日常編
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早朝、並盛バッティングセンターにて。
キンッ!
バッティング練習をする人物が1人。
彼が打ったボールは、ホームランゾーンの数cm左のネットに当たる。
「ちっ、」
彼、山本武はバットを肩に乗せて舌打ちをした。
しばらくして、練習を終えた山本。
「おっちゃん、今朝はこれくらいにしとくわ」
「なんだよ、もっと打ってきゃいーじゃねーか。どーせ学校じゃいつも寝てんだろ?」
「ちぇ、言ってくれるぜ」
苦笑いをして、「いつもの」と言いながら小銭を出す。
バッティングセンターのおじさんは、紙パックの牛乳を1つ、山本に差し出しながら言う。
「しかし大したもんだな。中坊のくせして130キロの球ガンガンネットまで運んじまうってさあ」
「ハハハッ、まだまだだって。変化しねー球ぐらい全部狙った所に打てねーとさ」
牛乳を飲みながらそう言う山本。
「へっ!とんでもねー事を簡単に言いのけやがって」
おじさんは笑った。
すると、
「その為にもトレーニングをするぞ」
何処からか、聞き覚えのある声が。
山本が振り向くと、ベンチの上に野球の監督の恰好をしたリボーンが。
「ちゃおっ…ス……」
「お、小僧じゃねーか」
次の瞬間、リボーンはそのままそこに倒れ込んだ。
鼻からは“ちょうちん”を出して。
「どこの赤ん坊だ!?」
とまどうおじさんに対し、山本は笑う。
「無理して起きてきたんだな。面白ぇ!!」
とりあえず、自分の家に連れて帰る事にした。
---
------
-----------
プルルルル…プルルルル…
その朝、ツナの家の電話が鳴った。
「………まぁ!すぐツナを行かせますね!」
『奈々さん、おはようございます。こんな朝早くに、どうかしたんですか?』
「あら檸檬ちゃん、おはよう。今、山本君から電話があってね、リボーン君が山本君ちにいるみたいなのよ」
『えぇっ!?リボーンが!?』
一応まだ、1歳の赤ちゃんなのに!
こんなに朝早く!?
「檸檬ちゃん、悪いんだけど、ツナ起こして来てくれない?」
『は、はい!』
あたしは階段を駆け上がった。
ツナの部屋のドアをバーンと開ける。
『ツナっ!起きて、ツナ!!』
「ん~………檸檬!」
『おはよっ!』
ちゅ、
「わわっ!(な、何か久しぶりで吃驚した……)で、どしたの?」
『リボーンが、武のトコにいるんだって!』
「はぁ!!?」
あたし達は急いで着替えてリボーンを迎えに行った。
でも、どうしてツナは制服なんだろう??
「ごめん山本!リボーンが朝から迷惑かけて!」
『朝早く失礼しますっ』
武の家に来るのは久しぶりだった。
「おぉ!ツナ君、檸檬ちゃん、いらっしゃい!」
『おはようございます!』
武のお父さんに軽くお辞儀をする。
「よぉ、ツナ!檸檬!」
見ると、リボーンはちょこんと席に着いて、お寿司を食べていた。
「ったく、朝から何やってんだよ!!寿司までごちそうになって!」
『いいなぁ、リボーン…』
あたしがよほど羨ましそうにしてたのか、リボーンは中トロをくれた。
『わぁっ!ありがとうっ!』
やっぱりお寿司はおいしいなぁ~…
幸せに浸るあたし。
「まーまー、ツナ。今日は俺の為に来てくれたみたいだぜ?」
「山本の為に………?」
リボーンはお茶を飲みながら答える。
「そーだぞ。伸び悩んでる山本をパワーアップしてやろうと思ってな」
「何言ってんだよ!野球で山本がお前に教わる事なんて何もないよ!!」
反論するツナに、リボーンは目を光らせた。
「誰が野球って言った?」
「(何かたくらんでるーーー!!)」
その後リボーンが今日が開校記念日だと言う事を2人に告げ、武のお父さんに笑われた所で、リボーンによる武のトレーニングをやる事になった。
「おしっ!今日は小僧にトレーナー任すからな」
ニカッと笑う武に、何も言えずに呆然と立ち尽くすツナ。
『武ーっ!頑張って♪』
「おう!」
手を振るあたしに、武は手を振り返す。
「檸檬、」
『ん?』
「山本、トレーニングごっこだと思ってるよね…」
『うん、そうみたいだね。でも、それで強くなれるならいんじゃない?』
あたしは自然と微笑んだ。
武が強くなる事は、あたしにとっても嬉しい事。
そしたらツナは、何故かホッペを赤くした。
「まずはピッチングだ。あの柱の印の所目掛けて投げてみろ」
リボーンは武に小さい野球ボールを渡した。
「可愛いボールだなっ」
「ちゃんと野球じゃん…」
『甘いね、ツナ』
「え?」
『あれ、よく見てみなよ』
檸檬の言葉に首をかしげるツナ。
山本は思いっきり投げた。
ビュッ
ジャキーン
ドガァンッ…
柱が、砕けた。
「なっ!」
「ん?」
目を見開く2人と、ニッと笑うリボーンと檸檬。
「こいつがボンゴレ企画開発部に発注していた岩をも砕く“投の武器・マイクロハンマー”だ」
リボーンの手の中には、小さいボールにトゲの生えた物体が。
『すごいっ!企画開発部の新作って事!?わぁーっ!いいな~』
「んなーーっ!?お前、山本に武器持たせようとしてんのーーー!!?山本をお前らのそーゆーへんてこな世界に引きずり込むなって言ってんだろ!?」
叫ぶツナに対し、
「おいツナ、よく見ろって。あの柱、発泡スチロールだって。あーやって俺に自信を持たせよーとしてくれてんのかもな」
笑顔の山本。
檸檬は山本の天然加減にふっと吹き出す。
「次、行くぞ」
「よーし、頼むぜ!トレーナー」
山本はリボーンを肩に乗せて移動し始める。
ツナはくるっと向きを変え、砕けた柱の元へ。
『ツナ?』
「檸檬……これさ、めっさコンクリートだよね…」
『そうだねっ!』
にっこりと笑う檸檬。
「(何で笑顔なの…?可愛いけど…)」
『とりあえず、あたし達も行こう』
「う、うん」
その時。
「10代目ーーーっ!」
『隼人!』
「獄寺君!」
何処からともなく走って来た獄寺。
その表情は、何故か嬉しそう。
「とうとう山本クビっスか?」
第一声がそれ。
「(話作って来てるーーー!!)」
『アハハ!んなワケないじゃん。隼人ったら、早とちり~。あ!これ、何か駄洒落になってない!?』
すごいすごい、とはしゃぐ檸檬。
獄寺はがっくりと肩を落とす。
「あのね…リボーンが山本に武器を持たせようとしてて…」
「なっ!?」
獄寺は焦ったような表情をする。
と、そこに、リボーンを担いだ山本が。
「よぉ」
「ちゃおっス」
「(10代目とリボーンさん、それに檸檬まで山本の為に……)」
ワナワナと震える獄寺。
『隼人?』
「檸檬、俺はなぁ、山本は生えてる草を投げる攻撃とかいいと思うぜ……」
そう言いつつ、側に生えていた雑草を摘み取って投げる獄寺。
「(獄寺君…)」
『あっはは!隼人ったら何してんの~っ!?それじゃぁ敵を倒すどころか、自分を守る事も出来ないじゃん』
けらけらと笑う檸檬を、獄寺は下から睨んでいた。
「それじゃぁ、次の武器は……こいつだ」
リボーンは懐からバットを取り出した。
(どうやってしまっていたのやら)
「な!」
「バット!!」
ツナはまた絶望を見たような顔をして、口をあんぐり開ける。
この表情も可愛いな、と檸檬は思っていた。
「へー、トレーニング用のバットかー」
山本はそれを受け取る。
「お、ウェイト入ってら。結構重いな」
「グリップの先を覗いてみろ」
言われた通りに覗く山本。
「なんだ、望遠鏡かー」
「(納得しちゃうのー!!)」
『えっ!あたしも見たーいっ!』
檸檬は山本に駆け寄る。
「いいぜ、ほら。重いから気をつけろよ」
『うん♪』
檸檬も覗いてみる。
『ホントだ!よく見えるーっ!』
はしゃぎながら、山本にそれを返す。
「流石リボーンさん!山本にぴったりだ!」
「どーやって戦うんだよ!!」
と、その時。
望遠鏡を覗いていた山本が、何かに反応する。
チュイーンッ
「「なっ!?」」
明らかに銃を撃って来た音だ。
檸檬はキョロッと辺りを見回し、一点に視点を絞る。
「500メートル先から狙撃してもらってんだぞ」
得意げに言うリボーン。
『ディーノだっ!』
「えぇ~っ!ディーノさんに~~~!!?ってか檸檬、500メートル先なのに見えるの~~~!!?」
『余裕!だってあたし、本気出せば視力6.2だもん』
「はぁ~っ!?」
檸檬の凄さを実感したツナ達。
「コレが次のトレーニングだ。飛んで来る弾をかわすんだぞ」
「オッケー!動体視力と反射神経を鍛えるんだな」
ニカッと笑う山本。
「ついでにツナもやれよ」
「なっ?!何言ってんだよ!ってか、何で狙撃とか頼んでんの!?死んじゃうって!!」
青ざめるツナに、
「まーまー、折角用意してくれたんだ。遊んでこーぜ」
「あのね山本!!」
あくまでも天然な山本。
そんな中檸檬は…『(ディーノ、日本に来てたんだぁ。会いたいなぁ)』とか思っていた。
「よし、行くぜツナ!俺が誘導すっから」
「えーーー!!」
走り出すツナと山本。
「獄寺もぶっぱなせよ」
「またっスか?……しかし…」
「それが山本の為だからな」
リボーンに言われ、ワクワクし始める獄寺。
「ならしょーがねーよな。悪く思うな山本、お前の為だ!」
ダイナマイトを用意し、
「10代目!!避けて下さい!!」
「うそーーー!!」
2人に向かって投げた。
ドガァン!
『(何か凄い事になった来たなぁ)』
思いっきり傍観者になっている檸檬。
『ねぇリボーン、』
「何だ?」
『あたし、ちょっとディーノに会って来るね♪』
「分かったぞ」
檸檬は静かに目を閉じた。
爆風の中、心を落ち着かせる。
そして、フッと目を開けた次の瞬間、物凄いスピードで走り出した。
ツナが見た限りでは、それは消えたようなもの。
「檸檬ーー!!?」
ただ、驚くばかり。
「あれが本当の檸檬の速さだぞ」
リボーンが言う。
「お前らもあぁなる為に、今トレーニングしてんだぞ」
「へぇー!」
「なれるワケないだろーーー!!!」
ツナの絶叫が響いた。
その頃…
「なぁ-ボス、俺達ぜってーヒマ人だと思われてますぜ?」
「俺はそう思われたいんだよ」
狙撃中のキャバッローネファミリーの皆様は、ビルの上でそんな会話をしていた。
と、そこに…
『ディーノーーっ!!!』
「ん?(この声……)」
キュキュキュキュキュ……ッ!!!
屋上のコンクリートが摩擦で黒くなった。
どうやら物凄い速さで来たらしい。
『ディーノっ!』
その黒い焦げ跡を作った張本人・檸檬は、目を丸くしているキャバッローネのボスに抱きついた。
『会いたかったよ、ディーノ!』
「なっ、檸檬!!」
ちゅ、
頬にキスをして、笑顔を見せる檸檬。
ディーノの顔は、これでもかと言うぐらいに赤くなる。
『ん?熱でもあるの?』
額に手を当てられれば、更に赤くなる。
「だっ、大丈夫だって!つーか檸檬、さっきまであっちにいたんじゃ……」
『久しぶりにディーノを見たから、飛んできたんだよ。そうそう、バレンタインの時ディーノにだけ渡せなかったから』
そう言って笑う檸檬を見て、ディーノは照れて顔を逸らす。
「すげー速さだなぁ」
『うんっ!だって、イタリアで修行したんだもんっ!』
「そーだな、檸檬はすげーヤツだったんだな」
フッと笑うディーノ。
目の前にいる無邪気な笑顔の少女が超一流のマフィアだという事を、たまに忘れてしまう。
そうすると、彼女はいつもみたいに膨れるのだ。
『ディーノってば、また子供扱いした…』
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」
檸檬の頭を撫でる
檸檬はその優しい感触に目を閉じる。
『そうだ!こんな事をしに来たんじゃないの!ねぇ、これからヒマ?』
「あぁ、まぁな」
『じゃーさ、あたしとお出かけしよっ♪』
「は!?」
吃驚した。
これってまるで、檸檬が俺をデートに誘ってるみてーじゃんか。
そんなつもり無いことは分かってるのに、すげ-嬉しい。
「おぅ、いいぜ」
平静を装うのが大変だった。
俺の返事を聞いて、檸檬は輝くように笑う。
『やったぁ!』
そして俺の腕に抱きつくんだ。
今すぐにでも抱きしめてーけど、部下達がいるから抑えておく。
「ロマ-リオ、頼めるか?」
「いいぜ、ボス」
俺は、自分の腕に引っ付いてる檸檬に言った。
「じゃぁ、檸檬が行きたいトコに行こっか!」
『ホント!?わーいっ!』
檸檬はすりよって来る。
俺の気持ちも知らね-で。
とりあえず俺達は、そのビルから出た。
『あのね、新しいカフェが出来たの!そこ行こうよ』
「あぁ」
俺の腕を離さない檸檬。
その笑顔は眩しい。
俺の方は、周りから見たらカップルに見えるだろうか……
なんて、さっきから下らね-事ばっか考えてる。
前に言われた。
『ディーノって、心配性のお兄ちゃんみたい』と。
どんだけがっかりしたか。しばらく凹んでたぐらいだ。
なのに今も、無邪気に俺に話しかけて、笑顔を向けて、抱きついて来る。
なぁ、檸檬。
お前は俺の事を大好きだって言ってくれるけど、
俺の方が、何百倍も檸檬の事好きだって、知らねーだろ。
『あちゃー、あんなに並んでる…』
ふと見ると、檸檬は哀しそうな顔をしていた。
「どーする?ここがいいんだろ?」
『うん…ここのホットチョコレートね、凄くおいしいって京子から聞いたから……』
そんな顔すんなよ…
どーしたものかと悩みかけた、その時。
『んー………あ!』
檸檬はポケットから何かを取り出した。
腕章??
『コレ見せればいいって、恭弥が言ってたの!』
“恭弥”?
誰だよ、それ。
あー、情けねぇ、また知らないやつに嫉妬しちまった。
『すみませーん……』
俺を店の外に待たせたまま、檸檬は店員に腕章を見せに行った。
すると、店員は顔を真っ青にして最優先で俺達を案内してくれた。
一体…何なんだ??
『コレ?風紀委員の腕章♪この辺りは並盛中の風紀委員のテリトリーなの。だから、逆らう人は恭弥に殺されちゃうんだよ』
さらっととんでもない事を言う檸檬。
「で、何で檸檬がそれを持ってんだ?」
『あたしも風紀委員だから』
カフェラテを飲む檸檬。
『ディーノ、ホットチョコレート嫌い…?』
俺が手をつけてない事に気付き、心配そうにする檸檬。
「そんな事ないぜ?」
『良かった!じゃぁこれ、ディーノへのバレンタインチョコって事でいい?』
俺は目を丸くした。
檸檬は本当に可愛い。
笑顔だけじゃない、心を開き始めて現れてきた人柄も……
「あぁ、いいぜ。ありがとな、檸檬」
『どういたしまして』
檸檬は嬉しそうに笑った。
---
-------
ディーノの声はいつもより優しくて、あったかかった。
あたしは、ディーノの声が好き。
ディーノの笑顔が好き。
ディーノのあったかさが好き。
まるで、全部包み込んでくれるような、優しい“お兄ちゃん”。
ずっとずっと、信じていても……いいよね?
『ディーノっ!』
カフェを出てから、公園に行った。
夕陽が綺麗。
「あんまり走るなよ」
『転んだりしないもんっ』
振り向いた先にいるディーノの金髪は、もっと綺麗。
ちょっと背伸びをしたら、海が見えた。
『わーっ!綺麗だねっ!』
あたしが笑ったら、ディーノは優しく微笑み返してくれる。
「そうだな…」
遠くを見つめるディーノの瞳の中にも、淡く光るオレンジが混ざっていて、あたしは思わず見入ってしまった。
『綺麗…』
「ん?」
ディーノがこっちを向いたから、急に恥ずかしくなって目を逸らす。
顔が赤いのは夕陽のせい、
そんなベタな答えしか言えないからさ、聞かないでね。
ディーノ、王子様フェイスなんだもん。
女のあたしが美しいって思うくらいだもん。
もっと自覚してよね!
「どーしたんだよ」
『んーと…イタリアって、あっちかなぁって思って』
言えないよ。
綺麗な横顔に見とれてました、なんて。
それに……
「そうなんじゃねーか?」
『そっかぁ……』
イタリアにいる9代目を除けば、信頼しきってる人はディーノぐらい。
新しい仲間、日本で出来た友達……
その優しさに触れる度に、いつまで続くのか考える。
こんな自分が嫌なのに、まだ縋ってる。
ディーノや9代目……信頼すべき存在は少なくていい…その考えに、縋ってる。
----
-------
流れる沈黙の中、気付かれないように檸檬の横顔を見た。
泣きそうな、壊れそうな、横顔。
まだ、怖がってんだな。
日本に来て、1年が経とうとしてる。
それでもその傷は癒えないのか…
空港で出会ったあの日の檸檬は、その瞳に光を宿してなかった。
戦う為に自分は在る……そう、訴えているような。
「檸檬、」
『なぁに?』
「行くぜ」
左手を差し伸べる。
檸檬は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って俺の手を握った。
『うんっ!』
あの日から、檸檬は随分と人間らしくなった。
感情表現も本当に自然に出来る程に。
けど……その中に巣食う闇は消えない。
まだ14だってのに、どうしてココまで酷い傷を隠し持っているのか。
繋いだ手の柔らかい感触は、こんなに心地良いのに。
夕陽の中で溢れる笑顔は、こんなに俺を温めるのに。
「檸檬、」
『ん?』
「今日、楽しかったな」
『うんっ!』
檸檬に腕を組まれるのもいいけど、
檸檬の手を握って歩くのも悪くないな。
「また、行こうな」
『いいの!?』
「あぁ」
『じゃぁ、迎えに来てね!』
一歩間違えればとんでもない発言。
でも、いつか迎えに行けたらいい。
そう思っちまう自分がいる。
まだ届かねーみてーだけど、いつか、きっと迎えに来てやるよ。
本当はな、すぐにでも連れて帰りたいんだ。
お前が俺を“最も信頼してる”枠内に入れてくれてるなら、尚更。
だけどそれじゃ、檸檬の心は成長を止めちまうから。
もっとたくさんの感情を知って、仲間と過ごす意味を、難しさを、知って欲しいから。
『……あ』
「ん?どーした?」
『キャバッローネのみんなにチョコ買わなくちゃ』
立ち止まって何を言うかと思えば、優しいヤツだな、檸檬は。
「いいって。俺が買っとくよ」
『え~っ…それじゃぁバレンタインじゃないみたい』
「檸檬からって言っとくからよ」
俺がそう言うと、檸檬は唸って悩んで、ぐっと顔を上げた。
『じゃ、そうしてもらう♪』
イヒヒッと見せた悪戯な笑顔も、俺の心を震わせる。
そう俺は…
いつだって、
どんな檸檬だって、
大切に思う。
愛しく思う。
俺は…
「大好きだぜ」
ぼそっと言ったその言葉。
檸檬の耳に届いたようで。
『ホント!?あたしもディーノがだぁい好きっ』
笑顔でそう返すもんだから、思わず抱きしめた。
『ディ、ディーノっ!!?』
「檸檬、ちょっとだけこーしてていいか?」
『う、うん……』
街の隅っこで、静かに檸檬の温もりを感じた。
そして、あぁ俺はこんなに檸檬が好きなんだ、って感じた。
離れたく、ねぇよ。
放したく、ねぇんだよ。
ホントは、もっと……
『ディーノ、大丈夫?』
「あぁ」
どうやら俺は、何か疲れてるんだと認識されたらしい。
鈍いな、ったく…
『あたしで良かったら、いつでも力になるからね』
「あぁ、ありがとな……」
バーカ、
檸檬が力になってくれたら、それが一番いいっての。
『じゃあね、ディーノ』
「あぁ、またな」
俺は檸檬をツナの家まで送った。
檸檬は俺が見えなくなるまで手を振ってくれた。
勿論俺も。
「さぁて、帰るか!」
ロマ-リオに電話する。
なぁ、檸檬……
いつか気付けよな。
俺は待てねーからさ、
チャンスがあれば何でもするぜ?
---
--------
『ただいま~っ』
「お帰り、檸檬」
『ツナっ!』
ちゅ、
「わっ!!」
『ツナがお出迎えなんて珍しいね。そうだ、今日の武のトレーニングはどうだった?』
「それが…」
「成功だぞ」
リボーンが割り込んで来た。
「リボーンってば、山本にバット渡してさ、それが速く振り回すと刀になるやつで……」
『すっごーい!カッコいいねっ!』
「山本も気に入ったしな」
『良かったじゃん、ツナ。武が強くなれば、ボンゴレも安泰だし』
「えぇ~っ!?そっちに持ってくの~~~!!?」
檸檬が家庭教師補佐だと言う事を、改めて思い知らされたツナでした。
================
オマケ
後日。
「もしもし。あぁ、リボーンか」
「ディーノ、こないだはサンキューな」
「いーんだよ。あの後、檸檬にチョコ貰ったし」
「そーか。俺も貰ったぞ」
「リボーンも!?」
「手作りチョコの、エスプレッソ味だ。俺専用に作ったそうだ」
「なっ…(手作り!!?)」
「美味かったぞ」
イヤミかよ、リボーン…
どうせなら俺も、手作りが欲しかった…。
キンッ!
バッティング練習をする人物が1人。
彼が打ったボールは、ホームランゾーンの数cm左のネットに当たる。
「ちっ、」
彼、山本武はバットを肩に乗せて舌打ちをした。
しばらくして、練習を終えた山本。
「おっちゃん、今朝はこれくらいにしとくわ」
「なんだよ、もっと打ってきゃいーじゃねーか。どーせ学校じゃいつも寝てんだろ?」
「ちぇ、言ってくれるぜ」
苦笑いをして、「いつもの」と言いながら小銭を出す。
バッティングセンターのおじさんは、紙パックの牛乳を1つ、山本に差し出しながら言う。
「しかし大したもんだな。中坊のくせして130キロの球ガンガンネットまで運んじまうってさあ」
「ハハハッ、まだまだだって。変化しねー球ぐらい全部狙った所に打てねーとさ」
牛乳を飲みながらそう言う山本。
「へっ!とんでもねー事を簡単に言いのけやがって」
おじさんは笑った。
すると、
「その為にもトレーニングをするぞ」
何処からか、聞き覚えのある声が。
山本が振り向くと、ベンチの上に野球の監督の恰好をしたリボーンが。
「ちゃおっ…ス……」
「お、小僧じゃねーか」
次の瞬間、リボーンはそのままそこに倒れ込んだ。
鼻からは“ちょうちん”を出して。
「どこの赤ん坊だ!?」
とまどうおじさんに対し、山本は笑う。
「無理して起きてきたんだな。面白ぇ!!」
とりあえず、自分の家に連れて帰る事にした。
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プルルルル…プルルルル…
その朝、ツナの家の電話が鳴った。
「………まぁ!すぐツナを行かせますね!」
『奈々さん、おはようございます。こんな朝早くに、どうかしたんですか?』
「あら檸檬ちゃん、おはよう。今、山本君から電話があってね、リボーン君が山本君ちにいるみたいなのよ」
『えぇっ!?リボーンが!?』
一応まだ、1歳の赤ちゃんなのに!
こんなに朝早く!?
「檸檬ちゃん、悪いんだけど、ツナ起こして来てくれない?」
『は、はい!』
あたしは階段を駆け上がった。
ツナの部屋のドアをバーンと開ける。
『ツナっ!起きて、ツナ!!』
「ん~………檸檬!」
『おはよっ!』
ちゅ、
「わわっ!(な、何か久しぶりで吃驚した……)で、どしたの?」
『リボーンが、武のトコにいるんだって!』
「はぁ!!?」
あたし達は急いで着替えてリボーンを迎えに行った。
でも、どうしてツナは制服なんだろう??
「ごめん山本!リボーンが朝から迷惑かけて!」
『朝早く失礼しますっ』
武の家に来るのは久しぶりだった。
「おぉ!ツナ君、檸檬ちゃん、いらっしゃい!」
『おはようございます!』
武のお父さんに軽くお辞儀をする。
「よぉ、ツナ!檸檬!」
見ると、リボーンはちょこんと席に着いて、お寿司を食べていた。
「ったく、朝から何やってんだよ!!寿司までごちそうになって!」
『いいなぁ、リボーン…』
あたしがよほど羨ましそうにしてたのか、リボーンは中トロをくれた。
『わぁっ!ありがとうっ!』
やっぱりお寿司はおいしいなぁ~…
幸せに浸るあたし。
「まーまー、ツナ。今日は俺の為に来てくれたみたいだぜ?」
「山本の為に………?」
リボーンはお茶を飲みながら答える。
「そーだぞ。伸び悩んでる山本をパワーアップしてやろうと思ってな」
「何言ってんだよ!野球で山本がお前に教わる事なんて何もないよ!!」
反論するツナに、リボーンは目を光らせた。
「誰が野球って言った?」
「(何かたくらんでるーーー!!)」
その後リボーンが今日が開校記念日だと言う事を2人に告げ、武のお父さんに笑われた所で、リボーンによる武のトレーニングをやる事になった。
「おしっ!今日は小僧にトレーナー任すからな」
ニカッと笑う武に、何も言えずに呆然と立ち尽くすツナ。
『武ーっ!頑張って♪』
「おう!」
手を振るあたしに、武は手を振り返す。
「檸檬、」
『ん?』
「山本、トレーニングごっこだと思ってるよね…」
『うん、そうみたいだね。でも、それで強くなれるならいんじゃない?』
あたしは自然と微笑んだ。
武が強くなる事は、あたしにとっても嬉しい事。
そしたらツナは、何故かホッペを赤くした。
「まずはピッチングだ。あの柱の印の所目掛けて投げてみろ」
リボーンは武に小さい野球ボールを渡した。
「可愛いボールだなっ」
「ちゃんと野球じゃん…」
『甘いね、ツナ』
「え?」
『あれ、よく見てみなよ』
檸檬の言葉に首をかしげるツナ。
山本は思いっきり投げた。
ビュッ
ジャキーン
ドガァンッ…
柱が、砕けた。
「なっ!」
「ん?」
目を見開く2人と、ニッと笑うリボーンと檸檬。
「こいつがボンゴレ企画開発部に発注していた岩をも砕く“投の武器・マイクロハンマー”だ」
リボーンの手の中には、小さいボールにトゲの生えた物体が。
『すごいっ!企画開発部の新作って事!?わぁーっ!いいな~』
「んなーーっ!?お前、山本に武器持たせようとしてんのーーー!!?山本をお前らのそーゆーへんてこな世界に引きずり込むなって言ってんだろ!?」
叫ぶツナに対し、
「おいツナ、よく見ろって。あの柱、発泡スチロールだって。あーやって俺に自信を持たせよーとしてくれてんのかもな」
笑顔の山本。
檸檬は山本の天然加減にふっと吹き出す。
「次、行くぞ」
「よーし、頼むぜ!トレーナー」
山本はリボーンを肩に乗せて移動し始める。
ツナはくるっと向きを変え、砕けた柱の元へ。
『ツナ?』
「檸檬……これさ、めっさコンクリートだよね…」
『そうだねっ!』
にっこりと笑う檸檬。
「(何で笑顔なの…?可愛いけど…)」
『とりあえず、あたし達も行こう』
「う、うん」
その時。
「10代目ーーーっ!」
『隼人!』
「獄寺君!」
何処からともなく走って来た獄寺。
その表情は、何故か嬉しそう。
「とうとう山本クビっスか?」
第一声がそれ。
「(話作って来てるーーー!!)」
『アハハ!んなワケないじゃん。隼人ったら、早とちり~。あ!これ、何か駄洒落になってない!?』
すごいすごい、とはしゃぐ檸檬。
獄寺はがっくりと肩を落とす。
「あのね…リボーンが山本に武器を持たせようとしてて…」
「なっ!?」
獄寺は焦ったような表情をする。
と、そこに、リボーンを担いだ山本が。
「よぉ」
「ちゃおっス」
「(10代目とリボーンさん、それに檸檬まで山本の為に……)」
ワナワナと震える獄寺。
『隼人?』
「檸檬、俺はなぁ、山本は生えてる草を投げる攻撃とかいいと思うぜ……」
そう言いつつ、側に生えていた雑草を摘み取って投げる獄寺。
「(獄寺君…)」
『あっはは!隼人ったら何してんの~っ!?それじゃぁ敵を倒すどころか、自分を守る事も出来ないじゃん』
けらけらと笑う檸檬を、獄寺は下から睨んでいた。
「それじゃぁ、次の武器は……こいつだ」
リボーンは懐からバットを取り出した。
(どうやってしまっていたのやら)
「な!」
「バット!!」
ツナはまた絶望を見たような顔をして、口をあんぐり開ける。
この表情も可愛いな、と檸檬は思っていた。
「へー、トレーニング用のバットかー」
山本はそれを受け取る。
「お、ウェイト入ってら。結構重いな」
「グリップの先を覗いてみろ」
言われた通りに覗く山本。
「なんだ、望遠鏡かー」
「(納得しちゃうのー!!)」
『えっ!あたしも見たーいっ!』
檸檬は山本に駆け寄る。
「いいぜ、ほら。重いから気をつけろよ」
『うん♪』
檸檬も覗いてみる。
『ホントだ!よく見えるーっ!』
はしゃぎながら、山本にそれを返す。
「流石リボーンさん!山本にぴったりだ!」
「どーやって戦うんだよ!!」
と、その時。
望遠鏡を覗いていた山本が、何かに反応する。
チュイーンッ
「「なっ!?」」
明らかに銃を撃って来た音だ。
檸檬はキョロッと辺りを見回し、一点に視点を絞る。
「500メートル先から狙撃してもらってんだぞ」
得意げに言うリボーン。
『ディーノだっ!』
「えぇ~っ!ディーノさんに~~~!!?ってか檸檬、500メートル先なのに見えるの~~~!!?」
『余裕!だってあたし、本気出せば視力6.2だもん』
「はぁ~っ!?」
檸檬の凄さを実感したツナ達。
「コレが次のトレーニングだ。飛んで来る弾をかわすんだぞ」
「オッケー!動体視力と反射神経を鍛えるんだな」
ニカッと笑う山本。
「ついでにツナもやれよ」
「なっ?!何言ってんだよ!ってか、何で狙撃とか頼んでんの!?死んじゃうって!!」
青ざめるツナに、
「まーまー、折角用意してくれたんだ。遊んでこーぜ」
「あのね山本!!」
あくまでも天然な山本。
そんな中檸檬は…『(ディーノ、日本に来てたんだぁ。会いたいなぁ)』とか思っていた。
「よし、行くぜツナ!俺が誘導すっから」
「えーーー!!」
走り出すツナと山本。
「獄寺もぶっぱなせよ」
「またっスか?……しかし…」
「それが山本の為だからな」
リボーンに言われ、ワクワクし始める獄寺。
「ならしょーがねーよな。悪く思うな山本、お前の為だ!」
ダイナマイトを用意し、
「10代目!!避けて下さい!!」
「うそーーー!!」
2人に向かって投げた。
ドガァン!
『(何か凄い事になった来たなぁ)』
思いっきり傍観者になっている檸檬。
『ねぇリボーン、』
「何だ?」
『あたし、ちょっとディーノに会って来るね♪』
「分かったぞ」
檸檬は静かに目を閉じた。
爆風の中、心を落ち着かせる。
そして、フッと目を開けた次の瞬間、物凄いスピードで走り出した。
ツナが見た限りでは、それは消えたようなもの。
「檸檬ーー!!?」
ただ、驚くばかり。
「あれが本当の檸檬の速さだぞ」
リボーンが言う。
「お前らもあぁなる為に、今トレーニングしてんだぞ」
「へぇー!」
「なれるワケないだろーーー!!!」
ツナの絶叫が響いた。
その頃…
「なぁ-ボス、俺達ぜってーヒマ人だと思われてますぜ?」
「俺はそう思われたいんだよ」
狙撃中のキャバッローネファミリーの皆様は、ビルの上でそんな会話をしていた。
と、そこに…
『ディーノーーっ!!!』
「ん?(この声……)」
キュキュキュキュキュ……ッ!!!
屋上のコンクリートが摩擦で黒くなった。
どうやら物凄い速さで来たらしい。
『ディーノっ!』
その黒い焦げ跡を作った張本人・檸檬は、目を丸くしているキャバッローネのボスに抱きついた。
『会いたかったよ、ディーノ!』
「なっ、檸檬!!」
ちゅ、
頬にキスをして、笑顔を見せる檸檬。
ディーノの顔は、これでもかと言うぐらいに赤くなる。
『ん?熱でもあるの?』
額に手を当てられれば、更に赤くなる。
「だっ、大丈夫だって!つーか檸檬、さっきまであっちにいたんじゃ……」
『久しぶりにディーノを見たから、飛んできたんだよ。そうそう、バレンタインの時ディーノにだけ渡せなかったから』
そう言って笑う檸檬を見て、ディーノは照れて顔を逸らす。
「すげー速さだなぁ」
『うんっ!だって、イタリアで修行したんだもんっ!』
「そーだな、檸檬はすげーヤツだったんだな」
フッと笑うディーノ。
目の前にいる無邪気な笑顔の少女が超一流のマフィアだという事を、たまに忘れてしまう。
そうすると、彼女はいつもみたいに膨れるのだ。
『ディーノってば、また子供扱いした…』
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」
檸檬の頭を撫でる
檸檬はその優しい感触に目を閉じる。
『そうだ!こんな事をしに来たんじゃないの!ねぇ、これからヒマ?』
「あぁ、まぁな」
『じゃーさ、あたしとお出かけしよっ♪』
「は!?」
吃驚した。
これってまるで、檸檬が俺をデートに誘ってるみてーじゃんか。
そんなつもり無いことは分かってるのに、すげ-嬉しい。
「おぅ、いいぜ」
平静を装うのが大変だった。
俺の返事を聞いて、檸檬は輝くように笑う。
『やったぁ!』
そして俺の腕に抱きつくんだ。
今すぐにでも抱きしめてーけど、部下達がいるから抑えておく。
「ロマ-リオ、頼めるか?」
「いいぜ、ボス」
俺は、自分の腕に引っ付いてる檸檬に言った。
「じゃぁ、檸檬が行きたいトコに行こっか!」
『ホント!?わーいっ!』
檸檬はすりよって来る。
俺の気持ちも知らね-で。
とりあえず俺達は、そのビルから出た。
『あのね、新しいカフェが出来たの!そこ行こうよ』
「あぁ」
俺の腕を離さない檸檬。
その笑顔は眩しい。
俺の方は、周りから見たらカップルに見えるだろうか……
なんて、さっきから下らね-事ばっか考えてる。
前に言われた。
『ディーノって、心配性のお兄ちゃんみたい』と。
どんだけがっかりしたか。しばらく凹んでたぐらいだ。
なのに今も、無邪気に俺に話しかけて、笑顔を向けて、抱きついて来る。
なぁ、檸檬。
お前は俺の事を大好きだって言ってくれるけど、
俺の方が、何百倍も檸檬の事好きだって、知らねーだろ。
『あちゃー、あんなに並んでる…』
ふと見ると、檸檬は哀しそうな顔をしていた。
「どーする?ここがいいんだろ?」
『うん…ここのホットチョコレートね、凄くおいしいって京子から聞いたから……』
そんな顔すんなよ…
どーしたものかと悩みかけた、その時。
『んー………あ!』
檸檬はポケットから何かを取り出した。
腕章??
『コレ見せればいいって、恭弥が言ってたの!』
“恭弥”?
誰だよ、それ。
あー、情けねぇ、また知らないやつに嫉妬しちまった。
『すみませーん……』
俺を店の外に待たせたまま、檸檬は店員に腕章を見せに行った。
すると、店員は顔を真っ青にして最優先で俺達を案内してくれた。
一体…何なんだ??
『コレ?風紀委員の腕章♪この辺りは並盛中の風紀委員のテリトリーなの。だから、逆らう人は恭弥に殺されちゃうんだよ』
さらっととんでもない事を言う檸檬。
「で、何で檸檬がそれを持ってんだ?」
『あたしも風紀委員だから』
カフェラテを飲む檸檬。
『ディーノ、ホットチョコレート嫌い…?』
俺が手をつけてない事に気付き、心配そうにする檸檬。
「そんな事ないぜ?」
『良かった!じゃぁこれ、ディーノへのバレンタインチョコって事でいい?』
俺は目を丸くした。
檸檬は本当に可愛い。
笑顔だけじゃない、心を開き始めて現れてきた人柄も……
「あぁ、いいぜ。ありがとな、檸檬」
『どういたしまして』
檸檬は嬉しそうに笑った。
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ディーノの声はいつもより優しくて、あったかかった。
あたしは、ディーノの声が好き。
ディーノの笑顔が好き。
ディーノのあったかさが好き。
まるで、全部包み込んでくれるような、優しい“お兄ちゃん”。
ずっとずっと、信じていても……いいよね?
『ディーノっ!』
カフェを出てから、公園に行った。
夕陽が綺麗。
「あんまり走るなよ」
『転んだりしないもんっ』
振り向いた先にいるディーノの金髪は、もっと綺麗。
ちょっと背伸びをしたら、海が見えた。
『わーっ!綺麗だねっ!』
あたしが笑ったら、ディーノは優しく微笑み返してくれる。
「そうだな…」
遠くを見つめるディーノの瞳の中にも、淡く光るオレンジが混ざっていて、あたしは思わず見入ってしまった。
『綺麗…』
「ん?」
ディーノがこっちを向いたから、急に恥ずかしくなって目を逸らす。
顔が赤いのは夕陽のせい、
そんなベタな答えしか言えないからさ、聞かないでね。
ディーノ、王子様フェイスなんだもん。
女のあたしが美しいって思うくらいだもん。
もっと自覚してよね!
「どーしたんだよ」
『んーと…イタリアって、あっちかなぁって思って』
言えないよ。
綺麗な横顔に見とれてました、なんて。
それに……
「そうなんじゃねーか?」
『そっかぁ……』
イタリアにいる9代目を除けば、信頼しきってる人はディーノぐらい。
新しい仲間、日本で出来た友達……
その優しさに触れる度に、いつまで続くのか考える。
こんな自分が嫌なのに、まだ縋ってる。
ディーノや9代目……信頼すべき存在は少なくていい…その考えに、縋ってる。
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流れる沈黙の中、気付かれないように檸檬の横顔を見た。
泣きそうな、壊れそうな、横顔。
まだ、怖がってんだな。
日本に来て、1年が経とうとしてる。
それでもその傷は癒えないのか…
空港で出会ったあの日の檸檬は、その瞳に光を宿してなかった。
戦う為に自分は在る……そう、訴えているような。
「檸檬、」
『なぁに?』
「行くぜ」
左手を差し伸べる。
檸檬は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って俺の手を握った。
『うんっ!』
あの日から、檸檬は随分と人間らしくなった。
感情表現も本当に自然に出来る程に。
けど……その中に巣食う闇は消えない。
まだ14だってのに、どうしてココまで酷い傷を隠し持っているのか。
繋いだ手の柔らかい感触は、こんなに心地良いのに。
夕陽の中で溢れる笑顔は、こんなに俺を温めるのに。
「檸檬、」
『ん?』
「今日、楽しかったな」
『うんっ!』
檸檬に腕を組まれるのもいいけど、
檸檬の手を握って歩くのも悪くないな。
「また、行こうな」
『いいの!?』
「あぁ」
『じゃぁ、迎えに来てね!』
一歩間違えればとんでもない発言。
でも、いつか迎えに行けたらいい。
そう思っちまう自分がいる。
まだ届かねーみてーだけど、いつか、きっと迎えに来てやるよ。
本当はな、すぐにでも連れて帰りたいんだ。
お前が俺を“最も信頼してる”枠内に入れてくれてるなら、尚更。
だけどそれじゃ、檸檬の心は成長を止めちまうから。
もっとたくさんの感情を知って、仲間と過ごす意味を、難しさを、知って欲しいから。
『……あ』
「ん?どーした?」
『キャバッローネのみんなにチョコ買わなくちゃ』
立ち止まって何を言うかと思えば、優しいヤツだな、檸檬は。
「いいって。俺が買っとくよ」
『え~っ…それじゃぁバレンタインじゃないみたい』
「檸檬からって言っとくからよ」
俺がそう言うと、檸檬は唸って悩んで、ぐっと顔を上げた。
『じゃ、そうしてもらう♪』
イヒヒッと見せた悪戯な笑顔も、俺の心を震わせる。
そう俺は…
いつだって、
どんな檸檬だって、
大切に思う。
愛しく思う。
俺は…
「大好きだぜ」
ぼそっと言ったその言葉。
檸檬の耳に届いたようで。
『ホント!?あたしもディーノがだぁい好きっ』
笑顔でそう返すもんだから、思わず抱きしめた。
『ディ、ディーノっ!!?』
「檸檬、ちょっとだけこーしてていいか?」
『う、うん……』
街の隅っこで、静かに檸檬の温もりを感じた。
そして、あぁ俺はこんなに檸檬が好きなんだ、って感じた。
離れたく、ねぇよ。
放したく、ねぇんだよ。
ホントは、もっと……
『ディーノ、大丈夫?』
「あぁ」
どうやら俺は、何か疲れてるんだと認識されたらしい。
鈍いな、ったく…
『あたしで良かったら、いつでも力になるからね』
「あぁ、ありがとな……」
バーカ、
檸檬が力になってくれたら、それが一番いいっての。
『じゃあね、ディーノ』
「あぁ、またな」
俺は檸檬をツナの家まで送った。
檸檬は俺が見えなくなるまで手を振ってくれた。
勿論俺も。
「さぁて、帰るか!」
ロマ-リオに電話する。
なぁ、檸檬……
いつか気付けよな。
俺は待てねーからさ、
チャンスがあれば何でもするぜ?
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『ただいま~っ』
「お帰り、檸檬」
『ツナっ!』
ちゅ、
「わっ!!」
『ツナがお出迎えなんて珍しいね。そうだ、今日の武のトレーニングはどうだった?』
「それが…」
「成功だぞ」
リボーンが割り込んで来た。
「リボーンってば、山本にバット渡してさ、それが速く振り回すと刀になるやつで……」
『すっごーい!カッコいいねっ!』
「山本も気に入ったしな」
『良かったじゃん、ツナ。武が強くなれば、ボンゴレも安泰だし』
「えぇ~っ!?そっちに持ってくの~~~!!?」
檸檬が家庭教師補佐だと言う事を、改めて思い知らされたツナでした。
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オマケ
後日。
「もしもし。あぁ、リボーンか」
「ディーノ、こないだはサンキューな」
「いーんだよ。あの後、檸檬にチョコ貰ったし」
「そーか。俺も貰ったぞ」
「リボーンも!?」
「手作りチョコの、エスプレッソ味だ。俺専用に作ったそうだ」
「なっ…(手作り!!?)」
「美味かったぞ」
イヤミかよ、リボーン…
どうせなら俺も、手作りが欲しかった…。