未来編②
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(左斜め47度…でも、どうしてこんな正確に…?)
蜜柑の指示により背後から現れたピグの攻撃をかわす。
回避はしたものの、突然増えたバリエーションに疑問を持つしかなかった。
「分かり易いわね、本当に。」
『わっ…!』
背後からの攻撃には、あたしが狙っているような虚を突いた直接的ダメージのほかにもう一つ意味がある。
当然それが初めて見るパターンであれば、直後から警戒しなければいけないポイントが増える。
つまり、回避を専門とし最低条件とするあたしにとっては、神経をすり減らされる余計なパターン。
避けるあたしを仕留めようとする蜜柑にとっては、絶好の体力削減パターンとなる。
『……まったく、いつもいつもやり辛くしてくれるよね。』
「私は殺り易くしてるだけよ。」
事実、今のピグの攻撃の直後もそう。
あたしの意識が左斜め後ろに向いたその一瞬で、蜜柑は一発食らわせようとしてきた。
かろうじて避けて距離は取ったものの、どうやら速攻で終わらせるっていうのはますます無理な状況になったみたい。
『(恭弥、大丈夫かな…)』
さっき、僅かだけど波長の乱れが感じられた。
戦闘が激しい地点に向かっている恭弥の波長は、戦闘に備えて安定しているはず。
その状態の恭弥の意識が揺らぐほどの出来事があったのだとしたら、一刻も早く……ううん、そんなこと考えてられない。
あたしは、あたしが今なすべきことに、ちゃんと向き合わなくちゃいけないんだから。
1R
湖近くの戦闘地帯にて。
雷のVGを装着したランボは、泣きながらも凄まじい雷撃を放ち、雲ヴェロキラプトルを全滅させた。
その所業に敵の桔梗だけでなく、太猿や野猿まで驚きを隠せない。
「マ・マ・ン……」
「気力を全て使い果たしたな…よくやったぞランボ!!」
「分かりました。遊びは通用しないようなので、戯れるのはやめましょう。私にも、ユニ様を確保するという目的がある……そろそろ本腰を入れましょう。」
眠りに落ち了平に抱えられたランボの実力を認めながら、桔梗はいよいよ胸に埋め込まれた匣に炎を注入した。
途端に跳ね上がる炎圧に、誰もが修羅開匣を想定する。
と、次の瞬間、湖から何かが飛び出しバジルの右腕を抉るように直撃した。
「ぐあっ!」
「バジル!!」
それは次々と、何本も了平たちに向かって飛び出し、危険を察知した了平はいち早く仲間たちを草むらに伏せさせた。
「何だ!?」
恐る恐る顔を上げた了平とバジル、そして太猿と野猿は、驚愕する。
まるで地獄絵図のような、息を呑む光景。
湖から噴水のように伸びているのは、何頭もの恐竜の頭。
一頭一頭が生きており、今にも獲物を食らおうと牙をむいている。
「か、怪物…!」
「私の体は肉食スピノサウルスの姿を雲の炎で変形増殖させており、原形をとどめていないのです。自ら言うのも何ですが…真6弔花最強の戦闘力を誇っています。」
「相手にとって不足はない……ここはボンゴレ晴の守護者・笹川了平が相手になる!」
共に闘う、と進言するバジルに、了平はさがっていて構わないと言う。
先ほど深手を負ったバジルの身を考慮しているのと、もう一つ。
自分のスタイル上、サシの勝負が理想である…と。
「しかし、笹川殿も酷い怪我を…!!」
「心配はいらん。3分……1Rで倒してみせる。」
---
------
--------------
『セレネ、任せたよ。』
「みっ!」
蜜柑とピグが背後からの攻撃パターンを加えたことで、あたしには精神的プレッシャーが少なからずかけられた。
けれど今のあたしは、一人じゃない。
初めて開匣したときのセレネは、お世辞にも頼りになる相棒とは言えなかった。
けど今は、背中を任せられるパートナー。
未来のあたしが残してくれた、ボスに預けてくれた、大切なもの。
「ピグ、C to “T”、炎弾。」
「ガァァーッ!!」
『(来た…!)』
ピグの纏う炎が緑色に変わる。
チョイスの時に見せられた、炎変換プログラム。
「行きなさい。」
「ガァッ!」
放たれた炎弾をかわした先に、蜜柑の銃弾。
破壊の死ぬ気弾だから炎を奪ってから全て弾く。
けどその一瞬、あたしが立ち止まって動きを止めたその一瞬に、ピグはもう右後ろに移動している。
『(ここまでは読み通り…)』
纏っている炎が雷だから、セレネの防壁では“硬化”に負けるかも知れない。
だったらナイフでいなして一度空中に……
「ピグ、C to “C”、炎投。」
『なっ…!』
「ガァーッ!!」
「回避に労力を割くと言うのなら、割かせてあげるわ。ただ……底をつくのが早くなるでしょうけど。」
蜜柑がピグに与えた指示は、雲属性への変換。
つまり、ピグの攻撃は増殖して複数の炎弾が放たれることになる。
おまけに蜜柑はあたしが空中回避することを予測してアーチ状に破壊の死ぬ気弾を打ってある。
まさに四方八方からの攻撃……でも、
『こっちは避けるプロだって言ってんでしょ…!』
セレネと一緒の空間移動は、もう慣れた。
蜜柑の背後にこのまま出るのも悪くないけど、攻撃される角度とあたしの身体の流れ方から再び予測される可能性が高い。
だったらリスクのある攻撃に移るより回避優先で…移動先は蜜柑から距離を取る!
「…関係ないわ。ピグ、R89。」
『(そんな…真後ろ…!?)』
空間移動で回避したそのポイントを読まれていても驚かない。
けど……移動した0.2秒後にはもうピグが背後からの攻撃を仕掛けているなんて…
「みぃぃっ!!」
咄嗟にセレネが増殖で防御壁を展開してくれたから、ピグの爪は防げた。
それでもあたしは距離を取りながら驚かざるを得なかった。
そしてその驚きを察知したのか、蜜柑は鼻で笑ってこう告げる。
「かわせたみたいね。けれどこれで分かったでしょう?背後からの攻撃は姉さんの専売特許じゃないのよ。」
『蜜柑…』
「私の予測と指示で、ピグはいくらでも姉さんの虚を突くわ。警戒心の比重が変わったところで、私が姉さんの首を落としてあげる。」
『作戦予告くれるなんて、随分サービスいいんだね。』
「情報開示によるデメリットがないからよ。」
淡々と話す蜜柑を前に、檸檬はグッと拳を握る。
やはり、真正面から戦って勝つしかないのか、と。
蜜柑の戦闘力・スキルを考えると、話をつけるまで避け続けるのは至難の業であり、残念ながら体力がもたない確率の方が高い。
真っ向から技を破り、策を崩し、戦えなくしなくてはならない……。
しかし、未だ檸檬の中には迷いがあった。
実の妹を傷つけたくないという、甘さが。
「あ、あれを個人で開発したのか…何て人だ……」
「お前から見てもやっぱすげーのか、蜜柑の開発したプログラムってやつは。」
檸檬と蜜柑の戦いを見ていることしか出来ない入江が、思わず感嘆の声を漏らす。
それは、純粋に研究者・技術者としての敬意だった。
「ああ…信じられないよ。大空の炎で開けた匣兵器が、短時間とは言え音声指示一つでコロコロ属性を変えるなんて…!」
「でもその力は…こうして使われるべきではないです…。」
ユニが不安げな眼差しを檸檬と蜜柑に向ける。
リボーンは彼女の表情を見て、問いかけた。
「前にも言ってたな、戦うべきじゃねぇって。お前は檸檬と蜜柑の未来に何を視てんだ?」
「……未来に、ではないんです…。お二人は今現在、それぞれに“カシスの意志”を受け継いでいます。それゆえ、一方がもう一方を淘汰することなどあってはならない…。」
「カシスの意志ってのは、それほど危ねぇモンなのか?」
「はい…。檸檬さんはその血に生きるカシスと話をつけたようですが……蜜柑さんの中でカシスの意志は眠ったまま……」
「眠ったままじゃマズいってことか?」
「はい…均衡が崩れてしまう恐れがあるのです…」
---
------
--------------
「我流!!ブレイクだ!!!」
「ガアア!!!」
了平の掛け声に反応し、我流が晴の炎を了平に向けて放つ。
その状態で了平は叫ぶ。
「我流!!!形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」
「ガアッ!!」
そして今度は我流と了平が一体となり、眩い光を放ち始めた。
「リボーンさんの話では、初代晴の守護者は最強の名を欲しいままにした無敗のボクサーだったといいます。だが強すぎた彼は試合で相手を殺めてしまい、拳を封印し神に仕える仕事に就いた…」
それ以後、彼がリングにあがることはなかったが……一度だけボンゴレファミリーに危機が訪れた時、己に3分間の制限を課し、その拳でファミリーを救ったという…。
「笹川殿のあのボンゴレ匣は、その時の武器……いや、状態をも表しているんだ!!」
明るく大空を照らす日輪と謳われた、ナックルの極限(マキシマム)ブレイク!!!
「ハハン、純度の高い炎です。さすが選ばれし守護者とその兵器……ですが私が修羅開匣してしまった以上、体に触れることすら…」
桔梗の言葉は半ばで途切れた。
了平が凄まじいスピードで接近し、アッパーを決めたのである。
「(何……私の動きについてこれる人間など…!)……ハハン、まぐれですよ…」
よろめいた桔梗の懐に、1秒とかからずにすかさず接近する了平。
「(バカな!!)」
「極限(マキシマム)コンビネーション!!!」
繰り出される連続ストレートを食らうしかないまま、桔梗はその異常さを目の当たりにする。
自分が今まで戦ってきた個体の中で、最も強いものだと体感せざるを得ない。
「見ていてくれ師匠!!極限太陽(マキシマム・キャノン)!!」
晴の炎が乗せられた強烈なストレートが、桔梗の身体を吹っ飛ばす。
その戦いぶりを見ていたバジルは思わず感歎の声を上げた。
「すごい!完全に圧倒している!!」
「(いいや、今のは浅かった…)」
了平がそれを察すると同時に、桔梗も了平の強さの仕組みを理解した。
始めに受けた光弾の効果で了平の身体はかつてないほどの超活性を起こしている。
常人では炎の圧倒的影響力と急激な身体変化についていけずに、体を壊してしまう。
「とは言え貴方も……3分しか肉体がもたないようですがね。」
「3分というのは…肉体のタイムリミットだったのか!」
「もっとも今の貴方の攻撃力を真正面から受けたら勝てそうにない。さぁ、ここからは競争です。残りの時間で私の雲の増殖による防御が勝るか…貴方の晴の活性による攻撃が勝るか。」
「な……恐竜がすごい勢いで分裂していく!!」
「面白い…その勝負受けて立つ!!」
了平一人に対して、桔梗が繰り出した雲スピノサウルスの数は異常なまでだった。
しかしそれは、了平の攻撃力を桔梗が警戒してるという何よりの証拠。
「ゆくぞ!!極限(マキシマム)イングラム!!」
襲い掛かる恐竜たちに、恐れず突っ込んでいく了平。
その胸中には、自分より早くこの未来に来てしまい、これまでたくさんの恐怖を感じてきた妹の姿が浮かんでいた。
優しい妹は、修業や戦いで傷ついた仲間たちの姿に心を痛めていただろう。
それ以前に、未来の世界がこんなにも殺伐としていることに耐え切れないはずだ。
「(必ず兄ちゃんが…過去に帰してやるからな!!!)」
---
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「いつまで甘いことを考えていられるかしらね。」
蜜柑の言葉に、檸檬は少なからず動揺した。
気付かれてしまったのだ。
檸檬が、蜜柑を傷つけることを躊躇っているということに。
「無傷で勝利するのが姉さんの戦法なんでしょうけど、敗者を無傷のまま戦闘不能にすることは不可能だわ。」
『…そうみたいだね。』
「戦意喪失でも狙っているのなら、予め言っておいてあげるわ。無駄よ。」
蜜柑の殺気が強まるのを感じる。
あたしが本気で戦おうとしていないことが、許せないんだろう。
「ピグ、R72。L31。」
『(またこのパターン…?)…セレネ!』
「みいっ!」
ピグがあたしの背後に移動して、大空の炎弾を放つ。
セレネに防御壁を展開させておいて、あたし自身は蜜柑の動きを追う。
…やっぱり、連射による銃弾の雨。
Fブーツを起動させて、空中に浮く。
と、そこには炎弾を放ち終えたピグの姿。
『先回りされるのは分かってたよ。』
後ろから迫る破壊の死ぬ気弾・追尾型の気配を感じながら、あたしは咄嗟に空間移動を発動させた。
ピグと銃弾がぶつかる。
けどそれは恐らく相打ちにはならない…。
「ガァアッ!!」
「チャージ、手伝ってくれてありがとう、姉さん。」
そう、ピグにはチャージ式肥大化プログラムが搭載されている。
つまり蜜柑の銃弾を食らえば食らうほど、大きさとスピード・パワーが増す。
始めからあたしの避け方を込みで組んでいたとしたら…
『当たればそれでよし、外れてもチャージできればよし、ってことね。』
「避けられた場合の想定もしておくのは当然でしょ?」
檸檬の動きが研究し尽くされてることは、リボーンにも分かった。
そしてそれが活きているのには、二つの要因があった。
一つは、ピグに背後からの攻撃パターンが加えられたこと、
もう一つは、檸檬の背後からの攻撃が完全に把握されてしまっていることだった。
つまり檸檬は警戒しなければならない攻撃が増え、
蜜柑は逆に予測の正確さを増しているということ。
「檸檬、何してやがんだ。現状お前は限りなく不利だぞ。」
『リボーン…でも、』
「不利な状況じゃ話もできねぇ。迷うのも悩むのも戦況変えてからにしろ。」
「いいアドバイスね、さすがアルコバレーノというところかしら。けれど……」
蜜柑は再び檸檬に向けて連発する。
「ピグ、C to H…行きなさい。」
「ガァアア!!」
破壊の死ぬ気弾に加え、ピグは嵐属性に変化してから炎弾を放つ。
檸檬は意を決して全ての攻撃を避けるために空間移動を使い、蜜柑の背後に回り込んだ。
「ピグ、」
『なっ…!』
やはり、檸檬が現れるポイント・角度はしっかり読まれていた。
その証拠に、蜜柑の指示一つで、嵐属性になったピグが檸檬の真横から、その爪を振り下ろす。
「みいっ!!」
危機を察知したセレネが咄嗟に増殖したものの、その爪は檸檬の腕を掠った。
傷自体は小さいものだったが、分解の効力が檸檬に傷の大きさ以上の痛みを与える。
『くうっ…!』
「やっと当たったわね。雨属性にしておけばよかったわ。」
『(背後に回ることは読まれても当然……だけど、何かがおかしい…)』
「考える時間はあげない。」
蜜柑が新たに銃弾を装填するその一瞬をつき、檸檬はセレネに言った。
『セレネ、5秒でいい。』
「みいいっ!!」
大きく頷いたセレネは、次の瞬間眩い光を放った。
それがチョイスの時に防御ドームを展開した際の光だと、蜜柑は直感した。
「ピグ、C to R。」
「ガアッ!」
「5秒以内に鎮静させなさい。」
蜜柑の指示で、ピグは雨属性の炎をセレネが生成した増殖のドームにぶつけ始めた。
が、やはりなかなかドームは綻ばない。
「(このタイミングで時間稼ぎ……まさか、)」
『(考えて、今の違和感の正体を…………そうだ、場所は読めるとして、どうして角度まで分かったの?まるで後ろに目があるみたいに……)』
「みぃぃ…」
やっぱり、5秒はもたなかった。
雨属性の鎮静によって、セレネは一旦匣に戻ってしまう。
けど、あたしには充分な時間がもらえた。
『リボーン、ありがとう。』
「気にすんな。お前は大事な家庭教師補佐だからな。」
『いくよ、蜜柑。』
トトンッと爪先で地面を叩いたら、あたしのリズムの始まり。
そうだ…あたしの戦いは音楽だ。
誰にも邪魔させない、誰の影響も受けない。あたしの踊りを踊るんだ。
それが【読まれる】ということは……答えは一つ。
「開匣もしないで、何のつもりか知らないけど…いいわ。ピグ、」
「ガァッ!」
ピグがあたしに攻め寄ると同時に、蜜柑は他の方角を塞ぐように銃を撃つ。
全方位から迫る攻撃への対処はたった一つ…空間移動に絞られるからだ。
『(真っ向勝負…望むところよ!!)』
蜜柑が敢えて空間移動であたしを背後におびき寄せるというなら、あたしはそれに乗っかる。
「ピグ、C to R。終わらせなさい。」
「ガァーッ!」
空間移動で蜜柑の斜め後ろに回る。
案の定、ピグがあたしの真横に先回りしてた。
第六感を使ったあたしが出現するポイントと角度が正確に読めるということは……
『(波長の歪みを観察しているヤツがいる…!)』
そう、音楽と踊りを先読みできるのは、鑑賞者だけ。
ピグの爪をナイフで受け止めながら、透視を発動した。
『(見つけた…!)』
蜜柑の真後ろ、森の奥に、熱反応!
即座にその地点に空間移動すれば、そこにはピグの元のサイズと同じような小さい小さいサルの匣兵器。
その目はカメラで、耳は集音器で出来ているようだった。
『ごめんね…』
目のカメラを破壊して尻尾に灯る炎を奪うと、それは蜜柑の腰にある匣へと戻っていった。
同時に、蜜柑が目元を押さえる。
「つっ…」
『やっぱり、見てたんだね。匣兵器を使って。』
森から出て、蜜柑の正面に降り立ったあたしに、リボーンの声が聞こえた。
「よくやったな、これで一先ず戦況は変わったぞ。」
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3分間、激しい攻防が繰り広げられた。
桔梗はかなり消耗したが、了平の傷も開いてしまった。
「ハァ…ハァ……貴方が怪我をしていなければ、危なかった……」
「ぐっ…ぐああ!!!」
「笹川殿!!」
「超活性の反動がきているようですね。今、楽にしてあげましょう。」
了平にとどめを刺そうとする桔梗に、バジルは自分が相手をすると言って構える。
「ハハン…怪我をしている貴方に勝ち目などありませんよ。折角ならば一人と言わず、そこに隠れている君もどうですか?」
桔梗の言葉に反応し、了平とバジルが目を向けた先には…
「雲雀殿!!」
「やはり貴方でしたか。何故手を出さず見ていたのですか?」
「並中のボクシング部主将は試合中に手を出すと、委員長会議にまで乗り込んできてうるさいからね。」
「雲雀…」
「なるほど、美しい友情の協定ですね。ですが私のルールは貴方と違い……手段は選びません。」
言いながら桔梗は右手をスッと上げる。
と、次の瞬間、雲雀は左側の下方から何かが迫る気配を感じ…
彼の腕章が、赤く染まった。
「さようなら。」
蜜柑の指示により背後から現れたピグの攻撃をかわす。
回避はしたものの、突然増えたバリエーションに疑問を持つしかなかった。
「分かり易いわね、本当に。」
『わっ…!』
背後からの攻撃には、あたしが狙っているような虚を突いた直接的ダメージのほかにもう一つ意味がある。
当然それが初めて見るパターンであれば、直後から警戒しなければいけないポイントが増える。
つまり、回避を専門とし最低条件とするあたしにとっては、神経をすり減らされる余計なパターン。
避けるあたしを仕留めようとする蜜柑にとっては、絶好の体力削減パターンとなる。
『……まったく、いつもいつもやり辛くしてくれるよね。』
「私は殺り易くしてるだけよ。」
事実、今のピグの攻撃の直後もそう。
あたしの意識が左斜め後ろに向いたその一瞬で、蜜柑は一発食らわせようとしてきた。
かろうじて避けて距離は取ったものの、どうやら速攻で終わらせるっていうのはますます無理な状況になったみたい。
『(恭弥、大丈夫かな…)』
さっき、僅かだけど波長の乱れが感じられた。
戦闘が激しい地点に向かっている恭弥の波長は、戦闘に備えて安定しているはず。
その状態の恭弥の意識が揺らぐほどの出来事があったのだとしたら、一刻も早く……ううん、そんなこと考えてられない。
あたしは、あたしが今なすべきことに、ちゃんと向き合わなくちゃいけないんだから。
1R
湖近くの戦闘地帯にて。
雷のVGを装着したランボは、泣きながらも凄まじい雷撃を放ち、雲ヴェロキラプトルを全滅させた。
その所業に敵の桔梗だけでなく、太猿や野猿まで驚きを隠せない。
「マ・マ・ン……」
「気力を全て使い果たしたな…よくやったぞランボ!!」
「分かりました。遊びは通用しないようなので、戯れるのはやめましょう。私にも、ユニ様を確保するという目的がある……そろそろ本腰を入れましょう。」
眠りに落ち了平に抱えられたランボの実力を認めながら、桔梗はいよいよ胸に埋め込まれた匣に炎を注入した。
途端に跳ね上がる炎圧に、誰もが修羅開匣を想定する。
と、次の瞬間、湖から何かが飛び出しバジルの右腕を抉るように直撃した。
「ぐあっ!」
「バジル!!」
それは次々と、何本も了平たちに向かって飛び出し、危険を察知した了平はいち早く仲間たちを草むらに伏せさせた。
「何だ!?」
恐る恐る顔を上げた了平とバジル、そして太猿と野猿は、驚愕する。
まるで地獄絵図のような、息を呑む光景。
湖から噴水のように伸びているのは、何頭もの恐竜の頭。
一頭一頭が生きており、今にも獲物を食らおうと牙をむいている。
「か、怪物…!」
「私の体は肉食スピノサウルスの姿を雲の炎で変形増殖させており、原形をとどめていないのです。自ら言うのも何ですが…真6弔花最強の戦闘力を誇っています。」
「相手にとって不足はない……ここはボンゴレ晴の守護者・笹川了平が相手になる!」
共に闘う、と進言するバジルに、了平はさがっていて構わないと言う。
先ほど深手を負ったバジルの身を考慮しているのと、もう一つ。
自分のスタイル上、サシの勝負が理想である…と。
「しかし、笹川殿も酷い怪我を…!!」
「心配はいらん。3分……1Rで倒してみせる。」
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『セレネ、任せたよ。』
「みっ!」
蜜柑とピグが背後からの攻撃パターンを加えたことで、あたしには精神的プレッシャーが少なからずかけられた。
けれど今のあたしは、一人じゃない。
初めて開匣したときのセレネは、お世辞にも頼りになる相棒とは言えなかった。
けど今は、背中を任せられるパートナー。
未来のあたしが残してくれた、ボスに預けてくれた、大切なもの。
「ピグ、C to “T”、炎弾。」
「ガァァーッ!!」
『(来た…!)』
ピグの纏う炎が緑色に変わる。
チョイスの時に見せられた、炎変換プログラム。
「行きなさい。」
「ガァッ!」
放たれた炎弾をかわした先に、蜜柑の銃弾。
破壊の死ぬ気弾だから炎を奪ってから全て弾く。
けどその一瞬、あたしが立ち止まって動きを止めたその一瞬に、ピグはもう右後ろに移動している。
『(ここまでは読み通り…)』
纏っている炎が雷だから、セレネの防壁では“硬化”に負けるかも知れない。
だったらナイフでいなして一度空中に……
「ピグ、C to “C”、炎投。」
『なっ…!』
「ガァーッ!!」
「回避に労力を割くと言うのなら、割かせてあげるわ。ただ……底をつくのが早くなるでしょうけど。」
蜜柑がピグに与えた指示は、雲属性への変換。
つまり、ピグの攻撃は増殖して複数の炎弾が放たれることになる。
おまけに蜜柑はあたしが空中回避することを予測してアーチ状に破壊の死ぬ気弾を打ってある。
まさに四方八方からの攻撃……でも、
『こっちは避けるプロだって言ってんでしょ…!』
セレネと一緒の空間移動は、もう慣れた。
蜜柑の背後にこのまま出るのも悪くないけど、攻撃される角度とあたしの身体の流れ方から再び予測される可能性が高い。
だったらリスクのある攻撃に移るより回避優先で…移動先は蜜柑から距離を取る!
「…関係ないわ。ピグ、R89。」
『(そんな…真後ろ…!?)』
空間移動で回避したそのポイントを読まれていても驚かない。
けど……移動した0.2秒後にはもうピグが背後からの攻撃を仕掛けているなんて…
「みぃぃっ!!」
咄嗟にセレネが増殖で防御壁を展開してくれたから、ピグの爪は防げた。
それでもあたしは距離を取りながら驚かざるを得なかった。
そしてその驚きを察知したのか、蜜柑は鼻で笑ってこう告げる。
「かわせたみたいね。けれどこれで分かったでしょう?背後からの攻撃は姉さんの専売特許じゃないのよ。」
『蜜柑…』
「私の予測と指示で、ピグはいくらでも姉さんの虚を突くわ。警戒心の比重が変わったところで、私が姉さんの首を落としてあげる。」
『作戦予告くれるなんて、随分サービスいいんだね。』
「情報開示によるデメリットがないからよ。」
淡々と話す蜜柑を前に、檸檬はグッと拳を握る。
やはり、真正面から戦って勝つしかないのか、と。
蜜柑の戦闘力・スキルを考えると、話をつけるまで避け続けるのは至難の業であり、残念ながら体力がもたない確率の方が高い。
真っ向から技を破り、策を崩し、戦えなくしなくてはならない……。
しかし、未だ檸檬の中には迷いがあった。
実の妹を傷つけたくないという、甘さが。
「あ、あれを個人で開発したのか…何て人だ……」
「お前から見てもやっぱすげーのか、蜜柑の開発したプログラムってやつは。」
檸檬と蜜柑の戦いを見ていることしか出来ない入江が、思わず感嘆の声を漏らす。
それは、純粋に研究者・技術者としての敬意だった。
「ああ…信じられないよ。大空の炎で開けた匣兵器が、短時間とは言え音声指示一つでコロコロ属性を変えるなんて…!」
「でもその力は…こうして使われるべきではないです…。」
ユニが不安げな眼差しを檸檬と蜜柑に向ける。
リボーンは彼女の表情を見て、問いかけた。
「前にも言ってたな、戦うべきじゃねぇって。お前は檸檬と蜜柑の未来に何を視てんだ?」
「……未来に、ではないんです…。お二人は今現在、それぞれに“カシスの意志”を受け継いでいます。それゆえ、一方がもう一方を淘汰することなどあってはならない…。」
「カシスの意志ってのは、それほど危ねぇモンなのか?」
「はい…。檸檬さんはその血に生きるカシスと話をつけたようですが……蜜柑さんの中でカシスの意志は眠ったまま……」
「眠ったままじゃマズいってことか?」
「はい…均衡が崩れてしまう恐れがあるのです…」
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「我流!!ブレイクだ!!!」
「ガアア!!!」
了平の掛け声に反応し、我流が晴の炎を了平に向けて放つ。
その状態で了平は叫ぶ。
「我流!!!形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」
「ガアッ!!」
そして今度は我流と了平が一体となり、眩い光を放ち始めた。
「リボーンさんの話では、初代晴の守護者は最強の名を欲しいままにした無敗のボクサーだったといいます。だが強すぎた彼は試合で相手を殺めてしまい、拳を封印し神に仕える仕事に就いた…」
それ以後、彼がリングにあがることはなかったが……一度だけボンゴレファミリーに危機が訪れた時、己に3分間の制限を課し、その拳でファミリーを救ったという…。
「笹川殿のあのボンゴレ匣は、その時の武器……いや、状態をも表しているんだ!!」
明るく大空を照らす日輪と謳われた、ナックルの極限(マキシマム)ブレイク!!!
「ハハン、純度の高い炎です。さすが選ばれし守護者とその兵器……ですが私が修羅開匣してしまった以上、体に触れることすら…」
桔梗の言葉は半ばで途切れた。
了平が凄まじいスピードで接近し、アッパーを決めたのである。
「(何……私の動きについてこれる人間など…!)……ハハン、まぐれですよ…」
よろめいた桔梗の懐に、1秒とかからずにすかさず接近する了平。
「(バカな!!)」
「極限(マキシマム)コンビネーション!!!」
繰り出される連続ストレートを食らうしかないまま、桔梗はその異常さを目の当たりにする。
自分が今まで戦ってきた個体の中で、最も強いものだと体感せざるを得ない。
「見ていてくれ師匠!!極限太陽(マキシマム・キャノン)!!」
晴の炎が乗せられた強烈なストレートが、桔梗の身体を吹っ飛ばす。
その戦いぶりを見ていたバジルは思わず感歎の声を上げた。
「すごい!完全に圧倒している!!」
「(いいや、今のは浅かった…)」
了平がそれを察すると同時に、桔梗も了平の強さの仕組みを理解した。
始めに受けた光弾の効果で了平の身体はかつてないほどの超活性を起こしている。
常人では炎の圧倒的影響力と急激な身体変化についていけずに、体を壊してしまう。
「とは言え貴方も……3分しか肉体がもたないようですがね。」
「3分というのは…肉体のタイムリミットだったのか!」
「もっとも今の貴方の攻撃力を真正面から受けたら勝てそうにない。さぁ、ここからは競争です。残りの時間で私の雲の増殖による防御が勝るか…貴方の晴の活性による攻撃が勝るか。」
「な……恐竜がすごい勢いで分裂していく!!」
「面白い…その勝負受けて立つ!!」
了平一人に対して、桔梗が繰り出した雲スピノサウルスの数は異常なまでだった。
しかしそれは、了平の攻撃力を桔梗が警戒してるという何よりの証拠。
「ゆくぞ!!極限(マキシマム)イングラム!!」
襲い掛かる恐竜たちに、恐れず突っ込んでいく了平。
その胸中には、自分より早くこの未来に来てしまい、これまでたくさんの恐怖を感じてきた妹の姿が浮かんでいた。
優しい妹は、修業や戦いで傷ついた仲間たちの姿に心を痛めていただろう。
それ以前に、未来の世界がこんなにも殺伐としていることに耐え切れないはずだ。
「(必ず兄ちゃんが…過去に帰してやるからな!!!)」
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「いつまで甘いことを考えていられるかしらね。」
蜜柑の言葉に、檸檬は少なからず動揺した。
気付かれてしまったのだ。
檸檬が、蜜柑を傷つけることを躊躇っているということに。
「無傷で勝利するのが姉さんの戦法なんでしょうけど、敗者を無傷のまま戦闘不能にすることは不可能だわ。」
『…そうみたいだね。』
「戦意喪失でも狙っているのなら、予め言っておいてあげるわ。無駄よ。」
蜜柑の殺気が強まるのを感じる。
あたしが本気で戦おうとしていないことが、許せないんだろう。
「ピグ、R72。L31。」
『(またこのパターン…?)…セレネ!』
「みいっ!」
ピグがあたしの背後に移動して、大空の炎弾を放つ。
セレネに防御壁を展開させておいて、あたし自身は蜜柑の動きを追う。
…やっぱり、連射による銃弾の雨。
Fブーツを起動させて、空中に浮く。
と、そこには炎弾を放ち終えたピグの姿。
『先回りされるのは分かってたよ。』
後ろから迫る破壊の死ぬ気弾・追尾型の気配を感じながら、あたしは咄嗟に空間移動を発動させた。
ピグと銃弾がぶつかる。
けどそれは恐らく相打ちにはならない…。
「ガァアッ!!」
「チャージ、手伝ってくれてありがとう、姉さん。」
そう、ピグにはチャージ式肥大化プログラムが搭載されている。
つまり蜜柑の銃弾を食らえば食らうほど、大きさとスピード・パワーが増す。
始めからあたしの避け方を込みで組んでいたとしたら…
『当たればそれでよし、外れてもチャージできればよし、ってことね。』
「避けられた場合の想定もしておくのは当然でしょ?」
檸檬の動きが研究し尽くされてることは、リボーンにも分かった。
そしてそれが活きているのには、二つの要因があった。
一つは、ピグに背後からの攻撃パターンが加えられたこと、
もう一つは、檸檬の背後からの攻撃が完全に把握されてしまっていることだった。
つまり檸檬は警戒しなければならない攻撃が増え、
蜜柑は逆に予測の正確さを増しているということ。
「檸檬、何してやがんだ。現状お前は限りなく不利だぞ。」
『リボーン…でも、』
「不利な状況じゃ話もできねぇ。迷うのも悩むのも戦況変えてからにしろ。」
「いいアドバイスね、さすがアルコバレーノというところかしら。けれど……」
蜜柑は再び檸檬に向けて連発する。
「ピグ、C to H…行きなさい。」
「ガァアア!!」
破壊の死ぬ気弾に加え、ピグは嵐属性に変化してから炎弾を放つ。
檸檬は意を決して全ての攻撃を避けるために空間移動を使い、蜜柑の背後に回り込んだ。
「ピグ、」
『なっ…!』
やはり、檸檬が現れるポイント・角度はしっかり読まれていた。
その証拠に、蜜柑の指示一つで、嵐属性になったピグが檸檬の真横から、その爪を振り下ろす。
「みいっ!!」
危機を察知したセレネが咄嗟に増殖したものの、その爪は檸檬の腕を掠った。
傷自体は小さいものだったが、分解の効力が檸檬に傷の大きさ以上の痛みを与える。
『くうっ…!』
「やっと当たったわね。雨属性にしておけばよかったわ。」
『(背後に回ることは読まれても当然……だけど、何かがおかしい…)』
「考える時間はあげない。」
蜜柑が新たに銃弾を装填するその一瞬をつき、檸檬はセレネに言った。
『セレネ、5秒でいい。』
「みいいっ!!」
大きく頷いたセレネは、次の瞬間眩い光を放った。
それがチョイスの時に防御ドームを展開した際の光だと、蜜柑は直感した。
「ピグ、C to R。」
「ガアッ!」
「5秒以内に鎮静させなさい。」
蜜柑の指示で、ピグは雨属性の炎をセレネが生成した増殖のドームにぶつけ始めた。
が、やはりなかなかドームは綻ばない。
「(このタイミングで時間稼ぎ……まさか、)」
『(考えて、今の違和感の正体を…………そうだ、場所は読めるとして、どうして角度まで分かったの?まるで後ろに目があるみたいに……)』
「みぃぃ…」
やっぱり、5秒はもたなかった。
雨属性の鎮静によって、セレネは一旦匣に戻ってしまう。
けど、あたしには充分な時間がもらえた。
『リボーン、ありがとう。』
「気にすんな。お前は大事な家庭教師補佐だからな。」
『いくよ、蜜柑。』
トトンッと爪先で地面を叩いたら、あたしのリズムの始まり。
そうだ…あたしの戦いは音楽だ。
誰にも邪魔させない、誰の影響も受けない。あたしの踊りを踊るんだ。
それが【読まれる】ということは……答えは一つ。
「開匣もしないで、何のつもりか知らないけど…いいわ。ピグ、」
「ガァッ!」
ピグがあたしに攻め寄ると同時に、蜜柑は他の方角を塞ぐように銃を撃つ。
全方位から迫る攻撃への対処はたった一つ…空間移動に絞られるからだ。
『(真っ向勝負…望むところよ!!)』
蜜柑が敢えて空間移動であたしを背後におびき寄せるというなら、あたしはそれに乗っかる。
「ピグ、C to R。終わらせなさい。」
「ガァーッ!」
空間移動で蜜柑の斜め後ろに回る。
案の定、ピグがあたしの真横に先回りしてた。
第六感を使ったあたしが出現するポイントと角度が正確に読めるということは……
『(波長の歪みを観察しているヤツがいる…!)』
そう、音楽と踊りを先読みできるのは、鑑賞者だけ。
ピグの爪をナイフで受け止めながら、透視を発動した。
『(見つけた…!)』
蜜柑の真後ろ、森の奥に、熱反応!
即座にその地点に空間移動すれば、そこにはピグの元のサイズと同じような小さい小さいサルの匣兵器。
その目はカメラで、耳は集音器で出来ているようだった。
『ごめんね…』
目のカメラを破壊して尻尾に灯る炎を奪うと、それは蜜柑の腰にある匣へと戻っていった。
同時に、蜜柑が目元を押さえる。
「つっ…」
『やっぱり、見てたんだね。匣兵器を使って。』
森から出て、蜜柑の正面に降り立ったあたしに、リボーンの声が聞こえた。
「よくやったな、これで一先ず戦況は変わったぞ。」
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3分間、激しい攻防が繰り広げられた。
桔梗はかなり消耗したが、了平の傷も開いてしまった。
「ハァ…ハァ……貴方が怪我をしていなければ、危なかった……」
「ぐっ…ぐああ!!!」
「笹川殿!!」
「超活性の反動がきているようですね。今、楽にしてあげましょう。」
了平にとどめを刺そうとする桔梗に、バジルは自分が相手をすると言って構える。
「ハハン…怪我をしている貴方に勝ち目などありませんよ。折角ならば一人と言わず、そこに隠れている君もどうですか?」
桔梗の言葉に反応し、了平とバジルが目を向けた先には…
「雲雀殿!!」
「やはり貴方でしたか。何故手を出さず見ていたのですか?」
「並中のボクシング部主将は試合中に手を出すと、委員長会議にまで乗り込んできてうるさいからね。」
「雲雀…」
「なるほど、美しい友情の協定ですね。ですが私のルールは貴方と違い……手段は選びません。」
言いながら桔梗は右手をスッと上げる。
と、次の瞬間、雲雀は左側の下方から何かが迫る気配を感じ…
彼の腕章が、赤く染まった。
「さようなら。」