黒曜編
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待っててね、
もうすぐ会いに行くから。
そして全部が終わったら、
今度は一緒に帰ろう。
==============
ビアンキの持ってきた替えの服を着て、骸のいる建物に乗り込んだ。
「ここもだわ、階段が壊されてる。」
「こちらの移動ルートを絞った方が守りやすいだろ?逆に言えば自分の退路を絶ったんだ。勝つ気満々って事だな。」
リボーンの言葉を聞き、更に緊張するツナ。と、獄寺が何かを見付けた。
「ケータイが落ちてら。」
「あ!雲雀さんのかも。雲雀さんの着うた、うちの校歌なんだよね。」
「なぁ!?ダッセー!!」
ともあれ、更に歩き続ける一同。
奥へ、奥へと進む。
「あ!あったー!!」
「非常用のハシゴだ。」
4人が登ろうとすると、
パシ、
シュルルルル……
パシッ、
ドアの後ろに隠れていたのか、ヨーヨーを持った千種が立っていた。
「出た!ヨーヨー使い!!」
ツナが叫ぶと同時に、千種は攻め寄って来る。
だが…
プシュウウウ……
次の瞬間、全員の視界が白い煙で覆われる。
「煙幕!?」
「10代目。」
呼ばれてハッとするツナ。見ると、目の前に獄寺が自分達を守るように立っていた。
「ここは俺に任せて、先に行って下さい。」
「獄寺君!!」
ビアンキが咄嗟に駆け寄る。
「隼人、聞いて!あなたはシャマルのトライデントモスキートで命を取り留めたの。」
「なっ!よりによってアイツに…!!」
「かけられた病気が完成するまでは副作用が起こるの。激痛を伴う発作が襲うわ。それでもやる気?」
心配そうなビアンキの声を聞いても、獄寺は振り向かなかった。
「あたりめーだ。その為に、俺はいる。」
その背中を見て何を思ったのか、ビアンキは方向転換した。
「行きましょう、ツナ。」
「え、でも……」
「10代目は骸を!終わったら、また皆で遊びに行きましょう!」
「そ、そーだよね。行けるよね。」
「もちっス!」
「分かった、行くね!!」
ツナ、ビアンキ、リボーンは非常用ハシゴを登って行った。
獄寺は挑発するように千種に言う。
「大人しく行かせてくれたじゃねーか。」
すると千種は、少しずれた眼鏡を直しながら、
「骸様の、命令だ。」
と。
2人の間の煙幕は、消えかかっていた。
---
------
-----------
その頃。
最上階に居る骸と檸檬。
「檸檬、覚悟はできたんですか。」
『…うん。』
部屋の奥にあるソファの端に座る檸檬。
『ここ、映画館…?』
キョロキョロと辺りを見回す。
それを見て、骸はクフフと笑った。
「もうすぐ彼らが来ます。アレが影武者であることも判明したようですし。」
『あたし…骸と一緒にいてもいいのかな……』
檸檬が少し俯くと、骸はその頭を撫でてから顔を上げさせる。
「君はもうボンゴレの駒ではない。マフィアに復讐をする僕の方にいるのは、君自身の意志ですよね?檸檬。」
『あたしの、意志……そう、だね。』
「今回のことで僕に味方しろとは言いません。君は、中立で見ていればいい。」
『…分かった……。』
悩ましげに返事をする檸檬。
これから僕が、君を利用しようとしていることにも気付かない。
仮に気付いたところで、君はもう逃れられない。
「フゥ太、来なさい。」
「はい、骸さん…」
『な、何でここにフゥ太くんが…?』
「彼も利用されていた身から、僕が解放したのです。ボンゴレ10代目には、彼の組織の闇を知ってもらう必要がある。」
僕はフゥ太に預けていた武器を一度受け取り、檸檬に見せた。
檸檬はこの武器の只ならぬ気配を感じ取ったのか、不安げに僕を見る。
『骸、コレは…?』
「檸檬、これは僕からのおまじないのようなものですが。」
『え…?』
「左手を貸してもらっても?」
この槍に触れるだけ、たったそれだけで、君は僕のものになる。
「儀式のようなものです、君が一人で強くなるためのね。」
『つっ…!』
檸檬の左手人差し指の先に、槍で小さく十字を描いた。
僅かな痛みに表情を歪ませる檸檬。
その指先から、薄く赤が滲み出す。
「すみません、痛かったですね。」
『ううん、平気…』
僕はフゥ太に槍を再び渡し、所定の持ち場に戻るように言う。
そして、檸檬の左手人差し指の先を口に含んだ。
『あ、あのっ…骸……///』
傷口を舌でなぞると、檸檬は頬を染めて俯く。
微かな痛みが残るようで、時折肩を震わせている。
愚かなのは、僕の方だったのかも知れない。
初めて会ったその時から彼女を欲していたというのに、これまで回りくどいやり方をして。
始めから、こうすれば良かったものを。
僕の支配下における、僕だけのやり方で。
『も、もう大丈夫だからっ…///』
「そうですか?」
紅潮を隠すように顔を逸らす檸檬を、愛しいと思う。
これが本当に、あの「裏社会に愛された娘」だというのだろうか。
その精神はこんなにも脆く、儚く、壊れやすい。
凛として頂点に立っていた面影など、最早どこにもないというのに。
『骸っ…?』
意識的か無意識的か、気付けば僕は檸檬を抱きしめていた。
戸惑う檸檬を押さえつけるように、強く、強く。
「檸檬、もし……もし僕が、君の傍に居たいと言ったら、どうしますか…?」
『え…』
「僕が君と、離れたくないと言ったら……」
無意味な質問だ、それは分かっている。
『あ、あたしは……誰かと一緒にいたら、依存しちゃうから……また弱くなっちゃう…』
「ならば僕が守ります。君に二度と、辛い思いはさせない。」
檸檬が戦う必要のない世界になれば、僕が傍にいれば……
「……すみません、些か同情が行きすぎましたね。」
『…ううん、ありがとう。骸は優しいね。』
そう、檸檬を孤立させたのは僕だ。
僕の言葉で、彼女は誰も信じなくなった。
誰にも心を許すことがなくなった。
優しいね、と笑顔を向けても、
次の瞬間にはまた俯いてしまう。
『あたしは…今、骸に頼るわけにはいかないの。まずは一人で頑張るから…さっき約束したみたいに、また会えたら……』
「ええ…必ず。」
もう一度、檸檬を強く抱きしめた。
---
-------
-------------
「ここから3階に行けるわ。」
「映画館だったんだ…」
風になびく破れたカーテンにさえ、恐怖心を煽られるツナ。
「(怖ぇ~…)」
恐る恐るドアを開けた。
その先には……
「また会えて嬉しいですよ。」
「あぁ!君は!!」
ツナ達の視界に入った光景、
それは、奥のソファに男女が1人ずつ座っている、というものだった。
男子は、隣に座る女子の表情を隠すように抱きしめている。
「あ……っ!!」
「探していた女の子は、この子ですか?」
「檸檬っ!!!」
少し虚ろになった瞳だけど、間違いなく檸檬だ。
「やっと…やっと会えた!檸檬、今までどうして…」
あれ?
どうして黒曜生の人質と一緒にいるんだ?
それに、俺たちから目を逸らして、何も答えないなんて…
「ツナ、こいつ……!」
戸惑うツナの後ろで、ビアンキが言った。
すると、彼はふっと微笑んで。
「そう、僕が本物の六道骸です。」
「なっ……はぁーっ!?」
驚きを隠せないツナに、更なる驚きが訪れる。
バタン、
「「!?」」
後ろのドアが急に閉められた。
不思議に思って振り向くと、そこには………
「フゥ太!」
長い間姿を見せていなかった少年が立っていた。
---
------
------------
同じ頃。
千種のヘッジホッグの針を、ギリギリで避ける獄寺。
「ヘッタクソが!!」
叫びつつ、自分が壊した窓ガラスを通り抜けて逃げていく。
千種は一息ついてから追い始め、獄寺と同じように割れた窓の枠を通り抜けようとする。
が、
ヂヂヂ…
壁には小さいダイナマイトが仕掛けられていた。
「!」
気付いた千種は寸でのところで避ける。
そこにすかさず、獄寺のダイナマイトが飛んで来る。
「2倍ボム!!」
千種はヘッジホッグで素早く導火線を切る。
すると、獄寺は少しだけ口角を上げた。
「前回やられたのがよほど脳裏に焼き付いてるらしいな。素早過ぎる反応だ。おかげで足元がお留守だぜ。」
足元、という単語に反応した千種は、ふっと下を見る。
そこには、予め転がっていたダイナマイトがあった。
「障害物のある地形でこそ俺の武器は生きる。ここで待ち伏せた時点でお前の負けだ。」
獄寺が言い終わると同時に、千種の足元のダイナマイトが爆発した。
だが、それでやられる千種ではない。
爆風の中に、ゆらりと立ち続けている。
それを見た獄寺は、新たにダイナマイトを取り出す。
「しぶてーんだったな。こいつで果てな。」
導火線に点火しようとしたその時、
ズキン、
「がっ!うがああァ!」
激しい胸の痛みが、獄寺を襲った。
「くそっ、こんな時に……!」
胸部に手を当てながら、窓にもたれかかる。
千種は頭上に疑問符を浮かべつつ立っていた。
と、その時。
バリンッ、
窓が割れ、外側から鋭い爪を持つ手が伸びて来る。
「スキアリびょん♪」
そのまま獄寺の胸部をえぐったその手は、山本が倒して縛っておいたはずの、犬のものだった。
---
------
------------
その頃。
「フゥ太!お、驚かすなよ。」
「無事みたいね。」
現れたのが知り合いだった為、ホッと胸を撫で下ろすツナとビアンキ。
だが反対に、骸はうっすらと怪しい笑みを浮かべていた。
「あの後随分探したんだぞ。」
「危険だから下がってなさい。」
躊躇いもなくフゥ太に近付くツナとビアンキ。
フゥ太が、後ろ手に隠し持っていた三つ又の槍をスッと構えたのには気付かずに。
ビアンキはフゥ太を保護しようと左手に回る。
「フゥ……」
次の瞬間、フゥ太は持っていたその凶器で、ビアンキを刺した。
ビアンキの言葉が途切れたのは、そのせいである。
リボーンもツナも、一瞬だけ言葉を失くし、呆然とした。
「ビアンキ!」
吐血して倒れるビアンキを見て、骸だけが更に口角を上げた。
---
------
------------
「無事だったの?」
「死むかと思ったけどね。」
犬の攻撃により大ダメージを食らった獄寺は、立っている事すらままならなかった。
その横で、悠長に会話する犬と千種。
「檸檬が、心配してたよ。」
「やっぱ?檸檬優しー。」
檸檬の名を聞いてピクリと体を動かすも、力は抜けていき後ろに倒れる。
側にあったものを握ったが、それは古びたカーテン。
獄寺の体重を支えられるはずもなく、レールから剥がされて一緒に階段の下へ落ちていく。
「ヒャハハハ、ざまーみろ!バーカ。」
階段の下でちっとも動かない血だらけの獄寺を見て、犬は更に言う。
「ぶっざまー♪」
体が……動かねぇ……
歯を食いしばる獄寺の頭上に、一匹の鳥が飛んで来る。
それは、後ろの壁に空いている穴に止まった。
「ヤラレタ!ヤラレタ!」
その声を聞くと、余計に自己嫌悪に襲われる。
「(くそぅ、変態ヤローの鳥まで……嘲笑ってやがる……)」
獄寺の脳裏に、ある言葉が蘇った。
---『“どうして”…?そんなのっ……あたしが聞きたいくらいよ…!』
檸檬……
一体何があったんだ?
何でバカみてーに明るいお前が、あんな顔してんだよ。
檸檬の事を考えると、次々と記憶が蘇ってきた。
---『隼人は喧嘩が下手なんだよ。』
---『それじゃあ、あたしには勝てないよ♪』
何が10代目の右腕だ…
何の役にも立っちゃいねぇじゃねーか、
くそっ…くそっ……!
と、その時。
それまで
「ヤラレタ!」
としか言っていなかった鳥が、急に歌を歌いだした。
「緑たなびく並盛りのー大なく小なく並がいいー」
「へへ…」
そーか、てめぇはそこに居やがったのか。
非常に不本意だがよ、
今の俺じゃあ2人は倒せねぇから、
「へへへへ……」
出してやるよ。
獄寺は1本のダイナマイトに点火した。
「っひゃー!こいつ、まだ闘う気かよー!」
「ううっ、」
ところが、投げたのは犬達の方向ではなく、後ろの壁。
「っひゃー!何処うってんのー?」
ケラケラと笑う犬。
だが、千種はある事に気がついた。
「(ここは…確か……!)」
「へへっ……うちのダッセー校歌に愛着持ってんのは…おめーぐらいだぜ……」
崩れゆく壁の中に、ぼんやりと浮かび上がる人陰。
いつしかそれは、完全に1人の人物として犬達の視界に入ってきた。
「んあ?こいつ……」
「並盛中学風紀委員長……………雲雀恭弥-----」
うずくまっていた雲雀は、ゆっくりと顔を上げる。
「………元気そーじゃねぇか。」
ぽつりと呟く獄寺に、犬は笑い出す。
「ヒャハハハ!!もしかしてこの死に損ないが助っ人かーー!?」
ゆらりと立ち上がった雲雀。
「自分で出れたけど、まぁいいや。」
「へへっ。」
その目は、確実に獲物を捉えて。
「そこの2匹は僕にくれるの?」
もうすぐ会いに行くから。
そして全部が終わったら、
今度は一緒に帰ろう。
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ビアンキの持ってきた替えの服を着て、骸のいる建物に乗り込んだ。
「ここもだわ、階段が壊されてる。」
「こちらの移動ルートを絞った方が守りやすいだろ?逆に言えば自分の退路を絶ったんだ。勝つ気満々って事だな。」
リボーンの言葉を聞き、更に緊張するツナ。と、獄寺が何かを見付けた。
「ケータイが落ちてら。」
「あ!雲雀さんのかも。雲雀さんの着うた、うちの校歌なんだよね。」
「なぁ!?ダッセー!!」
ともあれ、更に歩き続ける一同。
奥へ、奥へと進む。
「あ!あったー!!」
「非常用のハシゴだ。」
4人が登ろうとすると、
パシ、
シュルルルル……
パシッ、
ドアの後ろに隠れていたのか、ヨーヨーを持った千種が立っていた。
「出た!ヨーヨー使い!!」
ツナが叫ぶと同時に、千種は攻め寄って来る。
だが…
プシュウウウ……
次の瞬間、全員の視界が白い煙で覆われる。
「煙幕!?」
「10代目。」
呼ばれてハッとするツナ。見ると、目の前に獄寺が自分達を守るように立っていた。
「ここは俺に任せて、先に行って下さい。」
「獄寺君!!」
ビアンキが咄嗟に駆け寄る。
「隼人、聞いて!あなたはシャマルのトライデントモスキートで命を取り留めたの。」
「なっ!よりによってアイツに…!!」
「かけられた病気が完成するまでは副作用が起こるの。激痛を伴う発作が襲うわ。それでもやる気?」
心配そうなビアンキの声を聞いても、獄寺は振り向かなかった。
「あたりめーだ。その為に、俺はいる。」
その背中を見て何を思ったのか、ビアンキは方向転換した。
「行きましょう、ツナ。」
「え、でも……」
「10代目は骸を!終わったら、また皆で遊びに行きましょう!」
「そ、そーだよね。行けるよね。」
「もちっス!」
「分かった、行くね!!」
ツナ、ビアンキ、リボーンは非常用ハシゴを登って行った。
獄寺は挑発するように千種に言う。
「大人しく行かせてくれたじゃねーか。」
すると千種は、少しずれた眼鏡を直しながら、
「骸様の、命令だ。」
と。
2人の間の煙幕は、消えかかっていた。
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その頃。
最上階に居る骸と檸檬。
「檸檬、覚悟はできたんですか。」
『…うん。』
部屋の奥にあるソファの端に座る檸檬。
『ここ、映画館…?』
キョロキョロと辺りを見回す。
それを見て、骸はクフフと笑った。
「もうすぐ彼らが来ます。アレが影武者であることも判明したようですし。」
『あたし…骸と一緒にいてもいいのかな……』
檸檬が少し俯くと、骸はその頭を撫でてから顔を上げさせる。
「君はもうボンゴレの駒ではない。マフィアに復讐をする僕の方にいるのは、君自身の意志ですよね?檸檬。」
『あたしの、意志……そう、だね。』
「今回のことで僕に味方しろとは言いません。君は、中立で見ていればいい。」
『…分かった……。』
悩ましげに返事をする檸檬。
これから僕が、君を利用しようとしていることにも気付かない。
仮に気付いたところで、君はもう逃れられない。
「フゥ太、来なさい。」
「はい、骸さん…」
『な、何でここにフゥ太くんが…?』
「彼も利用されていた身から、僕が解放したのです。ボンゴレ10代目には、彼の組織の闇を知ってもらう必要がある。」
僕はフゥ太に預けていた武器を一度受け取り、檸檬に見せた。
檸檬はこの武器の只ならぬ気配を感じ取ったのか、不安げに僕を見る。
『骸、コレは…?』
「檸檬、これは僕からのおまじないのようなものですが。」
『え…?』
「左手を貸してもらっても?」
この槍に触れるだけ、たったそれだけで、君は僕のものになる。
「儀式のようなものです、君が一人で強くなるためのね。」
『つっ…!』
檸檬の左手人差し指の先に、槍で小さく十字を描いた。
僅かな痛みに表情を歪ませる檸檬。
その指先から、薄く赤が滲み出す。
「すみません、痛かったですね。」
『ううん、平気…』
僕はフゥ太に槍を再び渡し、所定の持ち場に戻るように言う。
そして、檸檬の左手人差し指の先を口に含んだ。
『あ、あのっ…骸……///』
傷口を舌でなぞると、檸檬は頬を染めて俯く。
微かな痛みが残るようで、時折肩を震わせている。
愚かなのは、僕の方だったのかも知れない。
初めて会ったその時から彼女を欲していたというのに、これまで回りくどいやり方をして。
始めから、こうすれば良かったものを。
僕の支配下における、僕だけのやり方で。
『も、もう大丈夫だからっ…///』
「そうですか?」
紅潮を隠すように顔を逸らす檸檬を、愛しいと思う。
これが本当に、あの「裏社会に愛された娘」だというのだろうか。
その精神はこんなにも脆く、儚く、壊れやすい。
凛として頂点に立っていた面影など、最早どこにもないというのに。
『骸っ…?』
意識的か無意識的か、気付けば僕は檸檬を抱きしめていた。
戸惑う檸檬を押さえつけるように、強く、強く。
「檸檬、もし……もし僕が、君の傍に居たいと言ったら、どうしますか…?」
『え…』
「僕が君と、離れたくないと言ったら……」
無意味な質問だ、それは分かっている。
『あ、あたしは……誰かと一緒にいたら、依存しちゃうから……また弱くなっちゃう…』
「ならば僕が守ります。君に二度と、辛い思いはさせない。」
檸檬が戦う必要のない世界になれば、僕が傍にいれば……
「……すみません、些か同情が行きすぎましたね。」
『…ううん、ありがとう。骸は優しいね。』
そう、檸檬を孤立させたのは僕だ。
僕の言葉で、彼女は誰も信じなくなった。
誰にも心を許すことがなくなった。
優しいね、と笑顔を向けても、
次の瞬間にはまた俯いてしまう。
『あたしは…今、骸に頼るわけにはいかないの。まずは一人で頑張るから…さっき約束したみたいに、また会えたら……』
「ええ…必ず。」
もう一度、檸檬を強く抱きしめた。
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「ここから3階に行けるわ。」
「映画館だったんだ…」
風になびく破れたカーテンにさえ、恐怖心を煽られるツナ。
「(怖ぇ~…)」
恐る恐るドアを開けた。
その先には……
「また会えて嬉しいですよ。」
「あぁ!君は!!」
ツナ達の視界に入った光景、
それは、奥のソファに男女が1人ずつ座っている、というものだった。
男子は、隣に座る女子の表情を隠すように抱きしめている。
「あ……っ!!」
「探していた女の子は、この子ですか?」
「檸檬っ!!!」
少し虚ろになった瞳だけど、間違いなく檸檬だ。
「やっと…やっと会えた!檸檬、今までどうして…」
あれ?
どうして黒曜生の人質と一緒にいるんだ?
それに、俺たちから目を逸らして、何も答えないなんて…
「ツナ、こいつ……!」
戸惑うツナの後ろで、ビアンキが言った。
すると、彼はふっと微笑んで。
「そう、僕が本物の六道骸です。」
「なっ……はぁーっ!?」
驚きを隠せないツナに、更なる驚きが訪れる。
バタン、
「「!?」」
後ろのドアが急に閉められた。
不思議に思って振り向くと、そこには………
「フゥ太!」
長い間姿を見せていなかった少年が立っていた。
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同じ頃。
千種のヘッジホッグの針を、ギリギリで避ける獄寺。
「ヘッタクソが!!」
叫びつつ、自分が壊した窓ガラスを通り抜けて逃げていく。
千種は一息ついてから追い始め、獄寺と同じように割れた窓の枠を通り抜けようとする。
が、
ヂヂヂ…
壁には小さいダイナマイトが仕掛けられていた。
「!」
気付いた千種は寸でのところで避ける。
そこにすかさず、獄寺のダイナマイトが飛んで来る。
「2倍ボム!!」
千種はヘッジホッグで素早く導火線を切る。
すると、獄寺は少しだけ口角を上げた。
「前回やられたのがよほど脳裏に焼き付いてるらしいな。素早過ぎる反応だ。おかげで足元がお留守だぜ。」
足元、という単語に反応した千種は、ふっと下を見る。
そこには、予め転がっていたダイナマイトがあった。
「障害物のある地形でこそ俺の武器は生きる。ここで待ち伏せた時点でお前の負けだ。」
獄寺が言い終わると同時に、千種の足元のダイナマイトが爆発した。
だが、それでやられる千種ではない。
爆風の中に、ゆらりと立ち続けている。
それを見た獄寺は、新たにダイナマイトを取り出す。
「しぶてーんだったな。こいつで果てな。」
導火線に点火しようとしたその時、
ズキン、
「がっ!うがああァ!」
激しい胸の痛みが、獄寺を襲った。
「くそっ、こんな時に……!」
胸部に手を当てながら、窓にもたれかかる。
千種は頭上に疑問符を浮かべつつ立っていた。
と、その時。
バリンッ、
窓が割れ、外側から鋭い爪を持つ手が伸びて来る。
「スキアリびょん♪」
そのまま獄寺の胸部をえぐったその手は、山本が倒して縛っておいたはずの、犬のものだった。
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その頃。
「フゥ太!お、驚かすなよ。」
「無事みたいね。」
現れたのが知り合いだった為、ホッと胸を撫で下ろすツナとビアンキ。
だが反対に、骸はうっすらと怪しい笑みを浮かべていた。
「あの後随分探したんだぞ。」
「危険だから下がってなさい。」
躊躇いもなくフゥ太に近付くツナとビアンキ。
フゥ太が、後ろ手に隠し持っていた三つ又の槍をスッと構えたのには気付かずに。
ビアンキはフゥ太を保護しようと左手に回る。
「フゥ……」
次の瞬間、フゥ太は持っていたその凶器で、ビアンキを刺した。
ビアンキの言葉が途切れたのは、そのせいである。
リボーンもツナも、一瞬だけ言葉を失くし、呆然とした。
「ビアンキ!」
吐血して倒れるビアンキを見て、骸だけが更に口角を上げた。
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「無事だったの?」
「死むかと思ったけどね。」
犬の攻撃により大ダメージを食らった獄寺は、立っている事すらままならなかった。
その横で、悠長に会話する犬と千種。
「檸檬が、心配してたよ。」
「やっぱ?檸檬優しー。」
檸檬の名を聞いてピクリと体を動かすも、力は抜けていき後ろに倒れる。
側にあったものを握ったが、それは古びたカーテン。
獄寺の体重を支えられるはずもなく、レールから剥がされて一緒に階段の下へ落ちていく。
「ヒャハハハ、ざまーみろ!バーカ。」
階段の下でちっとも動かない血だらけの獄寺を見て、犬は更に言う。
「ぶっざまー♪」
体が……動かねぇ……
歯を食いしばる獄寺の頭上に、一匹の鳥が飛んで来る。
それは、後ろの壁に空いている穴に止まった。
「ヤラレタ!ヤラレタ!」
その声を聞くと、余計に自己嫌悪に襲われる。
「(くそぅ、変態ヤローの鳥まで……嘲笑ってやがる……)」
獄寺の脳裏に、ある言葉が蘇った。
---『“どうして”…?そんなのっ……あたしが聞きたいくらいよ…!』
檸檬……
一体何があったんだ?
何でバカみてーに明るいお前が、あんな顔してんだよ。
檸檬の事を考えると、次々と記憶が蘇ってきた。
---『隼人は喧嘩が下手なんだよ。』
---『それじゃあ、あたしには勝てないよ♪』
何が10代目の右腕だ…
何の役にも立っちゃいねぇじゃねーか、
くそっ…くそっ……!
と、その時。
それまで
「ヤラレタ!」
としか言っていなかった鳥が、急に歌を歌いだした。
「緑たなびく並盛りのー大なく小なく並がいいー」
「へへ…」
そーか、てめぇはそこに居やがったのか。
非常に不本意だがよ、
今の俺じゃあ2人は倒せねぇから、
「へへへへ……」
出してやるよ。
獄寺は1本のダイナマイトに点火した。
「っひゃー!こいつ、まだ闘う気かよー!」
「ううっ、」
ところが、投げたのは犬達の方向ではなく、後ろの壁。
「っひゃー!何処うってんのー?」
ケラケラと笑う犬。
だが、千種はある事に気がついた。
「(ここは…確か……!)」
「へへっ……うちのダッセー校歌に愛着持ってんのは…おめーぐらいだぜ……」
崩れゆく壁の中に、ぼんやりと浮かび上がる人陰。
いつしかそれは、完全に1人の人物として犬達の視界に入ってきた。
「んあ?こいつ……」
「並盛中学風紀委員長……………雲雀恭弥-----」
うずくまっていた雲雀は、ゆっくりと顔を上げる。
「………元気そーじゃねぇか。」
ぽつりと呟く獄寺に、犬は笑い出す。
「ヒャハハハ!!もしかしてこの死に損ないが助っ人かーー!?」
ゆらりと立ち上がった雲雀。
「自分で出れたけど、まぁいいや。」
「へへっ。」
その目は、確実に獲物を捉えて。
「そこの2匹は僕にくれるの?」