未来編序章
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あたしの前に現れた、
同じ顔の女の子。
歯車はもう、
動きだしていた。
もう1人の
『誰なの……?』
あたしが尋ねると、彼女は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!やっぱり自己紹介が先だよね。」
そして、あたしと同じ顔でへらっと笑った。
「私の名前は雨宮蜜柑。初めまして、姉さん。」
『え………?』
姉、さん…??
って事は、あたしの…
『双子の、妹??』
あたしの言葉に、蜜柑は深く頷いた。
そして、また話し始める。
「私、ずっと姉さんに会いたかった……。3歳で生き別れたから……」
そうだ、
あたしは3歳でストリートファイト場に行ったんだった。
『じゃあ……蜜柑は?今までどうしてたの?』
「ずっと、パパとママと暮らしてた。此所から出してもらった事がないの。」
あり得ないよね、と言って笑う蜜柑。
あたしは未だに実感が湧かなくて、少し震えていた。
蜜柑は、あたしと違って髪を伸ばして2つ分けにしていた。
そして、パッと見た感じは何だか大人しい。
あと特徴は…右目の下の泣きぼくろ。
「それでも、姉さんが私よりずっとつらい生活送ってたって聞いてたから……だから私…頑張って勉強した。」
『アイツらから、何か学んだの?』
「えっと、喧嘩のやり方と第六感について。」
『え?』
喧嘩のやり方ってのは分かるけど、
“第六感”??
『それって、どうゆう意味??』
気が付けば、あたしは蜜柑の方に身を乗り出していた。
---
------
-------------
翌朝。
沢田家のチャイムが鳴らされた。
「はーい。」
ガチャ、
ドアを開けた先には…
「よっ、ツナ!」
「ディーノさん!!」
「よく来たな、ディーノ。」
ふと気が付くと、ツナの足下にリボーンが立っている。
「あぁ、頼まれた情報持って来たぜ。」
「情報………??」
ディーノはツナの部屋に通され、リボーンは獄寺と山本も呼んだ。
そして、昨晩の出来事について聞かされる。
「檸檬が消えた?」
「ホントですか、10代目!!」
「うん……追い掛けたんだけど見つからなくて……」
ツナが俯くと、リボーンが言った。
「その為に、ディーノに情報を掴ませたんだ。」
「へ?」
「ディーノ、話してくれ。」
「あぁ。」
1つ深呼吸をして、ディーノは口を開いた。
「最近ここらでコンビニ強盗が多発してたろ?あの犯人は、世界的に有名な犯罪者・Beetleってんだ。」
“Beetle”---
ツナは昨晩リボーンが言っていたのを思い出した。
ディーノは続きを話す。
「奴に賭けられた賞金は5000万ドル。」
「ごっ…5000万ドルーーー!!!?」
驚くツナに頷いた後、ディーノは1冊の雑誌を取り出した。
その表紙となって、特集を組まれている人物は……
「オイ!これ、カメラに映ってたのと同じ奴じゃねーか?」
「だな。」
「え"ー!?犯罪者なのにー!?」
「こいつは、アメリカで5本の指に入る巨大カジノの最高責任者だ。名前は、雨宮兜。」
「“雨宮”!!?」
「ってまさか………」
次に伝えられる酷な事実を、
3人は容易に想像出来た。
「あぁ、檸檬の実父だ。」
「じゃ、じゃぁつまり……」
「檸檬の実父は表向きはカジノの経営者。だが一方で、様々な犯罪に手を出して金もうけをする悪人って事だ。」
と、ここで、獄寺が反論した。
「ちょっと待て!!だったらすぐ掴まるじゃねーか!こんな大っぴらに顔を公開してんだからよ!」
ところが、ディーノは首を横に振る。
「奴を捕まえる事は出来ないんだ。奴は……喧嘩の達人だ。」
「どーゆー意味スか?」
「奴はこの世界で唯一…檸檬と同じ戦い方をし、檸檬を上回る者だからだ。」
「檸檬を…」
「上回る!!?」
ディーノはゆっくりと頷いた。
「かつて一度だけ、兜のカジノにSWATが極秘で突入した。これは、その1時間後の現場写真だ。」
机の上に出された写真。
それは、あまりに凄惨で。
「ひいっ!」
「っ………!!」
「マジかよ……」
吐き気さえ催すその光景。
写真でさえそうなのだから、実際はもっとすごいのだろう。
カジノの中は、まるで戦場であったかのように死体で溢れ、
その1体1体が悲惨な状態だった。
「1時間でコレか。」
リボーンが言う。
「あぁ。生存者はゼロだ。うち数名は病院に運ばれてから亡くなったらしい。そこから、僅かな証言が得られている。」
---「奴は全て分かっていた。突入のタイミングやその配置…人数まで………」
---「奴の攻撃を受けた者は、すぐに死んだ。銃弾さえも避けられた。」
---「化け物…化け物だ……俺達は、奴の手の平で踊らされてる……」
「以来、雨宮兜に逆らえる者はいなくなった。だから今も、捕まえられない犯罪者として生きている。」
「檸檬が……そんな人の子供……?」
いつも綺麗に笑ってた、
あの檸檬が?
自分の命を護るのは、
他人の盾になる為だと言っていた
あの檸檬が…??
「ねぇ、」
「へ?」
「お。」
「なっ!」
「ん?」
突如聞こえた場にいないはずの声に、ディーノ以外が声をあげた。
振り向いた先には……
「「「雲雀(さん)!!!」」」
「恭弥!!?」
ドアにもたれ掛かって立っている雲雀に、ディーノが尋ねる。
「い、いつからいたんだ?」
「いつだっていいでしょ。」
「とりあえず答えてくれ。」
「……5000万ドル…ってトコ。」
ぶすっとしながら答える雲雀。
「(ほとんど最初ーーー!!?)」
ツナは心の中でツッコミを入れる。
「そんな事より、どうしてソイツはSWATの極秘突入を知ってたの?」
「あぁ、それはな……」
雲雀の鋭い質問に、ディーノは新たな書類を取り出す。
そして、答えた。
「奴の妻、雨宮揚羽が関係してるんだ。」
「檸檬の……お母さんが?」
---
------
-------------
「お、落ち着いて姉さん!傷口が…!」
『あ、ごめん……ありがと。』
そうだよ。あたし、まだ此所が何処かも知らないのに。
『蜜柑、此所は何処なの?』
「私の部屋よ。コレ、実は巨大なカプセルなの。」
お父さんは、蜜柑を何処かに連れていく時は必ずカプセルごと持っていくそうだ。
ホントに蜜柑は、この部屋から出た事はないみたいだった。
「だって、お風呂もトイレもあるんだもの。ひきこもりには最適の部屋だと思うわ。」
苦笑いをする蜜柑。
このカプセルには、窓が1つしかない。
しかも、直径20センチくらいの丸い窓。
「多分今は、廃屋かなんかにいるんだと思うわ。灰色の壁が見えるから。」
『あの、蜜柑……さっき言ってた事なんだけど………』
「え?あ、第六感の話?」
『う、うん。』
あたしが頷くと、蜜柑は近くの椅子に座って話し始めた。
「姉さんは、ママの力を知らないんだよね?」
『うん。』
「ママはね、未来視が出来るんだよ。」
耳を疑った。
蜜柑は続ける。
「姉さんは、ママの未来視の結果捨てられたんだってパパが言ってたの。パパは、ママの未来視を絶対信じるから。」
『未来視って……』
実感が湧かない。
反芻しても、飲み込めない。
「ママには本当に第六感があるの。あたしもそれを実感した事がある。」
『どうして……』
とてつもない怒りが湧いて来たのは、
信じ難いオカルトによって捨てられた事が、
悔しくてしょうがないから。
『あたしが…何するってのよ……!!』
もしかしたらあたしは、
欲しかったのかも知れない。
親との暮らしを、求めていたのかも知れない。
アイツらがどんだけ酷い奴らか知ってる。
だけど…
心の何処かで求めてた。
強くないから殴られるのだと、
強くなってお金をあげれば認められるのだと、
少し、
ほんの少し、
信じた。
だからその想いが無駄だと知った今、
どうしようもない悔しさに襲われた。
「姉さん…」
『ごめん、ちょっと待って……』
いつものように涙を止めて、心を落ち着かせた。
『聞かせて、続きを。』
「……うん。私も未来視を受けたけど、何故か捨てられなかった。それでも、パパとママは“何か”を恐れて私を此処に閉じ込めたの。」
蜜柑の拳が握られる。
「パパからは、喧嘩は音楽だと習った。だけど私には聞こえない。ママからは、未来視の感覚を習った。だけど私には視えない。」
---「(私は………出来損ない…)」
悩む日が続いて、
いつしか心を閉ざした。
そんな中、
たった1人の姉の存在を知り、
出会う事への希望を抱いた。
「だから私、姉さんと会えて嬉しかった。私と会話をするのは、姉さんで3人目。」
『じゃぁ、今までずっとアイツらとだけ…!?』
「パパとママ以外とは話した事なかった。なんせ、部屋から出た事ないんだもの。」
蜜柑の話を聞きながら、あたしも色々考えた。
第六感はともかく、あたしはリズム感を受け継いだ。
だけど蜜柑は持っていない。
って事は……
『もしかして、蜜柑は出来ないから助かったんじゃ…?』
「え?」
不確かな考察は飲み込んだまま、あたしは次の質問をした。
『その2つ以外は何か習った?』
すると、蜜柑は首を横に振った。
「ちゃんと勉強してない。だけど、それでいいってママが。」
自信がなさそうに、少し俯いて。
「ママによると私……IQ200あるらしいから……」
『IQ200!!?すごいじゃん蜜柑!!』
「でも…よく分からないし……それに、本当にIQ200あったら、とっくに此所を出てるよ。」
蜜柑はまた哀しそうに笑う。
『蜜柑……』
檸檬は静かに決心し、立ち上がる。
「姉さん?」
突然立ち上がったあたしを見て、蜜柑が声をあげる。
『あたし…此所を出なくちゃ。』
「え?」
『蜜柑も………一緒に出よう!!』
---
------
-------------
別室にて。
長い黒髪に和服を着た女が、鏡台に向かっている。
その後ろでは、檸檬を倒し連れ去った兜がソファに腰掛けていた。
「檸檬は、どうだったの?」
髪をとかしつつ、女が問う。
「反吐が出る程バカに育ってたさ。」
「やっぱり、マフィアに売ったのは失敗だったわね。」
女の声色が暗くなる。
「仕方ないさ、あの時は揚羽の体調が悪かった。」
兜の言葉を聞くと、揚羽は鏡台から離れ、寄り添った。
「庇ってくれるの?嬉しいわ。」
兜は揚羽の髪を撫で、口角を上げて呟く。
「なに、心配いらない。今からでも檸檬を変えられる。」
「“あの力”が発動しないように、って?」
「人の事を信じさせない。絶望の底に堕ちるように。」
同じ顔の女の子。
歯車はもう、
動きだしていた。
もう1人の
『誰なの……?』
あたしが尋ねると、彼女は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!やっぱり自己紹介が先だよね。」
そして、あたしと同じ顔でへらっと笑った。
「私の名前は雨宮蜜柑。初めまして、姉さん。」
『え………?』
姉、さん…??
って事は、あたしの…
『双子の、妹??』
あたしの言葉に、蜜柑は深く頷いた。
そして、また話し始める。
「私、ずっと姉さんに会いたかった……。3歳で生き別れたから……」
そうだ、
あたしは3歳でストリートファイト場に行ったんだった。
『じゃあ……蜜柑は?今までどうしてたの?』
「ずっと、パパとママと暮らしてた。此所から出してもらった事がないの。」
あり得ないよね、と言って笑う蜜柑。
あたしは未だに実感が湧かなくて、少し震えていた。
蜜柑は、あたしと違って髪を伸ばして2つ分けにしていた。
そして、パッと見た感じは何だか大人しい。
あと特徴は…右目の下の泣きぼくろ。
「それでも、姉さんが私よりずっとつらい生活送ってたって聞いてたから……だから私…頑張って勉強した。」
『アイツらから、何か学んだの?』
「えっと、喧嘩のやり方と第六感について。」
『え?』
喧嘩のやり方ってのは分かるけど、
“第六感”??
『それって、どうゆう意味??』
気が付けば、あたしは蜜柑の方に身を乗り出していた。
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翌朝。
沢田家のチャイムが鳴らされた。
「はーい。」
ガチャ、
ドアを開けた先には…
「よっ、ツナ!」
「ディーノさん!!」
「よく来たな、ディーノ。」
ふと気が付くと、ツナの足下にリボーンが立っている。
「あぁ、頼まれた情報持って来たぜ。」
「情報………??」
ディーノはツナの部屋に通され、リボーンは獄寺と山本も呼んだ。
そして、昨晩の出来事について聞かされる。
「檸檬が消えた?」
「ホントですか、10代目!!」
「うん……追い掛けたんだけど見つからなくて……」
ツナが俯くと、リボーンが言った。
「その為に、ディーノに情報を掴ませたんだ。」
「へ?」
「ディーノ、話してくれ。」
「あぁ。」
1つ深呼吸をして、ディーノは口を開いた。
「最近ここらでコンビニ強盗が多発してたろ?あの犯人は、世界的に有名な犯罪者・Beetleってんだ。」
“Beetle”---
ツナは昨晩リボーンが言っていたのを思い出した。
ディーノは続きを話す。
「奴に賭けられた賞金は5000万ドル。」
「ごっ…5000万ドルーーー!!!?」
驚くツナに頷いた後、ディーノは1冊の雑誌を取り出した。
その表紙となって、特集を組まれている人物は……
「オイ!これ、カメラに映ってたのと同じ奴じゃねーか?」
「だな。」
「え"ー!?犯罪者なのにー!?」
「こいつは、アメリカで5本の指に入る巨大カジノの最高責任者だ。名前は、雨宮兜。」
「“雨宮”!!?」
「ってまさか………」
次に伝えられる酷な事実を、
3人は容易に想像出来た。
「あぁ、檸檬の実父だ。」
「じゃ、じゃぁつまり……」
「檸檬の実父は表向きはカジノの経営者。だが一方で、様々な犯罪に手を出して金もうけをする悪人って事だ。」
と、ここで、獄寺が反論した。
「ちょっと待て!!だったらすぐ掴まるじゃねーか!こんな大っぴらに顔を公開してんだからよ!」
ところが、ディーノは首を横に振る。
「奴を捕まえる事は出来ないんだ。奴は……喧嘩の達人だ。」
「どーゆー意味スか?」
「奴はこの世界で唯一…檸檬と同じ戦い方をし、檸檬を上回る者だからだ。」
「檸檬を…」
「上回る!!?」
ディーノはゆっくりと頷いた。
「かつて一度だけ、兜のカジノにSWATが極秘で突入した。これは、その1時間後の現場写真だ。」
机の上に出された写真。
それは、あまりに凄惨で。
「ひいっ!」
「っ………!!」
「マジかよ……」
吐き気さえ催すその光景。
写真でさえそうなのだから、実際はもっとすごいのだろう。
カジノの中は、まるで戦場であったかのように死体で溢れ、
その1体1体が悲惨な状態だった。
「1時間でコレか。」
リボーンが言う。
「あぁ。生存者はゼロだ。うち数名は病院に運ばれてから亡くなったらしい。そこから、僅かな証言が得られている。」
---「奴は全て分かっていた。突入のタイミングやその配置…人数まで………」
---「奴の攻撃を受けた者は、すぐに死んだ。銃弾さえも避けられた。」
---「化け物…化け物だ……俺達は、奴の手の平で踊らされてる……」
「以来、雨宮兜に逆らえる者はいなくなった。だから今も、捕まえられない犯罪者として生きている。」
「檸檬が……そんな人の子供……?」
いつも綺麗に笑ってた、
あの檸檬が?
自分の命を護るのは、
他人の盾になる為だと言っていた
あの檸檬が…??
「ねぇ、」
「へ?」
「お。」
「なっ!」
「ん?」
突如聞こえた場にいないはずの声に、ディーノ以外が声をあげた。
振り向いた先には……
「「「雲雀(さん)!!!」」」
「恭弥!!?」
ドアにもたれ掛かって立っている雲雀に、ディーノが尋ねる。
「い、いつからいたんだ?」
「いつだっていいでしょ。」
「とりあえず答えてくれ。」
「……5000万ドル…ってトコ。」
ぶすっとしながら答える雲雀。
「(ほとんど最初ーーー!!?)」
ツナは心の中でツッコミを入れる。
「そんな事より、どうしてソイツはSWATの極秘突入を知ってたの?」
「あぁ、それはな……」
雲雀の鋭い質問に、ディーノは新たな書類を取り出す。
そして、答えた。
「奴の妻、雨宮揚羽が関係してるんだ。」
「檸檬の……お母さんが?」
---
------
-------------
「お、落ち着いて姉さん!傷口が…!」
『あ、ごめん……ありがと。』
そうだよ。あたし、まだ此所が何処かも知らないのに。
『蜜柑、此所は何処なの?』
「私の部屋よ。コレ、実は巨大なカプセルなの。」
お父さんは、蜜柑を何処かに連れていく時は必ずカプセルごと持っていくそうだ。
ホントに蜜柑は、この部屋から出た事はないみたいだった。
「だって、お風呂もトイレもあるんだもの。ひきこもりには最適の部屋だと思うわ。」
苦笑いをする蜜柑。
このカプセルには、窓が1つしかない。
しかも、直径20センチくらいの丸い窓。
「多分今は、廃屋かなんかにいるんだと思うわ。灰色の壁が見えるから。」
『あの、蜜柑……さっき言ってた事なんだけど………』
「え?あ、第六感の話?」
『う、うん。』
あたしが頷くと、蜜柑は近くの椅子に座って話し始めた。
「姉さんは、ママの力を知らないんだよね?」
『うん。』
「ママはね、未来視が出来るんだよ。」
耳を疑った。
蜜柑は続ける。
「姉さんは、ママの未来視の結果捨てられたんだってパパが言ってたの。パパは、ママの未来視を絶対信じるから。」
『未来視って……』
実感が湧かない。
反芻しても、飲み込めない。
「ママには本当に第六感があるの。あたしもそれを実感した事がある。」
『どうして……』
とてつもない怒りが湧いて来たのは、
信じ難いオカルトによって捨てられた事が、
悔しくてしょうがないから。
『あたしが…何するってのよ……!!』
もしかしたらあたしは、
欲しかったのかも知れない。
親との暮らしを、求めていたのかも知れない。
アイツらがどんだけ酷い奴らか知ってる。
だけど…
心の何処かで求めてた。
強くないから殴られるのだと、
強くなってお金をあげれば認められるのだと、
少し、
ほんの少し、
信じた。
だからその想いが無駄だと知った今、
どうしようもない悔しさに襲われた。
「姉さん…」
『ごめん、ちょっと待って……』
いつものように涙を止めて、心を落ち着かせた。
『聞かせて、続きを。』
「……うん。私も未来視を受けたけど、何故か捨てられなかった。それでも、パパとママは“何か”を恐れて私を此処に閉じ込めたの。」
蜜柑の拳が握られる。
「パパからは、喧嘩は音楽だと習った。だけど私には聞こえない。ママからは、未来視の感覚を習った。だけど私には視えない。」
---「(私は………出来損ない…)」
悩む日が続いて、
いつしか心を閉ざした。
そんな中、
たった1人の姉の存在を知り、
出会う事への希望を抱いた。
「だから私、姉さんと会えて嬉しかった。私と会話をするのは、姉さんで3人目。」
『じゃぁ、今までずっとアイツらとだけ…!?』
「パパとママ以外とは話した事なかった。なんせ、部屋から出た事ないんだもの。」
蜜柑の話を聞きながら、あたしも色々考えた。
第六感はともかく、あたしはリズム感を受け継いだ。
だけど蜜柑は持っていない。
って事は……
『もしかして、蜜柑は出来ないから助かったんじゃ…?』
「え?」
不確かな考察は飲み込んだまま、あたしは次の質問をした。
『その2つ以外は何か習った?』
すると、蜜柑は首を横に振った。
「ちゃんと勉強してない。だけど、それでいいってママが。」
自信がなさそうに、少し俯いて。
「ママによると私……IQ200あるらしいから……」
『IQ200!!?すごいじゃん蜜柑!!』
「でも…よく分からないし……それに、本当にIQ200あったら、とっくに此所を出てるよ。」
蜜柑はまた哀しそうに笑う。
『蜜柑……』
檸檬は静かに決心し、立ち上がる。
「姉さん?」
突然立ち上がったあたしを見て、蜜柑が声をあげる。
『あたし…此所を出なくちゃ。』
「え?」
『蜜柑も………一緒に出よう!!』
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別室にて。
長い黒髪に和服を着た女が、鏡台に向かっている。
その後ろでは、檸檬を倒し連れ去った兜がソファに腰掛けていた。
「檸檬は、どうだったの?」
髪をとかしつつ、女が問う。
「反吐が出る程バカに育ってたさ。」
「やっぱり、マフィアに売ったのは失敗だったわね。」
女の声色が暗くなる。
「仕方ないさ、あの時は揚羽の体調が悪かった。」
兜の言葉を聞くと、揚羽は鏡台から離れ、寄り添った。
「庇ってくれるの?嬉しいわ。」
兜は揚羽の髪を撫で、口角を上げて呟く。
「なに、心配いらない。今からでも檸檬を変えられる。」
「“あの力”が発動しないように、って?」
「人の事を信じさせない。絶望の底に堕ちるように。」