未来編②
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ヨーロッパ、復讐者の牢獄にて。
3人の復讐者を前に、アイリスは言った。
「我々はミルフィオーレファミリーだ。白蘭様の命で囚人を引き取りに来た!」
「トリヒキ ハ オワッタ。マダ ナニカヨウカ?」
「終わった?どういうことだい?」
復讐者いわく、既に約束通り最下層の牢獄から一人の男を釈放したとのこと。
釈放した人間は誰かと問いかけたミルフィオーレ隊員に、復讐者は“その人物”の写真を見せた。
そこで初めて、アイリスは気付く。
「ボンゴレ側の術士に一杯食わされたんだよ!!あたい達に化けたのさ!!」
「ソレハ カンガエニクイ……ワレワレヲ アザムク ジュツシナド、セカイニ サンニントイナイ……」
前夜
「へくしょん!!!あれ…誰か噂してる?」
同じ頃、復讐者の牢獄から10キロの地点。
カエルの被り物をかぶった少年が、大きなくしゃみをした。
と、傍にいた女が文句を言う。
「ちょっとフラン!!ツバ飛ばさないでよ!!このコート高かったんだから!!ヴァリアーの安月給じゃ弁償できない高級品よ!!」
「そんな服、仕事に着て来ないで下さいよー。」
「気合い入れて当然でしょ。彼とは黒曜戦以来の再会なんだものv お子ちゃまには分からないわよ。」
「ちぇっ。どこ行ってもガキ扱いかよ。」
口を尖らせるフランに対し、その女、М・Мは更に「カバンを逆さに置くな」と一言。
実際、そのせいでルッスーリアは彼女の名を「W・W」だと思いこんでしまった。
「何でミー文句ばかり言われてるんですー?師匠を脱獄させたの、ミーなんですけどー。」
「キャッホ~~!!やったびょ~ん!!」
「浮かれた動物もいるし…」
フランの右側では、犬と千種が白いベッドを囲んでいた。
容態を尋ねるМ・Мに、千種は答える。
「普通の人間なら……10年も水槽の中に動かず浸かっていたら…元の運動神経を取り戻すまでに相当時間がかかる…。」
「でも、すぐに飛行機乗せて日本向かえって言ってたびょん。ボンゴレ倒しに。」
「目的違うよ…犬。」
「相変わらず犬並の優れた知能ですねー、犬ニーサン。ミー達はボンゴレを倒すんじゃなくて、ユニって子を守りに行くんですよ。」
---
-----
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朦朧する中で、頭を働かせる檸檬。
すると、カシスの両目に光るものが見え、声が震えているのが分かった。
「こんな力っ……悲劇しか生まないのよ…!!」
『ぐっ…!カシス、あなた……後悔、してるのね……』
檸檬の言葉に、カシスの手の力が僅かに弱まる。
畳みかけるように檸檬は続けた。
『第六感で…未来視で……一番大切な人を……悲しませたこと…』
「一体何を言ってるのかしら?」
『ボンゴレI世の未来を見てっ……抗争で深手を負うと知って…彼をかばった…!』
「…視たのね、私の記憶を……」
『あなたが視せてくれたんじゃない…?その涙を通じて。』
“涙”という単語にカシスはハッとする。
まるで、自分が泣いていることにたった今気付いたかのように。
そしてそのまま檸檬の首を絞める力を抜いていき、肩を落として項垂れた。
ふと気付くと、檸檬はカシスに押し倒されていた状態から解放されていた。
立ちすくむ檸檬の前には、ぺたりと座りこみ両手で顔を覆うカシス。
「…仕方なかったの……あの時……私かジョットが死ななければならなかった…!!もちろん最初は私だって信じてたわ……この力で、皆を幸せな未来に導けるって……でも違ったのよ!!」
『だったら!!あたしが証明する。』
「証明……?」
それまでとは打って変わって力無く檸檬を見上げるカシス。
そんな彼女と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ檸檬は、自分の胸に手を置いて、ハッキリと告げた。
『あたしが、第六感を使って、みんなの笑顔を取り戻してみせる。』
---
------
-----------
同じ頃、並盛の森の中。
「きょっ、極限にへっちゃらだ!!!痛くなどあるものか!!!」
「もー、お兄ちゃん無理して……」
不動産屋から逃げたツナは、みんなを連れ、最初に未来に来た時の森へと避難していた。
京子やハルたちが怪我人の治療をしている向こうで、獄寺がγに強い視線を送る。
その視線に気づいたγが口火を切った。
「…何か言いたそうだな。」
「まさか生きてやがったとはな。」
「お前こそ、無事だとは恐れ入ったぜ。」
一方、太猿は入江に挑発するように言葉をかける。
「しかし、またあんたに会えるとは嬉しいねぇ、元メローネ基地の裏切り隊長さんよぉ。」
「き、君達だってミルフィオーレを裏切ってるじゃないか!!僕だって君達のような野蛮人とまた一緒になるとは思ってもみなかったよ!!」
「んだテメー!!アニキに喧嘩売ってんのか!?」
「やめて野猿!!皆さんと仲良くして!」
「姫様…!!」
一触即発の状態を、ユニが仲裁した。
そのまま、ツナとリボーンと共にラルに水を持っていくユニ。
と、ラルはジッとユニを見つめて懐かしむように呟いた。
「しかし似ているな……お前の祖母…ルーチェに……」
「だろ?」
「リボーンおじさまにも言われました。」
「ラルもユニのおばあちゃんの知り合いなんだ…」
するとラルは、今度は静かに問いかける。
「ユニ…お前は、アルコバレーノの誕生の時のことは知っているのか?」
「…はい……記憶の断片に存在しています。」
「ルーチェは先を見通す不思議な力を持っていた。お前にもあるのか?」
「さ、先を見通す力って…!?」
ツナは驚いたが、ユニは落ち着いた口調で答えた。
かつてはあったが近頃は弱まっている、と。
その返答をきき、γは納得した。
ブラックスペルがジッリョネロファミリーであった頃、ユニは何かを見通して白蘭率いるジェッソとの会談に向かった。
その予知能力をもってすれば、昼間にあったトリカブトの進入を予告することが出来たハズなのだ。
だが、ユニの力が弱まって来ているとなると、予告が出来なかったのも辻褄が合う。
「でも、それは白蘭も同じです。彼も、自分の能力が弱っていくのを感じています。」
「白蘭サンの能力!?パラレルワールドにいる自分の知識を共有できる能力のことかい?」
「はい。今は相当体力を消費する上に、一度に一つぐらいのことしか知ることはできないハズです…」
つまり、力を使って川平不動産を知ったならば、しばらくは力を使えない、ということになる。
「でも、何で出来てたことが出来なくなるの?」
「私は……力の枯渇と、衰えだと思っています。」
「お、衰えって…!!」
「人は生まれた時から死に向かって生きていく……遅かれ早かれ自然なことです。」
「……確かに、代々大空のアルコバレーノは短命だしな。」
「え!」
ラルの言葉に驚くツナ。
また、リボーンはルーチェを、γはアリアのことを思い出し、ユニの未来を察した。
だがユニ自身はいつものように穏やかに温かく微笑み、何も答えない。
話を逸らすように、話題を元に戻した。
「白蘭が私をここまで必死に欲する理由もそこにあります。一刻も早く73の真の力を引き出し、自分のモノにしたい………だからこそ白蘭はとても焦っているんです。」
---
------
-----------
同刻、日本国内ホテルにて。
白蘭は電話越しに、笑顔を凍らせた。
「え?復讐者の牢獄で、骸クンに先に出られた?」
アイリスからの伝言を受け、白蘭は骸の脱獄を知る。
そして、以前レオナルドに憑依した骸を追い詰めた時、もう少しのところで逃げられたのを思い出し、その時の仲間だと推測した。
それでも、先を越された憤りは抑えきれず…
「うん、まぁいいや。復讐者とはもう一度取引しておくから……一刻も早くGHOSTを出せ!」
手にしていたグラスを、握力で砕いてしまった。
床には大小様々なガラスの破片と、入っていた飲み物がぶちまけられる。
と、直後にドアをノックする音。
「白蘭、お電話はお済みですか?」
「うん、終わった。入っていいよ、蜜柑。」
「失礼します。」
入室して一礼した蜜柑は、床の惨状を見て部屋のキッチンからビニール袋を持ってくる。
割れたグラスを片づけ始める蜜柑に、白蘭は問いかけた。
「蜜柑が自分から来るなんて珍しいね。どしたの?」
「グラスの割れた音が聞こえたので。」
「ああ、なーんだ。そんなの、ホテルの人にやらせればいいのに。」
「身辺警護上、この部屋に部外者を入れるわけにはいきません。」
「真面目だなぁ、大丈夫だよ。」
「そうおっしゃる根拠をお聞かせ願います。」
「僕、強いし♪」
「まだ万全ではありません。私が拝見する限り、ただいまの回復率は80%弱です。」
「あはは、本当にすごいなぁ。」
話す間に、蜜柑はグラスの破片を集め終わり、こぼれた飲み物も拭き取った。
その汚れた布巾とビニール袋を持って、室内のキッチンへ行く。
素早く無駄がない一連の動作をジッと見つめていた白蘭だったが、ふと自らの視界がぼやける感覚に襲われた。
どうやら、完全回復まではもう少しかかるらしい。
「…ごほっ、ごほっ、」
「白蘭…?」
小さな咳を聞いた蜜柑は、ゴミの処理を終わらせてソファの前に戻って来た。
白蘭の斜め前に膝をつき、顔色を窺う。
「ぶり返したんですね、お休みになった方が宜しいかと。」
「…蜜柑……」
蜜柑の言葉が分かっているのかいないのか、白蘭はただその名を呼び、縋るように抱き寄せた。
咄嗟のことに、蜜柑は少し目を見開く。
「…あの、白蘭?」
「蜜柑………僕、は……」
「体温も平熱ではありません、無理せずお休みに…」
その言葉を遮るように、白蘭の腕の力は強くなっていく。
蜜柑の肩にうずめられた白蘭の表情は、確認することも出来なかった。
「…僕との契約さ……ちゃんと、イーブンになってるかな…?僕……檸檬ちゃんの情報、出来る限り集めたんだ……」
「…始めは不思議でしたが、白蘭が姉さんの戦闘パターンについて詳しかった理由は分かりました。パラレルワールドで見ていたんですね。」
「役に、立った…?」
「大変参考になっています。」
「そっか…」
安堵の声を漏らす白蘭だが、未だ蜜柑を抱きしめた状態から動かない。
蜜柑は疑問に思いながらも、解放を待った。
似たような抱擁は何度かあったため、今更特に抵抗することでもなかったのだ。
「情報はあげたけど……僕、蜜柑を働かせ過ぎてるんじゃ、って……時々思ってさ…」
「貴方と私は契約で結ばれた“主従”です。必ずしも等価を交換する必要はありません。」
「あはは……蜜柑は、僕を言い包めるのが上手だね…」
「言い包めたつもりは……」
戸惑う蜜柑に対し、白蘭はいっそう腕の力を強める。
「白蘭、どうかしたんですか…?」
「蜜柑……君は…消えちゃダメだからね……」
「消える…?」
蜜柑が疑問符を浮かべると、白蘭はより弱々しい声で零した。
「…傍を……離れないで欲しいんだ……」
「……承知しています。」
「絶対だよ……君はもう、何処にも…何処にも……」
「約束します。貴方をお守りするのが、私の務めですから。」
「…そっか、そうだよね……」
言いながら、白蘭はゆっくりと顔をあげる。
自分を映す蜜柑の瞳を見つめ、目を細めて微笑した。
「…何か?」
「ううん、何でもないよ。」
「でしたら早く、横になってお休みください。明日で決まると断言したのは白蘭です。」
「そうだね……でも、もう少しだけ起きてたいんだ。」
「気になることでもあるんですか?」
「……僕が寝たら、蜜柑は部屋に戻って匣のメンテナンスでもするんだろ?」
眉を下げてそう問いかける白蘭に、蜜柑は首を横に振る。
「もう終わりました。」
「じゃあ、データの整理?」
「済んでいます。」
「だったら……早く寝るとか?」
「突然睡眠時間を伸ばしても、サイクルが狂い、逆に調子が悪くなりかねませんので。」
淡々とした蜜柑の答えを聞いて、白蘭はしばし考え込む。
そして、ハッと思いついたように言った。
「桔梗たちとお喋り…!」
「しません。」
2人の間に沈黙が流れる。
無言で白蘭を見つめていた蜜柑だったが、ふぅ、と溜め息を一つ吐いて、申し出た。
「白蘭が眠るまで、こちらに居ましょうか?」
「うん、そうしてくれると嬉しいなぁ♪」
満足そうに返した白蘭は、ソファからベッドに移動する。
蜜柑は、その横にある椅子に座った。
「ねぇ蜜柑、僕が起きてる間は…ずっとここにいてくれるんだよね?」
「はい。」
「保証が欲しいな。」
首を傾げる蜜柑。
白蘭は右手をベッドの外に出して、「はい」と。
「離れたら…すぐ分かるように。」
「……畏まりました。」
蜜柑がスッと手を重ねると、白蘭はその手を握り返した。
「…蜜柑、」
「まだ何かご注文ですか?」
「違うよ……僕、一つだけ、言っておこうと……思って…」
「何でしょう。」
かなりの眠気に襲われているのか、目を閉じた状態で、寝言のように言う白蘭。
「僕からも……約束、する…」
「約束?」
「蜜柑……君を…絶対に……連れてくよ………僕が、君に……檸檬ちゃんのいない、世界、を………」
目を見開く蜜柑を前に、白蘭の言葉は途切れた。
「(姉さんの、いない世界……)」
気付かれないほど僅かに、白蘭の手に包まれる蜜柑の指に力が込められた。
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「第六感を使って、笑顔を取り戻す…?そんなの無理よ……力を使えば貴女自身に負荷がかかって、どうせ周りを苦しめる。今までも、そうだったでしょう?」
カシスの言っていることは、確かにその通りだった。
これまでの戦いで檸檬が自分の傷を省みず無理をしたせいで、一体何度、仲間に心配をかけただろう。
自分には心配される価値がないと思い込んでいた檸檬には、その感覚を理解できない時もあった。
しかし、今は違う。
『カシス、あなたはボンゴレI世を護るために自分の命を捨てた。その結果悲しませた。それは……未来に来る前までのあたしに、似てる気がする……。前のあたしだったら、間違いなくそうしてたから。』
カシスは何も答えず、ただ檸檬の言葉の続きを待つ。
『ただ、ね……あたしはもう、そんな間違いはしたくないんだ。みんなの笑顔の理由に、あたしが元気でいることも組み込まれちゃったみたいだから。』
「なら尚更勧められないわね。この力は人間の闇を引き出す……闇の中では笑顔なんて生まれない…恐怖を与えるだけよ。」
『うん、否定はしない……けどね!闇の中だからこそ、見える光があるんだよ。どんな小さな光でも、闇の中では見つけられる。』
ハッキリと言い切る檸檬をしばし見つめ、カシスは小さく問う。
「……この力に、希望があるっていうの…?本気で、そう思ってる…?」
『あたしは、信じるよ。』
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月明かりの差し込む応接室にて。
眠り続ける檸檬の手を握り、雲雀は目を細めた。
「檸檬…約束したでしょ。早く戻ってきなよ……早く。」
髪を撫でても、頬に触れても、檸檬は目覚めない。
まるで、夢の中に意識が囚われてしまっているかのように。
ところが、ふと檸檬の指が僅かに動いた。
「檸檬…?」
呼びかけに対する返事はなかった。
しかし、雲雀が握る檸檬の右手が、しっかりと雲雀の手を握り返す。
「…ここにいるから、戻っておいで。僕が、いるから。」
そう呼びかけると、檸檬の手は更に力を増した。
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「今の白蘭は何をするか分かりません。私を手に入れるために全てをかけて来るでしょう。」
「そ、そんなー!!」
「知らなかった……それで焦ってたのか…」
白蘭のことについて断言するユニに、リボーンが尋ねる。
何故、自分のことだけでなく白蘭のことも分かるのかと。
「うまく説明できませんが……あの人と私は似てるから……あ。ある意味では沢田さんと白蘭も似てますけど。」
「な!?俺と白蘭が似てる~~!!?」
「それと、皆さんにお伝えしなくてはいけないことがあります。」
改まって、ユニは静かに宣言した。
「私はもう、逃げません。」
「え!?」
「だ、ダメだよ!諦めちゃ!!せっかくココまで無事できたのに!!」
「諦めたワケではありません。」
「えっ?」
「昔からずっと分かっていたんです。ここが、白蘭との最後の戦いの場所になることが……」
この森で、ツナたちボンゴレファミリーと最後の時を過ごしているこのビジョンこそ、ユニが昔から見ていた光景であり、確信。
「明日…夜明けと共に始まる戦いで、全てが終わります。」
3人の復讐者を前に、アイリスは言った。
「我々はミルフィオーレファミリーだ。白蘭様の命で囚人を引き取りに来た!」
「トリヒキ ハ オワッタ。マダ ナニカヨウカ?」
「終わった?どういうことだい?」
復讐者いわく、既に約束通り最下層の牢獄から一人の男を釈放したとのこと。
釈放した人間は誰かと問いかけたミルフィオーレ隊員に、復讐者は“その人物”の写真を見せた。
そこで初めて、アイリスは気付く。
「ボンゴレ側の術士に一杯食わされたんだよ!!あたい達に化けたのさ!!」
「ソレハ カンガエニクイ……ワレワレヲ アザムク ジュツシナド、セカイニ サンニントイナイ……」
前夜
「へくしょん!!!あれ…誰か噂してる?」
同じ頃、復讐者の牢獄から10キロの地点。
カエルの被り物をかぶった少年が、大きなくしゃみをした。
と、傍にいた女が文句を言う。
「ちょっとフラン!!ツバ飛ばさないでよ!!このコート高かったんだから!!ヴァリアーの安月給じゃ弁償できない高級品よ!!」
「そんな服、仕事に着て来ないで下さいよー。」
「気合い入れて当然でしょ。彼とは黒曜戦以来の再会なんだものv お子ちゃまには分からないわよ。」
「ちぇっ。どこ行ってもガキ扱いかよ。」
口を尖らせるフランに対し、その女、М・Мは更に「カバンを逆さに置くな」と一言。
実際、そのせいでルッスーリアは彼女の名を「W・W」だと思いこんでしまった。
「何でミー文句ばかり言われてるんですー?師匠を脱獄させたの、ミーなんですけどー。」
「キャッホ~~!!やったびょ~ん!!」
「浮かれた動物もいるし…」
フランの右側では、犬と千種が白いベッドを囲んでいた。
容態を尋ねるМ・Мに、千種は答える。
「普通の人間なら……10年も水槽の中に動かず浸かっていたら…元の運動神経を取り戻すまでに相当時間がかかる…。」
「でも、すぐに飛行機乗せて日本向かえって言ってたびょん。ボンゴレ倒しに。」
「目的違うよ…犬。」
「相変わらず犬並の優れた知能ですねー、犬ニーサン。ミー達はボンゴレを倒すんじゃなくて、ユニって子を守りに行くんですよ。」
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朦朧する中で、頭を働かせる檸檬。
すると、カシスの両目に光るものが見え、声が震えているのが分かった。
「こんな力っ……悲劇しか生まないのよ…!!」
『ぐっ…!カシス、あなた……後悔、してるのね……』
檸檬の言葉に、カシスの手の力が僅かに弱まる。
畳みかけるように檸檬は続けた。
『第六感で…未来視で……一番大切な人を……悲しませたこと…』
「一体何を言ってるのかしら?」
『ボンゴレI世の未来を見てっ……抗争で深手を負うと知って…彼をかばった…!』
「…視たのね、私の記憶を……」
『あなたが視せてくれたんじゃない…?その涙を通じて。』
“涙”という単語にカシスはハッとする。
まるで、自分が泣いていることにたった今気付いたかのように。
そしてそのまま檸檬の首を絞める力を抜いていき、肩を落として項垂れた。
ふと気付くと、檸檬はカシスに押し倒されていた状態から解放されていた。
立ちすくむ檸檬の前には、ぺたりと座りこみ両手で顔を覆うカシス。
「…仕方なかったの……あの時……私かジョットが死ななければならなかった…!!もちろん最初は私だって信じてたわ……この力で、皆を幸せな未来に導けるって……でも違ったのよ!!」
『だったら!!あたしが証明する。』
「証明……?」
それまでとは打って変わって力無く檸檬を見上げるカシス。
そんな彼女と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ檸檬は、自分の胸に手を置いて、ハッキリと告げた。
『あたしが、第六感を使って、みんなの笑顔を取り戻してみせる。』
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同じ頃、並盛の森の中。
「きょっ、極限にへっちゃらだ!!!痛くなどあるものか!!!」
「もー、お兄ちゃん無理して……」
不動産屋から逃げたツナは、みんなを連れ、最初に未来に来た時の森へと避難していた。
京子やハルたちが怪我人の治療をしている向こうで、獄寺がγに強い視線を送る。
その視線に気づいたγが口火を切った。
「…何か言いたそうだな。」
「まさか生きてやがったとはな。」
「お前こそ、無事だとは恐れ入ったぜ。」
一方、太猿は入江に挑発するように言葉をかける。
「しかし、またあんたに会えるとは嬉しいねぇ、元メローネ基地の裏切り隊長さんよぉ。」
「き、君達だってミルフィオーレを裏切ってるじゃないか!!僕だって君達のような野蛮人とまた一緒になるとは思ってもみなかったよ!!」
「んだテメー!!アニキに喧嘩売ってんのか!?」
「やめて野猿!!皆さんと仲良くして!」
「姫様…!!」
一触即発の状態を、ユニが仲裁した。
そのまま、ツナとリボーンと共にラルに水を持っていくユニ。
と、ラルはジッとユニを見つめて懐かしむように呟いた。
「しかし似ているな……お前の祖母…ルーチェに……」
「だろ?」
「リボーンおじさまにも言われました。」
「ラルもユニのおばあちゃんの知り合いなんだ…」
するとラルは、今度は静かに問いかける。
「ユニ…お前は、アルコバレーノの誕生の時のことは知っているのか?」
「…はい……記憶の断片に存在しています。」
「ルーチェは先を見通す不思議な力を持っていた。お前にもあるのか?」
「さ、先を見通す力って…!?」
ツナは驚いたが、ユニは落ち着いた口調で答えた。
かつてはあったが近頃は弱まっている、と。
その返答をきき、γは納得した。
ブラックスペルがジッリョネロファミリーであった頃、ユニは何かを見通して白蘭率いるジェッソとの会談に向かった。
その予知能力をもってすれば、昼間にあったトリカブトの進入を予告することが出来たハズなのだ。
だが、ユニの力が弱まって来ているとなると、予告が出来なかったのも辻褄が合う。
「でも、それは白蘭も同じです。彼も、自分の能力が弱っていくのを感じています。」
「白蘭サンの能力!?パラレルワールドにいる自分の知識を共有できる能力のことかい?」
「はい。今は相当体力を消費する上に、一度に一つぐらいのことしか知ることはできないハズです…」
つまり、力を使って川平不動産を知ったならば、しばらくは力を使えない、ということになる。
「でも、何で出来てたことが出来なくなるの?」
「私は……力の枯渇と、衰えだと思っています。」
「お、衰えって…!!」
「人は生まれた時から死に向かって生きていく……遅かれ早かれ自然なことです。」
「……確かに、代々大空のアルコバレーノは短命だしな。」
「え!」
ラルの言葉に驚くツナ。
また、リボーンはルーチェを、γはアリアのことを思い出し、ユニの未来を察した。
だがユニ自身はいつものように穏やかに温かく微笑み、何も答えない。
話を逸らすように、話題を元に戻した。
「白蘭が私をここまで必死に欲する理由もそこにあります。一刻も早く73の真の力を引き出し、自分のモノにしたい………だからこそ白蘭はとても焦っているんです。」
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同刻、日本国内ホテルにて。
白蘭は電話越しに、笑顔を凍らせた。
「え?復讐者の牢獄で、骸クンに先に出られた?」
アイリスからの伝言を受け、白蘭は骸の脱獄を知る。
そして、以前レオナルドに憑依した骸を追い詰めた時、もう少しのところで逃げられたのを思い出し、その時の仲間だと推測した。
それでも、先を越された憤りは抑えきれず…
「うん、まぁいいや。復讐者とはもう一度取引しておくから……一刻も早くGHOSTを出せ!」
手にしていたグラスを、握力で砕いてしまった。
床には大小様々なガラスの破片と、入っていた飲み物がぶちまけられる。
と、直後にドアをノックする音。
「白蘭、お電話はお済みですか?」
「うん、終わった。入っていいよ、蜜柑。」
「失礼します。」
入室して一礼した蜜柑は、床の惨状を見て部屋のキッチンからビニール袋を持ってくる。
割れたグラスを片づけ始める蜜柑に、白蘭は問いかけた。
「蜜柑が自分から来るなんて珍しいね。どしたの?」
「グラスの割れた音が聞こえたので。」
「ああ、なーんだ。そんなの、ホテルの人にやらせればいいのに。」
「身辺警護上、この部屋に部外者を入れるわけにはいきません。」
「真面目だなぁ、大丈夫だよ。」
「そうおっしゃる根拠をお聞かせ願います。」
「僕、強いし♪」
「まだ万全ではありません。私が拝見する限り、ただいまの回復率は80%弱です。」
「あはは、本当にすごいなぁ。」
話す間に、蜜柑はグラスの破片を集め終わり、こぼれた飲み物も拭き取った。
その汚れた布巾とビニール袋を持って、室内のキッチンへ行く。
素早く無駄がない一連の動作をジッと見つめていた白蘭だったが、ふと自らの視界がぼやける感覚に襲われた。
どうやら、完全回復まではもう少しかかるらしい。
「…ごほっ、ごほっ、」
「白蘭…?」
小さな咳を聞いた蜜柑は、ゴミの処理を終わらせてソファの前に戻って来た。
白蘭の斜め前に膝をつき、顔色を窺う。
「ぶり返したんですね、お休みになった方が宜しいかと。」
「…蜜柑……」
蜜柑の言葉が分かっているのかいないのか、白蘭はただその名を呼び、縋るように抱き寄せた。
咄嗟のことに、蜜柑は少し目を見開く。
「…あの、白蘭?」
「蜜柑………僕、は……」
「体温も平熱ではありません、無理せずお休みに…」
その言葉を遮るように、白蘭の腕の力は強くなっていく。
蜜柑の肩にうずめられた白蘭の表情は、確認することも出来なかった。
「…僕との契約さ……ちゃんと、イーブンになってるかな…?僕……檸檬ちゃんの情報、出来る限り集めたんだ……」
「…始めは不思議でしたが、白蘭が姉さんの戦闘パターンについて詳しかった理由は分かりました。パラレルワールドで見ていたんですね。」
「役に、立った…?」
「大変参考になっています。」
「そっか…」
安堵の声を漏らす白蘭だが、未だ蜜柑を抱きしめた状態から動かない。
蜜柑は疑問に思いながらも、解放を待った。
似たような抱擁は何度かあったため、今更特に抵抗することでもなかったのだ。
「情報はあげたけど……僕、蜜柑を働かせ過ぎてるんじゃ、って……時々思ってさ…」
「貴方と私は契約で結ばれた“主従”です。必ずしも等価を交換する必要はありません。」
「あはは……蜜柑は、僕を言い包めるのが上手だね…」
「言い包めたつもりは……」
戸惑う蜜柑に対し、白蘭はいっそう腕の力を強める。
「白蘭、どうかしたんですか…?」
「蜜柑……君は…消えちゃダメだからね……」
「消える…?」
蜜柑が疑問符を浮かべると、白蘭はより弱々しい声で零した。
「…傍を……離れないで欲しいんだ……」
「……承知しています。」
「絶対だよ……君はもう、何処にも…何処にも……」
「約束します。貴方をお守りするのが、私の務めですから。」
「…そっか、そうだよね……」
言いながら、白蘭はゆっくりと顔をあげる。
自分を映す蜜柑の瞳を見つめ、目を細めて微笑した。
「…何か?」
「ううん、何でもないよ。」
「でしたら早く、横になってお休みください。明日で決まると断言したのは白蘭です。」
「そうだね……でも、もう少しだけ起きてたいんだ。」
「気になることでもあるんですか?」
「……僕が寝たら、蜜柑は部屋に戻って匣のメンテナンスでもするんだろ?」
眉を下げてそう問いかける白蘭に、蜜柑は首を横に振る。
「もう終わりました。」
「じゃあ、データの整理?」
「済んでいます。」
「だったら……早く寝るとか?」
「突然睡眠時間を伸ばしても、サイクルが狂い、逆に調子が悪くなりかねませんので。」
淡々とした蜜柑の答えを聞いて、白蘭はしばし考え込む。
そして、ハッと思いついたように言った。
「桔梗たちとお喋り…!」
「しません。」
2人の間に沈黙が流れる。
無言で白蘭を見つめていた蜜柑だったが、ふぅ、と溜め息を一つ吐いて、申し出た。
「白蘭が眠るまで、こちらに居ましょうか?」
「うん、そうしてくれると嬉しいなぁ♪」
満足そうに返した白蘭は、ソファからベッドに移動する。
蜜柑は、その横にある椅子に座った。
「ねぇ蜜柑、僕が起きてる間は…ずっとここにいてくれるんだよね?」
「はい。」
「保証が欲しいな。」
首を傾げる蜜柑。
白蘭は右手をベッドの外に出して、「はい」と。
「離れたら…すぐ分かるように。」
「……畏まりました。」
蜜柑がスッと手を重ねると、白蘭はその手を握り返した。
「…蜜柑、」
「まだ何かご注文ですか?」
「違うよ……僕、一つだけ、言っておこうと……思って…」
「何でしょう。」
かなりの眠気に襲われているのか、目を閉じた状態で、寝言のように言う白蘭。
「僕からも……約束、する…」
「約束?」
「蜜柑……君を…絶対に……連れてくよ………僕が、君に……檸檬ちゃんのいない、世界、を………」
目を見開く蜜柑を前に、白蘭の言葉は途切れた。
「(姉さんの、いない世界……)」
気付かれないほど僅かに、白蘭の手に包まれる蜜柑の指に力が込められた。
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「第六感を使って、笑顔を取り戻す…?そんなの無理よ……力を使えば貴女自身に負荷がかかって、どうせ周りを苦しめる。今までも、そうだったでしょう?」
カシスの言っていることは、確かにその通りだった。
これまでの戦いで檸檬が自分の傷を省みず無理をしたせいで、一体何度、仲間に心配をかけただろう。
自分には心配される価値がないと思い込んでいた檸檬には、その感覚を理解できない時もあった。
しかし、今は違う。
『カシス、あなたはボンゴレI世を護るために自分の命を捨てた。その結果悲しませた。それは……未来に来る前までのあたしに、似てる気がする……。前のあたしだったら、間違いなくそうしてたから。』
カシスは何も答えず、ただ檸檬の言葉の続きを待つ。
『ただ、ね……あたしはもう、そんな間違いはしたくないんだ。みんなの笑顔の理由に、あたしが元気でいることも組み込まれちゃったみたいだから。』
「なら尚更勧められないわね。この力は人間の闇を引き出す……闇の中では笑顔なんて生まれない…恐怖を与えるだけよ。」
『うん、否定はしない……けどね!闇の中だからこそ、見える光があるんだよ。どんな小さな光でも、闇の中では見つけられる。』
ハッキリと言い切る檸檬をしばし見つめ、カシスは小さく問う。
「……この力に、希望があるっていうの…?本気で、そう思ってる…?」
『あたしは、信じるよ。』
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月明かりの差し込む応接室にて。
眠り続ける檸檬の手を握り、雲雀は目を細めた。
「檸檬…約束したでしょ。早く戻ってきなよ……早く。」
髪を撫でても、頬に触れても、檸檬は目覚めない。
まるで、夢の中に意識が囚われてしまっているかのように。
ところが、ふと檸檬の指が僅かに動いた。
「檸檬…?」
呼びかけに対する返事はなかった。
しかし、雲雀が握る檸檬の右手が、しっかりと雲雀の手を握り返す。
「…ここにいるから、戻っておいで。僕が、いるから。」
そう呼びかけると、檸檬の手は更に力を増した。
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「今の白蘭は何をするか分かりません。私を手に入れるために全てをかけて来るでしょう。」
「そ、そんなー!!」
「知らなかった……それで焦ってたのか…」
白蘭のことについて断言するユニに、リボーンが尋ねる。
何故、自分のことだけでなく白蘭のことも分かるのかと。
「うまく説明できませんが……あの人と私は似てるから……あ。ある意味では沢田さんと白蘭も似てますけど。」
「な!?俺と白蘭が似てる~~!!?」
「それと、皆さんにお伝えしなくてはいけないことがあります。」
改まって、ユニは静かに宣言した。
「私はもう、逃げません。」
「え!?」
「だ、ダメだよ!諦めちゃ!!せっかくココまで無事できたのに!!」
「諦めたワケではありません。」
「えっ?」
「昔からずっと分かっていたんです。ここが、白蘭との最後の戦いの場所になることが……」
この森で、ツナたちボンゴレファミリーと最後の時を過ごしているこのビジョンこそ、ユニが昔から見ていた光景であり、確信。
「明日…夜明けと共に始まる戦いで、全てが終わります。」