黒曜編
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これはケジメなんだ。
あたしが、“強いあたし”に戻るための。
だからいらないの。
あたしにはもう……
誰も、いらない。
---
--------
---------------
能力の使いすぎに加え、フゥ太君の言葉があまりにショックで、動けなかった。
このまま、フゥ太君に刺されて死ぬんだと、思った。
何で、どうして、
フゥ太君……あたしは、ボンゴレを信じていたいのに……
---「ぐっ…、」
---『……え?』
痛みは、来なかった。
---「フゥ太…檸檬には僕が説明します……君は、奥に戻りなさい。」
---「骸さん……分かりました。」
スッとナイフを引いて、フゥ太君はスタスタと扉の向こうへ行ってしまった。
あたしは、目の前の光景に驚くことしかできなかった。
だって、
---『な、何で……あなたが…!?』
フゥ太君のナイフからあたしを庇ってくれたのは、他ならぬ六道骸だったから。
赤く滲む部分を抑えつつ、彼はあたしの問いかけに答える。
---「強いていうなら…同情、ですかね……」
---『え…?』
---「僕も、君と同じ……マフィアの被害者ですから。」
---『被害者、って……あ、あたしはっ…!』
---「フゥ太の言葉を聞いてもなお、ボンゴレを信じるつもりですか?君の傷を利用した、彼らを。」
手駒……
フゥ太君は、ボンゴレがあたしのことを手駒としか思っていない、そう言った。
だけどあたしには、どうしても信じられなくて。
ううん、信じたくなくて。
---『利用なんて…そんなことする人たちじゃない…!あたしは、あたしは確かに9代目に救われて…!!』
---「傷を埋めることで、自分の配下に置く。君のように脆い人間は、彼らにとって“よく懐く捨て駒”ですよ。」
違う、違う違う違う!!
9代目がそんな人なワケない!!
本当にあったかい人なの、だから助けてくれたの。
あの人のおかげで、今のあたしがいる…!
---「考えてもみて下さい、少し優しくしただけで君はいとも簡単に心を許し、命を捧げた。」
---『それは、あたしの意志で…』
---「仕向けられたとは考えたことがないのですか?相手は大きな組織のボスです、人の心を掴むプロフェッショナルだ。」
---『そう、だけど…』
---「マフィアのボスにとって、これほど楽な戦力確保はありませんよ。」
違うって、信じたいの。
六道骸が言ってることにも一理あるのは分かる。
だけど……あたしは、信じたいの。
お願い、やめて。
あたしに、信じさせてよ。
---「恩人を信じたい気持ちは分かります。しかし、現実を受け入れることも大切です。」
---『違う!違うもん!9代目も、ツナも、そんな人たちじゃない…!』
アメリカの、ストリートファイト場の奴らとは違うんだ!!
利益に走る人たちじゃない!!
---「沢田綱吉のことも、信じていると?」
---『そうよ、だって……ツナは、誰よりも優しくて…』
---「では何故、彼らは君がいなくなったことに気付かないのでしょう。日常から君が消えても、意に介さない…ということではありませんか?」
---『そ、それは……』
あたしが、一人で勝手にここに来たから…
フゥ太君さえ助けられれば、それだけで帰れると思ってたから…
……じゃあ、助けられなかったら?
フゥ太君を助けられなくて、あたしが“使えない人間”だって、分かったら…?
---「君が彼らに黙って単身乗り込のだとしても、何故探しに来ないのでしょう?」
---『そん、なの…』
---「ボンゴレの情報収集力をもってすれば、この場所の特定など24時間かからないハズです。」
頭の中に、六道骸の言葉だけが流れ込んでくる。
信じてる、という確固たる信念は、
徐々に、信じたい、という儚い願望に変わって。
---「誰も来ないこの状況こそ、最も明瞭な答えとは言えませんか?」
---『そんな……そんなっ…』
---「優しい君は、一度信じた人間を疑えないのでしょう。ですが…彼らが与えた中途半端な優しさに依存していては、君は弱くなるばかりです。」
中途半端…?
それって、あたしが、“使える人間”である時だけ優しくしてくれてる、ってこと…?
利用価値のないあたしには、何も…
---「利用される身から、脱却しましょう。」
---『あたし…依存なんて……』
ううん、確かに依存してる。
ボンゴレの皆がいれば、あたしは一人じゃないって思える。
あたしを必要としてくれる人がいるから、生きていられる。
これは……依存なんだ。
どうして…一体いつから…?
あたし、あたしは……
…昔はどんな人間だったっけ。
---『………アメリカでは、あたし…一番強かった……』
---「存じてますよ。他の追随を許さなかった、と。」
アメリカでは、自分の身を護るために、強くなったんだ。
生き残るために、何でもした。
それなのに、あたしの目標はいつの間にか変わってた。
あんなにしがみついていた命だったのに、
ボンゴレのためなら捨てられるって思うようになってた。
皆がいるから、なんて……
弱い思考に走ってた。
他の追随を許さないほどの強さを誇ってたのに…
そんなあたしが、どうして、こんな所で死にそうになってるの?
あたしは、誰よりも強かった。
死なないために戦って、生きてきた。
誰にも頼らないで、
自分の力で強くなって、
生き残って来たのに。
ボンゴレに入って……弱くなったの?
命を捨ててもいいなんて、そんな弱い人間になってたの?
---『一人になれば…関わりを断てば……また、強くなれるかな…?』
---「ええ、もちろん。」
六道骸は柔らかく微笑んだ。
反対に、尋ねたあたしは深く項垂れる。
涙が溢れた。
とめどなく、とめどなく。
でもそれはすぐに拭われる。
目の前の、六道骸に。
---「君がまた、一人で歩けるようになるまでは……その涙は僕が拭いますよ。」
どうしてだろう…
すごく、すごく安心した。
あたしはまだ、優しくされるのに慣れてないんだ。
こんなんじゃすぐにまた誰かに依存しちゃう。
一人で生きていかなくちゃ。
一人で戦っていかなくちゃ。
だから、昔の自分を取り戻すまでは……
---『……ありがとう…』
ほんの少し、だけ…
---「礼には及びませんよ。こう見えても、僕は今、あの有名なCRAZY DANCERに出会えて感激してるんです。」
---『えっ?』
---「まさか、こんなに可愛らしい少女だとは思っていませんでしたが。」
そう言いながら、六道骸はゆっくりとあたしを抱き寄せた。
とんとんっ、と背から響く優しいリズムが心地いい。
---『あの、骸…さん?』
---「骸、でいいですよ。」
---『あ、うん。あの…その傷、手当させて。あたしのせいで…フゥ太君に…』
---「かすり傷です、気にしないで下さい。」
---『でも、』
---「痛みが大きいのは、君の方でしょうから…檸檬。」
ズキズキと、体の奥が痛む。
能力の使いすぎからか、別の原因からか。
あたし……あの人たちに依存して、自分で傷を大きくしてたのかな。
人は、裏切る生き物。
そんなこと、ストリートファイトの世界では当たり前のことだったのにね。
でも…でもね、信じていたかった。
だから目を逸らしていたのかも知れない。
それはきっと、あたしが弱くなってたからなんだろうな。
でも骸が教えてくれた。
例外なんて、ないんだってこと。
裏切られるくらいなら、もう……
これからはずっと、一人で生きてくよ。
---
------
------------
山本の左腕に、ビアンキが応急処置を施した。
その後ろで、ツナは再び自己嫌悪に陥る。
「(ホントこーゆーシチュエーション向いてないよなー、凹むよなー…)」
「チビ悪ぃ、バット壊しちまった。」
山本は折れたバットをリボーンに見せる。
「気にすんな。スペアやるから。」
リボーンは何処からかもう1本バットを取り出し、山本に渡した。
「(替えあんのーーー!?)」
密かにツッコミを入れるツナ。
その横で、獄寺は嬉しそうに言う。
「でも、メガネヤローはまだ寝てるらしいし、アニマルヤローは倒したし、意外と簡単に骸をぶっ飛ばせそうですよ。」
すると、地中から笑い声が聞こえて来た。
「ププッ、めでてー連中だぜ!!ぜってー骸さんは倒せねーからな!!全員顔見る前におっ死ぬびょーん!!」
「んだと、砂まくぞコラ!!」
「甘いわ、隼人。」
砂を握りしめる獄寺を制止させ、ビアンキが直径20センチ程の岩を穴から落とした。
ヒューン……ゴッ、
「キャンッ!」
鈍い音と、哀れな悲鳴が聞こえて来る。
ビアンキは穴を覗きながら言った。
「ヒクヒクしてるけど、死んだフリかしら?」
「(やっぱこの人怖ぇーっ!!)」
改めて恐怖を刻まれたツナに、リボーンが警告する。
「やつの言う通り、六道骸を侮らねー方がいいぞ。」
リボーンは、骸が危機に陥る度に人を殺してくぐり抜けて来たと言った。
「脱獄も、死刑執行前日だったしな。」
「この人何して来たのーー!?ってか、やっぱ怖ぇーー!」
写真を見ながら、ツナは絶叫した。
---
------
------------
その頃。
「ん…」
『千種っ!』
ゆっくりと目を開けた千種に、檸檬は呼びかけて笑顔を見せる。
『良かった、目が覚めて……』
「檸檬…」
千種が小さく檸檬の名を呼ぶと、少し離れたソファに座っていた骸も声をかける。
「おや、目が覚めましたか?」
「骸様……」
骸が座っている更に向こうには、いくつかの人陰もある。
「3位狩りは大変だったようですね。」
「ボンゴレのボスと接触しました。」
「そのようですね。」
『骸、ごめんね…さっき犬ちゃんが……』
「ええ、何となく察せました。遊びに来た彼らを、一人で迎撃しに行ったようで。」
骸がそう言うと、千種は体を震わせてベッドから降りようとする。
『あ、まだダメ。傷が開いちゃうから。』
檸檬はぎゅっと千種の手を握った。
「大丈夫ですよ、我々の援軍も到着しましたから。」
.骸に言われ、千種と檸檬はドアの向こうを見る。
「………。」
『骸、この人たちは…?』
「あら?ニューフェイスがいるじゃない。ってか、千種は相変わらず無愛想ねー。」
その中で唯一の女子が言った。
骸が軽く紹介をする。
「彼女はかの有名なCRAZY DANCER…雨宮檸檬です。檸檬、あちらは僕らの昔の仲間ですよ。」
『初めまして。』
檸檬は軽くお辞儀をした。
が、千種は少しだけ嫌そうに口を開く。
「何しに来たの?」
その問いに、“仲間達”は順番に答える。
「仕事に決まってんじゃない。」
「答える必要はない。」
「スリルを欲してですよ。」
『(あの人って…確か……)』
骸のかつての仲間のうち一人のことを、見覚えがあるように感じた檸檬。
しかし、その名前はおろか何処で知ったのかさえもよく思い出せない。
すると、ドアの向こうに居た女子が檸檬にコツコツと歩み寄って来た。
そして、檸檬の目の前でしゃがみ、じーっと顔を見る。
「へぇー……あなたがあのCRAZY DANCERなの。」
『うん、アメリカではそう呼ばれてた。』
「なかなか良い目してるじゃない。宜しく、私はM・Mよ。」
『こちらこそ。』
右手を差し出された檸檬は、右手でそれを握った。
「とにかく、千種は休んで下さい。ボンゴレの首は彼らに任せましょう。」
千種はゆっくりと頷いた。
「分かりました。」
千種の返事を聞くと、骸はくるりと方向転換をする。
「ではM・M、そろそろいいですか?」
「OK。じゃ、ちょっと行って来るね。檸檬、後でアメリカの話聞かせてちょーだい。私、一回豪遊してみたいのよねー。」
『勿論!』
檸檬は軽く手を振ってM・Mを見送った。
それが、彼女の姿を見る最後だとも知らずに……。
『あたし、何か飲み物いれてくる。』
「おや、気を遣わなくてもいいですよ?」
『せっかく千種が起きたから…ね。』
「…ありがとう。」
紅茶を6人分用意する。
その間、あたしはボーッとこれからのことを考えていた。
あたしは…一人になった。
これから先、たった一人で生きていく道を選んだ。
振り返らないと決めた。
それなのに、どうしてだろう。
マフィアと関わるまでは一人だったハズなのに、
どうしてこんなに寂しくて、不安になっちゃうんだろう。
あの温かさは、当たり前じゃなかった。
たったそれだけのこと。
あたしには……誰もいなかった。
たった…それだけの、こと。
『(あ、そうだ…)』
まだちゃんと、決別してなかった。
だから迷ってるんじゃないかな。
きっとそうだ、だったら、やることは一つだね。
『お待たせ。』
一人ひとりに紅茶を配って、部屋を出る。
骸に「どちらへ?」と聞かれたから、「ケリをつけに行くの」と笑った。
階段を下って、下って、まっさらな壁の前へ。
知っていた、骸がこの壁の向こうに“彼”を閉じ込めていること。
「…誰。」
その声は、やっぱりあたしを揺さぶった。
一人が嫌だと思う気持ちを、再び呼び起こす。
『言いたいことがあるの。』
だからこそ、あたしは決別する。
一人で生きていくために、
一人で強くあるために、
今までの日々は、ここで捨てる。
「檸檬?」
『呼ばないでって、言ったでしょ。』
もう、いらない。
全部、いらない。
あたしには…自分の命を護る力があればいい。
「…じゃあどうして来たの。」
『弱い自分と別れるために。』
「ふぅん…そう…」
『さようなら。』
壁の向こうの彼にではなく、あたし自身にそう告げた。
彼らと笑い合っていた、能天気な自分に。
そしてあたしは、階段を上がって骸のいる部屋へ引き返した。
寂しくはなかった。
哀しくもなかった。
ただ、胸の中の温度が急激に下がって、
やたらと寒く感じていた。
-----
-----
「…本当に、バカだね。」
檸檬は、ただ「さようなら」と言うためだけにここに来た。
六道骸が、恐らくあそこまで檸檬を追いこんだんだ。
一人で生きていくつもりなんだね、檸檬。
誰も信じない、昔の君に戻るつもり…?
そんなこと、僕が許すと思ってるのかな。
僕は…決めたんだよ、檸檬。
君の傍にいるって。
---『護りたい。助けたい。それが出来なくなったら…空っぽになっちゃう…』
そう言ってた君は今、自分から空っぽになろうとしてるんだ。
これまで築いた関係性を、全て捨てる覚悟をしたようだね。
けどね、檸檬…
君が捨てる覚悟をしても、僕が捨てなければ、関わりは残るんだよ。
それに…
「(あんなに、弱々しく震えた声で……説得力なんてあるワケない…)」
君は気付いてないんだね、
関係性を断とうと、一人になろうとして、
自分自身が一番、弱り傷ついていることに。
「取り戻しに行くよ、君を。」
そのためには、早くここから出なくちゃね。
あたしが、“強いあたし”に戻るための。
だからいらないの。
あたしにはもう……
誰も、いらない。
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能力の使いすぎに加え、フゥ太君の言葉があまりにショックで、動けなかった。
このまま、フゥ太君に刺されて死ぬんだと、思った。
何で、どうして、
フゥ太君……あたしは、ボンゴレを信じていたいのに……
---「ぐっ…、」
---『……え?』
痛みは、来なかった。
---「フゥ太…檸檬には僕が説明します……君は、奥に戻りなさい。」
---「骸さん……分かりました。」
スッとナイフを引いて、フゥ太君はスタスタと扉の向こうへ行ってしまった。
あたしは、目の前の光景に驚くことしかできなかった。
だって、
---『な、何で……あなたが…!?』
フゥ太君のナイフからあたしを庇ってくれたのは、他ならぬ六道骸だったから。
赤く滲む部分を抑えつつ、彼はあたしの問いかけに答える。
---「強いていうなら…同情、ですかね……」
---『え…?』
---「僕も、君と同じ……マフィアの被害者ですから。」
---『被害者、って……あ、あたしはっ…!』
---「フゥ太の言葉を聞いてもなお、ボンゴレを信じるつもりですか?君の傷を利用した、彼らを。」
手駒……
フゥ太君は、ボンゴレがあたしのことを手駒としか思っていない、そう言った。
だけどあたしには、どうしても信じられなくて。
ううん、信じたくなくて。
---『利用なんて…そんなことする人たちじゃない…!あたしは、あたしは確かに9代目に救われて…!!』
---「傷を埋めることで、自分の配下に置く。君のように脆い人間は、彼らにとって“よく懐く捨て駒”ですよ。」
違う、違う違う違う!!
9代目がそんな人なワケない!!
本当にあったかい人なの、だから助けてくれたの。
あの人のおかげで、今のあたしがいる…!
---「考えてもみて下さい、少し優しくしただけで君はいとも簡単に心を許し、命を捧げた。」
---『それは、あたしの意志で…』
---「仕向けられたとは考えたことがないのですか?相手は大きな組織のボスです、人の心を掴むプロフェッショナルだ。」
---『そう、だけど…』
---「マフィアのボスにとって、これほど楽な戦力確保はありませんよ。」
違うって、信じたいの。
六道骸が言ってることにも一理あるのは分かる。
だけど……あたしは、信じたいの。
お願い、やめて。
あたしに、信じさせてよ。
---「恩人を信じたい気持ちは分かります。しかし、現実を受け入れることも大切です。」
---『違う!違うもん!9代目も、ツナも、そんな人たちじゃない…!』
アメリカの、ストリートファイト場の奴らとは違うんだ!!
利益に走る人たちじゃない!!
---「沢田綱吉のことも、信じていると?」
---『そうよ、だって……ツナは、誰よりも優しくて…』
---「では何故、彼らは君がいなくなったことに気付かないのでしょう。日常から君が消えても、意に介さない…ということではありませんか?」
---『そ、それは……』
あたしが、一人で勝手にここに来たから…
フゥ太君さえ助けられれば、それだけで帰れると思ってたから…
……じゃあ、助けられなかったら?
フゥ太君を助けられなくて、あたしが“使えない人間”だって、分かったら…?
---「君が彼らに黙って単身乗り込のだとしても、何故探しに来ないのでしょう?」
---『そん、なの…』
---「ボンゴレの情報収集力をもってすれば、この場所の特定など24時間かからないハズです。」
頭の中に、六道骸の言葉だけが流れ込んでくる。
信じてる、という確固たる信念は、
徐々に、信じたい、という儚い願望に変わって。
---「誰も来ないこの状況こそ、最も明瞭な答えとは言えませんか?」
---『そんな……そんなっ…』
---「優しい君は、一度信じた人間を疑えないのでしょう。ですが…彼らが与えた中途半端な優しさに依存していては、君は弱くなるばかりです。」
中途半端…?
それって、あたしが、“使える人間”である時だけ優しくしてくれてる、ってこと…?
利用価値のないあたしには、何も…
---「利用される身から、脱却しましょう。」
---『あたし…依存なんて……』
ううん、確かに依存してる。
ボンゴレの皆がいれば、あたしは一人じゃないって思える。
あたしを必要としてくれる人がいるから、生きていられる。
これは……依存なんだ。
どうして…一体いつから…?
あたし、あたしは……
…昔はどんな人間だったっけ。
---『………アメリカでは、あたし…一番強かった……』
---「存じてますよ。他の追随を許さなかった、と。」
アメリカでは、自分の身を護るために、強くなったんだ。
生き残るために、何でもした。
それなのに、あたしの目標はいつの間にか変わってた。
あんなにしがみついていた命だったのに、
ボンゴレのためなら捨てられるって思うようになってた。
皆がいるから、なんて……
弱い思考に走ってた。
他の追随を許さないほどの強さを誇ってたのに…
そんなあたしが、どうして、こんな所で死にそうになってるの?
あたしは、誰よりも強かった。
死なないために戦って、生きてきた。
誰にも頼らないで、
自分の力で強くなって、
生き残って来たのに。
ボンゴレに入って……弱くなったの?
命を捨ててもいいなんて、そんな弱い人間になってたの?
---『一人になれば…関わりを断てば……また、強くなれるかな…?』
---「ええ、もちろん。」
六道骸は柔らかく微笑んだ。
反対に、尋ねたあたしは深く項垂れる。
涙が溢れた。
とめどなく、とめどなく。
でもそれはすぐに拭われる。
目の前の、六道骸に。
---「君がまた、一人で歩けるようになるまでは……その涙は僕が拭いますよ。」
どうしてだろう…
すごく、すごく安心した。
あたしはまだ、優しくされるのに慣れてないんだ。
こんなんじゃすぐにまた誰かに依存しちゃう。
一人で生きていかなくちゃ。
一人で戦っていかなくちゃ。
だから、昔の自分を取り戻すまでは……
---『……ありがとう…』
ほんの少し、だけ…
---「礼には及びませんよ。こう見えても、僕は今、あの有名なCRAZY DANCERに出会えて感激してるんです。」
---『えっ?』
---「まさか、こんなに可愛らしい少女だとは思っていませんでしたが。」
そう言いながら、六道骸はゆっくりとあたしを抱き寄せた。
とんとんっ、と背から響く優しいリズムが心地いい。
---『あの、骸…さん?』
---「骸、でいいですよ。」
---『あ、うん。あの…その傷、手当させて。あたしのせいで…フゥ太君に…』
---「かすり傷です、気にしないで下さい。」
---『でも、』
---「痛みが大きいのは、君の方でしょうから…檸檬。」
ズキズキと、体の奥が痛む。
能力の使いすぎからか、別の原因からか。
あたし……あの人たちに依存して、自分で傷を大きくしてたのかな。
人は、裏切る生き物。
そんなこと、ストリートファイトの世界では当たり前のことだったのにね。
でも…でもね、信じていたかった。
だから目を逸らしていたのかも知れない。
それはきっと、あたしが弱くなってたからなんだろうな。
でも骸が教えてくれた。
例外なんて、ないんだってこと。
裏切られるくらいなら、もう……
これからはずっと、一人で生きてくよ。
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山本の左腕に、ビアンキが応急処置を施した。
その後ろで、ツナは再び自己嫌悪に陥る。
「(ホントこーゆーシチュエーション向いてないよなー、凹むよなー…)」
「チビ悪ぃ、バット壊しちまった。」
山本は折れたバットをリボーンに見せる。
「気にすんな。スペアやるから。」
リボーンは何処からかもう1本バットを取り出し、山本に渡した。
「(替えあんのーーー!?)」
密かにツッコミを入れるツナ。
その横で、獄寺は嬉しそうに言う。
「でも、メガネヤローはまだ寝てるらしいし、アニマルヤローは倒したし、意外と簡単に骸をぶっ飛ばせそうですよ。」
すると、地中から笑い声が聞こえて来た。
「ププッ、めでてー連中だぜ!!ぜってー骸さんは倒せねーからな!!全員顔見る前におっ死ぬびょーん!!」
「んだと、砂まくぞコラ!!」
「甘いわ、隼人。」
砂を握りしめる獄寺を制止させ、ビアンキが直径20センチ程の岩を穴から落とした。
ヒューン……ゴッ、
「キャンッ!」
鈍い音と、哀れな悲鳴が聞こえて来る。
ビアンキは穴を覗きながら言った。
「ヒクヒクしてるけど、死んだフリかしら?」
「(やっぱこの人怖ぇーっ!!)」
改めて恐怖を刻まれたツナに、リボーンが警告する。
「やつの言う通り、六道骸を侮らねー方がいいぞ。」
リボーンは、骸が危機に陥る度に人を殺してくぐり抜けて来たと言った。
「脱獄も、死刑執行前日だったしな。」
「この人何して来たのーー!?ってか、やっぱ怖ぇーー!」
写真を見ながら、ツナは絶叫した。
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その頃。
「ん…」
『千種っ!』
ゆっくりと目を開けた千種に、檸檬は呼びかけて笑顔を見せる。
『良かった、目が覚めて……』
「檸檬…」
千種が小さく檸檬の名を呼ぶと、少し離れたソファに座っていた骸も声をかける。
「おや、目が覚めましたか?」
「骸様……」
骸が座っている更に向こうには、いくつかの人陰もある。
「3位狩りは大変だったようですね。」
「ボンゴレのボスと接触しました。」
「そのようですね。」
『骸、ごめんね…さっき犬ちゃんが……』
「ええ、何となく察せました。遊びに来た彼らを、一人で迎撃しに行ったようで。」
骸がそう言うと、千種は体を震わせてベッドから降りようとする。
『あ、まだダメ。傷が開いちゃうから。』
檸檬はぎゅっと千種の手を握った。
「大丈夫ですよ、我々の援軍も到着しましたから。」
.骸に言われ、千種と檸檬はドアの向こうを見る。
「………。」
『骸、この人たちは…?』
「あら?ニューフェイスがいるじゃない。ってか、千種は相変わらず無愛想ねー。」
その中で唯一の女子が言った。
骸が軽く紹介をする。
「彼女はかの有名なCRAZY DANCER…雨宮檸檬です。檸檬、あちらは僕らの昔の仲間ですよ。」
『初めまして。』
檸檬は軽くお辞儀をした。
が、千種は少しだけ嫌そうに口を開く。
「何しに来たの?」
その問いに、“仲間達”は順番に答える。
「仕事に決まってんじゃない。」
「答える必要はない。」
「スリルを欲してですよ。」
『(あの人って…確か……)』
骸のかつての仲間のうち一人のことを、見覚えがあるように感じた檸檬。
しかし、その名前はおろか何処で知ったのかさえもよく思い出せない。
すると、ドアの向こうに居た女子が檸檬にコツコツと歩み寄って来た。
そして、檸檬の目の前でしゃがみ、じーっと顔を見る。
「へぇー……あなたがあのCRAZY DANCERなの。」
『うん、アメリカではそう呼ばれてた。』
「なかなか良い目してるじゃない。宜しく、私はM・Mよ。」
『こちらこそ。』
右手を差し出された檸檬は、右手でそれを握った。
「とにかく、千種は休んで下さい。ボンゴレの首は彼らに任せましょう。」
千種はゆっくりと頷いた。
「分かりました。」
千種の返事を聞くと、骸はくるりと方向転換をする。
「ではM・M、そろそろいいですか?」
「OK。じゃ、ちょっと行って来るね。檸檬、後でアメリカの話聞かせてちょーだい。私、一回豪遊してみたいのよねー。」
『勿論!』
檸檬は軽く手を振ってM・Mを見送った。
それが、彼女の姿を見る最後だとも知らずに……。
『あたし、何か飲み物いれてくる。』
「おや、気を遣わなくてもいいですよ?」
『せっかく千種が起きたから…ね。』
「…ありがとう。」
紅茶を6人分用意する。
その間、あたしはボーッとこれからのことを考えていた。
あたしは…一人になった。
これから先、たった一人で生きていく道を選んだ。
振り返らないと決めた。
それなのに、どうしてだろう。
マフィアと関わるまでは一人だったハズなのに、
どうしてこんなに寂しくて、不安になっちゃうんだろう。
あの温かさは、当たり前じゃなかった。
たったそれだけのこと。
あたしには……誰もいなかった。
たった…それだけの、こと。
『(あ、そうだ…)』
まだちゃんと、決別してなかった。
だから迷ってるんじゃないかな。
きっとそうだ、だったら、やることは一つだね。
『お待たせ。』
一人ひとりに紅茶を配って、部屋を出る。
骸に「どちらへ?」と聞かれたから、「ケリをつけに行くの」と笑った。
階段を下って、下って、まっさらな壁の前へ。
知っていた、骸がこの壁の向こうに“彼”を閉じ込めていること。
「…誰。」
その声は、やっぱりあたしを揺さぶった。
一人が嫌だと思う気持ちを、再び呼び起こす。
『言いたいことがあるの。』
だからこそ、あたしは決別する。
一人で生きていくために、
一人で強くあるために、
今までの日々は、ここで捨てる。
「檸檬?」
『呼ばないでって、言ったでしょ。』
もう、いらない。
全部、いらない。
あたしには…自分の命を護る力があればいい。
「…じゃあどうして来たの。」
『弱い自分と別れるために。』
「ふぅん…そう…」
『さようなら。』
壁の向こうの彼にではなく、あたし自身にそう告げた。
彼らと笑い合っていた、能天気な自分に。
そしてあたしは、階段を上がって骸のいる部屋へ引き返した。
寂しくはなかった。
哀しくもなかった。
ただ、胸の中の温度が急激に下がって、
やたらと寒く感じていた。
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「…本当に、バカだね。」
檸檬は、ただ「さようなら」と言うためだけにここに来た。
六道骸が、恐らくあそこまで檸檬を追いこんだんだ。
一人で生きていくつもりなんだね、檸檬。
誰も信じない、昔の君に戻るつもり…?
そんなこと、僕が許すと思ってるのかな。
僕は…決めたんだよ、檸檬。
君の傍にいるって。
---『護りたい。助けたい。それが出来なくなったら…空っぽになっちゃう…』
そう言ってた君は今、自分から空っぽになろうとしてるんだ。
これまで築いた関係性を、全て捨てる覚悟をしたようだね。
けどね、檸檬…
君が捨てる覚悟をしても、僕が捨てなければ、関わりは残るんだよ。
それに…
「(あんなに、弱々しく震えた声で……説得力なんてあるワケない…)」
君は気付いてないんだね、
関係性を断とうと、一人になろうとして、
自分自身が一番、弱り傷ついていることに。
「取り戻しに行くよ、君を。」
そのためには、早くここから出なくちゃね。