黒曜編
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あたしの選択は、間違ってないよね?
これが最善策なんだよね?
ごめんね、みんな…
もう、何も信じられないよ。
脱獄囚
シュルルル…
ぱしっ、
「早く済まそう。」
目の前にいる千種が自分の命を狙っているというのに、ツナは恐怖で動けなかった。
無情にも、ヘッジホッグが放たれる。
「うわああ!…………い"っ!?」
ツナを狙っていた針は、商店街の地面に刺さる。
何かに引きずられたツナは、ズザーッと音を立てながら命拾いをした。
「フーッ、」
「や、山本ぉ!」
そこには、学校で授業を受けているはずのクラスメイトが。
「結局、学校半日で終わってさ。通りかかったら並中生が喧嘩してるっつーだろ?獄寺かと思ってよ。」
「そーだ!獄寺君が!!」
「あぁ、分かってる…」
山本の声のトーンが落ちる。
「こいつぁ……おだやかじゃねーな。」
滅多に怒らない山本の普段と違うオーラを見て、ツナは少し驚いた。
と、その時。
『待って…!!』
ここ最近聞かなかった声が、辺りに響いた。
「(この声……!)」
場にいる全員がその声に反応し、動きを止める。
次の瞬間、その場に現れたのは……
間違いなく、檸檬だった。
「檸檬…!よ、良かった!!」
その強さを知っているツナは、檸檬の登場に安堵した。
この危機的状況を、打破してくれるのだと。
しかし、そこから先の展開に思考を停止することになる。
『な、何でこんな……』
血まみれになった千種と獄寺を交互に見て、檸檬はグッと拳を握った。
『大丈夫?千種…』
「えっ…?」
「お、おい、檸檬?」
千種の方に駆け寄った檸檬に、ツナと山本は困惑する。
「な、何で!?どーゆーこと!?」
「檸檬っ、そいつは獄寺を…!!」
『うるさいな……』
「ひえっ…!」
檸檬がツナ達に向けた視線は、いつか見た、敵を見つめる冷たい瞳。
ただ、ツナも山本もその殺気に怯えると言うより驚かされた。
「檸檬、一体……」
ツナが呼びかけようとした、次の瞬間。
グラッ、
『千種!』
深手を負ったせいで倒れ込んだ千種を、檸檬は咄嗟に支えた。
「動くの……めんどい…」
『千種、しっかりして!千種っ!』
『ごめんね、あたしがもう少し早く来てれば……』
「別に…」
『肩、貸すね。』
檸檬は千種に肩を貸し、歩き出す。
その途端、山本が立ち上がった。
「檸檬っ!待てよ!!」
檸檬の肩を掴もうとしたその時。
ヒュッ、
ドカッ!
「ぐわっ!」
檸檬は山本の腹部に回し蹴りを食らわせた。
山本はツナが立っている所まで吹っ飛ぶ。
「山本!!な、何で!?檸檬、どうしたんだよっ!?」
『“どうして”…?そんなのっ……あたしが聞きたいくらいよ…!』
「え?」
『…さよなら、ボンゴレ10代目候補さん。』
足が竦むツナと、呆然とする山本、怪我で気を失っている獄寺を残し、檸檬は千種と商店街から去っていった。
「はっ!獄寺君、大丈夫!?」
「しっかりしろ!獄寺!?」
---
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------------
『千種、もうちょっとだよ。』
「疲れた…」
千種の体力が無くなって来ている為、檸檬の負担も大きくなって来ていた。
『(剛腕使って持ち上げちゃおうかな…)』
そんなことを考えていると、遠くから呼ぶ声がした。
「柿ピー!檸檬!」
『犬ちゃんっ!』
チーターチャンネルの犬が、走ってやって来たのだ。
「迎えに来たびょん♪」
『あ、ありがとう!』
犬はコングチャンネルを使って檸檬と千種をアジトまで運んだ。
「骸さ~ん、ただいま帰ったびょん。」
「おや?当たりが出ましたね。」
ぼろぼろの千種を見て、骸は少し口角を上げる。
『骸、あたし、千種の手当を…』
「檸檬、それは犬に任せます。ちょっとこちらへ。」
骸が手招きをする。檸檬は首をかしげながら隣に座った。
『なぁに?骸。』
「檸檬、大丈夫でしたか?」
『あ……うん、何とか。』
口ではそう言ったものの、俯く檸檬。
骸は「ふぅ」とため息を一つついた。
「つらかったでしょう…」
返事はせず、小さく頷く。
骸は優しく檸檬の頭を撫でた。
突然の感触に、檸檬はぴくっと肩を震わせる。
「すみません、撫でられるのは嫌いでしたか?」
『ううん、そうじゃなくて……』
檸檬は軽く拳を握り、目を細めた。
『あたし……このままじゃ、骸たちに依存しちゃう…。そう思ったら、怖くて……また、弱くなるのは嫌だから…』
「檸檬が僕らに依存することなど、ありませんよ。」
『…どうして?』
「君はきっと、自由奔放な人間だ。僕の手には負えないくらいにね。」
骸がそう言って微笑し、檸檬もつられるように微笑んだ。
『骸は、不思議だね。』
「何がです?」
『あたしは一人でいた方が強くなれるってアドバイスしてくれたのに……こうして、傍にもいてくれるんだもん。』
その言葉に、骸は檸檬の頭を撫でる手を止めた。
「矛盾してますね、確かに。おかしいと思いますか?」
『ううん、骸は優しいなって思うよ。』
「……では一つ、忠告しておきましょう。」
『なに?』
純粋な、何も知らない瞳で首を傾げる檸檬に、骸は静かに告げた。
「あまり……僕を信用しない方がいい。僕は良い人間ではありませんから。」
『…分かった、覚えておく。だけどね、骸、』
骸と向かい合うように座り直し、檸檬は真っ直ぐな瞳を向けた。
『あたし、骸に出会えて良かったと思ってるよ。その気持ちは絶対に、揺るがない。』
「檸檬…」
『だって、ボンゴレをつぶすなら一緒にあたしを消しても良かったハズなのに、骸はあたしを助けてくれた。』
「…それは、単なる同情だと言ったハズです。」
『それでもあたしは……嬉しかった。』
何て愚かな少女だろう、そう思った。
うまく僕の手中におさめられたことにも気付かず、僕にこんな風に笑いかけるなんて。
アメリカで最強と謳われた少女、“CRAZY DANCER”……
だが、深く刻まれた心の傷を一突きしただけで、彼女は簡単に壊れた。
仲間への絶対的な信頼も、ファミリーへの忠誠も捨て、
こうして僕の隣に留まった。
マフィアとして括らず殺さなかったのは…
単なる気まぐれ、面白い人間だと思ったから……
本当に、それだけですよ、檸檬…。
「さて、我々の援軍を呼ばなければなりません。檸檬、犬と一緒に千種に付いていてくれませんか?」
『うん、分かった。』
奥の部屋へと駆けて行く檸檬を、僕は無言で見送った。
---
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ガチャ、
『千種、どう?』
「黒焦げ、血まみれ、意識無しだびょん。」
『そっか…』
檸檬は犬の隣に座って、肩をすぼめた。
『あたしが…もっと早く到着出来れば……』
「檸檬のせいじゃねぇびょん。」
『でも…』
泣きそうになる檸檬の頭を、犬は優しく撫でる。
『犬ちゃん…』
「檸檬、柿ピーはきっと起きるびょん。だから、そんな顔しないでくらさい。」
しかし、檸檬が瞬きをするたびに、その目は潤んでいく。
それに気付いた犬は、檸檬の目に少しかかる長めの前髪を整え、きゅっと抱きしめた。
---
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その頃、並盛中保健室にて。
病院は危険だというリボーンの意見により、獄寺はそこに運ばれていた。
それに不満を持ちながら、看病をすると言い張るビアンキ。
そんな中ツナは、酷い自己嫌悪に陥っていた。
「あ~~~、俺バカだ~~!!何で行ったかな~~!!?行かなきゃ良かった~~!!」
「ちゃおっス。」
「何だこりゃーーー!!?」
「レオンがやっと静まって繭になったぞ。」
レオンは、スライム状になって廊下の天井にべったりとくっついていた。
「お前、何してたんだよー!!」
「イタリアで起きた集団脱獄について調べてたんだ。」
リボーンは、ディーノから聞いた情報をツナに教えた。
イタリアの監獄で脱獄事件が起きた事。
その主犯であるムクロという名の少年が日本に渡った事。
10日前、黒曜中に3人の帰国子女が転入し、不良の頂点に立った事。
その少年の名が、六道骸だという事。
「それって、何気に相手がマフィアだって言ってんのか!?」
「逆だぞ。奴らは、マフィアを追放されたんだ。」
「追放…? ってか、俺どうなっちゃうのー!?」
「骸達を倒すしかねーな。」
「か、勝てるワケねーだろー!!?」
「出来なくてもやんねーとなんなくなって来たぞ。」
「はあ?!」
リボーンは、9代目から届いたという手紙を読んだ。
---「親愛なるボンゴレ10代目、君の成長ぶりはそこにいる家庭教師から聞いてるよ。
さて、君も歴代ボスがしてきたように、次のステップを踏み出す時が来た。
君に、ボンゴレの最高責任者として指令を言い渡す。
12時間以内に六道骸以下脱獄囚を捕獲、捕らえられた人質を救出せよ。
幸運を祈る。 9代目」
「ちょっ、何だよこれーーー!!」
「追伸、成功した暁には、トマト100年分を送ろう。」
「いらねーよ!!俺には関係ないんだ!」
ツナは病院を飛び出した。
そうだ、俺は関係ない。
関係ないんだ。
だけど……
たった1つだけ気掛かりな事が…
「檸檬……」
「檸檬がどーかしたのか?」
「わっ、リボーン!!」
ふと横の塀を見れば、リボーンが座っていた。
「街はもう安全じゃねーんだ。お前がボスだって事もバレてるしな。」
「ひいいい、そーだったー!!」
「ところで、檸檬がどーしたんだ?会ったのか?」
「う、うん……」
俯くツナを見て、リボーンは問いただした。
「檸檬は何してた?」
「変だったんだ…。商店街で俺達に会ったのに、黒曜の人の心配して……なんか、絶交されたような感じだった…。」
「そうか…」
リボーンは、数秒の間何か考え込む。
「なぁリボーン、檸檬はどうしちゃったんだ?」
「さぁな。」
「さぁなって……」
「でもこれだけは確かだ。」
「へ?」
「さっきツナに伝えた情報、檸檬は数日前にディーノから聞き出してる。」
「それって…!」
「知ってたって事だ。」
「じゃぁ、どーして…?」
ツナとリボーンの間に、沈黙が流れた。
「やっぱり、行って確かめるしかないな。」
「そ、そんな…」
「それしか方法はねーぞ。」
リボーンに言葉を遮られ、俯くツナ。
「そりゃぁ俺だって、奴らのやり方おかしいと思うし、檸檬の事も心配だよ。だけど、あの雲雀さんも帰ってないんだぞ……それなのに……」
と、そこに。
「お!いたいた。俺も連れてって下さい!」
「え…獄寺君!!」
さっきまで怪我をして保健室で寝ていた獄寺が、振り向いた先に立っていた。
「俺も行くぜ、ツナ!今回の事はチビに聞いた。学校対抗のマフィアごっこだって?」
「(騙されてるよ、山本ーーー!!)」
「私も行くわ!」
また違う声がして、3人で振り向く。
「隼人が心配だもの。」
「ビアンキ!」
「ほげーっ!!」
途端に獄寺は倒れる。
「(逆効果だしーっ!!)」
「よし。敵地に乗り込むメンツは揃ったな。」
リボーンが言う。
「嘘ー!ちょっと待ってよ!勝手に揃っちゃってる!」
ツナの盛大なツッコミは無視された。
===============
その頃、黒曜ランド。
『犬、ちゃん…?』
「俺、柿ピーのこと、許さねーびょん。」
『何で?』
「檸檬に心配掛けやがるからだびょん!」
犬の言葉を聞き、檸檬はぽかんとする。
『…そうだね、あたしが落ち込んでても何にもなんないよね。』
「元気になったれすか?」
『うんっ♪』
犬の腕の中で檸檬が小さく頷いても、犬はその腕を解かなかった。
「なら、良かったびょん…」
『犬ちゃん…?』
「檸檬、俺……檸檬の事大好きなんれす…///」
一瞬だけ目を見開いた檸檬は、柔らかい笑みを見せた。
『ありがとう。あたしも、犬ちゃんのこと大好きだよー♪』
そう言って檸檬は、犬の背中を摩った。
「じゃぁ…もう少しだけ、こうしてて良いれすか?」
『うん、いーよ♪』
「檸檬、あったかいれす…」
『そっかなー?犬ちゃんの方があったかいと思うよ?』
檸檬はそう言って笑ったけど、
そのあったかさに俺がかなうワケねーんだ。
初めて会った時から真直ぐで、凛としてて、誰よりも強くて。
あくまで俺たちに危害は加えまいとしてた檸檬の姿に、
きっと俺たちは、心を奪われちまってたんれす。
「檸檬…」
『ん?』
「俺は、ずっとずっとずーっと!檸檬の味方れす!檸檬を泣かすヤツは、許さねーびょん!!」
『ずっと………うん、ありがとう。あたしも、犬ちゃんの味方で…いたいな…』
檸檬の口から返されるのは、曖昧な言葉だけ。
骸さんが言ってた。
“檸檬をボンゴレの戦力にしないために、孤立してもらう”って。
その作戦は上手く進んで、檸檬は今こうして自分で心の壁を作ってる。
誰に対しても。
だから、俺らは檸檬の“友達”にも“仲間”にもなれないんだってこと、
俺だって、そんぐらい分かってんら。
分かってるけど……
『犬ちゃん?』
「な、何でもないれすよ!」
『そう…?』
…分かってるけど、少し寂しいんだびょん。
---
-----
数日前。
---「お前、誰だびょん。」
---『並盛中の風紀委員だよ♪』
---「何しに来たびょん。」
---『大切な仲間を取り戻す為に。そこ、通してよ。』
ふわっと舞い上がった檸檬は、
キレイでキレイで、見愡れた。
---「って、待つびょん!」
---『それは無理!この奥にいるんでしょう?フゥ太君は。』
俺はチーターチャンネルを発動したけど、檸檬はすぐにその性質を見破った。
---『チーターって、1分と持たないんだよね?』
---「う、うるへー!!」
---『大丈夫、あなたに怪我はさせないから。』
物凄い速さで走りながら、交わされる会話。
いつしかそれを、心地いいと思い始めていた。
---「何してるの?犬。」
---「柿ピー!」
---「侵入者、入れてんじゃん。」
---『あら、もう1人いたの?』
それでも走るのをやめない檸檬。
チーターの性質で、長時間トップスピードを保ってられない俺は、仕方なく走るのをやめる。
---「あの人、真直ぐ骸様のトコに向かってる。」
---「分かってるびょん!けど、あれは人間の速さじゃねぇびょん。」
---「あーあ、めんどいなぁ。」
そう言いつつ骸さんのトコに向かう柿ピーを、俺も追った。
骸さんが危ないって思ったけど、
檸檬は、骸さんと戦っていなかった。
---『貴方達に危害は一切加えないわ。だから、フゥ太君を返して欲しいの。』
---「それは無理な相談ですねぇ。」
---「追い付いたびょん!!」
---「骸様、侵入を許してしまい、すいません。」
俺達が奥の部屋に入ると、檸檬は驚いた顔をした。
---『もう着いちゃったんだ…』
その後見せた不敵な笑み、今も忘れない。
その後、俺の色んなチャンネルと柿ピーのヘッジホッグで攻撃したけど、1個も当たらなかった。
檸檬は、キレイにキレイに踊ってた。
俺達の攻撃を避けながら、檸檬は訴え続ける。
---『お願い、フゥ太君を返して!』
けど、戦いは激しくなるばかりで、
でも、檸檬は決して俺達に反撃しようとしないで。
そうしているうちに、俺が傷を付けたりした壁が、崩れそうになった。
---「げっ。」
その真下にいたのは、柿ピー。
---「柿ピー!」
俺が助けに行こうとしたその時。
シュッ、
檸檬のナイフが、柿ピーの足下に向かって飛んだ。
柿ピーがヒョイッと避けた次の瞬間、壁は完全に倒壊した。
---「君は…何をしてるんですか?今のはわざと外したでしょう。」
骸さんが聞いた。
---『最初に言ったよね。あたしは危害は加えないって。だから、あたしがいるせいで貴方達が怪我するなんて事、なって欲しくないの。』
俺は吃驚して、一瞬動きを止めちまった。
だってその時、檸檬が笑ったから。
柿ピーが無事で良かった、って言ってるみたいに。
でも次の瞬間、柿ピーのヘッジホッグの針が、数本だけ檸檬に刺さった。
途端に骸さんも柿ピーも攻撃をやめる。
だってその針、毒がしこんであるし。
檸檬は針が刺さった腕をジッと見つめた。
---『何で攻撃止めるの?』
その口から放たれた言葉に驚いた。
---『あぁまさか、この程度の毒であたしが倒れるとでも思った?』
そう言いながら檸檬は、刺さった針を抜いて、ペロリと舐めた。
その瞬間だった。
俺らは、檸檬に魅了されて、
ボンゴレなんかと一緒に殺るの勿体ねーって思っちまったんだ。
だから引き剥がした。
骸さんが、檸檬のこと混乱させて。
“友達”にも“仲間”にもなれない。
けど、今はそれでいい。
檸檬が俺らを好きだって言ってくれるから…
もう、それでいーんだびょん。
これが最善策なんだよね?
ごめんね、みんな…
もう、何も信じられないよ。
脱獄囚
シュルルル…
ぱしっ、
「早く済まそう。」
目の前にいる千種が自分の命を狙っているというのに、ツナは恐怖で動けなかった。
無情にも、ヘッジホッグが放たれる。
「うわああ!…………い"っ!?」
ツナを狙っていた針は、商店街の地面に刺さる。
何かに引きずられたツナは、ズザーッと音を立てながら命拾いをした。
「フーッ、」
「や、山本ぉ!」
そこには、学校で授業を受けているはずのクラスメイトが。
「結局、学校半日で終わってさ。通りかかったら並中生が喧嘩してるっつーだろ?獄寺かと思ってよ。」
「そーだ!獄寺君が!!」
「あぁ、分かってる…」
山本の声のトーンが落ちる。
「こいつぁ……おだやかじゃねーな。」
滅多に怒らない山本の普段と違うオーラを見て、ツナは少し驚いた。
と、その時。
『待って…!!』
ここ最近聞かなかった声が、辺りに響いた。
「(この声……!)」
場にいる全員がその声に反応し、動きを止める。
次の瞬間、その場に現れたのは……
間違いなく、檸檬だった。
「檸檬…!よ、良かった!!」
その強さを知っているツナは、檸檬の登場に安堵した。
この危機的状況を、打破してくれるのだと。
しかし、そこから先の展開に思考を停止することになる。
『な、何でこんな……』
血まみれになった千種と獄寺を交互に見て、檸檬はグッと拳を握った。
『大丈夫?千種…』
「えっ…?」
「お、おい、檸檬?」
千種の方に駆け寄った檸檬に、ツナと山本は困惑する。
「な、何で!?どーゆーこと!?」
「檸檬っ、そいつは獄寺を…!!」
『うるさいな……』
「ひえっ…!」
檸檬がツナ達に向けた視線は、いつか見た、敵を見つめる冷たい瞳。
ただ、ツナも山本もその殺気に怯えると言うより驚かされた。
「檸檬、一体……」
ツナが呼びかけようとした、次の瞬間。
グラッ、
『千種!』
深手を負ったせいで倒れ込んだ千種を、檸檬は咄嗟に支えた。
「動くの……めんどい…」
『千種、しっかりして!千種っ!』
『ごめんね、あたしがもう少し早く来てれば……』
「別に…」
『肩、貸すね。』
檸檬は千種に肩を貸し、歩き出す。
その途端、山本が立ち上がった。
「檸檬っ!待てよ!!」
檸檬の肩を掴もうとしたその時。
ヒュッ、
ドカッ!
「ぐわっ!」
檸檬は山本の腹部に回し蹴りを食らわせた。
山本はツナが立っている所まで吹っ飛ぶ。
「山本!!な、何で!?檸檬、どうしたんだよっ!?」
『“どうして”…?そんなのっ……あたしが聞きたいくらいよ…!』
「え?」
『…さよなら、ボンゴレ10代目候補さん。』
足が竦むツナと、呆然とする山本、怪我で気を失っている獄寺を残し、檸檬は千種と商店街から去っていった。
「はっ!獄寺君、大丈夫!?」
「しっかりしろ!獄寺!?」
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『千種、もうちょっとだよ。』
「疲れた…」
千種の体力が無くなって来ている為、檸檬の負担も大きくなって来ていた。
『(剛腕使って持ち上げちゃおうかな…)』
そんなことを考えていると、遠くから呼ぶ声がした。
「柿ピー!檸檬!」
『犬ちゃんっ!』
チーターチャンネルの犬が、走ってやって来たのだ。
「迎えに来たびょん♪」
『あ、ありがとう!』
犬はコングチャンネルを使って檸檬と千種をアジトまで運んだ。
「骸さ~ん、ただいま帰ったびょん。」
「おや?当たりが出ましたね。」
ぼろぼろの千種を見て、骸は少し口角を上げる。
『骸、あたし、千種の手当を…』
「檸檬、それは犬に任せます。ちょっとこちらへ。」
骸が手招きをする。檸檬は首をかしげながら隣に座った。
『なぁに?骸。』
「檸檬、大丈夫でしたか?」
『あ……うん、何とか。』
口ではそう言ったものの、俯く檸檬。
骸は「ふぅ」とため息を一つついた。
「つらかったでしょう…」
返事はせず、小さく頷く。
骸は優しく檸檬の頭を撫でた。
突然の感触に、檸檬はぴくっと肩を震わせる。
「すみません、撫でられるのは嫌いでしたか?」
『ううん、そうじゃなくて……』
檸檬は軽く拳を握り、目を細めた。
『あたし……このままじゃ、骸たちに依存しちゃう…。そう思ったら、怖くて……また、弱くなるのは嫌だから…』
「檸檬が僕らに依存することなど、ありませんよ。」
『…どうして?』
「君はきっと、自由奔放な人間だ。僕の手には負えないくらいにね。」
骸がそう言って微笑し、檸檬もつられるように微笑んだ。
『骸は、不思議だね。』
「何がです?」
『あたしは一人でいた方が強くなれるってアドバイスしてくれたのに……こうして、傍にもいてくれるんだもん。』
その言葉に、骸は檸檬の頭を撫でる手を止めた。
「矛盾してますね、確かに。おかしいと思いますか?」
『ううん、骸は優しいなって思うよ。』
「……では一つ、忠告しておきましょう。」
『なに?』
純粋な、何も知らない瞳で首を傾げる檸檬に、骸は静かに告げた。
「あまり……僕を信用しない方がいい。僕は良い人間ではありませんから。」
『…分かった、覚えておく。だけどね、骸、』
骸と向かい合うように座り直し、檸檬は真っ直ぐな瞳を向けた。
『あたし、骸に出会えて良かったと思ってるよ。その気持ちは絶対に、揺るがない。』
「檸檬…」
『だって、ボンゴレをつぶすなら一緒にあたしを消しても良かったハズなのに、骸はあたしを助けてくれた。』
「…それは、単なる同情だと言ったハズです。」
『それでもあたしは……嬉しかった。』
何て愚かな少女だろう、そう思った。
うまく僕の手中におさめられたことにも気付かず、僕にこんな風に笑いかけるなんて。
アメリカで最強と謳われた少女、“CRAZY DANCER”……
だが、深く刻まれた心の傷を一突きしただけで、彼女は簡単に壊れた。
仲間への絶対的な信頼も、ファミリーへの忠誠も捨て、
こうして僕の隣に留まった。
マフィアとして括らず殺さなかったのは…
単なる気まぐれ、面白い人間だと思ったから……
本当に、それだけですよ、檸檬…。
「さて、我々の援軍を呼ばなければなりません。檸檬、犬と一緒に千種に付いていてくれませんか?」
『うん、分かった。』
奥の部屋へと駆けて行く檸檬を、僕は無言で見送った。
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ガチャ、
『千種、どう?』
「黒焦げ、血まみれ、意識無しだびょん。」
『そっか…』
檸檬は犬の隣に座って、肩をすぼめた。
『あたしが…もっと早く到着出来れば……』
「檸檬のせいじゃねぇびょん。」
『でも…』
泣きそうになる檸檬の頭を、犬は優しく撫でる。
『犬ちゃん…』
「檸檬、柿ピーはきっと起きるびょん。だから、そんな顔しないでくらさい。」
しかし、檸檬が瞬きをするたびに、その目は潤んでいく。
それに気付いた犬は、檸檬の目に少しかかる長めの前髪を整え、きゅっと抱きしめた。
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その頃、並盛中保健室にて。
病院は危険だというリボーンの意見により、獄寺はそこに運ばれていた。
それに不満を持ちながら、看病をすると言い張るビアンキ。
そんな中ツナは、酷い自己嫌悪に陥っていた。
「あ~~~、俺バカだ~~!!何で行ったかな~~!!?行かなきゃ良かった~~!!」
「ちゃおっス。」
「何だこりゃーーー!!?」
「レオンがやっと静まって繭になったぞ。」
レオンは、スライム状になって廊下の天井にべったりとくっついていた。
「お前、何してたんだよー!!」
「イタリアで起きた集団脱獄について調べてたんだ。」
リボーンは、ディーノから聞いた情報をツナに教えた。
イタリアの監獄で脱獄事件が起きた事。
その主犯であるムクロという名の少年が日本に渡った事。
10日前、黒曜中に3人の帰国子女が転入し、不良の頂点に立った事。
その少年の名が、六道骸だという事。
「それって、何気に相手がマフィアだって言ってんのか!?」
「逆だぞ。奴らは、マフィアを追放されたんだ。」
「追放…? ってか、俺どうなっちゃうのー!?」
「骸達を倒すしかねーな。」
「か、勝てるワケねーだろー!!?」
「出来なくてもやんねーとなんなくなって来たぞ。」
「はあ?!」
リボーンは、9代目から届いたという手紙を読んだ。
---「親愛なるボンゴレ10代目、君の成長ぶりはそこにいる家庭教師から聞いてるよ。
さて、君も歴代ボスがしてきたように、次のステップを踏み出す時が来た。
君に、ボンゴレの最高責任者として指令を言い渡す。
12時間以内に六道骸以下脱獄囚を捕獲、捕らえられた人質を救出せよ。
幸運を祈る。 9代目」
「ちょっ、何だよこれーーー!!」
「追伸、成功した暁には、トマト100年分を送ろう。」
「いらねーよ!!俺には関係ないんだ!」
ツナは病院を飛び出した。
そうだ、俺は関係ない。
関係ないんだ。
だけど……
たった1つだけ気掛かりな事が…
「檸檬……」
「檸檬がどーかしたのか?」
「わっ、リボーン!!」
ふと横の塀を見れば、リボーンが座っていた。
「街はもう安全じゃねーんだ。お前がボスだって事もバレてるしな。」
「ひいいい、そーだったー!!」
「ところで、檸檬がどーしたんだ?会ったのか?」
「う、うん……」
俯くツナを見て、リボーンは問いただした。
「檸檬は何してた?」
「変だったんだ…。商店街で俺達に会ったのに、黒曜の人の心配して……なんか、絶交されたような感じだった…。」
「そうか…」
リボーンは、数秒の間何か考え込む。
「なぁリボーン、檸檬はどうしちゃったんだ?」
「さぁな。」
「さぁなって……」
「でもこれだけは確かだ。」
「へ?」
「さっきツナに伝えた情報、檸檬は数日前にディーノから聞き出してる。」
「それって…!」
「知ってたって事だ。」
「じゃぁ、どーして…?」
ツナとリボーンの間に、沈黙が流れた。
「やっぱり、行って確かめるしかないな。」
「そ、そんな…」
「それしか方法はねーぞ。」
リボーンに言葉を遮られ、俯くツナ。
「そりゃぁ俺だって、奴らのやり方おかしいと思うし、檸檬の事も心配だよ。だけど、あの雲雀さんも帰ってないんだぞ……それなのに……」
と、そこに。
「お!いたいた。俺も連れてって下さい!」
「え…獄寺君!!」
さっきまで怪我をして保健室で寝ていた獄寺が、振り向いた先に立っていた。
「俺も行くぜ、ツナ!今回の事はチビに聞いた。学校対抗のマフィアごっこだって?」
「(騙されてるよ、山本ーーー!!)」
「私も行くわ!」
また違う声がして、3人で振り向く。
「隼人が心配だもの。」
「ビアンキ!」
「ほげーっ!!」
途端に獄寺は倒れる。
「(逆効果だしーっ!!)」
「よし。敵地に乗り込むメンツは揃ったな。」
リボーンが言う。
「嘘ー!ちょっと待ってよ!勝手に揃っちゃってる!」
ツナの盛大なツッコミは無視された。
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その頃、黒曜ランド。
『犬、ちゃん…?』
「俺、柿ピーのこと、許さねーびょん。」
『何で?』
「檸檬に心配掛けやがるからだびょん!」
犬の言葉を聞き、檸檬はぽかんとする。
『…そうだね、あたしが落ち込んでても何にもなんないよね。』
「元気になったれすか?」
『うんっ♪』
犬の腕の中で檸檬が小さく頷いても、犬はその腕を解かなかった。
「なら、良かったびょん…」
『犬ちゃん…?』
「檸檬、俺……檸檬の事大好きなんれす…///」
一瞬だけ目を見開いた檸檬は、柔らかい笑みを見せた。
『ありがとう。あたしも、犬ちゃんのこと大好きだよー♪』
そう言って檸檬は、犬の背中を摩った。
「じゃぁ…もう少しだけ、こうしてて良いれすか?」
『うん、いーよ♪』
「檸檬、あったかいれす…」
『そっかなー?犬ちゃんの方があったかいと思うよ?』
檸檬はそう言って笑ったけど、
そのあったかさに俺がかなうワケねーんだ。
初めて会った時から真直ぐで、凛としてて、誰よりも強くて。
あくまで俺たちに危害は加えまいとしてた檸檬の姿に、
きっと俺たちは、心を奪われちまってたんれす。
「檸檬…」
『ん?』
「俺は、ずっとずっとずーっと!檸檬の味方れす!檸檬を泣かすヤツは、許さねーびょん!!」
『ずっと………うん、ありがとう。あたしも、犬ちゃんの味方で…いたいな…』
檸檬の口から返されるのは、曖昧な言葉だけ。
骸さんが言ってた。
“檸檬をボンゴレの戦力にしないために、孤立してもらう”って。
その作戦は上手く進んで、檸檬は今こうして自分で心の壁を作ってる。
誰に対しても。
だから、俺らは檸檬の“友達”にも“仲間”にもなれないんだってこと、
俺だって、そんぐらい分かってんら。
分かってるけど……
『犬ちゃん?』
「な、何でもないれすよ!」
『そう…?』
…分かってるけど、少し寂しいんだびょん。
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数日前。
---「お前、誰だびょん。」
---『並盛中の風紀委員だよ♪』
---「何しに来たびょん。」
---『大切な仲間を取り戻す為に。そこ、通してよ。』
ふわっと舞い上がった檸檬は、
キレイでキレイで、見愡れた。
---「って、待つびょん!」
---『それは無理!この奥にいるんでしょう?フゥ太君は。』
俺はチーターチャンネルを発動したけど、檸檬はすぐにその性質を見破った。
---『チーターって、1分と持たないんだよね?』
---「う、うるへー!!」
---『大丈夫、あなたに怪我はさせないから。』
物凄い速さで走りながら、交わされる会話。
いつしかそれを、心地いいと思い始めていた。
---「何してるの?犬。」
---「柿ピー!」
---「侵入者、入れてんじゃん。」
---『あら、もう1人いたの?』
それでも走るのをやめない檸檬。
チーターの性質で、長時間トップスピードを保ってられない俺は、仕方なく走るのをやめる。
---「あの人、真直ぐ骸様のトコに向かってる。」
---「分かってるびょん!けど、あれは人間の速さじゃねぇびょん。」
---「あーあ、めんどいなぁ。」
そう言いつつ骸さんのトコに向かう柿ピーを、俺も追った。
骸さんが危ないって思ったけど、
檸檬は、骸さんと戦っていなかった。
---『貴方達に危害は一切加えないわ。だから、フゥ太君を返して欲しいの。』
---「それは無理な相談ですねぇ。」
---「追い付いたびょん!!」
---「骸様、侵入を許してしまい、すいません。」
俺達が奥の部屋に入ると、檸檬は驚いた顔をした。
---『もう着いちゃったんだ…』
その後見せた不敵な笑み、今も忘れない。
その後、俺の色んなチャンネルと柿ピーのヘッジホッグで攻撃したけど、1個も当たらなかった。
檸檬は、キレイにキレイに踊ってた。
俺達の攻撃を避けながら、檸檬は訴え続ける。
---『お願い、フゥ太君を返して!』
けど、戦いは激しくなるばかりで、
でも、檸檬は決して俺達に反撃しようとしないで。
そうしているうちに、俺が傷を付けたりした壁が、崩れそうになった。
---「げっ。」
その真下にいたのは、柿ピー。
---「柿ピー!」
俺が助けに行こうとしたその時。
シュッ、
檸檬のナイフが、柿ピーの足下に向かって飛んだ。
柿ピーがヒョイッと避けた次の瞬間、壁は完全に倒壊した。
---「君は…何をしてるんですか?今のはわざと外したでしょう。」
骸さんが聞いた。
---『最初に言ったよね。あたしは危害は加えないって。だから、あたしがいるせいで貴方達が怪我するなんて事、なって欲しくないの。』
俺は吃驚して、一瞬動きを止めちまった。
だってその時、檸檬が笑ったから。
柿ピーが無事で良かった、って言ってるみたいに。
でも次の瞬間、柿ピーのヘッジホッグの針が、数本だけ檸檬に刺さった。
途端に骸さんも柿ピーも攻撃をやめる。
だってその針、毒がしこんであるし。
檸檬は針が刺さった腕をジッと見つめた。
---『何で攻撃止めるの?』
その口から放たれた言葉に驚いた。
---『あぁまさか、この程度の毒であたしが倒れるとでも思った?』
そう言いながら檸檬は、刺さった針を抜いて、ペロリと舐めた。
その瞬間だった。
俺らは、檸檬に魅了されて、
ボンゴレなんかと一緒に殺るの勿体ねーって思っちまったんだ。
だから引き剥がした。
骸さんが、檸檬のこと混乱させて。
“友達”にも“仲間”にもなれない。
けど、今はそれでいい。
檸檬が俺らを好きだって言ってくれるから…
もう、それでいーんだびょん。