未来編②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「向こうで爆発が!!」
「獄寺クンとラルとγのいる地点だ!!」
「あいつら…一撃で敵を仕留めてるといいがな……」
「ラルは病人だし、獄寺クンは怪我をしていて動けない……戦いが長引くとヤバいからね…。」
リボーンや入江の言葉を聞き、ツナは夜明け前の作戦会議でのことを思い出した。
ユニの予知で敵の来る方向が分かっていたため、守る地点を決めることになった。
そして守りの要となる地点にγが名乗り出て、対抗心を表すように獄寺も「行く」と言いだしたのだ。
更にはまだ体の具合が回復していないラルまで。
-「見ていて下さい10代目!ボンゴレの守護者の誇りにかけて敵を倒してみせます!」
意気込む獄寺に対して、ツナは言った。
-「許可…出来ない!!」
右腕
---
-----
-----------
一方、並中でも勝負の日の夜明けを迎えていた。
「んじゃ、ユニのことは任せたぜ、恭弥、檸檬。」
『うんっ!』
ディーノの言葉に檸檬は大きくうなずき、雲雀はふいっとそっぽを向く。
「僕は気に入らないヤツを咬み殺しに行くだけさ。」
『もーっ、恭弥ってば…』
「ま、ボンゴレ匣を使いこなす今の恭弥なら心配してねーけどよ。お前は大丈夫なのか?檸檬…」
『大丈夫。ディーノからもらったもう一つの匣も、開ける方法を思いついたの。』
ハッキリとそう答えた檸檬に、ディーノは「そっか」と頭を撫でる。
今から5人は二手に分かれて別行動をするのだ。
雲雀と檸檬は、ツナ達がユニを守っているであろう森へと。
そしてディーノとロマーリオ、草壁は、スクアーロが殺られたというボンゴレ地下アジトへ。
『気をつけてね、だいぶ破損してるみたいだから……転ばないようにね。』
「何言ってんだよ、檸檬は心配性だな。」
『ロマさん、ちゃんとディーノについてて下さい。』
「ああ、任せときな。」
究極のボス体質であるディーノを心配する檸檬を、雲雀が急かす。
「檸檬、行くよ。」
『あっ、待ってよ恭弥!』
「恭さん、檸檬さん、お気をつけて!!」
『はいっ!』
草壁に敬礼を一つして、檸檬は雲雀の後を追った。
少し距離が離れていたが、俊足でサッと追いつく。
「…それで?」
『えっ?』
「どうせまた、一人で妹と戦うつもりでしょ。」
『……大当たりです、さすが恭弥。』
にこりと笑う檸檬を、雲雀はムスッとしながら一瞥した。
「…操ってるヤツを叩いた方が早いと思うけど?」
『白蘭のこと?うーん……でもあたし、白蘭には感謝しなきゃいけないこともあるから。』
「感謝…?」
『こんな状況でそんなこと、言っちゃいけないような気もするけどね。』
森へと向かいながら、檸檬は続ける。
『あたしは…小さい頃のことなんて思い出したくもなくて、記憶を押し込めて……蜜柑のことを忘れてしまってた…。だから、蜜柑に恨まれるのは仕方ないことだと思うの。』
「作られた恨みでも?」
『確かにね、両親が蜜柑にあたしを殺させようとしてるのも事実。だけど……あたしがちゃんと蜜柑を迎えに行ってれば…もしかしたら、蜜柑の心は死ななかったかも知れないって、思うの。』
「だからって、アイツに感謝することない。」
『ううん、だって…彼はきっと、蜜柑を大切にしてくれてるから。』
「…ふぅん……」
雲雀はそれ以上何も問いかけなかった。
ただひたすら、檸檬と共に森に向かい走り続けた。
---
------
-----------
「あいつ…胸の匣に炎を!!」
「修羅開匣だ!!」
「さぁて、どんな虫人間やら動物人間が出てくるんだ?」
風圧に耐えながら、ラルと獄寺、γは前を見る。
次の瞬間、煙の中から聞こえた声は、先程より野太くなっていた。
「バーロー、虫や動物だぁ?デイジーやトリカブトと同じにするな。」
「なっ…!!何だありゃ!」
「体が一回りでかくなったぞ!!しかもあの爪と尾…!!」
「トカゲってレベルの迫力じゃねーな……」
現れた巨体に、3人は驚愕する。
その皮膚は赤黒く変化し、背から溢れる巨大な炎。
「当たりめーだバーロー!!俺にかけ合わされた匣兵器は確かに地球上の生き物ではあるが、6500万年以上前の巨大な怪物だ!!」
「6500万年!?」
「まさか…恐竜!!?」
現存するDNAのみでザクロの修羅開匣を作り出したのは、ミルフィオーレの圧倒的に優れた科学力。
故にその体にはT-REXのパワーが凝縮されていることになる。
その事実に驚愕する暇もなく、ザクロは3人に攻め寄り、まずγを片腕で払い飛ばす。
「がっ…!」
「γ!!」
「このっ…!!」
ラルが咄嗟に8ミリ弾を連射するが、ザクロの体は鋼鉄のようにそれを弾いていく。
「笑わすなバーロー!!」
「(ザムザ防御だ!!)」
ザクロのスピードに反応し、咄嗟に雲ムカデを展開するも、その防御壁ごとラルも払い飛ばされる。
「やろう!!」
獄寺も赤炎の矢を浴びせるものの、ザクロは片手で凌ぎながら言う。
「バーロー、気持ちいいシャワーじゃねーか。とっととボンゴレ匣とやらを出しちまった方がいいんじゃねーのか?」
「言われなくてもやってやらあ!!行くぞ瓜!!形態変化だ!!」
「ニャアアアア!!」
瓜の額にあるボンゴレの紋章が眩い光を放った。
「さぁ、どーなる?」
---
-----
-----------
それまで静かに立っていた蜜柑が、スッと顔を上げて空を見上げた。
「どうかした?」
「ダークが…来ました。」
「ああ、マーちゃんが音をキャッチしたんだね。」
「はい。」
「そっかー、もう来ちゃったんだー…。」
「白蘭、迎撃許可を。」
僕の前に片膝をついて頭を下げる蜜柑に、「とりあえず立って」と言う。
檸檬ちゃんが来たってことは、いよいよ双子の運命の戦いが終わるんだね。
僕は色んな世界で君を見てきたけど、ここまで姉の死に執着している蜜柑は、君だけだった。
それは、この世界の君の中に“憎しみ”っていう感情しか残っていない、ってことなのかな…。
「許可は、するんだけどさ、」
「はい。」
「一つだけ、約束して欲しいんだ。」
「約束、ですか…?」
疑問符を浮かべる蜜柑の手を握り、そのまま抱き寄せた。
蜜柑、ごめんね。
僕は今から、君の一番嫌いな言葉を口にする。
この不可思議な感情は、もう僕の頭の中だけでは収まりきらないんだ。
「白蘭…?」
突然の抱擁にすっかり慣れてしまった君は、もうちっとも動じないね。
僕は、君に触れるたびに、切なくなるのに。
こうして触れていられるのはいつまでだろうと、
君はまた消えてしまうんじゃないかと、
不安すら感じるのに。
「帰って来て、欲しいんだ……何があっても、僕の所に。」
「それは、命令ではないのですか?」
「うん、約束だよ。」
蜜柑の瞳は、まるで湖面のように僕のことを映していた。
深い深い、湖。
君の心は沈んだまま、ただ闇雲に憎しみだけを募らせて…
「私には、分かりません。命令と約束は、どう違うのですか?言葉の定義は存じておりますが…」
「約束の方が、対等だろ?」
「白蘭と私は対等ではありません。私はあなたの、」
「僕は部下に頼んでるんじゃなくてね、蜜柑に頼んでるの。君という、一人の人間に。」
混乱させてるのは分かってた。
それでも、少しは蜜柑を混乱させておいた方がいいかなって思ってる僕もいた。
だって僕は、これから君に、
君が最も嫌う言葉を浴びせるんだから。
「ごめんね、蜜柑。僕は君を雇う時に交わした約束を破ることになる。」
「雇う時、ですか…?」
思い出そうと目線を下に向ける蜜柑を、ぎゅうっと抱きしめて。
ああ、何だか緊張してきたよ。
こうして抱きしめるのは日常茶飯事だったのに。
蜜柑はどんな顔をするだろう。
どんな反応をするだろう。
僕を突き飛ばすだろうか。
それとも罵倒するのかな。
何でもいいよ。
どうなってもいい。
ずっとずっと、溜め込むよりマシだ。
そう気付いたのは、君の死をパラレルワールドで何億回も繰り返し見た後だった。
少し遅かったけど、気付けたんだよ。
伝えたくて、伝えられなくて、
何度も何度も失敗して、
どの世界でも、君の心は僕のものにならなくて。
悔しくて、
哀しくて、
寂しくて、
苦しくて、
痛くて、
それでも…変わらなかった、変えられなかった。
違う世界で君を探しては、出会って、傷つけて、壊して、死に追いやった。
あらゆる世界の君が、僕のせいで死んでいった。
僕以外の人間を愛していた別世界の君は、美しく、気高かった。
最後まで、その世界の雇い主に忠義と愛情を誓っていた。
僕は、そんな君に愛されたかっただけ。
そんな君を、愛しただけ。
たったそれだけなんだよ、蜜柑。
「白蘭、体温が……まだ、具合がよくないのですか?」
僕の緊張を体温の変化から感じ取った蜜柑に、「大丈夫、違うんだよ」と返す。
でもある意味、違わないかも知れない。
僕は、長く病気にかかっているのかも、なんて。
そんな自嘲の笑みを零してから、
お互いの顔が見えないように、僕は蜜柑の耳元で囁いた。
「蜜柑、ごめんね。僕……君を愛してる。」
“愛情”も“信頼”も、所詮は形なき脆い感情。
だから自分には必要ないし、そんな言葉は気分が悪い……そう、蜜柑は言ってた。
それを言ったんだ。
突き飛ばされても、撃ち殺されても仕方ないかな、と思ってた。
けど蜜柑はただ呆然と僕に抱きしめられたままで。
ゆっくりと腕をほどけば、さっきと同じように湖面のような瞳で僕を見つめた。
そこに宿る感情は、やっぱり何もない。
僕の方はというと、一度口にしてしまった感情に、歯止めが利かなくなっていた。
蜜柑が嫌いな言葉だって分かってるのに、どんどん溢れだしてくる。
「蜜柑がこの言葉を嫌ってるのは知ってるんだ。でもやっぱり僕は好きで…君に触れるのも、君が好きだから…」
止まれ。
「蜜柑が時々表情動かすと、すごく嬉しくてさ。僕が上司だから従ってるだけっていうのは分かってるんだ。けど、君が傍にいるだけで幸せになっちゃうんだよ、僕。」
止まれ、止まれ。
「だからもう蜜柑を失いたくないんだ。君は……僕の、最後の蜜柑なんだよ……どれだけ時間がかかっても構わないから…帰って来てね、絶対に。」
そこまでつらつら溢れさせて、ようやく僕の口は止まった。
黙って聞いていた蜜柑は数秒だけ視線を逸らし、ようやく表情を動かした。
「私、には……」
それは、初めて見た表情だった。
「…分からない……」
必死に模範解答を探しているような、
頭の中の辞書を片っ端から引いているような、
初めて掛け算を習う小学生が、恐る恐る黒板に答えを書くような、
未熟な人間の、困った顔だった。
「…そうだよね♪」
僕は笑う。
いつものように笑う。
告げたところで、蜜柑に届くはずなかったんだ。
だってその心は、とうの昔に凍りついてしまっているんだから。
「でもさ、約束は守ってね、蜜柑。」
そう、ダメ押しすると、蜜柑はスッと背を向けて、小さく返した。
「…遵守します。」
直後、蜜柑は走り去ってしまった。
檸檬ちゃんを迎撃して、殺し合いをして…
どっちが勝つんだろうね。
檸檬ちゃんの勝利は、蜜柑の死なんだろうか。
蜜柑が勝てば、確実に檸檬ちゃんは死ぬんだろうけど。
そうだ、もう蜜柑はどの世界にもいない。
僕に残された、奇跡なんだ。
「死んじゃダメだよ、蜜柑…」
僕もとっとと綱吉クン達を倒して、ユニちゃん使って、世界を作ろう。
全てが思い通りになる世界。
僕が神になれる世界。
檸檬ちゃんがいなくて、蜜柑が穏やかに暮らせる世界を。
---
-----
------------
ボンゴレI世の幼なじみであり右腕、
I世と共にボンゴレの元となる自警団を組織した男…
それが初代嵐の守護者。
普段の仕事では銃を扱っていたが、I世からの直接の依頼にはI世から譲り受けた武器を使い、負けなしだった…
その武器こそが……
荒々しく吹きあれる疾風と謳われた、Gの弓矢!!!
「ほうっ、これがボンゴレ匣か!!」
瓜が形態変化した途端に、獄寺の放つ嵐の炎の威力が上がる。
しかしザクロは相も変わらず片手でその威力を殺していた。
「確かに威力は段違いに上がったが、俺の“恐竜の皮膚(ダイナソースキン)”の前では、冷たいシャワーがぬるま湯になった程度だぜぇ。さぁ、死ぬか?」
「くっ…」
やはり形態変化をしても真6弔花は強い……。
身をもってそう感じた獄寺は、同時に昨晩のやり取りを思い出した。
---「ダメだ!!許可出来ない!!」
---「許可できないって…そんな!!10代目…」
---「まだ獄寺君、右腕とか言って……右腕とかボンゴレの誇りとか…どうでもいいのに……そんなことのために命をかけて欲しくないんだ!!」
予想外なツナの言葉。
しかし、獄寺は引けなかった。
ここで引くわけにはいかなかった。
---「悪ィけど、従えません!!」
その迫力にツナだけでなく、了平に京子やハルも驚く。
そんな中、リボーンが言う。
---「獄寺のヤツ、初めてツナに逆らったな。」
---「あ"っ、いえ!!そんなつもりは…!!」
逆らったワケではない。
獄寺が伝えたかったのは、昔の自分とはもう違うということ。
もちろん獄寺にとって、ツナの右腕になること、そのために強くなることが目標であり、生きている証。
それはこれからも変わらないだろう。
しかし…
---「たくさんの戦いをご一緒して、10代目の求めている右腕が、俺が考えていた“ただ強くて命知らず”じゃないって、やっと分かったんです……」
黒曜の襲撃にあった時、
獄寺が千種のヘッジホッグにやられてもツナは逃げなかった。
リング争奪戦の時も、
3敗になると知ってて戻るように指示した。
そして今……
---「もう、俺の目指す右腕は昔とは違います。俺の目指すボンゴレX世の右腕は……ボスと共に笑い、そのために生き抜く男です!!」
---「……獄寺君、」
やっと分かったから、負けるわけにはいかない。
その強い思いを乗せて、解き放つ。
「なに!?パワーを溜めてやがったのか!!」
白蘭達を倒し、
10代目もファミリーも俺も、誰一人欠けることなく、
平和な過去に帰る!!!
「赤竜巻の矢!!!」
(トルネード・フレイムアロー)
「獄寺クンとラルとγのいる地点だ!!」
「あいつら…一撃で敵を仕留めてるといいがな……」
「ラルは病人だし、獄寺クンは怪我をしていて動けない……戦いが長引くとヤバいからね…。」
リボーンや入江の言葉を聞き、ツナは夜明け前の作戦会議でのことを思い出した。
ユニの予知で敵の来る方向が分かっていたため、守る地点を決めることになった。
そして守りの要となる地点にγが名乗り出て、対抗心を表すように獄寺も「行く」と言いだしたのだ。
更にはまだ体の具合が回復していないラルまで。
-「見ていて下さい10代目!ボンゴレの守護者の誇りにかけて敵を倒してみせます!」
意気込む獄寺に対して、ツナは言った。
-「許可…出来ない!!」
右腕
---
-----
-----------
一方、並中でも勝負の日の夜明けを迎えていた。
「んじゃ、ユニのことは任せたぜ、恭弥、檸檬。」
『うんっ!』
ディーノの言葉に檸檬は大きくうなずき、雲雀はふいっとそっぽを向く。
「僕は気に入らないヤツを咬み殺しに行くだけさ。」
『もーっ、恭弥ってば…』
「ま、ボンゴレ匣を使いこなす今の恭弥なら心配してねーけどよ。お前は大丈夫なのか?檸檬…」
『大丈夫。ディーノからもらったもう一つの匣も、開ける方法を思いついたの。』
ハッキリとそう答えた檸檬に、ディーノは「そっか」と頭を撫でる。
今から5人は二手に分かれて別行動をするのだ。
雲雀と檸檬は、ツナ達がユニを守っているであろう森へと。
そしてディーノとロマーリオ、草壁は、スクアーロが殺られたというボンゴレ地下アジトへ。
『気をつけてね、だいぶ破損してるみたいだから……転ばないようにね。』
「何言ってんだよ、檸檬は心配性だな。」
『ロマさん、ちゃんとディーノについてて下さい。』
「ああ、任せときな。」
究極のボス体質であるディーノを心配する檸檬を、雲雀が急かす。
「檸檬、行くよ。」
『あっ、待ってよ恭弥!』
「恭さん、檸檬さん、お気をつけて!!」
『はいっ!』
草壁に敬礼を一つして、檸檬は雲雀の後を追った。
少し距離が離れていたが、俊足でサッと追いつく。
「…それで?」
『えっ?』
「どうせまた、一人で妹と戦うつもりでしょ。」
『……大当たりです、さすが恭弥。』
にこりと笑う檸檬を、雲雀はムスッとしながら一瞥した。
「…操ってるヤツを叩いた方が早いと思うけど?」
『白蘭のこと?うーん……でもあたし、白蘭には感謝しなきゃいけないこともあるから。』
「感謝…?」
『こんな状況でそんなこと、言っちゃいけないような気もするけどね。』
森へと向かいながら、檸檬は続ける。
『あたしは…小さい頃のことなんて思い出したくもなくて、記憶を押し込めて……蜜柑のことを忘れてしまってた…。だから、蜜柑に恨まれるのは仕方ないことだと思うの。』
「作られた恨みでも?」
『確かにね、両親が蜜柑にあたしを殺させようとしてるのも事実。だけど……あたしがちゃんと蜜柑を迎えに行ってれば…もしかしたら、蜜柑の心は死ななかったかも知れないって、思うの。』
「だからって、アイツに感謝することない。」
『ううん、だって…彼はきっと、蜜柑を大切にしてくれてるから。』
「…ふぅん……」
雲雀はそれ以上何も問いかけなかった。
ただひたすら、檸檬と共に森に向かい走り続けた。
---
------
-----------
「あいつ…胸の匣に炎を!!」
「修羅開匣だ!!」
「さぁて、どんな虫人間やら動物人間が出てくるんだ?」
風圧に耐えながら、ラルと獄寺、γは前を見る。
次の瞬間、煙の中から聞こえた声は、先程より野太くなっていた。
「バーロー、虫や動物だぁ?デイジーやトリカブトと同じにするな。」
「なっ…!!何だありゃ!」
「体が一回りでかくなったぞ!!しかもあの爪と尾…!!」
「トカゲってレベルの迫力じゃねーな……」
現れた巨体に、3人は驚愕する。
その皮膚は赤黒く変化し、背から溢れる巨大な炎。
「当たりめーだバーロー!!俺にかけ合わされた匣兵器は確かに地球上の生き物ではあるが、6500万年以上前の巨大な怪物だ!!」
「6500万年!?」
「まさか…恐竜!!?」
現存するDNAのみでザクロの修羅開匣を作り出したのは、ミルフィオーレの圧倒的に優れた科学力。
故にその体にはT-REXのパワーが凝縮されていることになる。
その事実に驚愕する暇もなく、ザクロは3人に攻め寄り、まずγを片腕で払い飛ばす。
「がっ…!」
「γ!!」
「このっ…!!」
ラルが咄嗟に8ミリ弾を連射するが、ザクロの体は鋼鉄のようにそれを弾いていく。
「笑わすなバーロー!!」
「(ザムザ防御だ!!)」
ザクロのスピードに反応し、咄嗟に雲ムカデを展開するも、その防御壁ごとラルも払い飛ばされる。
「やろう!!」
獄寺も赤炎の矢を浴びせるものの、ザクロは片手で凌ぎながら言う。
「バーロー、気持ちいいシャワーじゃねーか。とっととボンゴレ匣とやらを出しちまった方がいいんじゃねーのか?」
「言われなくてもやってやらあ!!行くぞ瓜!!形態変化だ!!」
「ニャアアアア!!」
瓜の額にあるボンゴレの紋章が眩い光を放った。
「さぁ、どーなる?」
---
-----
-----------
それまで静かに立っていた蜜柑が、スッと顔を上げて空を見上げた。
「どうかした?」
「ダークが…来ました。」
「ああ、マーちゃんが音をキャッチしたんだね。」
「はい。」
「そっかー、もう来ちゃったんだー…。」
「白蘭、迎撃許可を。」
僕の前に片膝をついて頭を下げる蜜柑に、「とりあえず立って」と言う。
檸檬ちゃんが来たってことは、いよいよ双子の運命の戦いが終わるんだね。
僕は色んな世界で君を見てきたけど、ここまで姉の死に執着している蜜柑は、君だけだった。
それは、この世界の君の中に“憎しみ”っていう感情しか残っていない、ってことなのかな…。
「許可は、するんだけどさ、」
「はい。」
「一つだけ、約束して欲しいんだ。」
「約束、ですか…?」
疑問符を浮かべる蜜柑の手を握り、そのまま抱き寄せた。
蜜柑、ごめんね。
僕は今から、君の一番嫌いな言葉を口にする。
この不可思議な感情は、もう僕の頭の中だけでは収まりきらないんだ。
「白蘭…?」
突然の抱擁にすっかり慣れてしまった君は、もうちっとも動じないね。
僕は、君に触れるたびに、切なくなるのに。
こうして触れていられるのはいつまでだろうと、
君はまた消えてしまうんじゃないかと、
不安すら感じるのに。
「帰って来て、欲しいんだ……何があっても、僕の所に。」
「それは、命令ではないのですか?」
「うん、約束だよ。」
蜜柑の瞳は、まるで湖面のように僕のことを映していた。
深い深い、湖。
君の心は沈んだまま、ただ闇雲に憎しみだけを募らせて…
「私には、分かりません。命令と約束は、どう違うのですか?言葉の定義は存じておりますが…」
「約束の方が、対等だろ?」
「白蘭と私は対等ではありません。私はあなたの、」
「僕は部下に頼んでるんじゃなくてね、蜜柑に頼んでるの。君という、一人の人間に。」
混乱させてるのは分かってた。
それでも、少しは蜜柑を混乱させておいた方がいいかなって思ってる僕もいた。
だって僕は、これから君に、
君が最も嫌う言葉を浴びせるんだから。
「ごめんね、蜜柑。僕は君を雇う時に交わした約束を破ることになる。」
「雇う時、ですか…?」
思い出そうと目線を下に向ける蜜柑を、ぎゅうっと抱きしめて。
ああ、何だか緊張してきたよ。
こうして抱きしめるのは日常茶飯事だったのに。
蜜柑はどんな顔をするだろう。
どんな反応をするだろう。
僕を突き飛ばすだろうか。
それとも罵倒するのかな。
何でもいいよ。
どうなってもいい。
ずっとずっと、溜め込むよりマシだ。
そう気付いたのは、君の死をパラレルワールドで何億回も繰り返し見た後だった。
少し遅かったけど、気付けたんだよ。
伝えたくて、伝えられなくて、
何度も何度も失敗して、
どの世界でも、君の心は僕のものにならなくて。
悔しくて、
哀しくて、
寂しくて、
苦しくて、
痛くて、
それでも…変わらなかった、変えられなかった。
違う世界で君を探しては、出会って、傷つけて、壊して、死に追いやった。
あらゆる世界の君が、僕のせいで死んでいった。
僕以外の人間を愛していた別世界の君は、美しく、気高かった。
最後まで、その世界の雇い主に忠義と愛情を誓っていた。
僕は、そんな君に愛されたかっただけ。
そんな君を、愛しただけ。
たったそれだけなんだよ、蜜柑。
「白蘭、体温が……まだ、具合がよくないのですか?」
僕の緊張を体温の変化から感じ取った蜜柑に、「大丈夫、違うんだよ」と返す。
でもある意味、違わないかも知れない。
僕は、長く病気にかかっているのかも、なんて。
そんな自嘲の笑みを零してから、
お互いの顔が見えないように、僕は蜜柑の耳元で囁いた。
「蜜柑、ごめんね。僕……君を愛してる。」
“愛情”も“信頼”も、所詮は形なき脆い感情。
だから自分には必要ないし、そんな言葉は気分が悪い……そう、蜜柑は言ってた。
それを言ったんだ。
突き飛ばされても、撃ち殺されても仕方ないかな、と思ってた。
けど蜜柑はただ呆然と僕に抱きしめられたままで。
ゆっくりと腕をほどけば、さっきと同じように湖面のような瞳で僕を見つめた。
そこに宿る感情は、やっぱり何もない。
僕の方はというと、一度口にしてしまった感情に、歯止めが利かなくなっていた。
蜜柑が嫌いな言葉だって分かってるのに、どんどん溢れだしてくる。
「蜜柑がこの言葉を嫌ってるのは知ってるんだ。でもやっぱり僕は好きで…君に触れるのも、君が好きだから…」
止まれ。
「蜜柑が時々表情動かすと、すごく嬉しくてさ。僕が上司だから従ってるだけっていうのは分かってるんだ。けど、君が傍にいるだけで幸せになっちゃうんだよ、僕。」
止まれ、止まれ。
「だからもう蜜柑を失いたくないんだ。君は……僕の、最後の蜜柑なんだよ……どれだけ時間がかかっても構わないから…帰って来てね、絶対に。」
そこまでつらつら溢れさせて、ようやく僕の口は止まった。
黙って聞いていた蜜柑は数秒だけ視線を逸らし、ようやく表情を動かした。
「私、には……」
それは、初めて見た表情だった。
「…分からない……」
必死に模範解答を探しているような、
頭の中の辞書を片っ端から引いているような、
初めて掛け算を習う小学生が、恐る恐る黒板に答えを書くような、
未熟な人間の、困った顔だった。
「…そうだよね♪」
僕は笑う。
いつものように笑う。
告げたところで、蜜柑に届くはずなかったんだ。
だってその心は、とうの昔に凍りついてしまっているんだから。
「でもさ、約束は守ってね、蜜柑。」
そう、ダメ押しすると、蜜柑はスッと背を向けて、小さく返した。
「…遵守します。」
直後、蜜柑は走り去ってしまった。
檸檬ちゃんを迎撃して、殺し合いをして…
どっちが勝つんだろうね。
檸檬ちゃんの勝利は、蜜柑の死なんだろうか。
蜜柑が勝てば、確実に檸檬ちゃんは死ぬんだろうけど。
そうだ、もう蜜柑はどの世界にもいない。
僕に残された、奇跡なんだ。
「死んじゃダメだよ、蜜柑…」
僕もとっとと綱吉クン達を倒して、ユニちゃん使って、世界を作ろう。
全てが思い通りになる世界。
僕が神になれる世界。
檸檬ちゃんがいなくて、蜜柑が穏やかに暮らせる世界を。
---
-----
------------
ボンゴレI世の幼なじみであり右腕、
I世と共にボンゴレの元となる自警団を組織した男…
それが初代嵐の守護者。
普段の仕事では銃を扱っていたが、I世からの直接の依頼にはI世から譲り受けた武器を使い、負けなしだった…
その武器こそが……
荒々しく吹きあれる疾風と謳われた、Gの弓矢!!!
「ほうっ、これがボンゴレ匣か!!」
瓜が形態変化した途端に、獄寺の放つ嵐の炎の威力が上がる。
しかしザクロは相も変わらず片手でその威力を殺していた。
「確かに威力は段違いに上がったが、俺の“恐竜の皮膚(ダイナソースキン)”の前では、冷たいシャワーがぬるま湯になった程度だぜぇ。さぁ、死ぬか?」
「くっ…」
やはり形態変化をしても真6弔花は強い……。
身をもってそう感じた獄寺は、同時に昨晩のやり取りを思い出した。
---「ダメだ!!許可出来ない!!」
---「許可できないって…そんな!!10代目…」
---「まだ獄寺君、右腕とか言って……右腕とかボンゴレの誇りとか…どうでもいいのに……そんなことのために命をかけて欲しくないんだ!!」
予想外なツナの言葉。
しかし、獄寺は引けなかった。
ここで引くわけにはいかなかった。
---「悪ィけど、従えません!!」
その迫力にツナだけでなく、了平に京子やハルも驚く。
そんな中、リボーンが言う。
---「獄寺のヤツ、初めてツナに逆らったな。」
---「あ"っ、いえ!!そんなつもりは…!!」
逆らったワケではない。
獄寺が伝えたかったのは、昔の自分とはもう違うということ。
もちろん獄寺にとって、ツナの右腕になること、そのために強くなることが目標であり、生きている証。
それはこれからも変わらないだろう。
しかし…
---「たくさんの戦いをご一緒して、10代目の求めている右腕が、俺が考えていた“ただ強くて命知らず”じゃないって、やっと分かったんです……」
黒曜の襲撃にあった時、
獄寺が千種のヘッジホッグにやられてもツナは逃げなかった。
リング争奪戦の時も、
3敗になると知ってて戻るように指示した。
そして今……
---「もう、俺の目指す右腕は昔とは違います。俺の目指すボンゴレX世の右腕は……ボスと共に笑い、そのために生き抜く男です!!」
---「……獄寺君、」
やっと分かったから、負けるわけにはいかない。
その強い思いを乗せて、解き放つ。
「なに!?パワーを溜めてやがったのか!!」
白蘭達を倒し、
10代目もファミリーも俺も、誰一人欠けることなく、
平和な過去に帰る!!!
「赤竜巻の矢!!!」
(トルネード・フレイムアロー)