未来編序章
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実の父に歯向かう為、
立ち上がったあたし達。
だけど、
ハードルは高すぎた。
父の脅迫
「出るって…何処に?」
『外にだよ!蜜柑、出たくないの?』
「でも、外にはパパが……」
確かに、部屋の外に出る為にはお父さんを超えなきゃならない。
だけど、
お父さんがいるからって、恐がって此所でうずくまってるワケにはいかないの!!
『蜜柑が来ないなら、あたし1人でも出る。』
「ま、待って!」
ドアのぶに手をかけようとした瞬間、蜜柑が叫んだ。
「そのドアは内側から開けようとすると、強い電流が流れて来るの!危ないわ!」
『そう…だったら………』
足の筋力を最大限に引き出して、あたしはドアを蹴る。
「姉さん!!」
『蜜柑……あたしは、この部屋にとどまるつもりはないの。ごめんね。』
ドガガッ、
金具の一部が外れ、ドアが半壊した。
『ふぅっ…』
「す、すごい……!」
あたしは大きな穴から外に出る。
そこは、廃屋の中の広い1室のようだった。
『じゃーね、蜜柑…』
「待って!!わ、私……私も行く!!」
蜜柑の肩は僅かに震えていて、両手で拳が作られていた。
「わ、私も…出たいから……!」
『蜜柑………分かった。行こう♪』
蜜柑に手を差し伸べる。
恐る恐る部屋から出る蜜柑の手には、ピストルが握られていた。
『それ、どしたの?』
「パパから使い方習ったの。あたしに一番合う武器は、コレだって。」
『使えるの?』
「あの部屋で練習はした。でも外に出てないから、実戦はした事ないの。」
『そっかぁ……』
話しながらも、あたし達は進んだ。
廃屋から脱出する為に。
---
------
------------
「檸檬の母親が、そのカジノの事件とどう関係してんだ?」
リボーンがディーノさんに尋ねる。
ディーノさんは、カバンから取り出した新しい書類に目を通しながら話し始めた。
「檸檬の母親・雨宮揚羽はな、生まれながらに第六感を持ち合わせていたらしい。」
「だ、第六感!!?」
「んなオカルトな……!」
「すげー…。」
いきなり信じ難い話が持ち込まれ、ツナ達は少し驚く。
「雨宮揚羽は幼い頃、その霊感を買われ神社に預けられた。その神社はもう無いが、元神主に話を聞く事が出来た。」
ツナがちらりと後ろを見ると、ドアにもたれ掛かった雲雀は目を瞑って静かに聞いていた。
「預けられる直前、揚羽は神主にこう尋ねたらしい。」
---「私を受け入れれば此所の神社は崩壊しますが、それでも宜しいですか?」
「ほ、崩壊??」
「その頃、揚羽の霊感は認められていたが、未来視の事は誰も知らなかった。だから、神主も気に止めなかった。」
ディーノがそこまで言うと、山本が口を挟んだ。
「ディーノさんさっき、“その神社はもう無い”って……」
「あぁ、もう無い。未来視が当たったんだ。」
「そ、そんな偶然……」
「偶然じゃない。揚羽の未来視が外れたことは、今まで一度もないそうだ。これは、神主の息子から聞いた話なんだが………」
---
-------
ある、晴れた日。
いつものように神社の周りを掃除する揚羽。
---「おはようございます、揚羽さん。」
---「おはようございます。」
神社の鳥居の側には、少し大きな夏ミカンの木が植えられていて。
その実が熟して来たのを見てると、揚羽が言った。
---「お食べにならないのですか?」
---「もう少し熟したら食べようかと思って…。」
---「早くなさらないと、午後にはもうカラスに取られますよ。」
まさかと思って1つだけ刈り取っておいた。
そして他の実がどうなるか見ていると…
午前11時55分、
カラスの大群がやってきて、全ての実を食い尽くしてしまった。
---
--------
「他にもこんな事が何回も起こり、神主は確信した。揚羽は、未来視が出来るのだと。」
「つまり、雨宮揚羽がSWATの突入を先読みしてたんでしょ。」
「そーだぜ恭弥、よく分かったな。」
「うるさい、早く続き。」
「わーったよ。」
ぶすっとする雲雀に、ディーノは苦笑いをする。
「実は、9代目が檸檬を引き取った時、雨宮兜がこう言ったそうだ。」
---「せいぜい気を付けてください。檸檬は……災いをもたらす存在になる可能性を秘めてるんで。」
「わ、災い??」
「9代目の察するところ、恐らく檸檬は揚羽の未来視を受け、その結果邪魔者扱いされていたんだろう。」
「未来視でかよ!!」
「随分とひでーな…。」
「それで、ストリートファイト場に捨てられてたってワケか。これで全てが繋がったな。」
リボーンがまとめた。
「あぁ、これで基礎知識は終わりだ。あとは……」
「それで、檸檬をさらった彼らの潜伏場所は何処なの?」
ディーノの言葉を遮り、雲雀が問う。
「……それが問題なんだ。」
「ど、どういう事ですか?」
「雨宮揚羽の事だ。恐らく、最も見つかりにくい場所を選んだに違いない。実際、今現在もそれらしきトコは見つかってないからな。」
「そ、そんなぁ……」
肩を落とすツナ。
一方、リボーンはディーノに聞く。
「飛行機の予約リストに、雨宮の名は?」
「いや、1つもない。1週間後まで調べたが、雨宮の名も、それらしき仮名も、全く無かった。」
「聞いたか、お前達。こいつは朗報だぞ。」
「え?」
「というと…?」
「どーゆー事だ?」
疑問符を浮かべるツナ達に対し、雲雀は口角を上げた。
「少なくともあと1週間あるんだね……。」
「あぁ。」
「そ、そっか!」
ほんの少しだけ見えた希望に、
場にいる全員が僅かに安堵した。
が、一方では、
絶望の前兆が見え始めていた。
---
------
---------------
「はっ……はっ……」
『蜜柑、大丈夫?』
十数分彷徨い続けて、追っ手をかわし続けて分かった事がある。
此所には、お父さんの仲間がたくさんいるって事。
此所は、前来た時よりも入り組んでるって事。
此所が、
黒曜ランドだという事。
『ったく…どーしてこの場所を…』
「姉さん、私…………」
ふと気がつくと、蜜柑は震えていた。
手も、足も、体全部。
『そっか、外に出るの始めてなんだもんね。大丈夫、そんな怖い世界じゃないから。』
数年前まで、あたしもこんな状態だったのかな。
外が怖くて、殴られるのが怖くて。
外に出る=殴られる
だったもんね…。
それでもあたしは、死にたくなかったから。
弱い自分が許せなかったから。
『蜜柑、も少し休む?』
「ううん、行く。」
震えてるのをぐっと堪えて、蜜柑はあたしを見つめた。
『じゃぁ、行こうか。』
ちょっと入り組んでるけど、未知の領域ってワケじゃない。
出口の場所は大体分かる。
いざとなったら超五感や透視使えばいいし。
階段を降りて、
廊下を駆けて、
広場に出た。
『此所は………』
忘れもしない。
ツナと骸の影武者さんが戦った場所。
「姉さん………」
『え?』
震える声で蜜柑があたしを呼んで、右袖をつまんだ。
振り向くあたしの奥を、蜜柑は指差す。
『(まさか……)』
一番嫌な事態が起こったのかもしれない。
あたしは恐る恐るそちらを向いた。
その先には…
「人を指差すな、と教えたはずだぞ。蜜柑。」
やっぱり、一番出会いたくなかった人が。
最大の難関が。
「姉妹揃って逃避行でもするつもりか?」
「パパ………」
『えぇ!そうよ!此処にいるのはごめんだから。』
あたしが強気で言うと、お父さんは怪しく笑った。
「お前達が逆らうと、どうなるか分からないのか?」
「『え…?』」
一瞬脳裏を横切った、嫌な予感。
あたしは思わず拳を作る。
『まさか…』
「察しはいいようだな。檸檬、お前に関わった者は全て消える。あの学校を、街ごと潰してやってもいいぞ。」
『そんな事させない!絶対に!!』
ホントに、何処までコイツは嫌な奴なんだろう。
「蜜柑、お前は分かってるな?」
「は、はい……」
『蜜柑に何をするつもり!?』
怯える蜜柑を後ろに隠して、あたしはお父さんに問う。
すると、また怪しく笑うんだ。
「IQ200と言われるその脳を、売り渡すのさ。金になるだろう?それだけじゃない。蜜柑の臓器は全て金にしてやるつもりだ。」
『な、何て事を……!』
それが、娘に言う事!!?
『ふざけないで!!あたしは絶対………!』
「ならば、試してみるか?お前が俺に勝てるかどうか。」
挑発するお父さん。
背後にいる蜜柑は震える声であたしに言う。
「ダメ、姉さん………傷口が……!」
『やる。』
「ね、姉さん!!」
蜜柑が叫んだけど、あたしはお父さんに勝負を挑む。
コイツを倒さないと、此所から出られない。
「そうか……ならば受けて立とう。」
そう言った直後、奴は姿を消した。
超五感で追ってみる。
『(……………左!!!)』
攻撃をかわしてかわして、あたしはナイフを手にする。
だけど…
『(そこだ!!)』
切るのは奴の残像のみ。
それくらい、奴も速いって事。
あたしの俊足や剛腕は、所詮“女の力”の最大限。
だから、“男の力”の最大限には及ばない。
でも何とか知恵を絞れば…
そう考えていたら、奴が急に方向転換した。
その先にいたのは…
『蜜柑っ!!』
「お前から潰そうか、蜜柑。」
「きゃ、キャアアア!!!」
奴の拳が蜜柑に当たる、その前に。
『ダメっ…!!』
ドガッ、
「ん?」
「あ……!」
殴られて、吹っ飛ばされたのは、
『っつ~~~…』
あたし。
「ね、姉さんっ!!」
『来ちゃダメ…』
駆け寄ろうとする蜜柑を止める。
すると、お父さんは大声で笑い始めた。
「やはり愚かに育ったなぁ!!檸檬!」
『うるさい……!』
立ち上がろうとしたら、こないだ刺された傷が痛んだ。
『つっ……!!』
「どうした?もう限界か?」
素早くあたしの目の前に来たお父さんは、あたしの首を掴んで持ち上げた。
『あっ………!!』
「檸檬、お前のやってる事は、全て無駄だ。」
急に、何を言い出すの?
「心を失くせ。俺の為に働け。」
『だ…れが………』
反抗しようとすると、首を絞める力が強まる。
どうしてあたしは、こんな奴に勝てないんだろう。
あたし、どうしてこんなに苦しめられてるんだろう。
「俺の為に働くのなら、一生を保障してやる。」
こんな奴の為に……?
笑わせないでよ。
嫌だ……
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
痛みも、
苦しみも、
怒りも、
憎しみも、
哀しみも、
全部全部瞳に映して、お父さんを睨みつける。
「…まだそんな目をするのか?どこまでも愚かな娘だ。」
何て言われても構わない。
だけど、あんたの言いなりだけは御免被るから。
「檸檬、お前は………昔の方が強かったな。」
『は……?』
「CRAZY DANCERの方が、雨宮檸檬よりも強かった。」
昔の方が強かった…?
今度は何を言い出すのよ、冗談じゃない。
あたしは、護る為に強くなった。
仲間が出来たから強くなった。
それなのに、
空っぽだったあの頃に劣る?
ふざけないでよ。
そんなのあり得ない。
「よく聞け、檸檬。護る力などこの世に必要ない。なぜなら、壊せばいいからだ。」
うるさい…
「攻めは最大の守り、という言葉を知ってるだろう?」
黙れ……
「あの頃の檸檬は自分の命のみを想い、自分に襲い掛かる者を排除していた。」
やめて…
「しかし今はどうだ?余計なモノを手にし過ぎて、余計な念が生まれている。」
やめてよ……
「今のお前は、護る対象を見つけて自分の存在意義を作ろうとしているだけだ。」
悔しい……
悔しいよ………
護る為に、戦って来た。
護る事だけを、考えていた。
それがいつしか、絆になった。
そんな、気がした。
「檸檬、お前に問いたい事がある。」
絞められてる首の痛みは、
麻痺したせいか、ほとんど感じない。
そんな中、お父さんは口を開いた。
「To be or Not to be.」
シェイクスピア………?
---[生きるか死ぬか]
「お前が生きる道はただ1つ、俺の元で働く道だ。心のない、戦闘の駒となって。」
絶対、いや…
「心を捨てずに、俺に従わない場合は、今此所でお前の人生は終わる。生まれ変わるのを待つんだな。」
「そんな、姉さん……!」
「選べ。」
あたしの首が、やっと放された。
だけど、ほとんど酸欠状態で動けない。
あたしは…
死にたくない。
コイツにだけは、
殺されたくないの。
ねぇ神様、
どうしてこんな奴が、
あたしの親なんですか?
護る力が必要ない世の中で、
あたしはどうやって生きればいいんですか?
痛みも、
苦しみも、
怒りも、
憎しみも、
哀しみも、
全部全部捨てて。
そうすれば、
きっと何も怖くないから。
もう絶望に溺れる事はないから。
ただ少し、
ほんの少し後ろ髪を引かれるのだけれど。
『…………生きる……』
心さえ、捨ててしまえば……
生きることを、許される……
立ち上がったあたし達。
だけど、
ハードルは高すぎた。
父の脅迫
「出るって…何処に?」
『外にだよ!蜜柑、出たくないの?』
「でも、外にはパパが……」
確かに、部屋の外に出る為にはお父さんを超えなきゃならない。
だけど、
お父さんがいるからって、恐がって此所でうずくまってるワケにはいかないの!!
『蜜柑が来ないなら、あたし1人でも出る。』
「ま、待って!」
ドアのぶに手をかけようとした瞬間、蜜柑が叫んだ。
「そのドアは内側から開けようとすると、強い電流が流れて来るの!危ないわ!」
『そう…だったら………』
足の筋力を最大限に引き出して、あたしはドアを蹴る。
「姉さん!!」
『蜜柑……あたしは、この部屋にとどまるつもりはないの。ごめんね。』
ドガガッ、
金具の一部が外れ、ドアが半壊した。
『ふぅっ…』
「す、すごい……!」
あたしは大きな穴から外に出る。
そこは、廃屋の中の広い1室のようだった。
『じゃーね、蜜柑…』
「待って!!わ、私……私も行く!!」
蜜柑の肩は僅かに震えていて、両手で拳が作られていた。
「わ、私も…出たいから……!」
『蜜柑………分かった。行こう♪』
蜜柑に手を差し伸べる。
恐る恐る部屋から出る蜜柑の手には、ピストルが握られていた。
『それ、どしたの?』
「パパから使い方習ったの。あたしに一番合う武器は、コレだって。」
『使えるの?』
「あの部屋で練習はした。でも外に出てないから、実戦はした事ないの。」
『そっかぁ……』
話しながらも、あたし達は進んだ。
廃屋から脱出する為に。
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「檸檬の母親が、そのカジノの事件とどう関係してんだ?」
リボーンがディーノさんに尋ねる。
ディーノさんは、カバンから取り出した新しい書類に目を通しながら話し始めた。
「檸檬の母親・雨宮揚羽はな、生まれながらに第六感を持ち合わせていたらしい。」
「だ、第六感!!?」
「んなオカルトな……!」
「すげー…。」
いきなり信じ難い話が持ち込まれ、ツナ達は少し驚く。
「雨宮揚羽は幼い頃、その霊感を買われ神社に預けられた。その神社はもう無いが、元神主に話を聞く事が出来た。」
ツナがちらりと後ろを見ると、ドアにもたれ掛かった雲雀は目を瞑って静かに聞いていた。
「預けられる直前、揚羽は神主にこう尋ねたらしい。」
---「私を受け入れれば此所の神社は崩壊しますが、それでも宜しいですか?」
「ほ、崩壊??」
「その頃、揚羽の霊感は認められていたが、未来視の事は誰も知らなかった。だから、神主も気に止めなかった。」
ディーノがそこまで言うと、山本が口を挟んだ。
「ディーノさんさっき、“その神社はもう無い”って……」
「あぁ、もう無い。未来視が当たったんだ。」
「そ、そんな偶然……」
「偶然じゃない。揚羽の未来視が外れたことは、今まで一度もないそうだ。これは、神主の息子から聞いた話なんだが………」
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ある、晴れた日。
いつものように神社の周りを掃除する揚羽。
---「おはようございます、揚羽さん。」
---「おはようございます。」
神社の鳥居の側には、少し大きな夏ミカンの木が植えられていて。
その実が熟して来たのを見てると、揚羽が言った。
---「お食べにならないのですか?」
---「もう少し熟したら食べようかと思って…。」
---「早くなさらないと、午後にはもうカラスに取られますよ。」
まさかと思って1つだけ刈り取っておいた。
そして他の実がどうなるか見ていると…
午前11時55分、
カラスの大群がやってきて、全ての実を食い尽くしてしまった。
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「他にもこんな事が何回も起こり、神主は確信した。揚羽は、未来視が出来るのだと。」
「つまり、雨宮揚羽がSWATの突入を先読みしてたんでしょ。」
「そーだぜ恭弥、よく分かったな。」
「うるさい、早く続き。」
「わーったよ。」
ぶすっとする雲雀に、ディーノは苦笑いをする。
「実は、9代目が檸檬を引き取った時、雨宮兜がこう言ったそうだ。」
---「せいぜい気を付けてください。檸檬は……災いをもたらす存在になる可能性を秘めてるんで。」
「わ、災い??」
「9代目の察するところ、恐らく檸檬は揚羽の未来視を受け、その結果邪魔者扱いされていたんだろう。」
「未来視でかよ!!」
「随分とひでーな…。」
「それで、ストリートファイト場に捨てられてたってワケか。これで全てが繋がったな。」
リボーンがまとめた。
「あぁ、これで基礎知識は終わりだ。あとは……」
「それで、檸檬をさらった彼らの潜伏場所は何処なの?」
ディーノの言葉を遮り、雲雀が問う。
「……それが問題なんだ。」
「ど、どういう事ですか?」
「雨宮揚羽の事だ。恐らく、最も見つかりにくい場所を選んだに違いない。実際、今現在もそれらしきトコは見つかってないからな。」
「そ、そんなぁ……」
肩を落とすツナ。
一方、リボーンはディーノに聞く。
「飛行機の予約リストに、雨宮の名は?」
「いや、1つもない。1週間後まで調べたが、雨宮の名も、それらしき仮名も、全く無かった。」
「聞いたか、お前達。こいつは朗報だぞ。」
「え?」
「というと…?」
「どーゆー事だ?」
疑問符を浮かべるツナ達に対し、雲雀は口角を上げた。
「少なくともあと1週間あるんだね……。」
「あぁ。」
「そ、そっか!」
ほんの少しだけ見えた希望に、
場にいる全員が僅かに安堵した。
が、一方では、
絶望の前兆が見え始めていた。
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「はっ……はっ……」
『蜜柑、大丈夫?』
十数分彷徨い続けて、追っ手をかわし続けて分かった事がある。
此所には、お父さんの仲間がたくさんいるって事。
此所は、前来た時よりも入り組んでるって事。
此所が、
黒曜ランドだという事。
『ったく…どーしてこの場所を…』
「姉さん、私…………」
ふと気がつくと、蜜柑は震えていた。
手も、足も、体全部。
『そっか、外に出るの始めてなんだもんね。大丈夫、そんな怖い世界じゃないから。』
数年前まで、あたしもこんな状態だったのかな。
外が怖くて、殴られるのが怖くて。
外に出る=殴られる
だったもんね…。
それでもあたしは、死にたくなかったから。
弱い自分が許せなかったから。
『蜜柑、も少し休む?』
「ううん、行く。」
震えてるのをぐっと堪えて、蜜柑はあたしを見つめた。
『じゃぁ、行こうか。』
ちょっと入り組んでるけど、未知の領域ってワケじゃない。
出口の場所は大体分かる。
いざとなったら超五感や透視使えばいいし。
階段を降りて、
廊下を駆けて、
広場に出た。
『此所は………』
忘れもしない。
ツナと骸の影武者さんが戦った場所。
「姉さん………」
『え?』
震える声で蜜柑があたしを呼んで、右袖をつまんだ。
振り向くあたしの奥を、蜜柑は指差す。
『(まさか……)』
一番嫌な事態が起こったのかもしれない。
あたしは恐る恐るそちらを向いた。
その先には…
「人を指差すな、と教えたはずだぞ。蜜柑。」
やっぱり、一番出会いたくなかった人が。
最大の難関が。
「姉妹揃って逃避行でもするつもりか?」
「パパ………」
『えぇ!そうよ!此処にいるのはごめんだから。』
あたしが強気で言うと、お父さんは怪しく笑った。
「お前達が逆らうと、どうなるか分からないのか?」
「『え…?』」
一瞬脳裏を横切った、嫌な予感。
あたしは思わず拳を作る。
『まさか…』
「察しはいいようだな。檸檬、お前に関わった者は全て消える。あの学校を、街ごと潰してやってもいいぞ。」
『そんな事させない!絶対に!!』
ホントに、何処までコイツは嫌な奴なんだろう。
「蜜柑、お前は分かってるな?」
「は、はい……」
『蜜柑に何をするつもり!?』
怯える蜜柑を後ろに隠して、あたしはお父さんに問う。
すると、また怪しく笑うんだ。
「IQ200と言われるその脳を、売り渡すのさ。金になるだろう?それだけじゃない。蜜柑の臓器は全て金にしてやるつもりだ。」
『な、何て事を……!』
それが、娘に言う事!!?
『ふざけないで!!あたしは絶対………!』
「ならば、試してみるか?お前が俺に勝てるかどうか。」
挑発するお父さん。
背後にいる蜜柑は震える声であたしに言う。
「ダメ、姉さん………傷口が……!」
『やる。』
「ね、姉さん!!」
蜜柑が叫んだけど、あたしはお父さんに勝負を挑む。
コイツを倒さないと、此所から出られない。
「そうか……ならば受けて立とう。」
そう言った直後、奴は姿を消した。
超五感で追ってみる。
『(……………左!!!)』
攻撃をかわしてかわして、あたしはナイフを手にする。
だけど…
『(そこだ!!)』
切るのは奴の残像のみ。
それくらい、奴も速いって事。
あたしの俊足や剛腕は、所詮“女の力”の最大限。
だから、“男の力”の最大限には及ばない。
でも何とか知恵を絞れば…
そう考えていたら、奴が急に方向転換した。
その先にいたのは…
『蜜柑っ!!』
「お前から潰そうか、蜜柑。」
「きゃ、キャアアア!!!」
奴の拳が蜜柑に当たる、その前に。
『ダメっ…!!』
ドガッ、
「ん?」
「あ……!」
殴られて、吹っ飛ばされたのは、
『っつ~~~…』
あたし。
「ね、姉さんっ!!」
『来ちゃダメ…』
駆け寄ろうとする蜜柑を止める。
すると、お父さんは大声で笑い始めた。
「やはり愚かに育ったなぁ!!檸檬!」
『うるさい……!』
立ち上がろうとしたら、こないだ刺された傷が痛んだ。
『つっ……!!』
「どうした?もう限界か?」
素早くあたしの目の前に来たお父さんは、あたしの首を掴んで持ち上げた。
『あっ………!!』
「檸檬、お前のやってる事は、全て無駄だ。」
急に、何を言い出すの?
「心を失くせ。俺の為に働け。」
『だ…れが………』
反抗しようとすると、首を絞める力が強まる。
どうしてあたしは、こんな奴に勝てないんだろう。
あたし、どうしてこんなに苦しめられてるんだろう。
「俺の為に働くのなら、一生を保障してやる。」
こんな奴の為に……?
笑わせないでよ。
嫌だ……
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
痛みも、
苦しみも、
怒りも、
憎しみも、
哀しみも、
全部全部瞳に映して、お父さんを睨みつける。
「…まだそんな目をするのか?どこまでも愚かな娘だ。」
何て言われても構わない。
だけど、あんたの言いなりだけは御免被るから。
「檸檬、お前は………昔の方が強かったな。」
『は……?』
「CRAZY DANCERの方が、雨宮檸檬よりも強かった。」
昔の方が強かった…?
今度は何を言い出すのよ、冗談じゃない。
あたしは、護る為に強くなった。
仲間が出来たから強くなった。
それなのに、
空っぽだったあの頃に劣る?
ふざけないでよ。
そんなのあり得ない。
「よく聞け、檸檬。護る力などこの世に必要ない。なぜなら、壊せばいいからだ。」
うるさい…
「攻めは最大の守り、という言葉を知ってるだろう?」
黙れ……
「あの頃の檸檬は自分の命のみを想い、自分に襲い掛かる者を排除していた。」
やめて…
「しかし今はどうだ?余計なモノを手にし過ぎて、余計な念が生まれている。」
やめてよ……
「今のお前は、護る対象を見つけて自分の存在意義を作ろうとしているだけだ。」
悔しい……
悔しいよ………
護る為に、戦って来た。
護る事だけを、考えていた。
それがいつしか、絆になった。
そんな、気がした。
「檸檬、お前に問いたい事がある。」
絞められてる首の痛みは、
麻痺したせいか、ほとんど感じない。
そんな中、お父さんは口を開いた。
「To be or Not to be.」
シェイクスピア………?
---[生きるか死ぬか]
「お前が生きる道はただ1つ、俺の元で働く道だ。心のない、戦闘の駒となって。」
絶対、いや…
「心を捨てずに、俺に従わない場合は、今此所でお前の人生は終わる。生まれ変わるのを待つんだな。」
「そんな、姉さん……!」
「選べ。」
あたしの首が、やっと放された。
だけど、ほとんど酸欠状態で動けない。
あたしは…
死にたくない。
コイツにだけは、
殺されたくないの。
ねぇ神様、
どうしてこんな奴が、
あたしの親なんですか?
護る力が必要ない世の中で、
あたしはどうやって生きればいいんですか?
痛みも、
苦しみも、
怒りも、
憎しみも、
哀しみも、
全部全部捨てて。
そうすれば、
きっと何も怖くないから。
もう絶望に溺れる事はないから。
ただ少し、
ほんの少し後ろ髪を引かれるのだけれど。
『…………生きる……』
心さえ、捨ててしまえば……
生きることを、許される……