日常編
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『やっと晴れたねぇ』
「そうだね」
しみじみと言う檸檬に素っ気無い返事を返すのは、風紀委員長様。
『最近ずーっと雨でさ、憂鬱だったんだ』
「ふぅん」
『だから今日は、屋上でお昼食べられて、とっても幸せ!』
雲雀が横目で檸檬を見れば、輝くように笑い、太陽の光を浴びる檸檬の姿が。
「そう」
思わず口角が上がる。
檸檬の綺麗な笑みを見るのは、実際久しぶりだった。
ここ最近の檸檬と言えば、『早く晴れないかなぁ』しか言わなかったのだ。
『それに、恭弥がいるからもっと幸せっ!』
そう言って照れくさそうに笑う檸檬。雲雀はその頭を優しく撫でる。
「……僕もだよ」
檸檬の髪は指通りがすごくいい。
撫でられる感触が心地いいのか、檸檬は頭を僕の肩に預けた。
「檸檬?」
『ぽかぽかで……寝そう』
「(ホント、無防備なんだから…)」
僕がため息を付けば、檸檬は飛び起きる。
『ごめんっ!このまま寝ちゃったら迷惑だよね』
ギュッと目をこすって、ブンブンと首を振る檸檬。
「(そうじゃなくて…)」
でも、燦々と降り注ぐ陽光には勝てないようで、またすぐに屋上に寝そべる。
『やぁーっぱり眠いや。ふぁ~あ』
大きな欠伸をする檸檬。その愛らしさに微笑み、僕も隣に寝そべる。
「僕も寝る」
『………そう?』
もう、相当眠いんだね。
「檸檬、今日は午後の授業、出なくていいよ」
『そんな、の…恭弥が決めちゃダメでしょ……?』
「いいんだよ、風紀委員長だから」
『ホ、ント…恭弥は……わ、がまま、王子………』
クーッ…
檸檬は眠りに落ちたようだった。
大きな瞳は、長い睫に閉ざされて。
陽光に照らされた肌は、いつもより白く映る。
黒髪からも、うっすら茶色が浮かんで見える。
それを見てるだけで、安心した。
「(でも、最後の言葉が“我が儘王子”だなんて、ちょっと気に食わないな)」
僕はしばらく檸檬の寝顔を見ている事にした。
けど、やっぱりそれだけじゃ収まらない。
「無防備な檸檬が悪いんだからね?」
僕はそうっと檸檬の上に跨がる。
上から見ると、ますます綺麗な寝顔だった。
顔にかかる髪の毛をそうっと掻き分けて、その唇に近付く。
起きる様子のない檸檬。
こんなに近くにいるのに、気付かないって事?
そうは思いたくなくて、一瞬躊躇ったけど、そのまま檸檬の唇に僕のを重ねた。
ゆっくりと。
やんわりと。
降り注ぐ陽光は、僕の体が遮って。
「(柔らかい…)」
あぁ僕は、こんなに檸檬が好きになってたんだ。
そう思って、何度も啄むように唇を重ねる。
『………んっ!?』
次の瞬間、檸檬は物凄い勢いで起き上がり、右手でスカートの下に常備している短刀を持った。
そんなに警戒する?
『なっ…何?今……』
辺りに僕以外がいない事を確認すると、檸檬は口元に触れて確かめた。
『変な感じ……』
触れただけじゃ起きなかったクセに。
啄んでから警戒するなんて、鈍感すぎるよ。
『恭弥、何かした??』
「……さぁ?」
『さぁ、って……な、何か変なもの食べさせようとした!?』
檸檬の想像は斜め下を行く。
「それは無いよ」
『……うーん、じゃあいいや。あー、吃驚した!』
そう言ってまた、僕の隣に寝転がった。
ホント…無防備。
「檸檬、」
『なぁに?』
「……好きだよ」
『えぇ!?』
檸檬が飛び起きた。
何?やっと意味を分かってくれた?
僕に独占される決心がついた?
『きょ、恭弥がそんな事言うなんてっ!!どしたの!?熱でもあるの!?』
「……………(はぁ)」
まだまだダメみたいだ。
どこまで鈍感なんだろう、檸檬は。
「熱なんて無い」
『ホントにホント!?じゃあ…どうして急に?』
「…いつも檸檬ばっかり言ってるから」
僕が適当に言い訳すれば、檸檬はそれを信じきって。
『あぁ、そうなの!ごめんね、何か一方的、みたいな?でも、あたしホントに恭弥の事大好きだよ♪だから恭弥が好きって言ってくれて嬉しいな~っ!』
これ、普通は恋人同士でする会話だよね?
檸檬に自覚は無いんだろうか。
「(あるワケないか)」
あったらとっくに口付けぐらい普通にしてるよ。
『ねぇ、恭弥』
再び寝転がった檸檬が、不意に話し掛ける。
「何?」
『恭弥はここにいて、幸せ?』
「急にどうしたの?」
『いいから』
今まではつまらなかったけど…
「(檸檬がいるから)幸せだよ」
『…そっか!』
僕の返事を聞くと、安心したように太陽に向かって笑う檸檬。
「檸檬は?」
『ん?』
「幸せなの?」
『うーんとねぇ……言い表せないくらい!!』
そう言って檸檬はぐーっと背伸びをした。
「そう言えば、どうして日本に留学して来たの?」
『(留学だって事にしてたんだっけ……)えっとねぇ、あたしの養い親が、ツナの側にいてくれって』
ツナ…あいつか。
気に食わない。
『でもね、それだけじゃない気がするの』
「どういうこと?」
『あたしは疎まれて育ったから、きっと日本で人の温かさを知るべきなんだと思うの。それが、養い親の望みであり、目的なんじゃないかなって』
檸檬は太陽に向かって話しているが、僕の目線は檸檬に向かっていた。
「………で?分かったの?」
『多分、ちょっとずつ。イタリアで分かった事と違う事も。きっと、そーゆーのがたくさん積み重なって、“あたし”っていう人物が出来ていくんだよね』
そう言って檸檬は綺麗に笑った。
そして僕はきっと、出来かけの君も、
出来上がった君も、好きになるんだろう……。
しばらくして、檸檬の寝息が聞こえて来た。
「檸檬?」
また無防備に寝て…。
僕は今度は優しく檸檬を抱きしめた。僕も寝るから、これくらい良いだろう。
「おやすみ、檸檬」
『きょ……や………』
「何?」
『くすぐったい……』
いつかと同じ寝言を言われ、可笑しさと愛しさが込み上げた。
「それくらい、いいでしょ」
聞こえてない事は分かってたけど、反論してみた。案の定檸檬は反応しなかった。
僕はクスリと笑って目を閉じた。
---
------
-----------
それまでとは違う風の音がした。
体が震えて、目を覚ます。
「檸檬…?」
『あ、起こしちゃった?ごめんね、恭弥』
そう言って笑った檸檬の目は、“あの瞳”だった。
『(何か……来る!!)』
「檸檬…?」
突如聞こえて来た、階段を登って来る音。
『この気配……』
「誰?」
檸檬の声が和らいだ。
敵ではないんだろう、檸檬にとっては。
ギィ、
ドアが開いた。
その人物を見るなり、檸檬は僕の腕をすり抜けた。
『ディーノっ!!』
初めて見た。
檸檬が、こんなに嬉しそうに他の奴に抱きついて、キスをする光景。
「よぉ、檸檬」
金髪のそいつは、きっと檸檬のイタリアの知り合い。
『いつ来たの?!何で来たの!?』
僕の事を忘れたかのようにはしゃぐ檸檬。
抱きつかれて赤くなりながら笑うその男。
……ムカツク。
僕はトンファーを構えた。
その殺気に気付いたのか、檸檬が振り向く。
『きょ、恭弥!!?』
金髪の男から離れ、僕に駆け寄る。
もう、遅いよ。
そいつは、咬み殺す事にしたから。
「悪ぃな、怒らせちまって」
軽々しい態度が更にムカツク。
僕を必死に止めようとする檸檬に言った。
「退いてよ。そいつ、咬み殺したい」
『ダーメッ!!』
檸檬は上目遣いで僕を睨む。だから、可愛いだけだってば。
「檸檬、俺は用事伝えたらすぐに行くからよ」
『え~っ!まぁ…その方がいいかも……』
僕をちらっと見て、付け加える檸檬。
「毒サソリが結婚するんだ」
『えぇ!?』
「式は今日だからよ、なるべく早く来いよ」
『う、うん!って、誰と結婚するの!?』
「それが…いや、今は言わねー方がいい…。じゃなっ!」
その男は、言葉を濁して背を向けた。
途端に檸檬は、僕に『ちょっと待ってて。』と言い、そいつに駆け寄る。
『待ってよ、ディーノ!』
「ん?」
そいつが振り向いた瞬間、檸檬はそいつにキスをする。
多分、というか絶対、檸檬にとってそれは“別れの挨拶”。
けど、嫌悪感が生まれるのも事実。
『伝言ありがとう。なるべく急いでいくよ!』
「おぅ」
最後に、そいつと目が合った。
一瞬だったけど、多分僕の殺気を感じ取ったんだろう。
「なぁ、檸檬」
『ん?』
チュ
「また後でな!」
「………!!」
そいつは檸檬の頬にキスを落とした後、再び僕と目を合わせた。
---渡さない
その目は絶対にそう言っていた。
少し上がった口角もその心を示していた。
檸檬、どうして君の周りには、そんなにたくさん男がいるの?
どうして同じように愛想振りまくの?
激しい嫌悪感だけが残った。
『恭弥??』
「…………。」
『恭弥、』
「…………。」
『結婚式、行って来てい…「ダメ。」
『(何で即答!!?)』
恭弥はたまに分からない。
その事実を、今身をもって実感していた。
もしかして、もしかすると…
『怒ってる?』
恭弥は黙ったままだった。
『恭弥…』
「誰?」
『えっ?』
「アレ、誰?」
『えーっとー……』
何て言おうかな…。
『イタリアの、知り合い。ってか……先輩!』
うん、そうしよう!
我ながらなんて素晴らしい誤魔化し方!!
「ふぅん……(いつか咬み殺す)」
『ねぇ恭弥、怒ってるの?』
「………別に」
恭弥ってさ、嘘つくの下手だよね。
『(よくわかんないけど…)ごめんね』
怒らせた時はまず謝れ!という教訓はイタリアで習った。
あたしがイタリアの男友達と遊んでると、ディーノが何でか不機嫌になってたから。
ホント、恭弥とディーノってそっくりさん。
そんな事を考えていると、
グイッ
『へ!?』
恭弥が急に抱きしめたから、吃驚した。
『恭…「怒ってないって、言ってるでしょ。」
えーっと…
『ふふっ』
「何で笑うの?」
『だって、何で顔見せてくれないの?』
きっと、
“へ”の字になった口と、少し皺が寄せられた眉間を、
見せたくないんだね。
「何で笑うのって聞いてるの」
『面白いから!』
「そんな事分かってるよ」
『じゃあ聞かなくてもいいじゃん』
ちょっと恭弥を虐めてみたり。
「どうして可笑しいの?」
『恭弥が可愛いから!』
そう言って檸檬は僕の背中をポンポンと叩いた。
不思議な事に、それまであった嫌悪感は一気に消えていき、僕は改めて檸檬の温もりを感じた。
『と、いうワケで』
「何?」
『結婚式…「ダメって言ってるでしょ」
『(こんの我が儘王子っ!!)』
檸檬が口を尖らせて、何を思ったかは知らない。
けど、1秒でも長く檸檬の側にいたいのは本当だから、少し強い力で檸檬を抱きしめた。
『ちょっと、恭弥!』
今頃照れても遅いってば。
『もしかして、一緒に行きたいの??』
「(……何でそうなるんだろう)」
ため息をつく。
「僕、群れるの嫌いだから」
『そう…だよね』
檸檬は再び考える。
分かるわけない。
檸檬は鈍感だから。
『じゃーさ、あたしも誓うから!』
「…何を?」
もしかして……なんて、期待したのが愚かだった。
『あたしは恭弥を大事にします!』
そう言って、いつものように頬にキスをする檸檬。
何だか力が抜けた。
『……どしたの?不満?』
不満だよ。
どうせなら未来を誓って欲しかった。
けど、
「それは普通、唇じゃないの?」
『えっ!?』
檸檬は赤くなり、僕の腕を抜け背を向けた。
『くっ、口付けは……一番の人にって決めてるの!!』
ワォ、さっき奪っちゃったよ。
その言い分だとファーストキスだよね。
「ふぅん」
気分が良くなった。
「行っていいよ」
『ホント!?ありがとうっ!』
檸檬はもう一度僕の頬にキスをして、屋上から飛び去った。
どんな奴が現れても、別にいい。
だって、檸檬の唇を貰ったのは、
他でもない、僕だから。
「いつか、ちゃんと貰ってあげるよ」
檸檬が飛んでいった空に向かって呟いた。
================
式はもう、始まっていた。
『(ごめんなさい、ビア姉さん…)』
心の中で謝り、ドアを開けようとすると…
ブショアアアア…
『えぇーーーっ!!?』
何!?何の呪い!?
「やっと辿り着いたみてーだな」
『リボーン!!』
「窓から入った方がいいぞ、檸檬」
『わ、分かった…』
リボーンと一緒に窓から入る。
その光景を見て、驚いた。
『ポイズンクッキングーーーーー!!!??』
式場はほとんどポイズンクッキング。
その中心には、綺麗なドレス(だったものを)纏ったビアンキ姉さん。
何故かその髪の毛はちりぢり。
逃げまどう人々。
慌てふためくツナとディーノに、失神している隼人。
『どーすんのよ、リボーン!!』
あたしが隣を見ると、リボーンは銃を構えていた。
ズガアン!
ビア姉さんに向かって撃たれた銃。そのおかげで、我に帰ったビア姉さん。
「それが、ポイズンクッキングの究極料理・千紫毒万紅だ。よく到達したな、ビアンキ」
「リボーン!」
ビアンキ姉さんは笑顔になる。
どうやら結婚相手はリボーンだった模様。
そして、勘違いだった模様。
「なにしてんだよ!お前!」
ツナが聞くと、
「こいつを買ってたんだぞ。」
『(また勘違いさせそうな物を…)』
リボーンは指輪型の武器を取り出した。
「じゃぁやっぱり結婚は…「あるわけねーだろ」
『(ビア姉さん…すっごい嬉しそう)』
いいのかなぁ。
でも、真実を伝えるのはちょっと怖いので、やめておきます。
とにかく、ビアンキ姉さんの究極料理が完成した結婚式でした。
==============
おまけ
(ディーノ side)
毒サソリとの結婚のお祝い電話をしたら、リボーンは「知らない」って言いやがった。
実際日本に来てみると、身替わりを置いてリボーンは姿を消していた。
「どーなってんだよ…」
とりあえずみんなに招待状は配られちまったみてーだし、会場に行ってみた。
すると、毒サソリが檸檬にだけまだ渡せてない、なんて言うから、わざわざ並盛中まで行く事になった。
そしたら…何だ??
何所に行ったのかと聞けば、みんな口を揃えて「風紀委員長と屋上です!」とか言いやがる。
どーなってんだ?
その疑問も、屋上に着いた時、あっと言う間に解けた。
檸檬の腰に後ろから回された手。
いつだったか檸檬が見せてくれた、風紀の腕章を付けた学ラン。
黒髪の男子学生。
『ディーノっ!』
その腕から飛び出して俺に抱きついて来た檸檬。
何つーか……ちょっと嬉しくなった。
でも、その直後に感じた殺気は尋常じゃねぇ。
檸檬は俺とそいつの間を行き来して、何とか乱闘にならないように頑張ってる。
その間も、そいつの殺気が消える事はなかった。
「じゃなっ!」
用件を簡潔に伝えて檸檬に背を向けると、檸檬は俺に駆け寄って来た。
『待ってよ、ディーノ!』
「ん?」
別れの挨拶をされて、俺はまた少し赤くなっちまった。
『伝言ありがとう。なるべく急いでいくよ』
「おぅ」
再び強くなった風紀委員長の殺気。
今度はそいつと目が合った。
そっちがその気なら、こっちだって。
「なぁ、檸檬」
『ん?』
軽く返したキス。
こんな事初めてだから、きっと檸檬も驚いてるだろう。
「また後でな!」
『うん!』
最後にもう一度そいつと目を合わせて、口角を上げてやった。
絶対渡さない。
俺の大事な妹分で、それ以上の存在。
俺はそのまま屋上から去った。
『恭弥?』
階段を降りている時、檸檬がそいつの名を呼んでるのが聞こえた。
あぁ、あいつが“恭弥”だったのか…
いつか檸檬が言ってた、“王子様フェイス”の……。
「負けねーよ」
最後にぽつりと呟いた。
「そうだね」
しみじみと言う檸檬に素っ気無い返事を返すのは、風紀委員長様。
『最近ずーっと雨でさ、憂鬱だったんだ』
「ふぅん」
『だから今日は、屋上でお昼食べられて、とっても幸せ!』
雲雀が横目で檸檬を見れば、輝くように笑い、太陽の光を浴びる檸檬の姿が。
「そう」
思わず口角が上がる。
檸檬の綺麗な笑みを見るのは、実際久しぶりだった。
ここ最近の檸檬と言えば、『早く晴れないかなぁ』しか言わなかったのだ。
『それに、恭弥がいるからもっと幸せっ!』
そう言って照れくさそうに笑う檸檬。雲雀はその頭を優しく撫でる。
「……僕もだよ」
檸檬の髪は指通りがすごくいい。
撫でられる感触が心地いいのか、檸檬は頭を僕の肩に預けた。
「檸檬?」
『ぽかぽかで……寝そう』
「(ホント、無防備なんだから…)」
僕がため息を付けば、檸檬は飛び起きる。
『ごめんっ!このまま寝ちゃったら迷惑だよね』
ギュッと目をこすって、ブンブンと首を振る檸檬。
「(そうじゃなくて…)」
でも、燦々と降り注ぐ陽光には勝てないようで、またすぐに屋上に寝そべる。
『やぁーっぱり眠いや。ふぁ~あ』
大きな欠伸をする檸檬。その愛らしさに微笑み、僕も隣に寝そべる。
「僕も寝る」
『………そう?』
もう、相当眠いんだね。
「檸檬、今日は午後の授業、出なくていいよ」
『そんな、の…恭弥が決めちゃダメでしょ……?』
「いいんだよ、風紀委員長だから」
『ホ、ント…恭弥は……わ、がまま、王子………』
クーッ…
檸檬は眠りに落ちたようだった。
大きな瞳は、長い睫に閉ざされて。
陽光に照らされた肌は、いつもより白く映る。
黒髪からも、うっすら茶色が浮かんで見える。
それを見てるだけで、安心した。
「(でも、最後の言葉が“我が儘王子”だなんて、ちょっと気に食わないな)」
僕はしばらく檸檬の寝顔を見ている事にした。
けど、やっぱりそれだけじゃ収まらない。
「無防備な檸檬が悪いんだからね?」
僕はそうっと檸檬の上に跨がる。
上から見ると、ますます綺麗な寝顔だった。
顔にかかる髪の毛をそうっと掻き分けて、その唇に近付く。
起きる様子のない檸檬。
こんなに近くにいるのに、気付かないって事?
そうは思いたくなくて、一瞬躊躇ったけど、そのまま檸檬の唇に僕のを重ねた。
ゆっくりと。
やんわりと。
降り注ぐ陽光は、僕の体が遮って。
「(柔らかい…)」
あぁ僕は、こんなに檸檬が好きになってたんだ。
そう思って、何度も啄むように唇を重ねる。
『………んっ!?』
次の瞬間、檸檬は物凄い勢いで起き上がり、右手でスカートの下に常備している短刀を持った。
そんなに警戒する?
『なっ…何?今……』
辺りに僕以外がいない事を確認すると、檸檬は口元に触れて確かめた。
『変な感じ……』
触れただけじゃ起きなかったクセに。
啄んでから警戒するなんて、鈍感すぎるよ。
『恭弥、何かした??』
「……さぁ?」
『さぁ、って……な、何か変なもの食べさせようとした!?』
檸檬の想像は斜め下を行く。
「それは無いよ」
『……うーん、じゃあいいや。あー、吃驚した!』
そう言ってまた、僕の隣に寝転がった。
ホント…無防備。
「檸檬、」
『なぁに?』
「……好きだよ」
『えぇ!?』
檸檬が飛び起きた。
何?やっと意味を分かってくれた?
僕に独占される決心がついた?
『きょ、恭弥がそんな事言うなんてっ!!どしたの!?熱でもあるの!?』
「……………(はぁ)」
まだまだダメみたいだ。
どこまで鈍感なんだろう、檸檬は。
「熱なんて無い」
『ホントにホント!?じゃあ…どうして急に?』
「…いつも檸檬ばっかり言ってるから」
僕が適当に言い訳すれば、檸檬はそれを信じきって。
『あぁ、そうなの!ごめんね、何か一方的、みたいな?でも、あたしホントに恭弥の事大好きだよ♪だから恭弥が好きって言ってくれて嬉しいな~っ!』
これ、普通は恋人同士でする会話だよね?
檸檬に自覚は無いんだろうか。
「(あるワケないか)」
あったらとっくに口付けぐらい普通にしてるよ。
『ねぇ、恭弥』
再び寝転がった檸檬が、不意に話し掛ける。
「何?」
『恭弥はここにいて、幸せ?』
「急にどうしたの?」
『いいから』
今まではつまらなかったけど…
「(檸檬がいるから)幸せだよ」
『…そっか!』
僕の返事を聞くと、安心したように太陽に向かって笑う檸檬。
「檸檬は?」
『ん?』
「幸せなの?」
『うーんとねぇ……言い表せないくらい!!』
そう言って檸檬はぐーっと背伸びをした。
「そう言えば、どうして日本に留学して来たの?」
『(留学だって事にしてたんだっけ……)えっとねぇ、あたしの養い親が、ツナの側にいてくれって』
ツナ…あいつか。
気に食わない。
『でもね、それだけじゃない気がするの』
「どういうこと?」
『あたしは疎まれて育ったから、きっと日本で人の温かさを知るべきなんだと思うの。それが、養い親の望みであり、目的なんじゃないかなって』
檸檬は太陽に向かって話しているが、僕の目線は檸檬に向かっていた。
「………で?分かったの?」
『多分、ちょっとずつ。イタリアで分かった事と違う事も。きっと、そーゆーのがたくさん積み重なって、“あたし”っていう人物が出来ていくんだよね』
そう言って檸檬は綺麗に笑った。
そして僕はきっと、出来かけの君も、
出来上がった君も、好きになるんだろう……。
しばらくして、檸檬の寝息が聞こえて来た。
「檸檬?」
また無防備に寝て…。
僕は今度は優しく檸檬を抱きしめた。僕も寝るから、これくらい良いだろう。
「おやすみ、檸檬」
『きょ……や………』
「何?」
『くすぐったい……』
いつかと同じ寝言を言われ、可笑しさと愛しさが込み上げた。
「それくらい、いいでしょ」
聞こえてない事は分かってたけど、反論してみた。案の定檸檬は反応しなかった。
僕はクスリと笑って目を閉じた。
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それまでとは違う風の音がした。
体が震えて、目を覚ます。
「檸檬…?」
『あ、起こしちゃった?ごめんね、恭弥』
そう言って笑った檸檬の目は、“あの瞳”だった。
『(何か……来る!!)』
「檸檬…?」
突如聞こえて来た、階段を登って来る音。
『この気配……』
「誰?」
檸檬の声が和らいだ。
敵ではないんだろう、檸檬にとっては。
ギィ、
ドアが開いた。
その人物を見るなり、檸檬は僕の腕をすり抜けた。
『ディーノっ!!』
初めて見た。
檸檬が、こんなに嬉しそうに他の奴に抱きついて、キスをする光景。
「よぉ、檸檬」
金髪のそいつは、きっと檸檬のイタリアの知り合い。
『いつ来たの?!何で来たの!?』
僕の事を忘れたかのようにはしゃぐ檸檬。
抱きつかれて赤くなりながら笑うその男。
……ムカツク。
僕はトンファーを構えた。
その殺気に気付いたのか、檸檬が振り向く。
『きょ、恭弥!!?』
金髪の男から離れ、僕に駆け寄る。
もう、遅いよ。
そいつは、咬み殺す事にしたから。
「悪ぃな、怒らせちまって」
軽々しい態度が更にムカツク。
僕を必死に止めようとする檸檬に言った。
「退いてよ。そいつ、咬み殺したい」
『ダーメッ!!』
檸檬は上目遣いで僕を睨む。だから、可愛いだけだってば。
「檸檬、俺は用事伝えたらすぐに行くからよ」
『え~っ!まぁ…その方がいいかも……』
僕をちらっと見て、付け加える檸檬。
「毒サソリが結婚するんだ」
『えぇ!?』
「式は今日だからよ、なるべく早く来いよ」
『う、うん!って、誰と結婚するの!?』
「それが…いや、今は言わねー方がいい…。じゃなっ!」
その男は、言葉を濁して背を向けた。
途端に檸檬は、僕に『ちょっと待ってて。』と言い、そいつに駆け寄る。
『待ってよ、ディーノ!』
「ん?」
そいつが振り向いた瞬間、檸檬はそいつにキスをする。
多分、というか絶対、檸檬にとってそれは“別れの挨拶”。
けど、嫌悪感が生まれるのも事実。
『伝言ありがとう。なるべく急いでいくよ!』
「おぅ」
最後に、そいつと目が合った。
一瞬だったけど、多分僕の殺気を感じ取ったんだろう。
「なぁ、檸檬」
『ん?』
チュ
「また後でな!」
「………!!」
そいつは檸檬の頬にキスを落とした後、再び僕と目を合わせた。
---渡さない
その目は絶対にそう言っていた。
少し上がった口角もその心を示していた。
檸檬、どうして君の周りには、そんなにたくさん男がいるの?
どうして同じように愛想振りまくの?
激しい嫌悪感だけが残った。
『恭弥??』
「…………。」
『恭弥、』
「…………。」
『結婚式、行って来てい…「ダメ。」
『(何で即答!!?)』
恭弥はたまに分からない。
その事実を、今身をもって実感していた。
もしかして、もしかすると…
『怒ってる?』
恭弥は黙ったままだった。
『恭弥…』
「誰?」
『えっ?』
「アレ、誰?」
『えーっとー……』
何て言おうかな…。
『イタリアの、知り合い。ってか……先輩!』
うん、そうしよう!
我ながらなんて素晴らしい誤魔化し方!!
「ふぅん……(いつか咬み殺す)」
『ねぇ恭弥、怒ってるの?』
「………別に」
恭弥ってさ、嘘つくの下手だよね。
『(よくわかんないけど…)ごめんね』
怒らせた時はまず謝れ!という教訓はイタリアで習った。
あたしがイタリアの男友達と遊んでると、ディーノが何でか不機嫌になってたから。
ホント、恭弥とディーノってそっくりさん。
そんな事を考えていると、
グイッ
『へ!?』
恭弥が急に抱きしめたから、吃驚した。
『恭…「怒ってないって、言ってるでしょ。」
えーっと…
『ふふっ』
「何で笑うの?」
『だって、何で顔見せてくれないの?』
きっと、
“へ”の字になった口と、少し皺が寄せられた眉間を、
見せたくないんだね。
「何で笑うのって聞いてるの」
『面白いから!』
「そんな事分かってるよ」
『じゃあ聞かなくてもいいじゃん』
ちょっと恭弥を虐めてみたり。
「どうして可笑しいの?」
『恭弥が可愛いから!』
そう言って檸檬は僕の背中をポンポンと叩いた。
不思議な事に、それまであった嫌悪感は一気に消えていき、僕は改めて檸檬の温もりを感じた。
『と、いうワケで』
「何?」
『結婚式…「ダメって言ってるでしょ」
『(こんの我が儘王子っ!!)』
檸檬が口を尖らせて、何を思ったかは知らない。
けど、1秒でも長く檸檬の側にいたいのは本当だから、少し強い力で檸檬を抱きしめた。
『ちょっと、恭弥!』
今頃照れても遅いってば。
『もしかして、一緒に行きたいの??』
「(……何でそうなるんだろう)」
ため息をつく。
「僕、群れるの嫌いだから」
『そう…だよね』
檸檬は再び考える。
分かるわけない。
檸檬は鈍感だから。
『じゃーさ、あたしも誓うから!』
「…何を?」
もしかして……なんて、期待したのが愚かだった。
『あたしは恭弥を大事にします!』
そう言って、いつものように頬にキスをする檸檬。
何だか力が抜けた。
『……どしたの?不満?』
不満だよ。
どうせなら未来を誓って欲しかった。
けど、
「それは普通、唇じゃないの?」
『えっ!?』
檸檬は赤くなり、僕の腕を抜け背を向けた。
『くっ、口付けは……一番の人にって決めてるの!!』
ワォ、さっき奪っちゃったよ。
その言い分だとファーストキスだよね。
「ふぅん」
気分が良くなった。
「行っていいよ」
『ホント!?ありがとうっ!』
檸檬はもう一度僕の頬にキスをして、屋上から飛び去った。
どんな奴が現れても、別にいい。
だって、檸檬の唇を貰ったのは、
他でもない、僕だから。
「いつか、ちゃんと貰ってあげるよ」
檸檬が飛んでいった空に向かって呟いた。
================
式はもう、始まっていた。
『(ごめんなさい、ビア姉さん…)』
心の中で謝り、ドアを開けようとすると…
ブショアアアア…
『えぇーーーっ!!?』
何!?何の呪い!?
「やっと辿り着いたみてーだな」
『リボーン!!』
「窓から入った方がいいぞ、檸檬」
『わ、分かった…』
リボーンと一緒に窓から入る。
その光景を見て、驚いた。
『ポイズンクッキングーーーーー!!!??』
式場はほとんどポイズンクッキング。
その中心には、綺麗なドレス(だったものを)纏ったビアンキ姉さん。
何故かその髪の毛はちりぢり。
逃げまどう人々。
慌てふためくツナとディーノに、失神している隼人。
『どーすんのよ、リボーン!!』
あたしが隣を見ると、リボーンは銃を構えていた。
ズガアン!
ビア姉さんに向かって撃たれた銃。そのおかげで、我に帰ったビア姉さん。
「それが、ポイズンクッキングの究極料理・千紫毒万紅だ。よく到達したな、ビアンキ」
「リボーン!」
ビアンキ姉さんは笑顔になる。
どうやら結婚相手はリボーンだった模様。
そして、勘違いだった模様。
「なにしてんだよ!お前!」
ツナが聞くと、
「こいつを買ってたんだぞ。」
『(また勘違いさせそうな物を…)』
リボーンは指輪型の武器を取り出した。
「じゃぁやっぱり結婚は…「あるわけねーだろ」
『(ビア姉さん…すっごい嬉しそう)』
いいのかなぁ。
でも、真実を伝えるのはちょっと怖いので、やめておきます。
とにかく、ビアンキ姉さんの究極料理が完成した結婚式でした。
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おまけ
(ディーノ side)
毒サソリとの結婚のお祝い電話をしたら、リボーンは「知らない」って言いやがった。
実際日本に来てみると、身替わりを置いてリボーンは姿を消していた。
「どーなってんだよ…」
とりあえずみんなに招待状は配られちまったみてーだし、会場に行ってみた。
すると、毒サソリが檸檬にだけまだ渡せてない、なんて言うから、わざわざ並盛中まで行く事になった。
そしたら…何だ??
何所に行ったのかと聞けば、みんな口を揃えて「風紀委員長と屋上です!」とか言いやがる。
どーなってんだ?
その疑問も、屋上に着いた時、あっと言う間に解けた。
檸檬の腰に後ろから回された手。
いつだったか檸檬が見せてくれた、風紀の腕章を付けた学ラン。
黒髪の男子学生。
『ディーノっ!』
その腕から飛び出して俺に抱きついて来た檸檬。
何つーか……ちょっと嬉しくなった。
でも、その直後に感じた殺気は尋常じゃねぇ。
檸檬は俺とそいつの間を行き来して、何とか乱闘にならないように頑張ってる。
その間も、そいつの殺気が消える事はなかった。
「じゃなっ!」
用件を簡潔に伝えて檸檬に背を向けると、檸檬は俺に駆け寄って来た。
『待ってよ、ディーノ!』
「ん?」
別れの挨拶をされて、俺はまた少し赤くなっちまった。
『伝言ありがとう。なるべく急いでいくよ』
「おぅ」
再び強くなった風紀委員長の殺気。
今度はそいつと目が合った。
そっちがその気なら、こっちだって。
「なぁ、檸檬」
『ん?』
軽く返したキス。
こんな事初めてだから、きっと檸檬も驚いてるだろう。
「また後でな!」
『うん!』
最後にもう一度そいつと目を合わせて、口角を上げてやった。
絶対渡さない。
俺の大事な妹分で、それ以上の存在。
俺はそのまま屋上から去った。
『恭弥?』
階段を降りている時、檸檬がそいつの名を呼んでるのが聞こえた。
あぁ、あいつが“恭弥”だったのか…
いつか檸檬が言ってた、“王子様フェイス”の……。
「負けねーよ」
最後にぽつりと呟いた。