未来編②
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肉体が朽ちて数百年。
未だこの胸の奥に、優しく呼びかける彼の声。
---「カシス、」
---「今度また、お前の淹れたコーヒーを飲みに行くからな。」
---「サンドイッチも用意しておいてくれ。」
振り向いてしまいそうになる。
私が選んだ道は、正しかったのか。
私が選んだ道で、彼を不幸にしたのか。
---「カシス…何故お前が……」
---「こんな所に……俺を、置いていかないでくれ……カシス……」
あるいは……私が彼に与えた痛みすら、彼には必要だったのか。
彼が、ボンゴレの初代として語り継がれるために。
そして、彼の創ったボンゴレが大きく強くなるために。
答えなど、今やどこにも存在しない。
「……ジョット、」
その名を口にするだけで、これほど穏やかな気持ちになる。
けれど同時に溢れ出すのは、後悔と、寂しさと、哀しみ。
第六感がこの世に無ければ良かったのに。
こんな力、痛みと哀しみの連鎖を生むだけなのに。
---『あたしが、第六感を使って、みんなの笑顔を取り戻してみせる。』
私の子孫である檸檬は、そう言いきった。
証明すると、約束してくれた。
それが出来ようと出来まいと、見届ける。
魂となって血の中に生きる存在となってなお、第六感を管理すると決めた、私の役目……。
沢田綱吉VS.白蘭
白指という技によって地面に叩きつけられたツナに、白蘭は語る。
GHOSTがボンゴレ勢や真6弔花から吸収した炎の全ては、自分の体内にあると。
本来は、他人の炎が触れることなく移動するなどということはあり得ないのだが……
白蘭いわく、GHOSTはパラレルワールドから連れてきた白蘭自身。
パラレルワールドに存在していた別の白蘭は、この世界にいる白蘭と違う“才能”を持っていたらしい。
彼が語る一部始終は全て突拍子もない内容で、場にいるほぼ全員が呆気にとられる。
ただ、確実に言えることが一つ。
「白蘭が沢田綱吉を省く我々全員の炎を手に入れたとするならば……その総合量は、計り知れない。」
その背に生えた光る翼も、吸収した炎が具現化したものなのか。
それとも、桔梗の言うように“崇拝すべき悪魔”である象徴なのか。
「……関係ない。お前が何であろうと、どんな手段を使おうと、ここでぶちのめすだけだ。」
「その意気だよ、綱吉クン。せっかく戦いにきてあげたんだから。」
ツナと白蘭、それぞれのリングが炎を灯す。
再び空中にあがり、ツナは白蘭に拳をぶつけた。
---------
---------
「コァーーーーッ!!」
周辺一帯を覆いつくすような紫色の光が、セレネの額から放たれる。
同時に響いた雄叫びのような鳴き声は、場にいるリボーンやフゥ太、京子にハルに正一、そしてユニの視線を引きつけた。
そして、敵として対峙する蜜柑とピグも、セレネが放つ大きな光と音、立ち込める突風に、驚愕せざるをえなかった。
「(これは……ただの光じゃない……夥しい量の、雲の炎…!?)」
撃ち殺されそうなギリギリの状況で、檸檬は一言発していた。
“形態変化(カンビオ・フォルマ)”……と。
しかし、それはあり得ない現象だった。
未だ収まらない突風の中、蜜柑は呟く。
「姉さんの匣が、その単語に反応を見せるなんて……守護者でもないのに、」
「同感だぞ。正一、どーなってんだ?」
ハットを飛ばされないよう抑えながら、リボーンが入江に問いかけた。
この世界でしか生まれなかったボンゴレ匣の制作に携わった入江。
そんな彼も、半身を起こしながら驚きを隠せずにいた。
「アレは……檸檬さんのセレネは、試作品なんだ……」
「試作品?この時代の檸檬には、お前たちの計画は知らせてなかったんだろ?雲雀が巻き込もうとするワケねーしな。」
「うん。だけど、守護者が愛用するアニマル匣にいきなり手を加えるのは、僕としても抵抗があって……。アップグレードが上手くいくかどうかも確実じゃなかったから。」
とは言え、ボンゴレ匣開発の試作を外部の匣で行うわけにはいかなかった。
情報漏えいを防ぐため、“カスタマイズしても良いアニマル匣”を“ボンゴレ内で”調達する必要があった。
その話を聞いた雲雀が、檸檬のアニマル匣・セレネを持ってきたのである。
他の戦闘員と違い、リングの使用が身体の負担に繋がってしまうため、10年後の檸檬はセレネをほとんど使わなかった。
よって、「メンテナンスだ」と称して長期間預かっていても、さほど普段の戦闘に影響はなかったのである。
「でも、このカスタマイズに関しては、本当に誰にも言ってないはずなんだ。持ち主の、檸檬さんにさえ…」
「ああ。大方、成長したセレネの額にボンゴレの紋章が入ってたことから予想したんだろう。」
「え!?たったそれだけ!?で、でもそんな装飾はいつでも簡単に……」
「檸檬にとっちゃ、それくらいの装飾がありゃ充分信じられるってことだ。つっても、一世一代の大博打だったんだろーな。」
突風がおさまり始め、紫色の光が一点に集中してゆく。
立ち込める砂煙の中で、ゆっくり起き上がる檸檬のシルエットを確認したリボーン。
ユニを含めた全員が目を丸くし続けていたが、リボーンだけは、ニッと口角を上げた。
「まぁその大博打に勝ったんだ。檸檬、お前の勝負強さは間違いねぇ、さすが一流のマフィアだな。」
煙が晴れ、檸檬の姿が現れる。
撃たれたはずの足の傷は治り、その手には、長い棒状の武器が握られていた。
「「檸檬ちゃん!!」」
京子とハルが安堵のあまり叫ぶ。
一方で、ユニはその手元を見てハッとした。
「あれは……まさか、カシスの……?」
「ユニ、知ってんのか?」
「はい、おじさま。初代と関わりを持ちながら謎多き女性であるカシスが、常に腰に差していたというのが……あの、羽ぼうきです。」
「そうさ、モチーフをどうしようかと僕も悩んでね……この時代の綱吉君に相談したんだよ。」
入江が相談を持ち掛けた二日後、10年後のツナが提案したらしい。
檸檬の匣は、武器の形ではなく「羽ぼうき」に変化させて欲しい、と。
「綱吉君のことだ、檸檬さんには戦って欲しくないっていう願いの表れだったんじゃないかって、僕は思ってるんだけど…」
「でも入江さん、あんなに柄が長い羽ぼうきは初めて見ます。」
「私も…あれじゃお掃除しづらいんじゃないかな?」
「ハル姉、京子姉、さすがにアレをそのまま掃除に使うんじゃないと思うよ…」
1メートルほどある羽ぼうきの柄を見て、ハルと京子は首を傾げ、フゥ太が苦笑する。
と、同じタイミングで大きな嘲笑が聞こえてきた。
「あっははははは!似非でも一応平和主義の恰好はしようってことかしら?白鳥のまま使っていた方が、少しはマシな死に方をできたでしょうにね!」
『それは違うよ、蜜柑。あたしのこの武器は、戦いを終わらせるためのモノ。』
「ふざけるのも大概にしないと、殺意が有り余ってギャラリーも殺すわよ?」
戦いの場に羽ぼうきなど、蜜柑にしてみれば馬鹿にされたも同然だった。
しかし対する檸檬は、落ち着き払って羽ぼうきの柄を握る。
『これは……お客さんのために、お店という空間を守っていたカシスの大切な物……』
「檸檬さん……もしかして、貴女の中にはカシスが生きて…?」
語った内容に反応したユニを見て、檸檬は穏やかに微笑んだ。
「まさか、姉さんまでカシスとかいう正体不明な女の名をかたるとはね……」
『ボンゴレI世(プリーモ)がカシスに贈った、最初のプレゼント…………』
自らの意思で自らの記録を全て消した能力者、カシスの羽ぼうき(フェザー・ダスター)!!!
---------
---------
「僕のペットと遊んできなよ……白龍。」
白蘭が展開した匣兵器に、ツナもナッツを呼び出して応戦する。
が、防御形態のマントで龍の直撃を防いだものの、その消耗はかなり激しい様子だった。
「これでもかなり力を抑えたんだ、次は突き破るよ。」
「ガル!!」
「(挑発に乗るな、ナッツ!)」
再び突っ込んできた白龍を、直撃と見せかけて零地点突破 初代エディションで凍らせたツナ。
「今だナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)攻撃モード(モード・アタッコ)!!」
「ナッツはマント以外にも変化するのか!?」
「I世がその昔、全身の炎を拳に集中させた
究極の一撃を放った時、グローブの形態も変化したという…」
ディーノの言う通りならば、ツナのフルパワーでの一撃というのはすなわち…
X BURNERと同等の威力を持つ拳が放たれるということ。
I世のガントレット!!!
(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)
全ての力を一撃に込めようと覚悟を決めたツナ。
だが白蘭は笑顔を崩さないまま「面白そうだ」と避ける素振りを見せない。
「(ふさげやがって…!)」
こうなれば、真正面からぶっ放すしかない。
「ビッグバンアクセル!!!」
迫りくる巨大なオレンジの光球。
相当なエネルギーを持つ炎の塊であることは明白。
それでも白蘭は、目を瞑って両手を広げた。
「ん~~~ハイッ♪白拍手!!」
パァンと一回、拍手をしただけ。
それだけで、ツナの放った炎エネルギーは跡形もなく消え去った。
「拳の圧力で……掻き消した、だと…!?」
「白拍手はどんな攻撃も絶対粉砕する無敵の防御技なんだ。どうだい綱吉クン?未だかつてこれほど圧倒的な力の差を感じた戦いはないんじゃない?」
茫然とするツナに向かって、笑顔で淡々と語る白蘭。
渾身の一撃が、一切のダメージを負わせることなく消えた……
その事実は、じわじわとツナの体の内を冷やしていく。
「……怖いだろう。」
白蘭の瞳は、まるでツナの心の奥を見透かすようで。
「マフィアのボスと言ってもまだ中学生なんだもん。別に恥じることはないよ。」
ツナと同様にリングをつけた右の拳に炎を纏わせ、急降下する白蘭。
攻撃を粉砕されたショックから抜け出せないツナに、今度は白蘭の一撃が決まる。
「ここでちびったって良い。」
「がっ…!」
初手と同じく地に叩きつけられるツナ。
今回は白蘭も追撃のために更に急降下する。
ツナが起き上がる前に、その背後へ着地し、その首を固めた。
「死んだって、良いんだよ♪」
この戯れは、あと何分ぐらい続けられるかな。
綱吉クンの命が尽きちゃうよ。
蜜柑、僕は、君に伝えた“お願い”が叶うのを待ってるんだよ。
とっとと檸檬ちゃんを撃ち殺して、僕の所に帰っておいで。
僕が綱吉クンを倒して蜜柑を迎えに行っちゃったらさ、きっと……
君はいつものように、謝るんだろう?
無感情で美しい視線で、「お手を煩わせて申し訳ございません」って。
早く、帰ってきてほしいなぁ。
さっき感じた爆発的な雲の炎が、檸檬ちゃんの起死回生の一手になっていませんように。
--------
--------
この羽ぼうきは、全ての不安を振り払うためのモノ。
この羽ぼうきは、笑顔での暮らしを守るためのモノ。
それを願って生きるカシスに、ボンゴレI世がプレゼントしてくれたモノ。
『(そうでしょ?カシス……貴女も今きっと、あたしの中から見てるんだよね?)』
羽ぼうきを握ったら、力が湧いて来た。
あたしを信じてくれた人たちを信じたら、こんな素敵なプレゼントが出てきてくれた。
蜜柑、やっぱりあたしは、この世界が大好きだよ。
ボンゴレのみんなも、ボンゴレを通じて出会ったみんなも、大好き。
自分のことはまだ、認められない。好きになれない。
だけどみんなが信じてくれるなら、生き残らなくちゃって、そう思うの。
強く在ることに意味をくれたこの世界に、この人たちに、感謝を込めて。
あたしは……あたしの持つ力を全部、ここで使う。
「檸檬さん、炎が……!」
『大丈夫だよ、ユニ。』
羽ぼうきに向けて、全身の波動を集約させていく。
その波動を察知したユニが、あたしに心配そうに声をかけた。
「おい、分かってんだろーな、檸檬。」
『もちろんだよ。任せて、リボーン。』
心配されるのも無理ないか。
今までこうして、命を削るようなことばっかりしてきたからね。
でも、違うよ。
今回は絶対に、生きて、そっちに戻る。
守りたい約束がある。
伝えたい気持ちがある。
会いたい人がいる。
こんなに欲張りになっちゃったけど、世界は許してくれたんだ。
“闇”と呼ばれるあたしを、みんなは受け止めてくれたんだ。
その恩返しはきっと、生きて帰ることだと思うから。
「いい加減にして……ピグ、最高出力で増強するわよ。」
ズガガガガンッ!
「ガァ―――ッ!!」
蜜柑がピグに向けて重たい数発を撃ちこみ、ピグは今まで見た中で最大サイズになった。
銃へのチャージに時間をかけたのは、あたしと同じく自分の炎をありったけ乗せたってことだ。
あたしが羽ぼうきに乗せた全波動を、相殺するつもりなんだろう。
更に…
「C to “T”“H”!」
「ガアァ---ッ!!!」
蜜柑の指示で、ピグの炎はオレンジから赤と緑に変わる。
一番破壊力の強い組み合わせ、嵐と雷に炎変換をしたんだ。
「黒焦げになればいいわ!炎弾!!」
放たれた炎弾は、隕石みたいに大きく見えた。
けれどもう、あたしはそれを怖いとは思わなくて。
「「檸檬ちゃん!」」
「檸檬姉っ!!」
「檸檬さん!!」
京子、ハル、フゥ太くん、入江さん、心配しないで。
今のあたしは、たぶん無敵だよ。
『……見ててね、カシス。』
貴女は、第六感で未来を視て、自分がボンゴレI世の代わりに死ぬことを選んだ。
そしてそれは、結果として彼を悲しませることとなった。
好きな人の心に傷をつけるのは、本当につらいことだよね。
『届け!!!』
羽ぼうきに乗せた炎の全てを、ピグの炎弾に正面からぶつける。
すごいエネルギーに弾かれそう……
だけど、もうちょっとだけ堪えて、あたしの両足。
書類にあった第六感の修業、第十段階の内容。
自分の波動をベースに、複数属性が混合した炎を生成する修業。
リングを持たないあたしだから出来ること。
それは、7属性の炎を一撃にまとめてぶつけること。
『(届け……届け……届け!!!)』
蜜柑にも、カシスにも、届いて欲しい。
いつも晴れやかな笑顔でいられるワケじゃない。
嵐みたいに大荒れで不機嫌になったり、
雷みたいに怒鳴りちらして怒ったり、
霧みたいに全部隠したくて喋ろうとしなかったり、
雲みたいに気紛れに優しくなったり、
雨みたいに泣きじゃくって悲しみにくれたり、
人の心は、空みたいに忙しい。
そして時には、夜の闇に包まれてしまうことだってある。
でもね、蜜柑、
どんな夜にも照らす光はあるんだよ。
それにね、カシス、
たとえ貴女が、貴女の好きな大空にとっても長い雨を降らせたとしても……
『いっっっけぇぇぇぇ!!!!』
最後には……きっと、虹が見えるんだよ。
未だこの胸の奥に、優しく呼びかける彼の声。
---「カシス、」
---「今度また、お前の淹れたコーヒーを飲みに行くからな。」
---「サンドイッチも用意しておいてくれ。」
振り向いてしまいそうになる。
私が選んだ道は、正しかったのか。
私が選んだ道で、彼を不幸にしたのか。
---「カシス…何故お前が……」
---「こんな所に……俺を、置いていかないでくれ……カシス……」
あるいは……私が彼に与えた痛みすら、彼には必要だったのか。
彼が、ボンゴレの初代として語り継がれるために。
そして、彼の創ったボンゴレが大きく強くなるために。
答えなど、今やどこにも存在しない。
「……ジョット、」
その名を口にするだけで、これほど穏やかな気持ちになる。
けれど同時に溢れ出すのは、後悔と、寂しさと、哀しみ。
第六感がこの世に無ければ良かったのに。
こんな力、痛みと哀しみの連鎖を生むだけなのに。
---『あたしが、第六感を使って、みんなの笑顔を取り戻してみせる。』
私の子孫である檸檬は、そう言いきった。
証明すると、約束してくれた。
それが出来ようと出来まいと、見届ける。
魂となって血の中に生きる存在となってなお、第六感を管理すると決めた、私の役目……。
沢田綱吉VS.白蘭
白指という技によって地面に叩きつけられたツナに、白蘭は語る。
GHOSTがボンゴレ勢や真6弔花から吸収した炎の全ては、自分の体内にあると。
本来は、他人の炎が触れることなく移動するなどということはあり得ないのだが……
白蘭いわく、GHOSTはパラレルワールドから連れてきた白蘭自身。
パラレルワールドに存在していた別の白蘭は、この世界にいる白蘭と違う“才能”を持っていたらしい。
彼が語る一部始終は全て突拍子もない内容で、場にいるほぼ全員が呆気にとられる。
ただ、確実に言えることが一つ。
「白蘭が沢田綱吉を省く我々全員の炎を手に入れたとするならば……その総合量は、計り知れない。」
その背に生えた光る翼も、吸収した炎が具現化したものなのか。
それとも、桔梗の言うように“崇拝すべき悪魔”である象徴なのか。
「……関係ない。お前が何であろうと、どんな手段を使おうと、ここでぶちのめすだけだ。」
「その意気だよ、綱吉クン。せっかく戦いにきてあげたんだから。」
ツナと白蘭、それぞれのリングが炎を灯す。
再び空中にあがり、ツナは白蘭に拳をぶつけた。
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「コァーーーーッ!!」
周辺一帯を覆いつくすような紫色の光が、セレネの額から放たれる。
同時に響いた雄叫びのような鳴き声は、場にいるリボーンやフゥ太、京子にハルに正一、そしてユニの視線を引きつけた。
そして、敵として対峙する蜜柑とピグも、セレネが放つ大きな光と音、立ち込める突風に、驚愕せざるをえなかった。
「(これは……ただの光じゃない……夥しい量の、雲の炎…!?)」
撃ち殺されそうなギリギリの状況で、檸檬は一言発していた。
“形態変化(カンビオ・フォルマ)”……と。
しかし、それはあり得ない現象だった。
未だ収まらない突風の中、蜜柑は呟く。
「姉さんの匣が、その単語に反応を見せるなんて……守護者でもないのに、」
「同感だぞ。正一、どーなってんだ?」
ハットを飛ばされないよう抑えながら、リボーンが入江に問いかけた。
この世界でしか生まれなかったボンゴレ匣の制作に携わった入江。
そんな彼も、半身を起こしながら驚きを隠せずにいた。
「アレは……檸檬さんのセレネは、試作品なんだ……」
「試作品?この時代の檸檬には、お前たちの計画は知らせてなかったんだろ?雲雀が巻き込もうとするワケねーしな。」
「うん。だけど、守護者が愛用するアニマル匣にいきなり手を加えるのは、僕としても抵抗があって……。アップグレードが上手くいくかどうかも確実じゃなかったから。」
とは言え、ボンゴレ匣開発の試作を外部の匣で行うわけにはいかなかった。
情報漏えいを防ぐため、“カスタマイズしても良いアニマル匣”を“ボンゴレ内で”調達する必要があった。
その話を聞いた雲雀が、檸檬のアニマル匣・セレネを持ってきたのである。
他の戦闘員と違い、リングの使用が身体の負担に繋がってしまうため、10年後の檸檬はセレネをほとんど使わなかった。
よって、「メンテナンスだ」と称して長期間預かっていても、さほど普段の戦闘に影響はなかったのである。
「でも、このカスタマイズに関しては、本当に誰にも言ってないはずなんだ。持ち主の、檸檬さんにさえ…」
「ああ。大方、成長したセレネの額にボンゴレの紋章が入ってたことから予想したんだろう。」
「え!?たったそれだけ!?で、でもそんな装飾はいつでも簡単に……」
「檸檬にとっちゃ、それくらいの装飾がありゃ充分信じられるってことだ。つっても、一世一代の大博打だったんだろーな。」
突風がおさまり始め、紫色の光が一点に集中してゆく。
立ち込める砂煙の中で、ゆっくり起き上がる檸檬のシルエットを確認したリボーン。
ユニを含めた全員が目を丸くし続けていたが、リボーンだけは、ニッと口角を上げた。
「まぁその大博打に勝ったんだ。檸檬、お前の勝負強さは間違いねぇ、さすが一流のマフィアだな。」
煙が晴れ、檸檬の姿が現れる。
撃たれたはずの足の傷は治り、その手には、長い棒状の武器が握られていた。
「「檸檬ちゃん!!」」
京子とハルが安堵のあまり叫ぶ。
一方で、ユニはその手元を見てハッとした。
「あれは……まさか、カシスの……?」
「ユニ、知ってんのか?」
「はい、おじさま。初代と関わりを持ちながら謎多き女性であるカシスが、常に腰に差していたというのが……あの、羽ぼうきです。」
「そうさ、モチーフをどうしようかと僕も悩んでね……この時代の綱吉君に相談したんだよ。」
入江が相談を持ち掛けた二日後、10年後のツナが提案したらしい。
檸檬の匣は、武器の形ではなく「羽ぼうき」に変化させて欲しい、と。
「綱吉君のことだ、檸檬さんには戦って欲しくないっていう願いの表れだったんじゃないかって、僕は思ってるんだけど…」
「でも入江さん、あんなに柄が長い羽ぼうきは初めて見ます。」
「私も…あれじゃお掃除しづらいんじゃないかな?」
「ハル姉、京子姉、さすがにアレをそのまま掃除に使うんじゃないと思うよ…」
1メートルほどある羽ぼうきの柄を見て、ハルと京子は首を傾げ、フゥ太が苦笑する。
と、同じタイミングで大きな嘲笑が聞こえてきた。
「あっははははは!似非でも一応平和主義の恰好はしようってことかしら?白鳥のまま使っていた方が、少しはマシな死に方をできたでしょうにね!」
『それは違うよ、蜜柑。あたしのこの武器は、戦いを終わらせるためのモノ。』
「ふざけるのも大概にしないと、殺意が有り余ってギャラリーも殺すわよ?」
戦いの場に羽ぼうきなど、蜜柑にしてみれば馬鹿にされたも同然だった。
しかし対する檸檬は、落ち着き払って羽ぼうきの柄を握る。
『これは……お客さんのために、お店という空間を守っていたカシスの大切な物……』
「檸檬さん……もしかして、貴女の中にはカシスが生きて…?」
語った内容に反応したユニを見て、檸檬は穏やかに微笑んだ。
「まさか、姉さんまでカシスとかいう正体不明な女の名をかたるとはね……」
『ボンゴレI世(プリーモ)がカシスに贈った、最初のプレゼント…………』
自らの意思で自らの記録を全て消した能力者、カシスの羽ぼうき(フェザー・ダスター)!!!
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「僕のペットと遊んできなよ……白龍。」
白蘭が展開した匣兵器に、ツナもナッツを呼び出して応戦する。
が、防御形態のマントで龍の直撃を防いだものの、その消耗はかなり激しい様子だった。
「これでもかなり力を抑えたんだ、次は突き破るよ。」
「ガル!!」
「(挑発に乗るな、ナッツ!)」
再び突っ込んできた白龍を、直撃と見せかけて零地点突破 初代エディションで凍らせたツナ。
「今だナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)攻撃モード(モード・アタッコ)!!」
「ナッツはマント以外にも変化するのか!?」
「I世がその昔、全身の炎を拳に集中させた
究極の一撃を放った時、グローブの形態も変化したという…」
ディーノの言う通りならば、ツナのフルパワーでの一撃というのはすなわち…
X BURNERと同等の威力を持つ拳が放たれるということ。
I世のガントレット!!!
(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)
全ての力を一撃に込めようと覚悟を決めたツナ。
だが白蘭は笑顔を崩さないまま「面白そうだ」と避ける素振りを見せない。
「(ふさげやがって…!)」
こうなれば、真正面からぶっ放すしかない。
「ビッグバンアクセル!!!」
迫りくる巨大なオレンジの光球。
相当なエネルギーを持つ炎の塊であることは明白。
それでも白蘭は、目を瞑って両手を広げた。
「ん~~~ハイッ♪白拍手!!」
パァンと一回、拍手をしただけ。
それだけで、ツナの放った炎エネルギーは跡形もなく消え去った。
「拳の圧力で……掻き消した、だと…!?」
「白拍手はどんな攻撃も絶対粉砕する無敵の防御技なんだ。どうだい綱吉クン?未だかつてこれほど圧倒的な力の差を感じた戦いはないんじゃない?」
茫然とするツナに向かって、笑顔で淡々と語る白蘭。
渾身の一撃が、一切のダメージを負わせることなく消えた……
その事実は、じわじわとツナの体の内を冷やしていく。
「……怖いだろう。」
白蘭の瞳は、まるでツナの心の奥を見透かすようで。
「マフィアのボスと言ってもまだ中学生なんだもん。別に恥じることはないよ。」
ツナと同様にリングをつけた右の拳に炎を纏わせ、急降下する白蘭。
攻撃を粉砕されたショックから抜け出せないツナに、今度は白蘭の一撃が決まる。
「ここでちびったって良い。」
「がっ…!」
初手と同じく地に叩きつけられるツナ。
今回は白蘭も追撃のために更に急降下する。
ツナが起き上がる前に、その背後へ着地し、その首を固めた。
「死んだって、良いんだよ♪」
この戯れは、あと何分ぐらい続けられるかな。
綱吉クンの命が尽きちゃうよ。
蜜柑、僕は、君に伝えた“お願い”が叶うのを待ってるんだよ。
とっとと檸檬ちゃんを撃ち殺して、僕の所に帰っておいで。
僕が綱吉クンを倒して蜜柑を迎えに行っちゃったらさ、きっと……
君はいつものように、謝るんだろう?
無感情で美しい視線で、「お手を煩わせて申し訳ございません」って。
早く、帰ってきてほしいなぁ。
さっき感じた爆発的な雲の炎が、檸檬ちゃんの起死回生の一手になっていませんように。
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この羽ぼうきは、全ての不安を振り払うためのモノ。
この羽ぼうきは、笑顔での暮らしを守るためのモノ。
それを願って生きるカシスに、ボンゴレI世がプレゼントしてくれたモノ。
『(そうでしょ?カシス……貴女も今きっと、あたしの中から見てるんだよね?)』
羽ぼうきを握ったら、力が湧いて来た。
あたしを信じてくれた人たちを信じたら、こんな素敵なプレゼントが出てきてくれた。
蜜柑、やっぱりあたしは、この世界が大好きだよ。
ボンゴレのみんなも、ボンゴレを通じて出会ったみんなも、大好き。
自分のことはまだ、認められない。好きになれない。
だけどみんなが信じてくれるなら、生き残らなくちゃって、そう思うの。
強く在ることに意味をくれたこの世界に、この人たちに、感謝を込めて。
あたしは……あたしの持つ力を全部、ここで使う。
「檸檬さん、炎が……!」
『大丈夫だよ、ユニ。』
羽ぼうきに向けて、全身の波動を集約させていく。
その波動を察知したユニが、あたしに心配そうに声をかけた。
「おい、分かってんだろーな、檸檬。」
『もちろんだよ。任せて、リボーン。』
心配されるのも無理ないか。
今までこうして、命を削るようなことばっかりしてきたからね。
でも、違うよ。
今回は絶対に、生きて、そっちに戻る。
守りたい約束がある。
伝えたい気持ちがある。
会いたい人がいる。
こんなに欲張りになっちゃったけど、世界は許してくれたんだ。
“闇”と呼ばれるあたしを、みんなは受け止めてくれたんだ。
その恩返しはきっと、生きて帰ることだと思うから。
「いい加減にして……ピグ、最高出力で増強するわよ。」
ズガガガガンッ!
「ガァ―――ッ!!」
蜜柑がピグに向けて重たい数発を撃ちこみ、ピグは今まで見た中で最大サイズになった。
銃へのチャージに時間をかけたのは、あたしと同じく自分の炎をありったけ乗せたってことだ。
あたしが羽ぼうきに乗せた全波動を、相殺するつもりなんだろう。
更に…
「C to “T”“H”!」
「ガアァ---ッ!!!」
蜜柑の指示で、ピグの炎はオレンジから赤と緑に変わる。
一番破壊力の強い組み合わせ、嵐と雷に炎変換をしたんだ。
「黒焦げになればいいわ!炎弾!!」
放たれた炎弾は、隕石みたいに大きく見えた。
けれどもう、あたしはそれを怖いとは思わなくて。
「「檸檬ちゃん!」」
「檸檬姉っ!!」
「檸檬さん!!」
京子、ハル、フゥ太くん、入江さん、心配しないで。
今のあたしは、たぶん無敵だよ。
『……見ててね、カシス。』
貴女は、第六感で未来を視て、自分がボンゴレI世の代わりに死ぬことを選んだ。
そしてそれは、結果として彼を悲しませることとなった。
好きな人の心に傷をつけるのは、本当につらいことだよね。
『届け!!!』
羽ぼうきに乗せた炎の全てを、ピグの炎弾に正面からぶつける。
すごいエネルギーに弾かれそう……
だけど、もうちょっとだけ堪えて、あたしの両足。
書類にあった第六感の修業、第十段階の内容。
自分の波動をベースに、複数属性が混合した炎を生成する修業。
リングを持たないあたしだから出来ること。
それは、7属性の炎を一撃にまとめてぶつけること。
『(届け……届け……届け!!!)』
蜜柑にも、カシスにも、届いて欲しい。
いつも晴れやかな笑顔でいられるワケじゃない。
嵐みたいに大荒れで不機嫌になったり、
雷みたいに怒鳴りちらして怒ったり、
霧みたいに全部隠したくて喋ろうとしなかったり、
雲みたいに気紛れに優しくなったり、
雨みたいに泣きじゃくって悲しみにくれたり、
人の心は、空みたいに忙しい。
そして時には、夜の闇に包まれてしまうことだってある。
でもね、蜜柑、
どんな夜にも照らす光はあるんだよ。
それにね、カシス、
たとえ貴女が、貴女の好きな大空にとっても長い雨を降らせたとしても……
『いっっっけぇぇぇぇ!!!!』
最後には……きっと、虹が見えるんだよ。