未来編②
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「(炎が……沢田さん……)」
離れた地点でツナがGHOSTとぶつかり合っているのを、ユニは炎の激しさから感じ取っていた。
その凄絶さは、実際にその場にいる面々も圧倒されるほどで。
GHOSTの吸収能力とツナの零地点突破・改は、近くにいる敵味方からも炎を巻き上げていく。
「のわっ……吸われる!」
特に、全身が匣兵器と融合する修羅開匣状態の桔梗にとっては、大きなダメージだった。
炎の行方
戦闘の最中、我を忘れかけた。
そんなあたしの前で、蜜柑は……一粒だけ涙を流した。
それが頬を伝って落ちる頃、僅かに鈍っていた蜜柑の殺意は元のように研ぎ澄まされていて。
「だから甘いのよ。」
ズガンッ!
『くっ…』
「「檸檬ちゃんっ!!」」
急所を咄嗟に庇ったものの、檸檬はとうとう左腕を撃たれた。
素早く空間移動で蜜柑との距離を取るが、やはりその移動先は読まれていて、間髪入れずにピグの攻撃がやってくる。
檸檬の危機を察知したセレネが、上空から援護をしに降下しようとする。
が、風を切る音で方向を掴んだ蜜柑が片方の銃を向け数発撃ち、牽制した。
「残念だったわね、姉さん。さっき私を殺していれば……あのナイフを振り切ってさえいれば……生き残れたのにね。」
『……殺さない、絶対に。』
ピグの爪と炎弾をかわしながら、檸檬は京子とハルの方へ一瞬目を向ける。
不安げな表情で、祈るように双子の対戦を見ている。
『(感謝しなくちゃ……過去に帰ったら、ケーキおごる、ぐらいじゃ足りないかも。)』
ヘリオスがセレネを銃弾から庇った時、そしてそれを蜜柑が嘲笑った時、檸檬は本当の目的を見失いかけた。
話し合いをするために、蜜柑の攻撃をいなし続ける。
そして、必ず生きて和解する。
この決戦のずっと前、メローネ基地への突入時から、心に決めていたのに。
『(まだまだあたしの心も弱いな……化け物みたいな力に、身を委ねそうになるなんて。けど……)』
昔と違うのは、止めてくれる人がいるということ。
そして……
『(暴走しかけたあたしを見ても、ああして祈ってくれること……)』
人智を超えた第六感を持つと知ってなお、
京子とハルは友達でいようと言ってくれた。
遠くに行って欲しくないと言ってくれた。
だから誓う。
もう、彼女たちの気持ちは裏切らない、と。
『蜜柑、あたしは生きる。護って生きる……大好きなみんなと…………たった一人の妹と。』
「戯言ばかり……ピグ!」
「ガァッ!」
蜜柑の合図でピグは高く跳躍する。
「炎投。」
『セレネ!』
「姉さんにはこっちよ。」
『なっ…』
視線を戻した檸檬は、初めて“その武器”を目にした。
否、正確には、“その武器を持った蜜柑”を。
「さようなら。」
『(あれは……ガトリング!?)』
ほんの数秒前まで蜜柑が持っていたのは、いつもの二丁拳銃だった。
精密射撃向きの、ブローニング・ハイパワーとデザートイーグル。
『まさか…!』
蜜柑の腰ベルトに、新たに開かれたらしき匣を見つける。
つまり、γの電狐と同じくアップデート匣により銃の種類が変わったということになる。
しかし匣兵器の威力を上げるのではなく、道具の機能自体を変化させるアップデートなど……
檸檬はこれまで見たことがなかったが、様々な匣兵器を開発してきた蜜柑のオリジナルであるというなら有り得る。
ともあれ檸檬は驚かされたことで一瞬だけ判断を遅れさせてしまった。
ズガガガガガ……
迫る弾丸を空間移動で避けたいところだが、
今使えば、歪んだ空間を閉じる前に何発か巻き込み、予期せぬところへ移動させてしまうかも知れない…。
ただ、ガトリングの速度で同時多発的に襲い掛かる全てをナイフで弾くことなど……
「コアーッ!!」
迷いを顕わにした檸檬の耳に、セレネの鳴き声が飛び込む。
と、次の瞬間……
檸檬はセレネの翼に包まれた。
---
-----
------------
「ぼああああ!!」
ツナとGHOSTの吸収対決は、ツナが制した。
GHOSTの体はツナの構えの中に吸い込まれ、跡形もなく消えたのである。
「吸ったー。」
「GHOSTって炎の塊かよ…」
「さすが10代目!!」
一部ボンゴレ勢に安堵の雰囲気が流れる。
しかし…
「極限によくやったぞ!沢田!!」
「来るな。」
松葉杖をつきながら近寄ろうとした了平にストップをかけるツナ。
「おかしい……」
「ええ。」
「GHOSTの炎を吸収し強大化するはずのツナの炎が、ほとんど変化していない……」
ディーノの指摘により、場の空気が変わり始める。
GHOSTが吸った炎は、何故ツナのエネルギーに変換されないのか……と。
おびただしい量の炎が持って行かれたのは確かだった。
その証拠に、10代目ファミリーだけでなく黒曜一味、ヴァリアー、桔梗も、ほぼスタミナ切れの状態。
と、その時だった。
「いやあ、すごいすごい!」
頭上から降ってきた悪意のある称賛に、ツナをはじめ全員が顔を上げる。
そこには、これまでとは違う衣装に身を包んだミルフィオーレのトップ・白蘭の姿があった。
「GHOSTを倒しちゃうなんてさ♪また元気な君に会えるとは嬉しいなあ、綱吉クン。」
「白蘭…!」
「ボンゴレの主力メンバーも勢ぞろいでますます嬉しいよ♪それにしても綱吉クン、君は物好きだなあ。」
空中に浮いた状態で、白蘭は笑顔で語り始める。
「骸クンにXANXUSクン、かつて君の命を消そうとした者を従えてるなんて、正気の沙汰じゃない。」
「……おいカス、言っておくが俺は沢田に……従っちゃいねえ!」
ザンザスの銃が憤怒の炎を吐き出す。
それに続けて骸もリングに炎を灯し、言った。
「僕の言動を額面どおり受け取るのは、無知な生娘か愚かな少年だけだと思いましたが……まさかマフィアと一括りにされるとは、心外です。」
2方向からの攻撃を正面から受けた白蘭。
桔梗だけがその身を案じたが、煙の中から聞こえてきたのは変わらないおどけた調子の声で。
「そっかー、ごめんごめん。それにしても君たち、相当疲れてるみたいだね。何だい?今のヘナチョコ弾は。」
受け止めたのか、いなしたのか、煙の中でどのような対策がなされたのかは不明。
ただ一つ、白蘭にはかすり傷一つつけられていないという事実だけが、そこにあった。
「まぁ無理もないさ、GHOSTに死ぬ気の炎をほとんど吸われたんだもんね。皆ガス穴だよね。」
白蘭の言葉は真実のようで、ザンザスも骸も反論しない。
「お前達は下がっていろ。コイツの相手は俺だ!」
拳を握るツナを前に、誰も止めようとはせず、白蘭は可笑しそうに笑った。
---
-----
-----------
セレネを仕留めようと飛び上がったピグが、シュタッと蜜柑の横に戻る。
ガトリングによって立ち込めた煙を前に、蜜柑は無感情に呟いた。
「まったく……私は一体、何度同じ茶番を見せられればいいのかしら。」
その耳は、檸檬の乱れた息遣いと、ダメージを負ったセレネの幽かな声をキャッチしていた。
「匣兵器は、使えなくなったのかしら。……いえ、まだ展開してるわね。」
蜜柑には見えていた。
ガトリングから檸檬を守ろうと、セレネが急降下して両翼で檸檬を包み込んだこと。
散らせた羽を増殖させて攻撃を防ぐ紫翼幕……
その役割を、直接翼でおこなったのだと。
案の定、消え始めた煙の中から、ボロボロの翼が見え始めた。
『セレネ……どうしてっ…』
「コァ…」
「匣に救われたわね、姉さん。」
銃のアップデートを解除した蜜柑は、瞬時にセレネの翼のダメージが激しい箇所を見抜き、
通常の銃で追撃した。
「コアッ…!」
『セレネ!蜜柑やめてっ…』
「じゃあ今度は姉さんが盾になったら?」
どこまでも主を守ろうと翼で覆いかくそうとするセレネの姿に、檸檬は耐え切れず腰のナイフを握る。
『セレネ、ごめんね。』
空間移動で翼の外に出て、蜜柑の銃弾を弾いた。
「道具は単純でいいわね。純粋に任務を果たすためだけに存在する。それに比べたら人間は面倒だわ。知恵がある分、利用し合って、裏切る生き物だから。」
『……感情があるのは、マイナスなんかじゃない……』
ストリートファイトで稼いでた頃の、あの強さは、空しかった。
どんなにお金をもらっても、1人で、何も感じなくて。
「綺麗事を並べたところで、利己的で傲慢な根源を持つのは変わらない。」
『あたしは……皆に救われて、強くなれた……』
9代目は、ボンゴレは……温かかった。
護りたいと思った。
空っぽだった強さは、意味を持った。
「手を差し伸べるのは、見返りが欲しいからよ。」
違う、違うんだよ、蜜柑。
確かにお父さんはそう言った。お母さんもそういう人だった。
あたし自身、居場所が欲しいと思ってる。見返りを求めてる。
だけどね、それだけじゃないんだよ。
それが全てじゃないんだよ、蜜柑。
お願い、もう少しだけ……頑張って、あたしの身体。
約束したんだから、みんなと、恭弥と。
過去に帰ったら……
たくさんたくさん、一緒に笑いたいの。
『皆にもらった“人の心”が、あたしが強くなれる理由で…』
ズガンッ!
哀しみか恐怖か疲労か、震えながら反論していた檸檬。
その脚に、銃弾が撃ち込まれる。
ドサッ
「「檸檬ちゃん!」」
「死にたくなければ動かないで。黙って見てなさい、私は……終わらせる。」
為す術なく倒れた檸檬に京子とハルが駆け寄ろうとするも、蜜柑の殺気に気圧されてしまう。
コツン、コツン、と、うつ伏せに倒れる檸檬に歩み寄る蜜柑。
「防がなかったんじゃなく、防げなかったようね。第六感の使用に、身体が耐え切れなくなってる。」
口元にゆるりと笑みを作った蜜柑は、なおも四つん這いで起き上がろうとする檸檬の脇腹を、蹴り上げた。
『がはっ…』
「姉さんは、私と互角だと思ってたんでしょう?だから攻撃をいなしていれば、長く話し合えると考えた。けど実際は……全ての数値において私が上よ!」
『うっ、ぐ……目に、見えるものが、全てじゃな………がっ…!』
「根拠はどこにあるのかしら。証明してみせてよ。」
---
------
------------
「何で僕が今頃ここに寄ったか、分かるかい?綱吉クン。」
やっと準備ができたんだ。
僕が望む世界を、作り出す準備が。
綱吉クンにはおろか、この場にいる全員、そんなこと分からないだろうね。
「俺はとっくに…できてるぜ。」
「速い!!」
そうそう、もっと頑張ってもらっていいんだよ。
この世界は、最も完成形に近い世界。
蜜柑が檸檬ちゃんを殺す可能性が一番高い世界。
僕の傍にいながら、ちゃんと生きていてくれた唯一の世界。
「どーしたの?君の精一杯はこんなもんかい?」
もうちょっと手応えくれてもいいのにね。
焦りの混ざった表情で、僕に向けた拳を動かせられない綱吉クン。
「じゃあ僕の番だ♪白指。」
人差し指から炎エネルギーを放って、綱吉クンを吹っ飛ばした。
森全体を震えさせるような地響きは、蜜柑のトコにも届いてるかな?
「これくらいで参ってもらっちゃ困るよ。まだGHOSTが吸収した炎の一割も使ってないんだから。」
「な、何を言っているんだ!?」
「んー?わかんないかなー……GHOSTが奪った皆の炎……それはぜーんぶ、僕の体の中にあるのさ♪」
この翼を、君に見せてあげたいな。
君はどんな“感想”を言ってくれるだろう。
それとも“解析”をしてくれるのかな。
どっちでもいいや。
今は全力で、邪魔な奴らを片づけるよ。
君を、君の望む世界へ連れていく……そのために、僕の翼はあるんだからさ。
---
------
-----------
先程撃ち抜いたのと反対側の脚を撃つ。
まるで、今まで自分が受けてきた痛みをそのまま与えるかのように、蜜柑は檸檬をなぶり、痛めつけていた。
『ぐあっ…うっ…』
「呆気なかったわね。目に見えないものを信じた結果がコレよ。仲間との友情?絆?信頼?そんなものは戦力の欠片にもならない。」
『……ち、が…』
ムダなんかじゃ、ない……
応えたい、
今まで助けてくれた全てに、応えたいよ……
セレネを守ってくれたヘリオス、
あたしを守ってくれたセレネ、
第六感の使用を許してくれたカシス、
絶望的な未来を見てもなお、
あたしに託してくれた未来のあたしに…。
『(応えられる、かな…)』
そうだ、この世界は……唯一ボンゴレ匣が創られた世界。
そしてその特徴は……
あたしの匣・セレネにも刻み込まれてる…!
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
---「檸檬なら、同じ道は歩まない……そう、思ったから。」
大丈夫だよ、任せておいて。
あたしを信じて、待っててくれる人がいるから……
あたしも皆を信じて戦えるよ。
「この期に及んで、その目は何?」
『……セレネ、』
冷やかな瞳を前に、檸檬はほんの僅かに口角を上げ、セレネを呼ぶ。
翼を負傷していたセレネも、少し首を上げて。
『…形態(カンビオ)……変化(フォルマ)……』
離れた地点でツナがGHOSTとぶつかり合っているのを、ユニは炎の激しさから感じ取っていた。
その凄絶さは、実際にその場にいる面々も圧倒されるほどで。
GHOSTの吸収能力とツナの零地点突破・改は、近くにいる敵味方からも炎を巻き上げていく。
「のわっ……吸われる!」
特に、全身が匣兵器と融合する修羅開匣状態の桔梗にとっては、大きなダメージだった。
炎の行方
戦闘の最中、我を忘れかけた。
そんなあたしの前で、蜜柑は……一粒だけ涙を流した。
それが頬を伝って落ちる頃、僅かに鈍っていた蜜柑の殺意は元のように研ぎ澄まされていて。
「だから甘いのよ。」
ズガンッ!
『くっ…』
「「檸檬ちゃんっ!!」」
急所を咄嗟に庇ったものの、檸檬はとうとう左腕を撃たれた。
素早く空間移動で蜜柑との距離を取るが、やはりその移動先は読まれていて、間髪入れずにピグの攻撃がやってくる。
檸檬の危機を察知したセレネが、上空から援護をしに降下しようとする。
が、風を切る音で方向を掴んだ蜜柑が片方の銃を向け数発撃ち、牽制した。
「残念だったわね、姉さん。さっき私を殺していれば……あのナイフを振り切ってさえいれば……生き残れたのにね。」
『……殺さない、絶対に。』
ピグの爪と炎弾をかわしながら、檸檬は京子とハルの方へ一瞬目を向ける。
不安げな表情で、祈るように双子の対戦を見ている。
『(感謝しなくちゃ……過去に帰ったら、ケーキおごる、ぐらいじゃ足りないかも。)』
ヘリオスがセレネを銃弾から庇った時、そしてそれを蜜柑が嘲笑った時、檸檬は本当の目的を見失いかけた。
話し合いをするために、蜜柑の攻撃をいなし続ける。
そして、必ず生きて和解する。
この決戦のずっと前、メローネ基地への突入時から、心に決めていたのに。
『(まだまだあたしの心も弱いな……化け物みたいな力に、身を委ねそうになるなんて。けど……)』
昔と違うのは、止めてくれる人がいるということ。
そして……
『(暴走しかけたあたしを見ても、ああして祈ってくれること……)』
人智を超えた第六感を持つと知ってなお、
京子とハルは友達でいようと言ってくれた。
遠くに行って欲しくないと言ってくれた。
だから誓う。
もう、彼女たちの気持ちは裏切らない、と。
『蜜柑、あたしは生きる。護って生きる……大好きなみんなと…………たった一人の妹と。』
「戯言ばかり……ピグ!」
「ガァッ!」
蜜柑の合図でピグは高く跳躍する。
「炎投。」
『セレネ!』
「姉さんにはこっちよ。」
『なっ…』
視線を戻した檸檬は、初めて“その武器”を目にした。
否、正確には、“その武器を持った蜜柑”を。
「さようなら。」
『(あれは……ガトリング!?)』
ほんの数秒前まで蜜柑が持っていたのは、いつもの二丁拳銃だった。
精密射撃向きの、ブローニング・ハイパワーとデザートイーグル。
『まさか…!』
蜜柑の腰ベルトに、新たに開かれたらしき匣を見つける。
つまり、γの電狐と同じくアップデート匣により銃の種類が変わったということになる。
しかし匣兵器の威力を上げるのではなく、道具の機能自体を変化させるアップデートなど……
檸檬はこれまで見たことがなかったが、様々な匣兵器を開発してきた蜜柑のオリジナルであるというなら有り得る。
ともあれ檸檬は驚かされたことで一瞬だけ判断を遅れさせてしまった。
ズガガガガガ……
迫る弾丸を空間移動で避けたいところだが、
今使えば、歪んだ空間を閉じる前に何発か巻き込み、予期せぬところへ移動させてしまうかも知れない…。
ただ、ガトリングの速度で同時多発的に襲い掛かる全てをナイフで弾くことなど……
「コアーッ!!」
迷いを顕わにした檸檬の耳に、セレネの鳴き声が飛び込む。
と、次の瞬間……
檸檬はセレネの翼に包まれた。
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「ぼああああ!!」
ツナとGHOSTの吸収対決は、ツナが制した。
GHOSTの体はツナの構えの中に吸い込まれ、跡形もなく消えたのである。
「吸ったー。」
「GHOSTって炎の塊かよ…」
「さすが10代目!!」
一部ボンゴレ勢に安堵の雰囲気が流れる。
しかし…
「極限によくやったぞ!沢田!!」
「来るな。」
松葉杖をつきながら近寄ろうとした了平にストップをかけるツナ。
「おかしい……」
「ええ。」
「GHOSTの炎を吸収し強大化するはずのツナの炎が、ほとんど変化していない……」
ディーノの指摘により、場の空気が変わり始める。
GHOSTが吸った炎は、何故ツナのエネルギーに変換されないのか……と。
おびただしい量の炎が持って行かれたのは確かだった。
その証拠に、10代目ファミリーだけでなく黒曜一味、ヴァリアー、桔梗も、ほぼスタミナ切れの状態。
と、その時だった。
「いやあ、すごいすごい!」
頭上から降ってきた悪意のある称賛に、ツナをはじめ全員が顔を上げる。
そこには、これまでとは違う衣装に身を包んだミルフィオーレのトップ・白蘭の姿があった。
「GHOSTを倒しちゃうなんてさ♪また元気な君に会えるとは嬉しいなあ、綱吉クン。」
「白蘭…!」
「ボンゴレの主力メンバーも勢ぞろいでますます嬉しいよ♪それにしても綱吉クン、君は物好きだなあ。」
空中に浮いた状態で、白蘭は笑顔で語り始める。
「骸クンにXANXUSクン、かつて君の命を消そうとした者を従えてるなんて、正気の沙汰じゃない。」
「……おいカス、言っておくが俺は沢田に……従っちゃいねえ!」
ザンザスの銃が憤怒の炎を吐き出す。
それに続けて骸もリングに炎を灯し、言った。
「僕の言動を額面どおり受け取るのは、無知な生娘か愚かな少年だけだと思いましたが……まさかマフィアと一括りにされるとは、心外です。」
2方向からの攻撃を正面から受けた白蘭。
桔梗だけがその身を案じたが、煙の中から聞こえてきたのは変わらないおどけた調子の声で。
「そっかー、ごめんごめん。それにしても君たち、相当疲れてるみたいだね。何だい?今のヘナチョコ弾は。」
受け止めたのか、いなしたのか、煙の中でどのような対策がなされたのかは不明。
ただ一つ、白蘭にはかすり傷一つつけられていないという事実だけが、そこにあった。
「まぁ無理もないさ、GHOSTに死ぬ気の炎をほとんど吸われたんだもんね。皆ガス穴だよね。」
白蘭の言葉は真実のようで、ザンザスも骸も反論しない。
「お前達は下がっていろ。コイツの相手は俺だ!」
拳を握るツナを前に、誰も止めようとはせず、白蘭は可笑しそうに笑った。
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セレネを仕留めようと飛び上がったピグが、シュタッと蜜柑の横に戻る。
ガトリングによって立ち込めた煙を前に、蜜柑は無感情に呟いた。
「まったく……私は一体、何度同じ茶番を見せられればいいのかしら。」
その耳は、檸檬の乱れた息遣いと、ダメージを負ったセレネの幽かな声をキャッチしていた。
「匣兵器は、使えなくなったのかしら。……いえ、まだ展開してるわね。」
蜜柑には見えていた。
ガトリングから檸檬を守ろうと、セレネが急降下して両翼で檸檬を包み込んだこと。
散らせた羽を増殖させて攻撃を防ぐ紫翼幕……
その役割を、直接翼でおこなったのだと。
案の定、消え始めた煙の中から、ボロボロの翼が見え始めた。
『セレネ……どうしてっ…』
「コァ…」
「匣に救われたわね、姉さん。」
銃のアップデートを解除した蜜柑は、瞬時にセレネの翼のダメージが激しい箇所を見抜き、
通常の銃で追撃した。
「コアッ…!」
『セレネ!蜜柑やめてっ…』
「じゃあ今度は姉さんが盾になったら?」
どこまでも主を守ろうと翼で覆いかくそうとするセレネの姿に、檸檬は耐え切れず腰のナイフを握る。
『セレネ、ごめんね。』
空間移動で翼の外に出て、蜜柑の銃弾を弾いた。
「道具は単純でいいわね。純粋に任務を果たすためだけに存在する。それに比べたら人間は面倒だわ。知恵がある分、利用し合って、裏切る生き物だから。」
『……感情があるのは、マイナスなんかじゃない……』
ストリートファイトで稼いでた頃の、あの強さは、空しかった。
どんなにお金をもらっても、1人で、何も感じなくて。
「綺麗事を並べたところで、利己的で傲慢な根源を持つのは変わらない。」
『あたしは……皆に救われて、強くなれた……』
9代目は、ボンゴレは……温かかった。
護りたいと思った。
空っぽだった強さは、意味を持った。
「手を差し伸べるのは、見返りが欲しいからよ。」
違う、違うんだよ、蜜柑。
確かにお父さんはそう言った。お母さんもそういう人だった。
あたし自身、居場所が欲しいと思ってる。見返りを求めてる。
だけどね、それだけじゃないんだよ。
それが全てじゃないんだよ、蜜柑。
お願い、もう少しだけ……頑張って、あたしの身体。
約束したんだから、みんなと、恭弥と。
過去に帰ったら……
たくさんたくさん、一緒に笑いたいの。
『皆にもらった“人の心”が、あたしが強くなれる理由で…』
ズガンッ!
哀しみか恐怖か疲労か、震えながら反論していた檸檬。
その脚に、銃弾が撃ち込まれる。
ドサッ
「「檸檬ちゃん!」」
「死にたくなければ動かないで。黙って見てなさい、私は……終わらせる。」
為す術なく倒れた檸檬に京子とハルが駆け寄ろうとするも、蜜柑の殺気に気圧されてしまう。
コツン、コツン、と、うつ伏せに倒れる檸檬に歩み寄る蜜柑。
「防がなかったんじゃなく、防げなかったようね。第六感の使用に、身体が耐え切れなくなってる。」
口元にゆるりと笑みを作った蜜柑は、なおも四つん這いで起き上がろうとする檸檬の脇腹を、蹴り上げた。
『がはっ…』
「姉さんは、私と互角だと思ってたんでしょう?だから攻撃をいなしていれば、長く話し合えると考えた。けど実際は……全ての数値において私が上よ!」
『うっ、ぐ……目に、見えるものが、全てじゃな………がっ…!』
「根拠はどこにあるのかしら。証明してみせてよ。」
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「何で僕が今頃ここに寄ったか、分かるかい?綱吉クン。」
やっと準備ができたんだ。
僕が望む世界を、作り出す準備が。
綱吉クンにはおろか、この場にいる全員、そんなこと分からないだろうね。
「俺はとっくに…できてるぜ。」
「速い!!」
そうそう、もっと頑張ってもらっていいんだよ。
この世界は、最も完成形に近い世界。
蜜柑が檸檬ちゃんを殺す可能性が一番高い世界。
僕の傍にいながら、ちゃんと生きていてくれた唯一の世界。
「どーしたの?君の精一杯はこんなもんかい?」
もうちょっと手応えくれてもいいのにね。
焦りの混ざった表情で、僕に向けた拳を動かせられない綱吉クン。
「じゃあ僕の番だ♪白指。」
人差し指から炎エネルギーを放って、綱吉クンを吹っ飛ばした。
森全体を震えさせるような地響きは、蜜柑のトコにも届いてるかな?
「これくらいで参ってもらっちゃ困るよ。まだGHOSTが吸収した炎の一割も使ってないんだから。」
「な、何を言っているんだ!?」
「んー?わかんないかなー……GHOSTが奪った皆の炎……それはぜーんぶ、僕の体の中にあるのさ♪」
この翼を、君に見せてあげたいな。
君はどんな“感想”を言ってくれるだろう。
それとも“解析”をしてくれるのかな。
どっちでもいいや。
今は全力で、邪魔な奴らを片づけるよ。
君を、君の望む世界へ連れていく……そのために、僕の翼はあるんだからさ。
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先程撃ち抜いたのと反対側の脚を撃つ。
まるで、今まで自分が受けてきた痛みをそのまま与えるかのように、蜜柑は檸檬をなぶり、痛めつけていた。
『ぐあっ…うっ…』
「呆気なかったわね。目に見えないものを信じた結果がコレよ。仲間との友情?絆?信頼?そんなものは戦力の欠片にもならない。」
『……ち、が…』
ムダなんかじゃ、ない……
応えたい、
今まで助けてくれた全てに、応えたいよ……
セレネを守ってくれたヘリオス、
あたしを守ってくれたセレネ、
第六感の使用を許してくれたカシス、
絶望的な未来を見てもなお、
あたしに託してくれた未来のあたしに…。
『(応えられる、かな…)』
そうだ、この世界は……唯一ボンゴレ匣が創られた世界。
そしてその特徴は……
あたしの匣・セレネにも刻み込まれてる…!
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
---「檸檬なら、同じ道は歩まない……そう、思ったから。」
大丈夫だよ、任せておいて。
あたしを信じて、待っててくれる人がいるから……
あたしも皆を信じて戦えるよ。
「この期に及んで、その目は何?」
『……セレネ、』
冷やかな瞳を前に、檸檬はほんの僅かに口角を上げ、セレネを呼ぶ。
翼を負傷していたセレネも、少し首を上げて。
『…形態(カンビオ)……変化(フォルマ)……』