未来編序章
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お母さんが顔を見せたその時、
隼人がお父さんに向かって投げたボムが、
お母さんの方に飛んだ。
開かれた世界
「ちっ…!」
次の瞬間驚かされたのは、
お父さんがお母さんを庇ったから。
『嘘…』
あたしに向かってアレ程、
「護る為に戦うな」って言ってたのに。
爆風の中から現れたお父さんとお母さんは、見事に無傷だった。
そして、お父さんはあたしの思考を読んだかのように言う。
「勘違いするな、俺は護る為になぞ戦わん。」
「へっ!今護ってたじゃねーか!」
隼人が挑発的に返すと、お父さんは言った。
「揚羽は“俺の”女だ。傷1つ付ければ貴様らは死ぬ。」
「ふふ、暴君ねぇ……」
お母さんは何が可笑しいのか、少し笑っていた。
「揚羽、何故ここに来た?」
「未来を視たの。」
戦いをそっちのけで、お父さんはお母さんと話す。
いつの間にか蜜柑も、恭弥とツナから離れてお父さん達の方にいた。
「今すぐ、伝えなければならない事よ。」
場にいる全員が、お母さんの言葉に耳を傾けた。
「未来が、変わったの。」
「なに…?」
揚羽の言葉に、兜は眉間に皺を寄せた。
そして、檸檬を睨み付ける。
「何がどう変わった。」
「兆しは見え始めていたの。私の未来視では…そこの彼は檸檬のナイフで即死だったわ。」
揚羽の視線の先には、雲雀がいた。
即死、という言葉を聞いて、檸檬は少し表情を歪ませる。
「兜、蜜柑……檸檬はもう、戻らない。能力が目覚め始めてる。これ以上関わると……私たちが危険よ。」
沈黙が流れた。
兜は黙って揚羽と檸檬を交互に見る。
蜜柑は檸檬を睨んでいた。
「分かった。行くぞ、蜜柑。」
「え!?でも………!」
「おい!逃げんのか!!?」
蜜柑とほぼ同時に、獄寺が叫んだ。
すると、兜はにやりと笑って。
「1つ教えよう。逃避が最善の時もある。俺にとって、揚羽の未来視は絶対だ。」
兜は蜜柑に視線を送る。
蜜柑はこくりと頷いて、銃を一発床に向かって撃った。
ドガンッ、
『えっ!?』
「これ…煙幕か!?」
煙幕に催眠スプレーが混ざっているらしい。
ツナ、獄寺、山本、雲雀の意識が薄れていく。
『みんなっ……!!』
檸檬は解毒を発動させていたが、
出血のせいでそう長くはもたなかった。
薄れゆく意識の中、未だ渦巻く1つの言葉。
---「To be or Not to be.」
『…うるさい…………っ』
しばらくして、煙幕は完全になくなった。
---
------
-------------
『う………』
「起きたか、檸檬。」
『リボーン……あ、あたし………』
「兜と揚羽、蜜柑はアメリカに帰ったみてーだぞ。」
『そう………』
そこは、病院の一室だった。
真っ白い空間があたしを包む。
ぐっと力を込めて起き上がる。
「平気か?」
『うん………』
何処か浮かない表情の檸檬。
リボーンはその膝の上に乗った。
「どした?」
『あたし……』
「戻るべきじゃない、戻れない、そう思ってんなら違ぇぞ。」
『だっ…だってあたしっ……』
檸檬が何か言いかけたその時、
ガラガラガラ…
突然ドアが開く。
「ちゃおっス。」
「やぁ。檸檬……やっと起きたね。」
---
------
-------------
同じ頃、少し早く回復したツナ達は、ディーノにその後の話を聞いていた。
「施設の回りは、キャバッローネが固めてたんだ。リボーンに言われてな。」
「そ、それじゃぁ…!」
期待の目を向けるツナに、ディーノは首を横に振る。
「捕らえなかった。」
「んなっ、何でだよ!!」
「落ち着けって獄寺。」
ディーノはゆっくりと話す。
「確かに、兜達は俺達が固めてた場所にやって来た。だが…ヤツはおそらく知ってたんだろう。」
「揚羽さんの、未来視で…?」
「あぁ。いとも簡単に抜けやがった。それに…」
「それに、何スか?」
「こっちは生け捕り、向こうは殺す気でかかってんだ。どう考えても不利になる。」
ため息をつくディーノ。
ふと、山本が尋ねる。
「んで、3人は何処に行ったんスか?」
「あぁ、アメリカに帰ったみたいだ。堂々と、雨宮の名で予約してあった。」
それまで静かに話を聞いていた3人だが、突然ぐっと立ち上がる。
「ん?どした?」
「ディーノさん、俺……檸檬に会って来ます。」
キリリと答えるツナに、ディーノは少し目を丸くする。
「俺…今の今まで、本当に檸檬のこと分かってなかった……だから、今度はちゃんと話せるように!」
「……そか……頼んだぜ、ツナ。」
ツナが病室を出ようとすると、
「一緒に行くぜ、ツナ。」
「俺も行きます!」
獄寺と山本が後に続いた。
その光景を見て、ディーノは小さく呟く。
「檸檬、アレを見てもまだ、幸せは幻想だなんて言えるか………?」
---
------
------------
ツカツカと歩み寄る彼の、黒い学ランがふんわりなびく。
「大丈夫?」
真直ぐ見つめられると、イヤな記憶が甦る。
あたしは…
恭弥を…
刺したんだ………
「ねぇ、檸檬?」
『……して………どうして来たのよっ!!』
堪えきれなくなって、あたしは叫んだ。
やっぱり、真直ぐしてる恭弥の視線が怖い。
この幸せな世界は幻想で、
あたしには何一つ確かなモノは無くて。
そんな事、分かってるのに。
『あたしはっ…恭弥を刺したんだよ!?殺しかけたのにっ………』
「檸檬、」
『あたしの、あたしだけの問題だったのに……どうして来たの!?こんなっ……こんな深手負って………』
「別にいい、」
『いいワケないじゃないっ!!あたしさえ居なくなれば全て終わったのに、あたしは守られるべき人間じゃないのに、あたしは犯罪者の娘で、化け物みたいな力があるのにっ……』
「檸檬、」
遮られたと思ったら、
強く、抱き締められていた。
あったかくて、
優しくて、
すぐに涙が溢れる。
横目で見ると、いつの間にかリボーンはいなくなっていた。
「僕は、檸檬に側に居て欲しい。」
ぼやけてぼやけて。
あたしは、いつからこんなに泣き虫になったのかな。
「もう決めたんだ。檸檬は僕のモノだって。」
『何言って……』
「それくらい、好きなんだ。」
流れ込んで来る恭弥の言葉は、
あたしの中の、
何かを震わせて。
大好きだから、護ろうとした。
生きる為に、心を失くした。
それでも消せない何かがあって、
それは、
護ろうとしたモノだった。
「だから檸檬、護る為に自分を傷つけないで。」
『え……?』
「僕の、側に居て。僕が、檸檬を守るから。」
どうして貴方の言葉は、
いつも優しく響くの?
「もう、怖い思いはさせない。僕がいる。」
そんな貴方を好きになったんだと、
ふと思い出した。
「だから檸檬……僕の隣に戻っておいで。」
ダメかもしれないと思うのに、
あたしの手は恭弥の学ランを握る。
溢れる涙が、それに少し濃い染みをつけた。
ねぇ、あたしは……
何度も間違えて、貴方に背を向けたのに……
大切なはずの皆を傷つけたのに……
本当に、戻って来ていいの?
あたしはまだ、この街にいる権利がある……?
「檸檬に、拒否権は無いからね。」
最後に貴方は、いつもそう言う。
まるで、あたしの全ての問いに一気に答えるかのように。
恭弥、あたしは……
その言葉に、何度も救われてる。
『…我が儘………王子………』
あなたはいつも、救ってくれるから。
精一杯しぼり出したこの返事が、
そのお礼に、なってくれるといいな…………。
---
-----
檸檬の小さな声を聞いた雲雀は、
僅かに目を見開いた。
待ち望んでいた、"いつもの"言葉。
少し、ほんの少しだけ、明るくなった声。
震えながらも、ゆだねるように頭を預ける姿。
「(やっと、やっと帰って来たね………)」
大切で、
脆くて、
愛しい存在を、
優しく抱きしめ直して微笑む。
「…うるさいよ……」
涙ばかりが溢れて来るのに、
恭弥の返事1つで嬉しくなるの。
あぁ、あたし…
今だけ、拒否権なんて要らない。
要らないから、
ずっと此処にいさせて。
『あ、あの、恭弥……』
「なに?」
あたしにも、
言えるのかな。
一番好きだって、
ちゃんと、伝えられるかな。
ぐっと勇気を振り絞って、
腕をほどいた恭弥と向き合った。
『あのね、あたし、も………』
ガラッ、
「檸檬ちゃん!大丈夫ですかー!?」
「リボーン君に、重症で運ばれたって聞いたんだけど……!」
『ひょえぇっ!!?///』
あたしの病室に突然入って来たのは、ハルと京子。
あたしはと言うと、吃驚するやら何やらで軽くパニック状態。
どこにそんな力が残ってか自分でもわからないけど、慌てて布団をかぶった。
ちらりと恭弥を見ると、何だか凄く不満そうな顔をして。
『あの……』
「なに?」
『ごめん、また…今度にさせて……』
「(はぁ…)分かった。」
ごにょごにょ言うあたしに、京子とハルが首をかしげていた。
それから、ツナと隼人と武も来てくれて、
フゥ太君とランボちゃん、イーピンちゃんも来てくれて、
ビア姉さんと奈々さんも来てくれて、
リボーンとディーノも来てくれて、
(あまりに人が増えてくから恭弥は途中で隣の部屋に戻っちゃったけど、)
あたしはとっても嬉しくて。
色んな楽しい話をして、
たくさん美味しい物を食べて、
幸せだった。
ふと、ディーノに小さく尋ねられた。
「檸檬、どーだ?幻想にしちゃ、ハッキリしてんだろ?」
『うん………』
失いたくない、それだけ。
あたしはきっとまだ、完全に自分の中に植え付けられた恐怖を、捨て切れてない。
『………色々、わかんなくなっちゃった。』
でも例え、
この幸せな世界が幻想だとしても、
いつかあたしが消えていく運命だとしても、
もう少し浸っていたい。
そう、望むようになった。
それは大きな変化な気がしてる。
ずっと、ずっとね、
独りで寂しかったの。
ホントはね、
両親に愛されたかったの。
あたしはね、
知らないうちに足掻いていたの。
『だけど、今が幸せだから、それでいいや♪』
そう言えるようになったのは、大きな進歩。
その証拠にほら、ディーノは目を見開いてる。
失いたくないなら、護ればいいの。
この場所が大切だから、もう逃げない。
傷つかないでと言われたけど、多分、命をかけて護るべき場所なんだ。
この幸せな空間だけは、汚させないよ。
---
------
-------------
夜になるとみんなは家に帰っていった。
あたしはまだ1人で眠れないから、リボーンは泊まってくれるそうだ。
「なぁ檸檬、」
『ん?なーに?リボーン。』
「お前、何か心配事があるんじゃねーのか?」
こんな時にまで、読心術。
リボーンにはホントに適わない。
『うん、あるよ。』
静かに答えた。
もう全部が終わったはずなのに、
心の何処かで何かが引っ掛かる。
それはきっと………
『蜜柑に………また、会うような気がして………』
言い終わった途端、あたしは欠伸を1つする。
「もう、寝た方がいーぞ。」
『うん……』
最後に髪を撫でられて、あたしは心地よいまま目を閉じた。
『おや…すみ………』
月明かりの差し込む窓の側、
リボーンは静かに夜空を見上げる。
「雨宮蜜柑、か………」
“ひとまず、今回は丸く収まった。”
半ば無理矢理そう思い、リボーンも鼻ちょうちんを膨らませた。
end.
隼人がお父さんに向かって投げたボムが、
お母さんの方に飛んだ。
開かれた世界
「ちっ…!」
次の瞬間驚かされたのは、
お父さんがお母さんを庇ったから。
『嘘…』
あたしに向かってアレ程、
「護る為に戦うな」って言ってたのに。
爆風の中から現れたお父さんとお母さんは、見事に無傷だった。
そして、お父さんはあたしの思考を読んだかのように言う。
「勘違いするな、俺は護る為になぞ戦わん。」
「へっ!今護ってたじゃねーか!」
隼人が挑発的に返すと、お父さんは言った。
「揚羽は“俺の”女だ。傷1つ付ければ貴様らは死ぬ。」
「ふふ、暴君ねぇ……」
お母さんは何が可笑しいのか、少し笑っていた。
「揚羽、何故ここに来た?」
「未来を視たの。」
戦いをそっちのけで、お父さんはお母さんと話す。
いつの間にか蜜柑も、恭弥とツナから離れてお父さん達の方にいた。
「今すぐ、伝えなければならない事よ。」
場にいる全員が、お母さんの言葉に耳を傾けた。
「未来が、変わったの。」
「なに…?」
揚羽の言葉に、兜は眉間に皺を寄せた。
そして、檸檬を睨み付ける。
「何がどう変わった。」
「兆しは見え始めていたの。私の未来視では…そこの彼は檸檬のナイフで即死だったわ。」
揚羽の視線の先には、雲雀がいた。
即死、という言葉を聞いて、檸檬は少し表情を歪ませる。
「兜、蜜柑……檸檬はもう、戻らない。能力が目覚め始めてる。これ以上関わると……私たちが危険よ。」
沈黙が流れた。
兜は黙って揚羽と檸檬を交互に見る。
蜜柑は檸檬を睨んでいた。
「分かった。行くぞ、蜜柑。」
「え!?でも………!」
「おい!逃げんのか!!?」
蜜柑とほぼ同時に、獄寺が叫んだ。
すると、兜はにやりと笑って。
「1つ教えよう。逃避が最善の時もある。俺にとって、揚羽の未来視は絶対だ。」
兜は蜜柑に視線を送る。
蜜柑はこくりと頷いて、銃を一発床に向かって撃った。
ドガンッ、
『えっ!?』
「これ…煙幕か!?」
煙幕に催眠スプレーが混ざっているらしい。
ツナ、獄寺、山本、雲雀の意識が薄れていく。
『みんなっ……!!』
檸檬は解毒を発動させていたが、
出血のせいでそう長くはもたなかった。
薄れゆく意識の中、未だ渦巻く1つの言葉。
---「To be or Not to be.」
『…うるさい…………っ』
しばらくして、煙幕は完全になくなった。
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『う………』
「起きたか、檸檬。」
『リボーン……あ、あたし………』
「兜と揚羽、蜜柑はアメリカに帰ったみてーだぞ。」
『そう………』
そこは、病院の一室だった。
真っ白い空間があたしを包む。
ぐっと力を込めて起き上がる。
「平気か?」
『うん………』
何処か浮かない表情の檸檬。
リボーンはその膝の上に乗った。
「どした?」
『あたし……』
「戻るべきじゃない、戻れない、そう思ってんなら違ぇぞ。」
『だっ…だってあたしっ……』
檸檬が何か言いかけたその時、
ガラガラガラ…
突然ドアが開く。
「ちゃおっス。」
「やぁ。檸檬……やっと起きたね。」
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同じ頃、少し早く回復したツナ達は、ディーノにその後の話を聞いていた。
「施設の回りは、キャバッローネが固めてたんだ。リボーンに言われてな。」
「そ、それじゃぁ…!」
期待の目を向けるツナに、ディーノは首を横に振る。
「捕らえなかった。」
「んなっ、何でだよ!!」
「落ち着けって獄寺。」
ディーノはゆっくりと話す。
「確かに、兜達は俺達が固めてた場所にやって来た。だが…ヤツはおそらく知ってたんだろう。」
「揚羽さんの、未来視で…?」
「あぁ。いとも簡単に抜けやがった。それに…」
「それに、何スか?」
「こっちは生け捕り、向こうは殺す気でかかってんだ。どう考えても不利になる。」
ため息をつくディーノ。
ふと、山本が尋ねる。
「んで、3人は何処に行ったんスか?」
「あぁ、アメリカに帰ったみたいだ。堂々と、雨宮の名で予約してあった。」
それまで静かに話を聞いていた3人だが、突然ぐっと立ち上がる。
「ん?どした?」
「ディーノさん、俺……檸檬に会って来ます。」
キリリと答えるツナに、ディーノは少し目を丸くする。
「俺…今の今まで、本当に檸檬のこと分かってなかった……だから、今度はちゃんと話せるように!」
「……そか……頼んだぜ、ツナ。」
ツナが病室を出ようとすると、
「一緒に行くぜ、ツナ。」
「俺も行きます!」
獄寺と山本が後に続いた。
その光景を見て、ディーノは小さく呟く。
「檸檬、アレを見てもまだ、幸せは幻想だなんて言えるか………?」
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ツカツカと歩み寄る彼の、黒い学ランがふんわりなびく。
「大丈夫?」
真直ぐ見つめられると、イヤな記憶が甦る。
あたしは…
恭弥を…
刺したんだ………
「ねぇ、檸檬?」
『……して………どうして来たのよっ!!』
堪えきれなくなって、あたしは叫んだ。
やっぱり、真直ぐしてる恭弥の視線が怖い。
この幸せな世界は幻想で、
あたしには何一つ確かなモノは無くて。
そんな事、分かってるのに。
『あたしはっ…恭弥を刺したんだよ!?殺しかけたのにっ………』
「檸檬、」
『あたしの、あたしだけの問題だったのに……どうして来たの!?こんなっ……こんな深手負って………』
「別にいい、」
『いいワケないじゃないっ!!あたしさえ居なくなれば全て終わったのに、あたしは守られるべき人間じゃないのに、あたしは犯罪者の娘で、化け物みたいな力があるのにっ……』
「檸檬、」
遮られたと思ったら、
強く、抱き締められていた。
あったかくて、
優しくて、
すぐに涙が溢れる。
横目で見ると、いつの間にかリボーンはいなくなっていた。
「僕は、檸檬に側に居て欲しい。」
ぼやけてぼやけて。
あたしは、いつからこんなに泣き虫になったのかな。
「もう決めたんだ。檸檬は僕のモノだって。」
『何言って……』
「それくらい、好きなんだ。」
流れ込んで来る恭弥の言葉は、
あたしの中の、
何かを震わせて。
大好きだから、護ろうとした。
生きる為に、心を失くした。
それでも消せない何かがあって、
それは、
護ろうとしたモノだった。
「だから檸檬、護る為に自分を傷つけないで。」
『え……?』
「僕の、側に居て。僕が、檸檬を守るから。」
どうして貴方の言葉は、
いつも優しく響くの?
「もう、怖い思いはさせない。僕がいる。」
そんな貴方を好きになったんだと、
ふと思い出した。
「だから檸檬……僕の隣に戻っておいで。」
ダメかもしれないと思うのに、
あたしの手は恭弥の学ランを握る。
溢れる涙が、それに少し濃い染みをつけた。
ねぇ、あたしは……
何度も間違えて、貴方に背を向けたのに……
大切なはずの皆を傷つけたのに……
本当に、戻って来ていいの?
あたしはまだ、この街にいる権利がある……?
「檸檬に、拒否権は無いからね。」
最後に貴方は、いつもそう言う。
まるで、あたしの全ての問いに一気に答えるかのように。
恭弥、あたしは……
その言葉に、何度も救われてる。
『…我が儘………王子………』
あなたはいつも、救ってくれるから。
精一杯しぼり出したこの返事が、
そのお礼に、なってくれるといいな…………。
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檸檬の小さな声を聞いた雲雀は、
僅かに目を見開いた。
待ち望んでいた、"いつもの"言葉。
少し、ほんの少しだけ、明るくなった声。
震えながらも、ゆだねるように頭を預ける姿。
「(やっと、やっと帰って来たね………)」
大切で、
脆くて、
愛しい存在を、
優しく抱きしめ直して微笑む。
「…うるさいよ……」
涙ばかりが溢れて来るのに、
恭弥の返事1つで嬉しくなるの。
あぁ、あたし…
今だけ、拒否権なんて要らない。
要らないから、
ずっと此処にいさせて。
『あ、あの、恭弥……』
「なに?」
あたしにも、
言えるのかな。
一番好きだって、
ちゃんと、伝えられるかな。
ぐっと勇気を振り絞って、
腕をほどいた恭弥と向き合った。
『あのね、あたし、も………』
ガラッ、
「檸檬ちゃん!大丈夫ですかー!?」
「リボーン君に、重症で運ばれたって聞いたんだけど……!」
『ひょえぇっ!!?///』
あたしの病室に突然入って来たのは、ハルと京子。
あたしはと言うと、吃驚するやら何やらで軽くパニック状態。
どこにそんな力が残ってか自分でもわからないけど、慌てて布団をかぶった。
ちらりと恭弥を見ると、何だか凄く不満そうな顔をして。
『あの……』
「なに?」
『ごめん、また…今度にさせて……』
「(はぁ…)分かった。」
ごにょごにょ言うあたしに、京子とハルが首をかしげていた。
それから、ツナと隼人と武も来てくれて、
フゥ太君とランボちゃん、イーピンちゃんも来てくれて、
ビア姉さんと奈々さんも来てくれて、
リボーンとディーノも来てくれて、
(あまりに人が増えてくから恭弥は途中で隣の部屋に戻っちゃったけど、)
あたしはとっても嬉しくて。
色んな楽しい話をして、
たくさん美味しい物を食べて、
幸せだった。
ふと、ディーノに小さく尋ねられた。
「檸檬、どーだ?幻想にしちゃ、ハッキリしてんだろ?」
『うん………』
失いたくない、それだけ。
あたしはきっとまだ、完全に自分の中に植え付けられた恐怖を、捨て切れてない。
『………色々、わかんなくなっちゃった。』
でも例え、
この幸せな世界が幻想だとしても、
いつかあたしが消えていく運命だとしても、
もう少し浸っていたい。
そう、望むようになった。
それは大きな変化な気がしてる。
ずっと、ずっとね、
独りで寂しかったの。
ホントはね、
両親に愛されたかったの。
あたしはね、
知らないうちに足掻いていたの。
『だけど、今が幸せだから、それでいいや♪』
そう言えるようになったのは、大きな進歩。
その証拠にほら、ディーノは目を見開いてる。
失いたくないなら、護ればいいの。
この場所が大切だから、もう逃げない。
傷つかないでと言われたけど、多分、命をかけて護るべき場所なんだ。
この幸せな空間だけは、汚させないよ。
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夜になるとみんなは家に帰っていった。
あたしはまだ1人で眠れないから、リボーンは泊まってくれるそうだ。
「なぁ檸檬、」
『ん?なーに?リボーン。』
「お前、何か心配事があるんじゃねーのか?」
こんな時にまで、読心術。
リボーンにはホントに適わない。
『うん、あるよ。』
静かに答えた。
もう全部が終わったはずなのに、
心の何処かで何かが引っ掛かる。
それはきっと………
『蜜柑に………また、会うような気がして………』
言い終わった途端、あたしは欠伸を1つする。
「もう、寝た方がいーぞ。」
『うん……』
最後に髪を撫でられて、あたしは心地よいまま目を閉じた。
『おや…すみ………』
月明かりの差し込む窓の側、
リボーンは静かに夜空を見上げる。
「雨宮蜜柑、か………」
“ひとまず、今回は丸く収まった。”
半ば無理矢理そう思い、リボーンも鼻ちょうちんを膨らませた。
end.