未来編②
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「…では、我々は作戦を練ります。ライト、白蘭様は頼みましたよ。」
「ええ。」
ピグを開匣し、数発撃ち込む蜜柑。
「ガアアーッ!!」
「すごっ。」
ブルーベルが小さく零す中、蜜柑は体調を悪くした白蘭をピグに担がせる。
桔梗、ブルーベル、トリカブトをその場に残し、蜜柑と白蘭は滞在先のホテルに向かった。
再会
「山本……やっぱりどーしても、アジトに戻るんだね…」
スクアーロの安否確認をするため、アジトに戻ることにした山本。
一緒に行けないことへの罪悪感や不安で表情を暗くするツナに、ビアンキが言う。
「心配ないわ。私たちもついてるし。」
「ウチも。」
「私がアジトの秘密の入り口を案内しますから。」
「え!?ビアンキ!ジャンニーニ!スパナも!!」
スパナはモスカを作る部品を探しに、
ジャンニーニはアジトの状態を確かめに、
そしてビアンキは忘れ物を取りに行くと言う。
個人行動は避けるべきと考えた結果、4人でボンゴレ地下アジトに戻ることになった。
「殺気はない……大丈夫だ。」
不動産屋のドアをそうっと開け、確認する山本。
「じゃあ行って来るぜ!ユニを頼む。寝てるランボにも宜しく言ってくれよな。」
「うん。」
「あの…皆さん……」
送り出そうとしたその時、ユニがすっと前へ出る。
何か言いかけたが、すかさずビアンキが両手でユニの両頬を優しく挟んだ。
「ありがとう、は、要らないわよ。私たちは自分の意志で行くんだから。あなた達も、ユニを頼んだわよ。」
「「ハイ!!」」
ビアンキの言葉に、元気よく返事をする京子・ハル・イーピン。
そのやり取りにユニは安堵したように微笑み、「ありがとうございます」と。
「……あっ、」
言った瞬間、「要らない」と言われたことを思い出し顔を赤らめるユニ。
その場にいる皆が、「また言っちゃった!」と笑った。
「ランボさんも一緒に遊びに行くもんね!!」
「おっ?」
「ランボ!」
「どこ行くの!?どこーーー!?」
みんなの笑い声で起きたのか、ランボが突如不動産屋のドアを開けて騒ぎ始めた。
慌てて獄寺が捕まえて怒鳴る。
「てめー、都合のいい時だけ起きてくんじゃねぇ!!」
「遊びに行くんじゃねーしな。」
「なんか、緊張感台無しだよ…」
ツナが呆れたところで、山本たち4人はアジトへと向かった。
「ったくアホ牛が…」
「ぐぴゃ!」
獄寺がランボを叱る中、ドアを閉めようとしたツナは何かを感じ取った。
外の通りに、何かがいたような……妙な感覚。
「(今…何か………気のせいか…)」
「何ボヤッとしてんだ。この先どーするか話し合うぞ。」
「わ、分かった。」
リボーンに急かされ、特に気に留めないままドアを閉めた。
---
------
-----------
突如頭を押さえ倒れた檸檬を、雲雀は応接室のソファに寝かせた。
毛布をかけ、自分はソファの肘掛けに座る。
「檸檬……まさか、目が覚めたら見えなくなってたなんてこと……ないよね…?」
そう小さく呼びかけながら、雲雀はゆっくりと檸檬の髪を撫でた。
---
-----
『{檸檬……檸檬………起きて、檸檬…!}』
繰り返される呼び声に、不快感すら抱いて目を開ける。
眠りをこじ開けられただるさを頭から追い出しながら、右側に人の気配を感じた。
『あ、あれ…?』
『{良かった……まだ見えてるわね?}』
『見えてるって……ここは?』
そこにいたのは間違いなく10年後の自分で、何やらホッとしたように微笑む。
こうしてあたしが未来の自分と一緒にいるってことは…
どうやらココは夢の世界らしい。
『どうしたの?ソワソワしてない…?』
『{だって…檸檬が“この場所に”来たから……あたし、不安で…}』
『この場所?ココはあたしの夢の中、でしょ?』
聞き返したあたしに、未来の檸檬は首を振った。
『{……似てるけど、違うの。この闇は、あたしの夢の中じゃない……ココは、}』
ピキ、ピキピキ……
『ちょ、ちょっと……檸檬?その手…!』
何かを話そうとした未来の檸檬。
しかし突如、その手の甲に裂け目が現れる。
『{あたしの体を使おうってことね……}』
『な、何言ってるの!?一体どういう…!』
『{逃げて檸檬、早く夢から覚めて……第六感の脅威が、貴女の視界をも奪おうと………}』
必死に手の甲の亀裂を抑えようとする未来の檸檬だが、水が流れるごとく筋が増えていく。
『何で…どうして…』
『{早く夢から覚めなさい!!}』
『そ、そんな…!どうやったらいいか…!』
『{だ、ダメ……過去のあたしには……手を出さないで…!あたしが全部、引き受ける!五感を全部っ……あたしから持っていけばいい!!}』
『何てこと言ってるの!!』
『{貴女には!こんな苦しみを…与えたくない……貴女だけ、は……}』
ピキピキピキ…
みるみるうちに広がっていった亀裂は、未来の檸檬の全身を覆い、そして…
パリーン…!
まるで、床に落とされたグラスのように、彼女を粉々にした。
もっとも、砕けたのは“夢の中の虚像”であり、入江が作った装置内で眠る本物の身体には影響がないハズだが。
『な、何なの……あたしの夢じゃないなら、ココは一体…』
「久しぶりね、雨宮檸檬さん…」
『え…?』
それまで気配も何も無かった背後から、声が聞こえた。
洞窟の中から響くようなその声は、ハッキリと檸檬の名を呼んだ。
恐る恐る振り向いた檸檬の目に映ったのは、自分とそっくりな女性。
10年後の自分よりは少し若い、肩につくかつかないかぐらいの髪をたたえた女性だった。
背格好も、横で分けてある前髪も同じ。
ただ彼女は、戦いに不向きなロングワンピースに、レースがあしらわれた白いエプロンを身に着けていた。
『どちら様、で…?』
「あら、初めましてって言うべきだったかしら。」
檸檬の返答にクスリと微笑した彼女は、続けて言った。
「それもそうよね。未来の貴女の記憶は、過去の貴女には引き継げないものね。」
『未来……未来のあたしを知ってるの…?』
「えぇもちろん!だって……」
檸檬は悪寒を覚えた。
薄暗い夢の中に漂っていた彼女の穏やかな雰囲気が、一瞬にして真冬の吹雪のように変化したのだ。
「第六感を完成させて、私の領域に踏み込んできた人間だもの。」
『なっ…!』
そこで檸檬は直感した。
彼女は……否、彼女こそが……ユニすら恐れていた人物…
『まさか、貴女が……カシス…!?』
---
------
-----------
山本が不動産屋を出て、数分後。
ツナの無線に連絡が入る。
-「ジャンニーニの奴、こんな所にアジトへの入り口作ってたとはな!うまく入れそうだ!!大丈夫!!」
「ふぅ…裏口からアジトに無事入れそうだって。」
「ディーノ兄は雲雀さんが帰らないからもうしばらく学校にいるって。」
「そっか……あ、檸檬は?雲雀さんやディーノさんと一緒に行ったよね?」
「うん、それが……原因は分からないけど、気を失ってるみたいで…」
「えっ!?」
フゥ太の返事にツナは驚き声をあげる。
「雲雀さんとディーノ兄がついてるし、大丈夫だとは思うんだけど……」
「もしかして檸檬、また無理したんじゃ…」
考え込むツナの足元を、ランボとイーピンが駆け抜ける。
騒ぐランボをイーピンが止めようとしている、いつもの光景。
だが、このような状況下だ。
ツナは思わず叫んだ。
「ってゆーかランボ!!うるさい!!」
「ランボちゃん、ハルと遊びましょうか?」
「やだプー。」
咄嗟に捕まえたハルの腕を飛び出し、ランボはユニに駆け寄った。
「ユニー!遊んでー!ねぇユニー!!」
「おいコラ!ユニを困らせるなって!!……あ、ユニ?」
気付けば、ユニは大人しく座っているというより立っているのがつらそうな状態だった。
リボーンが近付き話しかける。
「顔色が悪いけぞ、どうかしたのか?」
「カオがブルーだもんね!」
と、ここで、クロームと一緒に反対側のソファに座っていた京子がツナに言う。
「クロームちゃんも具合が悪そうなの…」
「あっ、本当だ!!」
つらそうに目を閉じて座っていたクロームは、それを聞いて訴えるように言った。
「違う……ボス、」
「……近くに、何か…います。」
「え!?」
「敵か!!」
クロームとユニの言葉に、ツナは驚き、獄寺・了平・バジルがドア付近へ駆け寄る。
「ザクロが戻ってきたのかも!!」
「考えられるな…」
しかし、ユニは首を振る。
「違います………近い……もっと近くに…」
「へ?近くって……」
その時、クロームが叫んだ。
「ボス……牛の子…!!」
「ん!?ランボがどーかした…?」
クロームに言われてツナが目をやると、サラサラと藍色の炎となって溶けていくランボの姿。
「ランボつぁんはね~~、今までみたいに外から攻めて逃げられるの嫌だから、内側に入り込んだんだよ~~~…」
ランボらしからぬ発言の直後、ユニは身動きが取れなくなっていた。
真6弔花の霧の守護者・トリカブトにより捕えられていたのだ。
同時に、イーピンがソファの下で縛られている本物のランボを見つける。
どうやら、山本たちが出るときの隙を突かれて潜入されていたらしい。
「そんな…!!あっ!!」
「くっ、」
「ユニ!!」
トリカブトが加速し、ユニを捕えたままドアに向かって脱出しようとする。
「逃がさんぞ!!」
ドアの前にいた獄寺・了平・バジルが戦闘態勢になった。
しかし……
ドガン!
「ぐあっ!!」
ドアの外からの爆発に、3人は背後から吹き飛ばされる形になる。
入り口付近は崩れ、店には大きな穴が空いてしまった。
フリーになったドアから、トリカブトは堂々と逃げてしまう。
店の中からツナが見上げると、そこには……
「あいつら……真6弔花!!!」
「ハハン、さあ、ここは我々に任せてユニ様をお連れしなさい、トリカブト。」
「沢田さん!!おじさま!!」
必死に叫んでもがくユニだが、トリカブトの腕から解放されることはない。
「どうやら綿密に練られた作戦だったみてーだな。」
「でもどーやってこの場所を!?」
「話は後だ!!」
リボーンの言う通り、今は潜伏場所がバレたことを気にしている場合ではなかった。
ブルーベルが匣を開け、攻撃をしかけてきたのだ。
「死んじゃえ!!」
無数に放たれた小さなアンモナイトは、爆発物のようだ。
京子とハルが青ざめたその時、獄寺が咄嗟にSISTEMA C.A.Iのシールドを展開した。
「皆さん!!」
「その程度のシールドでは防ぎきれませんよ。」
「やめて!!」
「(これじゃユニを連れてかれちまう…)」
リボーンすら対抗策を考える余裕を持てず、ただ攻撃を凌ぐのみ。
桔梗とブルーベルが雨のような攻撃をし続ける中、トリカブトはユニを連れて遠ざかっていく。
「(ハハン、作戦成功です。)」
ところが……
バシュッ、
ズバッ!
背後からトリカブトを貫く二つの黒い匣兵器。
対応しきれなかったトリカブトは、藍色の炎と化してユニから離れる。
一方、雷の炎をまとっていた二つの匣兵器は丸めていた体を元に戻し、ユニに近づいた。
「コルル…ビジェット…?」
見覚えのある電狐に、ユニが目を丸くしていると、ふわりと自分の体を支える感触。
「お怪我はありませんか?……姫。」
「が…γ!!」
ブラックスペルの人物との思わぬ再会に、ユニは瞳を潤ませた。
---
-----
-----------
“カシス”と口にした檸檬に、目を細めて微笑する目の前の彼女。
「ふふ、予習済みだったのね。誰から聞いたのかしら?」
次の瞬間、彼女は檸檬の手にスッと触れた。
持ち前の反射神経で咄嗟に距離を取った檸檬だったが、妙な感覚が身体を駆け巡る。
「…そう、大空の女の子に聞いたの……余計なことを。」
『(あたしの記憶を読んだ…!?)』
困惑する檸檬に、彼女はゆっくりと近づく。
「不思議なことなんて何も無いでしょう?貴女と同じく、この疎ましい力を使っただけよ。」
『……あたしの脳波を、視たのね…』
「私のことを聞いたのなら、抵抗は無駄だって、分かるわよね?」
背筋を凍らせるような冷たい微笑みに、檸檬は更に後退る。
ユニの言葉を思い出したのだ。
---「カシスは、力を断絶するためならどんなことでもします。」
そして、一つの結論に至る。
『……まさか、未来のあたしから視界を奪ったのは…』
「ご名答。」
『どっ、どうして!?あたしも、未来のあたしも、第六感を悪用はしない!みんなを……ボンゴレの仲間を護りたくて……ただ、それだけで…』
「護るためなら、何をしてもいいの?」
『えっ…?』
「世界の禁忌を……この世の秩序を、犯してもいいの?」
カシスの指摘に、檸檬は言葉を詰まらせた。
確かに、自分が修業して身に付けた空間移動能力は、ただの第六感ではない。
母親の第六感に父親のリズム感・戦闘センスが掛け合わさったが故に生まれた異常な力……
それは、この10年後の世界に於いても人智を越えた能力として扱われている。
「もっとも、未来の貴女には私の存在は認知させてないわ。だから目が見えなくなったのは、修業を急速に進めたせいだと思い込んだの。」
『だったら、どうしてあたしの前に姿を現したの?』
「だって、あまりにも可哀想でしょう?闇に呑み込まれるビジョンを2度も経験するのは。」
『闇に、呑み込まれる…?』
未来の檸檬の手紙に書いてあった内容を、ふと思い出す。
---『よこせ、受け入れろ、抗うな、おいで、と引きずり込もうとする黒い闇……』
---『逃げて、拒絶して、抵抗した結果………あたしの視界は、閉ざされた。』
「少しくらい波長を読む程度なら、私だって見ているだけに留めるわ。もっとも、未来視を悪用し続ける貴女の母親からは、細菌に対する免疫能力の大半を奪ったけどね。」
『…だからお母さんは病弱に……』
「力を得るには、代償を払わなければいけないのよ。貴女もそう。」
コツンコツンと歩み寄るカシスに、檸檬はついに背を向けて走り出した。
このまま面と向かっていたら危険だ、そう察知したのだ。
「…何処へ逃げるつもりかしら?」
『(夢から……この夢から覚めなくちゃ…!)』
「ここは貴女の夢じゃない、私の夢。私の許可なく覚めることは出来ないわ。」
走って逃げる檸檬に対し、カシスはゆっくりと歩いて追って来た。
しかし、どういうわけか距離が開かない。
ぞくりと恐怖を抱いた檸檬を見て、スッと手を伸ばすカシス。
すると…
『ぐっ…!!?』
「捕まえた。」
『あっ……う、ぐっ…』
首を絞められる感覚が、檸檬を襲った。
---
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ユニと再会を果たしたブラックスペルは、γだけではなかった。
「姫様!!」
「お守りするぜ!!」
「野猿…太猿!!」
想定外の援軍に、桔梗も驚きを隠せない。
メローネ基地の転送時に、ブラックスペルは死んだと考えられていたのだ。
「何やってんのトリカブト!!ユニを取り返すのよ!!」
ブルーベルに叱咤され、トリカブトは再び姿を現しγたちと対峙する。
「来てみやがれ!!心から命をかけられる戦いを待ってたんだ!!」
「最高だぜアニキ!!俺は今、ジッリョネロファミリーの野猿だ!!」
太猿と野猿はめいっぱい嵐鎌を振るったが、トリカブトはギュンッと通り抜けるだけ。
たったそれだけで……彼らは致命的な攻撃を受けた。
「がはっ…」
「うわ!」
「野猿!!太猿!!」
「ちいっ……黒狐!!」
傷つけられた二人に心を痛めながらも、γは黒狐をトリカブトに向かわせる。
が、この二匹も擦れ違いさまの一撃で大きな傷を受けてしまう。
「キャンッ!」
「キャオン!!」
「何!?(バカな、一撃で…!)」
トリカブトが持っているのは、雷属性の炎を帯びたチェーンソーのようだった。
γは自らが持つ雷のリングでシールドを作り、防御しようと試みる。
「ハハン、そのランクのリングでは役に立ちませんよ。」
「おおおお!!!」
桔梗の言葉には耳も貸さず、γが溢れんばかりの覚悟でリングに炎を灯した、その時。
ガッ、
ユニに迫っていたトリカブトは、何者かに殴り飛ばされる。
全員が驚愕し目を見開く中、聞こえてきたのは先程とは打って変わったような、落ち着いた声。
「どこを見ている。」
ユニとγをトリカブトから庇うように間に入った彼の手の甲に、グローブクリスタルが光る。
「お前たちの相手は……ここにいるぜ。」
大空の炎を額とグローブに灯し、肩にナッツを乗せたツナが、ぐっと拳を握った。
「ツナ君!!」
「10代目!!」
その姿を見て、γは呟いた。
「……いつも眉間にシワを寄せ…祈るように拳をふるう………あれが…ボンゴレX世…」
「ええ。」
ピグを開匣し、数発撃ち込む蜜柑。
「ガアアーッ!!」
「すごっ。」
ブルーベルが小さく零す中、蜜柑は体調を悪くした白蘭をピグに担がせる。
桔梗、ブルーベル、トリカブトをその場に残し、蜜柑と白蘭は滞在先のホテルに向かった。
再会
「山本……やっぱりどーしても、アジトに戻るんだね…」
スクアーロの安否確認をするため、アジトに戻ることにした山本。
一緒に行けないことへの罪悪感や不安で表情を暗くするツナに、ビアンキが言う。
「心配ないわ。私たちもついてるし。」
「ウチも。」
「私がアジトの秘密の入り口を案内しますから。」
「え!?ビアンキ!ジャンニーニ!スパナも!!」
スパナはモスカを作る部品を探しに、
ジャンニーニはアジトの状態を確かめに、
そしてビアンキは忘れ物を取りに行くと言う。
個人行動は避けるべきと考えた結果、4人でボンゴレ地下アジトに戻ることになった。
「殺気はない……大丈夫だ。」
不動産屋のドアをそうっと開け、確認する山本。
「じゃあ行って来るぜ!ユニを頼む。寝てるランボにも宜しく言ってくれよな。」
「うん。」
「あの…皆さん……」
送り出そうとしたその時、ユニがすっと前へ出る。
何か言いかけたが、すかさずビアンキが両手でユニの両頬を優しく挟んだ。
「ありがとう、は、要らないわよ。私たちは自分の意志で行くんだから。あなた達も、ユニを頼んだわよ。」
「「ハイ!!」」
ビアンキの言葉に、元気よく返事をする京子・ハル・イーピン。
そのやり取りにユニは安堵したように微笑み、「ありがとうございます」と。
「……あっ、」
言った瞬間、「要らない」と言われたことを思い出し顔を赤らめるユニ。
その場にいる皆が、「また言っちゃった!」と笑った。
「ランボさんも一緒に遊びに行くもんね!!」
「おっ?」
「ランボ!」
「どこ行くの!?どこーーー!?」
みんなの笑い声で起きたのか、ランボが突如不動産屋のドアを開けて騒ぎ始めた。
慌てて獄寺が捕まえて怒鳴る。
「てめー、都合のいい時だけ起きてくんじゃねぇ!!」
「遊びに行くんじゃねーしな。」
「なんか、緊張感台無しだよ…」
ツナが呆れたところで、山本たち4人はアジトへと向かった。
「ったくアホ牛が…」
「ぐぴゃ!」
獄寺がランボを叱る中、ドアを閉めようとしたツナは何かを感じ取った。
外の通りに、何かがいたような……妙な感覚。
「(今…何か………気のせいか…)」
「何ボヤッとしてんだ。この先どーするか話し合うぞ。」
「わ、分かった。」
リボーンに急かされ、特に気に留めないままドアを閉めた。
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突如頭を押さえ倒れた檸檬を、雲雀は応接室のソファに寝かせた。
毛布をかけ、自分はソファの肘掛けに座る。
「檸檬……まさか、目が覚めたら見えなくなってたなんてこと……ないよね…?」
そう小さく呼びかけながら、雲雀はゆっくりと檸檬の髪を撫でた。
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『{檸檬……檸檬………起きて、檸檬…!}』
繰り返される呼び声に、不快感すら抱いて目を開ける。
眠りをこじ開けられただるさを頭から追い出しながら、右側に人の気配を感じた。
『あ、あれ…?』
『{良かった……まだ見えてるわね?}』
『見えてるって……ここは?』
そこにいたのは間違いなく10年後の自分で、何やらホッとしたように微笑む。
こうしてあたしが未来の自分と一緒にいるってことは…
どうやらココは夢の世界らしい。
『どうしたの?ソワソワしてない…?』
『{だって…檸檬が“この場所に”来たから……あたし、不安で…}』
『この場所?ココはあたしの夢の中、でしょ?』
聞き返したあたしに、未来の檸檬は首を振った。
『{……似てるけど、違うの。この闇は、あたしの夢の中じゃない……ココは、}』
ピキ、ピキピキ……
『ちょ、ちょっと……檸檬?その手…!』
何かを話そうとした未来の檸檬。
しかし突如、その手の甲に裂け目が現れる。
『{あたしの体を使おうってことね……}』
『な、何言ってるの!?一体どういう…!』
『{逃げて檸檬、早く夢から覚めて……第六感の脅威が、貴女の視界をも奪おうと………}』
必死に手の甲の亀裂を抑えようとする未来の檸檬だが、水が流れるごとく筋が増えていく。
『何で…どうして…』
『{早く夢から覚めなさい!!}』
『そ、そんな…!どうやったらいいか…!』
『{だ、ダメ……過去のあたしには……手を出さないで…!あたしが全部、引き受ける!五感を全部っ……あたしから持っていけばいい!!}』
『何てこと言ってるの!!』
『{貴女には!こんな苦しみを…与えたくない……貴女だけ、は……}』
ピキピキピキ…
みるみるうちに広がっていった亀裂は、未来の檸檬の全身を覆い、そして…
パリーン…!
まるで、床に落とされたグラスのように、彼女を粉々にした。
もっとも、砕けたのは“夢の中の虚像”であり、入江が作った装置内で眠る本物の身体には影響がないハズだが。
『な、何なの……あたしの夢じゃないなら、ココは一体…』
「久しぶりね、雨宮檸檬さん…」
『え…?』
それまで気配も何も無かった背後から、声が聞こえた。
洞窟の中から響くようなその声は、ハッキリと檸檬の名を呼んだ。
恐る恐る振り向いた檸檬の目に映ったのは、自分とそっくりな女性。
10年後の自分よりは少し若い、肩につくかつかないかぐらいの髪をたたえた女性だった。
背格好も、横で分けてある前髪も同じ。
ただ彼女は、戦いに不向きなロングワンピースに、レースがあしらわれた白いエプロンを身に着けていた。
『どちら様、で…?』
「あら、初めましてって言うべきだったかしら。」
檸檬の返答にクスリと微笑した彼女は、続けて言った。
「それもそうよね。未来の貴女の記憶は、過去の貴女には引き継げないものね。」
『未来……未来のあたしを知ってるの…?』
「えぇもちろん!だって……」
檸檬は悪寒を覚えた。
薄暗い夢の中に漂っていた彼女の穏やかな雰囲気が、一瞬にして真冬の吹雪のように変化したのだ。
「第六感を完成させて、私の領域に踏み込んできた人間だもの。」
『なっ…!』
そこで檸檬は直感した。
彼女は……否、彼女こそが……ユニすら恐れていた人物…
『まさか、貴女が……カシス…!?』
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山本が不動産屋を出て、数分後。
ツナの無線に連絡が入る。
-「ジャンニーニの奴、こんな所にアジトへの入り口作ってたとはな!うまく入れそうだ!!大丈夫!!」
「ふぅ…裏口からアジトに無事入れそうだって。」
「ディーノ兄は雲雀さんが帰らないからもうしばらく学校にいるって。」
「そっか……あ、檸檬は?雲雀さんやディーノさんと一緒に行ったよね?」
「うん、それが……原因は分からないけど、気を失ってるみたいで…」
「えっ!?」
フゥ太の返事にツナは驚き声をあげる。
「雲雀さんとディーノ兄がついてるし、大丈夫だとは思うんだけど……」
「もしかして檸檬、また無理したんじゃ…」
考え込むツナの足元を、ランボとイーピンが駆け抜ける。
騒ぐランボをイーピンが止めようとしている、いつもの光景。
だが、このような状況下だ。
ツナは思わず叫んだ。
「ってゆーかランボ!!うるさい!!」
「ランボちゃん、ハルと遊びましょうか?」
「やだプー。」
咄嗟に捕まえたハルの腕を飛び出し、ランボはユニに駆け寄った。
「ユニー!遊んでー!ねぇユニー!!」
「おいコラ!ユニを困らせるなって!!……あ、ユニ?」
気付けば、ユニは大人しく座っているというより立っているのがつらそうな状態だった。
リボーンが近付き話しかける。
「顔色が悪いけぞ、どうかしたのか?」
「カオがブルーだもんね!」
と、ここで、クロームと一緒に反対側のソファに座っていた京子がツナに言う。
「クロームちゃんも具合が悪そうなの…」
「あっ、本当だ!!」
つらそうに目を閉じて座っていたクロームは、それを聞いて訴えるように言った。
「違う……ボス、」
「……近くに、何か…います。」
「え!?」
「敵か!!」
クロームとユニの言葉に、ツナは驚き、獄寺・了平・バジルがドア付近へ駆け寄る。
「ザクロが戻ってきたのかも!!」
「考えられるな…」
しかし、ユニは首を振る。
「違います………近い……もっと近くに…」
「へ?近くって……」
その時、クロームが叫んだ。
「ボス……牛の子…!!」
「ん!?ランボがどーかした…?」
クロームに言われてツナが目をやると、サラサラと藍色の炎となって溶けていくランボの姿。
「ランボつぁんはね~~、今までみたいに外から攻めて逃げられるの嫌だから、内側に入り込んだんだよ~~~…」
ランボらしからぬ発言の直後、ユニは身動きが取れなくなっていた。
真6弔花の霧の守護者・トリカブトにより捕えられていたのだ。
同時に、イーピンがソファの下で縛られている本物のランボを見つける。
どうやら、山本たちが出るときの隙を突かれて潜入されていたらしい。
「そんな…!!あっ!!」
「くっ、」
「ユニ!!」
トリカブトが加速し、ユニを捕えたままドアに向かって脱出しようとする。
「逃がさんぞ!!」
ドアの前にいた獄寺・了平・バジルが戦闘態勢になった。
しかし……
ドガン!
「ぐあっ!!」
ドアの外からの爆発に、3人は背後から吹き飛ばされる形になる。
入り口付近は崩れ、店には大きな穴が空いてしまった。
フリーになったドアから、トリカブトは堂々と逃げてしまう。
店の中からツナが見上げると、そこには……
「あいつら……真6弔花!!!」
「ハハン、さあ、ここは我々に任せてユニ様をお連れしなさい、トリカブト。」
「沢田さん!!おじさま!!」
必死に叫んでもがくユニだが、トリカブトの腕から解放されることはない。
「どうやら綿密に練られた作戦だったみてーだな。」
「でもどーやってこの場所を!?」
「話は後だ!!」
リボーンの言う通り、今は潜伏場所がバレたことを気にしている場合ではなかった。
ブルーベルが匣を開け、攻撃をしかけてきたのだ。
「死んじゃえ!!」
無数に放たれた小さなアンモナイトは、爆発物のようだ。
京子とハルが青ざめたその時、獄寺が咄嗟にSISTEMA C.A.Iのシールドを展開した。
「皆さん!!」
「その程度のシールドでは防ぎきれませんよ。」
「やめて!!」
「(これじゃユニを連れてかれちまう…)」
リボーンすら対抗策を考える余裕を持てず、ただ攻撃を凌ぐのみ。
桔梗とブルーベルが雨のような攻撃をし続ける中、トリカブトはユニを連れて遠ざかっていく。
「(ハハン、作戦成功です。)」
ところが……
バシュッ、
ズバッ!
背後からトリカブトを貫く二つの黒い匣兵器。
対応しきれなかったトリカブトは、藍色の炎と化してユニから離れる。
一方、雷の炎をまとっていた二つの匣兵器は丸めていた体を元に戻し、ユニに近づいた。
「コルル…ビジェット…?」
見覚えのある電狐に、ユニが目を丸くしていると、ふわりと自分の体を支える感触。
「お怪我はありませんか?……姫。」
「が…γ!!」
ブラックスペルの人物との思わぬ再会に、ユニは瞳を潤ませた。
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“カシス”と口にした檸檬に、目を細めて微笑する目の前の彼女。
「ふふ、予習済みだったのね。誰から聞いたのかしら?」
次の瞬間、彼女は檸檬の手にスッと触れた。
持ち前の反射神経で咄嗟に距離を取った檸檬だったが、妙な感覚が身体を駆け巡る。
「…そう、大空の女の子に聞いたの……余計なことを。」
『(あたしの記憶を読んだ…!?)』
困惑する檸檬に、彼女はゆっくりと近づく。
「不思議なことなんて何も無いでしょう?貴女と同じく、この疎ましい力を使っただけよ。」
『……あたしの脳波を、視たのね…』
「私のことを聞いたのなら、抵抗は無駄だって、分かるわよね?」
背筋を凍らせるような冷たい微笑みに、檸檬は更に後退る。
ユニの言葉を思い出したのだ。
---「カシスは、力を断絶するためならどんなことでもします。」
そして、一つの結論に至る。
『……まさか、未来のあたしから視界を奪ったのは…』
「ご名答。」
『どっ、どうして!?あたしも、未来のあたしも、第六感を悪用はしない!みんなを……ボンゴレの仲間を護りたくて……ただ、それだけで…』
「護るためなら、何をしてもいいの?」
『えっ…?』
「世界の禁忌を……この世の秩序を、犯してもいいの?」
カシスの指摘に、檸檬は言葉を詰まらせた。
確かに、自分が修業して身に付けた空間移動能力は、ただの第六感ではない。
母親の第六感に父親のリズム感・戦闘センスが掛け合わさったが故に生まれた異常な力……
それは、この10年後の世界に於いても人智を越えた能力として扱われている。
「もっとも、未来の貴女には私の存在は認知させてないわ。だから目が見えなくなったのは、修業を急速に進めたせいだと思い込んだの。」
『だったら、どうしてあたしの前に姿を現したの?』
「だって、あまりにも可哀想でしょう?闇に呑み込まれるビジョンを2度も経験するのは。」
『闇に、呑み込まれる…?』
未来の檸檬の手紙に書いてあった内容を、ふと思い出す。
---『よこせ、受け入れろ、抗うな、おいで、と引きずり込もうとする黒い闇……』
---『逃げて、拒絶して、抵抗した結果………あたしの視界は、閉ざされた。』
「少しくらい波長を読む程度なら、私だって見ているだけに留めるわ。もっとも、未来視を悪用し続ける貴女の母親からは、細菌に対する免疫能力の大半を奪ったけどね。」
『…だからお母さんは病弱に……』
「力を得るには、代償を払わなければいけないのよ。貴女もそう。」
コツンコツンと歩み寄るカシスに、檸檬はついに背を向けて走り出した。
このまま面と向かっていたら危険だ、そう察知したのだ。
「…何処へ逃げるつもりかしら?」
『(夢から……この夢から覚めなくちゃ…!)』
「ここは貴女の夢じゃない、私の夢。私の許可なく覚めることは出来ないわ。」
走って逃げる檸檬に対し、カシスはゆっくりと歩いて追って来た。
しかし、どういうわけか距離が開かない。
ぞくりと恐怖を抱いた檸檬を見て、スッと手を伸ばすカシス。
すると…
『ぐっ…!!?』
「捕まえた。」
『あっ……う、ぐっ…』
首を絞められる感覚が、檸檬を襲った。
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ユニと再会を果たしたブラックスペルは、γだけではなかった。
「姫様!!」
「お守りするぜ!!」
「野猿…太猿!!」
想定外の援軍に、桔梗も驚きを隠せない。
メローネ基地の転送時に、ブラックスペルは死んだと考えられていたのだ。
「何やってんのトリカブト!!ユニを取り返すのよ!!」
ブルーベルに叱咤され、トリカブトは再び姿を現しγたちと対峙する。
「来てみやがれ!!心から命をかけられる戦いを待ってたんだ!!」
「最高だぜアニキ!!俺は今、ジッリョネロファミリーの野猿だ!!」
太猿と野猿はめいっぱい嵐鎌を振るったが、トリカブトはギュンッと通り抜けるだけ。
たったそれだけで……彼らは致命的な攻撃を受けた。
「がはっ…」
「うわ!」
「野猿!!太猿!!」
「ちいっ……黒狐!!」
傷つけられた二人に心を痛めながらも、γは黒狐をトリカブトに向かわせる。
が、この二匹も擦れ違いさまの一撃で大きな傷を受けてしまう。
「キャンッ!」
「キャオン!!」
「何!?(バカな、一撃で…!)」
トリカブトが持っているのは、雷属性の炎を帯びたチェーンソーのようだった。
γは自らが持つ雷のリングでシールドを作り、防御しようと試みる。
「ハハン、そのランクのリングでは役に立ちませんよ。」
「おおおお!!!」
桔梗の言葉には耳も貸さず、γが溢れんばかりの覚悟でリングに炎を灯した、その時。
ガッ、
ユニに迫っていたトリカブトは、何者かに殴り飛ばされる。
全員が驚愕し目を見開く中、聞こえてきたのは先程とは打って変わったような、落ち着いた声。
「どこを見ている。」
ユニとγをトリカブトから庇うように間に入った彼の手の甲に、グローブクリスタルが光る。
「お前たちの相手は……ここにいるぜ。」
大空の炎を額とグローブに灯し、肩にナッツを乗せたツナが、ぐっと拳を握った。
「ツナ君!!」
「10代目!!」
その姿を見て、γは呟いた。
「……いつも眉間にシワを寄せ…祈るように拳をふるう………あれが…ボンゴレX世…」