黒曜編
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貴方はあたしを、
暖かい人だと言った。
なら、
貴方の中にあるその寂しさを、
取ってあげたい。
=================
『ねぇ骸、もしかしてM・M……』
最後まで言わなくても、骸の表情でわかった。
「えぇ、倒されました。ボンゴレ一味はなかなか侮れませんね。君が忠誠を誓っていただけある。」
『そう、だね…』
「檸檬、」
『大丈夫。』
襲いかかる悲しみを堪えながら、深呼吸を一つ。
直後に骸の温かい手の平が頭の上に乗り、少し驚いた。
「檸檬が気に病むことなどありません。君はこれから一人で強くなる……そう、決めたでしょう。」
『骸……うん、わかってる。』
そう、あたしにはもう、関係ない。
誰を失おうと、あたしの命を護るためにあたしは強く生きるんだ。
骸はソファに座るあたしをそのままに、不意に立ち上がる。
そして、思い出したように言った。
「ああ、そうでした。フゥ太がボンゴレの様子を見に行ったっきり行方不明でして。連れ戻してきますので、檸檬はここにいてください。」
『え?』
「檸檬の決意を揺るがす輩に遭遇するリスクは回避すべきだ。」
行こうとする骸の袖を、あたしは何故だか咄嗟に握った。
「どうかしましたか?」
『あ……ううん、何でも、ない。』
骸は一瞬目を丸くするものの、ふんわりと微笑んであたしの頬を撫でる。
「寂しくなったらいつでも呼んでください。約束したでしょう?檸檬が元の君に戻れるまでは、その涙を僕が拭う、と。」
『……うん。』
何だろう、違う。
そうじゃなくて、もっと直感的に、悪寒が駆け抜けたの。
でも、そんなこと言えない。
あたしは一人で生きてくって決めた。
ボンゴレの皆に利用される身から、脱却するって。
『骸、あの…気を付けて。』
「ありがとうございます。すぐ戻りますね。」
優しい言葉をかけてくれる骸は、あたしの悪寒を読み取ったのだろうか。
骸と千種がフゥ太君を連れ戻しに行き、あたしは残る。
この広い建物の中に…1人で。
『1人…?』
ドクンッ、
『あ…!』
そうだ、何で忘れてたんだろう。
一人で強くなりたいのに、
そんなあたしにとって、
まだ致命的な弱点があったこと。
『い、嫌だ……!!』
あたしは、
独りじゃ怖くて動けなくなるんだった。
必死に頭を抱え込むのは、
甦って欲しくないアメリカの日々が、
忌々しい両親の記憶が、
隅から隅まで蝕んでくるから。
眠るときすら、今までは隣にリボーンが……
『(何、考えてるのあたし……)』
リボーンなんて、もういない。
あたしはもう誰も頼らない。
あたしの大切なものは、あたしの命だけなんだ。
でも、それなのに、
『だ、誰か……』
---
------
------------
その頃。
突如現れたM・Mをビアンキが倒し、直後に現れたバーズに驚くツナ達。
その上、壁のモニターには京子とハルが映し出されていた。
その後ろに揺らめく怪しげな影。
「うわぁ!!」
「気が付いちゃいました?あれは私に忠実な双子の殺し屋でしてね。10年間拘束具を外してもらえなかった程の凶悪な連続殺人犯なんですよ。」
「何だってーー!!」
「あの子達に何する気!?」
ビアンキの問いに、バーズはにんまりと笑いながら答える。
「何もしませんよ。貴方達が私に従ってくれさえすれば…ね。」
「ふざけんな!あいつらは関係ねーだろーが!!」
バーズに掴み掛かる獄寺。
しかし、離れていても双子に指示が出来ると言われ、やむを得ず引き下がる。
「では、お仲間でボンゴレ10代目をボコ殴りにして下さい。」
「なっ!」
バーズの提案に、驚く一同。
「(っていうか、ボンゴレ10代目が俺だって知らないはずじゃ……)」
「そこの沢田君を殴れ、と言ったんですよ。」
「(バレてるーーー!!)」
千種が目を冷ました事を察した獄寺。ツナはバレてしまった事にショックを隠せない。
しかも、出来ないと言えば京子とハルの髪に火をつけると言う。
双子の手の中には点火されているライターが。
それは、少しずつ2人の頭に近付いていく。
「さぁ、決定的瞬間ですぞー。」
人の驚いた顔を見るのが好きなバーズは、鼻息を荒くし、目を見開いている。
その時、
「分かった!」
獄寺と山本の後ろから、ツナが叫んだ。
「山本、獄寺君、殴って!!」
「ツナ!」
「10代目!」
驚いて振り向く獄寺と山本。
楽しみが中断され、ムスッとするバーズ。
「いいトコだったのに。じゃぁ、5秒以内に始めて下さいよ。」
「えっと、じゃぁ……ボボ…ボコってもらえる?」
「バカ言うな、、」
「んな事出来るワケないっス!」
2人が断った次の瞬間、
バゴォ!
「ふげっ!」
ビアンキが思いっきりツナを殴った。
「(あ、あんまり痛くない……。ありがと、ビアンキ!)」
「いやぁ、お見事。クリアです。今のクリアっぷりが良かったので、次で最後にしましょう。」
「まだあんのーー!?」
バーズは懐からナイフを1本取り出した。
「このナイフで沢田さんを刺して下さい。」
「な!」
「えーー!!」
驚くツナ達の顔に興奮し、鼻血を出すバーズ。
当然ツナ達はその要求を断る。
すると、
「じゃぁ、次のドキドキいきましょうか。」
モニターにアップになるのは京子の顔。
その後ろに立っている双子の片割れは、後ろに硫酸を隠し持っていた。
「何する気なのーー!?」
「硫酸って人にぶっかける意外に使用法あるんですか?彼女、痛くて驚くでしょうねぇー。ただれてまたびっくり!!」
おどけた口調で言うバーズに、獄寺と山本が呆れて、怒る。
しかし、その罵りの言葉も虚しく、バーズは双子の片割れに指示を出した。
「やっちゃって。」
京子の頭の上にセットされた硫酸の瓶は、ゆっくりゆっくり傾けられていった。
瓶の口に液体が近付いていく。
それが、溢れ出しそうになったその瞬間、
「待って!!ナイフでも何でも刺すから!!!」
ツナが叫んで、瓶の動きは止まる。
「それではやってもらいましょうか。制限時間は10秒ですよ。」
バーズの声は少し高くなる。
それもそのはず、彼が用意したナイフにはかすめるだけで即死するような毒が塗りこんであったのだ。
「(獄寺君と山本だって自分の事顧みずに俺を助けてくれたんだ。)」
ツナはぎゅっとナイフを握り締めた。
「俺だって……ここここ、これくらい~~~!!」
「ウジュジュジュ。」
ツナが自らにナイフを刺そうとしたその時、
ボゴッ、
「ギギィィッ!」
モニターから聞こえて来た、殺人鬼の悲鳴。
「おめーみたいのがロリコンの印象悪くすんだよ。」
そして、
聞き覚えのある声。
ツナはナイフを持った手を止める。
「ハーイ、京子ちゃん。助けに来ちゃったよ。おじさん、カワイコちゃんの為なら、次の日の筋肉痛もいとわないぜ♪」
「Dr.シャマル!」
「な、何ぃーー!!?」
京子と花の所に現れたのは、学校の保険医・Dr.シャマルだった。
思い掛けない人物の登場に、驚きを隠せないバーズ。
反対に、ガッツポーズをする山本と、来るのが遅いと怒る獄寺。
バーズは慌ててこう言った。
「まーまー、皆さん落ち着いて下さい。こっちにはもう1人いるんですからね。」
モニターにアップになったのは、ハルの顔だった。
「ほーら、次はこの顔が潰れる危機ですよ。嫌なら続けてもらいましょうか。ボンゴレ10代目。」
「ハル!」
「さぁ、ナイフを刺して下さい。今すぐに!!」
バーズはツナを急かした。
だが、
「哈っ!!」
バキッ、
「ギギャ!!」
再び聞こえた殺人鬼の悲鳴。
「やれやれ。」
「ハルさん、怪我ありません!?」
そして、
やはり知っている声。
「許せないな、女性を狙うなんて。」
「ハルさん、ここは俺達に任せて下さい。」
「イーピン!!ランボ!!」
いつも通りの牛柄シャツを着た10年後ランボと、戦闘用のチャイナ服を着た10年後イーピンが、ハルを守るようにして立っていた。
「バカな!この事は誰にも知られていないはずだ!」
完全に取り乱すバーズ。
「言われた通りにハルさんを見張ってて良かった。」
「ヤツの読みはどんぴしゃりだったな。」
「(言われた通り?ヤツの読み?)」
イーピンとシャマルの言葉に首をかしげるツナ。
すると、
「ごほん。」
後ろからせき払いが聞こえる。
「リボーン!」
ツナは全てを察した。
京子とハルが狙われるのを予測して、シャマルやランボ達を向かわせてくれたのは、リボーンだったのだと。
「お、お前…「良かったな。困った時に助けてくれる、仲間(ファミリー)がいて。」
「う、うん……ん?」
感動して、リボーンの言葉に頷きそうになるツナだったが、
「ファミリーじゃないだろ!!」
未だにボンゴレ10代目を自分で名乗りたいワケではなくて。
その様子を、遠くの木の影から見ている人物がいた。
「みんな……。」
---
------
--------------
あたしは……
どうして1人じゃ動けなくなるんだろう。
寂しくって、
怖くって、
苦しくって、
何も出来なくなってしまうのは、何故?
『…イヤだ、よ…』
こんなに弱い自分は、嫌だ。
…ああ、そうだった。
アメリカでずっと一人だったあたしは、
9代目によってイタリアで暮らすようになって、
常に温かい人たちと触れあえる環境に慣れていってしまったんだ。
だからこそ、それを失うのが怖くなってしまった。
この恐怖は……代償だったんだ。
あたしが、中途半端に生温い環境を手に入れた、代償。
裏切られることだって、利用されることだって、視野に入れておくべきだったのに。
『バカだなぁ、あたし……』
素直に全部、真正面から受け取って、
結局は、駒だったワケで…
それでも、お願い、今はまだ…
独りになった時に襲ってくるこの恐怖を克服できるまで……
誰か、
誰か来て………。
「何してるんだ?」
『え…?』
急に声をかけられて、吃驚した。
振り向くと、さっき部屋の一番奥にいた人が立っていた。
顔に、大きな傷がある。
『あ、貴方は…?』
「……名乗る必要はない。」
あたしは何とか声を発したけど、まだ震えは止まらなかった。
「何してたんだ?そんな所で。」
彼が疑問に思うのも無理はないだろう。
あたしがいたのは、部屋の隅。
壁にぎゅっと背中を押し付けて、縮こまっていたのだ。
『1人は……怖いの。どうしても……動けなくなって…』
頑張って言葉を紡げば、彼はゆっくりと近付いて、あたしの目の前にしゃがんだ。
そして、膝を抱え込むあたしの手に、彼の手が重ねられる。
『(あったかい…)』
「これで平気か?」
思いも寄らない言葉を投げかけられ、あたしは驚いた。
彼の方を見てみると、その手の持ち主とは思えないような冷たい瞳があった。
『不思議…』
「何がだ。」
『貴方の手、瞳の冷たさとかけ離れてる。』
一瞬だけ見えた。
彼の顔が少しだけ無表情じゃなくなった。
あたしはもう1つの疑問を口にする。
『どうして、助けてくれたの?』
再び沈黙。
その間、彼の顔を観察する。
答えるか否か、迷っている顔だった。
「俺も……昔1人だった頃があった。」
彼は昔を思い出しながら語っているみたい。
その顔は、しだいに氷が溶けていくような感じがした。
『その時、寂しくなかった?』
「寂しさはすぐに吹き飛んだ。俺は、仲間に出会えたから。」
『骸達の事?』
あたしが聞き返すと、彼は途端に眉間に皺を寄せた。
「檸檬、と言ったな……」
『うん。』
彼はごくりと唾を飲み、真剣な表情で口を開いた。
「お前は人を信じ過ぎだ。」
『え?』
「アイツを……六道骸の言葉を…全て信じてはいけない。」
『何で、そんなこと……』
まるで、仲間じゃないみたいな言い方。
確かにボンゴレ9代目の言葉を、ツナの温かさを、鵜呑みにして信じた。
それは間違いなくあたしの愚かさ。
だけど…
『貴方は…骸の仲間なんじゃ…』
「いいか、俺は……」
彼は再び何かを言おうとしたけど、急にそれをやめた。
あたしは首をかしげる。
彼の脳裏に、突然骸の声が聞こえて来たなんて知らずに。
--「ランチア、もうすぐ君の出番です。まさか、檸檬に何か吹き込んではいませんよね?」
「……すまない、俺はもう行く。」
彼がいきなり立ち上がったから、あたしは慌てて一緒に立った。
『どうして!?』
「骸から命令が来た。今度は俺の番だ。」
『あ、あたしも行く!』
咄嗟に彼の腕を掴む。
「骸にここにいろと言われているはずだ。」
『でも、1人じゃまた動けなくなるの!お願い、連れてって。』
こいつは…どうしてこんな目をするんだろう。
相手の心を揺さぶる瞳…真っ直ぐな視線は突き刺さる矢のようだ。
この瞳を持つがゆえに、骸はこいつを殺さなかったのか。
「外に出たら、骸と合流しろ。俺とは別方向に行け。」
『うん、分かった。ありがとう。』
---
------
------------
建物を出て暫く、2人で走り続けた。
「お前、疲れないのか?」
『平気。スタミナはあるから。』
「そうか…。」
やがて、森に入る道が見えて来る。
「そっちへ行け。」
『貴方は…「俺はこっちだ。」
彼は、あたしが行くべき方向と別方向を指差した。
『あの……本当にありがとう。』
「俺の行動がお前の感謝に相当するか、まだ分からないだろう。」
『それでも、最善を尽くしてくれたと思うから。』
見ず知らずのあたしなんかのために。
この人にとって、あたしが動けなくなろうが泣きわめこうが、どうでもいいことのハズなのに。
それに、忠告をしてくれた。
--「お前は人を信じすぎだ。」
これから先、あたしが一人で生きて、強さを取り戻すための第一歩。
人は裏切る生き物だという、その前提を示してくれた。
だから、
この戦いの先に、貴方にとっての安息があるように……そう願う。
「分からんな。」
だって、見てしまったから。
昔の話をした時、少しだけ笑ってた。
あたしの手に重なった手の持ち主に、相応しい瞳をしていた。
あんなにいい人が、戻って来なれいのは酷だから。
『貴方の行く道にも、平穏があるように。』
「…お前は。」
『え?』
「お前の行く先には、お前の望む未来があるのか。」
『……!』
あたしの望む未来………
そのフレーズに戸惑ったのは言うまでもなく、
ただ、これから全ての仲間を捨てて、関わりを絶って、この町を出たら、
確実に昔のあたしには戻れる気がした。
『あたしは……強く、なりたい……だから、その為なら…』
「…そうか。すまない、余計な詮索だったな。」
走り去る彼を見送り、あたしも走り出す。
骸を探して。
もう、弱い自分は嫌。
今度こそ、必ず脱却してみせる。
暖かい人だと言った。
なら、
貴方の中にあるその寂しさを、
取ってあげたい。
=================
『ねぇ骸、もしかしてM・M……』
最後まで言わなくても、骸の表情でわかった。
「えぇ、倒されました。ボンゴレ一味はなかなか侮れませんね。君が忠誠を誓っていただけある。」
『そう、だね…』
「檸檬、」
『大丈夫。』
襲いかかる悲しみを堪えながら、深呼吸を一つ。
直後に骸の温かい手の平が頭の上に乗り、少し驚いた。
「檸檬が気に病むことなどありません。君はこれから一人で強くなる……そう、決めたでしょう。」
『骸……うん、わかってる。』
そう、あたしにはもう、関係ない。
誰を失おうと、あたしの命を護るためにあたしは強く生きるんだ。
骸はソファに座るあたしをそのままに、不意に立ち上がる。
そして、思い出したように言った。
「ああ、そうでした。フゥ太がボンゴレの様子を見に行ったっきり行方不明でして。連れ戻してきますので、檸檬はここにいてください。」
『え?』
「檸檬の決意を揺るがす輩に遭遇するリスクは回避すべきだ。」
行こうとする骸の袖を、あたしは何故だか咄嗟に握った。
「どうかしましたか?」
『あ……ううん、何でも、ない。』
骸は一瞬目を丸くするものの、ふんわりと微笑んであたしの頬を撫でる。
「寂しくなったらいつでも呼んでください。約束したでしょう?檸檬が元の君に戻れるまでは、その涙を僕が拭う、と。」
『……うん。』
何だろう、違う。
そうじゃなくて、もっと直感的に、悪寒が駆け抜けたの。
でも、そんなこと言えない。
あたしは一人で生きてくって決めた。
ボンゴレの皆に利用される身から、脱却するって。
『骸、あの…気を付けて。』
「ありがとうございます。すぐ戻りますね。」
優しい言葉をかけてくれる骸は、あたしの悪寒を読み取ったのだろうか。
骸と千種がフゥ太君を連れ戻しに行き、あたしは残る。
この広い建物の中に…1人で。
『1人…?』
ドクンッ、
『あ…!』
そうだ、何で忘れてたんだろう。
一人で強くなりたいのに、
そんなあたしにとって、
まだ致命的な弱点があったこと。
『い、嫌だ……!!』
あたしは、
独りじゃ怖くて動けなくなるんだった。
必死に頭を抱え込むのは、
甦って欲しくないアメリカの日々が、
忌々しい両親の記憶が、
隅から隅まで蝕んでくるから。
眠るときすら、今までは隣にリボーンが……
『(何、考えてるのあたし……)』
リボーンなんて、もういない。
あたしはもう誰も頼らない。
あたしの大切なものは、あたしの命だけなんだ。
でも、それなのに、
『だ、誰か……』
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その頃。
突如現れたM・Mをビアンキが倒し、直後に現れたバーズに驚くツナ達。
その上、壁のモニターには京子とハルが映し出されていた。
その後ろに揺らめく怪しげな影。
「うわぁ!!」
「気が付いちゃいました?あれは私に忠実な双子の殺し屋でしてね。10年間拘束具を外してもらえなかった程の凶悪な連続殺人犯なんですよ。」
「何だってーー!!」
「あの子達に何する気!?」
ビアンキの問いに、バーズはにんまりと笑いながら答える。
「何もしませんよ。貴方達が私に従ってくれさえすれば…ね。」
「ふざけんな!あいつらは関係ねーだろーが!!」
バーズに掴み掛かる獄寺。
しかし、離れていても双子に指示が出来ると言われ、やむを得ず引き下がる。
「では、お仲間でボンゴレ10代目をボコ殴りにして下さい。」
「なっ!」
バーズの提案に、驚く一同。
「(っていうか、ボンゴレ10代目が俺だって知らないはずじゃ……)」
「そこの沢田君を殴れ、と言ったんですよ。」
「(バレてるーーー!!)」
千種が目を冷ました事を察した獄寺。ツナはバレてしまった事にショックを隠せない。
しかも、出来ないと言えば京子とハルの髪に火をつけると言う。
双子の手の中には点火されているライターが。
それは、少しずつ2人の頭に近付いていく。
「さぁ、決定的瞬間ですぞー。」
人の驚いた顔を見るのが好きなバーズは、鼻息を荒くし、目を見開いている。
その時、
「分かった!」
獄寺と山本の後ろから、ツナが叫んだ。
「山本、獄寺君、殴って!!」
「ツナ!」
「10代目!」
驚いて振り向く獄寺と山本。
楽しみが中断され、ムスッとするバーズ。
「いいトコだったのに。じゃぁ、5秒以内に始めて下さいよ。」
「えっと、じゃぁ……ボボ…ボコってもらえる?」
「バカ言うな、、」
「んな事出来るワケないっス!」
2人が断った次の瞬間、
バゴォ!
「ふげっ!」
ビアンキが思いっきりツナを殴った。
「(あ、あんまり痛くない……。ありがと、ビアンキ!)」
「いやぁ、お見事。クリアです。今のクリアっぷりが良かったので、次で最後にしましょう。」
「まだあんのーー!?」
バーズは懐からナイフを1本取り出した。
「このナイフで沢田さんを刺して下さい。」
「な!」
「えーー!!」
驚くツナ達の顔に興奮し、鼻血を出すバーズ。
当然ツナ達はその要求を断る。
すると、
「じゃぁ、次のドキドキいきましょうか。」
モニターにアップになるのは京子の顔。
その後ろに立っている双子の片割れは、後ろに硫酸を隠し持っていた。
「何する気なのーー!?」
「硫酸って人にぶっかける意外に使用法あるんですか?彼女、痛くて驚くでしょうねぇー。ただれてまたびっくり!!」
おどけた口調で言うバーズに、獄寺と山本が呆れて、怒る。
しかし、その罵りの言葉も虚しく、バーズは双子の片割れに指示を出した。
「やっちゃって。」
京子の頭の上にセットされた硫酸の瓶は、ゆっくりゆっくり傾けられていった。
瓶の口に液体が近付いていく。
それが、溢れ出しそうになったその瞬間、
「待って!!ナイフでも何でも刺すから!!!」
ツナが叫んで、瓶の動きは止まる。
「それではやってもらいましょうか。制限時間は10秒ですよ。」
バーズの声は少し高くなる。
それもそのはず、彼が用意したナイフにはかすめるだけで即死するような毒が塗りこんであったのだ。
「(獄寺君と山本だって自分の事顧みずに俺を助けてくれたんだ。)」
ツナはぎゅっとナイフを握り締めた。
「俺だって……ここここ、これくらい~~~!!」
「ウジュジュジュ。」
ツナが自らにナイフを刺そうとしたその時、
ボゴッ、
「ギギィィッ!」
モニターから聞こえて来た、殺人鬼の悲鳴。
「おめーみたいのがロリコンの印象悪くすんだよ。」
そして、
聞き覚えのある声。
ツナはナイフを持った手を止める。
「ハーイ、京子ちゃん。助けに来ちゃったよ。おじさん、カワイコちゃんの為なら、次の日の筋肉痛もいとわないぜ♪」
「Dr.シャマル!」
「な、何ぃーー!!?」
京子と花の所に現れたのは、学校の保険医・Dr.シャマルだった。
思い掛けない人物の登場に、驚きを隠せないバーズ。
反対に、ガッツポーズをする山本と、来るのが遅いと怒る獄寺。
バーズは慌ててこう言った。
「まーまー、皆さん落ち着いて下さい。こっちにはもう1人いるんですからね。」
モニターにアップになったのは、ハルの顔だった。
「ほーら、次はこの顔が潰れる危機ですよ。嫌なら続けてもらいましょうか。ボンゴレ10代目。」
「ハル!」
「さぁ、ナイフを刺して下さい。今すぐに!!」
バーズはツナを急かした。
だが、
「哈っ!!」
バキッ、
「ギギャ!!」
再び聞こえた殺人鬼の悲鳴。
「やれやれ。」
「ハルさん、怪我ありません!?」
そして、
やはり知っている声。
「許せないな、女性を狙うなんて。」
「ハルさん、ここは俺達に任せて下さい。」
「イーピン!!ランボ!!」
いつも通りの牛柄シャツを着た10年後ランボと、戦闘用のチャイナ服を着た10年後イーピンが、ハルを守るようにして立っていた。
「バカな!この事は誰にも知られていないはずだ!」
完全に取り乱すバーズ。
「言われた通りにハルさんを見張ってて良かった。」
「ヤツの読みはどんぴしゃりだったな。」
「(言われた通り?ヤツの読み?)」
イーピンとシャマルの言葉に首をかしげるツナ。
すると、
「ごほん。」
後ろからせき払いが聞こえる。
「リボーン!」
ツナは全てを察した。
京子とハルが狙われるのを予測して、シャマルやランボ達を向かわせてくれたのは、リボーンだったのだと。
「お、お前…「良かったな。困った時に助けてくれる、仲間(ファミリー)がいて。」
「う、うん……ん?」
感動して、リボーンの言葉に頷きそうになるツナだったが、
「ファミリーじゃないだろ!!」
未だにボンゴレ10代目を自分で名乗りたいワケではなくて。
その様子を、遠くの木の影から見ている人物がいた。
「みんな……。」
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あたしは……
どうして1人じゃ動けなくなるんだろう。
寂しくって、
怖くって、
苦しくって、
何も出来なくなってしまうのは、何故?
『…イヤだ、よ…』
こんなに弱い自分は、嫌だ。
…ああ、そうだった。
アメリカでずっと一人だったあたしは、
9代目によってイタリアで暮らすようになって、
常に温かい人たちと触れあえる環境に慣れていってしまったんだ。
だからこそ、それを失うのが怖くなってしまった。
この恐怖は……代償だったんだ。
あたしが、中途半端に生温い環境を手に入れた、代償。
裏切られることだって、利用されることだって、視野に入れておくべきだったのに。
『バカだなぁ、あたし……』
素直に全部、真正面から受け取って、
結局は、駒だったワケで…
それでも、お願い、今はまだ…
独りになった時に襲ってくるこの恐怖を克服できるまで……
誰か、
誰か来て………。
「何してるんだ?」
『え…?』
急に声をかけられて、吃驚した。
振り向くと、さっき部屋の一番奥にいた人が立っていた。
顔に、大きな傷がある。
『あ、貴方は…?』
「……名乗る必要はない。」
あたしは何とか声を発したけど、まだ震えは止まらなかった。
「何してたんだ?そんな所で。」
彼が疑問に思うのも無理はないだろう。
あたしがいたのは、部屋の隅。
壁にぎゅっと背中を押し付けて、縮こまっていたのだ。
『1人は……怖いの。どうしても……動けなくなって…』
頑張って言葉を紡げば、彼はゆっくりと近付いて、あたしの目の前にしゃがんだ。
そして、膝を抱え込むあたしの手に、彼の手が重ねられる。
『(あったかい…)』
「これで平気か?」
思いも寄らない言葉を投げかけられ、あたしは驚いた。
彼の方を見てみると、その手の持ち主とは思えないような冷たい瞳があった。
『不思議…』
「何がだ。」
『貴方の手、瞳の冷たさとかけ離れてる。』
一瞬だけ見えた。
彼の顔が少しだけ無表情じゃなくなった。
あたしはもう1つの疑問を口にする。
『どうして、助けてくれたの?』
再び沈黙。
その間、彼の顔を観察する。
答えるか否か、迷っている顔だった。
「俺も……昔1人だった頃があった。」
彼は昔を思い出しながら語っているみたい。
その顔は、しだいに氷が溶けていくような感じがした。
『その時、寂しくなかった?』
「寂しさはすぐに吹き飛んだ。俺は、仲間に出会えたから。」
『骸達の事?』
あたしが聞き返すと、彼は途端に眉間に皺を寄せた。
「檸檬、と言ったな……」
『うん。』
彼はごくりと唾を飲み、真剣な表情で口を開いた。
「お前は人を信じ過ぎだ。」
『え?』
「アイツを……六道骸の言葉を…全て信じてはいけない。」
『何で、そんなこと……』
まるで、仲間じゃないみたいな言い方。
確かにボンゴレ9代目の言葉を、ツナの温かさを、鵜呑みにして信じた。
それは間違いなくあたしの愚かさ。
だけど…
『貴方は…骸の仲間なんじゃ…』
「いいか、俺は……」
彼は再び何かを言おうとしたけど、急にそれをやめた。
あたしは首をかしげる。
彼の脳裏に、突然骸の声が聞こえて来たなんて知らずに。
--「ランチア、もうすぐ君の出番です。まさか、檸檬に何か吹き込んではいませんよね?」
「……すまない、俺はもう行く。」
彼がいきなり立ち上がったから、あたしは慌てて一緒に立った。
『どうして!?』
「骸から命令が来た。今度は俺の番だ。」
『あ、あたしも行く!』
咄嗟に彼の腕を掴む。
「骸にここにいろと言われているはずだ。」
『でも、1人じゃまた動けなくなるの!お願い、連れてって。』
こいつは…どうしてこんな目をするんだろう。
相手の心を揺さぶる瞳…真っ直ぐな視線は突き刺さる矢のようだ。
この瞳を持つがゆえに、骸はこいつを殺さなかったのか。
「外に出たら、骸と合流しろ。俺とは別方向に行け。」
『うん、分かった。ありがとう。』
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建物を出て暫く、2人で走り続けた。
「お前、疲れないのか?」
『平気。スタミナはあるから。』
「そうか…。」
やがて、森に入る道が見えて来る。
「そっちへ行け。」
『貴方は…「俺はこっちだ。」
彼は、あたしが行くべき方向と別方向を指差した。
『あの……本当にありがとう。』
「俺の行動がお前の感謝に相当するか、まだ分からないだろう。」
『それでも、最善を尽くしてくれたと思うから。』
見ず知らずのあたしなんかのために。
この人にとって、あたしが動けなくなろうが泣きわめこうが、どうでもいいことのハズなのに。
それに、忠告をしてくれた。
--「お前は人を信じすぎだ。」
これから先、あたしが一人で生きて、強さを取り戻すための第一歩。
人は裏切る生き物だという、その前提を示してくれた。
だから、
この戦いの先に、貴方にとっての安息があるように……そう願う。
「分からんな。」
だって、見てしまったから。
昔の話をした時、少しだけ笑ってた。
あたしの手に重なった手の持ち主に、相応しい瞳をしていた。
あんなにいい人が、戻って来なれいのは酷だから。
『貴方の行く道にも、平穏があるように。』
「…お前は。」
『え?』
「お前の行く先には、お前の望む未来があるのか。」
『……!』
あたしの望む未来………
そのフレーズに戸惑ったのは言うまでもなく、
ただ、これから全ての仲間を捨てて、関わりを絶って、この町を出たら、
確実に昔のあたしには戻れる気がした。
『あたしは……強く、なりたい……だから、その為なら…』
「…そうか。すまない、余計な詮索だったな。」
走り去る彼を見送り、あたしも走り出す。
骸を探して。
もう、弱い自分は嫌。
今度こそ、必ず脱却してみせる。