だが直後、獄寺の肩を支えていた雲雀が飽きたように腕を払う。
驚くツナも気に留めず、雲雀は奥のソファに座る檸檬を見た。
その視線に、檸檬も無感情に視線を返す。
何の反応もないことに違和感を抱いた雲雀は、妖しい笑みを浮かべて立っている骸に問いかけた。
「檸檬に何したの。」
「まるで僕が何か悪いことをしたような質問ですねぇ……まぁ、端的に言うなら、檸檬は僕のものになった……ということです。」
「ふぅん……君は余程咬み殺されたいらしいね……」
殺気を強めた雲雀は、足元をフラつかせたまま先ほど投げたトンファーを拾って、構えた。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねぇ……しかし今は僕とボンゴレの邪魔をしないで下さい。第一、君は立っているのもやっとのはずだ。骨を何本も折りましたからねぇ。」
「そ、そんな…雲雀さん…!」
「遺言はそれだけかい?」
戦闘態勢を崩さない雲雀の雰囲気に、骸も折れたようにため息をついた。
「仕方ない、君から片付けましょう。」
口元には、また妖しい笑みを浮かべて。
「一瞬で終わりますよ。」
一気にかたをつけるべく攻め寄った。
骸の攻撃を難無く受け止める雲雀。
2人の攻防は、両者一歩も引けを取らない形になった。
「(すげ~、早過ぎてよく見えない…)」
『(互角……)』
そうしているうちに、2人の武器がぶつかり、お互い一瞬だけ動きを止める。
「君の一瞬って、いつまで?」
雲雀がそう挑発すると、骸は楽しそうに笑った。
そして次の瞬間、お互いに力を込めてバッと離れた。
「やっぱり強い!さすが雲雀さん!!」
「こいつらを侮るなよ、骸。お前が思ってるよりずっと伸び盛りだぞ。」
ツナとリボーンの言葉を聞き、骸は笑みを浮かべる。
「なるほど、そのようですね。彼が怪我をしてなければ勝負は分からなかったかも知れない。」
その瞬間、雲雀の左肩から血が吹き出す。
それを見てクフフと笑った骸は、右目の数字を“一”に変えた。
「時間の無駄です。てっとり早く終わらせましょう。」
言い終わると同時に、満開の桜が現れ、ツナには嫌な予感が過る。
「まさか、雲雀さんの桜クラ病を利用して…!」
「クフフ、さぁまた跪いてもらいましょう。」
フラフラし始める雲雀。
ツナが叫ぶ。
「そんな!雲雀さん!!」
しかし、雲雀は跪く事なく、真直ぐ骸の鳩尾をトンファーで殴った。
「……おや?」
骸の口元に、赤い道が1本作られる。
同時に、ぼんやりと観戦していた檸檬の表情にも驚きが混ざった。
「へへっ、甘かったな。シャマルからこいつを預かってたのさ。」
獄寺の手に握られていたのは、先程雲雀に投げられた白い袋。
桜クラ病の処方箋。
「それじゃあ…!!」
ツナの声が明るくなった。
次の瞬間、骸は……
雲雀のトンファーに吹っ飛ばされた。
骸の体が弧を描いて床に落ちた瞬間、おとなしく座っていた檸檬が動いた。
『む、くろ……?』
ふらりと立ち上がり、倒れたまま動かない骸に歩み寄ろうとする。
だが、
ガシッ、
『!?』
雲雀がその手首を掴み、振り向かせた。
驚きながらも檸檬は目の前の雲雀を虚ろな瞳で見つめ、口にする。
『放して…』
「嫌だ。」
『どうして…?』
暴れこそしないものの無感情な視線を向け続ける檸檬に、雲雀は言った。
「なかなか帰ってこない君をわざわざ迎えに来たんだ。だから、もう離さない。一緒に帰るよ。」
『あたしは、もう、どこにも帰らな……』
「応接室に帰るんだ。」
刹那、檸檬の肩が僅かに震える。
『あたしは……一人で…強く、』
「悪いけど僕には、今の君が強いとは思えない。今の君は……空っぽに見えるよ。」
『っ……や、やめて…』
雲雀の言葉を拒絶しようと、距離を取ろうと体を引く檸檬。
しかし雲雀はそんな彼女を逆に引き寄せ、抱きしめた。
「檸檬…君に風紀の腕章をあげたあの日から、僕には君を手放すつもりはないんだ。君がどんなに嫌がったって連れ戻すよ。」
『でも、もう、あたしは……』
「言葉が信じられないなら信じなくていい。ただ…僕がこれまで1日でも、君を呼ばない日があった?」
毎日、毎日、
君の声が聞きたくて、
君を困らせたくて、
君のことが知りたくて、
君の…笑顔が見たくて。
「これからもずっと、いつでも君を呼ぶ。信じなくてもいい。この言葉が本当だと分かるまで、僕の傍にいればいい。」
『信じなくて、いい、の……?』
「うん。」
檸檬の髪を撫でながら、雲雀は優しく囁いた。
「もう二度と、君を空っぽにさせはしない。僕が全部埋めるからね。」
檸檬の肩の震えは、小刻みな体の震えに変わってゆく。
その頬を一筋の雫が伝ったのを皮切りに、微かな涙声が混ざり始めた。
『恭弥っ……あたし、たくさん…ひどいこと……』
「大丈夫だよ、大したことないから。」
檸檬を安心させるように微笑んだ雲雀だったが、次の瞬間……
ふらっ…ばたっ、
『恭弥…?』
電池が切れたように、その場に倒れた。
突然のことに目を見開き、座り込む檸檬。
「雲雀さん!」
ツナも駆け寄っていく。
『恭弥…恭弥っ……いや、いやだよ……起きてっ……いやあああああ!!!』
頭を抱えて悲痛な叫び声をあげ、檸檬もそのまま気絶する。
「大丈夫ですか!!?雲雀さん!檸檬!!」
呼びかけてみるツナだったが、2人とも完全に気を失っていた。
リボーンが見ると、檸檬は耳と目から血を流していて。
「雲雀の奴は限界もいいとこだったぞ、途中から無意識で戦ってたぐれーだ。檸檬の方は…フゥ太と同じ症状だな。」
「雲雀さんすげー……ってゆーか!それじゃあ檸檬のマインドコントロールは…!」
「一先ず解けたと思うぞ。」
「よ、良かった…!」
何はともあれ、終わった事にホッとするツナ。
「そうだ!早く皆を病院に!」
「心配ねーぞ。ボンゴレの医療チームがこっちに向かってる。」
「よかったっスね。」
フラフラしながらツナの方に歩いて来る獄寺。
「獄寺君!無理しちゃダメだよ。」
すっかり落ち着いた会話をする3人。
しかし…
「その医療チームは不要ですよ。」
自分達以外の声がして、驚いて振り向く3人。
そこには、起き上がって銃を構えた骸が。
「なぜなら、生存者はいなくなるからです。」
ツナに銃を向ける骸。獄寺が咄嗟に前に出る。
しかし骸は、銃を自分のこめかみに当てた。
「Arrivederci.」
(また会いましょう)
ズガン、
直後に聞こえた銃声。
骸は銃を当てていた所から血を流して、倒れていた。
3人の中に、嫌な沈黙が流れる。
「や、やりやがった……」
「そ、そんな……何でこんな事…」
歯を食いしばるツナ。
「捕まるくらいなら死んだ方がマシってヤツかもな。」
「やるせないっス…」
だがその時、ツナ背筋がゾクッとした。
「(何だ?この感じ……)」
そして同時に、気を失っていたビアンキの目が開いた。
その右目には、“六”の文字が刻まれていた……。